今日は、久々に科学関連のエントリーです。
8月28日、日立製作所は、次世代新型原発の開発に向けて米国の3大学と共同研究を開始したと発表した。
資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)と呼ばれるこの原子炉は、その名のとおり、原子力発電で生ずる放射性廃棄物(使用済核燃料)を燃料とするもの。
使用済核燃料には、核分裂しないで残ったウランと核分裂生成物であるネプツニウム(Nb)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などが含まれている。これら元素は超ウラン元素(Thu)と呼ばれるのだけれど、超ウラン元素は全て放射性物質で、その多くは生体への影響の大きいアルファ線を放出する。
従来、使用済核燃料は再処理して、ウランとプルトニウムに分離して、残りは高レベル放射性廃棄物として、処分されるのだけれど、放射性廃棄物に含まれる超ウラン元素はには、半減期の長いものが多い。
次の図は、通常の軽水炉で使われた使用済核燃料からの高レベル放射性廃棄物の毒性指数の経年変化を示したものなのだけれど、ストロンチウム(90Sr)やセシウム(137Cs)が100年経過以降急激にその毒性を減らすのに対して、超ウラン元素(橙色)は、100年経過後のストロンチウムやセシウムと同程度の毒性に下がるまでに、1万年から10万年掛かることが分かる。
従って、これら超ウラン元素は、当然その辺に捨てられる筈もなく、地下300m以深の地下に埋める、いわゆる地層処分されることになる。
ところが、この資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)は、超ウラン元素を燃料に使うから、その使用済核燃料の殆どがストロンチウム(90Sr)やセシウム(137Cs)になる。したがって、超ウラン元素が無害化されるまでの10万年も地下深く埋めておく必要はなく、ストロンチウム(90Sr)やセシウム(137Cs)が、ほぼ無害化するまでの300年程度で済むというメリットがある。
これだけ聞くと、資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)はどんな凄い新技術を使っているのかとも思うのだけれど、その技術の核心は、「もんじゅ」などと同じ、高速炉を基本としている。
去年12月「夢の次世代原子力『4S高速炉』」のエントリーで、高速炉の仕組みについて詳しく述べたけれど、この資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)は、ひらたくいえば、減速材に「水」を使った高速炉。
「夢の次世代原子力『4S高速炉』」のエントリーで説明したように、高速炉は通常の軽水炉では燃やすことのできないウラン238に中性子を吸収させ、核分裂するプルトニウム239に核変換して、それを燃料に使っている。
次の図は、超ウラン元素の生成とその変化について表わしたものだけれど、ウラン元素は、ヘリウム4の原子核(アルファ粒子)や電子または陽電子を放出して、別の元素になる。
このうち、原子核がヘリウム4の原子核(アルファ粒子)を放射して、原子番号が2、質量数が4小さい別種類の原子核に変わることを「アルファ壊変」といい、電子または陽電子を放出して他種の原子核になることを「ベータ壊変」という。
だから、プルトニウムが中性子を吸収することで生成されるアメリシウムや、更に中性子を吸収して生成されるキュリウムも、アルファ壊変することで、ネプツニウムやプルトニウムになる。プルトニウムは核燃料になるから、その意味では、超ウラン元素は、アルファ壊変やベータ壊変、そして中性子を吸収することで、どこかのタイミングで核燃料になることが出来るといえる。
従来の高速炉は、その減速材として液体ナトリウムを使用する。それは、燃えにくいウラン238を燃やすの必要な高速中性子を減速させ過ぎて熱中性子にしないためなのだけれど、なぜ資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)では、水を減速材として使うのが可能なのか。
それは、水(蒸気)を熱中性子まで減速させず、かつ燃料棒の冷却材として機能するぎりぎりまで「薄く」しているから。
次の図は、通常の沸騰水型原子炉(BWR)と資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)の炉心構造を比較したものなのだけれど、資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)の炉心の燃料棒間の距離は、高速炉同様、ものすごく狭くなっている。隙間が狭くなると、当然そこを流れる冷却水は少なくなるから、その分、中性子が軽い水素原子にぶつかって減速する確率も低くなり、高速中性子が殆どを占めるようになる。
その結果、資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)は、その本質が高速炉であるにもかからわず、水を減速剤として使っている。
ただ、ここで注意しないといけないのは、核燃料を燃やした後にできる、超ウラン元素のそれぞれ同位体の割合が燃料前後で変わらないように厳密に調整することが必要なこと。
超ウラン元素に限らず、元素には、原子番号が同じ元素でも中性子の数だけ違う同位体がある。先に示した超ウラン元素の生成と変化の図をみれば分かるように、原子核は、アルファ壊変やベータ壊変などで核変換するけれど、それは特定の質量数を持つ原子核で起こる。つまり、全部の同位体が核変換できるわけではないから、核変換できる原子核が燃焼すると、核変換できる同位体の割合はどんどん減って、核変換できない同位体の割合が増えていく。
そうなると、最終的には核変換できない同位体だらけになって臨界を維持できなくなり、燃料棒は使用済核燃料として放射性廃棄物になる。これでは折角の高速炉が勿体ない。
次の図は、資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)の炉内で、中性子を捕獲して核変換される反応が起こる割合(中性子捕獲反応率)と、核分裂が起こる割合(核分裂反応率)の中性子エネルギー依存性を示したものなのだけれど、中性子捕獲反応が、広い範囲の中性子エネルギーで起こるのに対して、核分裂反応は中性子エネルギーの低いところと、高いところの両方で顕著に起こっている。
資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)は、減速剤である冷却水の流量を運転中に変化させ、中性子のエネルギー分布を絶妙に調整することで、燃焼前後でも超ウラン元素の同位体の割合を一定に維持するようにしている。これによって、核燃料を無駄なく使い切るようになっている。
日立は、2007年から2011年にかけて、アメリカ電力中央研究所(EPRI:Electric Power Research Institute)への委託研究として、マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、カリフォルニア大学バークレー校の3大学に、この資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)の炉心の成立性評価を行い、さらに詳細な検討が必要としながらも、実現を妨げる致命的な問題はない、との結論を得たという。
そして、今回、いよいよ資源再利用型沸騰水型原子炉(RBWR)の実用化を進めるために、この3大学と炉の性能や安全性などの評価を開始する。
日立は、マサチューセッツ工科大学と、冷却水が沸騰した際の蒸気の割合や冷却水の流量で十分に燃料棒を冷やせるかどうかの調査、ミシガン大学とは、核分裂のし易さに影響を与える中性子の挙動を探り、カリフォルニア大学バークレー校とは、炉から出てくる放射性廃棄物の有害度を分析し、2016年3月までに詳細な評価をするという。
こんな技術が開発されるとは、やはり原子力はまだまだ開発途上にある。反原発だかなんだか知らないけれど、原発を捨てるまでにやれることは、まだまだある。
コメント
コメント一覧 (3)
妄想インスピレーション動画
【日本の技術】水から生まれた新燃料
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=oNF_OcQfUKg
しかし, 福島の時のように冷却水が抜けた時,
燃料棒同士が接触しないかが少し心配.
タービン事故のイメージがまだ強いので,
耐久性のある構造体をしっかりと作る技術が
日立にあるのかというのは余計な心配か.
しかし「潜在的毒性指数」と言うのはどうか.
放射能を浴びた物質は全く無害ではなかろうが,
毒物が地下水で流れてくるようなイメージは
よろしくなかろう.
>ボイド率のレインボーカラーのレンダリングする向きが上下に成っていますが、左右ですよね、水(ボイド率0%)が青、蒸気(ボイド率100%)が赤。
はい、そうだと思います。参照した資料がこのようになっていたので、そのまま使ってしまいましたが、どう見ても左右ですね。その辺り、修正しておくべきだったかもしれません。
最初、放射性廃棄物の処理が300年で済むという記事を見た時には、一瞬、どんな超技術なのか、と思ったのですけれども、従来炉を高速炉構造にして、減速剤を水にしてもコントロールできると知ったときには、驚きましたね。まぁ、スパコン等で詳細なシミュレーションができるようになったからこそともいえると思いますけれども、流石ですね。
廃炉になった炉は順次こちらに切り替えるのも手かもしれませんね。