最近、"ステマ"という言葉が流行っている。
ステマとは「ステルスマーケティング(stealth marketing)」の略で、消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をすること。例えば、自分の店に対する評価を載せている口コミサイトで否定的な意見を削除して良い意見だけを残して、さも良い店であるかのように宣伝してみたり、あたかも客観的な記事を装った広告や、影響力のあるブロガーが報酬を得ていることを明示せずに、赤の他人のフリをして、特定の企業や製品について高い評価を行うなどの行為をいう。
実際、今年の1月4日、カカクコムが運営する人気グルメサイトである「食べログ」で、 「やらせ業者」が金銭を受け取って飲食店に好意的な口コミを投稿して、ランキングを上げようとしていたことが明らかになった。
やらせ業者は飲食店への訪問や電話などで食べログへの口コミ投稿を「営業」しているようで、カカクコムは昨年1月からこうした「やらせ業者」を把握し、昨年末までに39の業者を特定しているという。カカクコムは、評価システムの改良など対策を強化し、悪質な業者に対しては法的措置も検討するようだけれど、 やらせ投稿を完全になくすのは難しい状況のようだ。
「食べログ」は約3200万人が利用する、国内最大規模のグルメサイトで、利用者が投稿した飲食店への評価などを集計し、5点満点で点数を表示するほか、店に関する口コミなども紹介している。
消費者庁は、「閲覧者はサイトの評価を基に判断している」と指摘した上で、消費者を誤認させるような操作がないかや、景品表示法(不当表示)に抵触する可能性がないかなどの調査を、進めていたのだけれど、どうやら、景品表示法で取り締まることは難しいという結論になったようで、消費庁の福嶋浩彦長官は会見で「やらせをもって違法とするということは、景表法の体系自体からすると難しい」と述べている。
景品表示法は、正式には、不当景品類及び不当表示防止法といって、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを規制しているのだけれど、不当表示については、第4条で次のように規定されている。
(不当な表示の禁止)
第4条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
1.商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
2.商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
3.前2号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
2 内閣総理大臣は、事業者がした表示が前項第1号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、第6条の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。
とまぁ、実際のものよりも著しく優良であると示したり、同業他社よりも著しく優良であると示す表示が駄目となっているのだけれど、こと食べ物となると、どこかの店の「味」が著しく優良であると表示する以前に、何を基準にして優良なのかそうでないかを決めるのからして難しい。
「味」の良しあしを5段階評価するにしても、その元は個々人の投票の結果の累積に過ぎないし、味の好みや判断は人それぞれによって違う。だから、何が不当で何が不当でないかを法的に取り締まることが難しいのは理解できる。
ただ、世の中には色々考える人がいるもので、食べログの"ステマ"を見破るサイトが登場し、注目を集めている。その名も「ステログ」。
「ステログ」は、食べログへの投稿者を「信頼できる高評価者」「頻繁な高評価者」「初投稿で高評価者」の3つのカテゴリーに分け、「信頼できる高評価者」が多数評価している店が、ステマでないと思われる店。逆に、「初投稿で高評価者」が多数評価している店がステマの可能性が高い店として一覧表をアップしている。
各々の評価者の定義は次のとおり。
信頼できる高評価者= 過去投稿数50回以上で評価3.5以上で投稿日数が比較的バラけていて400文字以上投稿している人。ただし、ステマでもそういう人はいます。
頻繁な高評価者 =1日3回以上(!)投稿する日が過去3日以上ある人で対象店舗に評価3.5以上をつけてるのに文章が短い人の数。食べログ好きなのか、意図がある投稿かどちらか。通常40%以下。
初投稿で高評価者=初投稿で評価4.0以上つけている人数。ネットに詳しくない常連さんか、意図がある投稿かは自己判断。地元密着の店だと前者のケースも多いです。ただし、食べログのロジック上、スコアに反映されません。
と、投稿の頻度や長さを基準に判定しているのだけれど、これは、ネットコメントの特性に着目した上手い分類だと思う。
なぜなら、ネット・コミュニティやオンラインのソーシャル・ネットワークでは、殆どのユーザーは自分の意見を書き込むことはなく、読んでいるだけという実態があるから。1990年代初頭に、ベル通信研究所が詳しく調査したところ、ユーザーの90%は読むだけで自ら書き込むことは決してなく、9%は、ほんの少し書き込みをする。そして、書き込みの殆どは、残る1%のユーザによるものだという結果が出ている。
つまり、初投稿者というのは、それだけで信頼度が低いと見做されてしまう。投稿しないのが当たり前の世界で、初投稿するに及ぶには、それなりの理由と意図がある筈。
ゆえに、それを逆手にとった、「ステログ」の初投稿で高評価をつけると"やらせ"の可能性が高いとする判定システムは、あながち的外れはないのではないかと思う。
ただ、それでもやっぱり、世の中の人を長きに渡って騙し続けることは難しい。たとえ、やらせでランキングが一時的に上がったとしても、それを見て、店に訪れた人が自分できちんと判断すれば、二度とくることはないし、もっとおいしい店も沢山あるのだから、そうそう何度も同じ人が引っ掛かってはくれない。
まぁ、それでも、食べログを見てやってきた人が皆が皆、「美味しんぼ」の海原雄山のような人ばかりだったら、店のほうも困ってしまうだろうけれど、結局は自分の舌で判断するしかないのだろう。
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コメント
コメント一覧 (2)
感性を好き嫌いと勘違いする人がいるが,
それは論理の上に築かれた経験の結晶.
まずは論理を磨かなくては感性UPは不可能.
若い人の「論理=感情」の傾向が気になる.
論理無視の感情擦り込み日教組教育が原因.
論理が確立しないとネット世界は魑魅魍魎.
小林よしのりの「ネットなんて役立たず」
との主張もうなずける.
しかし, 歩きながらメールは止めて欲しい.
若ものが邪魔な社会は最悪だ.