昨日のエントリーの続きです。 



昨日のエントリーでは、薄煕来氏が、瀋陽軍区と成都軍区に強い影響力を持っていると述べたけれど、その瀋陽軍区の人民解放軍は、シビリアンコントロールが効いておらず、北京政府の意向通りに動かない軍隊だと言われている。

更には、 瀋陽軍区は、北朝鮮に対して大きな影響力を持っていて、北朝鮮の核実験もこの瀋陽軍区が裏で手引きしているという話さえある。

中国の人民解放軍は地域を管轄する軍区を持ち、全部で7軍区ある。瀋陽軍区は、東北三省の遼寧省軍区、吉林省軍区、黒竜江省軍区と、内モンゴル自治区東部を管轄し、イメージ的には、旧満州国を統治する軍区だといえば分かり易いだろうか。

瀋陽軍区はその位置から、半島有事の際には、瀋陽軍区が対応することになっていて、北朝鮮に食料や武器を支援しているのも、この瀋陽軍区。

瀋陽軍区には、25万から45万の兵力があり、陸上部隊としては、第16集団軍、第23集団軍、第39集団軍、第40集団軍と瀋陽軍区司令部直轄部隊、更に、有事の際には大軍区隷下に加わる、武装警察第117師団と武装警察第120師団がある。

瀋陽軍区は人民解放軍の中でも精鋭と言われているのだけれど、とりわけ、大連の北、約180キロの営口に駐屯する第39集団軍は、最精鋭とされる。

人民解放軍の軍団は、精鋭の「甲類集団軍」と通常の「乙類集団軍」とに分けられているのだけれど、第39集団軍は甲類集団軍に位置づけられている。

近年、瀋陽軍区は、機械化歩兵旅団の建設を促進しているのだけれど、従来の装甲師団を改編し、スリム化、減量化を行い、快速反応能力を高めている。

第39集団軍の隷下に第190機械化歩兵旅団というのがあるのだけれど、これが特に軽機械化が進んでいて、快速反応能力が高く、朝鮮半島有事には、真っ先に対応するとされている。実際、数年前から瀋陽軍区の司令部指揮所軍事演習では、朝鮮半島全体の地図を使用していて、この第190機械化歩兵旅団は、中国陸軍の中で5本の指に入る精鋭旅団と目されている。

瀋陽軍区の母体は、朝鮮戦争にまで遡る。当時、中国は朝鮮半島に"義勇軍"を送ったのだけれど、その実体は林彪率いる第四野戦軍。この第四野戦軍は人民解放軍最強と謳われたのだけれど、その兵は朝鮮族、モンゴル族など中国少数民族が中心の「外人部隊」。彼らのうち、朝鮮族は、朝鮮戦争後も北朝鮮に残り、家庭を持つようになった。これにより、人民解放軍と北朝鮮人民軍は"同志"も同然の関係となった。

この関係は、今でも続いていて、北朝鮮は、食糧や生活必需品の調達、そして、脱北者摘発などの理由で、瀋陽軍区の幹部たちに賄賂を送り続けているという。

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更には、それだけでなく、瀋陽軍区は、北朝鮮の利権も持っている。それはレアメタル。

中国のレアメタルには、上海から輸出されるものと、大連から輸出されるものはあるのだけれど、このうち大連からのレアメタルは、北朝鮮産のレアメタルだと言われている。北朝鮮の地下資源の採掘権は細分化されており、それらが賄賂として瀋陽軍区に送られた結果、今では、北朝鮮産レアメタルのかなりの部分が瀋陽軍区の幹部家族や関係者のものになっているという。

北朝鮮にとっても、瀋陽軍区の後ろ盾は有り難いもので、北朝鮮がしばしば行なう軍事パレードで登場する、ミサイルや戦車などのほとんどは瀋陽軍区からのレンタルだとも言われている。

平壌情勢に詳しい専門家によると、金正恩は軍をコントロールできておらず、軍の実権は、叔母の金慶姫と、異母姉の金雪松氏、そして叔父の張成沢が握っており、この3人がいなければ体制を維持できないのだという。そして、この張成沢は、2007年から2012年まで、瀋陽軍区のトップを務め、現在、人民解放軍総装備部部長に昇進した、張又侠上将と太いパイプを持っている。

2013年2月に北朝鮮が3回目の核実験を行ったけれど、それを裏で手引きしたのは、瀋陽軍区の軍人だという説がある。瀋陽軍区は、アメリカに対抗する核を持ちたいのだけれど、中央政府が許さないため、北朝鮮に代理で核を造らせることで、自分たちが自由に使える核を保有する狙いがあるのだ、と。

何でも、人民解放軍の最高幹部は、毛沢東を今でも信奉していて、先般、失脚した薄熙来氏は、文革派、毛沢東回帰派の代表であったことから、共産党に強い不満を抱いているとも言われている。

このような背景から、評論家の長谷川慶太郎氏は、人民解放軍は中国共産党のコントロール下になく、中国は大分裂に向かうと予測している。

それを考えると、薄熙来氏を主席とし、毛沢東の孫である毛新宇少将を担ぎ上げた「中国至憲党」の存在は、そうした人民解放軍の不満の受け皿になる可能性は十分あると思う。

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その一方で、防衛省の防衛研究所は全く逆の見解を出している。

防衛研究所の「中国安全保障レポート2012」によると、人民解放軍は党の軍事部門であり、党中央指導部が「党の軍に対する絶対的指導」を掲げ、人民解放軍もそれを認めていることから、中国共産党の「文民統制」には全く揺らぎは無いとしている。

更に、近年は党の軍に対する絶対的指導を徹底するために、人民解放軍の連隊以上の組織に、党の委員会や支部を設置し、思想教育や人材[育成、規律検査といった「政治工作」が行われており、軍が独断的な行動に出ることはありえないと結論づけている。

ただ、軍の近代化に伴って、専門化する一方、政治指導者に戦争経験は無いことから、軍にあまり口を出さなくなっている傾向があることや、海洋権益擁護、宇宙、サイバー、電磁、災害、PKO、海賊対処等、軍に求められる役割が拡大していること。そして、任務多様化の中で政府と軍の調整場面が増加している点などを、文民統制上の課題だと指摘している。だから、まるっきり不安要素がないわけじゃない。

むしろ、筆者には、防衛研究所の指摘どおりなのであれば、北京政府及び人民解放軍が、現実世界に追い付けなくなりつつあり、「偶発的な有事」が起こってしまう危険性が高まっているのではないかとさえ感じてしまう。

いずれにせよ、頻発する国内暴動だけでなく、人民解放軍という面からみても、中国中央政府の統治力が弱まっていることは確実だといえる。やはり、日本としても、イザというときに備え、それなりの準備を整えておく必要があるだろう。

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