昨日のエントリーの続きです。



1.市場はQE3縮小を織り込み始めた

5月22日、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は、アメリカ議会で現在の量的緩和策(QE3)を当面継続する方針を明らかにした。ただし、雇用情勢の改善が見られた場合には、資産購入の縮小があり得るとしており、市場では年内にも量的緩和策の縮小があるのではという観測が走った。

続く、5月29日には、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁が、アメリカ経済および雇用市場は、向こう数カ月間でFRBが資産買い入れを若干縮小させるに十分なほど強くなる可能性があると述べた。

そして、6月19日に行われた連邦公開市場委員会後の記者会見で、バーナンキ議長が今後の経済状況が回復する見通しを述べ、その前提の上で、2013年後半の量的緩和策を縮小すると発言した。

7月5日には、アメリカの非農業部門の雇用者数が発表されたのだけれど、その数は、事前予想の前月対比プラス16万5千人を大きく上回る19万5千人となった。

これまで、アメリカの雇用統計発表では、予想以上に良い数字が出ると、金融緩和策の縮小を懸念して株が売られていたのだけれど、今回は雇用改善の発表されたにも拘らず、株式が買われ、ニューヨークダウ平均株価は100ドルを超える上昇となった。これは、市場が本格的な景気回復の匂いを感じ取り、金融緩和が縮小されても、アメリカ経済が回復していくと見ていることを意味してる。つまり、市場は量的緩和策の縮小を織り込んできたということ。市場関係者の一部には、早ければ、9月にも金融緩和策の縮小が開始されるとの感触を持っているという。

アメリカの金融緩和策が縮小されると何が起こるかというと、アメリカの金利水準が上昇して、日米の金利差が一段と拡大する。この金利差を狙って、ヘッジファンドなどが、円売り・ドル買いの円キャリートレードを仕掛けてくる可能性は十分にあり、そうなると、円安・ドル高の展開になることが予想される。

ヘッジファンドや投資家がドル買いのポジションを作るとなると、当然、その為の資金を用意しなければならず、いままで別の市場に投資してきた資金を引き揚げることになる。




2.マネー逆流と新興国

折しも、今の世界経済を見渡せば、中国のシャドーバンキング問題、ブラジルのインフレ、インドの双子の赤字等々、新興国での経済成長の鈍化が指摘され、これらの国から、資金を引き揚げる理由には事欠かない。これまで先進国から新興国に流れ込んでいたマネーが、逆流して先進国に戻る動きが出始めている。

7月19日からモスクワで開催された、G20財務相・中央銀行総裁会議でも、この「マネー逆流」ともいえる動きにいかに協調して対応するかが主要なテーマとなり、多くの時間が費やされた。

共同声明では、アメリカの金融緩和の縮小に伴う金融市場の混乱回避に向けて、各国が協調することが明記され、新興国からの資金流出の影響を監視する方針でも合意している。

このマネー逆流の影響については、当然アジアでも懸念され、中国や韓国の金融市場も不安定になっている。7月11~12日は、ワシントンで米中戦略経済対話が行なわれたのだけれど、会談で中国はアメリカの量的緩和縮小について、高い失業率を考えれば時期尚早だと、クレームをつけている。正に、今、バブル崩壊局面を迎えている中国にとって、外国からの投資が減ることは何としても避けたい筈だから、彼らが量的緩和縮小に反対するのも、分からない話ではない。

また、韓国は、アベノミクスによる円高是正の影響から、株価が下落。外資が株式市場から引き揚げ始めてる。

つまり、アメリカが量的緩和縮小政策を取るということは、同時に、中国のバブル崩壊を促進し、牽制する効果がある。まぁ、ただの偶然なのだろうけれど、量的緩和縮小政策は、アメリカによる対中牽制の一環だとみることも出来なくもない。

無論、アメリカの量的緩和縮小政策によるマネー逆流は、中国、韓国だけじゃなく、他の東南アジア諸国にも大きな影響を与えることはいうまでもない。

ゆえに、このタイミングで、安倍総理が東南アジア諸国を歴訪し、彼らとの経済連携を強化するのは、戦略的にも大きな意味がある。即ち、日本が特亜を外した他のアジア諸国との経済連携を強化して、アメリカの量的緩和縮小の穴埋めをしてやることがそのまま、中国や韓国に対する牽制になるということ。




3.大日本経済圏

安倍総理は、今回の歴訪で、東南アジア各国との通貨スワップを拡大する。インドネシアとは通貨スワップ規模を今の2倍水準である240億ドルに拡大。フィリピンとも8~9%程度増額した100億ドルにする予定。更には。通貨スワップが締結されていないマレーシアとシンガポール、タイとも数十億ドル規模の資金融通が可能な通貨協定を締結する予定だという。

筆者には、これらが、アメリカの量的緩和縮小と連動した動きのように見える。東南アジア諸国を日本の経済圏への引き込む戦略。日銀が金融緩和でお金を刷ったとしても、東南アジア諸国へ投資チャンスが拡大すれば、国内でお金がダブつくこともない。日本と東南アジア諸国との間でWIN-WINの関係を作ることができる。日本は、この機会に新興国への投資案件をバシバシとってくればいい。

7月25日、麻生財務相は都内で講演し、「日本の再興はアジアの開発と発展に貢献できる。…日本国民の持つ15兆ドルに上る個人金融資産を活用できる」と述べ、アジアの株式や債券で構成される投資信託を経由して日本からリスクマネーを供給できると指摘しているけれど、これも、先の動きと連動していると思われる。

そして、更には、経済だけでなく、フィリピンへの巡視船提供のように軍事面でも連携することができれば、東南アジアとの関係は確固たるものとなる。

実際、日本は、これまでの武器輸出三原則についても見直しをしようとしている。安倍総理は、従来の武器輸出三原則の見直しに前向きで、武器禁輸政策の抜本見直しに向けた議論を8月から本格化させる方針を固めているという。

防衛省はこれを受けて、26日にも公表する新防衛大綱の中間報告に新指針の策定方針を盛り込むようなのだけれど、武器輸出が解禁され、日本製の武器が周辺国などで採用されたりするのは、国内防衛産業を育成する以外にもメリットはある。

日本製の武器、或いは、そのキーパーツが日本製品だと、いざというときに、その輸出を止めることで、その武器は保守もメンテも更新もできなくなる。肝心要の武器の供給の元栓を日本自身が握ることは、安全保障の一部でもある。

これらを考えると、安倍総理はセキュリティ・ダイヤモンド構想を、経済・軍事両面で着々と進めており、間接的にアメリカも金融緩和縮小によって、それをバックアップしているように見える。

果たしてこれが、アメリカと日本とで互いに示し合わせてやっているのかどうかは分からない。だけど、結果としてそのような効果を挙げることになると思う。

大きな戦略が動き出している。




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