日比野庵 新館

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今日も極々簡単に…



5月30日、シンガポールで行われたアジア安全保障会議に日本の総理として始めた出席した安倍総理は「アジアの平和と繁栄よ永遠なれ」と題した基調講演を行った。

その内容は、外務省のサイトで公開されているけれど、これまで、アジアの安保会議に日本の首相が出席していなかったとは、喜ぶべきことなのか、恥ずべきことなのか分からないけれど、そこで基調講演を行ったということは、それだけ日本の役割を期待されているということなのだろう。

安倍総理は講演の冒頭でTPPに触れ、アジアは自由で創造的な経済圏を拡大させながら成長すると切り出した。そしてその為には、すべての国が国際法を遵守しなければならないとし、日本はそのための支援を惜しまないと述べた。

そして、法の支配の重要性を述べていくのだけれど、特に注目したいのは、海に関する国際法について述べた部分で、安倍総理は、その歴史は古く、ギリシャの時代にまで遡るとし「誰か特定の国や集団がつくったものではありません。長い年月をかけ、人類の幸福と繁栄のためはぐくまれた、われわれ自身の叡智の産物なのです」と述べた。

この安倍総理の指摘は、実に上手い。こういった物事の根本にまで遡って、その根拠を指し示すようなロジックは、戦略の階層でいうところの最上位の"世界観"から攻めていくやり方で、それに反論するのは難しい。特にその"世界観"が多くの国々に理解され支持されているようなものであれば、それをちゃぶ台返しすることは非常に困難。

こういう指摘は、自分の都合のよいように、法を解釈し、それを相手に押し付ける"どこかの国"にとっては一番痛いところを突かれる恰好になる。

ここでいう"どこかの国"がどの国だなんて、言うまでもないけれど、翌日には、アメリカのヘーゲル国防長官が演説し「ここ数ヶ月の間、中国は南シナ海での領有権を主張し、地域を不安定化させる一方的な行動を取ってきた…威嚇や軍事力を通じた領有権の主張には断固として反対する」と名指しで批判。アメリカは、軍事・外交の軸足をアジア太平洋に移す「リバランス」政策に注力しているとし、国際秩序の根本的原理が脅かされることになれば「見て見ぬふりはしない」と述べた。

まぁ、「見て見ぬふりはしない」というのが口だけのことかもしれないけれど、口では中国を批判したことには変わりない。



これに対して、中国は反論。6月1日、人民解放軍の王冠中副総参謀長が演説を行い、安倍総理やヘーゲル長官の発言を「中国に対する挑発的行動」と批判した。

王冠中氏は演説当初は「中国は武力でいかなる国を威嚇したこともない。他国が『積極的平和主義』を旗印に私利のため騒ぎを起こすことは、絶対に受け入れることができない」と用意した原稿を読み上げていたのだけれど、途中で「ここでいったん原稿から離れたい。安倍氏とヘーゲル氏の講演を聞き、話さざるを得ない」と切り出し「講演は想像していない内容だった。…安倍氏とヘーゲル氏の演説は、2人が互いに調整し、支持し合い、励まし合った上で、先に演説する立場を利用して中国に挑発的な行動を取り、挑戦を突きつけたような印象だ」と、安倍総理とヘーゲル長官の名を14回も繰り返し、10分間、中国を一方的に批判したと糾弾した。

わざわざ、原稿にないことを発言する辺り、本人がいうとおり、本当に、日米の演説は"想像していない内容"可能性があるのだけれど、"法による支配"なんて、安倍総理はずっと言っていることだし、先日の日米首脳会談でオバマ大統領が尖閣が安保対象だと明言したことから考えると、この程度の発言があるであろうことは容易に想像できると思うのだけれど、中国が本気で、そう思っていたとしたら、その空気の読めなさは却って危険。それならば「法の支配と力による現状変更は許さない」の文言を、呪文かお経のように毎日唱えて、常に意識させたほうがいい。

この王冠中氏の批判に対して、小野寺防衛相は、「総理は、極めて常識的な発言をされたと思います。中国側の反応というのは、理解できない状況だと思います」と反論しているけれど、こうした、イチャモンレベルの批判にもきちんと反論するのは大切なこと。黙っていれば、それを認めたと解釈されるのが世界の常識。

今回のアジア安全保障会議では、各国から「法の支配」の支持が相次いでいる。小野寺防衛相も、ベトナム、フランス、ニュージーランドの国防相と相次いで会談して、東シナ海や南シナ海などの情勢について意見交換を行い「力による一方的な現状変更は許されない。国際法に基づき、対話によって問題解決すべきだ」との認識で一致している。

中国は、世界から「法の支配」包囲網を掛けられている。これは武力によるものではないのだけれど、世界観レベルでの包囲網。中国がこの「法の支配」包囲網を打ち破るには、同じく世界観で対抗できるものを持ってくるしかない。

だけど、中国はそんな世界観を持ってはいない。中華思想はあるにせよ、それで世界を納得させることは出来ないだろう。

ただ、中国が世界の全てを押し潰すだけの武力を持ち、それを行使するとき、その前提は全て崩れ去る。幸いにも今の世界はそこまでいってない。だからこそ、今の段階で、そんな野望は捨てさせなければならない。




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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. almanos
    • 2014年06月02日 07:02
    • 中国のはそもそも「共産党が私する国」です。で、他の国は「私されていない国」が大半です。そもそも価値観の前提が違うわけで対話が成立するわけがない。後は中朝韓の特定アジア三ヶ国は「貶め辱める目的と、平時の食人の肯定」文化圏です。これは「葬送儀礼において愛と敬意を持って食人」を行う部族社会などとも根本的に相容れない。有り体に言うと「Yes! cannibal!」が特亜三ヶ国で「No! cannibal!」が我々特亜以外の国家です。世界観の最も基礎に当たる部分で相容れない。このまま行くと「中国問題」に対する「最終的解決」となるでしょうね。ジャックと豆の木で行くなら特亜三ヶ国は「人食いで財宝をため込んでいる巨人」で我々側は「巨人を殺して財宝を奪うジャック」となるでしょう。で、ジャックは正しいと、何せ人食いが相手ですから。
    • 2. ス内パー
    • 2014年06月02日 15:01
    • 支那からみて怖いのは多国籍軍(かつての遊牧民侵攻に相当)であって非難は何も怖くないんですよね……
      文字通り世界観が違うがゆえに詰みを理解できない相手というのは厄介です。詰みを理解せずに最後まで突き進むため本来必要ない被害を被り、万が一応対を間違え勝たせたら増長しますし。
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