今日はTPP参加問題についてです。




3月7日、衆院予算員会で、安倍総理は、TPP交渉参加の意義について「日米が世界に広がる自由貿易圏のルール作りを行うメリットはある。日本の知的財産が参加国で保護されるし、工業製品を世界に出すことで日本が利益を得ていく。…農業は食料安全保障という考え方もあり、守るべきものは守る。国民皆保険制度は揺るがさない」と、述べた。

これだけだと、農業や国民皆保険は"聖域"として守っていくんだな、と聞こえなくもないのだけれど、事はそう簡単ではないようだ。なぜなら、TPPへの後発参加国について厳しい条件が付けられていることが明らかになったから。

3月8日の衆院予算委員会で、岸田外相はTPPについて、交渉を先行して進めていたアメリカなど9ヶ国が、新たに交渉に参加する国に対して条件を出していたことを明らかにした。その3条件とは次のとおり。
1)合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さない
2)交渉の進展を遅らせない
3)包括的で高いレベルの貿易自由化を約束する
とまぁ、既に決まったことに関しては、もう弄らないというものであり、先行して交渉していた国の側からみれば、至極尤もな条件だと言える。

岸田外相は、こうした条件が出されていることを昨年3月に日本政府が把握していたと明かしている。

TPP交渉の先行9ヶ国は2010年迄に交渉入りしていて、2011年11月に参加の意向を表明したカナダとメキシコに対し、既に合意した条文は後発の参加国は原則として受け入れ、交渉を打ち切る終結権もなく、再協議も要求できないなどの条件を提示したようなのだけれど、両国はこれを受け入れ、念書も交わしているとされている。

では、どの分野について合意が為されているのか。複数の外交関係筋によると、既に8分野では交渉終了が見えてきているという。どうやら、交渉が難航しているのは、各国の利害が激しく対立している関税に関わる分野のようだ。外交関係筋は「日本が今更交渉に参加しても、参加国に取り残され日本抜きで協定が決まるだろう」としている。

筆者は2011年10月13日のエントリー「TPP交渉参加と野田首相の指導力」で、「2011年11月のAPECで"大枠合意"もしくは、"重要分野で共通見解に至る"ことを目指している中、11月にのこのこと参加しますといったところで、一体何ほどのことができるのか疑問に思う。電車に乗り遅れるな、とマスコミは囃し立てるけれど、実はもう、列車は行ってしまったのではないのか」と指摘していたのだけれど、TPP後発参加国に対する3条件をみると、やはりそのとおりであったと言っていいように思われる。

当時の野田政権は、この事実をカナダとメキシコの参加意向表明後に把握し、両国政府に水面下で「こんな条件を受け入れるのか」と問い合わせたそうなのだけれど、両国は受け入れを決めた。野田政権は昨年六月までには念書の存在を把握していたという。

この念書については、TPP交渉参加の正式表明後に届くとされているのだけれど、既にカナダとメキシコがこの条件を飲んでいる以上、日本だけ例外という訳にはいかないだろう。おそらく、もう決まったとされる8分野については、そのまま受け入れ、残り分野だけで交渉云々という話になるのではないか。



政府は、平成24年3月に「TPP協定交渉の分野別状況」についての情報を更新している。これを見ると、丁度今から1年前の時点では、各21分野については、次の状況にあるようだ。
1.物品市場アクセス:交渉は二国間ベースで行われ、9ヶ国間の合意は未だない。
2.原産地規則:交渉難航中
3.貿易円滑化:交渉は進展
4.衛生植物検疫:議論中。収斂せず。
5.貿易の技術的障害:WTO・TBT協定を更に強化・発展させることを議論中
6.貿易救済:WTO協定を確認しつつ議論中。貿易救済措置は収斂せず。
7.政府調達:WTO並かそれ以上かで交渉中。収斂せず。
8.知的財産:WTO・TRIPS協定並かそれ以上かで交渉中。収斂せず。
9.競争政策:FTAに含まれる共通の要素を中心に議論。
10.越境サービス貿易:FTAに含まれる共通の要素を中心に議論。核となる要素の殆どについて合意。
11.商用関係者の移動:透明性の確保・手続の迅速化・技術協力の促進等について合意近づく。
12.金融サービス:ISDSの適用について議論するも合意せず。ポジティブリスト方式を検討。
13.電気通信サービス:WTO・GATSで各国に任されている事項とFTAで規定されている事項を議論。ほぼ合意。
14.電子商取引:FTAを参考に議論。
15.投資:議論中。ISDSについては、濫用を防ぐための規定を検討中。
16.環境:FTAで規定されている事項を議論。合意できず。
17.労働:交渉中。
18.制度的事項:交渉中。
19.紛争解決:締約国間の紛争を協議や仲裁裁判等にて解決する際の手続に関して議論。収斂せず。
20.協力:議論進まず。
21.分野横断的事項:議論中。
と、2012年3月の時点で、合意されていそうなものは、「3.貿易円滑化」「10.越境サービス貿易」「11.商用関係者の移動」「13.電気通信サービス」の4つ。当時からもう1年経っているから、外交関係筋がいうように、これら以外の4分野についても合意がなされつつあるとしてもおかしくはない。

特に筆者が気になったのは「10.越境サービス貿易」で、核となる要素の殆どについて合意、とある。ここでは、所謂「ラチェット条項」についても議論されているから、これを含めて合意されたのであれば、ラチェット条項については、もう決まったことになる。

一方、ISDSについては当時はまだ合意されていないようだけれど、今は合意されているかもしれないことを考えると、最早ルール作りに関われるところはあまり残っていないのではないかと思えてならない。

やはり、電車は行ってしまっていた。これから飛び乗るのは、不利な条件が多すぎる。もしも、安倍政権がこの状況下で、TPP参加をしようとするのであれば、おそらく。完全撤廃まで10年、20年あるから、それまでになんとかイノベーションなり、産業構造を転換するなりして対処しよう、という具合に"時間軸論"で説明しようとするのではないかと思う。

だけどそれをやる為には、少なくとも10年、20年先を見据えた、長期国家戦略は必須だし、長期政権であることも要求されることになるだろう。少なくとも政権が代わっても、国家戦略はそのまま引き継げるものでなくてはならない。

例え、国家100年の計で大決断をしたとしても、民主党のように、自民を否定して何もかもちゃぶ台返しされてしまったら、その大決断も無駄になってしまう。

それ以前に、安倍政権が本気でTPP参加を考えているのであれば、TPP全21分野について、広く国民的議論をしないといけないし、その土台となる成長戦略・国家戦略を提示し、国民を説得する必要がある。




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