今日はこの話題です。



9月20日、政府は、官邸で産業競争力会議課題別会合を開催した。

これは、日本の産業の競争力強化や国際展開に向けて検討が行われている産業競争力会議の中で残された課題に対応するため、必要に応じて設けられる、特定の議題について議論を行うための会合。

今回の会議はその第一回にあたり、「農地中間管理機構(仮称)」及び「国家戦略特区」について議論されたのだけれど、その中で、国家戦略特区内での雇用の在り方についての議論に注目が集まっている。

政府案は、国家戦略特区を「新規開業事業者や海外からの進出企業などが、より優れた人材を確保できるよう、雇用制度上の特例措置を講ずるエリア」と位置づけ、より優れた人材を確保できるように、雇用制度上の特例措置を講ずるとしている。その内容は次のとおり。
<特例措置>
特区内において
・開業後5年以内の企業の事業所に対して、(2)(3)の特例措置
・外国人比率が一定比率以上(30%以上)の事業所に対して、(1)~(3)の特例措置

(1)有期雇用
・契約締結時に、労働者側から、5年を超えた際の無期転換の権利を放棄することを認める。これにより、使用者側が、無期転換の可能性を気にせず、有期雇用を行えるようにする。
   → 「労働契約法第18条にかかわらず無期転換放棄条項を有効とする」旨を規定する。

(2)解雇ルール
・契約締結時に、解雇の要件・手続きを契約条項で明確化できるようにする。仮に裁判になった際に契約条項が裁判規範となることを法定する。
   → 労働契約法第16条を明確化する特例規定として、「特区内で定めるガイドラインに適合する契約条項に基づく解雇は有効となる」ことを規定する。

(3)労働時間
・一定の要件(年収など)を満たす労働者が希望する場合、労働時間・休日・深夜労働の規制を外して、労働条件を定めることを認める。
   → 労働基準法第41条による適用除外を追加する。




1で取り上げている「無期転換」というのは、今年4月から施行されている改正労働契約法に盛り込まれたもので、契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトといった「有期労働契約」の労働者が、同じ企業で契約を更新し通算5年を超えると、本人の申し込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというもの。

これは、これまで、派遣労働者などの地位の不安定さが問題視されていたことに対する処置であり、この無期労働契約が成立すると、正社員同様、解雇する場合にはそれ相応の理由が必要となる。したがって、有期労働契約者にとっては地位の安定に繋がる制度とされている。

但し、無期転換の視覚を得るには5年が必要になるから、会社側が有期労働者を無期転換したくないと思ったら、5年経つ前に一旦、契約解除して、再契約するとか、別の人を雇用するといった"荒業"をやることも理屈の上では可能といえば可能。

これについては、今年3月に厚生労働省埼玉労働局がアンケートを実施していて、それによると、各企業の42.4%が「労働者からの申入れの段階で、無期労働契約に転換」と答え、「労働者の適正をみながら5年を超える前に無期労働契約に」の12.9%と合わせて過半数は無期転換を諒としているようだ。

尤も、「有期労働契約が通算5年を超えないように運用」と、"荒業"を使うと答えた企業も22.3%を占め、また、「他社の動向を見ながら検討する」と日和見な回答をした企業も23%いる。だから、この改正労働法によって、全ての「有期労働契約社員」の地位が保障されるようになったとは言い難い。

今回の、国家戦略特区での特例措置は、この「無期転換」を無効にしましょう、というもの。

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また、2の解雇ルールというのは、企業(使用者)の好き嫌いなどの恣意的な理由での解雇することのないよう労働者を守るために設けられたルールのことで、日本では、労働契約法16条に次のとおりに明文化されている。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
このように、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であるという理由」が必要となっている。こうしたルールは他の先進国でも同様にあって、例えば、フランスでは解雇には「真実かつ重大な理由」が必要となっていて、ドイツも「社会的に正当な場合のみ」と規定されている。

労働契約に期間の定めがない場合には、いつでも労働者を解雇することができる「随意雇用」を採用しているアメリカであってさえも、人種や性別、年齢などによる差別的な解雇は不当解雇とされており、殆どの州では、解雇に対する理由の説明を義務付けているそうだ。

また、これとは別に、企業の経営悪化などで、やむを得ず、整理解雇を行う場合があるのだけれど、日本では、判例を積み上げた結果、その判断基準として次の4要件が必要とされている。
<整理解雇の四要件>

1.人員整理の必要性
 会社の維持存続が危うい程度に差し迫った必要性が認められること、或いは、会社が客観的に高度の経営危機にあると認められること

2.解雇回避努力義務の履行
 役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等によって、整理解雇を回避するための相当の経営努力を履行していること

3.解雇する従業員選定の合理性
 解雇する従業員の人選は合理的かつ公平であること

4.手続の妥当性
 社内における説明や協議、納得を得るための手順等を踏んでいること
とこのように、判例を元に、無期雇用者に対する解雇要件が定まっているのだけれど、特に従業員数が多い大企業が、大量の整理解雇を行なう場合、これら4要件を実施することを考えると、その解雇回避努力から人選から、手続きから相当な時間と労力が必要であると思われ、下手をすると、解雇のための準備を進めている間に本当に倒産してしまったなんて洒落にもならないことが起こらないとは限らない。

その意味で、今回の特区内特例措置は、それを簡素化・明確化する狙いがあるものと思われる。

3については、割愛するけれど、会議での資料をみると、今回の雇用の特例措置について、厚生省の見解と国家戦略特区ワーキンググループの見解は鋭く対立して、全く噛み合っていない。

マスコミ報道では、さも、企業が従業員を解雇しやすい「特区」が直ぐにでもできそうなことを言っているけれど、会議の現状を考えると、纏まるまでは相当すったもんだするのではないかと思う。

仮に、もしも、こうした特区ができたとすると、企業にしてみれば、そこは終身雇用の縛りが緩い乃至は殆どない土地ということになる。先の厚労省埼玉労働局のアンケートで「有期労働契約が通算5年を超えないように運用」すると答えた企業が2割いたという結果を見る限り、やはり、少しでも経営合理化を図りたい企業はこぞって、"本社"を特区に移転させるのではないかと思われる。

また、労働者の側からみても、多くの企業の本社が特区に集中することで、逆に雇用の機会を求めて人が集まり、楽市楽座ならぬ、"楽雇用楽解雇"という場が出来上がってくるのではないかと思う。

それが良いか悪いかは別として、国家戦略特区は、これまでの日本の企業文化とは一味違った土地を生み出すかもしれない。

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