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今日は、以前、コメント欄にて白なまずさんからリクエストのありました、海底資源とその調査技術についての記事をエントリーします。
1.海底資源を養殖する
3月23日、独立行政法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、沖縄県沖の水深1000メートルの海底に人工的に開けた熱水の噴出孔からレアメタルを豊富に含む鉱物資源の採取に成功したと発表した。
海底の一部には、高温の熱水が噴き出す「高温熱水活動域」と呼ばれる場所があり、現在340カ所でその存在が確認されている。
高温熱水活動域では、マグマや高温の岩石が存在する場所に海水が浸み込むことで、マグマや岩石の成分が溶け込んだ高温熱水が出来上がるのだけど、場所によっては、その高温熱水が吹き出す所がある。これを熱水噴出孔という。この熱水噴出孔が地上にできたのが、いわゆる「温泉」。
海底熱水噴出孔から吹き出す熱水は300℃以上あり、中には400℃にも達するものがあるのだけれど、噴出孔が海底にあるために、その水圧によって、熱水はこの温度でも沸騰しない。
超高温の熱水に溶解している鉱物は、海底の0℃に近い海水に触れると、その境界で化学反応が起こって、黄銅鉱(CuFeS2)や閃亜鉛鉱(ZnS)といった生成物が析出・沈殿して、チムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがある。
チムニーの断面は、熱水の通り道である中央空洞部の周りに黄銅鉱、その外側に閃亜鉛鉱、黄鉄鉱というように鉱物が不連続な帯状の構造(累帯構造 zonal structure)を取っていて、チムニーの周辺には超好熱菌という100℃以上の高温環境を好む微生物や、熱水中の硫黄やメタンをエネルギー源として生育する微生物、さらにそれらを体内に飼って、微生物が作る有機物を利用するチューブワームや貝などの特異な生物群が存在する。
海洋研究開発機構は、この熱水噴出孔の下に存在する生命圏をコアサンプルとして採取・詳細調査し、微生物群集の数や種類、生息環境など、熱水微生物生態系の実体解明を行う研究を行っている。
2010年9月、海洋研究開発機構の掘削船「ちきゅう」は、沖縄本島から北西150キロの中部沖縄トラフの水深1000メートルにある、深海底熱水活動域(伊平屋北熱水活動域)の掘削調査を行っている。
この切削調査は、まず掘削船「ちきゅう」が海底に深さ100m以上に及ぶ孔(掘削孔)を開けた後、ケーシングというステンレス鋼で出来た、直径約10cmのストロー状のパイプを埋没させることで行われた。ケーシング処理を行う理由は、掘削孔が地崩れなどで埋まることを防ぐと同時に、地中奥深くを流れる熱水を海底面まで吹き上がらせる役目も果たせるからで、その意味では、ケーシングは人工の熱水噴出孔の設置だとも言える。
この海洋研究開発機構のケーシングシステム(カンダタ・システムというらしい…雲の糸ですね)は、掘削孔内で採取資料を入れる容器を密閉できるようになっていて、採取した試料を海上の船に持ち上げるまでに、海水や空気が混ざることがないようになっている。また、通常の掘削は、その場限りのサンプル回収になるのに対して、ケーシングされた掘削孔は半永久的にそこにあるので、何度もサンプルを回収できるという利点もある。
掘削船「ちきゅう」は2010年9月の掘削調査で、伊平屋北熱水活動域の4ヶ所に人工熱水噴出孔を設置したのだけれど、僅か半年後の2011年2月に、その人工熱水噴出孔に6mを超えるチムニーが新たに形成されていることが分かった。
海洋研究開発機構は、このチムニーを採取しようとしたのけれど、失敗し、チムニーは崩壊してしまったのだけれど、更に半年後の2011年の8月から9月にかけて行われた調査では、崩壊したチムニーが8mを超えるほどに再成長していることを確認している。このことから、海洋研究開発機構は人工熱水孔におけるチムニーは短期間で急速に成長するとしている。
海洋研究開発機構は、この調査で、2つの人工熱水孔で形成されたチムニーの採取に成功し、成分分析を行ったところ、一つの人工熱水孔(C0016B孔)のチムニーは、閃亜鉛鉱・ウルツ鉱・方鉛鉱・黄銅鉱を主成分とし、もう一つの人工熱水孔(C0013E孔)のチムニーは、硬石膏を主成分とし、黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱・ウルツ鉱も含む組成であることが分かった。それが今回の発表。
閃亜鉛鉱とは鉄分や少量のカドミウムを含んだ硫化亜鉛であり、等軸晶系の結晶構造を持つ。これに対して、組成が同じで、結晶構造が六方晶系になったものをウルツ鉱という。また、方鉛鉱とは、極微量(数百ppm)程度の銀や、金、ビスマス、アンチモン、テルルなどを含んだ、硫化鉱物。
黄銅鉱は、銅や鉄、硫黄を含んだ硫化鉱物で、微量の金、銀、錫、亜鉛を含み、中には、少量のニッケルやセレンを含むものもあり、硬石膏(こうせっこう)は、硫酸カルシウムを主成分とする硫酸塩鉱物の一つ。
半ば偶然かもしれないけれど、人工熱水孔によって、こうしたレアメタルを含むチムニーを短期間で生成できることが分かったのは大きなこと。なにせ、掘削してケーシングさえしておけば、半年もしたら、ザクザクと鉱物が涌いてくれるのだから、こんな楽なことはない。資源を探して採るのではなくて、育てて採る。
海洋機構の高井研上席研究員によると、掘削した際に孔の周囲に台座を設置しておいて、船で定期的に台座ごと堆積した鉱物を引き揚げれば、海底資源を効率良く回収できるという。人工熱水孔は低コストでの資源採取の有力な手段の一つになるかもしれない。
2.そして「しんかい12000」へ
人工熱水孔を作れば、勝手に鉱物が採取できるとはいえ、人工熱水孔を作る以上、そこに、新たな熱水を噴出させることには変わりなく、周辺の生態系への影響も懸念される。特に、海外では海底掘削により熱水の噴出状況や性質が変わり、生態系に壊滅的な影響を及ぼしたのではないかと疑われている事例もあるらしく、本格的に開発に乗り出すときには、慎重な検討が求められる可能性がある。
だげど、今のところ、深海底の資源開発が生態系に及ぼす影響の実証的な研究例は、世界的に見てもまだ殆どないのが現状で、実際にどういう影響を及ぼすかについては、長期間のモニタリングデータが必要になる。
従って、単に、人工熱水孔を作る技術だけあれば良いという訳ではなくて、海底の生態系を詳しく調査できる技術も同時に求められることになると思われる。
日本が有人の深海潜水調査船の開発に着手したのは1965年頃まで遡るのだけれど、1963年10月、海洋科学技術審議会にて、海洋科学技術開発の重点目標が定められた。
当時、将来の開発が期待されていた、海底のマンガン団塊は水深4000から6000mに多く存在していたことと、世界の海洋の95%以上が水深6000m程度であったことから、潜水調査船の目標深度は6000mとされ、耐圧殻の構造・材料・工作法、浮力材、動力装置、位置計測装置、各種の調査研究機器の開発が技術課題とされ、また、高圧試験用の水槽建設も必要とされた。
1970年になると、日本舶用機器開発協会内に「6000m級深海潜水調査船の開発研究委員会」が設置され、造船会社と共同で5年間にわたる研究開発が始められたのだけれど、実績もない状態で、いきなり6000m級の深海潜水艇を建造するのはリスクが大きいということから、まず2000m級の深海潜水艇を建造し、建造技術と運航技術を確立することとなった。こうして生まれたのが、「しんかい2000」。
1981年に完成した「しんかい2000」は、2004年3月の運用停止までの25年間で、総潜航回数1411回を数え、様々な調査や技術的ノウハウをもたらした。
「しんかい2000」の成果を元に、「しんかい6500」の建造が行われるのだけれど、「しんかい6500」の開発において、最大潜航深度が6000mから6500mに変更された。これは、三陸沖地震の震源が日本海溝の水深6000から6500mの海域にあると指摘されたことから、6500m以上の潜航深度が求められたのだけれど、当時の耐圧殻の安全率では、限界深度が6700m程度になることと、各種機器の耐圧試験で、6500mを越えるあたりで不具合が多くでるものがあったことから、最終的に最大潜航深度は6500mと定められた。
その意味では、「しんかい6500」の最大潜航深度6500mというのは、技術的には、結構ギリギリ一杯近いところであると思われる。
それでも、「しんかい6500」は1990年6月の初潜航以来、1100回以上の潜航実績を誇り、20年以上の無事故で運用している。これは深海という苛酷な環境下で運用する深海潜水艇としては驚嘆すべきことだと思う。
「しんかい6500」の開発・運用スタッフは、設計開発時から携わってきたベテランと若手が協力し、長年の運用を通じて、阿吽の呼吸で、整備・運用ができるレベルにまで高められており、それが今の「しんかい6500」の運用を支えている。
現在、他国では、新しい有人深海潜水艇の開発が進められている。アメリカでは、6500m級新アルビン潜水艇の開発が進んでいるし、中国は7000m級有人潜水艇「蛟竜号」が開発され、今年中に水深7000mでの潜水テストを行うと発表している。
対する日本は、「自律型無人潜水艇(AUV)」や「遠隔操作型無人潜水艇(ROV)」の開発計画はあるものの、次世代有人潜水艇の開発計画はない。
海洋研究開発機構によれば、次に目指すべき有人深海潜水艇は、水深12000mまで潜れる「しんかい12000」だという。そこには、現在知られている世界最深部である11000m以外にも未知の深海があるかもしれないという期待が込められている。
実際、昨年の東北地方太平洋沖地震の震源域である日本海溝の水深5350mの海底に新しく大きな亀裂が出来ていることを「しんかい6500」が発見している。だけど、日本海溝の最深部は水深8000mあり、日本のEEZ内での最深部は、伊豆・小笠原海溝の水深約10000mとされる。
ただ、深海の調査だけであれば、別に有人でなくてもロボットの無人潜水艇でもいいじゃないかとも、思ったりもするのだけれど、「しんかい2000」や「しんかい6500」で実際に潜ったパイロットは、深海には人間が行くべきだという。
無人潜水艇では観測目的に合わせて搭載したセンサーが捉えた情報以外のものは捉えらないけれど、優れた研究者が直接、深海に行けば、予想外の現象を感じ取ることが出来るのだ、と。
だけど、これまで日本が苦労して蓄積してきた深海探査のノウハウを持つベテラン技術者が続々と定年を迎え、その技術の継承ができなくなる危機を迎えつつある。
アメリカの6500m級新アルビン潜水艇の開発にしても、開発そのものは2002年から始まっていたのだけれど、新潜水艇の建造が30年ぶりということもあって、耐圧殻を製造する技術が失われてしまっていた。水深6500mの耐圧殻が完成したのは、つい最近になってからなのだそうだ。
だから、日本の折角の深海探査技術もここで途絶えさせてしまったら、また復活までに多大な時間を要することになる。政府も日本が技術立国であると思うのであれば、こうした技術開発に目を向け予算を振り分ける努力が必要だろうと思う。
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今日は、以前、コメント欄にて白なまずさんからリクエストのありました、海底資源とその調査技術についての記事をエントリーします。
1.海底資源を養殖する
3月23日、独立行政法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、沖縄県沖の水深1000メートルの海底に人工的に開けた熱水の噴出孔からレアメタルを豊富に含む鉱物資源の採取に成功したと発表した。
海底の一部には、高温の熱水が噴き出す「高温熱水活動域」と呼ばれる場所があり、現在340カ所でその存在が確認されている。
高温熱水活動域では、マグマや高温の岩石が存在する場所に海水が浸み込むことで、マグマや岩石の成分が溶け込んだ高温熱水が出来上がるのだけど、場所によっては、その高温熱水が吹き出す所がある。これを熱水噴出孔という。この熱水噴出孔が地上にできたのが、いわゆる「温泉」。
海底熱水噴出孔から吹き出す熱水は300℃以上あり、中には400℃にも達するものがあるのだけれど、噴出孔が海底にあるために、その水圧によって、熱水はこの温度でも沸騰しない。
超高温の熱水に溶解している鉱物は、海底の0℃に近い海水に触れると、その境界で化学反応が起こって、黄銅鉱(CuFeS2)や閃亜鉛鉱(ZnS)といった生成物が析出・沈殿して、チムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがある。
チムニーの断面は、熱水の通り道である中央空洞部の周りに黄銅鉱、その外側に閃亜鉛鉱、黄鉄鉱というように鉱物が不連続な帯状の構造(累帯構造 zonal structure)を取っていて、チムニーの周辺には超好熱菌という100℃以上の高温環境を好む微生物や、熱水中の硫黄やメタンをエネルギー源として生育する微生物、さらにそれらを体内に飼って、微生物が作る有機物を利用するチューブワームや貝などの特異な生物群が存在する。
海洋研究開発機構は、この熱水噴出孔の下に存在する生命圏をコアサンプルとして採取・詳細調査し、微生物群集の数や種類、生息環境など、熱水微生物生態系の実体解明を行う研究を行っている。
2010年9月、海洋研究開発機構の掘削船「ちきゅう」は、沖縄本島から北西150キロの中部沖縄トラフの水深1000メートルにある、深海底熱水活動域(伊平屋北熱水活動域)の掘削調査を行っている。
この切削調査は、まず掘削船「ちきゅう」が海底に深さ100m以上に及ぶ孔(掘削孔)を開けた後、ケーシングというステンレス鋼で出来た、直径約10cmのストロー状のパイプを埋没させることで行われた。ケーシング処理を行う理由は、掘削孔が地崩れなどで埋まることを防ぐと同時に、地中奥深くを流れる熱水を海底面まで吹き上がらせる役目も果たせるからで、その意味では、ケーシングは人工の熱水噴出孔の設置だとも言える。
この海洋研究開発機構のケーシングシステム(カンダタ・システムというらしい…雲の糸ですね)は、掘削孔内で採取資料を入れる容器を密閉できるようになっていて、採取した試料を海上の船に持ち上げるまでに、海水や空気が混ざることがないようになっている。また、通常の掘削は、その場限りのサンプル回収になるのに対して、ケーシングされた掘削孔は半永久的にそこにあるので、何度もサンプルを回収できるという利点もある。
掘削船「ちきゅう」は2010年9月の掘削調査で、伊平屋北熱水活動域の4ヶ所に人工熱水噴出孔を設置したのだけれど、僅か半年後の2011年2月に、その人工熱水噴出孔に6mを超えるチムニーが新たに形成されていることが分かった。
海洋研究開発機構は、このチムニーを採取しようとしたのけれど、失敗し、チムニーは崩壊してしまったのだけれど、更に半年後の2011年の8月から9月にかけて行われた調査では、崩壊したチムニーが8mを超えるほどに再成長していることを確認している。このことから、海洋研究開発機構は人工熱水孔におけるチムニーは短期間で急速に成長するとしている。
海洋研究開発機構は、この調査で、2つの人工熱水孔で形成されたチムニーの採取に成功し、成分分析を行ったところ、一つの人工熱水孔(C0016B孔)のチムニーは、閃亜鉛鉱・ウルツ鉱・方鉛鉱・黄銅鉱を主成分とし、もう一つの人工熱水孔(C0013E孔)のチムニーは、硬石膏を主成分とし、黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱・ウルツ鉱も含む組成であることが分かった。それが今回の発表。
閃亜鉛鉱とは鉄分や少量のカドミウムを含んだ硫化亜鉛であり、等軸晶系の結晶構造を持つ。これに対して、組成が同じで、結晶構造が六方晶系になったものをウルツ鉱という。また、方鉛鉱とは、極微量(数百ppm)程度の銀や、金、ビスマス、アンチモン、テルルなどを含んだ、硫化鉱物。
黄銅鉱は、銅や鉄、硫黄を含んだ硫化鉱物で、微量の金、銀、錫、亜鉛を含み、中には、少量のニッケルやセレンを含むものもあり、硬石膏(こうせっこう)は、硫酸カルシウムを主成分とする硫酸塩鉱物の一つ。
半ば偶然かもしれないけれど、人工熱水孔によって、こうしたレアメタルを含むチムニーを短期間で生成できることが分かったのは大きなこと。なにせ、掘削してケーシングさえしておけば、半年もしたら、ザクザクと鉱物が涌いてくれるのだから、こんな楽なことはない。資源を探して採るのではなくて、育てて採る。
海洋機構の高井研上席研究員によると、掘削した際に孔の周囲に台座を設置しておいて、船で定期的に台座ごと堆積した鉱物を引き揚げれば、海底資源を効率良く回収できるという。人工熱水孔は低コストでの資源採取の有力な手段の一つになるかもしれない。
2.そして「しんかい12000」へ
人工熱水孔を作れば、勝手に鉱物が採取できるとはいえ、人工熱水孔を作る以上、そこに、新たな熱水を噴出させることには変わりなく、周辺の生態系への影響も懸念される。特に、海外では海底掘削により熱水の噴出状況や性質が変わり、生態系に壊滅的な影響を及ぼしたのではないかと疑われている事例もあるらしく、本格的に開発に乗り出すときには、慎重な検討が求められる可能性がある。
だげど、今のところ、深海底の資源開発が生態系に及ぼす影響の実証的な研究例は、世界的に見てもまだ殆どないのが現状で、実際にどういう影響を及ぼすかについては、長期間のモニタリングデータが必要になる。
従って、単に、人工熱水孔を作る技術だけあれば良いという訳ではなくて、海底の生態系を詳しく調査できる技術も同時に求められることになると思われる。
日本が有人の深海潜水調査船の開発に着手したのは1965年頃まで遡るのだけれど、1963年10月、海洋科学技術審議会にて、海洋科学技術開発の重点目標が定められた。
当時、将来の開発が期待されていた、海底のマンガン団塊は水深4000から6000mに多く存在していたことと、世界の海洋の95%以上が水深6000m程度であったことから、潜水調査船の目標深度は6000mとされ、耐圧殻の構造・材料・工作法、浮力材、動力装置、位置計測装置、各種の調査研究機器の開発が技術課題とされ、また、高圧試験用の水槽建設も必要とされた。
1970年になると、日本舶用機器開発協会内に「6000m級深海潜水調査船の開発研究委員会」が設置され、造船会社と共同で5年間にわたる研究開発が始められたのだけれど、実績もない状態で、いきなり6000m級の深海潜水艇を建造するのはリスクが大きいということから、まず2000m級の深海潜水艇を建造し、建造技術と運航技術を確立することとなった。こうして生まれたのが、「しんかい2000」。
1981年に完成した「しんかい2000」は、2004年3月の運用停止までの25年間で、総潜航回数1411回を数え、様々な調査や技術的ノウハウをもたらした。
「しんかい2000」の成果を元に、「しんかい6500」の建造が行われるのだけれど、「しんかい6500」の開発において、最大潜航深度が6000mから6500mに変更された。これは、三陸沖地震の震源が日本海溝の水深6000から6500mの海域にあると指摘されたことから、6500m以上の潜航深度が求められたのだけれど、当時の耐圧殻の安全率では、限界深度が6700m程度になることと、各種機器の耐圧試験で、6500mを越えるあたりで不具合が多くでるものがあったことから、最終的に最大潜航深度は6500mと定められた。
その意味では、「しんかい6500」の最大潜航深度6500mというのは、技術的には、結構ギリギリ一杯近いところであると思われる。
それでも、「しんかい6500」は1990年6月の初潜航以来、1100回以上の潜航実績を誇り、20年以上の無事故で運用している。これは深海という苛酷な環境下で運用する深海潜水艇としては驚嘆すべきことだと思う。
「しんかい6500」の開発・運用スタッフは、設計開発時から携わってきたベテランと若手が協力し、長年の運用を通じて、阿吽の呼吸で、整備・運用ができるレベルにまで高められており、それが今の「しんかい6500」の運用を支えている。
現在、他国では、新しい有人深海潜水艇の開発が進められている。アメリカでは、6500m級新アルビン潜水艇の開発が進んでいるし、中国は7000m級有人潜水艇「蛟竜号」が開発され、今年中に水深7000mでの潜水テストを行うと発表している。
対する日本は、「自律型無人潜水艇(AUV)」や「遠隔操作型無人潜水艇(ROV)」の開発計画はあるものの、次世代有人潜水艇の開発計画はない。
海洋研究開発機構によれば、次に目指すべき有人深海潜水艇は、水深12000mまで潜れる「しんかい12000」だという。そこには、現在知られている世界最深部である11000m以外にも未知の深海があるかもしれないという期待が込められている。
実際、昨年の東北地方太平洋沖地震の震源域である日本海溝の水深5350mの海底に新しく大きな亀裂が出来ていることを「しんかい6500」が発見している。だけど、日本海溝の最深部は水深8000mあり、日本のEEZ内での最深部は、伊豆・小笠原海溝の水深約10000mとされる。
ただ、深海の調査だけであれば、別に有人でなくてもロボットの無人潜水艇でもいいじゃないかとも、思ったりもするのだけれど、「しんかい2000」や「しんかい6500」で実際に潜ったパイロットは、深海には人間が行くべきだという。
無人潜水艇では観測目的に合わせて搭載したセンサーが捉えた情報以外のものは捉えらないけれど、優れた研究者が直接、深海に行けば、予想外の現象を感じ取ることが出来るのだ、と。
だけど、これまで日本が苦労して蓄積してきた深海探査のノウハウを持つベテラン技術者が続々と定年を迎え、その技術の継承ができなくなる危機を迎えつつある。
アメリカの6500m級新アルビン潜水艇の開発にしても、開発そのものは2002年から始まっていたのだけれど、新潜水艇の建造が30年ぶりということもあって、耐圧殻を製造する技術が失われてしまっていた。水深6500mの耐圧殻が完成したのは、つい最近になってからなのだそうだ。
だから、日本の折角の深海探査技術もここで途絶えさせてしまったら、また復活までに多大な時間を要することになる。政府も日本が技術立国であると思うのであれば、こうした技術開発に目を向け予算を振り分ける努力が必要だろうと思う。
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コメント
コメント一覧 (4)
技術開発の部門は本当に人が少なく高齢化している.
問題は産業界との協力が不十分な所にある.
今回の記事でも出てくる研究チームは
基本的に海洋研究チームであり, 彼らでは
実際に資源を取り入れる技術開発ができない.
別に熱水チムニーに限らず, 深海底には
多くの鉱物資源が堆積しているから,
表面を剥ぎとるだけでも良い.
遠隔操作の深海無人作業ロボットを開発するには
広く産業会を巻き込んだ体制作りが重要.
しかし, 独立研究所の青山氏の話では,
産業界が資源探査におよび腰のようだ.
本当は日本海が資源の山(?)だが,
タブーになっているから太平洋の水中をやる.
本来なら, 地球号はマントル作戦に従事
していなければならない筈だが.
【幸福の近道】
http://terukomatsubara.jp/
「ブラック・スモーカー」「ヒバリガイ」・・・今日も海のお話
★2014年7月25日(金)
「ブラック・スモーカーに注意しなさい」
こんな声が原稿用紙に向かうなり聞こえて来ました。
「東シナ海のブラック・スモーカーの温度が上昇し始めている」
とも言っておられるような気がしましたが、そもそもブラック・スモーカーなる言葉を初めて耳にしたため、原稿用紙の上に慌ててこの言葉を忘れないように書きとめました。
「ヒバリガイが動いた」
どんな生物なのだろう。
伊豆小笠原の海の中ってきれいだろうなぁ~。
何を書いているのかわからないが、今日は意味不明ながらつらつらと書いていくことにいたします。
「温水湧出 火山活動 伊豆小笠原」
「しんかい頑張れ」
しんかいってもしかしたら潜水調査船のことかもしれません。
相模湾 駿河湾 それと伊豆・小笠原諸島海域を今一度調査すると成果を上げるという声が今聞こえました。
「プレートの潜り込みに注意」
「音響測深装置でも今なら変化がわかる」
日本が手にしている海には銅・鉛・亜鉛がいっぱいあるそうです。
「資源」がいくらあっても海の中では中々手にすることは難しいかもしれませんが、熱水に溶けた金属類が冷えて固まる現象を研究すると手に入るとも言っておられます。
こんなお話を聞きながら人間が海を汚さないか心配になってしまったのですが、海水の中でこの行為を静かに行う限り海は怒らないとも話されました。
静かに この言葉は私には重く響きました。
資源といっても地球のものなのですものネ。
沖縄トラフで最大の熱水たまり確認
掲載日:2014年7月28日
海洋研究開発機構は7月26日、沖縄本島の北西約150kmの沖縄トラフの伊平野北(いへやきた)海丘に東西2km以上、南北3km程度の熱水たまりを確認したと発表した。地球深部探査船「ちきゅう」が7月14~25日に同海域で実施した科学掘削調査の結果を速報したもので、沖縄海域で見つかった中では最大の海底熱水域といえる。
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http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20140726/
プレスリリース
2014年 7月 26日
独立行政法人海洋研究開発機構
地球深部探査船「ちきゅう」による
「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削」について(航海終了報告)
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、戦略的イノベーション創造プログラム(※1 SIP)の課題「次世代海洋資源調査技術」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)における「海洋資源の成因に関する科学的研究」(研究代表者:鈴木 勝彦、JAMSTEC海底資源研究開発センター資源成因研究グループリーダー)の一環として、沖縄海域での科学掘削調査を実施しました。