久々に前後編のシリーズエントリーです。
1.榎本藻
7月7日、石川島播磨重工は、藻を光合成で増殖させる過程から重油を抽出する「藻バイオマス」事業に本格参入し、有限会社ジーン・アンド・ジーンテクノロジー(G>)と株式会社ネオ・モルガン研究所(NML)と合弁会社IHI NeoG Algae(IHIネオジーアルジ)を設立すると発表した。
IHIは本事業の推進のため、当初2年間で4億円の投資を行い、IHIネオジーアルジ社は、藻からの油分分離・回収、藻のさらなる能力向上等の技術開発を進めていくという。
以前「日本が産油国になる日」で紹介したけれど、藻の中には、油を出すタイプのものがあって、IHIネオジーアルジ社が開発を進める藻もそのひとつ。「榎本藻」と呼ばれるその藻は緑藻のボツリオコッカスの一種なのだけれど、普通のボツリオコッカスの1千倍の増殖能力を持っている。
石油をつくる藻はこれまで何種類か知られていて、1980年代から藻から油を取り出す研究は進められてはいたのだけれど、研究室のような管理された環境だと、藻は簡単に増殖できるのだけれど、田んぼとか池とかのような自然環境や、大きな培養槽で工業的に増殖させようとすると、今度は目的の藻以外の微生物も増えてしまって、肝心の藻の増殖が進まないという問題があった。
ところが、この「榎本藻」は雑菌等が繁殖する環境でも増殖可能という特徴があり、量産化にとって非常に有利に働いている。
また「榎本藻」は緑藻であって、光合成を行なう藻だから、基本的に水に浮べて、光を当ててやれば、勝手に増えてくれる。この点、油生産能力が高いものの、光合成を行なわず、他から栄養が必要なオーランチオキトリウムと較べても大量生産しやすいという利点がある。
これまでの実験では、榎本藻の培養液1リットル当たり1~3グラムの重油を抽出できるという。
更に、「榎本藻」から取れる油の品質は「A重油」並みというから、色んな分野での利用が期待される。
2.生産コストが課題
A重油は、日本独自の税制上の区分で重油という名がついているけれど、灯油・軽油成分の近くからとれる油で、化学組成的には軽油に区分される。外国では灯油・軽油と分けずに販売される例も多い様だ。
JIS規格では重油をその粘り気度で3つに区分していて、粘り気が低い順にA重油、B重油、C重油と名付けられ、A重油は常温ではサラサラした液体であるのに対して、C重油はドロドロの液体になっている。
A重油は、炭素の含有率が少し高いことを除けば、軽油に極めて近い成分特性を持っているので、基本的に、そのままディーゼルエンジンを回すことができる。
ただ、A重油は、軽油とほとんど同じにも関わらず、軽油のような取引税がなく無税で、その代わりに農業用・漁業用に限定することを条件にしているという違いがある。
つまり、この「榎本藻」は事実上、軽油を作る藻といってよく、安定的な生産量と品質を確保できれば、軽油を使用する産業に大きく貢献すると思われる。
ただ、「榎本藻」が油を作ってくれるのはよいとしても、肝心の藻を収穫、乾燥した上で油を取りだすという工程が必要になる。
榎本藻が入った、培養液の濾過システムや、乾燥設備の電力使用など、油にするまでのコストはそれなりにかかると思われる。
IHIによると、現在の生産技術では燃料1リットル当たり1000円程度のコストがかかるそうなのだけれど、3年後には生産開始に漕ぎ着け、2020年までにはコストを10分の1以下にしたいとしている。
それでも、品質的に無税のA重油と競合するということは、生産コストがA重油並みかそれ以下にならないと、皆使うようにはなかなかならないから、やはりA重油の価格であるリッターあたり80~90円を最低限の目標とすべきだろう。
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「藻から重油」本格参入 IHI合同会社設置へ 配信元:2011/07/07 21:31更新
IHIは7日、藻を光合成で増殖させる過程から重油を抽出する「藻バイオマス」事業に本格参入すると発表した。8月上旬をめどに、藻の育成技術を持つベンチャー企業2社と合同会社を設置する。IHI横浜事業所(横浜市磯子区)に培養設備をつくり、大量培養に向けた実証実験を始める。3年後のサンプル燃料の販売開始を目指す。
神戸大の榎本平教授が研究している「榎本藻(えのもとも)」を使用。緑藻のボツリオコッカスの一種で、通常の1千倍の増殖能力を持つ。これまでの実験では、榎本藻の培養液1リットル当たり1~3グラムの重油を抽出できることがわかっている。油質は農耕機や漁船の燃料に使われる「A重油」並みという。
大量生産が実現すれば「原油価格の高騰をヘッジする有力な手段」(出川定男常務)になりそうで、IHIは将来的に、抽出した重油を航空機燃料として利用することも視野に入れている。
URL:http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/business/manufacturer/516916/
コメント
コメント一覧 (1)
原油国(それを実質支配している米英グローバル多国籍企業=結局は、米英資本主義企業=それに乗っている米英政府)は、その実現化には、徹底的に、イチャモンを付ける危険性がある、と思います。