経済産業省は、「地熱発電」の開発を促すため、地熱発電に取り組む企業に対して、初期投資の一部を支援する新たな制度を設ける方針を固めたとの報道があった。
地熱発電とは、地中からの蒸気を使って、直接タービンを回す発電方式なのだけれど、そのためには、当然、蒸気が噴き出ているところでないと発電できない。
だけど、温泉のように、蒸気が地表にまで噴き出しているなんて都合のいい場所がそうそうあるわけでもないし、発電に使う蒸気は、大体150℃~350℃くらいの高温蒸気だから、そんな高温蒸気を得ようとすると必然的に、地下深く穴を掘るしかない。
一般に、地中奥深く行けばいくほど、温度は上がっていって、深さ30km~50kmまでいくと、1000℃くらいになると考えられている。
だけど、今の技術では、そんな何十kmも掘ることは不可能。これまでの世界記録は、1992年に、ロシアのコラ半島で行なわれた、科学掘削で、その深さは12261mだったのだけれど、そのときの坑底温度は205℃だった。
こんなに掘っても200℃くらいにしかならないのであれば、とても経済的に使えるものではないのだけれど、場所によっては、浅くて高温になっている所がある。火山の傍なんかがそう。
火山の近くでは、地下数km~20kmくらいの深さに1000℃くらいのマグマだまりがあって、まわりの岩石を熱している。(地熱地帯)
この地下の岩石にはあちこち割目があって、この割目から雨水が地下に入っていって、マグマだまりの近くのにまでたどり着く。すると、マグマだまりによって、雨水が加熱されて高温の熱水や蒸気となって、また、近くの割目から上昇していって、最後には地表にまで到達して、温泉になったりする。
ところが、マグマだまりの熱で加熱した熱水には、当然、付近の岩石等の成分が溶け出しているのだけれど、熱水や蒸気が地表付近に来て冷えていくと、その成分が沈殿して、地表への割れ目、つまり出口を塞いでしまう。
そうなると、今度は、マグマだまりの熱で加熱した熱水や蒸気が逃げられなくなって、地下の比較的浅い部分に、高温高圧の熱水が大量に溜まってゆく。これを地熱貯留層という。
地熱貯留層の深さは、勿論、場所によってバラバラなのだけれど、大体数百から数千メートルの深さにある。そこに、井戸を掘って、蒸気を地表に引いてタービンを回すのが今の地熱発電。
日本の地熱発電所で、一番深い井戸は北海道森発電所の3250mで、最も浅い井戸は岩手の葛根田発電所や宮城の鬼首地熱発電所の350m。これくらいであれば十分掘れる。
日本は世界有数の火山国だけあって、地熱資源には恵まれていて、日本の資源量は、アメリカの3000万キロワット、インドネシアの2779万キロワットに次いで、2347万キロワットで世界3位。
だけど、今の日本の地熱発電はそのうちのわずか53.5万キロワットしか開発利用されていない。
その理由は、大きく3つあって、一つは、発電コストがキロワットあたり13円~16円と、火力・原子力にのコストであるり9円~10円に比べて割高であること。これは、地熱発電に適した土地を調査したり、井戸を掘ったりするなどの開発期間の長さが影響している。
次に、日本の地熱資源量2347万kWの81.9%が国立公園特別地域内にあるという問題がある。これは、昭和47年に、当時の通産省と環境庁との間で、すでに当時国立公園内に建設されていた地熱発電所6地点以外について、「当分の間、国立公園特別地域内では新たに地熱発電所を建設しない」という覚書を取り交わしたという事情があり、それによって、新たな開発が阻害されている現実がある。
最後に、温泉問題がある。これは、温泉地域の周辺で地熱発電が行われると、温泉が枯れて営業ができなくなるかもしれないと、温泉業者から地熱発電開発の反対の声がある。
今回の経産省の方針は、初期開発コストを一部肩代わりしようというもので、日本で地熱発電が普及しない理由の一つである開発コストを軽減する策。いわば、経産省の"管轄"で扱える問題について、手当したものだといえる。
だから、政府が本気で地熱発電を普及させようと思えば、残りの2つの問題、すなわち、国立公園問題と温泉問題をどうにかする必要があり、これはすぐれて政治の問題として解決すべき課題であると思われる。
政府が本気かどうかは残りの2つの課題に取り組むかどうかで見えてくるだろう。
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地熱発電 開発資金を支援へ 9月25日 16時13分
経済産業省は、将来の再生可能エネルギーの柱の1つとして期待される「地熱発電」の開発を促すため、地熱発電に取り組もうとする企業に対し、巨額の初期投資の一部を支援する新たな制度を設ける方針を固めました。
「地熱発電」は、地下深くにある高熱の蒸気を取り出し、その熱で発電するもので、火山の多い日本では、将来の再生可能エネルギーの柱の1つになるとして期待されています。経済産業省は、原子力発電への依存度を減らす一環として、地熱発電への企業の参入を促す必要があると判断し、企業への支援を行う新たな制度を設ける方針を固めました。具体的には、地熱発電に適した場所を探すための費用について、独立行政法人を通じて補助金や出資金を出す形で支援することにしています。また、熱を地中からくみ上げるための井戸を掘るのに50億円から100億円程度かかるなど、初期投資の大きさが課題になっていることから、企業がそのための資金を金融機関から借りる場合、債務保証も行うことにしています。経済産業省は、新たな制度に必要な費用を来年度予算案の概算要求に盛り込むことにしています。
URL:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110925/k10015826841000.html
コメント
コメント一覧 (3)
まず規模が小さいことです。日本で稼動中の地熱発電所全部足しても火力一つ分あるかどうか。大規模な発電所を立てていない事もありますが、ボーリングして地下から噴出する蒸気が動力源ですから、火力や原子力のほうにむやみに大規模化しにくい事情があります。
次にお馴染み既得権益。建設候補地が国立・国定公園内だったり、既存の観光施設の温泉源とバッティングするという問題です。これは政治的解決に頼るしかありません。もう一つは原発・火力に従事してきた重電メーカーや技術者が転身する余地が乏しいことです。現在の地熱発電は温泉ボーリングと蒸気タービンがあれば成立します。この枯れ切った技術分野に新規参入の余地がほとんどありません。細々とした効率アップぐらいです。ただ、HDR(高温岩体発電)やマグマ発電は技術開発や研究の余地は十分ありますから、こちらに傾注すべきでしょうね。
PS.韓半島がまた騒がしいと思ったらまたぞろ「日韓は一体」と向こうが言い出したとか。日本側でも呼応する方々がでてくるでしょうね。
>HDR(高温岩体発電)やマグマ発電は技術開発や研究の余地は十分ありますから、こちらに傾注すべきでしょうね。
今日分のエントリーネタを先取りされてしまいましたね(笑)
そのとおりです。マグマ発電はもう少し時間が必要でしょうけれども、高温岩体発電はそこそこ基礎データが揃ってきているようですから、注力してもよいいかと思いますね。