安倍総理の初の外遊先がベトナムと決まった。
1月16日から19日まで、ベトナム、タイ、インドネシアの3か国を歴訪する。
安倍総理は、ベトナムとの戦略的パートナー関係をさらに深め、政治、安全保障、国防、経済、貿易、投資などの分野における協力関係を促進することを確認し、外交関係樹立40周年を記念して、「日越友好年」の開幕宣言を行う予定。安倍総理は、ベトナムに2日間滞在した後、タイ、インドネシアを訪問する。今回のASEAN3ヶ国訪問で、アジア太平洋地域における平和維持に向けた姿勢を示すほか、日本経済再生に向けて東南アジア地域の需要を取り込みたい考えだと見られている。
筆者は「向かい風の日米首脳会談」のエントリーで、安倍総理は、アメリカ訪問を第一として、それが実現されるまでは外遊を控えるのではないか、としていたのだけれど、そうではなかったようだ。もしかしたら、モタモタしている時間などないという判断があったのかもしれない。
それにしても、初の外遊先にベトナム、そしてタイ、インドネシアの東南アジアの3ヶ国を選んだということは、明らかに「自由と繁栄の弧」構想を念頭においた外交であることは疑いの余地がない。
先日、麻生副総理がミャンマーを訪問したけれど、今月9日から14日にかけては、岸田外相がフィリピン、シンガポール、ブルネイ、オーストラリアの4ヶ国を訪問している。
岸田外相は10日、フィリピンのマニラでデルロサリオ外相と会談し、海洋権益拡大の動きを強める中国を念頭に、海洋安全保障分野の連携強化を取り付け、11日にはシンガポールのシャンムガム外相兼法相と会談し、安全保障分野や文化交流・人的交流の分野においても協力を進めていくことを確認している。
また、12日には、ブルネイのモハメッド・ボルキア外務貿易大臣(王弟殿下)と外相会談及び昼食会を行い、互恵的な関係を構築すべく協力することで一致。政治安全保障分野について岸田大臣から、6月にブルネイで開催予定のADMMプラス実動訓練の成功に向け協力する意向を伝えている。
そして、13日には、オーストラリアのボブ・カー・外務大臣と会談を行い、2007年に安倍総理が署名した「安保共同宣言」以降の実績を踏まえ、日豪安保・防衛協力を着実に進展させるべく、様々なレベルでの協議を継続していくことを確認している。また、日豪EPAについても交渉の早期妥結を目指し、TPPについても、共に協力していくことで一致したようだ。
これに、安倍総理の3ヶ国外遊が加わる。これまでの、安倍総理、麻生副総理、岸田外相の外遊先及び電話会議を挙げると次のとおり。
アメリカ:安倍総理(電話会談)17日、岸田外相(電話会談)8日もう、あからさまなほどに、東南アジア諸国重視がみてとれる。これは、裏を返せば、中国包囲網でもあるのだけれど、安倍総理は、南シナ海をキーワードとした安全保障構想を考えているようだ。
フィリピン…岸田外相(外遊)10日
ベトナム…安倍総理(電話会談)28日、安倍総理(外遊予定)16日
タイ…安倍総理(外遊予定)17日
シンガポール…安倍総理(電話会談)28日、岸田外相(外遊)11日
ブルネイ…岸田外相(外遊)12日
インドネシア…岸田外相(電話会談)28日、安倍総理(電話会談)28日、安倍総理(外遊予定)18日19日
ミャンマー…麻生副総理(外遊)3-4日
オーストラリア…安倍総理(電話会談)28日、岸田外相(外遊)13日
インド…岸田外相(電話会談)27日、安倍総理(電話会談)28日
チェコ共和国のプラハに本拠を置く国際的な言論NPO組織に「プロジェクト・シンジケート(Project Syndicate」というのがある。これは、現在、150か国、439の新聞によって構成される、各国の新聞を繋ぐ組織。専門家や活動家、ノーベル賞受賞者、政治家、経済学者、政治思想家、ビジネスから学者にいたるまでの各界のリーダーによる論考や分析を会員の新聞および雑誌社に配信している。総発行数は5億万部で、世界最大の言論組織のひとつ。
この「プロジェクト・シンジケート」のウェブサイトに、12月27日付けで、「Asia’s Democratic Security Diamond(アジアのセキュリティダイアモンド)」という題で、安倍総理の英語論文が掲載された。
その論文の概要は次のとおり。
セキュリティ・ダイヤモンド構想とまぁ、オーストラリア、インド、日本、ハワイによって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋権益を保護するダイアモンドを形成する、即ち、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を打ち出し、その構想に、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、及びタヒチに影響力を持つ、イギリスとフランスの参加を促している。
・太平洋における平和、安定、航海の自由は、インド洋における平和、安定、航海の自由と切り離すことは出来ない。
・南シナ海は「北京の湖」となっていくかのように見える。南シナ海は、中国海軍の原潜が基地とするに十分な深さがあり、間もなく中国海軍の新型空母がよく見かけられるようになる。中国の隣国を恐れさせるに十分であるがゆえに、中国政府が東シナ海の尖閣諸島周辺で繰り返す演習に、日本が屈してはならない。
・中国は尖閣に対するプレゼンスを日常的に示すことで、尖閣周辺の海に対する領有権を既成事実化しようとしている。
・もし日本が屈すれば、南シナ海はさらに要塞化される。両シナ海は国際海域であるにもかかわらず日米両国の海軍力がこの地域に入ることは難しくなる。
・このような事態が生じることを懸念し、太平洋とインド洋をまたぐ航行の自由の守護者として、日印両政府が共により大きな責任を負う必要を、私はインドで述べた。
・私が描く戦略は、オーストラリア、インド、日本、米国ハワイによって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋権益を保護するダイアモンドを形成することにある。
・マラッカ海峡の西端にアンダマン・ニコバル諸島を擁し、東アジアでも多くの人口を抱えるインドはより重点を置くに値する。
・アジアのセキュリティを強化するため、イギリスやフランスにもまた舞台にカムバックするよう招待したいし、日本の世界における役割は、英仏の新たなプレゼンスとともにあることが賢明だ。英国は今でもマレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドとの五カ国防衛取極めに価値を見いだしているし、タヒチのフランス太平洋海軍は極めて少ない予算で動いているが、いずれ重要性を大いに増してくるであろう。
・米国のアジア太平洋地域における戦略的再編期にあっても、日本が米国を必要とするのと同じぐらいに、米国もまた日本を必要としている。
・日本外交は民主主義、法の支配、人権尊重に根ざしていなければならないからである。これらの普遍的な価値は戦後の日本外交を導いてきた。2013年も、その後も、アジア太平洋地域における将来の繁栄もまた、それらの価値の上にあるべきだと私は確信している。
これは、自由と繁栄の弧を強化すると同時に、イギリス、フランスを参加させることで自由と繁栄の弧の先端をヨーロッパにまで伸ばすことを意味してる。
こうした構想が、日本の総理から海外に向けて発信される意味は大きく、しかも、安倍総理及び閣僚の外遊先は、見事に、この「セキュリティ・ダイヤモンド構想」とリンクしているから、諸外国は、日本は安倍総理の言葉どおりの外交を展開しようとしていると解釈するに違いない。
「プロジェクト・シンジケート」には、日本の朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞の各紙が会員となっているのだけれど、何故か、この「セキュリティ・ダイヤモンド構想」について少しも報じていない。
だけど、世界最大の「プロジェクト・シンジケート」に掲載された以上、その影響力は無視できる筈もなく、やがては外信等でも取り上げられることになるかもしれない。
日本の一部マスコミには、安倍総理の外遊について、アメリカへの訪問が先送りになったことを持って、安倍外交に微妙な狂いが生じただの、初っ端から躓いただの、叩いている向きもあるようだけれど、世界にむけて、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」をやると宣言した事実は大きい。
日本の外交方針を宣言した上での外遊なのだから、結果として、アメリカを第一の外遊先にはならなかったことが却って、日本が主体的に外交することを強調する形になっているように思う。
今後の展開に注目したい。
コメント
コメント一覧 (6)
国防長官・財務長官・国務長官の3大閣僚がそれぞれ辞任により交代し、商務長官も事実上空席のままです。とくに日本にとっては、新たな国務次官補・東アジア・太平洋担当(+日本部長)が決定されないことには、まともに交渉もできない状況でしょう(他にも、国防長官に共和党穏健派を指名し、財務長官をウォール街とは関係が無い人物を選ぶ等、かなり独自色を出しているようですが)。
また、今回の安倍論文は、一部ではなぜマスコミは報道しないのかと話題になっていたものですが、読んでみて少々驚くのは、オホーツク海の場合と異なり、南シナ海が中国の内海化することを認めず、アメリカはもちろん、ASEAN等の周辺国と協力して日本が積極的に行動しようとしている点です。おそらくまだ間に合うという判断なのでしょう。
確かに、南シナ海は日本のシーレーンにかかっていますし、中国は地域覇権国として、国際的な公共財である「公海の自由」等を守る意思を持っていませんから、当然かもしれません。
こうした日本の動きは、オバマ政権の東南アジア重視路線とも完全に一致しますし、関係各国からも驚きとともに好意的な評価が寄せられているようです。
こう見てくると、やはり安全保障問題を前面に出した日米関係の再構築の方針が明らかになります。産経は口惜しそうに書いていますが、TPP交渉参加も事実上見送りになるようですから、こうしたやり方は、日本の国益の観点からも妥当なものでしょう(ISD条項がある限りTPP参加反対を表明しているオーストラリアとの協力関係は微妙ですw)。
〔焦点〕オバマ米大統領、2期目は「戦闘モード」 行き過ぎへの懸念も
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK827233620130109
・東南アジア、安倍外交を歓迎 「米の戦略補完、対中バランサー的役割担う」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130113/asi13011322080005-n1.htm
・安倍首相、日米首脳会談でのTPP参加表明見送り 参院選対策を優先
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130113/plc13011301130000-n1.htm
また、フランスはEUのド真中で動きが取れないけれど、イギリスはEUを脱退するとの動きもあるようだし、今回の日本政府からの呼びかけにイギリスが応じて、イギリス経済復活のシナリオを作るとすると、、、金融だけでなく、工業力の復活が必要だとすると、EU抜けたイギリスもポンド高を是正して行く事が予見できますね。そろそろ、イギリスは工業力を取り戻しても良いころだと思います。日露戦争前の軍艦造船大国の英国が、この海域を再び支配する為には、空母や航空機で圧倒できる能力が必要ですが、、、現状は無理なので、やはり、日本の海上自衛隊や米国海軍との連携が必須ですね。
そして、最も重要なのが、政治的な連携なんですね、、、
どうやら、歴史が大きく動く雰囲気になってきたように思えます。
この論文に籠められたメッセージは日本のマスコミやサヨクな言論人は無視しても、世界レベルでは無視されません。なにより、欧米の教育機関や研究機関に留学経験がある第三世界のトップエリートたちには確実に伝わります。ポイントはその後ですが、この論文のメッセージを実現する形で今の日本外交は動いています(というかフル回転?)。昨今の南シナ海情勢を見ると、歓迎されるのは間違い手ないでしょう。そのレベルで安住せず即座に具体化していく手を打っていけば、こちらのペースに引き込む事は可能です。今は安倍政権が外交面で「言うだけ番長ではない」ということを証明してみせる大事な時期だったんですね。
TPP対策や円安政策, 国内需要の増進のため,
安倍政権は重視はするが依存しない対米外交
を考えているのかも知れない.
これは日本を物言わぬ財布にしたいオバマ米国
の利害とは一致しないから, 今後は米国及びそれと
連携した(?)支那の圧力が強くなってくるだろう.
尖閣諸島を日本だけの問題に陥いらせるなら,
米国の自立の伝統を重視しないオバマ大統領が
TPPとの取引, そして支那への妥協(共同管理)を
強要することは火を見るより明らか.
(ロム二ーであればその可能性はなかったろう.)
米国の財政問題が解決されるまで時間は多くない.
オバマ大統領が動き出す前にアジアの連帯を結成
できるか否かが日本の独立を決定するだろう.
日本は大変に危機的な状況にある.