「作業で国民の命は守れないんですよ。そんないい加減な答弁駄目ですよ!」


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4月3日、参院予算委員会で、国防に関する重要な発言があった。

これは、自民党の佐藤正久議員が、既に200基配備されているともいわれている、北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」から、どうやって日本を守り切るかとの質問に対し、田中直紀防衛相が今の防衛体制では、全国土において守り切ることは出来ないという答弁。

防衛大臣が、自国の国土を守れないと明言する。ちょっと聞いただけではトンデモない発言にも聞こえるのだけれど、非常に"正直"な発言であって、今の日本の国防の現実を衆目に曝け出した重要な発言。

この答弁を聞いた佐藤正久議員は、平成24年度の防衛予算は欠陥予算なのか、国民の命を守りきれないと言った手前、どうするのか、と至極当然の質問をしたのだけれど、それに対して田中防衛相は、中期防衛計画を着実に実施すると答え、中計を実施することで守れるようになると答えると思いきや、それでも全部守れるわけではないという。

では、中期計画をやっても守れないのであれば、中期計画そのものを見直すべきではないか、と佐藤正久議員が畳み掛けると、本当に見直すかどうかはこれからの判断だという。

現在の国防体制及び、中期計画で国土を全部守れるわけではないと分かっているのに、計画を見直すのかどうか分からないという。これはロジック的には、軍事力を中心とした国防以外の方法で国土を完全に守れるという担保があるか、或いは、元々、国土を守る気が元々ないかのどちらか。

後者については論外だとしても、前者が成立するためには、ミサイルの射程距離内にある隣国が全て友好国で、仮想敵国を設定する必要が全くないか、類まれなる外交力か何かを発揮して、仮想敵国の攻撃を完全に封じ込めている場合くらいしか考えらない。

だけど、今の日本の現状は、そんな想定は全く成り立たない。日本にミサイルを向けている隣国が現にあるし、現政権が、類まれなる外交力で、北朝鮮のミサイル発射を止めさせることも出来てない。

本当であれば、折角、田中防衛相が、今の日本の国防体制では、国民の命を守り切ることはできないと、"正直"に白状してくれているのだから、マスコミは勿論のこと、国民が現実に目覚めて、ちゃんと防衛できるようにしろと世論が盛り上がらなくちゃいけない。特に、何かにつけて、政府に命を守れ、人権を守れと主張する、人権団体は先頭を切ってデモでもなんでもして、世論をリードしなければならない筈。

今回の北朝鮮のミサイル発射に備えて、政府は、ミサイルが上空を通過すると見られる沖縄県には、迎撃用の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が配備する。それに伴って、自衛官が石垣島に450人、宮古島に200人、本島の航空自衛隊那覇基地と知念分屯基地(南城市)に各100人配置される。また、PAC3が配備されない与那国にも陸上自衛官ら50人が入る予定になっている。



このPAC3が迎撃しようとしている、いわゆる弾道ミサイルとは、如何なる兵器なのか。

弾道ミサイルとは、爆薬等を詰めた弾頭をロケット推進で標的への軌道へ乗せた後、慣性運動で標的に命中させる兵器のこと。弾道ミサイルは、その飛行状況によって、3つのフェイズに分けられる。それは以下のとおり。
1.ブースト・フェイズ
2.ミッドコース・フェイズ
3.ターミナル・フェイズ

ブースト・フェイズとは、弾頭が発射後にロケット推進で加速している段階のことで、当然加速中であるから、ミサイル速度は比較的低速であり、弾頭が切り離される前で、ロケット本体と繋がっているから、サイズが大きい。従って迎撃も比較的容易。

ミッドコース・フェイズとは、ロケット推進が終わり、弾頭分離型ミサイルであれば、弾頭をロケットから切り離して、大気圏外、すなわち宇宙空間を慣性で移動している段階のこと。ロケット推進が終わっているから、弾頭の軌道は物理法則に従って放物線を描く。

ターミナル・フェイズとは、 弾道が大気圏に再突入して、標的目掛けて高速落下してくる段階。重力を利用して空から降ってくるので、時間と共にどんどん加速され、この段階の弾道の速度は概ねマッハ10を越える。

こうした段階を得て向かってくる、弾道ミサイルに対して、現在、それぞれのフェイズについての迎撃手段が用意されている。

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まず、ブースト・フェイズにおける迎撃手段の手段として、エアボーン・レーザー(ABL:Airborne Laser) や、大型対空ミサイル(KEI:Kinetic Energy Interceptor) がある。

エアボーン・レーザーとはその名の通り、レーザー光線のことで、これを上昇中の弾道ミサイルの推進剤タンク辺りの外板に照射して温める。飛行中の弾道ミサイルの機体には、内側からはロケットモーターの高温高圧が掛かり、外側には空力荷重と空力加熱が掛かっていて、非常にセンシティブな状態にある。そこへ高エネルギーレーザーを当てることで、ミサイル機体強度を低下させ、ミサイルの機能不全を引きおこし、あわよくば自爆までを狙った兵器。

ただ、エアボーン・レーザーは、まだ開発段階で実戦配備には至っていないことと、エアボーン・レーザーを使うためには、ミサイル発射直後を狙うため、相手国の領空に侵入しなければならないケースが多く、運用上いくつかの問題がある。

それに対して、大型対空ミサイル(KEI)は、相手の弾道ミサイルに自身が直撃することで破壊する兵器ではあるものの、
また、地上又は艦船から発射できることから、運用しやすいメリットがある。

そして、ミッドコース・フェイズにおける迎撃手段としては、先程の大型対空ミサイル(KEI)と同じく、自身をぶつけることで破壊する、地対空、又は艦対空ミサイルがある。日本は、SM3と呼ばれる、スタンダードミサイルを運用・配備している。現在運用している、SM3のブロック1Aシリーズは、4段ロケット構造で、射程400km、上昇限度250km程度とされている。

SM3-ブロック1Aは、3段目までのロケットを使って大気圏外まで上昇し、そこで、4段目の弾頭を露出させる。この弾頭には、長周波赤外線シーカーが搭載されていて、目標物に対して、自身の姿勢および針路を修正して、目標物に命中し、破壊する。日本では、こんごう型イージス艦が、このブロック1Aを運用している。

最後に、ターミナル・フェイズにおける迎撃手段が、先程取り上げた、PAC3。PAC3もSM3と同じく、自ら弾頭に直撃して破壊する対空ミサイルで、射程は20kmから30km程度とされる。従って、PAC3を配備しても、広範囲をカバーできるわけではなくて、本当に重要な拠点を防衛するのにしか使えない。

今のところ日本は、相手国からのミサイル攻撃に対しては、SM3とPAC3の2段構えの防衛体制を取っているのだけれど、これで果たして、北朝鮮の200発のノドンを全部撃ち落せるのか。



日本政府は、SM3とPAC3の配備数を公表してはいないけれど、2004年10月22日の衆院安全保障委員会で、自民党の寺田稔議員が、SM3の配備数について、「現在のイージスのベースライン7の技術水準を前提にして、それにイージスシステムを付加する、一艦八発体制という前提の予算かと思います。」と述べている。

仮に、一艦八発体制が本当だとすると、日本が持つイージス艦は6隻だから、全部でSM3が48発あることになる。だけど、これはノドン200発に対して4分の1以下の数しかない。これでは、もしも、ノドンを200発一斉発射されたら、SM3の命中率が100%でも、150発以上残ってしまう。では、この150発をPAC3で全部撃ち落せるのか。

空自には、PAC3を配備・運用する高射隊というのがあるのだけれど、現在、4個高射隊を一組とする高射群が全国で6群の計24高射隊がある。

1個高射隊にはPAC3用の発射機が2基配備され、発射機1基対して、16発のPAC3が搭載されている。つまり、1個高射隊に32発のPAC3があるのだけれど、それが24個高射隊だから、数だけでは、合計768発のPAC3があることになる。

だけど、通常、各高射隊は全国に分散配置されていて、PAC3の射程から、実際は、高射隊を配備している基地又は駐屯地周辺しか守れない。

それに、一口に迎撃と言っても、マッハ10以上で落下してくる弾道ミサイル相手だと、一度迎撃に失敗するとそこで終わり。再発射する余裕はない。だから迎撃時には、複数のPAC3をひとつの目標に対して発射して命中率を高めようとすることがある。

こうしたことを考えると、200発どころか、100発くらいのノドンを、高射隊がいない地域に対して無差別に発射されてしまったら、事実上撃ち落せない。理屈の上では、ノドンの配備数を上回る数、つまり200発以上のSM3を配備できるだけのイージス艦を揃えるか、全国各地に20kmごとにPAC3の高射隊をひとつづつ配備しないと防衛できないことになる。これは殆ど無理な話。

だから、その意味では、田中防衛相の「全国土において守り切ることは出来ない」発言は正しい。だから、国民もその冷酷な事実を知った上で、国防というものを考える必要があると思う。

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