日比野庵 新館

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今日は、昨日の「地熱発電の課題」の続きのエントリーです。




日本の地熱発電の問題は、発電に適する場所があったとしても、様々な規制や既得権益の壁に阻まれて、開発が阻害されている現状があると述べたけれど、その理由は、地熱発電を行う場所が人間の都合で選べないところにある。

昨日のエントリーで説明したように、地熱発電には、まず地熱貯留層を探して、そこに井戸を掘る必要があるため、火山付近の特定の場所に限定されるし、発電に十分な地熱貯留層を調査する決して少なくない費用が発生する。

特に日本では、地熱資源の8割以上が、国立公園内にあり、開発が進んでいなかった。

では、この問題はもうどうしようもないのかというと、そうでもない。対策がないこともない。

要するに、地熱発電の適地をある程度、人間の都合で選んでしまうことができれば、その解決策になるということ。

そのための方法には大きく2つある。

一つは、地熱貯留層を探すのではなくて、人為的に地熱貯留層に類するものを作ってやる方法で、もう一つは、地熱貯留層ではない代替物で発電する方法。

前者の代表的な発電方法に「高温岩体発電」と呼ばれるものがあり、後者の代表的な発電方法として、「地熱バイナリー発電」というものがある。




1.高温岩体発電

まず、「高温岩体発電」についてだけれど、これは、高温の岩盤まで深く穴を掘り、そこに水を注入して人工的に熱水だまりを作り、もう一方の井戸から蒸気を取り出して発電する方法。

通常の地熱発電は、地熱貯留層のように、構造、熱、水の地熱の三要素を満たした、そのまま地熱発電に利用できるところを探す必要があったのだけれど、高温岩体発電は温度の高い岩体さえあれば発電が可能になる。

この発電方法は、1972年にアメリカロスアラモス国立研究所で考えられたものなのだけれど、発電には、高温の岩体さえあればよいから、発電対象地域はぐんと広がり、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が平成5年に行った調査によると、国内の有望とされている地熱地帯を29カ所について、温度250℃以上、探さが3kmまでの高温岩体資源を利用すれば、実に2900万kWの発電ができると見積もっている。

この、高温岩体発電についての研究は世界各地で行われていて、日本では、山形県の肘折と秋田県の雄勝で現場実験を実施した実績がある。

例えば、肘折では、深さ1800 mと2200 mの2箇所に人工貯留層を作り、2002年の6月から約3ヶ月間約50kWの発電が試験されているし、雄勝では、1986年から2001年にかけて、高温岩体発電のための基礎的試験と評価が行われた結果、地点探査、貯留層造成、貯留層評価に関する要素技術はほぼ確立したとされている。

現在は、海外の企業と実証実験を進めていて、オーストラリアのジオダイナミクス社が南オーストラリア州北東部のクーパーベイズンに、大規模高温岩体地熱発電プラントを建設するプロジェクトに、日本から電力中央研究所、東北大学、産業技術総合研究所、石油資源開発などが技術協力として参加している。

ジオダイナミクス社の計画では、6.25平方メートルの土地に300m間隔で井戸を掘って、27万5000kWの出力を確保する予定で、将来的100万kWを超える大規模発電所にするという。

この高温岩体発電は、深度2~3km、岩盤温度を200~300 ℃程度を対象としているのだけれど、将来の発電システムとして、高温岩体ではなく、もっと温度の高いマグマを利用するという構想もある

これは、「マグマ発電」と呼ばれるもので、簡単に言えば、二重管をマグマの真上に設置して、外管に水を入れて、マグマの熱で蒸気にし、それを断熱した内管から蒸気を回収する方法。一説によると、日本のマグマ発電の予想発電量は、約60億kWという見積もりもある。これは、原発一基を100万kWとすると、実に原発6000基分に相当する膨大な発電量。まぁ、この通りいかなくてもこの100分の1実現するだけでも、今の日本の原発分が賄えることになるから、夢のような話ではある。

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2.地熱バイナリー発電

次に、後者の「地熱バイナリー発電」についてだけれど、これは、別名「温泉発電」とも呼ばれるもので、これは、温泉のような、50~60度程度の熱で発電しようというもの。

地熱バイナリー発電は、一般の地熱発電のように、水を直接蒸気にしてタービンを回すのではなくて、温水の循環系(加熱源系統)と、例えば、沸点が36℃しかないペンタンのような沸点が低い媒体の循環系(媒体系統)2つを用意して、温水循環系と低沸点媒体循環系を熱交換して、低沸点媒体を沸騰させ、その蒸気でタービンを回す発電方式。

加熱源系統と媒体系統の二つの熱サイクルを利用して発電することから、バイナリーサイクル(Binary-Cycle)発電という。

この発電方式の特徴は、もちろん50~60度といった、比較的低温度でも発電できることで、実際に、大分県にある九州電力の八丁原地熱発電所に2基ある地熱発電設備のうち一基で地熱バイナリー発電を行っている。

元々、八丁原地熱発電所の設備は、通常の地熱発電として使用していたのだけれど、当初160℃あった熱水温度と圧力が下がって地熱発電として使えなくなったため、2004年に地熱バイナリー発電に切り替え、2006年から営業運転している。今は、130℃の熱水を熱源として使い、余った湯は近くの筋湯温泉にパイプで送っている。出力は2千キロワット。

また、他の企業も地熱バイナリー発電に触手を伸ばし始めていて、例えば、川崎重工は九州電力と連携して、鹿児島県の山川発電所で、出力250キロワットの小規模設備を設置し、2012年から2013年にかけて実証試験を行う予定だし、神戸製鋼も、2011年10月から、工場や温泉旅館など向けに出力70キロワットのバイナリー発電装置の販売を始める。既に、由布院温泉の旅館が導入を検討しているという。

発電コストは10円/kWh以下にできるそうで、これは火力のそれと同等以下の水準。神戸製鋼は、2012年の秋には130℃以下の蒸気を使った120kW級のシステムの発売も計画していて、2015年度までに年間売上高30億円を目指している。

このように、地道ではあるけれど、地熱発電の取組は始まっている。成果を期待したい。

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コメント

 コメント一覧 (1)

    • 1. almanos
    • 2011年09月28日 06:35
    • 地熱バイナリー発電はもう10度くらい必要な温度を下げる事が出来れば、一気にブレイクスルーが突破できそうに思えますね。太陽熱温水器で作れる熱源がだいたい40度から50度くらいです。太陽熱でもバイナリー発電ができて不足する時は地熱を取り出して補う。地熱と太陽熱を併用してというなら地熱ヒートポンプと太陽熱を組み合わせて自家発電とか。太陽光発電は太陽光に左右されますが、熱は蓄熱などの技術も電気より安い。発電のコストが引き合うくらいの熱を常時維持できる熱源を家庭でどうやって確保するかという問題もあるのですが。
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