「それからもう1つ、リビアでの、あのばかばかしい戦争を議会が反対しだした。これは皆さん知っているかどうか知らないけれども、アメリカの戦争権限法というのがありまして、大統領は勝手に戦争を始めることはできるけれども、その戦争の成り行きいかんでは、議会が反対して、ストップすることができるんです」
1.日米安全保障条約 第五条
11月28日、中国政府が、2003年末を最後に中断している国連海洋法条約に基づく東シナ海の日中境界画定に関する協議の再開を提案していることを複数の日中関係筋が明らかにした。
日中境界画定協議では、日本側の基点となる尖閣諸島の領有権問題が浮上することは避けられず、中国は、協議を通じて尖閣諸島についての領土問題があると日本に認めさせる狙いがあると見られている。
日本は、協議再開が直ちに領土問題の存在を認めることにはならないという立場で、提案を受け入れる方向でいるという。
尖閣問題については、中国が挑発しているけれど、昨年の中国漁船衝突事件を契機に、日米安保が取沙汰され、当時、前原外相とクリントン国務長官との会談で、「尖閣諸島は日米安保条約第5条の(適用)範囲に入る」とのクリントン国務長官のコメントを引き出したことがあった。
なぜ、日米安保条約第5条の適用範囲云々が話題になるかについて、その答えは条文そのものにある。次に、日米安全保障条約の第五条を引用する。
日米安全保障条約・第五条
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。
と、日米安保の対象は、"日本国の施政の下にある領域"という規定がある。だから、当時、一部で、尖閣諸島が中国に占領されて、日本の施政下から外れたら、それは日米安保の対象外になってしまうのか、という懸念の声が上がったことがあり、それに対して、アメリカが明確に、「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲だ」と宣言した経緯がある。
この辺りについては、平成23年5月19日に、国会の安全保障委員会にて取り上げられたことがある。少し長いけれど、以下に引用する。
○福嶋(健)委員 次に、これも外務省に御答弁をお願いしたいんですけれども、今度は逆サイドの話ですね。アメリカによる対日防衛義務の話。これは義務の話と義務を履行する話と二つに分けられれば分けて考えたいなというふうに思っています。
よく一般的には、この第五条というのは米国に対して対日防衛義務を課しているというふうに言われております。ただ、第五条を見ると、そこの条文はそういったことをすきっと書いてあるわけじゃございません。米国に対して対日防衛義務を課しているというふうに、その条文の何を根拠に、どのように読めばそう整理されるのかということについて御答弁をいただきたいと思います。
○松本(剛)国務大臣 委員が御指摘をいただいているのは、当該条約の五条において、日米両国は、我が国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処することをそれぞれ宣言しているということでのお話だと思いますが、これそのものを、我が国に対する武力攻撃が発生した場合には日米両国が共同して日本防衛に当たることを定める、両者が宣言を、いわば国際約束である条約のもとで行うわけでありますから、日本防衛に当たることを定めるものと考えており、米国による日本防衛の義務がここに明確に示されている、このように考えております。
○福嶋(健)委員 今大臣から御答弁がございましたように、過去からも、そういったことをもって対日防衛義務というのはありますというふうなことなんですが、この第五条の、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」というところなんです。
これについて、私としては今度は義務の履行という整理をしたいんですが、まずこの「自国」、これは米国サイドのお話ですので、アメリカの憲法上の規定及び手続、いわゆる共通の危険に対処する前段の憲法上の規定及び手続というものについて、政府としてどのように御認識をされているのかということについて伺いたいと思います。
○松本(剛)国務大臣 委員御指摘の当該条約五条に言う憲法上の規定及び手続、米国については、米国の憲法上の手続、すなわち、米国憲法第一条に規定されている連邦議会による戦争宣言、あるいは同第二条に規定されている米国軍隊の最高指揮官としての米国大統領の権限を指す、このように考えております。
○福嶋(健)委員 今大臣から御答弁がありましたように、アメリカの憲法ではそのように定められています。
それと、加えて、ベトナム戦争等々のこと以降、戦争権限法というのが設定をされています。要は、議会が宣戦布告をするというケースと、議会の宣戦布告によらず、大統領が指揮官として軍隊を投入するということだと思うんですが、この場合、特に後段の場合においては、議会がその後で宣戦布告をすれば、それはそのまま投入は続くんでしょうけれども、そうじゃないケース、議会がやはりアメリカの国益を考えて宣戦布告はできないということも法の建前上はあるわけでございます。
そうしますと、戦争権限法等によれば、もし、米国の議会が宣戦布告をしないという中で、大統領の権限で軍隊を投入したときに、最長でも六十日程度で引かないといけないというふうなことだと、すなわち、最初から最後まで一緒ではなくて、そこは撤退をするというふうなことも法律手続上はあるという認識でよろしいのかどうか。外務大臣にお願いします。
○松本(剛)国務大臣 御指摘のとおり、米国に戦争権限法があるわけであります。ただ、政府としては、米国の国内法を有権的に解釈する立場にはないということでありますが、この日米安保条約は、米国政府が締結をして、米国の議会が承認をいたしたものであります。この条約の五条に規定する米国の対日防衛義務は、議会を含めた米国の国家としての対日義務を設定している、このように考えておりまして、この義務を承認した議会がその履行を妨げる措置をとるということは考えがたいというふうに私どもは思っております。
また、現政権も、米国の核抑止を含む対日防衛に係るコミットメントを累次にわたって表明しており、政府としては、米国がこの義務を果たすことについて全幅の信頼を置いているところであります。
○福嶋(健)委員 ありがとうございます。
アメリカの憲法手続の話ですので、これ以上我々サイドがこうだとなかなか決めつけがたい部分はありますけれども、私は、やはりこの義務の履行については、義務はあるけれども、要は、自動的に、オートマチカリーに、例えば日本が武力攻撃を受けたら米軍が自動的にやってくれるなんということは、そうは理解できないんですね。
やはりそこには、義務の履行に対してアメリカのサイド、アメリカの法律の話がある。だからこそ、それを埋めていかないといけないというふうに思っています。要するに、義務をアメリカが履行してくれるにはどうしていけばいいのか、我々日本としても、自立をしながら、そして信頼感を深めていくにはどうすればいいかというのが大事であろうというふうに思います。
言いかえますと、条文とか手続とか、そういった事態があったとしても、それを日米間の信頼関係でカバーしていく。アメリカにおいて、ある意味自国の国民を危険にさらしてまでも同盟国を守るんだというふうな思いをつくってもらう。それに対しては、日本はきちっと日本の、自分で自立をしながらも、やはりそういう信頼感を米国に対して醸成するという努力が必要だ、今されているとは思うんですけれども、もっともっと必要かなというふうに私は思います。
引き続き、ちょっと外務大臣にお尋ねをしたいんですが、今の話の続きではあるんですけれども、日米安全保障条約第五条に基づいてアメリカが対日防衛義務を負っている、アメリカにおいてどう整理をされておられるという御認識があるのかということについてお尋ねをしたいと思います。
というのは、もう少し言いますと、実は今から数年前、平成十七年二月の当委員会におきまして、当時委員だった大臣、松本委員が今私と大体同じような質問をされておられます。そのときの政府答弁、要約をしますと、当時、上院における安保条約の同意の審議というのが昭和三十五年、一九六〇年に行われた、そのときの議論で、我が国、すなわち米国は対日防衛義務を負っているんですかというふうな問いに対して、当時のハーター国務長官がそのとおりと言っています、これについては上院も含めて受け入れているというふうに政府も理解をしています、手続的な話はありますけれども、現実の問題としては、コミットメントは履行されているという趣旨の政府の答弁が、その日のやりとりがあるんですね。
これはこのまま今受け継がれているのか、またさらにいろいろな補強材料があるのか、そこのところについてお尋ねをしたいと思います。
○松本(剛)国務大臣 私自身の審議について御引用をいただきましたが、今お話がありましたように、政府として、当時の安保条約の、一九六〇年、昭和三十五年の安保条約の同意に関する米国上院の審議を受けて、米国政府が防衛義務を負っていると私どもが理解をしているということは変わりがありません。
加えて申し上げれば、私自身も、外務副大臣そして大臣と、合わせますと八カ月ほど政府の一員として外交に携わっておりますけれども、日米の間において、この五条において米国が対日防衛義務を負っているということ、そしてその義務は履行されるべきものであるということは全く疑いなく、ある意味では前提として、議論が積み重なってきているということを実感しているというふうに御報告できると思います。
平成23年5月19日、第177回国会 安全保障委員会 第5号 議事録より抜粋
とまぁ、日本政府は「我が国に対する武力攻撃が発生した場合には日米両国が共同して日本防衛に当たることを定める」となっているから、実質上、アメリカの対日防衛義務があるのだ、というスタンスになっている。
2.NATO条約と戦争権限法
だけど、同じ安保条約でも、NATO条約となるとまるで違っている。NATO条約の第5条は次のようになっている。
NATO条約・第五条
締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19490404.T1J.htmlより引用
と、NATO条約では、明確に「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する」となっていて、「武力攻撃が行われたときは、各締約国が、個別的又は集団的自衛権を行使して、その攻撃を受けた締約国を援助する」と、防衛義務があることが明示されている。
細かいことだけれど、日米安保とNATO条約での防衛義務の条文にはこのような違いがあることは押さえておきたい。
また、平成23年5月19日の安全保障委員会で、民主党の福嶋健一郎議員が指摘した、防衛義務の履行に対してアメリカのサイドのアメリカの法律の問題についても触れておきたい。
これは、同じく福嶋健一郎議員が述べていた「戦争権限法」の問題。
戦争権限法とは、1973年11月7日に成立したアメリカ議会両院合同決議で、アメリカ大統領の指揮権に制約を課す法律のこと。正式名称は「連邦議会と大統領の戦争権限に関する共同決議」。
これは、ベトナム戦争の反省から、制定された経緯があり、主な内容は次のとおり。
戦争権限法
1.大統領は戦闘状況、あるいは戦闘に巻き込まれうる状況において可能な限り議会と事前に協議しなければならない。
2.宣戦布告なく軍隊を投入する場合、またはそのような状況が急迫かつ明白な場合、大統領は48時間以内に下院議長と上院議長代行に対して合衆国軍隊の投入を必要とする状況、投入の根拠となる法的権限、投入される軍隊の規模について報告書を提出しなくてはならない。
3.報告書が提出されてから60日以内に、大統領は議会が宣戦を布告するか軍隊使用に関する特別権限立法を制定した場合、60日の期限が延長された場合とアメリカに対する武力攻撃の結果、議会の召集が不可能となった場合を除いて、軍隊を撤収しなくてはならない。また大統領が議会に対して、軍隊の早期撤収を行う過程でその継続使用が必要な旨を文書で確認すれば、期限を最大30日まで延長することができる。
4.以上の規定とは別に合衆国軍隊が投入された場合はいつでも、議会が共同決議を採択すれば大統領は撤収を命じなくてはならない。
5.合衆国軍隊を投入する権限について法律及び条約からの推定を禁止する。いかなる法律及び条約も軍隊を投入する権限を特別に授権していない限り、その権限を有するものと推定してはならない。
要するに、大統領権限で一旦、軍隊を投入しても、それを継続するためには、最初の報告書提出から60日以内に議会が戦争を宣言するか、軍隊投入を承認する特定の法律を制定することが必要となるということ。
尤も、アメリカの歴代政権は、戦争権限法は軍の最高指揮官としての大統領権限を侵害する違憲な法律だとして法的拘束力を認めておらず、実際のところ、戦争権限法成立以後もアメリカは数多くの軍事作戦を遂行するも、戦争権限法に基づく議会承認が行われたケースの方が少ないようだ。
更にもう一つ、5.の"軍隊を投入する権限について法律及び条約からの推定を禁止する"条項については、注意を要する。これは、議会承認がない場合、条約に明確に規定されていない限り、大統領が合衆国軍隊を投入する根拠に使えないということ。
その例として、NATO条約の第5条と日米安保第5条の違いが挙げられる。
NATO条約第5条では、「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。武力攻撃が行われたときは、各締約国が、個別的又は集団的自衛権を行使して、その攻撃を受けた締約国を援助する」となっていて、自衛権を行使する条件が明確に規定されている。つまり、NATO条約において、自衛権行使について、条約からの"推定"は必要としない。
ところが、日米安保第5条は、「いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動する」となっていて、"自国の憲法上の規定及び手続"を必要とする。これは、アメリカにとってみれば、戦争権限法による議会承認が必要となることを意味していて、更に、日米安保の内容から"推定"しての自衛権行使はしてはならないと釘を刺されている。
つまり、厳密に条文およびアメリカの戦争権限法に従えば、日米安保は、NATO条約のように自動介入型ではなくて、アメリカの議会承認が必要になるという建前になっていることには注意しておかなくちゃいけない。
だから、日米安保があるから安心だというのは、少し甘い考えであって、様々な条件下での安全保障なのだという前提に立たなくちゃいけない。
自分の国は自分で護るというのは当然のことなのだけれど、今の自衛隊単独では、日本の国土を完全に守れないのであれば、アメリカとの関係を良好にしておく不断の努力はやっぱり必要になる。
そうして現実を踏まえた上で、自分の国は自分で護っていけるように国防を整えていく必要があるだろう。
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中国、日本に境界協議再開を提案 尖閣問題の再燃不可避
【北京共同】野田首相の12月中旬の中国訪問に向け、中国政府が、2003年末を最後に中断している国連海洋法条約に基づく東シナ海の日中境界画定に関する協議の再開を提案していることが28日、分かった。複数の日中関係筋が明らかにした。
日中境界画定協議では、日本側の基点となる沖縄県・尖閣諸島の領有権をめぐる両国の対立再燃が不可避。中国側は協議を通じて領土問題を浮き彫りにし、日本側に問題を認めさせる狙いがあるとみられる。
ただ日本も海洋法に基づく問題解決の原則に異論はなく、協議再開が直ちに領土問題の存在を認めることにはならないため提案を基本的に受け入れる方向。
2011/11/28 10:32
URL:http://www.47news.jp/CN/201111/CN2011112801000997.html
コメント
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本記事の内容とは直接関係ありませんが、日米安保をめぐる論説は日米両国ともに情緒的な意見が強いように思えます。日本国内の「反米・日米安保破棄イコール日本の真の独立」と短絡している輩はもちろんですが、アメリカ国内の「日米安保タダノリ論」もそんなニュアンスを含んでないでしょうか?
を受けるだろうから, 在日米軍は自己防衛と
してできる範囲のことを行なう筈. それが
自衛隊と協調の下で行なわれるなら, 戦いの
初期においては十分機能すると思う. 問題は,
その戦いを更に発展させることを大統領が
指示するか, もしくは議会が承認するか,
という問題になろうか.
ここでTPP推進論者はTPPこそが米軍の参戦を
確実にすると言いたいのだろうが, TPPは米国
金融資本の仕掛け, つまり1%側の仕掛けなの
だから米国青年の命をかける担保にはなるまい.
本当の担保は国民全体の交流によって実現される.
東日本大震災の復興に日本が投資を行ない,
それに米国企業に協力してもらうなどのWin-Win
の民間交流の強化がもっとも確実な担保だ.
局地線は命の奪い合いであり, 日本の若者の命を
かけ, 米国の若者の命をかける. Occupy WSを見れば,
1%のために米国の若ものが命を捨ててくれるとは
思えない.
戦後世代の世の中になって, 戦いとは命と命の
やり取りのリアルな物だと言う感覚が希薄になって
いる. それが政治家の靖國社の軽視にも繋がった.
リアルな中から日本の政治を再建する必要がある.