【伊勢物語】通い路の関守 (第5段)



昔、男ありけり。東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。
昔、男がいた。東の五条通りの辺りに、たいそう人目を避けて行った。





みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、

ひそかに通う場所であるので、門からは入ることができなくて、
  • みそかなる」の意味はよく問われます。
  • 「え入らで」の口語訳を問われることがあります。え~[打消]」: 「~できない」は呼応の副詞「え」の用法として重要。[未然形]+で」: 「~ないで」も重要。

童部の踏みあけたる築地の崩れより通ひけり。
子供達が踏みあけた土塀の崩れたところから通った。

人しげくもあらねど、たび重なりければ、

人が頻繁に通る訳でもないけれども、(男が通うのが)たび重なったので、
  • 口語訳をよく問われます。特に、「たび重なりければ」の動作主は必ずと言ってよいほどよく問われます。
  • 「しげく」の意味を問われることがあります。
  • 「あら」の助動詞「ね」の文法的説明(文法的意味・「基本形」・活用形)は要チェックです。

あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人を据ゑて守らせければ、

(邸の)主が聞きつけて、その通い路に、毎夜、(番)人を置いて見張らせたので、
  • 「据ゑて守らせければ、」の動作主を問われることがあります。
  • 「据ゑ」は数少ないワ行下二段活用動詞の一つですので、文法的説明(活用の種類+品詞名・「基本形」・活用形)と、残り2語のワ行下二段活用動詞は答えられるようにしておきたいところです。
  • 「守ら」の助動詞「」の文法的説明(文法的意味・「基本形」・活用形)はよく問われます。

行けどもえ会はで帰りけり。
行くのだけれども会うことができずに帰った。
  • 口語訳をよく問われます。呼応の副詞「え」の重要な用法、え~[打消]」: 「~できない」も含まれています。[未然形]+で」: 「~ないで」も重要。

さて詠める。
そこで詠んだ(歌)。
  • 「詠め」の助動詞「」(基本形は「り」になることにも注意)の文法的説明(文法的意味・「基本形」・活用形)はよく問われます。

人知れぬわが通ひ路の関守は宵々ごとにうちも寝ななむ
人知れず私が通う道の番人は、毎晩ちょっとの間でも寝てほしい
  • 「人知れ」の助動詞「」の文法的説明(文法的意味・「基本形」・活用形)はよく問われます。
  • 「うちも寝ななむ」の口語訳はよく問われます。[未然形]+なむ」: 「~してほしい」を含む文ですので、「なむ」の識別問題が絡むことも想定しておきたいところです。
〈「なむ」〉の識別
  • [未然形]+なむ: 「~してほしい」…「なむ」は終助詞他者への願望を表す。
  • [連用形]+なむ: 「(きっと)~するだろう」…「な / む」は、「な」: 強意(あるいは完了)の助動詞「ぬ」未然形、「む」: 推量(意志など)の助動詞「む」(活用形は終止形か連体形)。助動詞の意味は前後の文脈によって変わるので意味のチェックは必須。
  • [種々の語]+なむ: (訳は特になし)…「なむ」は係助詞、意味は強意なので訳出の必要は特になし。係り結びを起こすが、識別は直前の語を確認することで容易にできる。
  • [ナ行変格活用動詞の未然形]+む: 「む」は助動詞(推量、意志など)。「[連用形]+なむ」との区別は、「なむ」、「なむ / なむ」になっていないかどうかを忘れずにチェックすることで可能。

と詠めりければ、いといたう心病みけり。
と詠んだので、(女は)とてもひどく心を病んだ。
  • 「いといたう心病みけり。」の理由はよく問われます。男の詠んだ歌から、「女が男の愛情の深さを知ったから」とか「女が男に会えなくて悲しいから」とか、その方向性でいろいろ書けます。

あるじ許してけり。
主は(男が通ってくることを)許した。
  • 『伊勢物語』の文学ジャンルは歌物語ですが、歌の効用(「歌徳」と呼びます)をうたった説話を含むことがあります。このエピソードもその一つですが、この「あるじ許してけり。」の一文こそまさに歌の効用となります。それを問われることがありますので要チェックです。

二条の后に忍びて参りけるを、世の聞こえありければ、
二条の后のもとに人目を避けて参上したのを、世間の評判があったので、
  • 二条の后(藤原高子、842-910)は清和天皇の女御。陽成天皇の母となったので皇太后となります。入内前に『伊勢物語』の主人公のモデル・在原業平と恋仲にあったとされています。叔父に藤原良房(人臣初の摂政)、兄に藤原基経(史上初の関白)らがいます。
  • このエピソードの後段はこの文から始まります。「解説パート」でもあります。
  • 「世の聞こえありければ、」の口語訳はよく問われます。「聞こえ」の意味は要チェックです。

せうとたちの守らせたまひけるとぞ。

(女の)兄弟達が(番人に)見張らせなさったということだ。
  • せうと」の意味は要チェック。ここでは、藤原国経・基経(史上初の関白)らを指します。



☆ その他、気を付けておきたいこと
  • 出典の『伊勢物語』の文学ジャンル: 歌物語、成立年代: 平安時代前期、主人公のモデルが在原業平は押さえておきたいところです。



[テキスト]
昔、男ありけり。東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。みそかなる所なれば、門よりも入らで、童部の踏みあけたる築地の崩れより通ひけり。 しげくもあらねど、たび重なりければ、あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人を据ゑて守らせければ、行けども会はで帰りけり。さて詠める。

人知れぬわが通ひ路の関守は宵々ごとにうちも寝ななむ

と詠めりければ、いといたう心病みけり。あるじ許してけり。

二条の后に忍びて参りけるを、世の聞こえありければ、せうとたちの守らせたまひけるとぞ。