日比野庵 新館

デザインを更新しました。

  
昨日のエントリーに少し関連した話題を極簡単に…




1.反発をうける孔子学院

先月の6月末、アメリカ大学教授教会(AAUP:American Association of University Professors)は「孔子学院は中国の国家の一機関として機能し、学問の自由を無視する行動を取ることが多い。一方、アメリカの大学当局は学問の誠実性を犠牲にするようなパートナーシップを外部の機関と結ぶことがしばしばある。孔子学院の開設を学内に許してきたアメリカの各大学は、孔子学院との関係を再検討する必要がある」との声明を発表した。

アメリカ大学教授協会は、全米450の大学の教授達が参加する最大級の集まりで、この声明は、シカゴ大学、ニューヨーク大学、スタンフォード大学、コロンビア大学など全米合計100近くの大学に伝えられた。

「ワシントン・ポスト」も、この問題を社説で取り上げ、アメリカの大学の教育内容を中国共産党機関によって左右されることは好ましくないと、アメリカ大学教授協会の声明を支持。学問の自由の立場から中国共産党の言論統制にノーを突きつけた。

中国の孔子学院については6月28日のエントリー「中国の孔子学院戦略とクールジャパン」で取り上げたことがあるけれど、思想戦のレベルで、"自由を守る闘い"が世界各地で始まっている。

これが露骨な形で行われているのが香港。

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2.抑圧される香港メディア

今年1月、香港の有力紙、明報の劉進図氏が編集長の職を追われ、2月には2人組に刺されて重傷を負う事件が発生している。

明報は知識文化人向けリベラル紙で、香港返還前の1995年に江沢民に近いとされるマレーシア華僑実業家・張暁卿に買収されている。劉進図氏は、1995年から2007年まで明報の社説を担当し、2012年から編集長になっていた。それが突然の更迭。更迭理由は明らかになっていないのだけれど、業界では北京からの圧力があったと囁かれている。

この更迭に対し、明報編集局の記者達が憤り、反対署名運動を展開。数百人の記者、言論人の署名が集まり、「香港の言論の自由」擁護運動として広がり、2月23日には「報道・言論の自由」を求める6000人規模のデモも行われた。

ところが、その3日後の26日、劉進図氏は香港島東部の西湾河太安街で、突如覆面の男にナイフで切りかかられ、胸や足など、6回刺される重症を負った。劉進図氏はからくも一命は取り留めたものの、一時は意識不明と伝えられていた。そして、この事件を受けて3月2日にも1万人前後が参加する「報道の自由」を求めるデモが行われている。

また、これ以外にも、民放の商業ラジオに出演していた民主派ジャーナリストの李慧玲氏が2月に突然解雇され、3月には、今年夏に創刊予定の日刊紙、香港晨報の幹部2人が4人組に鉄パイプで襲われる事件が発生している。

香港は、2017年に初の行政長官普通選挙を行なうとしている。

今の香港の行政府の長である香港特別区長官は、選挙委員会により選出される。選挙委員会は産業各分野からの代表、下部行政区画の代表に加え、中国の全国人民代表大会香港代表(全人代香港代表議員)、政治協商会議香港地区委員らで構成され、いわゆる間接選挙制度となっている。しかも、全人代議員や政治協商会議委員が全体の1割近くを占め、中国大陸側の意向が反映されやすいと言われている。

中国政府は、6月10日に「香港特別行政区における『一国二制度』の実践」と題する白書を発表しているのだけれど、そこでは、「香港は150年以上にわたり、植民地統治されていた。…中国に返還されて以来、民主的政治制度が順を追って安定して発展してきた。…香港基本法は、行政長官と立法会のすべての議員を最終的には普通選挙で選ぶと明記している。つまり、法で定めた目標だ」と述べられている。




3.香港基本法の"名"と"実"

香港基本法とは、イギリスからの香港返還が決まったことを期に、中国政府が作成を本格化させた香港についての実質的な憲法で、香港の独自性を認めた内容となっている。

だけど、その改正は、全国人民代表大会の承認が必要であり、基本法の解釈権も全国人民代表大会が持っていて、やろうと思えば中国共産党政府が。自分達に都合の良いように、いくらでも勝手に解釈できるようになっている。名(香港の独自性を認める内容)を捨て、実(承認と解釈権は中共政府が持つ)を取ったというところか。

ただ、実がない"名"とはいえ、その"名"には、一応、民主主義を認める内容が記されている。例えば、第45条では、行政長官の選出について次のように定められている。
第45条 香港特別行政区行政長官は、地元において選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。行政長官の選出方法は、香港特別行政区の実情および順次漸進するという原則に基づいて規定され、最終的には広範な代表性をもつ指名委員会が民主的手続きにより指名したのち、普通選挙で選出するという目標に至る。
また、第27条、第28条では、住民の権利について次のように定められている。
第27条 香港び出版の自由、結社、集会、行進およびデモンストレーションの自由、ならびに労働組合を組織しこれに参加し、ストライキを行う権利および自由を享有する。

第28条 香港住民の人身の自由は侵されない。香港住民は、任意または非合法に逮捕、拘留、監禁されない。任意または非合法な住民の身体検査および住民の人身の自由の剥奪または制限を禁止する。住民に対する酷刑および任意または非合法な住民の生命の剥奪を禁止する。
この27条および28条を元に、先の香港メディアの記者が職を追われ、暴漢に襲われたケースを見てみると、なぜか解雇理由は明らかにされず、逮捕、拘留、監禁ではなく、暴漢に襲われている。そしてそれに対するデモも許可している。これらは、スレスレで27条、28条に抵触していない。

つまり、"名"とはいえ、"名"としての機能を果たしていると見ることもできる。一応、共産党政府も今のところ"名"を無視するところまではしていない。

とすると、2017年の普通選挙も、香港基本法という"名"は立ててくるものと思われる。そこで、行政長官の選出方法を定めた45条を改めてみると、普通選挙との文言はあるものの、肝心の候補者は誰でも立候補できるのではなくて、指名委員会が指名した人物となっている。その人物の中から普通選挙で選ぶとしている。ここが曲者。

つまり、指名委員会が指名した人物が全員、共産党寄りの人物ばかりだったとしたら、誰を選挙で選ぼうが、実質上、共産党の傀儡になってしまう。

ただ、あまりにもそれを露骨にやってしまうと、反発が大きくなることも予想される。それゆえ、今の段階から少しづつ、香港メディアに圧力をかけて、共産党批判を抑制し、2017年までに香港世論全体を共産党寄りに染め上げる工作を始めているのではないかとさえ。

言論の自由には、賛成の自由も反対の自由もある。それがただ一つの意見しか認めない全体主義に染まったとき、自由は危機を迎えているかもしれないことを注意しておく必要がある。




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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. アライグマ
    • 2014年07月25日 23:13
    • こんなおもしろくもないブログに集まったって だめですよ
      気持ち玉 コメント入れているみなさん
      私の所へ来なされ
      じじいだけどねこばばした話とか 挙動不審で警官に呼び止められた話とか どきどきの話ばかりです
      ブログは http://60761435.at.webry.info/ ひとりごと です
    • 2. sdi
    • 2014年07月26日 01:29
    • 香港の扱い(中共国内での位置づけ含む)について恐らく最大の計算違いは、中国本土特に香港隣接しない地域や内陸部の急速な経済規模の拡大でしょう。これは、北京の党中央も併合された香港側も予測できなかったことだと考えます。
      ただ、人民幣が未だローカルカレンシーの域を出ない状況で香港ドルの存在は無視できないので暫くは香港を特別扱いするふりを続けるのではないでしょうか。
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