2009年11月17日

近況報告

今日はみなさんにご報告させて頂こうと思い、ブログを
更新しました。実は、私はこの春で緩和ケア病棟を去り、
今は在宅訪問診療をしています。
原因はいくつかあるのですが、一番の問題は引越しでした。
緩和ケアは土日、夜間もきちんと対応して初めて緩和ケア
なのですが、一度に何度も往復出来る距離ではなくなって
しまったのです。

別に内緒にしよう、というつもりはなかったのですが、
病棟を去る、という事はこの『緩和ケア病棟24時』の
タイトルが、このままで良いのか、という疑問も出てきます。
ブログの形を変えることも考えましたが、これはこれで
多くの方との想い出もありますし、このタイトルで検索
してブログに来て下さる方もいらっしゃるので
どうしようか決めかねていました。

もちろん、病棟は離れても緩和ケアは私のライフワークに
したいと考えています。在宅緩和ケアは病棟よりも1人で
やらなければいけない事も多く、難しい問題もあるのですが
もっと個人の希望にあった、寄り添った治療/ケアを提供出来る
のではないかとも感じています。

また、同時にブログかホームページか、どのような形にしても
インターネットを通じての活動も続けていきたいと考えて
います。今のところ新しいサイトの案もないので、申し訳ない
のですが、もう少しこの『24時』のタイトルを続けさせて頂き、
皆さんからのご意見もあれば頂きながら、良い考えがあれば
追々形を改めて…と考えています。今後ともよろしくお願い
致します。

kotaroworld at 15:57コメント(10)トラックバック(0)日記 

2009年07月31日

『ターミナルケア 私の覚書き』を読んで

この本は、ビハーラ病棟に勤務されている平野博医師が
書かれたものです。ビハーラは簡単に言えば仏教の思想
を背景とした緩和ケア病棟です。私は2年前にも一度この
本を読みました。その時の感想は、「なんとも極端な
考えの先生だ」というようなものでしたが、読み直して
共感出来る部分がとても多かったのに驚きました。
私自身が、最近ホスピスにおいて「これで良いのだろうか」
と考えていた事が、平野先生の感覚ととても似ていたのです。
モルヒネが使え、症状のコントロールが出来ると自信を
持っているホスピス・緩和ケア病棟のスタッフがいるなら
是非読んで頂きたい本です。
もちろん、少し行き過ぎ?と感じる部分もあります。
しかし、例えば「苦しいから終わりにして下さい」という
患者様の言葉に、「嫌です、あなたに生きていて欲しい」
と泣きながら傍にいる、そういう緩和ケアがあっても良いと
思うのです。少なくとも、自分が不要だから早くいなくなりたい
という、実存的な痛みを感じておられる患者様には、
何にも勝る癒しの言葉にもなり得るのではないでしょうか。
多くの場合、それが出来ずにすぐに鎮静を選ぶことになるのでしょう。

私が平野先生に好感が持てるのは、決して御自身の意見に
自信を持って話しておられるのではない、という事です。
苦しんでいる患者様を目の前にして、「楽にしてあげたい」
という気持ちをもちつつ、「でも、ここでそれをする事が
この患者さんに良い事なのだろうか」と、とても悩み、
苦しんで考えておられるところなのです。自分の考えが
一番、という医師が多いですが、「本当に患者様に良い
方法は…」と考えると、そこで悩みが出てくるものだと
思うのです。自分の家族の場合に悩むことと同じように。

平野先生は、「苦痛を緩和すること」以上に、人と人の
つながりを大切に考えておられると感じました。
モルヒネを使ってもいい、ステロイドも悪くない。
でも、そのことで患者様の傍に「苦しみながら一緒にいる」
という緩和ケアの基本を忘れてはいけないのでは
ないかと思うのです。


kotaroworld at 13:24コメント(2)トラックバック(0)日記 

2009年07月17日

緩和ケアの目標は?

6月の内科学会誌に、有賀悦子先生ががん疼痛対策の記事を
書いておられました。その中で、こんな文章に深く共感
しました。

『患者の疼痛の訴えを聞くと、すぐに鎮痛剤を検討しなければ
と思うことがある。しかしながら、基本的な姿勢として、疼痛
があるから鎮痛剤を処方するのではない。疼痛があり、患者が
何らかの困りを感じていることに対し、耳を傾け、その解決
の一つの方法として鎮痛薬を処方するのである。』

最近は緩和ケアも盛んになり、大勢の医療者が興味を持つ
ようになりました。しかし、一部では『疼痛を緩和すること』
が最高の目標のように考えられているのではないかと感じる
医療者の発言も目立つようになりました。
中には、モルヒネの使用に反対する患者さまに、モルヒネ
ではなく、商品名を告げ、MSコンチンという薬を使います、
と説明すれば良い、などという意見までありました。
緩和ケアとは、その人らしく過ごすためのプログラムです。
そのために私は誠実な医療を行うことが我々の義務だと
思っています。騙して鎮痛剤を使用するなど本末転倒では
ありませんか。

ホスピスとはどういう所ですか?という質問に、
『安心して苦しめる場所だと思います』
と答えたホスピス医がいらっしゃいました。
逆説的ですが、これが全てではないかとすら思います。
信頼できる医療スタッフ。いざとなれば最善の医療を
受けられるという確信。それがなければ安心して
苦しむことなど出来ないからです。繰り返しますが
疼痛や苦痛を緩和するのは、最終目標ではありません。
患者さまが最期まで自分らしく、ご自分の選択で人生
を生きること。それを手助けするのが私達の役割であり
疼痛緩和はそのための手段のひとつに過ぎません。

kotaroworld at 11:17コメント(2)トラックバック(0)その他 

2009年07月16日

急性期化する緩和ケア病棟?

都内にある、有名な某ホスピスは、入院の際に
「当院のホスピスには2週間しか入院出来ません」
という説明を受け、承諾された方しか入院出来ない
そうです。もっと長い入院が出来ないのですか?と
尋ねると、「他に終生入院出来るホスピスがあります」
と他のホスピスを紹介されてしまうそうです。
困って私達のホスピスを訪れる方が何人かおられました。

良い事か悪い事か、皆さんがどう考えられるかは
分かりませんが、多くの方々の理解とは逆に、
ホスピスは最期までずっと入院する施設ではなくなって
来ています。即ち、基本は在宅。ホスピスは症状
のコントロールを行う施設であって、症状が落ち着けば
原則退院、という考え方に変わってきています。
もちろん、まだ長い期間入院出来る施設もありますが
「ホスピスの在院日数を見ればその施設の質が分かる」
と言われる時代です。少しずつ傾向は変わってくるでしょう。
(もともと、欧米のホスピスは平均在院日数は1週間
程度ですので、驚くには当たらないのかもしれませんが)

これはある意味仕方ない事かもしれません。
高額医療等の制度があるので、個室料金などを除けば
患者さまの負担自体は月数万円になりますが、
ホスピスでは実際、1日38000円程度、1人が1年間入院すれば
1400万円程度の医療費がかかっています。
これだけの医療費をかけているのですから、当然
ホスピスは、よりホスピスケアを必要としている人に
ベッドを提供すべきではないか、という考えが出て来ます。
がんはあるけれども苦痛はあまりなく、ただADLが低くて
在宅介護が難しいという方がずっと入院していて、
死が目前に迫り、痛みも呼吸苦も吐き気も緩和出来て
いない患者さまが入院出来ない、というのは確かにおかしな
話です。

すると、症状が軽くなった方は、重い方にベッドを譲って
退院して頂き、状態が悪くなったら、またその時に入院
して下さい、無理なら療養型病院に転院して下さい、
という事になります。しかし、これではある意味
「次の患者さんがお待ちですから早く退院か転院をして下さい」
という急性期病院とあまり変わらないではないですか。

冒頭で紹介したホスピスは、既にそのような考えを
推し進めているのだと思います。しかし、多くの患者さま
が困って他のホスピスを訪れているのも確かなので
複雑な心境です。
結局、制度が整う前に考えだけ先に行ってしまうので
取り残された患者さまは途方に暮れてしまうのです。
介護力がない患者さま、御家族も苦しまれているのですから
ホスピスに変わる救済方法を考えていかなければいけません。






kotaroworld at 16:40コメント(2)トラックバック(0)その他 

2009年07月09日

がん終末期の栄養管理

残念ながら、我が国の緩和ケアの中で栄養管理についてはあまり
重要視されているとは言い難い現実があります。藤田保健衛生大学の
東口高志先生は10年くらい前からがん終末期における栄養療法を
精力的に行ってこられました。先生は食欲不振で栄養障害があり
『悪液質』と考えられていた患者様に適切な栄養療法を行うことで
再び食事が食べられるようになる場合が少なくない事を発表されています。
また、それに伴い、ADL改善、平均生存期間延長、褥創や感染症の
予防としても効果的であったとしています。それだけでなく、栄養障害が
感情や意識、意欲の喪失をきたしやすいという事も指摘されています。

先生は、

『正しい知識や技術がともなわずに単に末期がんだからといって
一方的に栄養管理をおろそかにすることは許されない』


とおっしゃっていますが、医療者が熱意を持って栄養管理をする
事でいくらかでも状態が回復出来る患者様がおられる事は意識
しなくてはいけません。

具体的には、適切な計算に基ずく栄養管理、
腹水の多い患者様には腹水濾過濃縮再静注療法
(CART)を施行したり、微量元素、高脂肪・高蛋白栄養剤の使用、
GFO(グルタミン、食物繊維、オリゴ糖を合わせたもの)を投与する等の
治療を行っておられます。

ただ、東口先生も、生命予後が2週間程度になると高度の浮腫や
強い倦怠感が出現し、この時が本当の悪液質であり、栄養療法の
ギアチェンジが必要とおっしゃっています。高度の浮腫が出現した時に
高カロリー輸液を続けるのは無論懸命ではありません。ただ、従来
考えられているよりも本当の悪液質は少なく、飢餓・不適切な
栄養管理の結果である場合も多いのです。終末期医療にかかわる
少しでも多くの方に興味を持って頂きたいと願っています。

参考:コンセンサス癌治療
http://www.cancertherapy.jp/palliative/2008_summer/10.html
PDFファイルとしてダウンロードも出来ます。

kotaroworld at 17:02コメント(0)トラックバック(0) 

2009年03月18日

昨日の記事に関する追記

さて、昨日は緩和ケア観についての記事をお書きしましたが
これを書いた根底には、現在日本で根付きつつある緩和医療が、
多くの患者さまや御家族のニードとは若干開きがあるのではないか、
医療者の自己満足で終わってしまってはいないか、という自問から
来ています。かんだか「緩和ケア・ホスピス」という各自の固定
概念の枠組みの中に患者さまを合わせていこうとするような…。

私はきちんとそれが出来ているかは別として、「自己満足」で
終わらないよう、気持ちに沿えるよう常に軌道修正を意識して
きました。これは、私自身が患者・家族であった場合に、医療者
には、このように接して欲しいという希望でもあります。
その時、医療者に求めることは、「緩和ではこれが良い」というパターナリズム
のようなものではなく、「理解し、共に悩んでくれる」事だと思うのです。
「揺れる気持ち」や「生き延びたいという当然の欲求」を、少なくとも理解
しようとしてくれる事だと思うのです。
これは、言葉を変えれば「一緒に傷む」という事かもしれません。

私にこれが出来ている等とはとても言えませんが、
少なくとも自分の医療がどちらを向いているか、は
いつも意識の中に入れておきたいと思います。

kotaroworld at 05:42コメント(2)トラックバック(0) 

2009年03月17日

『緩和ケア』観

今度総合病院で当院の紹介をさせて頂く事になり、資料を集めて
いましたが、当院で中心静脈ライン(CVライン)を確保している
割合を計算したところ、半年間の累計で44.3%という結果でした。
これには、緩和ケア病棟に来る前に既にCVラインを入れている人
を含めた数字ですが、思ったよりも多いので驚きました。
高カロリー輸液(IVH)を行っている人はかなり少ないので、
殆ど末梢が取りにくいという理由での挿入になります。
また、亡くなる3日前に点滴をしている割合は約80%でした。
「約」とお書きしたのは、抗生剤やら鎮静のための薬だけを点滴
している人を何処まで含めるか迷ったので、正確な割合を出す
のは大変だと思ったからです。この数字も思ったより多い数字
でした。

私はだいたい輸液のガイドラインを参考にしつつ、御本人・御家族の
想いを重視して点滴を決めています。体液の貯留傾向があって、
輸液量が延命にも寄与しないであろう段階ではかなり量を減らし
ますが、不感蒸泄を考慮しても200〜500ml程度の輸液がそれ程
悪影響を及ぼしているとも考えられず、継続する事が多いのが
実情です。…無論、機械的に継続している訳ではありません。
全ての例で悩みながら点滴を決めています。
その結果が、この点滴、CV lineの施行率になっています。
中止の場合も金輪際中止、とは考えず、状況が許せば再開も
念頭に置いて判断しています。
中止にするのは、明らかに苦痛が強くいたずらに延命する事を
患者さま・御家族が望まない場合やsedationを行っている時
等です。

私は、輸液に限った事ではなく色々な治療の選択において
緩和ケアに携わる医療者が、それぞれの「死生観」、
「緩和ケア観」を持つ事は大切だと思います。また、いくら
患者さま、御家族の希望でも、ぶれてはいけない中核のような
ものがあるとも思います。しかし、譲れない中核の部分は
実はそれ程多くはないのではないか、とも思っています。
輸液の是非は色々な意見があり、ガイドラインもその決定に
役立つ情報は与えてくれますが、絶対的な結論を示しては
いません。私は、「緩和ケアとはこういうもの」という
個人的な考えを、あまり患者さまに押し付けたくないのです。
大切なのは、医療者の満足ではなく、患者さまの満足なのです。

緩和ケアを長年やっている医療者には、もちろんその経験の自信の
裏付けがあっての事ですが、いわゆる「緩和ケアとは、ホスピスとは
こういうもの」という固定概念があって、それが患者さまや御家族の
治療の選択を奪っていたり、可能性を狭めてしまっているような
事が結構多いのではないかと思っています。
与えられた条件の中ではありますが、いかに想いに沿えるか、
納得して選択して頂けるのか、という事は大切な事ではないかと
思うのです。緩和ケア医はあくまで参謀・軍師であって
君主ではないのです。


kotaroworld at 17:40コメント(0)トラックバック(0)日記 

2009年03月11日

フルルビプロフェン(ロピオン)

ロピオンは静注可能なNSAIDsで、癌性疼痛に適応を持って
います。使用法は50mg/5ml/A原液をゆっくり静注とされて
います。ゆっくりとは、具体的には1分かければ良いよう
です。投与速度が速いと動物で血圧、心拍数が上昇した
との報告があるようです。また、独特の味・匂いを感じる
方がおられるそうで(ターミナルケアマニュアル第3版)、
その場合は生食に溶いて薄めて使用します。
実際には生食5〜20ml程度で希釈している施設も結構ある
そうです(メーカー)。

フルルビプロフェンを単回静注した際の血漿中濃度は6.7分後に
最高となり(8.9μg/mL)、消失半減期は5.8時間であったという
事です。これより定時で使用する場合は1日3回くらいが適当と
考えられます。ただ、その間で疼痛が出現してしまう場合、
維持輸液に溶いて、24時間持続静注も可能であり、
これにより安定した疼痛管理が出来ます。
もっと言うと、これに更にモルヒネを混注する事も可能な
ようです。CSIが出来ない施設や在宅でも、ロピオン持続
静注はひとつの選択肢になるかもしれません
(平成20年度診療報酬改定で、在宅でもロピオンが使用
出来るようになっています)。



kotaroworld at 19:31コメント(0)トラックバック(0)骨の痛みに有効な薬剤 

2009年03月10日

いつまで抗がん剤を続けるか

昨日の続きです。

さて、昨日お話したように、癌の有効な治療がなくなってしまった
段階で、内布先生のおっしゃる
「ほとんど現実的でないわずかな望みに
多大な苦痛と費用を投じ」ている患者さまがおられる現状に対して
何が出来るか、どうしたら良いかを考えてみます。

まず、内布先生は、この治療がない時期の患者さまが健康な方に
比べ、正確で合理的な意思決定が出来なくなっている事を挙げて
おられます。BSC(ベスト・サポーティブケア)や治療のマイナスの情報は
説明の後にあまり覚えていない
傾向もあるようです。
患者さまや御家族の意思決定に、
『オタワ個人意思決定ガイド』
というツールを紹介されていますが、これはインターネットで検索すると
すぐ出てきますし、PDFファイルをダウンロード出来ます。
これで与えられた情報、それぞれのメリット・デメリットを整理し
意思決定の助けになることと思います。
(介入により化学療法を選択する患者さまは約30%減)

また、病状が悪くなる以前に、化学療法のEndpointをはっきり
させる事で、化学療法の中止とギアチェンジを良好に行う事が
出来る、という内容が紹介されていました。
(病状説明とEndpointの説明を行った群では、88%が良好な
ギアチェンジを行った。これに対して病状・Endpoint共に伝えていない
場合は0%。病状のみ伝えていた群では41%であった)
確かに治療がやめられない患者さまでは、医師から事前に
明確なEndpointを示されていない事が圧倒的に多いように感じます。

これらの事を考えると、「自分は中止が良いと思ったが患者さまが希望
するから…」と抗がん剤を継続する医師は、選択が難しい患者さまへの
配慮や、抗がん剤継続の意味、限界に関する説明が不足している
可能性があります。


もうひとつ、個人的な意見ですが、生きたいという希望を支える意味で
代替治療にもう少し寛容になっても良いのではないでしょうか。
悪徳な健康食品会社が多いのも事実ですから、
寛容であるためには代替治療の知識も必要ですが。
弊害が殆どなく、金銭的負担の少ない治療であれば、目くじらを立てて
禁止しなくても良いではありませんか。科学的根拠は?とおっしゃいますが
second line以降の抗がん剤治療の多くにも、延命・緩和のエビデンスも
なければこの時期の患者さまに対する安全性も十分に確立されてるとは
言えないと思うのですが。もっと言うと、抗がん剤よりも有害な代替治療を
探すのは大変だと思います。

念のため繰り返しますが、一概に治癒不能な段階の抗がん剤の使用を
否定している訳ではありません。私がお話しているのは、通常抗がん剤が
有効ではないと考えられている段階でのお話です。医師の「自分や家族なら
受けたいか、受けて欲しいか」という視点はとても大切で、自分なら受けない
治療を勧めるのは(それを断った上でなら別ですが)不誠実だと思います。

kotaroworld at 15:22コメント(4)トラックバック(0) 

2009年03月09日

いつまで抗がん剤を続けるか

第5回緩和医療学会の教育セミナーで、
兵庫県立大学看護学部教授であられる内布敦子先生の
「終末期のがん治療と意思決定」という大切なお話がありました。
具体的には「何処まで抗がん剤治療を続けるか」というテーマでした。

たとえ、治癒困難であっても、抗がん剤で腫瘍が縮小する事で
痛みや腹水、咳嗽等が改善した経験は私にもありますし、
月単位の延命であっても、その数ヶ月が何にも変えられない
貴重な時間になる可能性はあります。
しかし、本当にこの治療はやるべきなのか、と首をかしげたくなる
段階でも、抗がん剤が続けられている現状があります。

問題だと思うのは、治療をしている医療者が、
「私や私の家族なら、まずしない」と考える治療が
行われているという事実です。

無論これはかなり難しい問題も含みます。
「治療中止」が患者さまの希望を奪うのではないか、
また、総合病院では治療を待つ他の多くの患者さまのために、
癌治療が終了した患者さまは近隣の病院やホスピスに紹介
しなければならない事も多いです。ずっと関わってきた患者さまに
当院で出来る治療はありません、と告げなくてはならず、
「見捨てられた」という辛い想いをさせてしまう事になるかもしれません。
また、いくら不利益を話しても、患者さまが治療継続を希望される場合も
少なくありません。

ただ、化学療法のsecond line、third lineに挙げられている抗がん剤
に、緩和・延命効果が認められているものは殆どありません。効果も、
若くて合併症のない比較的体力のある方のデータでしょうから、既に
体力の低下している方や高齢者には(薬を減らす等工夫をしたにせよ)
効果も安全性も十分に確認されていない事になります。

また、緩和・延命効果が認められている、とされている抗がん剤すら、
治療初期の選択には良いのですが、既にその薬の効果が落ちて、
使用しても病状やマーカーが悪化している段階では、
継続する方が中止するよりは「少しはいい」事を
証明するデータはありません。

そのような時期の患者さまが、
「前回は抗がん剤の治療をお休みしたので元気です」
等とおっしゃっているのをお聞きすると、継続の意義を考えてしまいます。

…続く。



kotaroworld at 13:29コメント(0)トラックバック(0) 

2009年03月06日

免疫療法の有用性と限界

私が医師になり始めた頃から、活性化自己リンパ球療法なるものが
行われるようになりました。抗CD3抗体とIL-2で活性化したT細胞を
投与するCD3-LAK療法や、それにがん抗原をパルスした樹状細胞
を同時に投与するもの、自己がん細胞を用いて特異的CTLを誘導
し、投与するCTL療法等があります。
※CTLとは以前キラー細胞と呼ばれていたものです

当時は免疫療法の有効性がよく分からず、奇跡的な回復をした
方ばかりをクローズアップしてアピールしたり、中には不誠実な医師
もいて、私も不信感を強く持っていました。
ここ最近になって、治療成績の統計が蓄積され、治療として確立
してきた感があります。

瀬田クリニックグループがまとめた資料では、単独での奏功率は9%、
長期(6ヶ月以上)不変を合わせて20%という事でした。奏功とは、
化学療法の判定基準に基いた、完全寛解(CR)、部分寛解(PR)を
合わせた数字です。抗がん剤、放射線療法と組み合わせて行った
ものも多く、そちらでは当然の事ながらもっと成績が良いです。
ケースレポートでは確かに驚くべき効果を認めるものもありました。

この数字でも私が想像していたよりは随分良い数字だったのですが
割合からすれば残念ながら効かない方がずっと多いという事に
なります。腫瘍の縮小はなくても「元気になった、食欲が増えた」
という方もおられると言います。確かにそういう声を聞いた事も
ありますが、厳しい事を言えば比較対象がないので、プラセボ
かもしれません。1回20万円、1クールが120万円(治療によっては
更に高額)という事を考えると、手放しで勧められる治療では
ありません。

しかし、免疫療法の実態が分かってきたことで、治療の選択肢として
考慮しやすくなりました。医療者ももリンパ球療法の知識なしに、
「あれは効かない」等という無責任な事は言わないようにしなければ
ならないと思います。

http://www.j-immunother.com/

瀬田クリニックのホームページです
医療従事者の方へ、というところに統計的な資料があります。



kotaroworld at 14:01コメント(0)トラックバック(0)希望を繋ぐ医療 

2009年03月05日

ガバペンチン(ガバペン)

我が国では2006年9月から使用出来るようになった抗痙攣薬で、
緩和ケアの領域では神経因性疼痛の補助薬として用いられます。

全ての補助薬に言える事ですが、癌神経因性疼痛への保険適応はありません。
他の抗てんかん薬との併用でないと保険が通らず、ホスピス以外では使用
しにくい面があります。将来癌の神経因性疼痛で申請が降りるかもしれません
が、今のところ未定です。

導入された頃は期待が大きかったためか、あまり効かないという話をよく
聞きましたが、最近は緩和医療学会でも有効であったという報告が数多く
なされています。

私の使用経験も、補助薬の中では効く方、という印象です。

どちらかと言うと電気が走るような電撃痛に効果があるとされていますが
実際のところ機序は分かっていません。GABAの名前がついていますが
GABA関連受容体には結合しないとされています。

NNTは三環系抗うつ剤に劣りますが眠気以外の副作用が少なく、
薬物相互作用も問題になりにくい(CYPを誘導しない)事、時に著効を示す
ため、神経因性疼痛の補助薬としては多くの国でファーストチョイスになって
います。

<処方例>1日目 200mg錠を1錠分1夕食後か就寝前
2日目は2錠2X朝夕、3日目は3錠3X毎食後と増量していきます。

600mg/day程度で効果が分かる事も多いです。2400mgまで増量出来る
という事ですが、流石にこれは多いのではないかと思います。
また、腎機能低下時(Ccr60未満)では減量が必要です。詳細は
添付文書をご覧下さい。

カマ・マグラックスと併用では血漿濃度が落ちるので1〜2時間ずらす方が良い
とされていますが、モルヒネと併用すると血漿濃度が増加する事が分かって
おり、臨床的には両者を併用している事が多いため差し引きあまり大きな
影響にはならないのではないかと思います。






kotaroworld at 07:48コメント(0)トラックバック(0)神経の痛みに有効な薬 

2009年03月04日

シメチジン(タガメット)

シメチジン(タガメット)は世界初のH(ヒスタミン)-2拮抗薬
です。薬物の相互作用や副作用の面で使用しにくく、その後に
発売されたファモチジン(ガスター)等の薬剤の登場で、今や
胃潰瘍等の治療にはあまり使用されなくなっています。

ところが、80年代頃からこのシメチジンが一部の癌に効果がある
という話が出ていて、未だに時々話題に登っています。
分かりやすい説明は、こちらを参考させて頂きます。


http://blog.goo.ne.jp/cancerit_tips/e/d9a595357b9b72e260d5ca0afe789cc5
※リンク間違っていたので修正しました

まとめさせて頂くと、
1979年Lancet誌:肺がん患者2名の癌消失
1982年Lancet誌:悪性黒色腫3名に著効
1994年Lancet誌:大腸癌術後の3年生存率に大きな変化
1995年Lancet誌:有名な日本からの報告
大腸癌手術2週間後、5FU投与患者のうち半数にシメチジン
800mgを1年間処方。生存率は、
【直腸癌】シメチジン投与100%:投与なし53%、
【結腸癌】シメチジン投与96.3%:投与なし68%

こんなに効くの?というすごい効き目です。
何故効くのかは諸説あって、諸説あるという事はつまりのところ
よく分かっていません。しかし、逆に否定的な報告も相次いで
出ていますし、そんなにスゴイ割に治験の方もどうなったのか
分からないですし、30年くらいたった今でもメジャーな治療に
なっていないところをみるとあまりはっきりした効果がないのかも
しれません。

しかし、この薬が効いたのかどうかは分かりませんが、私には
効いたと思える患者さまがいらっしゃいましたので、今日は
その紹介をさせて頂こうと思います。
その方は80代男性で、200×年に閉塞性黄疸からERCPを行い
胆管癌と診断されました。基礎疾患とご年齢から手術は選択
されず、抗がん剤治療も行いませんでした。
ただ、閉塞に対して定期的にステントの交換のみを行って
いました。基礎疾患の進行もあり、さすがに少しずつ全身状態
は悪化してこられました。尊敬する内科のF先生から引継ぎ、
最後の入院の途中から私が主治医として関わらせて頂きましたが、
実に5年半、積極的な治療なしで生存された事になります。
手術出来なかった胆管癌の、5年生存率は1%、もしくはそれ以下
と言われていますから、この方に使用されていたシメチジンが
いくらか役にたっていたのではないかと思うのです。

私がこの話を出した主旨は、シメチジンの抗がん効果を皆さんに
証明するためではないのです。ただ、もう治療が出来ない患者さんに
経済的に大きな負担をかける健康食品ではなく、もう少し医学的
裏付けがあり、希望に繋がる「何か」はないものか。
その中に、シメチジンという選択があっても良いのではないかと
いう事なのです。

※シメチジンは一緒に使っている薬の副作用を増強する可能性
がありますので、使用する際は必ず主治医の許可をもらって下さい。

※乳がんでは内分泌系への作用からあまり使用しない方が
良いのではないか、という意見もあります。

kotaroworld at 11:11コメント(0)トラックバック(0)希望を繋ぐ医療 

2009年03月03日

死の受容について再び

久々の更新になります。
今日、日本ホスピス緩和ケア協会の2月のニューズレターを
読みました。理事長の山崎章郎先生の挨拶が載っていましたが、
その中で「受容」という事について触れておられました。
「受容」というテーマで私も文章を書いた事がありましたが、
(2007年9月11日、『死を受容について最近思うこと』参照)
共感しつつ、読ませて頂きました。一部抜粋させて頂きます。

>その頃は、今ほどスピリチュアルペインやそのケアの重要性が
>行きわたっていなかった頃で、避けられぬ死をいかに受け止めて
>いただくか、が課題のひとつでもあったからです。しかし、
>ホスピス緩和ケアの経験が積み重ねられるほどに、ケアを提供
>する側が使用してきた「死」の受容という言葉は、実は、
>そのような場面でのケアの展開があまり見えなかった頃の、
>ケアを提供する側の未熟さ、あるいは「あなた死ぬ人、私
>残る人」という提供者側の奢りから生じた言葉だったのでは
>ないか、と今、思っています。

昔は私も「受容」という状態で過ごせる手伝いをする事は大切、
と考えていた時期はありました。しかし今日、私にとって「受容」
という言葉がどうも胡散臭く、あまり聞きたくない言葉になっています。
それは山崎先生がおっしゃるように、医療者側の未熟さ、
傲慢さから来ているような気がするからです。
「死期が近い事を納得しなさい」「成長しなさい」
というような冷たいニュアンスを感じます。

私達は患者さまが死を受容していようと、していまいと
想いに沿う努力とその場で出来る最大の事を、チーム全体と
御家族の協力を得て提供していくだけだと思うのです。

今日、Kayさんという方が掲示板に書いて下さった事についても
考えました。どうも、今の医療は緩和ケアも含めて患者さまの
ニーズに沿いきれていませんし、何か違った方向に流れようと
しているように感じてしまいます。
誰のための医療なのか。健康な人々や医療者のための医療では
ないのです。癌治療とホスピスの間の医療にも、もっと力を
入れていくべきだと考えるのは私だけでしょうか。




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2008年07月10日

デュロテップパッチは終末期でも有効か?

m3.comの私の日記からの転載です。

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参考:日本緩和医療学会Palliative Care Research
「がん治療期から終末期におけるフェンタニルパッチの
有効性および安全性の検討」Vol. 3 (2008) , No. 1

フェンタニルパッチについては、以前から状態の悪い患者
さんには効果が不安定であるという意見や、10mg程度を
越えて貼付しても有効性に欠ける、耐性が生じやすい
という意見が聞かれます。
一方で、終末期の患者さんにも十分効果的であった
とする報告も散見します。
私は経験上、前者の立場です。ホスピスに来られる前に
パッチ30mg貼付の上、大量のレスキューを要した方が
モルヒネCSIに切り替えていくと驚くほどコントロールが
良好になるのはめずらしい事ではありません。
(しかも断然安い!レスキューも楽!)

そこでパッチでうまくコントロール出来ている方の意見を
聞いてみますと、貼付する際に30秒以上抑える、とか
鎮痛補助薬を併用する、という意見が殆どでした。
私も緩和医のはしくれなので、それくらいの事は
やっているのですが…。
やはり単純に考えても、終末期の方の皮膚の状態は個々
で大きく変わりますから、一様に同じ効果を期待するのは
難しいのでは…ないですか?

しかし、全く逆の報告が相次ぐ理由を考えてみると、まず
二重盲検ではないので、医療者の持つ思い込み、偏見
が結果に影響してしまっている可能性(もちろんこれは
私自身にも当てはまるかもしれません)、またオピオイド
の効果の個人差のようなものも、実は大きいのかも
しれません。また、今回の報告でもあったように、特に
状態の悪い終末期の患者様の場合、無理に完全に
ローテーションするのではなく、モルヒネCSIをパッチに
被せる形で鎮痛を図るのもひとつの方法だと思います。

kotaroworld at 17:59コメント(11)トラックバック(0)オピオイドの使い方 

2008年07月09日

ペンタゾシンと強オピオイド併用の是非

m3.comの私の日記からの転載です。
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まず、結論から。禁忌に近く、併用すべきではない、と
私は考えています。ペンタゾシンの注意書きを見ると、
モルヒネとは「併用注意」となっており、作用増強の
可能性が書かれています。しかし、パーシャル・アゴニスト
という点で考えると当然のことながら強オピオイドに拮抗
し、その作用を減弱する可能性が出てきます。実際、
ラットの実験からは作用減弱や退薬症状と思われる症状
が観察されており(臨床薬理16巻1号87-88,1985)、臨床的
にもその間違った投与法の犠牲者と考えられる症例には
出くわしています。ただ、モルヒネが低容量のうちは相加
的に作用すると思われます。問題は、どこまでが「低容量」
であり、どこからが拮抗的に作用するのか。調べる方法
はなく、個人差もあると思われます。
参考までに上記報告では、モルヒネ0.5mg/kg程度では
ペンタゾシンはモルヒネと協力的に作用し、2mg/kgでは
拮抗的に作用すると結論付けられています。
参考にはなるかもしれませんが、所詮ラットでの結果です。

また、理論的に影響が出ない量という事になっていますが
ナロキソンが含まれている事も気味が悪い、とおっしゃる
先生もおられました。

その前に、併用のメリットはあるのでしょうか…という声も
あるかと思います。そんな訳の分からない、確立していない
治療よりは、素直にモルヒネ増量を考慮すべきでしょう。
κ受容体作用を殆ど持たないと考えられているフェンタネスト
との併用は、と言うとそれも「分からない」としか答えよう
がありません。繰り返しになりますが、逆効果になるリスクを
冒して処方すべきではない、と私は思います。

ただ、我々がオピオイドについて知るところはほんの一部
だと思っています。現在の受容体の理解では説明の
つかない作用がありますし、たとえばNaチャネルを介した
効果なども分かってきています。
なので、オピオイドの併用が今後「あり」になる可能性は
あると思います。しかし、現段階では基礎の研究を待つ
という態度が正しいのではないでしょうか。

kotaroworld at 10:45コメント(4)トラックバック(0)オピオイドの使い方 

2008年07月02日

MSコンチンは過去の薬か

m3.comという、医師のみが参加出来るサイトに、掲示板があります。
たまに見ていますが、先日「MSコンチンなど過去の薬だ」と言われた
という書き込みがありました。私見を述べてみます。

確かに、オキシコンチンが登場してMSコンチンを選択する機会は
ぐっと減りました。5mgという錠剤がある事で導入しやすかったり
腎機能の低下した方でも安心して使用出来る(これが最大)点、
効果発現が速くしかも値段も安い、どうやら神経因性疼痛にも効果
あるらしい、等という意見も出てきて…
とくれば、確かにMSコンチンを選ぶ理由が見当たらない
かもしれません。また、細かい話をすれば、これまでデュロテップ
はモルヒネからの変更しか許されていませんでしたが、
他のオピオイドからの変更も可、という添付文書上の改定もありました。
…これなどは知らないDr.すらいるかもしれませんが。

モルヒネは1日1回処方の剤型があったり、注射、座薬などありますので
それらを使用する機会はもちろんありますが、オキシコンチンで
それらの剤型が登場すれば、そちらに人気が集中しそうです。

唯一、呼吸困難や咳嗽への効果はオキシコンチンにはあまり
エビデンスがないです…逆にモルヒネが優れているという証拠も
ないのですが、私ならこの辺りではMSコンチンを使用すると思います。

一方、少数ながらオキシコンチンの方が便秘が強いのではないか
という意見はありました。オキシコンチンの方が抗コリン作用が
強い?というのが理由のようですが、私は正直臨床的な差はない
と感じています。

しかし、オピオイドに対して現在の医学では分からない事はまだ山の
ようにあると思います。μとかκとかいう受容体の事すら、
十分に説明出来ていないですし、他にも色々な機序で鎮痛効果
が発現する事も、ようやく分かってきたところです。
そんな段階で、「MSコンチンは過去の薬」と言い切ってしまう
のは、やや浅はかな印象を受けます。



kotaroworld at 10:25コメント(0)トラックバック(0)オピオイドの使い方 

2008年06月30日

癌疼痛に対するペンタゾシン錠の是非

m3.comの私の日記からの転載です。
2005年6月29日にもペンタゾシンの記事があります
ので参考にして下さい。




癌性疼痛に対するペンタゾシンの使用はどうなのか。
私見を述べさせて頂ければ、やはり極力使用すべきではない
と思います。一番の理由は、長期内服の安全性に関する
エビデンスが少ないからです。

WHOやTwycrossも、ペンタゾシンは半減期が短く、精神症状
が出やすいことから癌の痛みコントロールには使用すべきではない、
としています。半減期が短いのは確かで、痛みの程度にも
よりますが効果時間は注射でせいぜい4〜6時間、内服でも
これより1〜2時間長いくらいです。しかし、これだけなら、患者さん
が1日3〜4回飲むのが苦痛でなければ構わないと思います。
κアゴニストの作用が中心となる本剤は、本当に依存や精神症状が
起きやすいのでしょうか。実は精神症状は過去の注射剤の誤った使用法
(疼痛時頓用)によるところが大きいのではないか、という気もします。

痛みがある限り、モルヒネを使っても精神依存は起きない、という事を
κとμオピオイドのバランスから説明する仮説がありますが、
モルヒネとて、痛い時のみ筋注という使い方では依存を形成するかも
しれません。実際内服ペンタゾシンの依存はお聞きしたことがありません。
(我が国で錠剤が発売されてから癌性疼痛での錠剤による精神依存の報告は
1例もないとのことで、海外でも数例?詳細不明 By 厚生労働省)

手元にペンタゾシンの医薬品インタビューフォームがありますが、精神症状のうち
めまい、ふらつきはそれぞれ4.54%、1.36%とやや高いですがそれでも
MSコンチンと比べ特別多い訳ではありません。眠気0.97%、頭痛0.91%
がこれに続きますが、頭がボーッとする0.18%、陶酔感0.12%、あとは
幻視、興奮、悪夢、浮上感など全て0.1%以下です。

効果ですが、確かに天井効果は低いです。32例の検討で、
後に2/3の患者が強オピオイドへの変更が必要となった、
というものがありました(しかし逆に1/3が最後までペンタジシンで
コントロール可であった、という方が驚きでした。これは駿河台
日本大学病院麻酔科の報告です JJSPC Vol.11No.4 2004)

では、効果不十分であった場合、強オピオイドへの変更は
どうするべきでしょうか。上記日大麻酔科の報告と薬物研究会
の文献(CURRENT THERAPHY 1999 Vol.18 N0.5)には、
200mg/dayの時点で30〜60mg/day程度のモルヒネに変更
するのが良いようです。同文献によれば休薬期間は必要なく、
ペンタゾシン錠2錠内服後、3〜5時間後にモルヒネ開始、とあります。
μのアゴニスト/アンタゴニストですが、移行が問題になった
ケースは調べた限り報告ありませんでした。

そうなると、ペンタジンが嫌われているいくつかの理由は
統計的、臨床的な裏づけが不十分である可能性もあります。
便秘が少ないのは明らか(0.03%)で、天井効果が低い、
持続時間が短いなどの問題だけで使用してはいけない、
までは言えないのではないかと思います。
しかし、最初にお話したように長期連用に関する安全性
は十分に確立しているとは言えないと思います。
優れたオピオイドが多数ある事を考えるとペンタジン錠を
選択しなければならないケースは稀と言えるでしょう。


kotaroworld at 20:25コメント(0)トラックバック(0)オピオイドの使い方 

2008年03月21日

ケタミンの驚くべき抗うつ作用

m3.comの私の日記からの転載です。

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有賀先生のブログでケタミンの抗うつ効果が話題に
なったので、自分で調べてみました。有賀先生は臨床
でもリタリンに負けない手ごたえを感じておられるとの
ことでした。

Arch Gen Psychiatry (2006) 63:856-64

PubMedから本文を無料でダウンロード出来ます。
18例と少数ながら、二重盲検法で行われたスタディで、
難治性の大うつ病の患者さんを対象に行われています。
作用は2時間程度で顕著に現れ、29%では寛解と呼べる
程であり、71%が24時間以内にハミルトンスコア半減、
35%は1回の静注で少なくとも1週間は効果が持続した
そうです。投与の方法は、静注用のケタミンを0.5mg/kg
+生食50mlを40分以上かけて点滴しています

どのような作用が抗うつ効果を示しているかは
分かりませんがケタミンの持つ多幸感やグルタミン酸を
介した作用により抗うつ効果が発現されているのでは
ないか、という説明がなされています。

上記報告以外にも、ケタミンの抗うつ作用を示すものは
いくつかありますがケタミンは麻薬指定であり幻覚などの
精神症状の出現率は高く、そのまま精神科領域でうつ病
の薬として使うのは無理ですが、ホスピスでは従来の
抗うつ薬が副作用、相互作用、効果発現までに時間
がかかる(数週間)ことから使いにくく、ケタミンの使用
を考えても良いケースがあるのではないかと思います。

kotaroworld at 06:49コメント(3)トラックバック(0)その他 

2008年03月20日

呼吸困難とラシックス吸入

m3.comの私の日記からの転載です。
呼吸困難の患者様に、利尿剤ラシックスが有効という報告
があり、まとめてみました。

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喘息やCOPD治療で有効との報告がなされている
(N Engl J Med 321:1069-1073,1989)が、癌の呼吸困難
にも一部で使用されてきた。機序ははっきり分からないが、
・気管支の炎症を軽減(トワイクロス)
・肺進展受容体の興奮、肺イリタント受容体の興奮抑制
(Am J Respir Crit Care Med 162:971-975,2000)
・気管のNaチャンネルに作用して水を制御し、
痰を減少させる
等が考えられている。

癌終末期の緩和ケアという事に関しては、
有効であるという報告と共に逆に悪化したという報告
(J Pain Symptom Manage 24:274-275,2002)もあり、
評価は定まっていない。県立広島病院緩和ケア科の
小原弘之先生も、単盲検RCTで対照である生食との
有意差は認めなかったとしている(緩和医療学会NL
Vol.14 2007)。対象を選んで使用すれば効果があるのかも
しれないが、どのような対象に効果的であるのかは、
まだよく分かっていない。もちろん保険適応外。

【使用法】
ラシックス注 20mg 0.5〜1A 原液で吸入 1日4回程度
生食で希釈して使用する先生もいるようです。


kotaroworld at 11:22コメント(0)トラックバック(0)その他 
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こたろう
ホスピスを担当している内科医です。より良いケアを目指して情報交換出来ればと思っています。書き込みやすいように掲示板
もご用意させて頂きました^^

医師の方へ:

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をしていますが、処方においては責任
は持てませんので必ず御自分で確認
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