民法520条の15 


 改正後の債権法の条文を1日1条ずつ確認する企画「民法改正勉強ノート」は、既に折り返し地点を過ぎています。

 ちなみに、最終回は第318回です。まだけっこうありますね。

 全ての条文を記事にし終えた段階で、とくに重要な条文をピックアップした「まとめ」のような記事を発表することを目論んでいます。

 実生活への影響度が高いランキングみたいなの。

 せっかくこの記事を閲覧してくださっている方には申し訳ないのですが、今日の主役である民法520条の15は、そういう「まとめ」には絶対に載りません。これは、絶対です。私の弁護士人生で一度も使わない自信がありますもん。

 ここまで申し上げても、なお知識欲がおさまらない人は、私の仲間でしかないので、今日もご一緒させてください。

 新しい条文は次のとおりです。

【改正後民法】
(記名式所持人払証券の善意取得)
第520条の15
 何らかの事由により記名式所持人払証券の占有を失った者がある場合において、その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは、その所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。





<解説>

1.証券の占有を失った者


 改正後民法520条の15は、改正後民法520条の5や手形法16条2項と同じく、本来の権利者が、何らかの事情で、証券の占有を失ったというシーンから物語が始まります。

 騙されたり、路上で落っことしたり、盗まれたり、勘違いで渡してしまったりと、色んなパターンがあり得ますが、とにかく、事情が何であろうと、ここでの扱いは一緒です。

(第181回)★
民法520条の5(指図証券の善意取得)


<解説>

2.所持人の善意取得


 上の物語の続きの部分が、本日、勉強しておくべきところです。

 例えば、何らかの事情で、誰かが占有を失ったその証券を、新たに入手した人が居たとします。

 買ったり、借金の返済の代わりに受け取ったりと、ここにも色んなパターンがあり得ますね。

(第151回)★★★
164民法482条(代物弁済)


 こういうとき、現にその証券を所持している人=所持人は、証券上の権利を行使できるでしょうか。

 本来の権利者(占有を失った者)から「俺のだ、返せ」と言われたときに、証券を返さなくてもいいのでしょうか。

 その答えが、民法520条の15に書かれています。

 民法520条の14による権利証明ができれば、原則として、記名式所持人払証券を善意取得できます(改正後民法520条の15)。

 つまり、証券を返さなくても構いません。

 前回までの記事で確認したとおり、記名式所持人払証券の所持人は、権利者だと推定されます。

 そうやって権利の証明をしたときは、真の権利者に証券を返還する義務を負わないのです。

(第189回)
207民法520条の13(記名式所持人払証券の譲渡)
(第190回)
民法520条の14(記名式所持人払証券の所持人の権利の推定)


<解説>

3.悪意又は重過失


 証券の所持人であっても、例外的に、悪意だったり、善意ではあるものの重過失があったりする場合は、証券を本来の権利者に返還しないといけません(民法520条の15ただし書)。

 民法520条の15でいう「悪意」は、「害意」という意味ではありません。ある事実を「知っている」という内面の状態を指し示します。

 「重大な過失」というのは、悪意と同視できるような著しい不注意を意味します。

 民法520条の15も、基本的には、転々流通するという証券の性質を重んじることにしているわけですが、

 「分かってたやろ」

 「分かってないと絶対おかしいやろ」

というときには、所持人に泣いてもらうことにして、バランスをとっているわけですね。







 以上、民法改正勉強ノート第191回でした。

(第192回)★
219民法520条の16(記名式所持人払証券の譲渡における債務者の抗弁の制限)

へ つづく