日比野庵 新館

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今日はF35とステルスの話です。




1.格安F35の謎

F35が一機あたり51億円で買えるという話がある。

これは、7月22日に、アメリカのロッキード・マーチン社スティーブ・オブライアン担当副社長が都内でのインタビューにて、1機当たりの価格を約6500万ドル(約51億円)に抑えられるとの見通しを述べたもの。

ただ、「2016年から30年にかけ、毎年3機ずつ購入した場合」という条件つきだから、長期間に渡っての量産効果込みでの値段ということになる。それでも「選定されれば日本国内に製造ラインを持ちたい」とし、三菱重工業など複数企業に協力を依頼する意向を示している。

ただ、本当に50億そこそこになるのかは聊か疑問。

というのは、今年の3月の時点で、アメリカのゲーツ国防長官が、F35の調達価格が当初見積もりの3倍にもあたる約1億6千万ドルと、F22の約1億4千万ドルを超えることが明らかになったから。

2011年3月の時点で、約1億6千万ドル、およそ125億円だったのが、急に51億円になるということは、やはり「2016年から2030年まで毎年3機ずつ購入する」条件が効いていると見るべきで、最初の数年から10年くらいは100億以上、その後どんどん下がってゆくという感じなのだろうと思われる。

また、製造ラインを日本に置くということに関しては、6月27日に同じく、ロッキード・マーチン社のジョン・ボルダーストン日本担当部長が時事通信のインタビューに「最終組み立てや機体のメンテナンス、アップグレードへの参加を日本企業に申し出る」と答えている。

ただ、ステルス機の製造をやったことのない日本に対して、いきなり製造ラインをポンと置いただけで直ぐ生産できるとは思えないし、整備等のノウハウ吸収などで相当時間が掛かることを考えると配備にはまだまだ時間が必要だろうし、2011年時点でF35は試作機13機と初期生産タイプの15機を造ったのみで、まだまだ開発中の機体。運用開始は2017年以降と言われている。

では、その間、空の守りは大丈夫なのか。




2.ステルスは目新しいものではない

中国は、今年の4月に新型ステルス機「殲20」の2回目の試験飛行を実施した。

「殲20」は1990年代から開発された、第5世代のステルス機の1つ。プロトタイプの機体F22より一回り大きく、ロシア製のターボファンエンジン2基を搭載しているのではないかとされている。

一部には、高い空戦能力に加え、対地対艦攻撃能力も備えるマルチロール機ではないかという観測もあり、さらにはスーパークルーズ能力もあると見られている。

当初、アメリカの情報機関は、中国は2020年まで「殲20」を配備できないと見積もっていたこともあり、今回の試験飛行等、その開発スピードは予想以上だとの認識を示しているようだ。

一般的にステルス技術とは、相手に気づかれ難いようにする工夫のことをいう。

例えば、ジャングルで迷彩服を着たり、足音がしないように忍び足で歩くことなんかもステルス技術の一種。だから、それとは逆に、例えば、忍者屋敷にあるような、ウグイス張りの廊下とか、防犯のガラガラ、即ち鳴子を張り巡らしたりするのなんかは、隠れて近づく敵を早期発見する技術、いわゆるアンチ・ステルス技術にあたる。

だから、ステルスといっても、近年になって発見された方法でも何でもなくて、昔から、ステルスとアンチ・ステルスのいたちごっこがあったし、今も続いている。



航空機におけるステルス技術とは何かというと、それは、接近を相手に気づかれなくするための技術ということだから、主に相手のレーダーに探知されにくい技術ということになる。

普通、レーダーによる航空機の探知とは、ある特定の空域に向けて、レーダー波を送信したとき、何某かの物体に当たって、そのレーダー波が反射してきたものを受信することで探知する。

したがって、レーダーといっても、送信したレーダー波が自分のところに真直ぐに反射して戻ってこないと探知できない弱点を持っている。だから、ステルスはこの弱点を突いて、自分のところに飛んできたレーダー波をあらぬ方向に逸らしたり、吸収したりすることで成立している。

レーダー波がまっすぐに反射する場合は何かというと、レーダー波が対象物の平面に垂直にぶつかる場合がひとつ。この場合はレーダー波がそのまま反射する。次にレーダー波が斜めにぶつかる場合を考えると、レーダー波は入射角と同じ角度で反対側へ反射するのだけれど、たとえば、底が垂直の凹みであった場合、一度反射したレーダー波は、今度は垂直部分で反射して、やはり最初のレーダー波がやってきた方向に反射してしまう。これは、あたかもビリヤードの玉を壁に勢い良くぶつけると、2クッションして自分のところに戻ってくる様子に似ている。

だから、ステルス機は、角のない滑らかな機体を持っているし、垂直尾翼なんかも垂直に立てずにわざと斜めにしている。

また、塗装もレーダー波を吸収しやすい素材のものにすることで、反射波の強度を落として、探知されにくくしたりしている。

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3.マルチスタテッィクとMIMO

こうしたステルス技術に対して、当然、アンチステルス技術も開発が進んでいる。たとえばその一つに、バイスタテッィクレーダーがある。バイスタテッィクレーダーとは、レーダーを送信側と受信側で分けて、それぞれの結果を合成することで探知しようとするもの。

先ほど、ステルス技術はやってきたレーダー波をそのまま反射させずに別の方向に逸らせることで探知されにくくするといったけれど、もし、その逸らせた方向に、丁度、受信用のレーダーアンテナがあったら、そちらでバッチリ探知されてしまう。

このように、レーダー送信機と受信機を離して設置して、両者間を通信路で結ぶことで、ステルス機も探知しようというのがバイスタテッィクレーダー。

これは、例えば、今まで使っていたレーダーアンテナを送信専門にして、新たに別の場所で受信専門のアンテナを用意することでも、バイスタテッィクレーダーにすることができるから、比較的容易に装備できるという利点がある。

勿論、バイスタテッィクレーダーにも欠点はある。

普通のレーダーは送信ビームと受信ビームが同一線上にあるから、探知範囲は線状になる。だから、360度探知しようと思えば、レーダーアンテナをくるくる廻してやって、線状の探知範囲をぐるりと一周させることで全方位のレーダー探知を行っている。

だけど、バイスタテッィクレーダーは、送信側と受信側のアンテナの位置は別なので、送信ビームと受信ビームの交点にある対象物しか探知できない。従って、探知範囲は線でなくて点になってしまう欠点がある。

では、送信機と受信機が1つづつではなくて、もっと沢山あったらどうか。

例えば、何個もの送信機と受信機をいろんな場所に配置して、それぞれ全部繋いで同期させることができれば、点である、送信ビームと受信ビームの交点をいくつも持てることになるから、探知範囲は点から面になる。

ここまでくると、もうバイスタティックではなくて、マルチスタティックレーダーとでも呼ぶべきものだと思うけれど、こうしたカバーの方法もある。

また、もう一歩進めて、送信側のレーダーの代わりに、ラジオやテレビ、或いは携帯電話などの送信局を送信ビームとして使うやり方もある。電波なんて、日本ならそこら中に飛んでいるから、それに対する反射波をキャッチしたほうが現実的といえば現実的かもしれない(パッシブ・レーダー)。

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防衛省は23年度の業務計画で「将来のレーダー方式に関する研究」として、23億円を計上しているのだけれど、そこで研究を行なうのが、「MIMO(マイモ=MultipleInputMultipleOutput=複数入力・複数出力)」と呼ばれる技術。

この技術は文字通り、複数の送受信アンテナで得た探知信号を合成し、現状では探知が難しい高性能ステルス戦闘機などの探知を可能にすると注目されている技術。

比較的小さなアンテナを複数用意することで可能になるため、単純にレーダーを大型・高出力化することで探知能力を向上させる方法と較べて安く済む上に、高性能化できるという利点がある。

今のところ、MIMOに使用する送信機、受信機はそれぞれ二メートル四方と小型になる予定なのだけれど、その性能は、高さ三十四メートルの超大型レーダー・FPS5、通称「ガメラレーダー」の性能を上回るという。

計画では、23~26年度の4年間でシステム設計と試作し、26年度から27年度にかけて試験を行う予定になっているようだ。

MIMOは元々、無線通信の世界で送信機と受信機の双方で複数のアンテナを使う技術のことで、送信側は複数のアンテナで同時に異なるデータを送信して、受信側はそれぞれのアンテナで受信したデータを合成する。これによって、通信帯域を擬似的に広域化させて、通信の高速化が可能となる。

また、複数のアンテナから複数の経路を通って電波が届くようになるから、障害物が多く存在する環境でも送受信が安定する効果もあるという。

このMIMO技術が具体的にどのようにレーダーに応用されるのかは分からないけれど、複数の送受信機を使用する以上、マルチスタティックレーダー的に使うことも可能だと思われる。

速やかな実用化と実戦配備・運用に期待したい。



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画像F22待望論復活 中国「J20」登場で焦り 日本の配備計画にも影響 2011.3.9 23:16

 【ワシントン=佐々木類】米英などが共同開発中でレーダーに捕捉されにくい第5世代のステルス戦闘機「F35ライトニングII」をめぐる米政府内の迷走が止まらない。調達価格が当初予定を倍近く上回るなど開発に手間取っているためだ。中国がステルス性の戦闘機「J20」の試作に成功したとされることも焦りの背景にある。米国内では、高コストを理由に製造中止となったF22ラプター復活論まで登場、F35導入を検討中の日本政府の選定作業にも影響を与えそうだ。

 「今後2年間で性能、コストを軌道修正できなければ開発を中止すべきだ」

 ゲーツ国防長官は最近の議会証言でたびたびこう述べ、F35の開発遅れと高コスト化に懸念を表明した。

 そもそも、日本などが導入を渇望していたF22の製造を中止したのは、1機当たりの調達価格が約1億4千万ドル(約112億円)とF35の1機約5千万ドル(当初見積もり価格)の3倍に上ったためだ。

 にもかかわらず、F22復活論が出てきたのは、F35の開発に手間取り、総額が約3820億ドルに達し、調達価格も1機当たり約1億6千万ドルとF22を上回ることが判明したためだ。

F22はすでに製造中止が決まっているが、米陸軍への納入分を製造する工場が稼働していることも復活論の背景にある。ゲーツ氏が予定通り辞任すれば「F35の開発計画自体がどうなるか分からない」(米国防関係者)との声もある。

 もっとも、ゲーツ長官自身、中国のステルス戦闘機の開発速度を読み誤っている。2009年9月、ゲーツ氏は講演で「中国は20年まで第5世代戦闘機を持ち得ない」と予想した。

 だが、今年2月の上院公聴会では、第5世代戦闘機について「中国は20年までに50機、25年までに200機を所有するだろう」と見方を修正した。同1月に訪中した際に姿を現したJ20の影響があったようだ。

 米大手シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ」のマイク・オースリン研究員は、「米空軍へのF35配備を400機減らす計画があるが、それよりもF22を150機配備した方がお得だ」とF22の復活に期待感を示した。

URL:http://sankei.jp.msn.com/world/news/110309/amr11030923170011-n1.htm



画像F35、最終組み立て日本委託も=次期主力戦闘機選定-米ロッキード社

 【ワシントン時事】日本の次期主力戦闘機(FX)の候補になっている次世代ステルス戦闘機F35の開発主契約社、米ロッキード・マーチン社のジョン・ボルダーストン日本担当部長は27日、F35がFXに選定された場合、F35生産の最終組み立てを日本企業に委託する方針を時事通信の取材に明らかにした。FXの機種は年内に決定される。
 ボルダーストン部長は、ロッキード社が日米共同開発の航空自衛隊F2戦闘機を三菱重工業と共同生産している実績を指摘した。その上で、日本がF35を導入すれば、「最終組み立てや機体のメンテナンス、アップグレードへの参加を日本企業に申し出る」と説明。「日本の防衛産業は第5世代のステルス機の製造プロセスに関与することで、戦闘機生産能力の近代化を図れる」とアピールした。
 F35をめぐっては、機体の性能を制御するソフトウエアの開発遅延が問題視されているが、同部長によると、最終型のソフトウエア「ブロック3」を搭載したF35の開発試験を2016年初めに完了し、同年中に日本に提供。日本政府が要求する技術能力と納期の条件を満たすことができるという。
 ただ、国防総省によれば、ブロック3搭載機の開発試験後に行う予定の運用評価試験の終了時期は17年になる見込み。日本はF35の国際共同開発に参加していないこともあり、現時点では、製造技術の使用許可料を支払って製造するライセンス生産は難しい見通しだ。 
 FXは老朽化が進む空自F4戦闘機の後継戦闘機。米国製では、豊富な運用実績で即戦力になり、日本でのライセンス生産可能なボーイング社のF18スーパーホーネットも有力候補。両社は9月末までに、防衛省が提示したFXに求める性能や装備などを記した提案要求書に対する回答を行う。(2011/06/28-15:47)

URL:http://www.webcitation.org/5zmMe20WX



画像ステルス機の優位を崩せ! 最先端の空中線で探知 技本「MIMOレーダー」研究に着手

 防衛省は23年度からステルス戦闘機の探知も可能とされる地上分散配置型「将来レーダー」の研究に本格着手する。日本などが先行する最先端の空中線技術「MIMO(マイモ=MultipleInputMultipleOutput=複数入力・複数出力)」を用いて複数の送受信アンテナで得た探知信号を合成し、現状では探知が難しい低RCS(レーダー反射面積)の高性能ステルス戦闘機などの探知を可能にする。
 日本周辺ではロシア空軍が「PAKFA」、中国空軍が「殲20(J20)」などのステルス機を開発中で、「MIMO」はこれらの脅威に対応するレーダーを目指す。
 防衛省は23年度業務計画で「将来のレーダー方式に関する研究」に23億円を計上、技本電子装備研究所が中心となり、23~26年度にシステム試作、27年度に試験を行う予定。同レーダーは小型アンテナを主とする低コストのシステムだが、現有の大型レーダー「J/FPS?5」(ガメラ・レーダー)と同等以上の性能を持つものとなる。
 MIMOレーダーが実現すれば、「ステルス機優位」の状況の打開だけでなく、外国との共同開発・技術協力などの際の強力なバーゲニング・パワーとしても期待されている。

URL:http://www.asagumo-news.com/news/201101/110127/11012707.html

コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. sdi
    • 2011年07月30日 00:52
    • F-22もそうですがF-35の「ステルス性能」の大前提が「敵機は非ステルス機を想定」して開発されたということです。この点では後発の殲20のほうが有利です。開発を始た時期、既に米軍はステルス戦闘爆撃機を実戦投入していましたから最初から「敵機はステルス機or非ステルス機」という想定で開発を進めていたでしょう。もちろん開発目標を達成できたかどうかは別です。
      ことさら殲20の存在をアピールする一方でその性能、用途等は一切不明というのは「怪しい」です。中国のイメージ戦略に乗せられているような気がします。ただ、アメリカ側も百も承知で故意にそれに乗っている可能性もあります。早速F-22復活論も出てますしね。
      F-35については、現状ではなんとか開発費を回収したいロッキード社の思惑と言うしかありません。F-35については、開発が終了した段階でまた考えればいいんじやないか?と思っております。
    • 2. 日比野
    • 2011年07月30日 08:11
    • sdiさん。殲20のイメージ戦略ですか、有り得ますね。私もF35については同感です。何とか売りたい思惑があるように見えますし、F22が復活するのなら、売ってくれるかどうかは別として、F22にしたほうがよいかと思いますね。
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