燃料電池も段々身近なものになってきているようです。
1.水から発電する燃料電池
水を原料にして充電できるモバイルバッテリーが、フィンランドで開発された。これは、フィンランドの燃料電池メーカー「myFC」が開発・発表した「PowerTrekk(パワートレック)」というポータブル充電器。iPhone、iPadなどにも対応可能で、2012年春を目処に日本および北米、ヨーロッパで順次発売するという。
「PowerTrekk」は大きなコンタクトレンズケースにお洒落な蓋をしたような外観をしているのだけれど、大きさは127mm×66.5mm×45mmというから、メガネケースくらいだろうか。
「PowerTrekk」本体は水タンクと燃料電池に分離していて、更に、通常のバッテリも内臓されている。燃料電池の出力は4Wh、バッテリの出力は1500mAh/5.6Whで、並列出力が可能。出力はUSBバスから供給される。
このうち、水で発電するのは燃料電池の部分で、燃料電池のフタを開けて、中に少しの水を注ぐと、その水分で発電する。「iPhone」くらいであれば、スプーン1杯の水でフルチャージができるそうだ。しかも、使用する水は水道水でも川の水でも海水でもオーケーというから、災害用やアウトドアなどで役に立つと思われる。
燃料電池は、水の電気分解と逆の原理で発電する。水に電気を流すと水素と酸素にそれぞれ分解されるのだけれど、燃料電池はその逆で、水素と酸素を電気化学反応させて電気を作り出す。
燃料電池は、プラス電極(空気極)とマイナス電極(燃料極)で電解質を挟んだセルと呼ばれる板状の物を沢山積み重ねて作られている。
空気極と燃料極には、数多くの細い溝が掘られていて、気体を通す構造をしているのだけれど、空気極に酸素が、燃料極に水素が通ると、燃料極は、水素を取り込んで、陽イオン化した水素を電解質に放出し、空気極は酸素を取り込み、燃料極から電解質に流れ込んだ水素の陽イオンと反応して水になる。
このとき、燃料極では、水素が陽イオン化する過程で電子を放出し、空気極では、逆に酸素が電子の供給を受けて水素の陽イオンと反応する。電解質はイオンしか通さないので、燃料極と空気極を電線で繋いでやれば、燃料極で発生した電子は、電線を伝って空気極に行き、空気極側で化学反応する。つまり、個々の極での化学反応によって電子が授受され、発電するというのが燃料電池の原理。
ただ、燃料電池で発電するためには、水素と酸素が必要になるのだけれど、酸素は空気中のものを利用するとしても、水素が空気中に発電できるほどあるわけじゃない。だから、何らかの方法で水素を別に作ってやる必要がある。
「PowerTrekk」は水での発電中は本体を外気に触れさせておく必要があるということだから、おそらく、燃料電池による発電をしていると思われるのだけれど、どうやって水素を供給しているのか。
その仕組の詳細は分からないけれど、考えられるとすれば、ナトリウムやカルシウムのような、アルカリ金属やアルカリ土類金属を水と反応させることで水素を取り出しているのではないかと思う。
アルカリ金属やアルカリ土類金属は水と混ぜると、次のような化学反応を起こす。
○アルカリ金属(�T族)
リチウム :2Li + 2H2O → 2LiOH + H2↑
ナトリウム :2Na + 2H2O → 2NaOH + H2↑
カリウム :2K + 2H2O → 2KOH + H2↑
○アルカリ土類金属(�U族)
カルシウム :Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2↑
ストロンチウム:Sr + 2H2O → Sr(OH)2 + H2↑
バリウム :Ba + 2H2O → Ba(OH)2 + H2↑
まぁ、入手容易性やコストおよび安全性を考えると、多分、カルシウムを使っているのではないかと思われる。(リチウムは高価だし、ナトリウムは水と爆発的に反応するので危険)
おそらくは、この反応で水素を作って、それを燃料電池へ供給し、空気中の酸素を使って発電しているのではないかと思う。
ただ、カルシウムと水とで水素を作るのはよいけれど、副生成物である水酸化カルシウム、いわゆる消石灰の処理はどうするのかについてはちょっと分からない。おそらく反応させた水に溶け込んでいると思うのだけれど、強アルカリの水になっている筈なので、そこらに捨てられないような気もする。
ともあれ、燃料電池がここまでポータブル充電器として身近なものになってきたことは、燃料電池車の到来が近いことを告げているのかもしれない。
2.微生物燃料電池
さて、こうした燃料電池は、通常、水素と水の化学反応から発電しているのだけれど、化学反応ではなく、微生物による反応を使って発電する研究も行なわれている。
その名もずばり「微生物燃料電池」。
微生物の中には、有機物をエサにして分解する過程で電子を外部に放出する性質をもつ「電流生成菌」と呼ばれる細菌が存在する。
人間などの生物が食物を摂取すると、体内で糖を二酸化炭素と水に分解し、最終的にエネルギーを得ているのだけれど、その生成過程で、電子は酸素に受け渡している。この電子を受け取る酸素のことを酸素受容体という。
ところが、微生物の中には、水素を電子放出源とし硫黄で電子を受容する、高度好熱性硫黄依存古細菌というのがいて、この菌は硫化水素を生成する。その他にも、二酸化炭素を電子受容体とするメタン細菌や、硫酸塩を電子受容体にする硫酸塩還元細菌。そして更に、炭酸塩を電子受容体にする酢酸生成細菌や、鉄を電子受容体にする異化的鉄還元細菌が存在する。
電流生成菌とは、この異化的鉄還元細菌のことで、異化的鉄還元細菌は、アモルファス状の鉄酸化物に直接触れることで、三価鉄を二価鉄に還元し、ナノサイズの磁性粒子を生産する。鉄が電子受容体として働くから、鉄をそのまま電極にしてやれば、電気を取り出せる。
代表的な異化的鉄還元細菌として、ジオバクター(Geobacter)菌やシュワネラ(Shewanalla)菌などがあり、これらの菌は、空気中の酸素を嫌い、地中や海底、沼底など、酸素のほとんどない環境で生息するのだけれど、世界各地の河川等から発見されている。
この電流生成菌を有機物と一緒に水を満たした反応層に入れておくと、微生物が有機物を分解し、放出した電子を負電極に渡して、電流が流れる。微生物のエサとなる有機物を与え、1日に3時間ほど電流を流さずに休ませてやれば、持続的に発電ができるという。
この仕組みを利用したのが「微生物燃料電池」。
宮崎大学の井上謙吾・特任助教は、ジオバクター菌を使った微生物燃料電池の研究を進めていて、牛の糞を電流生成菌の餌とする微生物燃料電池を開発しているし、東京大学の橋本教授の研究グループでは、シュワネラ菌を使った微生物燃料電池の研究を進めている。
中でも、橋本教授の研究グループでは、下水や工場廃水を微生物で分解しながら「副産物」として電気を得る方法と、微生物燃料電池を小型化して、携帯機器の電源などに使う方法との2つの研究を進めている。
電流生成菌に有機物を与えると、流れる電流が急速に増え、あるところまで来ると一定になるのだけれど、それ以上に電流発生菌を増やしても、発生する電流は変化しない。なぜなら、電極に取りついている電流生成菌は電極の面積以上には取り付けないので、電子を電極に渡せないから。
電流発生量を増やそうと、橋本教授の研究グループは、シュワネラ菌の元々の生育環境である、深海の海底火山近くの環境を調査し、地球科学の研究者から、深海から微生物を採取すると必ず酸化鉄や硫化鉄がまとわりついてくるという情報を得て、それを再現することで電流を増やせないかと考えた。
そこで、シュワネラ菌のいる培養液に酸化鉄のナノコロイドを加えたところ、微生物だけの場合に比べて、50倍以上の電流が発生し、さらに、鉄イオンと硫黄イオンを加えると、電流の発生量は200倍になったそうだ。
研究グループは、培養液に加えた、酸化鉄ナノコロイドが、電流生成菌の隙間に入り込むことで、ちょうど導線のような役割を果たし、電流生成菌の放出した電子が酸化鉄ナノコロイドに移り、その酸化鉄ナノコロイドから、また別の電流生成菌に渡るというプロセスを繰り返し、電極から離れたところにいる電流生成菌も電子を受け渡すことができるようになったのではないかと推測している。
今では、1立方メートルの実験装置から130Wの電力を取り出せるようになっているそうだけれど、研究グループは1000Wの電力を取り出すことを目標にしているという。
3.微生物太陽電池
続いて、研究グループは、田んぼから泥を採取し、酸化鉄と餌となる有機物を与える実験を行ったところ、酸化鉄から電子を受け取れるタイプの微生物の割合がどんどん増え、それに伴って発生する電流も増えていくことを確認した。
田んぼの泥から電気が取り出せるのなら、田んぼが燃料電池として使えないか、という発想も当然出てきてもおかしくないのだけれど、そのためには、酸化鉄や有機物がふんだんに田んぼにないといけない。特に有機物は絶えず供給しつづけないと、電流生成菌が死んでしまって、電気を作ってくれなくなる。
研究グループは、自然界には色んな微生物がいるから、助け合って生きていけるのではないかと考え、東大構内の三四郎池や温泉から水を採取し、これを培養液として、窒素やリンだけを加え、餌となる有機物は加えずに光を当ててみたところ、電流が発生した。
培養液を調べてみると、光のエネルギーから有機物を作る光合成細菌と、有機物を取り入れて電流を発生させる電流生成菌の少なくとも2種類の微生物が共生していることがわかった。つまり、光合成細菌が作った有機物を、電流発生菌が餌にして電流を生み出していたということ。
そこで、研究グループは、水田を電池として使えないか実験したところ、見事、電流が発生した。どうやら、田んぼの稲が光合成を行って、根から有機物を出し、それを餌にして、電流発生菌が電流を発生させているのだという。
ただ、この画期的な"微生物太陽電池"も、太陽エネルギー変換効率で見れば、まだまだで、人工の太陽電池の変換効率が10%から40%あるのに対して、微生物太陽電池の変換効率は、0.02%から0.04%しかない。
研究グループは発電効率が、1~2%くらいになってきて、初めて応用的なことを考えられるだろうとしているけれど、田んぼでの微生物太陽電池は、稲を育てながら、田んぼ全部の面積を太陽電池として使えることになるという利点があるから、発電効率が上がってくれば、ちょっとした補助発電くらいにはなるかもしれない。
中小水力発電といい、田んぼやその周辺には、まだまだ発電能力が隠されている。
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