民法2



 このサイトは、大分の弁護士・巨瀬慧人(こせけいと)が、法律を眺めながらフリートークをする感じで運営している、ゆるいブログです。とくに民法改正についての記事が多い気がします。

 民法。

 たぶん、私たち市民にとって一番身近な法律の一つです。

 ここ数年、民法は、「Wind●wsなの?」って言いたくなるくらい、アップデートの連続です。

 債権法改正。

 

 相続法改正。

 

 成年年齢引き下げ。

 

 特別養子縁組。

 


 これで落ち着いたのかというと、そうでもありません。

 そういえば、「所有者不明の土地がやばい」みたいなニュースをちょいちょい目にする機会がありましたよね。

 はたして、2021年4月、「民法等の一部を改正する法律」が成立しました(公布の日:令和3年4月28日)。

 

 


 この改正法では、大きく分けると、以下の分野について、民法の規定が整備されています。

(1)相隣関係
(2)共有
(3)所有者不明の不動産の管理
(4)管理不全の不動産の管理
(5)相続


 大がかりな改正になっていますね。こういうのは、法律が施行される直前になって、まとめて勉強しようとすると、痛い目を見ることになるって、私は知ってます。

※改正法の施行の日は、「原則として、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日」ということになっています(附則1条)。現時点ではまだ正式には決まっていないようです。

 もたもたしていたら、「親子法制」についても、改正がとびこんできそうです。

 というわけで、これから、数日に一条くらいのペースで、改正(新設)される条文の内容を確認しながら、民法の復習をしていきたいと思います。債権法・相続法の改正については、一日に一条のペースで勉強をしていましたが、いまや四児のパパになった私には、さすがに荷が勝ちすぎます。

 のんびりと、のんびりとお付き合いください。

 第一回の今日は、隣地の使用について定める民法209条を眺めてみましょう。

〔改正前民法〕
隣地の使用請求
第209条
1 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
【改正後民法】
隣地の使用
第209条
1 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第233条第3項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

 うう、油断すると、「リンチしよう」という不穏な変換が起きちまう・・・。



<<解説>>

0.改正の概要


 権利行使の方法が、請求権という構成から、所有権の行使(の一態様)という構成に変わっています(1項柱書)。よく見ると、条文の見出しも変わっていますね。

 隣地の使用が許される「目的」の内容が整理されています(1項1号~3号)。

 隣地の使用が許される場合でも、その日時・場所・方法は、隣地の所有者又は隣地使用者にとって「損害が最も少ないもの」でないとダメだよ、と明記されることになりました(2項)。

 隣地の使用をするなら、原則として事前の通知が要るというルールも用意されています(3項)。

 損害を受けたら「償金」の請求が可能であるという規律は、基本的に変わっていません(4項)。

 「隣人」という用語が使われなくなりました。


<<解説>>

1.相隣関係


 まずは、条文の位置付けなどについて確認をしておきましょう。

 隣り合った土地の所有権の調整をするための法分野として、「相隣関係」というものがあります(民法209条以下)。読んでみると、「へぇ」と言いたくなるような条文が多くて、おもしろいですよね。

 民法209条は、「相隣関係」の先陣を切る条文です。

 なんとなく、頭の中に地図をつくっておきましょう。民法209条は、

  民法
   第2編 物権
    第3章 所有権
     第1節 所有権の限界
      第2款 相隣関係   ←※ココにあります。


 一応おさらいをしておくと、「所有権」というのは、所有物の使用、収益及び処分をする権利のことです(民法206条)。土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及びます(民法207条)。

 この権利を、ものすごくガチガチに固めてしまうと、かえって不都合が生じることがあります。

 俺様の土地を「使用」できるのは、所有者である俺様だけだ!

 お隣さんがどんな立地だろうと、通行させてやらん!

 お隣さんの土地の測量のために、一瞬だけ立ち入ることも許さん!

 ・・・そうやって、権利をガチガチに固めて、土地の所有者がOKを出さない限り、その土地については絶対に何もできないという法制度の社会があっても、まぁ、おかしくはないかもしれません。

 でも、そういう社会では、いつか、この俺様さんも困るかもしれません。俺様さんが、自宅の修繕工事をするために、お隣さんの土地にしばらく脚立を置かせてもらおうとしても、お隣さんが応じてくれなければ、どうにもならなくなるかもしれません。

 というわけで、「所有者等のOKがなくても、土地の所有権を制限したり、(その裏返しとして)拡張したりすることができる法定の制度」を設けることには、なかなかの合理性があるわけですね。

 これをやるのが、「相隣関係」の制度です。


<<解説>>

2.隣地を使用することができる


 改正前、民法209条の見出しは、「隣地の使用請求」でした。

 この見出しは、改正後は、「隣地の使用」に変わります。

 そして、隣地の使用を「請求することができる」という文言(改正前民法209条1項本文)は、改正後は「使用することができる」という文言(改正後民法209条1項柱書)に変わりました。

 「請求」じゃないんだ、というわけですね。

 改正前の法律構成(請求権構成)だと、ある土地の所有者が、隣地の使用について、「隣人」の承諾を得られなければ、訴訟を起こして、承諾に代わる判決(民事執行法177条参照)を得る必要があると説明されていました。これだと、本当に使いたいタイミングで隣地が使えなくて不便です。

 そこで、「隣地を使用することができる」というルールが用意されました。

 ある土地の所有者は、まさに自分が有している所有権の行使として、隣地を使用するという行動がとれるわけです。ただし、「請求」までは要らないものの、原則として、事前に通知をすることが必要になりました(改正後民法209条3項)。

 上で、相隣関係の制度というのは、所有権の「制限」と「拡張」なんだと書きました。隣地の使用(民法209条)の場面だと、隣地を使用しようとする人は、隣地の所有権を持っていないはずなのに、自分の土地の所有権の行使として、隣地を「使用」することができます。これは、所有権の拡張だといえます。反対に、隣地の所有者は、所有者じゃない人が、その土地を使用することを甘受しないといけません。これは、所有権の制限だといえます。


<<解説>>

2.隣地使用の目的


 改正前の民法209条では、隣地の使用は、「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で」認められるものだと定められていました。

 条文中の「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため」という目的は、例示だと解釈されていました。でも、どこまでOKなのか不明確であるという悩みがありました。

 改正後の民法209条は、この目的を、次のように整理しています。

一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第233条第3項の規定による枝の切取り

 類型的に、隣地を使用する必要性が高いと考えられる行動が列挙されています。

 1号は、ほとんど改正前と同じですが、「その他の工作物」、「収去」という言葉が加えられています。2号と3号は、新しい規定ですね。


(1)工作物の築造等


 工作物の築造・収去・修繕という目的のために必要な範囲内であれば、隣地の使用が可能になります。

 「工作物」が大概念で、その例示として「障壁、建物」が挙げられています。


(2)境界標の調査・境界に関する測量


 2号は、境界標を調査したり、境界に関する測量をしたりすることも、隣地使用が許される目的の一つなんだと定めています。

 土地の売買や建物の建築をする上で、境界や面積を確認するのは、とても大事なことです。それで、このたびの改正で、隣地使用について、きちんと規律することになりました。

 「境界」というのは、所有権の範囲を定める線です。

 「境界標」というのは、土地の境界を示すために地面に設置されている目印のことです。

 


 「境界」とは区別される概念として、「筆界」というものがあります。筆界とは、登記されたときに、土地の範囲を区画するものとして定められた線です。「境界」と「筆界」とは、普通は一致しているはずですが、一致しないこともあります(例:土地の一部について取得時効が成立した場合)。

 改正後民法209条1項2号は、土地の境界(所有権界)についての規定であると説明されています。となると、「筆界」について調査するときには、隣地の使用はできないんじゃないかという疑問が出てきてもおかしくありません。

 まあ、筆界の調査が、全く境界に関係しないっていうことはないでしょうから、「境界に関する測量」は、わりと広い意味で捉えられることになるんじゃないかと予想します(私見)。

 


(3)枝の切取り


 隣地の竹木の枝が境界線を越えている場合で、一定の事情があれば、土地の所有者は、隣地の竹木の枝を切り取ることができます(改正後民法233条3項)。

【改正後民法】
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条
1 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 (略)
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 (略)

 この切取りをするために必要な範囲内で、土地の所有者は、隣地を使用することができます(改正後民法209条1項3号)。

 例えば、ある土地と隣地とで高低差があって、隣地に立ち入らないと隣地にある竹木の枝が切れないという場合があり得ます。そういうときに、民法233条3項による枝の切取りを可能とするために、民法209条1項3号が用意されました。

 民法233条3項2号・3号の場合(竹木の所有者がどこにいるか分からんかったり、めっちゃ急いでたりする場合)に、別途、民法209条3項の事前通知をするのは普通は無理でしょうから、同項ただし書で対応することが多いのだろうなと予想します。


<<解説>>

3.損害が最も少ない日時・場所・方法


 隣地を使用する場合には、日時・場所・方法にも気をつけなければいけません。

 「損害が最も少ないもの」を選ばないといけないのです(改正後民法209条2項)。

 誰にとってかというと、「隣地の所有者」と、「隣地使用者」です。

 「隣地使用者」は、隣地を現に使用している者で、例えば賃借人などが想定できます。

 改正前の民法209条は、「隣人」という用語を使っていましたが、意味がやや曖昧でした。それで、「隣地の所有者」、「隣地使用者」という概念を用いることになりました。

 「汝の隣人を愛せよ」を、改正後民法209条に沿って言い直すと、「隣地の所有者及び隣地使用者を愛せよ」になりますね。知らんけど。


<<解説>>

4.目的・日時・場所・方法の通知


 上で述べたとおり、土地の使用者による隣地の使用は、「請求」するものではなくなりました。ある土地の所有者は、まさに自分が有している所有権の行使として、隣地を使用することができます。

 その代わり、という表現が適切かは分かりませんが、土地の所有者は、原則として、事前の通知をすることが必要になりました(改正後民法209条3項本文)。

 何を通知するかというと、目的(1項参照)と、日時、場所及び方法(2項参照)です。

 誰に通知するかというと、「隣地の所有者及び隣地使用者」です。

 ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後で、遅滞なく通知をすればOKです(改正後民法209条3項ただし書)。 

 隣地の所有者と隣地使用者のどちらにも事前の通知をするというのは、難しかったり、無意味だったりすることもあるかもしれませんね。例えば、お父さんが所有している土地に、息子さんが建物を建築して住んでいる場合だと、「隣地使用者」である息子さんに対する事前の通知が、隣地所有者であるお父さんに対する事前の通知を包含していると評価していい場合もあると思います。


<<解説>>

5.償金の請求


 隣地の使用によって、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、「償金」の請求が可能です(改正後民法209条4項)。

 この規定は、隣地使用が適法行為であっても(故意又は過失による不法行為でなくても)、補償が認められるという点に意味があります。





 以上、改正後民法209条についての勉強でした。


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