作家を目指す君に!

公募ガイド編集部による、小説家を目指す人のためのブログ。 毎週木曜更新。

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作家を目指す君に! 小説抄 其の7 三島由紀夫『命売ります』


公募ガイド社がある四谷坂町は江戸時代、50人の武士が徳川秀忠から屋敷を拝領したのが始まりだそうで、その頃、四谷坂町の向こうは尾張徳川家の上屋敷。ここは明治になって陸軍士官学校になり、その後、陸軍省、防衛庁、防衛省となって今に至りますが、防衛庁になる前に陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地だった時代があり、その頃、ここで三島由紀夫が自決しました。

時は高度経済成長期の昭和45年。半世紀も前とはいえ、武士なんていないし、和服の人すらほとんどいない時代。だから「割腹自殺」というのは衝撃的で、学校でも話題騒然でした。当時、私は小学生でしたが、子ども心に勇ましい人だなと思ったものでした。軍服に鉢巻き姿で演説し、肉体はボディビルで鍛えた隆々とした筋骨。どうしたってやわだとは思えません。

書く小説も硬質という印象があります。もちろん、純文学の系譜にある作家です。その意識があったから、『命売ります』は意外でした。「週刊プレイボーイ」に連載したものだそうですが、タイトルは東映のやくざ映画っぽく、ハードボイルド小説でもある。そして、自殺に失敗した男が自分の命を売りに出すというどこかユーモラスな荒唐無稽な設定。本当に怪作です。

カギカッコの中に長いセリフがあって、その中で頻繁に改行してしまうというちょっと雑な書き方もしていますが、なんだか妙に心に残る作品です。純文学作家が通俗小説に徹して書いたら、そこに図らずも本音が出てしまい、その虚無な人生観が漂っている感じ。できれば、『金閣寺』と併せて読んでみると、相互によさが引き立つ気がします。ぜひご一読を!
(黒)

作家を目指す君に! 小説抄 其の6 浅田次郎『帰郷』


ある月、デビュー数年の作家Aの小説を読みました。非常にアイデアに富んだ作品で、面白く読ませてもらいました。そのあと、中堅作家Bの小説を読みましたが、同じエンターテインメント小説でもこちらのほうはずいぶんと骨太で、比べてみると文章もずっとうまい。さすがデビュー15年だけあるなあと。で、そのあと続けて浅田次郎さんの小説を読んだのですが。

作家Aもよかった、作家Bはもっとよかった、でも浅田次郎さんはそれよりもさらにうまかった! プロに向かって「うまかった」は失礼かもしれないが、ストーリーもテーマも文章もセリフも、もうどれ一つ欠点がない。文芸とはいうけれど、まさに文の芸術を見ているよう。普通欠陥の一つぐらい見つかるものなのにね。完全に別格、完全に脱帽でした。

『帰郷』は単行本の帯にあるとおり「戦争小説ではなく反戦小説」で、戦後を舞台とする作品もありますが、大きなテーマとしては戦争を扱っています。表題作となった「帰郷」では、ある兵士が戦地から帰還し、いったんは帰郷しますが、家族には会いません。なぜか。その理由があり得ないぐらい切ない。詳しくは書けませんが、でも昔はよくあったことなんだろうと。

思い起こすと昔は町のあちこちに戦争の影がありました。鐘がなくなったままのお堂とか、防空壕跡とか、街頭の傷痍軍人とか、戦争未亡人とか。そういうのがだんだんなくなり、何よりそれを苦々しく語る古老も消え、反戦の声にもイマイチ実感が伴わなくなってきたとしたら、やはり小説という再現装置は何ものにも増して有益なんだなと改めて思った次第。
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作家を目指す君に! 小説抄 其の5 宮木あや子『校閲ガール』


伊坂幸太郎さんがプロになって初めて原稿を書いたのは公募ガイドの「賞と顔」(現「受賞のコトバ」)だったそうで、その中に「ゲラとか校正といった用語まで編集部の女性に教わって」といったような内容のことが書かれています。小説を書いていても、出版や印刷に携わっていなければ、デビュー前は専門用語をご存じないということです(そりゃそうですね)。

応募要項でよく出てくるのはノンブルでしょうか。これは「NUMBER」のフランス語読みで、ページ番号のこと。ルビはふりがなのことで、語源はルビーらしい。ゲラは校正刷りのことで、校正は文字等が正しいかどうかチェックすること。校正には校正者が一字一句確認してくれる通常の校正のほか、著者自身による著者校正があり、もちろん編集者も校正します。

『校閲ガール』のタイトルにもなっている「校閲」は、校正よりもさらにもう突っ込んで誤りをチェックすること。通常、校正するときは校閲もしますが、狭義の意味の校正は原稿とゲラの突き合わせなので、原稿とゲラが同じなら作業はそこまで。一方、校閲は原稿自体の不備も指摘します。たとえば「事実誤認では?」「表記の不統一」「厳密には誤用」「差別表現」とか。

つまり、校閲ができる人は相当教養のある人です。実際、私も校正者の方に一から十まで教わって……あ、『校閲ガール』でしたね。将来、皆さんが作家になったら自作に校正記号で赤を入れますし、校正者と付き合うこともあるかもしれませんので、予習を兼ねて読んでおくといいかも。10月から石原さとみ主演で、日本テレビ系列でドラマ化されるので、そちらもどうぞ。
(黒)


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