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◆◆「NHKから国民を守る党」の主張を批判する
2019年8月14日 放送を語る会
★★放送を語る会
http://www.ne.jp/asahi/hoso/katarukai/
2019年3月22日
第25回参議院選挙で、「NHKから国民を守る党」は、比例で1議席を確保し、選挙区 の得票率が3パーセントを超えたことで政党要件を満たす存在となった。
一般にあるNHKへの批判、不満を集票に利用し、地方自治体の議員や、国会議員の職 を得た同党にたいし、有権者からは批判の声が強まっている。
同党のさまざまなふるまいには道義的に重大な問題があると当会は考えているが、ここ では同党の「NHKをぶっ壊す」というスローガンと「NHKの放送をスクランブル化す る」という主張に限定して批判することとしたい。
1) 問題はスクランブル放送が是か非かではない
N国党は、党の目的を「NHKの放送をスクランブル放送にすること」ただ一つだとし、 実現すれば解党するとまで公言している。
スクランブル放送にして、視聴する人だけが料金を払えばいい、という主張は、一見合 理的であるかに見える。しかし、もしNHKの地上波放送がスクランブル放送になれば、 受信料収入は激減し、現在のような規模の放送企業体としてのNHKはとうてい維持でき ない。同党の主張通り、NHKは「ぶっ壊れる」ことになる。
したがって、N国党の政策については、スクランブル放送にすべきかどうか、という問 題ではなく、NHKのような公共放送機関が日本で必要かどうか、という問題ととらえて 検証する必要がある。
2) 公共的放送機関をなくしてはいけない
N国党は周知のように「NHKをぶっ壊す」と繰り返し叫んでいる。しかし、NHKの ような公共的放送機関は「壊して」いいのだろうか。
たしかに、現在のNHKは、政権寄りの政治報道をはじめ、そのあり方がさまざまな批 判を浴びている存在である。しかし、そのことと、将来にわたってわが国でNHKのよう な公共的放送機関が必要かどうかは分けて考える必要がある。
放送法は、NHKを、国費でもCM収入でもなく、視聴者の受信料だけで運営する放送 機関とした。国家権力からも企業の支配からも自由に、独立して自律的に放送事業を行う ことを可能にするための制度である。
この制度に基づく「公共放送」によって、視聴者の多様な要求に応える多様な放送が実 現できることになった。NHKでは、マイノリティのための番組、教育現場への教材を提 供する学校放送番組、文化の継承のための古典芸能番組など、視聴率に左右されない放送 を実施できている。
当放送を語る会は、このような、市場原理の影響からも自由でありうる公共的な放送機 関は、日本の民主主義と文化にとって重要な存在であると考えている。その認識の上で、 現在のNHKが、その理想にふさわしい状態にあるかどうかを監視し、必要な抗議・要求 行動を行う、というスタンスで活動してきた。
ところがN国党は、NHKを壊す=破壊する理由として、週刊誌が報道したというNH K職員の「不倫」の事件をNHKが説明しないからだ、という驚くべき主張を政見放送で 1
展開してきた。これまで受信料で形成されてきた、国民の共有財産とも言える公共放送機 関を、このような理由で破壊するという主張は到底容認できない。
いまNHK問題に取り組む視聴者団体に、「N国党とはちがうのか」という問い合わせが あると聞いている。この際、当会のような視聴者団体とN国党とはいかなる点ても接点は なく、むしろ反対の立場に立つものであることを明らかにし、同時にN国党と全国の視聴 者団体とは厳しく区別されるべきだと主張したい。
3) スクランブル放送とは何か。実施すればNHKはどうなるか
私たちは、前述のように、スクランブル放送にすればNHKは壊れる、と考える。ではなぜそうなるのか。
スクランブル放送とは、放送内容を暗号化し、電気的に撹拌して放送する方式である。
視聴者が放送を見るためには、このスクランブルを解除する手段を入手しなければならない。そのために視聴者はNHKと契約が必要になる、というシステムである。
これをNHKの総合・Eテレの地上波で実施したらどうなるか。 正確には予測できないが、NHKにとって最悪のシナリオはつぎのような事態である。 テレビは無料の民放を見れば間に合うと考え、できれば受信料の出費を控えたい、という視聴者は多いと思われる。
現在受信料契約をしている視聴者のうち大半がスクランブル放送の解除をしない、つまりNHKと契約しない可能性がある。受信料収入が激減することは避けられない。
受信料でつくられた東京はじめ各地の放送会館、設備は維持できず、売却するほかなく なる。また、放送文化研究所や放送技術研究所のような社会に貢献すべき研究所は、スクランブル解除に役に立たないということで閉鎖に追い込まれると予想できる。
放送内容では、「ETV特集」や「NHKスペシャル」など時間と経費のかかるドキュメ ンタリーは制作が困難になる。また、スクランブルを解除してもらうために、いわゆる大 衆受けのする娯楽番組が主流になり、少数の視聴者を対象にする福祉、教育、文化・教養番組などは消滅する可能性がある。
そうなればNHKは小さな有料放送局として残るしかないことになる。
日本の放送界は実質的に商業放送が支配すことになり、NHK、民放の二元体制をとる現行放送法体系は根底から崩壊せざるを得ない。このような状況では、放送の分野で視聴 者市民の知る権利が大きく損なわれる恐れがある。
4) いまNHKに求められるもの
N国党の主張に問題があるにもかかわらず、選挙区で 150 万票、比例代表で 98 万票が同 党に投じられた事実を、NHKは深刻に受け止める必要がある。NHKは、現状が真に「視 聴者に支持される公共放送」となっているかを厳しく問い直すべきである。
公共放送のあり方から逸脱する政権広報のような政治報道を改めること、会長の公募制 など、NHKの経営への視聴者の参加の方策を案出すること、番組やニュースに関する視 聴者の意見や批判に丁寧に答えること、委託法人等による暴力的な受信料契約強制をやめ ること、さらに、ニュース、番組制作者と市民が交流するようなイベントを企画し、対話 を進めること、などを強く要求したい。
「放送法では受信料を払うことになっている」といった解説的広報番組を流せば済むと いうものではない。公共放送の本来のすがたに立ち返る具体的な行動と努力が必要である ことを、N国党の伸長という事態を受けてあらためて強調しておきたい。
◆◆日本放送協会会長 上田良一様
政府から独立した公共放送の原則に立つ政治報道を求めます
2019年3月22日
NHKとメディアの「今」を考える会
http://www.ne.jp/asahi/hoso/katarukai/190322moshiire.pdf
(全文)
日頃、NHK経営の難しいかじ取りに尽力しておられることと存じます。
私たちはNHKが各分野ですぐれた番組を放送していることを知っています、しかし、こと政治報道 に関しては、政府広報ではないかという批判が市民の間から強く上がっています、このたびそのいくつ かの例をお示しし、改善をお願いすることとしました。
安倍首相の発言や行動に対する批判的報道がほとんどありません。
安倍首相がNHKニュースに登場する機会が非常に多い状態が続いています。 一国の首相の発言は 重要で、ニュースとして伝えるのはありうることです。しかし問題は、安倍首相の発言が事実なのか検 証する報道がほとんど見当たらないことです。
「日曜討論」の「(辺野古の)サンゴは移した」という発言も、事実かどうかの検証取材がありませ んでした。結果として首相のフェイク(ウソ)発言が影響を与えたままになっています。
また、安倍首相は国会で「都道府県の6割以上が自衛隊へ協力していない」、だから憲法改正が必要 だ、と主張しました。重大な発言です。新聞や民放ニュースではすぐに調査・取材して、実際はおよそ 9割の自治体が何らかの協力をしていることを明らかにし、首相発言は正確ではない、と伝えました。
しかし、NHKはこの件について少なくとも2月までの報道では検証を行っていません。
NHKでは安倍首相批判はタブーのように見えます。
政権にとって不都合と思われる事実が伝えられない例があります。(辺野古報道で目立ちます)
昨年の翁長前知事沖縄県民葬では、菅官房長官に参列者から「帰れ!」「ウソつき!」などのヤジが 飛びました。これ自体がニュースであるのに、NHKは報じませんでした。
また、今年1月、辺野古に軟弱地盤があり、防衛省が設計変更を検討していることや、政府が県に無 断で土砂規準を変更し、辺野古埋め立て地に赤土が投入されている疑いがあることなどが相次いで明ら かになりました。こうした事実は民放ニュースでは伝えられましたが、その時点での「ニュースウオッ チ9」では報道されませんでした。
政府が発表する呼称に従う傾向が気になります。
ニュース項目で、政府が主張する用語に従う傾向が続いています。
共謀罪法国会審議報道では、政府が発表した「テロ等準備罪を新設する法案」という呼称が使われ続 けました。韓国徴用工裁判報道では、当初、「徴用工」問題、としていたのを、政府が徴用工を「朝鮮 半島出身労働者」と表現したあとは、「『徴用』問題」という表現に変え、「徴用工」という用語をニュ ース項目では使わなくなりました。
アメリカとの2国間貿易交渉については、事実上FTA交渉であることを伝えず、それを隠す政府の造語、TAG(物品貿易協定)という呼称しか使われていません。
森友・加計学園問題では、報道を抑制する姿勢が批判されました。
森友・加計学園問題では、NHKニュースではいくつかの重要なスクープがありました。しかし、その一方で、報道局幹部による報道の抑制があったことがメディアで伝えられています。2017年、NHKが「総理のご意向」などの文科省文書を入手したのに、スクープとして報じられず、前川喜平前事務次官の単独インタビューも放送されませんでした。
最近では、森友学園についての大阪局取材のニュースに、東京の報道局幹部が圧力をかけたと、このほど退職した大阪局の元記者が告発しています。
以上のような政治報道の状態は、長年培われたNHKへの信頼を損なうものにならないでしょうか。
2月4日の朝日新聞の記事によれば、会長は、「現政権との距離は適切か」と問われたのに対し「答 えは控える」として、回答されませんでした。失望を禁じえません。
かつてNHKでは「慰安婦」問題の番組が政治介入で改変されました。そして「慰安婦」の番組をほとんど作らなくなる状態が続いています。
NHKは、受信料のみで支えられることによって、政府から独立した存在であるべきです。政権から距離を置き、必要な時は批判する、というのが本来の姿です。政治報道がその基本に立ち返って行われ
ることを強く求めます。
最後に要望したいことがあります。このところ制作局での大がかりな「組織改正」が進行中と報じら れています。番組の制作条件、現場制作者の労働条件の改変は、番組の質に直結するものとして、視聴 者は重大な関心を持たざるをえません。また、一部の番組が、「反安倍政権」といった報道が週刊誌な どでありました。こうした機会をとらえ、政治権力やそれに呼応する社会的勢力が圧力・攻撃をかけて くることを危惧しています。
「組織改正」にあたっては、なにより現場制作者の要求を最大限に尊重することはもちろん、万一、 番組に圧力、介入がある場合には、断固として番組と制作現場を守っていただくよう要望します。
◆◆久米宏がNHK番組でNHKへの注文
◆◆(Media Times)参院選、テレビ低調 民放報道4割減/NHK3時間減
朝日新聞2019年7月19日
参議院選挙のテレビ報道が低調だ。選挙自体が盛り上がらず、高視聴率を見込めないためと関係者はみるが、そんな常識を覆す現象も起きている。
テレビ番組を調査・分析するエム・データ社(東京都港区)によると、地上波のNHK(総合、Eテレ)と在京民放5社の、公示日から15日までの12日間で選挙に関する放送時間は計23時間54分で、前回に比べ6時間43分減っている。とりわけ「ニュース/報道」番組の減少が顕著で、前回から約3割減、民放だけなら約4割減っている。
公示日のテレビを見ると、NHK「ニュースウオッチ9」がトップで伝えたり、TBS系「NEWS23」と日本テレビ系「news zero」が党首討論を行ったり、午後9時以降の主な報道番組六つすべてが選挙にふれたが、翌日は六つとも報じなかった。
「情報/ワイドショー」は、前回より放送時間が増えたが、フジテレビ系「とくダネ!」やTBS系「ビビット」、日本テレビ系「スッキリ」など、公示日から15日まで選挙企画が全くないところも。
10年以上情報番組に携わった在京キー局の元プロデューサーは、選挙自体、盛り上がりに欠けるためだとみる。「安倍政権1強。政権交代が起きる要素もない。取り上げたくなる個性の強い候補者や選挙区もない。視聴率が取れない」
また選挙期間中は、陣営からのクレームを恐れ、発言時間をストップウォッチで管理するなど細心の注意が必要だったとし、「数字が取れないのに、作り手は、手間とリスクを取って放送するメリットはないと思っているのでは」。
そんな中、積極的なのはテレビ朝日系の朝の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」。公示日以降、ほぼ毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに専門家を招いて掘り下げ、各党の主張を紹介している。しかも、視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は連日9%台を記録。同時間帯の民放の情報番組の中で首位を走る。
憲法改正に絡む「緊急事態条項」を取り上げた祝日15日の放送は、15年の番組開始以来2位の11・7%となった。小寺敦チーフプロデューサーは「難しいテーマに司会者の羽鳥慎一さんさえ『祝日の朝に本当に見てもらえるのだろうか』と心配していたのに、結果を見て、選挙に関する有権者の知りたいという欲求を確かに感じた」と話す。
NHKは前回に比べ3時間弱、放送時間が減少した。同局幹部は4日の公示日前後にあった九州南部の大雨に触れ、「災害報道に時間を割いたことも影響しているのでは」と言う。
ただ、NHKの場合、ネット上で選挙サイト「NHK選挙WEB」も展開。全国の選挙区ごとに、候補者へのインタビュー映像や、争点解説の動画を発信するなどネット報道を強化しているという。別の幹部は「全体では、発信する情報量はむしろ増えている」。
■専門家「公平性気にしすぎ」
そもそも、各局の放送内容に批評性が足りないと指摘するのは、フジテレビで報道番組のディレクターなどを務めた筑紫女学園大の吉野嘉高教授だ。「本来であれば、安倍政権の6年を振り返り、何が実現して何が実現しないのか検証する報道が必要だ。公平性に気が回りすぎて、全く切り込めていない」と話す。「有権者が一番知りたい時期に、知る権利に量的にも質的にも応えていないことを意識すべきだ」と指摘する。(真野啓太、西村綾華、定塚遼)
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Media Times(メディアタイムズ)
◆◆テレビ局のアリバイ的選挙報道
赤旗19.07.18
◆◆NHKは「政権広報」になっていないか?
赤旗17.07.11
◆◆若者狙う、首相のSNS術 芸能人と自撮り/人気曲のハッシュタグ
2019年7月3日朝日新聞
桜を見る会で、首相の前でダンスを披露する「GENERATIONS from EXILE TRIBE」の片寄涼太さん。ポップな文字が目を引く=首相官邸インス
関ジャニ∞の村上信五さん(左)と笑い合う安倍晋三首相=首相官邸インスタグラムから
首相(中央)は、俳優の高畑充希さん(左)、大泉洋さんとセルフィーを撮る様子を投稿=首相のインスタグラムから
安倍晋三首相が、芸能人とSNSでの「共演」を重ねている。自身のツイッターや首相官邸のインスタグラムに記念写真を積極的にアップ。「イメージ重視」の発信で、参院選の公示を4日に控えて若年層へのアプローチを意識しているのは明らかだ。こうした手法には批判の声もあがる。
主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)直前の6月27日、首相がツイッターにアップしたのはアイドルグループ「関ジャニ∞(エイト)」の村上信五さんと笑い合うツーショット写真。開催地の大阪で、村上さんのラジオ番組の取材を受けたという。直前にインドのモディ首相と会談した部屋だ。
官邸のインスタは関ジャニ∞の人気曲にちなみ、「#シンゴと#シンゾーで#ワッハッハー」とファンに刺さるハッシュタグを添えて投稿した。
6月6日に首相公邸で吉本新喜劇のメンバーと面会し、官邸のインスタで生配信。5月12日にはアイドルグループ「TOKIO」と東京都内のピザ店で食事した。
芸能人との華やかな写真は普段は首相のツイートを目にしない層にも届く可能性が高い。首相がTOKIOとの食事の際の記念写真を添えたツイートを、朝日新聞が米クリムゾン・ヘキサゴン社のソーシャルメディア分析システムを使って分析したところ、翌13日までに3460万の利用者に届いたと推計された。
◆政治利用、指摘も
フォロワーが233万人いる俳優の高畑充希さんが首相とのセルフィー(自撮り)をインスタに投稿すると、「政治利用されている」と批判のコメントの一方、26万件超の「いいね」が集まった。
官邸のSNS運営は、民間企業からの出向も含む内閣広報室の20代、30代の若手職員約10人らが担う。
首相や官邸がSNSに力を入れるのは、支持層固めを意識するためだ。第2次安倍政権以降の内閣支持率は、18~39歳の男性で際だって高い。アベノミクスの経済効果や雇用環境の好転といった政権の看板が響きやすい世代だ。
さらに政府関係者は「首相は新聞を読まない層を重視している。SNSで自分でつかみ取った情報は『真実だ』と信じる傾向にある」と解説する。
政策論争よりもイメージを重視した発信に、立憲民主党の蓮舫副代表は5月、「桜を見たり芸能人と会ったり。安倍首相にその時間があるんだったら、国会に来るべきだ」と予算委員会の開催に応じない自民党を批判した。
◆政策と合致、疑問
若者に目を向けるのは自民党も同じだ。令和が始まった5月、若者向けの広報戦略「#自民党2019」を始めた。18~25歳女性をターゲットとするファッション誌「ViVi」ウェブ版の広告企画記事では「どんな世の中にしたいか」を募り、SNSで高い発信力を持つインフルエンサーの女性たちが「Diversity(いろんな文化が共生できる社会に)」などとメッセージを発信した。
だが、東京都議会が6月、選択的夫婦別姓制度の法制化を促す意見書を国に提出するよう求める請願を賛成多数で採択した際には、自民だけが反対。女性たちのメッセージが、自民の政策と相いれるものとは必ずしも言えない。
文筆業の能町みね子さんは「こんな薄っぺらいもので人気取りができるのかと思うが、ウェブニュースでタイトルだけを見て反応する人は多い。表層的なものの方が訴えかけるのだろう。うっすら『味方ですよ』とだけを無言でたたき込む手法だ」と指摘する。
◆野党もアピール
野党各党も、インフルエンサーの活用などで若者へのアピールを強めている。立憲民主党は2月から、高校生を中心とした10代や党所属議員らが、お菓子を持ち寄って議論する「オイシイ!? おしゃべり会議」を開催。インフルエンサーのモデルらも参加した。
共産党は3月、若者に人気の15秒間の動画投稿ができるSNS「TikTok(ティックトック)」にアカウントを開設。志位和夫委員長がピアノを弾く動画などをアップした。フォロワーは1200人あまりにとどまっている。(太田成美)
◆◆強大な官邸権力の情報コントロールとたたかった東京新聞・望月衣塑子いそこ記者を描いた映画=「新聞記者」
◆◆「新聞記者」 権力に屈しない気概
朝日新聞2019年6月28日
国際NGO「国境なき記者団」の2019年〈報道の自由度ランキング〉によると、日本は180カ国・地域中67位だった。9年前は11位。近年、事大主義が罷(まか)り通っているのだ。
これは現代日本の政治やメディアにまつわる危機的状況を描いた作品である。日本映画久々の本格的社会派作品として珍重に値する。
東京新聞の望月衣塑子記者の著書「新聞記者」に触発されたというフィクションである。本筋は架空ながら、私たちの知る現実の事件を合わせ鏡に、寒気立つ光景を映し出す。
東都新聞社に「医療系大学院大学新設」に関する極秘文書が送られてくる。医療系大学とは何か。認可先が内閣府なのはなぜか。だれからのリークなのか。社会部の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)が取材に当たる。一方、外務省から内閣情報調査室に出向中の杉原拓海(松坂桃李)は、敬愛する外務省時代の元上司が調査室にマークされているのを知り、訝(いぶか)る。
監督が1986年生まれの藤井道人。脚本が詩森ろば、高石明彦、藤井。
その脚本がいい。2人を単なる狂言回しにしていない。吉岡は日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、アメリカで育っている。日本で新聞記者になったのには、新聞記者だった父の自死への疑惑がある。杉原は現政権維持のための情報操作、政府に盾突く人物の醜聞をでっちあげマスコミに流すような仕事に良心のうずきを感じている。父になる日も近い。政治家、高級官僚を登場させないのも深い闇を暗示してうまい。終盤のサスペンス、「このままでいいんですか」と問うテーマの案配にもそつがない。瑕瑾(かきん)がないわけではないが、藤井の冷静な演出、シム、松坂らの好演が補って余りある。
しかし、最も高く評価すべきはスタッフ、キャストの意欲と勇気と活力だろう。権力に屈しない気概だろう。
ついでに言い添えれば、周囲にこんな声があったという。「これ、ヤバイですよ」「作ってはいけないんじゃないか」。情けない話だ。(秋山登・映画評論家)
◇全国で28日公開
(赤旗日曜版19.06.30)
(日刊ゲンダイ19.06.28)
(日刊ゲンダイ19.06.24「“安倍晋三”大研究」書評)
(赤旗19.06.28「市民がメディア奮い立たせて」)
◆◆トランプ来日報道=安倍政権の「政治ショー」に手を貸したメディア、NHK
赤旗赤旗19.05.28
◆◆縮まるNHKとの距離感 人事・報道「政権寄り」の声
2019年5月23日朝日新聞(長期政権の磁界:4)
新元号が令和に決まった4月1日、安倍晋三首相は一部の民放とNHKをはしごした。NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」には冒頭から出演。元号に込めた思いなどを語った。
「多くの方々に前向きに明るく受け止めていただいて本当にほっとしました。明るい時代になるなと、そんな予感がしております」
歴史的な決定を行ったこの方に来ていただいた――。キャスターは首相をそう紹介したが、NHK報道局職員の一人はこう話す。「首相が出演することはいつのまにか決まっていて、制作現場には事前に相談もなかったようだ」
◆理事返り咲き
長期政権と公共放送の現在の関係を考えさせる人事もあった。NHKは4月9日、子会社NHKエンタープライズ社長の板野裕爾氏が、本体の専務理事に返り咲く役員人事を発表。局内では、幹部から現場の職員にまで波紋が広がった。「また振り回されるのか」
経済部出身の板野氏には、官邸や政治家などの意に沿うよう動くとの人物評がある。20年以上続いた報道番組「クローズアップ現代」は権力に比較的厳しい姿勢で臨むことで知られたが、2016年に終わった際、板野氏は番組制作のトップである放送総局長。現場は当初、番組の継続を決めていたが「最終的に板野氏の意向で事実上の打ち切りが決まった」と当時の複数の幹部は証言する。
15年7月には、安全保障関連法を検証する「クロ現」を衆院の審議中に放送しようとした際、理由も定かでないまま、放送日が衆院通過後に変更されたという。この時も、板野氏の意向が働いたと局内には伝わった。
◆「絶対戻すな」
板野氏をかつて放送総局長に登用したのは籾井勝人前会長だ。だが、その籾井氏までもが、板野氏と政権の関係が強すぎるとして、1期2年で総局長を退任させ「彼を絶対に戻してはいけない。NHKの独立性が失われてしまう」と当時の朝日新聞の取材に対しても口にするようになった。
役員人事は会長が提案し経営委員会の同意を得て任命する仕組み。板野氏の人事について、上田良一会長は今月9日の定例会見で「私個人の判断で決めた」と述べた。政権の意向が働いたかは定かではない。
しかし、上田会長の周辺は「上田さんは板野氏を戻すつもりはなかった。苦渋の決断をしたようだ」と解説する。板野氏は子会社などのグループ経営改革統括を担当。番組には関わらないが、年明けに任期満了を迎える会長や副会長への昇格を見据えた人事だとの見方もくすぶる。
板野氏の人事に同意した経営委の石原進委員長は報道陣に「NHKにとって良い仕事をしてくれるかどうかで判断した」と説明した。だが会合では委員の佐藤友美子・追手門学院大教授が「いろいろ反発があるのではないか」と述べるなど、2人の委員が採決を棄権した。役員人事では異例のことだ。板野氏は今月22日、朝日新聞の取材に「申し上げることはありません」と答えた。
NHKの会長を選ぶ経営委員の人事には国会の同意、予算も国会の承認が必要だ。NHKの行動指針は「いかなる圧力や働きかけにも左右されない」と定めているが、報道内容には厳しい見方がある。
NHKのOBや識者らの団体は昨秋と今春、NHKに申入書を提出。「安倍首相への批判的報道がほとんどない」「政権にとって不都合と思われる事実が伝えられない」などと訴えた。
申入書は昨秋の沖縄県前知事の県民葬で菅義偉官房長官にヤジが飛んだことを主要な報道番組で伝えなかったことなどを指摘する。NHKの木田幸紀放送総局長は今月22日の会見で「自律的な編集判断に基づいて放送している。意見には真摯(しんし)に耳を傾けて次に生かしていきたい」と述べた。
◆「世論に迎合」
長らく政界と接してきたNHK元幹部は、放送に影響を与えているのは、視聴者をも巻き込むような長期政権の力だとみる。「政治からの口出しやNHKの忖度(そんたく)もあるが、政権を支持するふくれあがった世論に迎合しているという側面も大きいのではないか」(河村能宏、鈴木友里子、真野啓太)
◆◆NHKに板野氏復権
赤旗19.05.23
◆◆NHK専務理事に板野氏=官邸に太いパイプ
2019年4月11日赤旗
NHKは9日、元専務理事で、子会社のNHKエンタープライズ社長の板野裕璽(ゆうじ)氏を専務理事に復帰させる人事を発表しました。官邸に太いパイプを持ち、異例の返り咲きに「官邸の意向か」との声があがっています。
板野氏は、経済部長、内部監査室長などを歴任し、籾井勝人会長時代の2014年4月に理事から専務理事(放送総局長)に昇格。「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」など、安倍政権べったりの姿勢に批判があった籾井会長を支えてきました。15年の安全保障関連法案(戦争法)の審議が行われている際、安保関連の番組をボツにしたり、16年3月に、政権の意向を背景に「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターを降板させた張本人ともされます。
同日の経営委員会では、石原進経営委員長(JR九州相談役)を含む10人が人事案に賛成しましたが、小林いずみ(ANAホールディングス社外取締役)、佐藤久美子(追手門学院大学教授)の2氏が、板野氏の復帰に厳しい意見をのべ、棄権したといいます。
ほかに荒木裕志理事が専務理事に、正籬聡広報局長が理事に昇格(任命は25日付)。坂本忠宣専務理事、菅康弘理事は24日付で退任します。
◆日刊ゲンダイ19.04.19孫崎
◆◆安倍政権のメディア工作=東京新聞記者問題はその一角
日刊ゲンダイ19.03.18
◆◆辺野古質問の東京新聞記者排除、官邸が内閣記者会に圧力文書
赤旗日曜版19.03.10
◆◆NHK組織改編 文化・福祉番組部を解体 「ETV特集」「ハートネットTV」など制作
毎日新聞 2019年2月16日
NHK放送センター
NHKは制作局の八つの「部」を六つの「ユニット」に再編する組織改革を6月に実施する方向で調整に入った。「要員の融通性向上や働き方改革などに資するため」(関係者)としているが、戦争や憲法、社会的弱者などを扱った番組を多く作ってきた文化・福祉番組部が分割され、二つのユニットに編入されるため、「“NHKの良心”と言える番組を作る拠点が解体される」との懸念の声が上がっている。
同部は「ETV特集」(Eテレ)などのドキュメンタリーや、福祉情報番組「ハートネットTV」(同)などを制作。前身の教養番組部時代には、旧日本軍の従軍慰安婦問題を取り上げたETV特集「戦争をどう裁くか『問われる戦時性暴力』」(2001年)も手掛けた。同番組は、放送前日に安倍晋三首相(当時は官房副長官)がNHK幹部と面会し「公平、公正に報道してほしい」と要請したことが05年1月に発覚し、政治圧力の有無を巡って社会問題化した。
NHK広報局は、毎日新聞の取材に「限られた経営資源で最高水準の放送・サービスを継続的に実施していくため、最善の業務体制を検討している」と説明し、「解体」という意図は「全くない」としている。【犬飼直幸、井上知大】
◆◆丸山重威=官邸のメディア攻撃と国民の知る権利
赤旗19.02.15
◆◆官房長官、質問封じ正当化、取材の自由への攻撃、安倍政権の体質示す
2019年2月14日赤旗
定例の内閣官房長官会見で「事実に反する質問」があったなどとして、昨年12月末に首相官邸の報道室長から東京新聞の特定記者の質問を事実上封ずる申し入れが内閣記者会に行われたことが大問題になっています。12日の衆院予算委員会で、追及された菅義偉官房長官は「事実に基づかない質問に起因するやり取りが行われる場合、内外の幅広い視聴者に誤った事実認識を拡散させるおそれがある」などとして正当化しました。
◆語気を強めて
野党議員が「事実に基づかない報道は問題だが、事実が分からないから取材する。事実に基づかない取材を封ずるのは、取材の自由、表現の自由、国民の知る権利を封じることになる」(国民民主・奥野総一郎議員)と批判したのに対し、菅氏は「取材じゃないと思いますよ。決めうちです」と、語気を強め言い放ちました。
しかし、まさに事実を確かめるのが取材であり、事実が分からないから取材するのです。とりわけ、権力が国民に対し隠したがる事実を追求して明らかにするのが政治報道の本質です。それを通じて国民の知る権利に奉仕し、民主主義を実現する不可欠の存在として報道機関には特別の役割があるのです。
内閣記者会への申し入れ文書では「正確でない質問」がヤリ玉にされています。「事実に基づかない取材」「正確でない質問」は「取材じゃない」という権力者の議論がまかり通れば、およそ政治取材は不可能です。恐るべき安倍政権のファッショ的体質を示すものです。
ことの発端は、昨年12月、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設の海域で県民世論を踏みにじって土砂投入がされる中、東京新聞の記者が「埋め立て現場では、赤土が広がっており、沖縄防衛局が実態把握できていない」と質問したことです。官邸は「明らかに事実に反する」とか「汚濁が広がっているかのような表現は適切でない」などとしていますが、赤い土を載せた船が確認され、無人機による空撮でも埋め立て海域が濁っている様子が確認されていました。一方、防衛省は現在も、投入された土砂に赤土が混入しているかの成分検査を行っていません。事実を解明する責任は国の側にこそあります。
新基地建設反対の県民世論、無法な土砂投入への国民的批判に追い詰められる中、さらなる批判を恐れる安倍政権が、強権をむき出しにする姿が浮かび上がります。
◆暴走許さない
そもそも安倍政権は、国民に対し事実を隠す政権です。安倍首相が12年に政権復帰して最初に強行した立憲主義破壊の立法が秘密保護法でした。何が秘密かも秘密とされ秘密と指定された外交、防衛に関する情報の探知行為が広く処罰され、取材の相談も「共謀」罪として処罰されます。国民の命運にかかわる情報を、重罰の威嚇の下に報道機関からも遠ざけているのです。
事実が隠された状態で「事実はどうなのか」という質問が封じられるなら、まさに暗闇社会となってしまいます。これ以上の安倍政権による立憲主義破壊、民主主義破壊の暴走を許さないたたかいを広げるときです。(中祖寅一)
◆◆
◆◆右派メディアとの癒着強める安倍首相
2018年12月31日赤旗
安倍晋三首相が右派メディアにすすんで登場、9条改憲など、みずからの主張を展開するケースが2018年も目立ちました。
きわめつけは、DHCテレビのネット番組「真相深入り! 虎ノ門ニュース」に出演(9月6日)したことです。同テレビは、沖縄新基地建設反対運動への偏見をデマであおる「ニュース女子」を制作、きびしい批判を受けました。
首相公邸で収録した3日は、午前中の自衛隊高級幹部会同で、9条改憲の宿願を示唆したばかりですが、番組でも同じ考えを表明。ヘイト(差別扇動)をもっぱらとしている同番組を「ひそかに見ていますよ、非常に濃い」と持ち上げ、一体感を示しました。
産経新聞のインタビューに応じたのは、3回。通常国会が開会した翌1月23日のインタビューでは、「憲法を制定する主役は国民です。国民の理解が高まるように自民党ももっと努力しなければならない」(1月24日付)とハッパをかけています。
4月27日のインタビューでも、「国を守るため、国民を守るために、命を懸ける者について憲法に明記するのは安全保障の基本です」(4月29日付)と、自衛隊を9条に明記する改憲への強い意欲を示しました。
右派雑誌にも計3回。12月7日、月刊誌『Hanada』のインタビューは、19年2月号の経済評論家、上念司氏との「新春特別対談」。入国管理法改定について、「『月刊Hanada』の読者の皆さんも様々な不安を持っておられると思います」とのべ、「いわゆる移民政策を取ることは考えていない」と“理解”を求めています。
加計学園の獣医学部新設をめぐり、柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人質疑が衆参予算委員会で行われた翌5月11日に、空路北海道から戻ると、フジテレビに駆け付け、報道番組に生出演。加計疑惑について、「プロセスに一点の曇りもない」と従来の主張を繰り返し展開。約40分間、言いたい放題でした。
右派メディアとの癒着を強める安倍首相の行動は一国の首相として資格が問われています。(藤沢忠明)
◆安倍首相の右派メディアへの露出ぶり
1・23 産経新聞のインタビュー
3・6 月刊誌『WiLL』のインタビュー
4・27 産経新聞のインタビュー
5・11 フジテレビの報道番組に生出演
6・16 読売テレビ(日本テレビ系)の報道番組に生出演
7・26 月刊誌『Hanada』インタビュー
9・3 DHCテレビ「虎ノ門ニュース」に出演(6日放送)
12・7 『Hanada』インタビュー
12・12 産経新聞のインタビュー
◆◆隅井=NHK巨大化まっしぐら
赤旗18.09.24
◆◆無策の安倍首相を「連日災害対応」と報じるNHKの大罪
日刊ゲンダイ18.08.02
◆◆ジャーナリストたちの「良心宣言」
赤旗18.07.12
◆◆安倍首相が選別TV出演するワケ
赤旗18.06.22
◆◆ジャニタレにキャスターやらせるTVの責任
日刊ゲンダイ18.06.17
◆◆須藤春夫=NHK「受信料」制度とは
赤旗18.06.06-7
㊤
㊦
◆◆「森友・加計」国会報道、NHK、際立つ少なさ
2018年5月31日赤旗
学校法人「森友学園」への国有地格安払い下げ問題、同「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題の二つの安倍首相による「国政私物化」疑惑は、昭恵夫人の関与を示した財務省の改ざん前文書や、愛媛県の新文書提出などで、全体の構図がほぼ明らかになってきました。ところが、NHKのこの間の両疑惑をめぐるニュース報道には、大きな疑問が浮かび上がっています。
衆参両院の予算委員会で28日におこなわれた集中審議。テレビ朝日系の「報道ステーション」など民放は、日本共産党の小池晃書記局長、宮本岳志衆院議員が、独自に入手した政府の内部文書を示して、昨年9月、財務省理財局と国土交通省航空局の両局長が“口裏合わせ”していたことなどを詳しく報じました。
しかし、NHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」は、高齢ドライバーによる交通事故や、日大アメフット事件などを報道。集中審議の模様は5番手でした。
29日の「ニュース7」にいたっては、国会の「森友・加計」疑惑追及そのものを報道しませんでした。
同日開かれた衆院財務金融委員会で、日本共産党の宮本徹議員は、「森友」決裁文書の改ざんを認めた後も財務省が改ざんをしていたことを暴露したり、立憲民主党の川内博史議員の追及に、麻生太郎財務相が「改ざんは悪質でない」と暴言を吐いたりしたにもかかわらずです。
NHKが政権側に忖度(そんたく)しているのか―。
日本共産党の山下芳生参院議員のもとに、NHKの関係者が書いたとみられる文書が3月26日に届いたことがあります。それによると、実名で記されたNHK幹部が「ニュース7」「ニュースウオッチ9」などのニュース番組の編集責任者に対し、「森友問題」の報じ方について、「トップニュースで伝えるな」「トップでもしかたないが、放送尺は3分半以内に」「昭恵さんの映像は使うな」などと細かく指示していたとしています。
本紙は、これらの「指示」が本当に番組に反映されたかを、「報道ステーション」、TBS系「NEWS23」と比較検討しました。期間は、「朝日」が森友文書改ざんをスクープした3月2日から、佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問がおこなわれた同月27日まで。この結果、NHKの「森友」報道の少なさが際立ち、“昭恵夫人隠し”も徹底されていることが浮き彫りになりました。(4月30日付で詳報)
安倍政権は、放送の「政治的公平性」などを定めた放送法4条などの撤廃をたくらんでいますが、共同通信がスクープした「通信・放送の改革ロードマップ」には、撤廃を実現した場合としてこんな記述がありました。「放送(NHK除く)は基本的に不要に」
政権に批判的な民放はいらず、NHKさえあればいいということか。「公共放送」としてのNHKのあり方が問われています。(藤沢忠明)
◆◆放送法第4条は国民の武器
赤旗18.05.28
◆◆放送の「政治的公平」撤廃案 政府、新規参入促す 番組偏る懸念も
朝日新聞18.03.24
放送と政治的公平性を巡る最近の出来事
放送番組の「政治的公平」などを定めた放送法4条=キーワード=の撤廃が、政府内で検討されていることがわかった。放送の自律を守るための倫理規範とされる4条は、戦後に同法ができて以降、番組作りの大原則となってきた。インターネットテレビ局などが放送に参入する際の壁を低くする狙いとみられるが、政治的公平性が損なわれ、番組の質も下がるといった懸念が出ている。
政府内でまとめられた文書「放送事業の大胆な見直しに向けた改革方針」によると、「コンテンツ産業における新規参入・競争」を進めるとして、「放送にのみ課されている規制(放送法第4条等)の撤廃」などを明記。「放送業界の構造改革を進め、放送と通信の垣根のない新しいコンテンツ流通環境を実現」するとした。NHKについては「放送内容に関する規律は維持」するという。
4条を撤廃した場合、民間放送は政治的公平性や事実関係に配慮せずに番組を放送することが、理屈の上では可能になる。
このため、放送を所管する野田聖子総務相が22日の衆院総務委員会で撤廃などについて問われ「4条は非常に重要で、多くの国民が今こそ求めているのではないか。(4条が)なくなった場合、公序良俗を害する番組や事実に基づかない報道が増加する可能性が考えられる」と述べるなど、政府内にも異論がある。日本民間放送連盟内からは「極端に政治的に偏った局ができる可能性がある」といった懸念の声も出ている。
一方、自民党は4条に基づき、番組内容について放送局から事情を聴いた例もある。2015年4月には、番組が放送法に違反した疑いがあるとして、NHKとテレビ朝日の幹部を党の会議に呼んだ。このケースでは、政権政党が4条を理由に放送局に介入したと批判された。
(川本裕司)
◆キーワード
<放送法4条> 放送事業者が国内外で放送する番組の編集について定めた条文。(1)公安及び善良な風俗を害しないこと(2)政治的に公平であること(3)報道は事実をまげないですること(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること――を求めている。
◆◆「公平」撤廃案、突如浮上 放送界に根強い反対論
政府が撤廃を検討していることが明らかになった放送法4条は、これまでも時の政権と放送局との緊張関係が高まるたびにクローズアップされてきた。ある時には放送局を守る「とりで」に、ある時は政治の介入を許す「口実」になったが、撤廃は突然浮上した形で、政治的な公平性や番組の質をめぐって関係者に懸念が広がっている。
菅義偉官房長官は23日午後の記者会見で、4条の撤廃などについて問われ、「放送をめぐる規制改革については規制改革推進会議で議論されている。結果をふまえて適切に対応していきたい」と述べた。総務省幹部の一人は「撤廃するという話が出たのは初めてではないか」と話す。
番組に「政治的公平」や「事実をまげない」ことなどを求める4条は、行政処分ができる「法規範」ではなく、放送局自身が努力目標とする「倫理規範」と考えるのが、憲法などの専門家の通説だ。だが現実には、政治家が放送に介入する入り口になってきた。
2016年2月には、高市早苗総務相(当時)が、放送局が政治的な公平性を欠く報道を繰り返したと政府が判断した場合、「何の対応もしないと約束するわけにはいかない」と発言。4条違反で電波停止を命じる可能性に言及し、議論になった。15年4月には、自民党がテレビ朝日とNHKの幹部を会議に呼び出し、コメンテーターの発言や過剰な演出が、放送法違反に当たるのではないかとして話を聞いた。
このため、一連の経緯を重く見た国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大教授)が、「政府のメディア規制の根拠になりうる」として、4条の廃止を訴えたこともある。
◆「放送の役割をうたう条文」
その一方で、放送界には、4条は「本来の放送の役割をうたった条文だ」(民放キー局の役員)などの思いから、撤廃への根強い反対論がある。日本民間放送連盟(民放連)の井上弘会長(TBSホールディングス取締役名誉会長)は15日の記者会見で「フェイクニュースへの対応が世界的に共通の社会問題になってきた昨今、バランスの取れた情報を無料で送り続ける私たち放送の役割は、これまで以上に重要」と述べた。
政府の動きに対応するため、民放連はキー局役員らによる「放送の価値向上に関する検討会」を発足。23日に初会合を開いた。
放送法に詳しい西土彰一郎・成城大教授(憲法)は「4条が撤廃された場合、ジャーナリズム倫理が十分に培われていない新興の小規模な放送局に、特定の政治勢力を応援する確信的なスポンサーがついて政治的に大きく偏った報道が出現する可能性がある。極端な主張をする放送局が誕生すれば、社会の分断が進む懸念もある」とみる。 (川本裕司、田玉恵美)
◆◆放送法第4条削除問題
赤旗日曜版18.04.01
◆◆斎藤貴男=放送法第4条削除問題
日刊ゲンダイ18.03.28
◆◆放送法第4条削除問題赤旗18.03.29
◆◆新年の新聞の安倍改憲報道
赤旗日曜版18.01.14
◆◆衆院選、ワイドショー8倍 「小池劇場」・暴言…TV全体では3倍 14年と比較
2018年1月12日朝日新聞(Media Times)
衆院選関連のテレビの放送時間
昨年秋の衆院選を報じたテレビ各局の番組について上智大のチームが分析したところ、情報・ワイドショー系番組の報道量が前回の2014年衆院選と比べ、約8倍に増えて報道全体の量を押し上げた一方、政策に関する検証報道が減ったという実態が浮かび上がった。
調べたのは、同大文学部新聞学科の「『選挙とメディア』研究会」(代表・音好宏新聞学科長)。複数の報道で衆院解散の方針が報じられた9月17日から、投開票日翌日の10月23日までの37日間のテレビの選挙報道について、番組の内容を分析する「エム・データ」社の協力を得て調査した。
比較のために投票日前日までの4週間に区切り、主に17年と14年の衆院選を比較したところ、「情報・ワイドショー系」と「ニュース・報道系」の番組を合わせた17年の衆院選関連の放送時間(9月24日~10月21日の開票日前日まで)は計約298時間で、約102時間だった14年衆院選の約3倍になった。情報・ワイドショー系番組だけをみると173時間27分で、前回の21時間38分から約8倍に増えた。
担当した水島宏明教授は「小池百合子・東京都知事の新党立ち上げ宣言と『政権交代』への期待、『排除発言』などによる失速と『小池劇場』の様相を呈した。立憲民主党の立ち上げや、国会議員の暴言などもあいまって、情報・ワイドショー系番組が格好の素材として取り上げ、劇場化を後押しした」と分析した。
一方、メディア各社が行う選挙の情勢調査について、ニュース・報道系番組は結果だけを報道し、背景を解説しないのが一般的だったが、情報・ワイドショー系番組は「スタジオの政治ジャーナリストらが解説したり、議論し合ったりすることで、政治の流れを有権者にわかりやすく理解させる役割を果たした」(水島教授)と評価した。
選挙報道の中身について、平日に報道された主なニュース番組と情報番組から、(1)「注目の選挙区」を抽出した報道(2)争点について現場の実態を取材し、当事者や専門家の声を交えて問題提起する報道(3)争点について各政党の主張をまとめた報道、など8項目に分けて分析した。
その結果、(2)の量は全体の2%にとどまり、14年衆院選の19%、16年参院選の5%からさらに落ち込んだ。水島教授は「政策的な争点を自ら検証するスタイルが激減していることに危機感を覚えた」と話す。
14年衆院選の前に、自民党がテレビ各局に選挙報道の公平中立を求める文書を出したことの影響も検証したが、街頭インタビューや資料映像に関して自粛などの動きはほぼなかったという。水島教授は「街頭インタビューが見当たらない局があった14年衆院選報道の不自然さが目を引く結果となった」とみている。
調査の責任者を務めた音学科長は「メディアでの政治家の露出は急増したが、どれだけ政策が吟味されたかが問われるべきだ」と話している。(編集委員・豊秀一)
◆◆「権力の監視」できるのか 安倍首相とメディア幹部の会食「読売」突出 5年で38回
2017年12月31日赤旗
(写真)安倍首相インタビューを掲載した5月3日付の読売新聞
国政私物化疑惑にまみれ、改憲への執念を際立たせている安倍晋三首相と大手メディア幹部との会食が、今年も15回に及びました。首相は5月に2020年までの9条改憲構想を「読売」紙上で明らかにしましたが、同社幹部との会食は8回、第2次安倍政権以降の5年間では38回と突出しています。
「読売」が首相の改憲発言を掲載したのは、5月3日付でしたが、インタビューが行われたのは4月26日。その2日前には、首相と渡辺恒雄「読売」グループ本社主筆、インタビュアーとなった前木理一郎政治部長とが飯田橋のホテル内の日本料理店で2時間にわたり、会食しています。
「読売」インタビューは「憲法施行70年を迎えた。改めて憲法改正にかける思いを」という質問から始まり、首相に言いたいことを言わせるもので、報道機関としてのあり方が問われました。国会では、改憲発言の意図について野党から質問を受けた安倍首相が「読売新聞を熟読して」と答弁し、国会軽視と問題になりました。
そのインタビューの裏では、社のトップとインタビュアーが首相と会食してすり合わせをしていたのではないかと思わせる行動は報道機関失格です。「読売『御用新聞』という汚名」という見出しの週刊誌記事まで出ました。
ちなみに、渡辺主筆は、5年間で18回、今年だけで5回も首相と会食を繰り返しており、特別の親密ぶりが問われています。
◆「首相が選別・利用」進む
安倍首相とメディア幹部との会食から見えてくるのは、首相によるメディアの選別と利用が、5年間でいっそう進んでいることです。「権力の監視」というジャーナリズム本来の役割が果たせない状況が危惧されます。
◆政局の節目で
5年間で会食回数が突出しているのは、1面所報のように「読売」38回、次いで同社が大株主の日本テレビが21回。フジサンケイグループでは「産経」14回、フジテレビ11回です。また、「日経」も16回に及んでいます。
重大なのは、首相がこれらのメディアを使って、政局の節目節目で発言していることです。2月に、トランプ米大統領との日米首脳会談を終えて帰国した首相は、BSフジとNHKの「ニュースウオッチ9」に生出演し、訪米の“成果”をとくとくと語りました。
5月3日には、「読売」で改憲インタビューを掲載。同月15日には、「日経」系のBSジャパンと日経CNBCの共同インタビューで改憲問題を語っています。
9月の衆院解散前の13日には、「日経」の単独インタビューでのちに総選挙の公約の目玉になる「全世代型の社会保障制度」をめざす考えを披露しています。
そして、総選挙開票日の翌日(10月23日)には、「読売」渡辺恒雄主筆、「産経」清原武彦相談役、「日経」芹川洋一論説主幹、共同通信・福山正喜社長と、“祝杯”をあげるかのように、東京・大手町の読売新聞東京本社ビルで会食するという念の入れようです。
さらにはトランプ大統領の来日前後では、長女のイバンカさん持ち上げ報道がテレビを席巻するなど異常なお追従報道が目立ちました。
これらのメディアには、権力の監視というジャーナリズムの自覚があるのかが鋭く問われます。
◆問われる癒着
もう一つ、問われるのは、首相とメディア幹部の会食の中で権力との癒着が疑われる事態が生まれていることです。
5月17日、「朝日」が加計疑惑にかかわる文科省の内部文書をスクープし、「赤旗」も翌日続きました。首相の腹心の友・加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園の獣医学部新設について、「官邸の最高レベル」の意向が働いたとの疑惑が噴出しました。24日には、前川喜平前文科事務次官が、内部文書について「自分が説明を受けた際に示された」と証言しました。
ところが、前川証言の3日前、こうした動きを察知したかのように「読売」(5月22日付)が「前川次官、出会い系バー通い」と人身攻撃の記事が出たのです。菅義偉官房長官は、「出会い系バー通いには違和感がある」と人間性をおとしめ、問題をそらすために利用しました。
犯罪行為でもない個人の行動が、公器である新聞に出ること自体が異例でした。前川氏によれば、「読売」記事が出る直前、首相補佐官から面会の申し入れがあったといいます。
仮に権力と結託して告発者を攻撃したとすれば、メディアの自殺行為です。「読売」は6月3日付に東京本社社会部長の署名記事で「不公正な報道であるかのような批判が出ている。…こうした批判は全く当たらない」と菅長官ばりの反論をおこないました。
「出会い系バー」記事が掲載された1週間後、「読売」の編集局総務、政治部長、国際部長の3人が、赤坂の居酒屋で、安倍首相と3時間あまりにわたって会食しています。
◆◆テレビの総選挙報道を検証する
赤旗17.12.24
◆◆最高裁NHK受信料、実質義務 放送法の規定、合憲 最高裁
2017年12月7日朝日新聞
NHKが受信契約を結ばない男性に受信料の支払いを求めた民事訴訟の判決で最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は6日、事実上支払いは義務とし、テレビ設置時からの受信料を支払う必要があるとする初判断を示した。判決は「受信料制度が国家機関などから独立した表現の自由を支えている」と述べ、NHKとの契約義務を定めた放送法の規定について「合憲」とした。
◆契約成立には合意求める
裁判官15人のうち14人の多数意見。今後、NHKが受信契約を結ぶよう裁判を起こせば、今回の判決を元に主張が認められる可能性が高い。約1千万件とされる未契約の世帯や事業者に影響を与えそうだ。
最高裁で争われたのは、2006年3月に自宅にテレビを設置した男性のケース。11年9月にNHKから受信契約を申し込まれたが、「放送が偏っている」などの理由で拒否。同年11月にNHKが提訴した。男性は契約の自由を保障した憲法に違反すると訴えた。
この日の判決は、受信料制度は、憲法が定める表現の自由を保障するためにあると指摘。受信料でNHKの財政基盤を支える仕組みによって、放送内容に「特定の個人や国家機関から財政面での支配や影響が及ばない」ようにしているとし、放送法はテレビがある世帯などに「受信契約を強制している」と述べた。
また、判決は、近年放送をめぐる環境が変化していることにも言及したが、受信契約を強制する放送法の規定は今も「合理性がある」と位置づけた。
二審判決は、NHKが契約の受け入れを求める裁判を起こし、勝訴が確定した時点で契約が成立。テレビの設置時にさかのぼって受信料を支払う必要があると述べた。最高裁は、契約成立には双方の合意が必要だと指摘。一方的に成立すると訴えたNHKの上告を退け、二審の判断を支持した。
判決を受け、NHKは「主張が認められた。公平負担の徹底に努めていく」との談話を出した。
◆<解説>問われる公共放送
長く争われてきた放送法の規定の解釈について、最高裁は合憲と結論づけ、受信料支払いの義務を原則的に認めた。NHKにお墨付きを与えた格好だ。
ただ、最高裁は、NHKに対し、一方的に支払いを迫るだけでなく、目的や業務内容を説明して理解を求め、合意を得られるよう努力をすることが望ましいとした。また、受信料制度は、NHKが政府や特定の団体や個人から独立し、国民の知る権利を満たすためのものだ、とも釘をさした。
逆に言えば、受信料を支払う人たちは、NHKに「知る権利」に応えるよう求める権利がある。NHKは、政治との距離や中立性など、公共放送としてのあり方を問う声に常に向き合い、支払い義務を課された視聴者のための番組作りをする責任がある。
(岡本玄)
◆判決のポイント
・受信料制度は特定の個人や団体、国家機関の影響がNHKに及ばないよう、放送を受信できる人に公平な負担を求めるものだ
・テレビがあれば受信契約を義務づける放送法の規定は、国民の知る権利を守るために契約を強制するもので、憲法に違反しない
・ただ、NHKからの一方的な申し込みだけで支払い義務は生じず、NHKが契約への合意を求める裁判を起こし、その勝訴判決が確定した時に契約成立となる
・契約が成立すれば、テレビを設置した月以降の受信料を支払わなければならない
◆◆最高裁NHK受信料「合憲」「支払い義務 合意必要」
2017年12月7日赤旗
NHK受信料をめぐり、テレビを持つ人に契約締結を義務付けた放送法64条の規定が憲法に反するかどうかが争われた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は6日、「合憲」とする初めての判断を示しました。
判決は、「特定の個人、団体または国家機関等から財政面での支配や影響が及ぶことのないようにし、広く公平に負担を求めることによって、事業運営の財源を受信料によって賄うことにした」という趣旨や放送法制定時の経緯にふれつつ、「NHKからの一方的な申し込みのみによって受信料の支払い義務を発生させるものではなく、双方の意思表示の合致が必要であることは明らか」としました。
しかし、NHKが裁判を起こして判決が確定すれば、契約は成立すると指摘しました。
訴えられていたのは、2006年に自宅にテレビを設置した東京都内の男性。契約申込書を送っても応じないとして、NHKが提訴しました。
男性側は、64条について、「支払いの強制は憲法が保障する契約の自由を侵害する」と主張。NHK側は「受信料は不可欠で、合理性や必要性がある」と反論していました。
今後、900万世帯を超える未契約者への徴収に影響を与えることになります。
◆問われる公共放送のあり方、強制的徴収に懸念の声
最高裁は、テレビ受信機の設置者とNHKとの受信契約を定めた放送法64条1項を「合憲」と判断しました。「憲法の保障する国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう」というのが理由です。
放送法は戦前、NHKの前身の「日本放送協会」が国民を戦争に駆り立てた反省から生まれました。時の権力に左右されない「自主・自律」の公共放送を、国民が支える受信料制度には合理性があるといえます。
しかし、制度の大前提となる国民との信頼関係をNHKは損ねてきました。2001年には、安倍晋三官房副長官(当時)の指示で日本軍「慰安婦」問題を取り上げた「ETV2001」が改変される事件が発生。14年、「政府が右というものを左というわけにはいかない」という籾井勝人前会長の登場で、「政権寄り」の報道姿勢に拍車がかかりました。
各地でNHK問題を考える視聴者団体が立ち上げられ、受信料の支払いを一時凍結する運動も広がりました。一方、NHKは06年から未払い者への民事手続きを強化し、約4000件で訴訟に発展しています。
判決が「NHKからの一方的な申し込みのみによって受信料支払い義務を発生させるものではなく、双方の意思表示の合致が必要である」と指摘していることは重要です。NHKが強制的な取り立てを強めれば、「受信料の“税金化”が進み、政権の放送内容への干渉が強まる」との懸念も識者から表明されています。
政権との距離をどうとるのか、公共放送としての役割をどう発揮していくのか―。NHKの明確な説明と対応が求められています。(佐藤研二)
◆◆須藤春夫=NHK受信料最高裁判決、視聴者の声聞き信頼構築を
赤旗17.12.09
◆◆ぶったまげたNHK受信料義務化判決
日刊ゲンダイ17.12.10
◆◆隅井=放送の独立と市民運動
赤旗17.12.04
◆◆トランプ訪日異常なNHKの報道
赤旗17.11.11
◆◆報道の矜持失った読売新聞、安倍首相のメディア選択
(赤旗日曜版17.06.18)
◆◆河野=NHKの加計疑惑報道
(赤旗17.06.09)
◆◆国連人権理事会=日本の「表現の自由」勧告=政権のメディア規制・秘密保護法など
(赤旗17.06.01)
◆◆デービッド・ケイ氏の訪日報告書草案詳報
2017.5.30 産経新聞
❶序論(略)
❷国際法基準およびミッションの主な目的(略)
❸日本における表現の自由のための基盤への課題
自民党の憲法案は、基本的人権の不可侵性を維持する97条を削除するよう求めている。同規定を削除する草案は、日本における人権の保護を弱体化しうる。
❹意見および表現の自由の権利の状況:主要所見
A.メディアの独立
1.放送メディア
▽放送法は総務省にNHKと民間放送局を規制する権限を与えている。この枠組みは、メディアの自由と独立に対し不当な制約を課すことになり得る。
▽放送法4条に違反した場合、放送関係者の免許の停止を命じるかもしれないとする政府見解は、メディアを制限する脅迫として受け取ることができる。
▽政府職員の発言で、メディアが圧力を感じた旨の報告を受けた。2015年2月24日の報道関係者との会合で、内閣官房長官は、あるテレビ番組に対し、放送法の解釈にかなっていないと批判したとされる。
2.活字メディア
▽特別報告者は、朝日新聞勤務時に慰安婦問題を報じた植村隆氏へのハラスメントを知った。植村氏への圧力は、吉田清治氏による証言に関する朝日新聞の別の記事の事実誤認に関する議論があった後、特に強くなった。植村氏は大学で働くことになったが、大学も彼の辞職を求める団体によって攻撃された。
▽特別報告者は、日本政府が、植村氏および同氏が所属する機関が被った複数の攻撃に対する批判を繰り返し行わなかったことを懸念している。
3.専門機関と記者クラブ制度(略)
B.歴史の発信/表現への介入
▽日本の第二次世界大戦への参加および慰安婦問題に関する学校教材の準備における政府の影響に関する懸念も報告されている。
▽文部科学省は、いくつかの高校世界史の教科書に慰安婦に関する言及がある旨述べた。専門家は、慰安婦に関する記述が、中学校の教科書から編集削除された旨の報道を示した。
▽政府が、教科書が第二次世界大戦中に犯された犯罪の現実をどう扱うかに介入することは、一般市民の知る権利や過去に対応し理解する能力を損なわせる。
C.情報へのアクセス
▽特定秘密保護法は知る権利の保護範囲を狭めている。同法はジャーナリストとその情報源に刑罰を課す危険性にさらしている。
D.差別とヘイトスピーチ(略)
E.選挙運動に関する規制(略)
F.公共のデモ
▽2016年10月、沖縄平和運動センター議長の山城博治氏が逮捕された。山城氏は裁判なしで5カ月間拘束された。長期間の拘束は山城氏の容疑事実に比して不適切に思える。日本政府の行動は、デモと反対意見の表明をふさぎかねないと懸念している。
V.結論および勧告
▽特別報告者は、以下の措置を勧告する。
A.メディアの独立
▽政府に対し、報道の独立性強化のため放送法4条の撤廃を勧告する。独立した放送メディア規制機関の枠組みを進展させることを強く要請する。
B.歴史教育・報道への介入
▽政府に対し、学校教材における歴史的出来事の解釈への介入は慎むべきこと、戦時中に日本が関わった出来事に留意し、これらの深刻な犯罪について国民に知らせる努力を支援することを求める。政府は学校のカリキュラム作成において完全なる透明性を確保し、教科用図書検定調査審議会を政府の影響からいかに守るかを再検討することで、公教育の独立性に、貢献すべきである。
▽慰安婦問題を含む過去の重大な人権侵害に係る公開情報を検証していくため、政府は「真実の権利」国連特別報告者の訪問招請を検討すべきだ。
C.選挙キャンペーンおよびデモ
▽沖縄での抗議活動に向けられた圧力を特に懸念している。公権力は国民に不均衡な処罰を科すことなく、公共政策への反対を表明する自由を侵害されずに抗議や取材を行えるよう努力を行うべきだ。
D.特定秘密保護法
▽政府に対し、報道関係者の業務に萎縮効果を与えないよう特定秘密保護法の改正を促す。日本の国家安全保障に危害を与えない国民の関心事項である情報を開示しても処罰されないことを保障する例外規定を含めることを奨励する。
E.差別とヘイトスピーチ(略)
F.デジタル著作権(略)
◆◆NHKニュースの意識的操作=政権への忖度
(赤旗17.04.29)
◆◆対談・メディアは今=元NHK戸崎・立教大門奈
(赤旗日曜版17.03.5-12)
◆◆BPO(放送倫理検証委員会)=「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」
2017年2月7日 放送局:民放連・NHK
2016年の参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられたことなどから、委員会は、具体的な放送を踏まえながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般のあり方について審議してきた。
委員会は、「政治的に公平であること」などを定めている放送法第4条第1項各号の番組編集準則は「倫理規範」だとした上で、放送局には「選挙に関する報道と評論の自由」があり、テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは「量的公平」ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという「質的公平」だと指摘した。
この観点からすると、真の争点に焦点を合わせて、各政党・立候補者の主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念と言わざるをえないとして、「放送局の創意工夫によって、量においても質においても豊かな選挙に関する報道と評論がなされる」ことを期待した。
2017年2月7日 委員会決定
(朝日新聞作成17.02.22)
◆全文はこちら(PDF)pdf16p
http://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/kensyo/determination/2016/25/dec/0.pdf
目 次
I はじめに
II 選挙と放送
1. 番組編集準則は「倫理規範」である
2. 放送局には「選挙に関する報道と評論の自由」がある
3. 選挙に関する報道と評論に求められるのは「量的公平」ではない
III 2016年の選挙に関する放送
1. 参議院比例代表選挙に関する放送
2. 東京都知事選挙に関する放送
3. 不注意による「映り込み」と「再放送」
IV おわりに ~ 選挙に関する豊かな放送のために
◆◆BPO:「臆せずに放送を」 TV選挙放送で意見書公表
毎日新聞 2017年2月7日
2016年の参院選や都知事選をめぐるテレビ放送について意見を述べるBPO放送倫理検証委員会の川端和治委員長(奥中央)ら=東京都千代田区で2017年2月7日午後4時10分、徳野仁子撮影
機械的・形式的平等に「編集の自由を自ら放棄するに等しい」
NHKと日本民間放送連盟による第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会(委員長・川端和治弁護士)は7日、テレビの選挙放送について意見書を公表した。選挙期間中も報道は「自由」であるとし、政治的公平性は発言の回数や時間といった「量」ではなく「質」で保つべきだとしている。政治的公平性を強調して放送局に対する監視の姿勢を強める政府をけん制し、「臆することなく放送を」と鼓舞した。【須藤唯哉、丸山進】
委員会が個別の番組ではなく、選挙報道全体に対して意見書を公表するのは初めて。
意見書は昨年の参院選と東京都知事選について「選挙期間中に主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念と言わざるを得ない」とした。
その上で、質的公平性を保つために「取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという姿勢が求められる」とする一方、「放送の結果、政党や候補者の印象が同程度になるというようなことは求められていない」とした。
川端委員長は7日の記者会見で「(有権者に)選挙権を正しく行使するために必要な情報をきちんと伝える。それが放送局の責務だ」と説明。会見では複数の委員が、客観的な事実や真実よりも感情や個人的な信念が重視される「ポスト・トゥルース(真実)」時代の放送局の役割を指摘。意見書でも「政党や立候補者の主張に誤りがないかをチェックすることは、マスメディアの基本的な任務」と説いた。
議論の発端となった参院選と都知事選の個別番組について、放送倫理違反はなかったと結論づけた。都知事選では「一部の立候補者を重点的に取り上げることは、政治的公平性を欠くことにはならない」とした。
BPO意見書に、放送現場から「一歩前進」との評価する声も
放送を巡っては、政治的公平性を求める放送法4条を、制裁を視野に入れた法規範とみなす政府の統一見解が昨年2月に示され、放送局内の自主規制的傾向が一層強くなっている。
そのため意見書に対し、放送現場からは「一歩前進」と評価する一方で、「番組はすぐに変わらない」との意見も聞かれる。
地方民放の報道出身者は「発言時間を平等にすることに心をくだいてきたが、平等でなくてもいいというのは安心材料」と評価した。
ただ、あるNHK職員は、意見書の内容を評価しつつも「これまでのバランスを取ってきたやり方が間違いだったとも思っていない」。民放の報道番組の担当者は「現場はすでに萎えてしまって、意見書だけで放送は変わらない」と悲観する。
日本民間放送連盟(民放連)会長室は「民放連の場でも議論を深めていく」とし、加盟各社に配布する冊子などに意見書の内容を盛り込み、周知させる方針だ。
意見書ににじむ「委員会の危機感」
委員会が政治的公平性を求める放送法4条を「倫理規範」とし、選挙報道の自由を説く意見書を公表した背景には政治の影がある。
自民党は2014年衆院選で、在京各局に選挙報道について「公平中立、公正の確保」を要望。委員会は、こうした「圧力」を批判する意見書を15年11月に公表した。その後も放送法4条を「法規範」とし、違反した場合の電波停止命令をちらつかせる高市早苗総務相の発言などが相次ぎ、選挙報道の現場には量的公平性にとらわれるといった閉塞(へいそく)感が漂っている。
総選挙は今秋にもあるとみられている。息苦しさを感じながら報じる画一的な選挙報道では、有権者に有益な情報は届かないだろう。委員会の危機感が意見書ににじむ。
放送の自由を守り、民主主義を支えるためには、放送局が自ら定めたルールに従って自主自律を貫くことが欠かせない。【須藤唯哉】
◆◆NHK上田新会長就任
(赤旗17.01.30)
◆◆須藤春夫=どうみるNHK新会長就任会見
(赤旗17.01.28)
(【筆者コメント】 =下記の朝日新聞の読者のNHKへの要望の「まとめ」まったく同感。NHKは、他のメディアがとても太刀打ちできない映像の財産をもっている。それは、NHKが民放と違い、国民の貴重な放送料によってまかなわれているからだ。本来それらのすべてが国民が自由に見れるようにすべきだ。NHKオンデマンドで有料提供があるが、それもNHKの映像財産のほんの一部にすぎない。誰がこんなものを利用するか?放送料を払っている国民に無料で解放すべきだ。読者が指摘しているように、民放ではできない知性的なもの、ニュースの掘り下げをもっとやってほしい。といっても先日の村山斉氏の宇宙解説のように、大衆は分からないことが多いから具体的な事例を一杯提供して放送していたが、それで余計分からなくなっていることもある。とにかく真っ向勝負で、政権に左右されないようにがんばってほしい)
◆◆(読者の声 どう思いますか)NHKの現状に様々な反響
2017年1月25日朝日新聞
赤尾晃一・静岡大学准教授
「NHK総合テレビは、民放と見まがうばかりの番組が多い」「真面目なテーマもお笑い番組風にアレンジ」「加えて、耐えられないのは番組宣伝の乱発」「知性と教養を大事にしてほしい」
こう憂えるご投稿を、昨年12月に掲載しました。これに対して、全国各地から約80通の反響が寄せられました。ご投稿者と同様にNHKの番組の現状に不満を持つご意見がある一方、やわらかい番組作りは視聴者の裾野を広げる試みだと一定の理解を示す声もありました。
いずれも、受信料で支えられている公共放送としてのNHKへの強い関心がうかがえる内容でした。
「どう思いますか」では、まず1月18日付の紙面で、NHK番組の民放化とも言える傾向への賛否を軸に、4人の方々のご意見を掲載いたしました。今回は、広くNHKのあり方自体への苦言、提言、期待を4通、掲載いたします。
「声」欄では今後も、NHKをはじめ放送界へのご意見を掲載していきます。ご投稿をお待ちしています。
◆バラエティーは民放に任せて
財団法人職員 佐久間肇(東京都 60)
NHKの素晴らしい番組を感心と尊敬の念で見ています。「NHKスペシャル」「映像の世紀」といった企画の質は民放にはまねできないと思います。
昨今のバラエティー的な番組の多さは、受信料不払い問題を踏まえ、視聴者の支持を広く得ようという方針からと推量します。もしそうなら大きな勘違いです。私も含め大衆の多くは、NHKにそうした番組を期待しません。バラエティーは民放に一日の長があります。民放に任せるべきです。
インターネットや民放などの軽佻浮薄(けいちょうふはく)な情報に、へきえきしている視聴者は数多くいます。そうしたものに接するのに飽き飽きし、内容の深い良質な情報を切望する時、NHKのチャンネルを選ぶのです。その期待に応える番組作りに徹して欲しい。大衆にこびようと民放をまねる必要はありません。
◆良質番組作れる強み生かせ
会社員 村西祐亮(京都府 24)
確かに、最近のNHKは自らの強みを見失っている感がある。スポンサーの都合や短期的な視聴率、収益を心配する必要がない分、質が高く知的好奇心が刺激されるような番組・ドラマを中長期的に腰を据えて制作できるのが、NHKの最大の強みのはずなのに。
籾井勝人会長の発言も問題になった。「政府が右ということを左というわけにはいかない」「原発報道は公式発表をベースに」など公共放送を政府公報と勘違いしているような認識が目立った。NHKの迷走を象徴するようだ。
私が特に好きだった番組は「地球イチバン」。「地球で一番のもの」がある場所を訪ねる紀行番組だ。騒ぎすぎず、一緒に旅をしているような世界観が魅力。こうした質の高い番組を作る能力がNHKにはある。会長が交代する今、公共放送の意義と役割を見つめ直してほしい。
◆視聴者の声を詳細に公開したら
主婦 山本かず子(千葉県 65)
視聴者の意見は、NHKの番組作りにどう反映されているのだろうか。
私にはお堅い印象だったNHK番組が、いつからか身近に感じられるようになった。けれども番組宣伝の多さは違和感を持つ。親しみやすさを勘違いした民放化なら、これでいいのかと思う。
こうした意見を聞く電話やメールの窓口があり、寄せられた意見の概要は「視聴者対応報告」「NHK視聴者ふれあい報告書」といった形で公開されている。しかし、自分たちの希望が番組にどう生かされているのか、一般の視聴者には見えづらい。
NHK視聴者はどんな番組を望むのか。批判的な意見を含め、「みなさま」の声を詳しく公開し、番組に反映できたかどうかを含め、丁寧に公表してはどうか。そうすることで、声が声を呼び、視聴者の望む番組作りにつながると思う。
◆政治報道の萎縮ぶりを危惧する
無職 田辺龍郎(東京都 89)
NHK番組の軽薄化についてもっともなご投稿を拝見したが、それ以上に危惧するのは報道、特に政治報道の沈滞だ。
日本の報道の自由が後退していることは、国際NGOの「報道の自由度ランキング」で明らかだ。民主党政権の頃は22位だったのが、昨年は180の国・地域の中で72位。特定秘密保護法の成立に加え、高市早苗総務相の電波停止発言がその理由とされているようだが、政権批判に及び腰なNHKの萎縮ぶりも原因の一つではないか。
看板番組だった「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターの退場が象徴的に思える。リニューアル番組との位置づけで「クローズアップ現代+」を始めたのは、取り繕いに見える。
政権の意向を忖度(そんたく)したり御用聞きをしたりする人物がいるのであれば、それを排除することが大切だろう。
◆批判は期待の表れ
赤尾晃一・静岡大学准教授(メディア論) NHKの人と接していると、意外に視聴率を気にしていると感じます。「公共放送として広く支持されている」と確認したいという思いがあるからでしょう。
また、多チャンネル化やデジタル化で投資がかさんでいる。そこで手間ひまをかけなくても視聴率が見込めるバラエティーや、視聴者をじらして関心を引きつけるような民放の番宣の手法を導入しているのだと思います。
一方、視聴者は受信料を払っている分、権利意識があり、注文をつけたくなる。なのに意見を反映させるための回路が見えない。経営方針を決める経営委員も視聴者代表とは思えない。欲求不満がたまるわけです。
とはいえ、民放では制作が難しい良質な放送を全国に、世界に届けているのは事実。批判は期待の表れです。
◆◆「虚偽・ヘイト放送」沖縄で反発 MXテレビ「ニュース女子」
朝日新聞17.01.18(Media Times)
沖縄県東村(ひがしそん)高江の米軍ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設への抗議活動について報じた東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)の番組に、反発の声が上がっている。取り上げられた団体は「意図的な歪曲(わいきょく)」「人種差別的な発言」と指摘し、沖縄の地元紙も「沖縄ヘイト」などと批判。局側は16日、「議論の一環として放送した」との見解を番組で流した。
番組は月曜午後10時から放送中の「ニュース女子」。東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が司会を務め、時事問題についてゲストが語り合う。
1月2日の放送で、軍事ジャーナリストの井上和彦氏が現地の様子を報告した。VTRの冒頭、井上氏は抗議活動をしている人を遠くから眺め、「いました。反対運動の連中がカメラ向けているとこっちの方見てます」とリポート。「近づくと敵意をむき出しにして緊迫した感じになります」と伝えた。井上氏がトンネル前に立ち「このトンネルをくぐると建設現場」と説明し、「反対派の暴力行為により地元の住民でさえ高江に近寄れない状況」とナレーションが流れる場面も。
ただ、このトンネルからヘリパッド建設現場までは直線距離で25キロ。この間ではリゾートホテルなどが営業し、一般の人も自由に行き来している。
また地元住民にインタビューし「(反対派が)救急車を止めて現場に急行できない事態が続いていた」とも伝えたが、地元3村を管轄する国頭地区行政事務組合消防本部は朝日新聞の取材に対し「そのような事実はない」と答えている。
スタジオでは出演者が、高江の抗議活動に加わる人権団体「のりこえねっと」について、「5万円日当」などとも発言した。
これについて「のりこえねっと」は5日付で抗議声明を発表。団体では、交通費相当の金銭を支給し、現地の様子を発信する「市民特派員」を募っている。「金銭目的で運動に参加しているかのように歪曲(わいきょく)して報道した」と非難した。また共同代表で、人材育成コンサルタントの辛淑玉(シンスゴ)さんを取り上げた後に「韓国人はなぜ反対運動に参加する?」などと流したことについて「人種差別に基づくヘイト発言」と訴えている。団体側への事前の取材はなかったという。
地元紙の沖縄タイムスと琉球新報は、社説や一般記事で番組を「沖縄ヘイト」などと批判した。沖縄タイムスの与那嶺一枝編集局次長兼報道本部長は「きちんと取材をせずにデマを公共の電波に乗せている。見過ごせば同じような番組が次々に出てきかねないという危機感があった」と話す。
◆識者「最初から反対派敵視」
放送法は、番組の編集に際し、政治的に公平であること▽報道は事実をまげないですること▽意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること――などを放送局に対し義務づけている。
MXテレビは16日の「ニュース女子」放送に続けて「1月2日に放送しました沖縄リポートは、様々なメディアの沖縄基地問題をめぐる議論の一環として放送致しました。今後とも、様々な立場の方のご意見を公平・公正にとりあげてまいります」とテロップを出した。同社の広報担当者は「メッセージ以上のことは答えられない」としている。
番組内でのテロップ表示によると、ニュース女子の「製作・著作」は化粧品大手の子会社。化粧品大手は取材に対し「担当者が不在で答えられない」としている。放送倫理・番組向上機構(BPO)は、MXテレビから報告を求めることを決めた。
元日本テレビディレクターで上智大教授の水島宏明さんは「『連中』といった言葉を使い、最初から反対派を敵視している。公平な立場で伝えるという大前提が守られていない」と指摘。「沖縄の歴史や基地問題の背景を無視し、バラエティー的な演出で笑いの対象にしていた。伝聞や臆測は伝えないという基本も守られておらず、放送倫理を大きく逸脱する内容だった」と話す。(小山謙太郎、田玉恵美)
*
Media Times(メディアタイムズ)
◆キーワード
<東京メトロポリタンテレビジョン> 1995年に開局した東京ローカルの地上波テレビ局。アニメや夕方の情報番組「5時に夢中!」などが人気。日本民間放送連盟の15年調査によると、自社制作の番組が占める割合は25・4%(キー局は約90%)。2004年、NHKの不祥事で当時の海老沢勝二会長が国会に参考人招致された際に急きょ中継したことが話題になった。主要株主はエフエム東京、中日新聞社、東京都など。
◆◆2017年元旦の新聞社説の動向
(赤旗17.01.05)(赤旗日曜版17.01.15)
◆◆安倍首相メディア幹部と会食=昨年は十数回 どう喝と介入の一方で右派との親密さ目立つ
2017年1月4日赤旗
安倍晋三首相とメディア幹部との会食が、昨年も十数回にわたって重ねられました。安倍政権によるメディアへの露骨などう喝と介入の一方で、目立つのは右派メディア幹部との親密さです。
昨年2月、高市早苗総務相は国会で、政府が「政治的公平に反する」と判断した放送局には停波を命じることができると答弁。首相も擁護しました。この「停波」発言に代表されるように、安倍政権によるメディアへの露骨などう喝と介入、干渉はとどまることを知りません。こうしたなか、NHKや民放の報道番組の主要キャスターが3人も降板する事態も起きました。
その一方で、首相は昨年もメディア幹部との会食を重ね、本紙の調べでは15回に及んでいます。とくに、渡辺恒雄「読売」本社グループ会長とは、2014年新築なった東京本社ビルで、「産経」「日経」などの幹部を交え、2度にわたって会食。ゴルフ場での会食を加えると3回になります。昨年11月16日には、「読売」東京本社ビルで講演も行っています。
各社論説幹部など固定メンバーとの年2回の会食も恒例となっていますが、昨年は別に「産経」「読売」といった右派メディアの論説委員や政治部長とも、2回ずつ個別に会食。時事通信の特別解説委員とも個別に会食しています。
権力者とメディア幹部の会食は、「権力の監視」というジャーナリズムの根幹をゆるがす問題として批判をあびてきましたが、改まる気配は一向にありません。
◆安倍首相とマスメディア幹部との会食(2016年)
日時 会食相手(会食場所)
1・21 渡辺恒雄「読売」本社会長、橋本五郎・同特別編集委員、今井環・NHKエンタープライズ社長、清原武彦「産経」相談役、ジャーナリスト・後藤謙治、芹川洋一「日経」論説委員長、評論家・屋山太郎(読売新聞東京本社ビル)
1・29 西沢豊・時事通信社社長、田崎史郎・同特別解説委員、渡辺祐司・同編集局長、阿部正人・同政治部長(東京・飯田橋のグランドホテル内、フランス料理店「クラウンレストラン」)
2・12 阿比留瑠比「産経」論説委員、有元隆志・同政治部長(東京・赤坂エクセルホテル東急内、レストラン「赤坂ジパング」)
2・18 田中隆之「読売」政治部長ら(東京・霞ケ丘町の日本料理店「外苑うまや信濃町」)
3・9 芹川「日経」論説委員長、内山清行・同政治部長(東京・新橋の日本料理店「京矢」新橋店)
5・16 大久保好男・日本テレビ社長、秋山光人・日本映像社長らマスコミ関係者(東京・銀座の中国料理店「飛雁閣」)
6・2 石川一郎・BSジャパン社長付、小田尚「読売」論説主幹、粕谷賢之・日本テレビメディア戦略局長、島田敏男NHK解説副委員長、曽我豪「朝日」編集委員、田崎時事特別解説委員、山田孝男「毎日」特別編集委員(東京・京橋の日本料理店「京都つゆしゃぶCHIRIRI」)
8・16 日枝久フジテレビ会長〔他に加藤勝信1億総活躍担当相、岸信夫外務副大臣ら〕(山梨県山中湖村のホテルマウント富士内、宴会場「メヌエット」)
9・1 渡辺「読売」本社会長、清原「産経」相談役、福山正喜・共同通信社社長ら(読売新聞東京本社ビル)
10・17 阿比留「産経」論説委員兼政治部編集委員ら(「赤坂ジパング」)
10・21 田中孝之「読売」編集局総務、前木理一郎政治部長(東京・赤坂の日本料理店「古母里」)
12・2 喜多恒雄「日経」会長、岡田直敏・同社長ら(東京・内幸町の帝国ホテル内、宴会場「梅の間」)
12・3 渡辺「読売」本社会長〔他に御手洗冨士夫経団連名誉会長ら〕(神奈川・茅ケ崎市のゴルフ場「スリーハンドレッドクラブ」内のクラブハウス)
12・6 朝比奈豊「毎日」会長、丸山昌宏・同社長ら(東京・元麻布の日本料理店「東郷」)
12・20 石川・BSジャパン社長、小田「読売」論説主幹、粕谷・日本テレビ解説委員長、島田NHK解説副委員長、曽我「朝日」編集委員、田崎時事特別解説委員、山田「毎日」特別編集委員(日本料理店「京都つゆしゃぶCHIRIRI」)
◆◆NHK新会長決定にあたって=経営委員からの選任は異常
砂川浩慶(立教大学教授)
赤旗16.12.08
◆◆NHK新会長も政府のゴーサインの枠内で動く懸念
上村達男(元NHK経営委員長代行)
日刊ゲンダイ16.12.09
◆◆NHK籾井氏の再選阻んだ世論
(赤旗16.12.14)
◆◆NHK会長に上田氏 元三菱商事副社長、現職の経営委員 籾井氏は来月退任
朝日新聞16.12.06
NHK経営委員会(委員長・石原進JR九州相談役)は6日、次期会長に現経営委員で元三菱商事副社長の上田良一(うえだりょういち)氏(67)を任命すると決め、発表した。任期は3年。籾井勝人(もみいかつと)会長(73)は来年1月24日に任期満了で退任する。NHK会長の外部からの登用は4代連続で、執行部を監督する経営委員から会長に就任するのは異例。
上田氏は一橋大法学部を卒業後、三菱商事に入社。米国三菱商事社長や三菱商事副社長を経て、2013年6月にNHKの常勤の経営委員に就いた。同7月からは監査委員も兼務。15年に発覚した、籾井会長が私的なゴルフで使ったハイヤー代をNHKに一時立て替えさせていた問題では、自ら調査を担当した。
石原委員長は上田氏の選出理由について「NHKの業務に精通しており、内部からの人望も厚い。人格もふさわしい」と説明。「放送と通信との融合など、大きな課題が控えている。リーダーシップを発揮してほしい」と期待した。その後会見に臨んだ上田氏は「立場が変わっても、国民から信頼される公共放送の役割を果たしていきたい」と述べた。会長就任により、経営委員と監査委員は退任する。
経営委は今年7月、会長指名部会を立ち上げて選定作業を開始。「政治的中立である」といった、5項目の資格要件を定めるなどの作業を進めていた。
6日は、籾井会長の評価について全委員が意見を述べた後、委員が提出した推薦書に基づいて無記名で投票を実施。複数の候補者の中から、上田氏が選ばれた。石原委員長は籾井会長について「懸案事項に積極的に取り組んで実績を出した一方、色んな誤解を招く発言があった」と述べた。(後藤洋平、小峰健二)
◆◆(時時刻刻)籾井氏後任、安定を重視 NHK会長に上田氏 内部に精通、異例の起用
NHK経営委員会は6日、次期会長に現職の経営委員で監査委員の上田良一氏(67)を選出した。経営委員として、会長を中心とする執行部の業務を監督する立場から、攻守が逆転する異例の起用。背景には、混乱が続いた「籾井体制」の立て直しに、NHK内外で信頼関係が築ける人物の就任が不可欠と判断されたことがある。
◆「頭切りかえ、職責果たす」
上田氏は、松本正之前会長時代の2013年6月に常勤の経営委員に就任。12人いる委員の中で常勤は上田氏1人で、理事会など執行部側の会合にもオブザーバーとして参加してきた。
ある委員は「経営委とNHK執行部の両方の立場を理解している。常勤のため職員とも信頼関係がある」。NHK幹部も「落ち着いた性格で受け答えにも安定感がある。籾井会長と違って国会答弁も冷静に対応できるだろう」とみる。
上田氏は三菱商事入社後、主に管理部門を渡り歩き、米国三菱商事社長などを経て09年に最高財務責任者(CFO)に就任。10年4月に副社長に昇格した。財務に精通し、社内では「非常に真面目な理論派で、一度決めたことはきちっとやる」(三菱商事幹部)。国際放送の充実を推し進めるNHKにとって、豊富な国際経験も期待されている。
経営委員、監査委員としてこれまで会長を監督する立場からの会長就任。なれ合いになり、チェック体制に問題が生じるのではとの質問に、選任を主導した石原進委員長は会見で「心配ないと思う」。上田氏は「就任したら頭を切りかえて職責を果たしたい」と語った。
上田氏には多くの課題が待ち受ける。
この秋、籾井勝人会長らが提案し、上田氏が経営委員として反対した受信料値下げを、来春から策定する次期経営計画に盛り込むかどうかが焦点だ。18年に実用放送を目指すスーパーハイビジョン(4K、8K)の推進のほか、総務省では番組とネットの同時配信についての検討が始まっている。実施には放送法の改正が必要だが、システムの構築や権利処理などの環境整備が不可欠で、受信料制度の見直しにも直結する。
3年前に籾井氏が就任した際には安倍官邸の意向が見え隠れしたが、政権側は今回、表立った介入を避けた。上田氏の選出後、官邸幹部は「妥当な人事だ。上田氏はすごく評判がいい」と語った。
公共放送トップとして、取り組むべき課題や政治とのバランスをどうとっていくのか。上田氏は「現在は籾井会長が責任者」とし、「正式に担当する時点で考えを説明する。この時点ではお許しいただきたい」と述べるにとどめた。
◆「籾井降ろし」今秋に加速
一方、退任が決まった籾井氏。続投に意欲を見せながら、経営委との溝は広がる一方だった。
「80点はいけますね。90点と言いたいところですが。まあ合格というところじゃないか」。1日午後、東京・渋谷のNHK放送センター。定例会見で1年間の自己採点を問われた籾井氏は、そう言って胸を張った。
経営委員の一人は「高得点だなあ」と苦笑。「普通のトップは『社員のおかげ』『評価はみなさんに任せる』と言うものだが」
今回選任作業をとりまとめた石原氏は、3年前に籾井氏を推薦したとされる。しかし関係者によると、石原氏は今年6月の委員長就任当初から、周囲に「籾井さんにとっても1期で身をひく方がいい」と話していたという。
三井物産副社長や日本ユニシス社長などを経てNHK会長に就任した籾井氏は、14年1月の就任会見で「政府が右と言うことを左とは言えない」と発言。15年には慰安婦問題をめぐる番組作りについて「政府のスタンスがよくまだ見えない」と語るなど、政権寄りの発言を繰り返し、報道機関トップとしての資質が疑問視された。
国会でも与野党からその言動をたびたび追及され、NHK予算の国会承認は、通例だった全会一致が3年連続で崩れた。退任する理事が経営委でのあいさつで「相次いで発生する問題への対応に追われ続け、対症療法的な対応を迫られた」と述べる場面も。ある幹部は「経営課題への取り組みに集中できない事態も招いた責任は大きい」とする。
「籾井降ろし」が加速したのは今秋。籾井氏と執行部が提案した来秋からの受信料値下げ方針に、経営委は全会一致で反対。「経営感覚がわかっていない」と厳しい指摘が相次いだ。あるNHK幹部は「議論の中身より、籾井体制での実績作りをさせないという印象を受けた」と語る。
この頃、籾井氏は周囲に「今の状況では、再任が難しいことはわかっている」とこぼすようになっていた。別の幹部は「値下げの攻防は、元々あった経営委と籾井会長の距離を修復不可能にし、退任を決定づけた」と振り返る。
籾井氏は6日、朝日新聞の取材に「ベストと思う方を選ばれたんだと思う。1月24日までは粛々とやる」。淡々とした表情で語った。
◆◆隅井孝雄=NHK会長選任どうあるべきか
(赤旗16.11.28)
◆◆NHK会長選任に国民・視聴者の声を
(赤旗16.10.14)
◆◆放送を語る会=参院選テレビ検証・報道 質量ともに後退
2016年8月21日赤旗
放送関係者や市民でつくる「放送を語る会」は19日、7月10日投票の参院選でのテレビ報道のモニター調査結果を、「憂うべき選挙報道の現状」とのタイトルで発表しました。同会は、NHKと民放4局の計6報道番組をモニター。「報道は質量ともに後退」「与党の改憲志向の具体的内容が追及されなかった」などと提示しています。
モニターした番組はNHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」と、日本テレビ「NEWS ZERO」、テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」、フジテレビ「みんなのニュース」。期間は投票日までの約1カ月(6月13日~7月10日)です。
全体については「選挙期間中に、番組によっては選挙関連番組がない放送日がかなりあった」と指摘。特に「ニュース7」は選挙期間中18日のうち、9日間は選挙報道がなかったと提示。一方「報道ステーション」では、選挙関連報道なしは1日だけでした。
「争点の伝え方」についてはとくに「改憲問題」に注目しています。個々には憲法・改憲志向をとりあげた番組はあったが、全体としては「憲法改正」という用語でとらえられ、自民党の改憲案については「中身に切りこんでいなかった」と批判しています。
「アベノミクス」では、「道半ば」と位置づけていたNHKについて「政権の主張そのまま」と指摘。一方「NEWS23」については働き方の問題を取り上げたことを評価するとともに、「現状報告にとどまっているのは惜しまれる」と注文をつけています。
報告は「選挙報道の量と質は圧倒的に不足していた」と指摘し、「根本的なあり方を検討すべきだ」と提言しています。
同会はこのモニター調査を、NHKと在京民放各局の報道局長、ニュース番組担当者に、今後の番組政策に役立ててほしいとの要望とともに送付しました。
◆◆参院選テレビ報道=量質ともに後退
(赤旗16.07.17)
【参院選結果についての報道】
(赤旗日曜版16.07.17)
◆◆権力者がつくったテレビ界の「偏らない」「空気」
(16.05.29赤旗日曜版)
◆◆朝日新聞社説=NHKの使命 政府の広報ではない
2016年5月2日朝日新聞
NHKは、政府の広報機関ではない。当局の発表をただ伝えるだけでは、報道機関の使命は果たせない。
それは放送人としての「イロハのイ」だ。しかし、籾井勝人会長は就任から2年3カ月になるが、今もその使命を理解していないとしか思えない。
籾井氏は、先月の熊本地震に関する局内会議で、原発に関する報道は「公式発表をベースに」と発言した。「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」などとも指示した。
26日の衆院総務委員会で籾井氏は、こう答弁している。
「公式発表」とは「気象庁、原子力規制委員会、九州電力」の情報のこと。鹿児島県にある川内(せんだい)原発については「(放射線量を監視する)モニタリングポストの数値などをコメントを加味せず伝える。規制委が、安全である、(稼働を)続けていいといえば、それを伝えていく」と考えているという。
災害の時、正確な情報を速く丁寧に伝えるよう努めるのは、報道機関として当然だ。自治体や政府、企業などの発表は言うまでもなく、ニュースの大事な要素である。
同時に、発表内容を必要に応じて点検し、専門知識に裏付けられた多様な見方や、市民の受け止めなどを併せて伝えるのも報道機関の不可欠な役割だ。
しかし籾井氏の指示は「公式発表」のみを事実として扱うことを求めているように受け取れる。ものごとを様々な角度から見つめ、事実を多面的に伝えるという報道の基本を放棄せよと言っているに等しい。
「住民に安心感を与える」ためというのが籾井氏の言い分のようだ。だが、それは視聴者の理解する力を見くびっている。
NHK放送文化研究所の昨年の調査では、85%が「必要な情報は自分で選びたい」とし、61%が「多くの情報の中から信頼できるものをより分けることができるほうだ」と回答した。
多くの視聴者は、政府や企業などが公式に与える情報だけでなく、多角的な報道を自分で吟味したいと考えているのだ。
籾井氏は一昨年の就任会見で「政府が右ということを左というわけにはいかない」と発言。昨年は戦後70年で「慰安婦問題」を扱うか問われ、「政府の方針がポイント」と語った。
政府に寄り添うような発言はその都度批判されてきたが、一向に改まらない。このままでは、NHKの報道全体への信頼が下がりかねない。
◆◆河野慎二=自粛・萎縮打ち破れ
(赤旗16.05.15)
◆◆須藤春夫= キャスター交代で退く権力監視
(赤旗16.04.29)
◆◆報道の自由、海外から警鐘 国連が調査・NGO「世界72位」
2016年4月24日朝日新聞(Media Times)
日本の「報道の自由度ランキング」
日本の「報道の自由」が脅かされているとする見方が海外で広がっている。来日した国連の専門家が懸念を表明。国際NGOが公表した自由度ランキングも大きく後退した。政治の圧力とメディアの自主規制が背景にあると指摘している。
「報道の独立性が重大な脅威に直面している」。19日に東京都内で会見した国連特別報告者のデービッド・ケイ米カリフォルニア大アーバイン校教授(国際人権法)は、政府や報道関係者らへの聞き取りをもとに、暫定的な調査結果をまとめ、日本の言論状況に警鐘を鳴らした。
◆「政府による脅し」
ケイ氏の指摘は、放送法や自民党の憲法改正草案、特定秘密保護法の問題点など多岐にわたる=表。なかでも、放送の政治的公平性を定めた放送法をめぐり、高市早苗総務相が電波停止に言及したことについて、「政府は脅しではないと主張したが、メディア規制の脅しと受け止められても当然だ」と批判した。
ケイ氏に面会したフリージャーナリストによると、「『政府の圧力』に対して強い関心を抱いていた」という。高市発言や、前回総選挙前に自民党が放送局に「公平中立」を求める文書を送るなどの事例が相次いでいることが、厳しい指摘につながったとみられる。
報道側の問題として、記者クラブ制度や、メディアの権力側との距離の取り方などに触れ、「メディア幹部と政府高官、規制される側とする側が会食し、密接な関係を築いている」などと指摘した。
市民デモにも言及し、「沖縄の抗議活動に対しては、過剰な力の行使や多数の逮捕があると聞いた。心配なのは抗議活動を撮影するジャーナリストへの力の行使だ」と懸念を示した。
一方で「日本は自由な国で民主主義の歴史もある。憲法21条で表現の自由を保障し検閲を禁じている。ネット環境は政府介入も少なく、世界有数の高い自由度を誇る」と評価し、「だからこそ最近の傾向に注目している」と強調した。
◆「上から自主規制」
海外のNGOも日本の言論状況を注視してきた。
20日発表の「報道の自由度ランキング」で、日本を世界180カ国・地域で72位とした国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は「多くのメディアが自主規制している。とりわけ、首相に対してだ」と断じた。2010年の11位から下がり続けており、「安倍政権となってからの順位低下が著しい」という。
ランキングづくりにあたっては、各国の記者やブロガーらに「記者は何を恐れて自主規制するか」など87項目の質問に答えてもらい、指数化している。
日本で活動する記者らと連絡をとるアジア太平洋地区担当のベンジャマン・イスマイールさん(34)は、「メディアに属する記者は(組織の)上からの自主規制を受けることが多い。政治的に微妙な問題に触れるような場合がそうだ」。
外国メディアも、高市発言や今春のニュース番組キャスターの相次ぐ交代を伝えている。
「悪いニュースを抑え込む」と題した社説を3月に掲載した米ワシントン・ポスト紙は、「戦後日本が達成した成果とは、経済的な『奇跡』ではなく、報道の独立を含めた自由主義制度の確立だ。(日本が直面する困難に対処する)安倍氏のゴールがいかに価値があるとしても、これらが犠牲にされるべきではない」と訴えた。
英タイムズ紙のリチャード・ロイド・パリー東京支局長は朝日新聞の取材に、「安倍政権は過去の政権よりも報道に神経質で圧力もかけているが、ジャーナリストが抵抗していれば問題はない。日本の問題は、ジャーナリストが圧力に十分抵抗していないことだろう」と話した。
(編集委員・北野隆一、大島隆、パリ=青田秀樹)
◆国連のデービッド・ケイ氏の日本の言論状況への指摘
・政府は(政治的公平性などを定めた)放送法第4条を廃止し、メディア規制から手を引くべきだ
・自民党の憲法改正草案21条で公益や公の秩序に言及した部分は国際人権規約と矛盾し、表現の自由と相いれない
・特定秘密保護法は秘密の範囲があいまいで、記者や情報提供者が処罰される恐れがある
・慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者の植村隆氏やその娘に対し、殺害予告を含む脅迫が加えられた。当局は脅迫行為をもっと強く非難すべきだ
・沖縄での市民の抗議活動への力の行使を懸念
・記者クラブ制度はフリー記者やネットメディアを阻害
◆毎日新聞16.04.25
◆◆熊本地震、原発報道「公式発表で」…NHK会長が指示
毎日新聞 2016年4月23日
識者「独自取材、萎縮させる」
NHKが熊本地震発生を受けて開いた災害対策本部会議で、本部長を務める籾井勝人(もみい・かつと)会長が「原発については、住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えることを続けてほしい」と指示していたことが22日、関係者の話で分かった。識者は「事実なら、報道現場に萎縮効果をもたらす発言だ」と指摘している。
会議は20日朝、NHK放送センター(東京都渋谷区)で開かれた。関係者によると、籾井会長は会議の最後に発言。「食料などは地元自治体に配分の力が伴わないなどの問題があったが、自衛隊が入ってきて届くようになってきているので、そうした状況も含めて物資の供給などをきめ細かく報じてもらいたい」とも述べた。出席した理事や局長らから異論は出なかったという。
議事録は局内のネット回線を通じて共有され、NHK内には「会長の個人的見解を放送に反映させようとする指示だ」(ある幹部)と反発も聞かれる。
砂川浩慶・立教大教授(メディア論)は「会長には強い人事権がある。発言が事実なら、萎縮効果をもたらす発言で問題だ。熊本地震で起きた交通網の遮断を前提に原発事故発生時の避難計画の妥当性を検証したり、自衛隊と地元自治体との連携について振り返ったりするといった独自取材ができなくなる恐れがある」と指摘する。
NHK広報部は「部内の会議についてはコメントできない。原発に関する報道は、住民の不安をいたずらにあおらないよう、従来通り事実に基づき正しい情報を伝える」としている。【丸山進】
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◆◆「識者見解、不安与える」 NHK会長、原発報道で
2016年4月27日朝日新聞
熊本地震に関連する原発報道について「公式発表をベースに」と内部の会議で指示していたNHKの籾井勝人会長が、同じ会議で「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」などとも指示していたことが26日、関係者への取材で分かった。
会議は20日に開かれた災害対策本部会議。朝日新聞が入手した会議の記録では、専門家に言及した部分はなかった。「発言をそのまま載せると問題になると考え、抜いたのでは」と話す関係者もいる。NHK広報局は「部内の会議についてはコメントできない」としている。
この会議について籾井氏は26日の衆院総務委員会でも質問を受けた。民進党の奥野総一郎氏に対し、「事実に基づいて、モニタリングポストの数値などを、我々がいろんなコメントを加味せずに伝えていく」などと述べ、公式発表をそのまま報じるべきだという考えを改めて示した。公式発表が何を指すかについては、気象庁や原子力規制委員会、九州電力が出しているものをあげた。指示については「原子力規制委員会が安全である、あるいは(運転を)続けていいということであれば、それをそのまま伝えていくということ。決して、大本営発表みたいなことではない」と説明した。
だが、局内には冷ややかな空気が流れる。NHK報道局の中堅記者は「悲しい現実だが、またやったか、という思いもある。今後も現場は視聴者のための情報を伝える使命を持ち続けたい」と語った。
籾井氏の姿勢については専門家の間から疑問の声が上がっている。音好宏・上智大教授(メディア論)は「NHKは、政府などの公式発表より早く現場の事実を伝えることも可能な組織だ。東日本大震災の際、福島中央テレビが東京電力福島第一原発の水素爆発を撮影し、その映像を報じた。籾井氏の発言通りだとすれば、同様のことが起こっても、NHKは政府などの公式見解が出るまで映像を流してはいけないことになる。それはNHKの編集権の放棄であり、報道機関としての自殺行為ではないか」と指摘する。
大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理)は「籾井氏はジャーナリズムの役割を理解していない。公式発表を批判的に検証する視点が全くない。公式発表を伝えることがメディアの役割だとすれば、広報だと思っているに等しい」と話している。(後藤洋平、佐藤美鈴)
◆◆テレビ各局はTBS見習え
(赤旗日曜版16.04.24)
◆◆「報道の自由」72位 日本に海外から懸念も
2016年4月21日朝日新聞
日本の「報道の自由」が後退しているとの指摘が海外から相次いでいる。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が20日に発表したランキングでは、日本は前年より順位が11下がって72位。国連の専門家や海外メディアからも懸念の声が出ている。
国境なき記者団は、180カ国・地域を対象に、各国の記者や専門家へのアンケートも踏まえてランキングをつくっている。日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、「東洋の民主主義が後退している」としたうえで日本に言及した。
特定秘密保護法について、「定義があいまいな『国家機密』が、厳しい法律で守られている」とし、記者が処罰の対象になりかねないという恐れが、「メディアをまひさせている」(アジア太平洋地区担当のベンジャマン・イスマイール氏)と指摘した。その結果、調査報道に二の足を踏むことや、記事の一部削除や掲載・放映を見合わせる自主規制に「多くのメディアが陥っている」と報告書は断じた。「とりわけ(安倍晋三)首相に対して」自主規制が働いているとした。
日本の報道をめぐっては、「表現の自由」に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大アーバイン校教授)が調査のため来日。19日の記者会見で「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と指摘した。
海外メディアも、米ワシントン・ポスト紙が先月の「悪いニュースを抑え込む」と題した社説で、政府のメディアへの圧力に懸念を表明。英誌エコノミストも「報道番組から政権批判が消される」と題した記事で、日本のニュース番組のキャスターが相次いで交代したことを紹介した。(青田秀樹=パリ、乗京真知)
◆報道の自由度ランキング
(カッコ内は前年順位)
<上位5カ国>
1 フィンランド(1)
2 オランダ(4)
3 ノルウェー(2)
4 デンマーク(3)
5 ニュージーランド(6)
<G8国>
16 ドイツ(12)
18 カナダ(8)
38 英国(34)
41 米国(49)
45 フランス(38)
72 日本(61)
77 イタリア(73)
148 ロシア(152)
<ワースト5カ国>
176 中国(176)
177 シリア(177)
178 トルクメニスタン(178)
179 北朝鮮(179)
180 エリトリア(180)
◆◆日本の報道の独立性に「脅威」 国連報告者「政府の圧力、自己検閲生む」
2016年4月20日朝日新聞
記者会見する国連「表現の自由」特別報告者デービッド・ケイ氏(右)=東京都千代田区の外国特派員協会、北野隆一撮影
「表現の自由」に関する国連特別報告者として初めて公式に訪日したデービッド・ケイ氏(米国)が日本での調査を終え、19日に東京都内で記者会見した。「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面している」として、メディアの独立性保護や国民の知る権利促進のための対策を講じるよう政府に求めた。
ケイ氏は日本政府の招きで11日から訪日。政府職員や国会議員、報道機関関係者やNGO関係者らの話を聞き、「特定秘密保護法や、『中立性』『公平性』を求める政府の圧力がメディアの自己検閲を生み出している」と分析。「ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた」と述べた。
放送法をめぐっては「放送法のうち(政治的公平性などを定めた)第4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだ」と提言。高市早苗総務相が番組の公平性を理由に放送局の「電波停止」に言及した発言をめぐって、高市氏との面会を希望したが「国会会期中との理由で会えなかった」と明かした。
特定秘密保護法については「原発や災害対応、安全保障など国民の関心が高い問題の政府情報が規制される可能性があり、内部告発者の保護体制も弱い」と懸念を示した。
ヘイトスピーチ対策については「ヘイトスピーチの法律は悪用の恐れがある。まずは人種差別禁止法を作るべきだ」と提言。慰安婦問題など歴史問題については「戦争中の罪を教科書でどう扱うかについて政府が介入することは、国民の知る権利を脅かし、過去の問題に取り組む力を低下させる」と懸念を示した。記者クラブの排他性も指摘した。
ケイ氏は米カリフォルニア大アーバイン校教授で国際人権法などが専門。2014年、国連人権理事会から特別報告者に任命された。今回の訪日についての報告書は17年に人権理事会に提出する予定という。(編集委員・北野隆一)
◆◆新しいキャスターに望む
(赤旗日曜版16.04.10)
◆◆報道ステーション最終回古舘氏「死んでまた再生します」/あいさつ全文
古舘伊知郎キャスターが、3月31日の放送でテレビ朝日「報道ステーション」の出演を終えた。番組最後のスピーチは以下の通り。
★古舘伊知郎報ステ最終回あいさつ8m
(音声)https://m.youtube.com/watch?v=9dsJYltuXDU
または
(動画)https://m.youtube.com/watch?v=JTnYwgYTaKM
私が大変気に入っているセットも今日が最後。04年4月に産声を上げ、12年の月日があっという間にたちました。私の古巣である、学舎であるテレビ朝日に貢献できればという思いも強くあって、この大任を引き受けさせていただきました。おかげさまで風邪などひとつもひくことなく、無遅刻無欠勤で12年やらせていただくことができました。これもひとえに、テレビの前で今、ご覧になっている皆様方の支えあったればこそだなと、本当に痛感をしております。ありがとうございました。
私は毎日毎日この12年間、テレビ局に送られてくる皆様からの感想、電話、メールをまとめたものをずーっと読ませていただきました。お褒めの言葉に喜び、徹底的な罵倒に傷ついたこともありました。でも全部ひっくるめてありがたいなと今思っております。
というのも、ふとある時気づくんですね。いろんなことを言ってくるけれども、考えてみれば私もこの電波という公器を使っていろんなことをしゃべらせていただいている。絶対誰かがどこかで傷ついているんですよね。それは因果はめぐって、自分がまた傷つけられて当然だと、だんだん素直に思えるうになりました。こういうふうに言えるようになったのも、皆様方に育てていただいたんだなと、強く思います。
そして、私がこんなに元気なのになんで辞めると決意をしたのかということも簡単にお話しするとすれば、そもそも私が12年前にどんな報道番組をやりたかったのかということにつながります。実は言葉にすると簡単なんです。もっともっと普段着で、もっともっとネクタイなどせず、言葉遣いも普段着で、普通の言葉でざっくばらんなニュース番組を作りたいと、真剣に思ってきたんです。
ところが現実はそんなに甘くありませんでした。たとえば、「いわゆるこれが事実上の解散宣言とみられております」と、「いわゆる」がつく。「事実上の」をつけなくてはならない、「みられている」と言わなくてはならない。これはどうしたって必要なことなんです。放送する側としても誰かを傷つけちゃいけないと、二重三重の言葉の損害保険をかけなければいけないわけです。そういうことをガチッと固めてニュースをやらなければならない。そういう中で、正直申しますと、窮屈になってきました。
もうちょっと私は自分なりの言葉、しゃべりで皆さんを楽しませたいというようなわがままな欲求が募ってまいりました。12年やらせていただいたというささやかな自負もありましたので、テレビ朝日にお願いして「退かせてください」ということを言いました。これが真相であります。
ですから、世間の一部で、なんらかのプレッシャー、圧力が私にかかって、辞めさせられるとか、そういうことでは一切ございません。そういう意味では、私のしゃべりを支持してくれた方にとっては、私が辞めるというのは、裏切りにもつながります。本当にお許しください。申し訳ありません。私のわがままです。
ただ、このごろは、報道番組で開けっぴろげに昔よりもいろんな発言ができなくなりつつある空気は私も感じています。この番組のコメンテーターの政治学者の中島先生が教えてくれました。「空気を読む」という人間には特性がある。読むから、一方向にどうしても空気を読んで流れていってしまう。だからこそ反面で「水を差す」という言動や行為が必要だと。私、その通りだと思います。つるんつるんの無難な言葉で固めた番組などちっとも面白くありません。人間がやっているんです。人間は少なからず偏っていきます。だから、情熱をもって番組を作れば、多少は番組は偏るんです。全体的に、ほどよいバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけばいいという信念を私は持っています。
という意味では、12年間やらせていただく中で、私の中でも育ってきた報道ステーション魂を、後任の方々にぜひ受け継いでいただいて、言うべきことは言う、間違いは謝る。激しい発言というのが、後年議論のきっかけになっていい方向に向いたじゃないかと、そういうこともあるはずだと信じております。
考えてみれば、テレビの一人勝ちの時代がありました。そのよき時代に乗って、あの久米宏さんが素晴らしい「ニュースステーション」というニュースショーを、まさに時流の一番槍をかかげて突っ走りました。私はその後を受け継ぎました。テレビの地上波もだんだん厳しくなってきた。競争相手が多くなりました。そういう中でも、しんがりを務めさせていただいたかなと、ささやかな自負は持っております。
さあ、この後は通信と放送の二人羽織、どうなっていくんでしょうか。厳しい中で、富川悠太アナウンサーが4月11日から引き継ぎます。大変だと思います。しかし彼には乱世の雄になっていただきたいと思います。私はこの12年の中で彼をすごいなと思ったのは、1回たりとも仕事上のグチを聞いたことがありません。そういう人です。精神年齢は私よりもずっと高いと思っています。どうか皆さん、3カ月や半年あたりでいいだ悪いだ判断するのではなく、長い目で彼の新しい報道ステーションを見守っていただきたいと思います。本当につらくなったら私に電話してきてください。相談に乗ります。ニュースキャスターというのは、本当に孤独ですからね。
私は今こんな思いでいます。人の情けにつかまりながら、折れた情けの枝で死ぬ。「浪花節だよ人生は」の一節です。死んでまた再生します。皆さん、本当にありがとうございました。
https://blog456142164.wordpress.com/2018/11/29/憲法とたたかいのblogトップ/【坂本龍馬】→憲法とたたかいのblogのトップへ
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◆◆安倍首相のメディア工作リンク集
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◆当ブログ=自民党・菅首相のメディア工作とNHK乗っ取り計画❶
https://blog456142164.wordpress.com/2018/12/10/1731/
◆◆1604世界別冊・青木=このままジャーナリズムを死滅させないために.pdf
◆◆1605世界・国谷=クローズアップ現代の23年ーテレビに未来はあるか.pdf
◆◆1605世界・金平=TVキャスターたちはなぜ声をあげたりかーテレビに未来はあるか.pdf
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◆◆自民党・菅首相のメディア工作の動向
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◆◆NHK有馬・武田キャスターの更迭
赤旗21.3.10
◆◆田島=NHKへの露骨な介入
赤旗21.2.27
◆◆NHK経営計画
赤旗21.2.9
◆◆菅首相のメディア支配・介入赤旗20.12.31
◆◆官邸のテレビ監視
赤旗20.11.22
◆◆菅首相のメディア工作
◆◆コロナとメディア
◆◆「NHKから国民を守る党」の主張を批判する
2019年8月14日 放送を語る会
★★放送を語る会
http://www.ne.jp/asahi/hoso/katarukai/
2019年3月22日
第25回参議院選挙で、「NHKから国民を守る党」は、比例で1議席を確保し、選挙区 の得票率が3パーセントを超えたことで政党要件を満たす存在となった。
一般にあるNHKへの批判、不満を集票に利用し、地方自治体の議員や、国会議員の職 を得た同党にたいし、有権者からは批判の声が強まっている。
同党のさまざまなふるまいには道義的に重大な問題があると当会は考えているが、ここ では同党の「NHKをぶっ壊す」というスローガンと「NHKの放送をスクランブル化す る」という主張に限定して批判することとしたい。
1) 問題はスクランブル放送が是か非かではない
N国党は、党の目的を「NHKの放送をスクランブル放送にすること」ただ一つだとし、 実現すれば解党するとまで公言している。
スクランブル放送にして、視聴する人だけが料金を払えばいい、という主張は、一見合 理的であるかに見える。しかし、もしNHKの地上波放送がスクランブル放送になれば、 受信料収入は激減し、現在のような規模の放送企業体としてのNHKはとうてい維持でき ない。同党の主張通り、NHKは「ぶっ壊れる」ことになる。
したがって、N国党の政策については、スクランブル放送にすべきかどうか、という問 題ではなく、NHKのような公共放送機関が日本で必要かどうか、という問題ととらえて 検証する必要がある。
2) 公共的放送機関をなくしてはいけない
N国党は周知のように「NHKをぶっ壊す」と繰り返し叫んでいる。しかし、NHKの ような公共的放送機関は「壊して」いいのだろうか。
たしかに、現在のNHKは、政権寄りの政治報道をはじめ、そのあり方がさまざまな批 判を浴びている存在である。しかし、そのことと、将来にわたってわが国でNHKのよう な公共的放送機関が必要かどうかは分けて考える必要がある。
放送法は、NHKを、国費でもCM収入でもなく、視聴者の受信料だけで運営する放送 機関とした。国家権力からも企業の支配からも自由に、独立して自律的に放送事業を行う ことを可能にするための制度である。
この制度に基づく「公共放送」によって、視聴者の多様な要求に応える多様な放送が実 現できることになった。NHKでは、マイノリティのための番組、教育現場への教材を提 供する学校放送番組、文化の継承のための古典芸能番組など、視聴率に左右されない放送 を実施できている。
当放送を語る会は、このような、市場原理の影響からも自由でありうる公共的な放送機 関は、日本の民主主義と文化にとって重要な存在であると考えている。その認識の上で、 現在のNHKが、その理想にふさわしい状態にあるかどうかを監視し、必要な抗議・要求 行動を行う、というスタンスで活動してきた。
ところがN国党は、NHKを壊す=破壊する理由として、週刊誌が報道したというNH K職員の「不倫」の事件をNHKが説明しないからだ、という驚くべき主張を政見放送で 1
展開してきた。これまで受信料で形成されてきた、国民の共有財産とも言える公共放送機 関を、このような理由で破壊するという主張は到底容認できない。
いまNHK問題に取り組む視聴者団体に、「N国党とはちがうのか」という問い合わせが あると聞いている。この際、当会のような視聴者団体とN国党とはいかなる点ても接点は なく、むしろ反対の立場に立つものであることを明らかにし、同時にN国党と全国の視聴 者団体とは厳しく区別されるべきだと主張したい。
3) スクランブル放送とは何か。実施すればNHKはどうなるか
私たちは、前述のように、スクランブル放送にすればNHKは壊れる、と考える。ではなぜそうなるのか。
スクランブル放送とは、放送内容を暗号化し、電気的に撹拌して放送する方式である。
視聴者が放送を見るためには、このスクランブルを解除する手段を入手しなければならない。そのために視聴者はNHKと契約が必要になる、というシステムである。
これをNHKの総合・Eテレの地上波で実施したらどうなるか。 正確には予測できないが、NHKにとって最悪のシナリオはつぎのような事態である。 テレビは無料の民放を見れば間に合うと考え、できれば受信料の出費を控えたい、という視聴者は多いと思われる。
現在受信料契約をしている視聴者のうち大半がスクランブル放送の解除をしない、つまりNHKと契約しない可能性がある。受信料収入が激減することは避けられない。
受信料でつくられた東京はじめ各地の放送会館、設備は維持できず、売却するほかなく なる。また、放送文化研究所や放送技術研究所のような社会に貢献すべき研究所は、スクランブル解除に役に立たないということで閉鎖に追い込まれると予想できる。
放送内容では、「ETV特集」や「NHKスペシャル」など時間と経費のかかるドキュメ ンタリーは制作が困難になる。また、スクランブルを解除してもらうために、いわゆる大 衆受けのする娯楽番組が主流になり、少数の視聴者を対象にする福祉、教育、文化・教養番組などは消滅する可能性がある。
そうなればNHKは小さな有料放送局として残るしかないことになる。
日本の放送界は実質的に商業放送が支配すことになり、NHK、民放の二元体制をとる現行放送法体系は根底から崩壊せざるを得ない。このような状況では、放送の分野で視聴 者市民の知る権利が大きく損なわれる恐れがある。
4) いまNHKに求められるもの
N国党の主張に問題があるにもかかわらず、選挙区で 150 万票、比例代表で 98 万票が同 党に投じられた事実を、NHKは深刻に受け止める必要がある。NHKは、現状が真に「視 聴者に支持される公共放送」となっているかを厳しく問い直すべきである。
公共放送のあり方から逸脱する政権広報のような政治報道を改めること、会長の公募制 など、NHKの経営への視聴者の参加の方策を案出すること、番組やニュースに関する視 聴者の意見や批判に丁寧に答えること、委託法人等による暴力的な受信料契約強制をやめ ること、さらに、ニュース、番組制作者と市民が交流するようなイベントを企画し、対話 を進めること、などを強く要求したい。
「放送法では受信料を払うことになっている」といった解説的広報番組を流せば済むと いうものではない。公共放送の本来のすがたに立ち返る具体的な行動と努力が必要である ことを、N国党の伸長という事態を受けてあらためて強調しておきたい。
◆◆日本放送協会会長 上田良一様
政府から独立した公共放送の原則に立つ政治報道を求めます
2019年3月22日
NHKとメディアの「今」を考える会
http://www.ne.jp/asahi/hoso/katarukai/190322moshiire.pdf
(全文)
日頃、NHK経営の難しいかじ取りに尽力しておられることと存じます。
私たちはNHKが各分野ですぐれた番組を放送していることを知っています、しかし、こと政治報道 に関しては、政府広報ではないかという批判が市民の間から強く上がっています、このたびそのいくつ かの例をお示しし、改善をお願いすることとしました。
安倍首相の発言や行動に対する批判的報道がほとんどありません。
安倍首相がNHKニュースに登場する機会が非常に多い状態が続いています。 一国の首相の発言は 重要で、ニュースとして伝えるのはありうることです。しかし問題は、安倍首相の発言が事実なのか検 証する報道がほとんど見当たらないことです。
「日曜討論」の「(辺野古の)サンゴは移した」という発言も、事実かどうかの検証取材がありませ んでした。結果として首相のフェイク(ウソ)発言が影響を与えたままになっています。
また、安倍首相は国会で「都道府県の6割以上が自衛隊へ協力していない」、だから憲法改正が必要 だ、と主張しました。重大な発言です。新聞や民放ニュースではすぐに調査・取材して、実際はおよそ 9割の自治体が何らかの協力をしていることを明らかにし、首相発言は正確ではない、と伝えました。
しかし、NHKはこの件について少なくとも2月までの報道では検証を行っていません。
NHKでは安倍首相批判はタブーのように見えます。
政権にとって不都合と思われる事実が伝えられない例があります。(辺野古報道で目立ちます)
昨年の翁長前知事沖縄県民葬では、菅官房長官に参列者から「帰れ!」「ウソつき!」などのヤジが 飛びました。これ自体がニュースであるのに、NHKは報じませんでした。
また、今年1月、辺野古に軟弱地盤があり、防衛省が設計変更を検討していることや、政府が県に無 断で土砂規準を変更し、辺野古埋め立て地に赤土が投入されている疑いがあることなどが相次いで明ら かになりました。こうした事実は民放ニュースでは伝えられましたが、その時点での「ニュースウオッ チ9」では報道されませんでした。
政府が発表する呼称に従う傾向が気になります。
ニュース項目で、政府が主張する用語に従う傾向が続いています。
共謀罪法国会審議報道では、政府が発表した「テロ等準備罪を新設する法案」という呼称が使われ続 けました。韓国徴用工裁判報道では、当初、「徴用工」問題、としていたのを、政府が徴用工を「朝鮮 半島出身労働者」と表現したあとは、「『徴用』問題」という表現に変え、「徴用工」という用語をニュ ース項目では使わなくなりました。
アメリカとの2国間貿易交渉については、事実上FTA交渉であることを伝えず、それを隠す政府の造語、TAG(物品貿易協定)という呼称しか使われていません。
森友・加計学園問題では、報道を抑制する姿勢が批判されました。
森友・加計学園問題では、NHKニュースではいくつかの重要なスクープがありました。しかし、その一方で、報道局幹部による報道の抑制があったことがメディアで伝えられています。2017年、NHKが「総理のご意向」などの文科省文書を入手したのに、スクープとして報じられず、前川喜平前事務次官の単独インタビューも放送されませんでした。
最近では、森友学園についての大阪局取材のニュースに、東京の報道局幹部が圧力をかけたと、このほど退職した大阪局の元記者が告発しています。
以上のような政治報道の状態は、長年培われたNHKへの信頼を損なうものにならないでしょうか。
2月4日の朝日新聞の記事によれば、会長は、「現政権との距離は適切か」と問われたのに対し「答 えは控える」として、回答されませんでした。失望を禁じえません。
かつてNHKでは「慰安婦」問題の番組が政治介入で改変されました。そして「慰安婦」の番組をほとんど作らなくなる状態が続いています。
NHKは、受信料のみで支えられることによって、政府から独立した存在であるべきです。政権から距離を置き、必要な時は批判する、というのが本来の姿です。政治報道がその基本に立ち返って行われ
ることを強く求めます。
最後に要望したいことがあります。このところ制作局での大がかりな「組織改正」が進行中と報じら れています。番組の制作条件、現場制作者の労働条件の改変は、番組の質に直結するものとして、視聴 者は重大な関心を持たざるをえません。また、一部の番組が、「反安倍政権」といった報道が週刊誌な どでありました。こうした機会をとらえ、政治権力やそれに呼応する社会的勢力が圧力・攻撃をかけて くることを危惧しています。
「組織改正」にあたっては、なにより現場制作者の要求を最大限に尊重することはもちろん、万一、 番組に圧力、介入がある場合には、断固として番組と制作現場を守っていただくよう要望します。
◆◆久米宏がNHK番組でNHKへの注文
◆◆(Media Times)参院選、テレビ低調 民放報道4割減/NHK3時間減
朝日新聞2019年7月19日
参議院選挙のテレビ報道が低調だ。選挙自体が盛り上がらず、高視聴率を見込めないためと関係者はみるが、そんな常識を覆す現象も起きている。
テレビ番組を調査・分析するエム・データ社(東京都港区)によると、地上波のNHK(総合、Eテレ)と在京民放5社の、公示日から15日までの12日間で選挙に関する放送時間は計23時間54分で、前回に比べ6時間43分減っている。とりわけ「ニュース/報道」番組の減少が顕著で、前回から約3割減、民放だけなら約4割減っている。
公示日のテレビを見ると、NHK「ニュースウオッチ9」がトップで伝えたり、TBS系「NEWS23」と日本テレビ系「news zero」が党首討論を行ったり、午後9時以降の主な報道番組六つすべてが選挙にふれたが、翌日は六つとも報じなかった。
「情報/ワイドショー」は、前回より放送時間が増えたが、フジテレビ系「とくダネ!」やTBS系「ビビット」、日本テレビ系「スッキリ」など、公示日から15日まで選挙企画が全くないところも。
10年以上情報番組に携わった在京キー局の元プロデューサーは、選挙自体、盛り上がりに欠けるためだとみる。「安倍政権1強。政権交代が起きる要素もない。取り上げたくなる個性の強い候補者や選挙区もない。視聴率が取れない」
また選挙期間中は、陣営からのクレームを恐れ、発言時間をストップウォッチで管理するなど細心の注意が必要だったとし、「数字が取れないのに、作り手は、手間とリスクを取って放送するメリットはないと思っているのでは」。
そんな中、積極的なのはテレビ朝日系の朝の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」。公示日以降、ほぼ毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに専門家を招いて掘り下げ、各党の主張を紹介している。しかも、視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は連日9%台を記録。同時間帯の民放の情報番組の中で首位を走る。
憲法改正に絡む「緊急事態条項」を取り上げた祝日15日の放送は、15年の番組開始以来2位の11・7%となった。小寺敦チーフプロデューサーは「難しいテーマに司会者の羽鳥慎一さんさえ『祝日の朝に本当に見てもらえるのだろうか』と心配していたのに、結果を見て、選挙に関する有権者の知りたいという欲求を確かに感じた」と話す。
NHKは前回に比べ3時間弱、放送時間が減少した。同局幹部は4日の公示日前後にあった九州南部の大雨に触れ、「災害報道に時間を割いたことも影響しているのでは」と言う。
ただ、NHKの場合、ネット上で選挙サイト「NHK選挙WEB」も展開。全国の選挙区ごとに、候補者へのインタビュー映像や、争点解説の動画を発信するなどネット報道を強化しているという。別の幹部は「全体では、発信する情報量はむしろ増えている」。
■専門家「公平性気にしすぎ」
そもそも、各局の放送内容に批評性が足りないと指摘するのは、フジテレビで報道番組のディレクターなどを務めた筑紫女学園大の吉野嘉高教授だ。「本来であれば、安倍政権の6年を振り返り、何が実現して何が実現しないのか検証する報道が必要だ。公平性に気が回りすぎて、全く切り込めていない」と話す。「有権者が一番知りたい時期に、知る権利に量的にも質的にも応えていないことを意識すべきだ」と指摘する。(真野啓太、西村綾華、定塚遼)
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Media Times(メディアタイムズ)
◆◆テレビ局のアリバイ的選挙報道
赤旗19.07.18
◆◆NHKは「政権広報」になっていないか?
赤旗17.07.11
◆◆若者狙う、首相のSNS術 芸能人と自撮り/人気曲のハッシュタグ
2019年7月3日朝日新聞
桜を見る会で、首相の前でダンスを披露する「GENERATIONS from EXILE TRIBE」の片寄涼太さん。ポップな文字が目を引く=首相官邸インス
関ジャニ∞の村上信五さん(左)と笑い合う安倍晋三首相=首相官邸インスタグラムから
首相(中央)は、俳優の高畑充希さん(左)、大泉洋さんとセルフィーを撮る様子を投稿=首相のインスタグラムから
安倍晋三首相が、芸能人とSNSでの「共演」を重ねている。自身のツイッターや首相官邸のインスタグラムに記念写真を積極的にアップ。「イメージ重視」の発信で、参院選の公示を4日に控えて若年層へのアプローチを意識しているのは明らかだ。こうした手法には批判の声もあがる。
主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)直前の6月27日、首相がツイッターにアップしたのはアイドルグループ「関ジャニ∞(エイト)」の村上信五さんと笑い合うツーショット写真。開催地の大阪で、村上さんのラジオ番組の取材を受けたという。直前にインドのモディ首相と会談した部屋だ。
官邸のインスタは関ジャニ∞の人気曲にちなみ、「#シンゴと#シンゾーで#ワッハッハー」とファンに刺さるハッシュタグを添えて投稿した。
6月6日に首相公邸で吉本新喜劇のメンバーと面会し、官邸のインスタで生配信。5月12日にはアイドルグループ「TOKIO」と東京都内のピザ店で食事した。
芸能人との華やかな写真は普段は首相のツイートを目にしない層にも届く可能性が高い。首相がTOKIOとの食事の際の記念写真を添えたツイートを、朝日新聞が米クリムゾン・ヘキサゴン社のソーシャルメディア分析システムを使って分析したところ、翌13日までに3460万の利用者に届いたと推計された。
◆政治利用、指摘も
フォロワーが233万人いる俳優の高畑充希さんが首相とのセルフィー(自撮り)をインスタに投稿すると、「政治利用されている」と批判のコメントの一方、26万件超の「いいね」が集まった。
官邸のSNS運営は、民間企業からの出向も含む内閣広報室の20代、30代の若手職員約10人らが担う。
首相や官邸がSNSに力を入れるのは、支持層固めを意識するためだ。第2次安倍政権以降の内閣支持率は、18~39歳の男性で際だって高い。アベノミクスの経済効果や雇用環境の好転といった政権の看板が響きやすい世代だ。
さらに政府関係者は「首相は新聞を読まない層を重視している。SNSで自分でつかみ取った情報は『真実だ』と信じる傾向にある」と解説する。
政策論争よりもイメージを重視した発信に、立憲民主党の蓮舫副代表は5月、「桜を見たり芸能人と会ったり。安倍首相にその時間があるんだったら、国会に来るべきだ」と予算委員会の開催に応じない自民党を批判した。
◆政策と合致、疑問
若者に目を向けるのは自民党も同じだ。令和が始まった5月、若者向けの広報戦略「#自民党2019」を始めた。18~25歳女性をターゲットとするファッション誌「ViVi」ウェブ版の広告企画記事では「どんな世の中にしたいか」を募り、SNSで高い発信力を持つインフルエンサーの女性たちが「Diversity(いろんな文化が共生できる社会に)」などとメッセージを発信した。
だが、東京都議会が6月、選択的夫婦別姓制度の法制化を促す意見書を国に提出するよう求める請願を賛成多数で採択した際には、自民だけが反対。女性たちのメッセージが、自民の政策と相いれるものとは必ずしも言えない。
文筆業の能町みね子さんは「こんな薄っぺらいもので人気取りができるのかと思うが、ウェブニュースでタイトルだけを見て反応する人は多い。表層的なものの方が訴えかけるのだろう。うっすら『味方ですよ』とだけを無言でたたき込む手法だ」と指摘する。
◆野党もアピール
野党各党も、インフルエンサーの活用などで若者へのアピールを強めている。立憲民主党は2月から、高校生を中心とした10代や党所属議員らが、お菓子を持ち寄って議論する「オイシイ!? おしゃべり会議」を開催。インフルエンサーのモデルらも参加した。
共産党は3月、若者に人気の15秒間の動画投稿ができるSNS「TikTok(ティックトック)」にアカウントを開設。志位和夫委員長がピアノを弾く動画などをアップした。フォロワーは1200人あまりにとどまっている。(太田成美)
◆◆強大な官邸権力の情報コントロールとたたかった東京新聞・望月衣塑子いそこ記者を描いた映画=「新聞記者」
◆◆「新聞記者」 権力に屈しない気概
朝日新聞2019年6月28日
国際NGO「国境なき記者団」の2019年〈報道の自由度ランキング〉によると、日本は180カ国・地域中67位だった。9年前は11位。近年、事大主義が罷(まか)り通っているのだ。
これは現代日本の政治やメディアにまつわる危機的状況を描いた作品である。日本映画久々の本格的社会派作品として珍重に値する。
東京新聞の望月衣塑子記者の著書「新聞記者」に触発されたというフィクションである。本筋は架空ながら、私たちの知る現実の事件を合わせ鏡に、寒気立つ光景を映し出す。
東都新聞社に「医療系大学院大学新設」に関する極秘文書が送られてくる。医療系大学とは何か。認可先が内閣府なのはなぜか。だれからのリークなのか。社会部の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)が取材に当たる。一方、外務省から内閣情報調査室に出向中の杉原拓海(松坂桃李)は、敬愛する外務省時代の元上司が調査室にマークされているのを知り、訝(いぶか)る。
監督が1986年生まれの藤井道人。脚本が詩森ろば、高石明彦、藤井。
その脚本がいい。2人を単なる狂言回しにしていない。吉岡は日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、アメリカで育っている。日本で新聞記者になったのには、新聞記者だった父の自死への疑惑がある。杉原は現政権維持のための情報操作、政府に盾突く人物の醜聞をでっちあげマスコミに流すような仕事に良心のうずきを感じている。父になる日も近い。政治家、高級官僚を登場させないのも深い闇を暗示してうまい。終盤のサスペンス、「このままでいいんですか」と問うテーマの案配にもそつがない。瑕瑾(かきん)がないわけではないが、藤井の冷静な演出、シム、松坂らの好演が補って余りある。
しかし、最も高く評価すべきはスタッフ、キャストの意欲と勇気と活力だろう。権力に屈しない気概だろう。
ついでに言い添えれば、周囲にこんな声があったという。「これ、ヤバイですよ」「作ってはいけないんじゃないか」。情けない話だ。(秋山登・映画評論家)
◇全国で28日公開
(赤旗日曜版19.06.30)
(日刊ゲンダイ19.06.28)
(日刊ゲンダイ19.06.24「“安倍晋三”大研究」書評)
(赤旗19.06.28「市民がメディア奮い立たせて」)
◆◆トランプ来日報道=安倍政権の「政治ショー」に手を貸したメディア、NHK
赤旗赤旗19.05.28
◆◆縮まるNHKとの距離感 人事・報道「政権寄り」の声
2019年5月23日朝日新聞(長期政権の磁界:4)
新元号が令和に決まった4月1日、安倍晋三首相は一部の民放とNHKをはしごした。NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」には冒頭から出演。元号に込めた思いなどを語った。
「多くの方々に前向きに明るく受け止めていただいて本当にほっとしました。明るい時代になるなと、そんな予感がしております」
歴史的な決定を行ったこの方に来ていただいた――。キャスターは首相をそう紹介したが、NHK報道局職員の一人はこう話す。「首相が出演することはいつのまにか決まっていて、制作現場には事前に相談もなかったようだ」
◆理事返り咲き
長期政権と公共放送の現在の関係を考えさせる人事もあった。NHKは4月9日、子会社NHKエンタープライズ社長の板野裕爾氏が、本体の専務理事に返り咲く役員人事を発表。局内では、幹部から現場の職員にまで波紋が広がった。「また振り回されるのか」
経済部出身の板野氏には、官邸や政治家などの意に沿うよう動くとの人物評がある。20年以上続いた報道番組「クローズアップ現代」は権力に比較的厳しい姿勢で臨むことで知られたが、2016年に終わった際、板野氏は番組制作のトップである放送総局長。現場は当初、番組の継続を決めていたが「最終的に板野氏の意向で事実上の打ち切りが決まった」と当時の複数の幹部は証言する。
15年7月には、安全保障関連法を検証する「クロ現」を衆院の審議中に放送しようとした際、理由も定かでないまま、放送日が衆院通過後に変更されたという。この時も、板野氏の意向が働いたと局内には伝わった。
◆「絶対戻すな」
板野氏をかつて放送総局長に登用したのは籾井勝人前会長だ。だが、その籾井氏までもが、板野氏と政権の関係が強すぎるとして、1期2年で総局長を退任させ「彼を絶対に戻してはいけない。NHKの独立性が失われてしまう」と当時の朝日新聞の取材に対しても口にするようになった。
役員人事は会長が提案し経営委員会の同意を得て任命する仕組み。板野氏の人事について、上田良一会長は今月9日の定例会見で「私個人の判断で決めた」と述べた。政権の意向が働いたかは定かではない。
しかし、上田会長の周辺は「上田さんは板野氏を戻すつもりはなかった。苦渋の決断をしたようだ」と解説する。板野氏は子会社などのグループ経営改革統括を担当。番組には関わらないが、年明けに任期満了を迎える会長や副会長への昇格を見据えた人事だとの見方もくすぶる。
板野氏の人事に同意した経営委の石原進委員長は報道陣に「NHKにとって良い仕事をしてくれるかどうかで判断した」と説明した。だが会合では委員の佐藤友美子・追手門学院大教授が「いろいろ反発があるのではないか」と述べるなど、2人の委員が採決を棄権した。役員人事では異例のことだ。板野氏は今月22日、朝日新聞の取材に「申し上げることはありません」と答えた。
NHKの会長を選ぶ経営委員の人事には国会の同意、予算も国会の承認が必要だ。NHKの行動指針は「いかなる圧力や働きかけにも左右されない」と定めているが、報道内容には厳しい見方がある。
NHKのOBや識者らの団体は昨秋と今春、NHKに申入書を提出。「安倍首相への批判的報道がほとんどない」「政権にとって不都合と思われる事実が伝えられない」などと訴えた。
申入書は昨秋の沖縄県前知事の県民葬で菅義偉官房長官にヤジが飛んだことを主要な報道番組で伝えなかったことなどを指摘する。NHKの木田幸紀放送総局長は今月22日の会見で「自律的な編集判断に基づいて放送している。意見には真摯(しんし)に耳を傾けて次に生かしていきたい」と述べた。
◆「世論に迎合」
長らく政界と接してきたNHK元幹部は、放送に影響を与えているのは、視聴者をも巻き込むような長期政権の力だとみる。「政治からの口出しやNHKの忖度(そんたく)もあるが、政権を支持するふくれあがった世論に迎合しているという側面も大きいのではないか」(河村能宏、鈴木友里子、真野啓太)
◆◆NHKに板野氏復権
赤旗19.05.23
◆◆NHK専務理事に板野氏=官邸に太いパイプ
2019年4月11日赤旗
NHKは9日、元専務理事で、子会社のNHKエンタープライズ社長の板野裕璽(ゆうじ)氏を専務理事に復帰させる人事を発表しました。官邸に太いパイプを持ち、異例の返り咲きに「官邸の意向か」との声があがっています。
板野氏は、経済部長、内部監査室長などを歴任し、籾井勝人会長時代の2014年4月に理事から専務理事(放送総局長)に昇格。「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」など、安倍政権べったりの姿勢に批判があった籾井会長を支えてきました。15年の安全保障関連法案(戦争法)の審議が行われている際、安保関連の番組をボツにしたり、16年3月に、政権の意向を背景に「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターを降板させた張本人ともされます。
同日の経営委員会では、石原進経営委員長(JR九州相談役)を含む10人が人事案に賛成しましたが、小林いずみ(ANAホールディングス社外取締役)、佐藤久美子(追手門学院大学教授)の2氏が、板野氏の復帰に厳しい意見をのべ、棄権したといいます。
ほかに荒木裕志理事が専務理事に、正籬聡広報局長が理事に昇格(任命は25日付)。坂本忠宣専務理事、菅康弘理事は24日付で退任します。
◆日刊ゲンダイ19.04.19孫崎
◆◆安倍政権のメディア工作=東京新聞記者問題はその一角
日刊ゲンダイ19.03.18
◆◆辺野古質問の東京新聞記者排除、官邸が内閣記者会に圧力文書
赤旗日曜版19.03.10
◆◆NHK組織改編 文化・福祉番組部を解体 「ETV特集」「ハートネットTV」など制作
毎日新聞 2019年2月16日
NHK放送センター
NHKは制作局の八つの「部」を六つの「ユニット」に再編する組織改革を6月に実施する方向で調整に入った。「要員の融通性向上や働き方改革などに資するため」(関係者)としているが、戦争や憲法、社会的弱者などを扱った番組を多く作ってきた文化・福祉番組部が分割され、二つのユニットに編入されるため、「“NHKの良心”と言える番組を作る拠点が解体される」との懸念の声が上がっている。
同部は「ETV特集」(Eテレ)などのドキュメンタリーや、福祉情報番組「ハートネットTV」(同)などを制作。前身の教養番組部時代には、旧日本軍の従軍慰安婦問題を取り上げたETV特集「戦争をどう裁くか『問われる戦時性暴力』」(2001年)も手掛けた。同番組は、放送前日に安倍晋三首相(当時は官房副長官)がNHK幹部と面会し「公平、公正に報道してほしい」と要請したことが05年1月に発覚し、政治圧力の有無を巡って社会問題化した。
NHK広報局は、毎日新聞の取材に「限られた経営資源で最高水準の放送・サービスを継続的に実施していくため、最善の業務体制を検討している」と説明し、「解体」という意図は「全くない」としている。【犬飼直幸、井上知大】
◆◆丸山重威=官邸のメディア攻撃と国民の知る権利
赤旗19.02.15
◆◆官房長官、質問封じ正当化、取材の自由への攻撃、安倍政権の体質示す
2019年2月14日赤旗
定例の内閣官房長官会見で「事実に反する質問」があったなどとして、昨年12月末に首相官邸の報道室長から東京新聞の特定記者の質問を事実上封ずる申し入れが内閣記者会に行われたことが大問題になっています。12日の衆院予算委員会で、追及された菅義偉官房長官は「事実に基づかない質問に起因するやり取りが行われる場合、内外の幅広い視聴者に誤った事実認識を拡散させるおそれがある」などとして正当化しました。
◆語気を強めて
野党議員が「事実に基づかない報道は問題だが、事実が分からないから取材する。事実に基づかない取材を封ずるのは、取材の自由、表現の自由、国民の知る権利を封じることになる」(国民民主・奥野総一郎議員)と批判したのに対し、菅氏は「取材じゃないと思いますよ。決めうちです」と、語気を強め言い放ちました。
しかし、まさに事実を確かめるのが取材であり、事実が分からないから取材するのです。とりわけ、権力が国民に対し隠したがる事実を追求して明らかにするのが政治報道の本質です。それを通じて国民の知る権利に奉仕し、民主主義を実現する不可欠の存在として報道機関には特別の役割があるのです。
内閣記者会への申し入れ文書では「正確でない質問」がヤリ玉にされています。「事実に基づかない取材」「正確でない質問」は「取材じゃない」という権力者の議論がまかり通れば、およそ政治取材は不可能です。恐るべき安倍政権のファッショ的体質を示すものです。
ことの発端は、昨年12月、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設の海域で県民世論を踏みにじって土砂投入がされる中、東京新聞の記者が「埋め立て現場では、赤土が広がっており、沖縄防衛局が実態把握できていない」と質問したことです。官邸は「明らかに事実に反する」とか「汚濁が広がっているかのような表現は適切でない」などとしていますが、赤い土を載せた船が確認され、無人機による空撮でも埋め立て海域が濁っている様子が確認されていました。一方、防衛省は現在も、投入された土砂に赤土が混入しているかの成分検査を行っていません。事実を解明する責任は国の側にこそあります。
新基地建設反対の県民世論、無法な土砂投入への国民的批判に追い詰められる中、さらなる批判を恐れる安倍政権が、強権をむき出しにする姿が浮かび上がります。
◆暴走許さない
そもそも安倍政権は、国民に対し事実を隠す政権です。安倍首相が12年に政権復帰して最初に強行した立憲主義破壊の立法が秘密保護法でした。何が秘密かも秘密とされ秘密と指定された外交、防衛に関する情報の探知行為が広く処罰され、取材の相談も「共謀」罪として処罰されます。国民の命運にかかわる情報を、重罰の威嚇の下に報道機関からも遠ざけているのです。
事実が隠された状態で「事実はどうなのか」という質問が封じられるなら、まさに暗闇社会となってしまいます。これ以上の安倍政権による立憲主義破壊、民主主義破壊の暴走を許さないたたかいを広げるときです。(中祖寅一)
◆◆
◆◆右派メディアとの癒着強める安倍首相
2018年12月31日赤旗
安倍晋三首相が右派メディアにすすんで登場、9条改憲など、みずからの主張を展開するケースが2018年も目立ちました。
きわめつけは、DHCテレビのネット番組「真相深入り! 虎ノ門ニュース」に出演(9月6日)したことです。同テレビは、沖縄新基地建設反対運動への偏見をデマであおる「ニュース女子」を制作、きびしい批判を受けました。
首相公邸で収録した3日は、午前中の自衛隊高級幹部会同で、9条改憲の宿願を示唆したばかりですが、番組でも同じ考えを表明。ヘイト(差別扇動)をもっぱらとしている同番組を「ひそかに見ていますよ、非常に濃い」と持ち上げ、一体感を示しました。
産経新聞のインタビューに応じたのは、3回。通常国会が開会した翌1月23日のインタビューでは、「憲法を制定する主役は国民です。国民の理解が高まるように自民党ももっと努力しなければならない」(1月24日付)とハッパをかけています。
4月27日のインタビューでも、「国を守るため、国民を守るために、命を懸ける者について憲法に明記するのは安全保障の基本です」(4月29日付)と、自衛隊を9条に明記する改憲への強い意欲を示しました。
右派雑誌にも計3回。12月7日、月刊誌『Hanada』のインタビューは、19年2月号の経済評論家、上念司氏との「新春特別対談」。入国管理法改定について、「『月刊Hanada』の読者の皆さんも様々な不安を持っておられると思います」とのべ、「いわゆる移民政策を取ることは考えていない」と“理解”を求めています。
加計学園の獣医学部新設をめぐり、柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人質疑が衆参予算委員会で行われた翌5月11日に、空路北海道から戻ると、フジテレビに駆け付け、報道番組に生出演。加計疑惑について、「プロセスに一点の曇りもない」と従来の主張を繰り返し展開。約40分間、言いたい放題でした。
右派メディアとの癒着を強める安倍首相の行動は一国の首相として資格が問われています。(藤沢忠明)
◆安倍首相の右派メディアへの露出ぶり
1・23 産経新聞のインタビュー
3・6 月刊誌『WiLL』のインタビュー
4・27 産経新聞のインタビュー
5・11 フジテレビの報道番組に生出演
6・16 読売テレビ(日本テレビ系)の報道番組に生出演
7・26 月刊誌『Hanada』インタビュー
9・3 DHCテレビ「虎ノ門ニュース」に出演(6日放送)
12・7 『Hanada』インタビュー
12・12 産経新聞のインタビュー
◆◆隅井=NHK巨大化まっしぐら
赤旗18.09.24
◆◆無策の安倍首相を「連日災害対応」と報じるNHKの大罪
日刊ゲンダイ18.08.02
◆◆ジャーナリストたちの「良心宣言」
赤旗18.07.12
◆◆安倍首相が選別TV出演するワケ
赤旗18.06.22
◆◆ジャニタレにキャスターやらせるTVの責任
日刊ゲンダイ18.06.17
◆◆須藤春夫=NHK「受信料」制度とは
赤旗18.06.06-7
㊤
㊦
◆◆「森友・加計」国会報道、NHK、際立つ少なさ
2018年5月31日赤旗
学校法人「森友学園」への国有地格安払い下げ問題、同「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題の二つの安倍首相による「国政私物化」疑惑は、昭恵夫人の関与を示した財務省の改ざん前文書や、愛媛県の新文書提出などで、全体の構図がほぼ明らかになってきました。ところが、NHKのこの間の両疑惑をめぐるニュース報道には、大きな疑問が浮かび上がっています。
衆参両院の予算委員会で28日におこなわれた集中審議。テレビ朝日系の「報道ステーション」など民放は、日本共産党の小池晃書記局長、宮本岳志衆院議員が、独自に入手した政府の内部文書を示して、昨年9月、財務省理財局と国土交通省航空局の両局長が“口裏合わせ”していたことなどを詳しく報じました。
しかし、NHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」は、高齢ドライバーによる交通事故や、日大アメフット事件などを報道。集中審議の模様は5番手でした。
29日の「ニュース7」にいたっては、国会の「森友・加計」疑惑追及そのものを報道しませんでした。
同日開かれた衆院財務金融委員会で、日本共産党の宮本徹議員は、「森友」決裁文書の改ざんを認めた後も財務省が改ざんをしていたことを暴露したり、立憲民主党の川内博史議員の追及に、麻生太郎財務相が「改ざんは悪質でない」と暴言を吐いたりしたにもかかわらずです。
NHKが政権側に忖度(そんたく)しているのか―。
日本共産党の山下芳生参院議員のもとに、NHKの関係者が書いたとみられる文書が3月26日に届いたことがあります。それによると、実名で記されたNHK幹部が「ニュース7」「ニュースウオッチ9」などのニュース番組の編集責任者に対し、「森友問題」の報じ方について、「トップニュースで伝えるな」「トップでもしかたないが、放送尺は3分半以内に」「昭恵さんの映像は使うな」などと細かく指示していたとしています。
本紙は、これらの「指示」が本当に番組に反映されたかを、「報道ステーション」、TBS系「NEWS23」と比較検討しました。期間は、「朝日」が森友文書改ざんをスクープした3月2日から、佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問がおこなわれた同月27日まで。この結果、NHKの「森友」報道の少なさが際立ち、“昭恵夫人隠し”も徹底されていることが浮き彫りになりました。(4月30日付で詳報)
安倍政権は、放送の「政治的公平性」などを定めた放送法4条などの撤廃をたくらんでいますが、共同通信がスクープした「通信・放送の改革ロードマップ」には、撤廃を実現した場合としてこんな記述がありました。「放送(NHK除く)は基本的に不要に」
政権に批判的な民放はいらず、NHKさえあればいいということか。「公共放送」としてのNHKのあり方が問われています。(藤沢忠明)
◆◆放送法第4条は国民の武器
赤旗18.05.28
◆◆放送の「政治的公平」撤廃案 政府、新規参入促す 番組偏る懸念も
朝日新聞18.03.24
放送と政治的公平性を巡る最近の出来事
放送番組の「政治的公平」などを定めた放送法4条=キーワード=の撤廃が、政府内で検討されていることがわかった。放送の自律を守るための倫理規範とされる4条は、戦後に同法ができて以降、番組作りの大原則となってきた。インターネットテレビ局などが放送に参入する際の壁を低くする狙いとみられるが、政治的公平性が損なわれ、番組の質も下がるといった懸念が出ている。
政府内でまとめられた文書「放送事業の大胆な見直しに向けた改革方針」によると、「コンテンツ産業における新規参入・競争」を進めるとして、「放送にのみ課されている規制(放送法第4条等)の撤廃」などを明記。「放送業界の構造改革を進め、放送と通信の垣根のない新しいコンテンツ流通環境を実現」するとした。NHKについては「放送内容に関する規律は維持」するという。
4条を撤廃した場合、民間放送は政治的公平性や事実関係に配慮せずに番組を放送することが、理屈の上では可能になる。
このため、放送を所管する野田聖子総務相が22日の衆院総務委員会で撤廃などについて問われ「4条は非常に重要で、多くの国民が今こそ求めているのではないか。(4条が)なくなった場合、公序良俗を害する番組や事実に基づかない報道が増加する可能性が考えられる」と述べるなど、政府内にも異論がある。日本民間放送連盟内からは「極端に政治的に偏った局ができる可能性がある」といった懸念の声も出ている。
一方、自民党は4条に基づき、番組内容について放送局から事情を聴いた例もある。2015年4月には、番組が放送法に違反した疑いがあるとして、NHKとテレビ朝日の幹部を党の会議に呼んだ。このケースでは、政権政党が4条を理由に放送局に介入したと批判された。
(川本裕司)
◆キーワード
<放送法4条> 放送事業者が国内外で放送する番組の編集について定めた条文。(1)公安及び善良な風俗を害しないこと(2)政治的に公平であること(3)報道は事実をまげないですること(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること――を求めている。
◆◆「公平」撤廃案、突如浮上 放送界に根強い反対論
政府が撤廃を検討していることが明らかになった放送法4条は、これまでも時の政権と放送局との緊張関係が高まるたびにクローズアップされてきた。ある時には放送局を守る「とりで」に、ある時は政治の介入を許す「口実」になったが、撤廃は突然浮上した形で、政治的な公平性や番組の質をめぐって関係者に懸念が広がっている。
菅義偉官房長官は23日午後の記者会見で、4条の撤廃などについて問われ、「放送をめぐる規制改革については規制改革推進会議で議論されている。結果をふまえて適切に対応していきたい」と述べた。総務省幹部の一人は「撤廃するという話が出たのは初めてではないか」と話す。
番組に「政治的公平」や「事実をまげない」ことなどを求める4条は、行政処分ができる「法規範」ではなく、放送局自身が努力目標とする「倫理規範」と考えるのが、憲法などの専門家の通説だ。だが現実には、政治家が放送に介入する入り口になってきた。
2016年2月には、高市早苗総務相(当時)が、放送局が政治的な公平性を欠く報道を繰り返したと政府が判断した場合、「何の対応もしないと約束するわけにはいかない」と発言。4条違反で電波停止を命じる可能性に言及し、議論になった。15年4月には、自民党がテレビ朝日とNHKの幹部を会議に呼び出し、コメンテーターの発言や過剰な演出が、放送法違反に当たるのではないかとして話を聞いた。
このため、一連の経緯を重く見た国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大教授)が、「政府のメディア規制の根拠になりうる」として、4条の廃止を訴えたこともある。
◆「放送の役割をうたう条文」
その一方で、放送界には、4条は「本来の放送の役割をうたった条文だ」(民放キー局の役員)などの思いから、撤廃への根強い反対論がある。日本民間放送連盟(民放連)の井上弘会長(TBSホールディングス取締役名誉会長)は15日の記者会見で「フェイクニュースへの対応が世界的に共通の社会問題になってきた昨今、バランスの取れた情報を無料で送り続ける私たち放送の役割は、これまで以上に重要」と述べた。
政府の動きに対応するため、民放連はキー局役員らによる「放送の価値向上に関する検討会」を発足。23日に初会合を開いた。
放送法に詳しい西土彰一郎・成城大教授(憲法)は「4条が撤廃された場合、ジャーナリズム倫理が十分に培われていない新興の小規模な放送局に、特定の政治勢力を応援する確信的なスポンサーがついて政治的に大きく偏った報道が出現する可能性がある。極端な主張をする放送局が誕生すれば、社会の分断が進む懸念もある」とみる。 (川本裕司、田玉恵美)
◆◆放送法第4条削除問題
赤旗日曜版18.04.01
◆◆斎藤貴男=放送法第4条削除問題
日刊ゲンダイ18.03.28
◆◆放送法第4条削除問題赤旗18.03.29
◆◆新年の新聞の安倍改憲報道
赤旗日曜版18.01.14
◆◆衆院選、ワイドショー8倍 「小池劇場」・暴言…TV全体では3倍 14年と比較
2018年1月12日朝日新聞(Media Times)
衆院選関連のテレビの放送時間
昨年秋の衆院選を報じたテレビ各局の番組について上智大のチームが分析したところ、情報・ワイドショー系番組の報道量が前回の2014年衆院選と比べ、約8倍に増えて報道全体の量を押し上げた一方、政策に関する検証報道が減ったという実態が浮かび上がった。
調べたのは、同大文学部新聞学科の「『選挙とメディア』研究会」(代表・音好宏新聞学科長)。複数の報道で衆院解散の方針が報じられた9月17日から、投開票日翌日の10月23日までの37日間のテレビの選挙報道について、番組の内容を分析する「エム・データ」社の協力を得て調査した。
比較のために投票日前日までの4週間に区切り、主に17年と14年の衆院選を比較したところ、「情報・ワイドショー系」と「ニュース・報道系」の番組を合わせた17年の衆院選関連の放送時間(9月24日~10月21日の開票日前日まで)は計約298時間で、約102時間だった14年衆院選の約3倍になった。情報・ワイドショー系番組だけをみると173時間27分で、前回の21時間38分から約8倍に増えた。
担当した水島宏明教授は「小池百合子・東京都知事の新党立ち上げ宣言と『政権交代』への期待、『排除発言』などによる失速と『小池劇場』の様相を呈した。立憲民主党の立ち上げや、国会議員の暴言などもあいまって、情報・ワイドショー系番組が格好の素材として取り上げ、劇場化を後押しした」と分析した。
一方、メディア各社が行う選挙の情勢調査について、ニュース・報道系番組は結果だけを報道し、背景を解説しないのが一般的だったが、情報・ワイドショー系番組は「スタジオの政治ジャーナリストらが解説したり、議論し合ったりすることで、政治の流れを有権者にわかりやすく理解させる役割を果たした」(水島教授)と評価した。
選挙報道の中身について、平日に報道された主なニュース番組と情報番組から、(1)「注目の選挙区」を抽出した報道(2)争点について現場の実態を取材し、当事者や専門家の声を交えて問題提起する報道(3)争点について各政党の主張をまとめた報道、など8項目に分けて分析した。
その結果、(2)の量は全体の2%にとどまり、14年衆院選の19%、16年参院選の5%からさらに落ち込んだ。水島教授は「政策的な争点を自ら検証するスタイルが激減していることに危機感を覚えた」と話す。
14年衆院選の前に、自民党がテレビ各局に選挙報道の公平中立を求める文書を出したことの影響も検証したが、街頭インタビューや資料映像に関して自粛などの動きはほぼなかったという。水島教授は「街頭インタビューが見当たらない局があった14年衆院選報道の不自然さが目を引く結果となった」とみている。
調査の責任者を務めた音学科長は「メディアでの政治家の露出は急増したが、どれだけ政策が吟味されたかが問われるべきだ」と話している。(編集委員・豊秀一)
◆◆「権力の監視」できるのか 安倍首相とメディア幹部の会食「読売」突出 5年で38回
2017年12月31日赤旗
(写真)安倍首相インタビューを掲載した5月3日付の読売新聞
国政私物化疑惑にまみれ、改憲への執念を際立たせている安倍晋三首相と大手メディア幹部との会食が、今年も15回に及びました。首相は5月に2020年までの9条改憲構想を「読売」紙上で明らかにしましたが、同社幹部との会食は8回、第2次安倍政権以降の5年間では38回と突出しています。
「読売」が首相の改憲発言を掲載したのは、5月3日付でしたが、インタビューが行われたのは4月26日。その2日前には、首相と渡辺恒雄「読売」グループ本社主筆、インタビュアーとなった前木理一郎政治部長とが飯田橋のホテル内の日本料理店で2時間にわたり、会食しています。
「読売」インタビューは「憲法施行70年を迎えた。改めて憲法改正にかける思いを」という質問から始まり、首相に言いたいことを言わせるもので、報道機関としてのあり方が問われました。国会では、改憲発言の意図について野党から質問を受けた安倍首相が「読売新聞を熟読して」と答弁し、国会軽視と問題になりました。
そのインタビューの裏では、社のトップとインタビュアーが首相と会食してすり合わせをしていたのではないかと思わせる行動は報道機関失格です。「読売『御用新聞』という汚名」という見出しの週刊誌記事まで出ました。
ちなみに、渡辺主筆は、5年間で18回、今年だけで5回も首相と会食を繰り返しており、特別の親密ぶりが問われています。
◆「首相が選別・利用」進む
安倍首相とメディア幹部との会食から見えてくるのは、首相によるメディアの選別と利用が、5年間でいっそう進んでいることです。「権力の監視」というジャーナリズム本来の役割が果たせない状況が危惧されます。
◆政局の節目で
5年間で会食回数が突出しているのは、1面所報のように「読売」38回、次いで同社が大株主の日本テレビが21回。フジサンケイグループでは「産経」14回、フジテレビ11回です。また、「日経」も16回に及んでいます。
重大なのは、首相がこれらのメディアを使って、政局の節目節目で発言していることです。2月に、トランプ米大統領との日米首脳会談を終えて帰国した首相は、BSフジとNHKの「ニュースウオッチ9」に生出演し、訪米の“成果”をとくとくと語りました。
5月3日には、「読売」で改憲インタビューを掲載。同月15日には、「日経」系のBSジャパンと日経CNBCの共同インタビューで改憲問題を語っています。
9月の衆院解散前の13日には、「日経」の単独インタビューでのちに総選挙の公約の目玉になる「全世代型の社会保障制度」をめざす考えを披露しています。
そして、総選挙開票日の翌日(10月23日)には、「読売」渡辺恒雄主筆、「産経」清原武彦相談役、「日経」芹川洋一論説主幹、共同通信・福山正喜社長と、“祝杯”をあげるかのように、東京・大手町の読売新聞東京本社ビルで会食するという念の入れようです。
さらにはトランプ大統領の来日前後では、長女のイバンカさん持ち上げ報道がテレビを席巻するなど異常なお追従報道が目立ちました。
これらのメディアには、権力の監視というジャーナリズムの自覚があるのかが鋭く問われます。
◆問われる癒着
もう一つ、問われるのは、首相とメディア幹部の会食の中で権力との癒着が疑われる事態が生まれていることです。
5月17日、「朝日」が加計疑惑にかかわる文科省の内部文書をスクープし、「赤旗」も翌日続きました。首相の腹心の友・加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園の獣医学部新設について、「官邸の最高レベル」の意向が働いたとの疑惑が噴出しました。24日には、前川喜平前文科事務次官が、内部文書について「自分が説明を受けた際に示された」と証言しました。
ところが、前川証言の3日前、こうした動きを察知したかのように「読売」(5月22日付)が「前川次官、出会い系バー通い」と人身攻撃の記事が出たのです。菅義偉官房長官は、「出会い系バー通いには違和感がある」と人間性をおとしめ、問題をそらすために利用しました。
犯罪行為でもない個人の行動が、公器である新聞に出ること自体が異例でした。前川氏によれば、「読売」記事が出る直前、首相補佐官から面会の申し入れがあったといいます。
仮に権力と結託して告発者を攻撃したとすれば、メディアの自殺行為です。「読売」は6月3日付に東京本社社会部長の署名記事で「不公正な報道であるかのような批判が出ている。…こうした批判は全く当たらない」と菅長官ばりの反論をおこないました。
「出会い系バー」記事が掲載された1週間後、「読売」の編集局総務、政治部長、国際部長の3人が、赤坂の居酒屋で、安倍首相と3時間あまりにわたって会食しています。
◆◆テレビの総選挙報道を検証する
赤旗17.12.24
◆◆最高裁NHK受信料、実質義務 放送法の規定、合憲 最高裁
2017年12月7日朝日新聞
NHKが受信契約を結ばない男性に受信料の支払いを求めた民事訴訟の判決で最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は6日、事実上支払いは義務とし、テレビ設置時からの受信料を支払う必要があるとする初判断を示した。判決は「受信料制度が国家機関などから独立した表現の自由を支えている」と述べ、NHKとの契約義務を定めた放送法の規定について「合憲」とした。
◆契約成立には合意求める
裁判官15人のうち14人の多数意見。今後、NHKが受信契約を結ぶよう裁判を起こせば、今回の判決を元に主張が認められる可能性が高い。約1千万件とされる未契約の世帯や事業者に影響を与えそうだ。
最高裁で争われたのは、2006年3月に自宅にテレビを設置した男性のケース。11年9月にNHKから受信契約を申し込まれたが、「放送が偏っている」などの理由で拒否。同年11月にNHKが提訴した。男性は契約の自由を保障した憲法に違反すると訴えた。
この日の判決は、受信料制度は、憲法が定める表現の自由を保障するためにあると指摘。受信料でNHKの財政基盤を支える仕組みによって、放送内容に「特定の個人や国家機関から財政面での支配や影響が及ばない」ようにしているとし、放送法はテレビがある世帯などに「受信契約を強制している」と述べた。
また、判決は、近年放送をめぐる環境が変化していることにも言及したが、受信契約を強制する放送法の規定は今も「合理性がある」と位置づけた。
二審判決は、NHKが契約の受け入れを求める裁判を起こし、勝訴が確定した時点で契約が成立。テレビの設置時にさかのぼって受信料を支払う必要があると述べた。最高裁は、契約成立には双方の合意が必要だと指摘。一方的に成立すると訴えたNHKの上告を退け、二審の判断を支持した。
判決を受け、NHKは「主張が認められた。公平負担の徹底に努めていく」との談話を出した。
◆<解説>問われる公共放送
長く争われてきた放送法の規定の解釈について、最高裁は合憲と結論づけ、受信料支払いの義務を原則的に認めた。NHKにお墨付きを与えた格好だ。
ただ、最高裁は、NHKに対し、一方的に支払いを迫るだけでなく、目的や業務内容を説明して理解を求め、合意を得られるよう努力をすることが望ましいとした。また、受信料制度は、NHKが政府や特定の団体や個人から独立し、国民の知る権利を満たすためのものだ、とも釘をさした。
逆に言えば、受信料を支払う人たちは、NHKに「知る権利」に応えるよう求める権利がある。NHKは、政治との距離や中立性など、公共放送としてのあり方を問う声に常に向き合い、支払い義務を課された視聴者のための番組作りをする責任がある。
(岡本玄)
◆判決のポイント
・受信料制度は特定の個人や団体、国家機関の影響がNHKに及ばないよう、放送を受信できる人に公平な負担を求めるものだ
・テレビがあれば受信契約を義務づける放送法の規定は、国民の知る権利を守るために契約を強制するもので、憲法に違反しない
・ただ、NHKからの一方的な申し込みだけで支払い義務は生じず、NHKが契約への合意を求める裁判を起こし、その勝訴判決が確定した時に契約成立となる
・契約が成立すれば、テレビを設置した月以降の受信料を支払わなければならない
◆◆最高裁NHK受信料「合憲」「支払い義務 合意必要」
2017年12月7日赤旗
NHK受信料をめぐり、テレビを持つ人に契約締結を義務付けた放送法64条の規定が憲法に反するかどうかが争われた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は6日、「合憲」とする初めての判断を示しました。
判決は、「特定の個人、団体または国家機関等から財政面での支配や影響が及ぶことのないようにし、広く公平に負担を求めることによって、事業運営の財源を受信料によって賄うことにした」という趣旨や放送法制定時の経緯にふれつつ、「NHKからの一方的な申し込みのみによって受信料の支払い義務を発生させるものではなく、双方の意思表示の合致が必要であることは明らか」としました。
しかし、NHKが裁判を起こして判決が確定すれば、契約は成立すると指摘しました。
訴えられていたのは、2006年に自宅にテレビを設置した東京都内の男性。契約申込書を送っても応じないとして、NHKが提訴しました。
男性側は、64条について、「支払いの強制は憲法が保障する契約の自由を侵害する」と主張。NHK側は「受信料は不可欠で、合理性や必要性がある」と反論していました。
今後、900万世帯を超える未契約者への徴収に影響を与えることになります。
◆問われる公共放送のあり方、強制的徴収に懸念の声
最高裁は、テレビ受信機の設置者とNHKとの受信契約を定めた放送法64条1項を「合憲」と判断しました。「憲法の保障する国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう」というのが理由です。
放送法は戦前、NHKの前身の「日本放送協会」が国民を戦争に駆り立てた反省から生まれました。時の権力に左右されない「自主・自律」の公共放送を、国民が支える受信料制度には合理性があるといえます。
しかし、制度の大前提となる国民との信頼関係をNHKは損ねてきました。2001年には、安倍晋三官房副長官(当時)の指示で日本軍「慰安婦」問題を取り上げた「ETV2001」が改変される事件が発生。14年、「政府が右というものを左というわけにはいかない」という籾井勝人前会長の登場で、「政権寄り」の報道姿勢に拍車がかかりました。
各地でNHK問題を考える視聴者団体が立ち上げられ、受信料の支払いを一時凍結する運動も広がりました。一方、NHKは06年から未払い者への民事手続きを強化し、約4000件で訴訟に発展しています。
判決が「NHKからの一方的な申し込みのみによって受信料支払い義務を発生させるものではなく、双方の意思表示の合致が必要である」と指摘していることは重要です。NHKが強制的な取り立てを強めれば、「受信料の“税金化”が進み、政権の放送内容への干渉が強まる」との懸念も識者から表明されています。
政権との距離をどうとるのか、公共放送としての役割をどう発揮していくのか―。NHKの明確な説明と対応が求められています。(佐藤研二)
◆◆須藤春夫=NHK受信料最高裁判決、視聴者の声聞き信頼構築を
赤旗17.12.09
◆◆ぶったまげたNHK受信料義務化判決
日刊ゲンダイ17.12.10
◆◆隅井=放送の独立と市民運動
赤旗17.12.04
◆◆トランプ訪日異常なNHKの報道
赤旗17.11.11
◆◆報道の矜持失った読売新聞、安倍首相のメディア選択
(赤旗日曜版17.06.18)
◆◆河野=NHKの加計疑惑報道
(赤旗17.06.09)
◆◆国連人権理事会=日本の「表現の自由」勧告=政権のメディア規制・秘密保護法など
(赤旗17.06.01)
◆◆デービッド・ケイ氏の訪日報告書草案詳報
2017.5.30 産経新聞
❶序論(略)
❷国際法基準およびミッションの主な目的(略)
❸日本における表現の自由のための基盤への課題
自民党の憲法案は、基本的人権の不可侵性を維持する97条を削除するよう求めている。同規定を削除する草案は、日本における人権の保護を弱体化しうる。
❹意見および表現の自由の権利の状況:主要所見
A.メディアの独立
1.放送メディア
▽放送法は総務省にNHKと民間放送局を規制する権限を与えている。この枠組みは、メディアの自由と独立に対し不当な制約を課すことになり得る。
▽放送法4条に違反した場合、放送関係者の免許の停止を命じるかもしれないとする政府見解は、メディアを制限する脅迫として受け取ることができる。
▽政府職員の発言で、メディアが圧力を感じた旨の報告を受けた。2015年2月24日の報道関係者との会合で、内閣官房長官は、あるテレビ番組に対し、放送法の解釈にかなっていないと批判したとされる。
2.活字メディア
▽特別報告者は、朝日新聞勤務時に慰安婦問題を報じた植村隆氏へのハラスメントを知った。植村氏への圧力は、吉田清治氏による証言に関する朝日新聞の別の記事の事実誤認に関する議論があった後、特に強くなった。植村氏は大学で働くことになったが、大学も彼の辞職を求める団体によって攻撃された。
▽特別報告者は、日本政府が、植村氏および同氏が所属する機関が被った複数の攻撃に対する批判を繰り返し行わなかったことを懸念している。
3.専門機関と記者クラブ制度(略)
B.歴史の発信/表現への介入
▽日本の第二次世界大戦への参加および慰安婦問題に関する学校教材の準備における政府の影響に関する懸念も報告されている。
▽文部科学省は、いくつかの高校世界史の教科書に慰安婦に関する言及がある旨述べた。専門家は、慰安婦に関する記述が、中学校の教科書から編集削除された旨の報道を示した。
▽政府が、教科書が第二次世界大戦中に犯された犯罪の現実をどう扱うかに介入することは、一般市民の知る権利や過去に対応し理解する能力を損なわせる。
C.情報へのアクセス
▽特定秘密保護法は知る権利の保護範囲を狭めている。同法はジャーナリストとその情報源に刑罰を課す危険性にさらしている。
D.差別とヘイトスピーチ(略)
E.選挙運動に関する規制(略)
F.公共のデモ
▽2016年10月、沖縄平和運動センター議長の山城博治氏が逮捕された。山城氏は裁判なしで5カ月間拘束された。長期間の拘束は山城氏の容疑事実に比して不適切に思える。日本政府の行動は、デモと反対意見の表明をふさぎかねないと懸念している。
V.結論および勧告
▽特別報告者は、以下の措置を勧告する。
A.メディアの独立
▽政府に対し、報道の独立性強化のため放送法4条の撤廃を勧告する。独立した放送メディア規制機関の枠組みを進展させることを強く要請する。
B.歴史教育・報道への介入
▽政府に対し、学校教材における歴史的出来事の解釈への介入は慎むべきこと、戦時中に日本が関わった出来事に留意し、これらの深刻な犯罪について国民に知らせる努力を支援することを求める。政府は学校のカリキュラム作成において完全なる透明性を確保し、教科用図書検定調査審議会を政府の影響からいかに守るかを再検討することで、公教育の独立性に、貢献すべきである。
▽慰安婦問題を含む過去の重大な人権侵害に係る公開情報を検証していくため、政府は「真実の権利」国連特別報告者の訪問招請を検討すべきだ。
C.選挙キャンペーンおよびデモ
▽沖縄での抗議活動に向けられた圧力を特に懸念している。公権力は国民に不均衡な処罰を科すことなく、公共政策への反対を表明する自由を侵害されずに抗議や取材を行えるよう努力を行うべきだ。
D.特定秘密保護法
▽政府に対し、報道関係者の業務に萎縮効果を与えないよう特定秘密保護法の改正を促す。日本の国家安全保障に危害を与えない国民の関心事項である情報を開示しても処罰されないことを保障する例外規定を含めることを奨励する。
E.差別とヘイトスピーチ(略)
F.デジタル著作権(略)
◆◆NHKニュースの意識的操作=政権への忖度
(赤旗17.04.29)
◆◆対談・メディアは今=元NHK戸崎・立教大門奈
(赤旗日曜版17.03.5-12)
◆◆BPO(放送倫理検証委員会)=「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」
2017年2月7日 放送局:民放連・NHK
2016年の参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられたことなどから、委員会は、具体的な放送を踏まえながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般のあり方について審議してきた。
委員会は、「政治的に公平であること」などを定めている放送法第4条第1項各号の番組編集準則は「倫理規範」だとした上で、放送局には「選挙に関する報道と評論の自由」があり、テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは「量的公平」ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという「質的公平」だと指摘した。
この観点からすると、真の争点に焦点を合わせて、各政党・立候補者の主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念と言わざるをえないとして、「放送局の創意工夫によって、量においても質においても豊かな選挙に関する報道と評論がなされる」ことを期待した。
2017年2月7日 委員会決定
(朝日新聞作成17.02.22)
◆全文はこちら(PDF)pdf16p
http://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/kensyo/determination/2016/25/dec/0.pdf
目 次
I はじめに
II 選挙と放送
1. 番組編集準則は「倫理規範」である
2. 放送局には「選挙に関する報道と評論の自由」がある
3. 選挙に関する報道と評論に求められるのは「量的公平」ではない
III 2016年の選挙に関する放送
1. 参議院比例代表選挙に関する放送
2. 東京都知事選挙に関する放送
3. 不注意による「映り込み」と「再放送」
IV おわりに ~ 選挙に関する豊かな放送のために
◆◆BPO:「臆せずに放送を」 TV選挙放送で意見書公表
毎日新聞 2017年2月7日
2016年の参院選や都知事選をめぐるテレビ放送について意見を述べるBPO放送倫理検証委員会の川端和治委員長(奥中央)ら=東京都千代田区で2017年2月7日午後4時10分、徳野仁子撮影
機械的・形式的平等に「編集の自由を自ら放棄するに等しい」
NHKと日本民間放送連盟による第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会(委員長・川端和治弁護士)は7日、テレビの選挙放送について意見書を公表した。選挙期間中も報道は「自由」であるとし、政治的公平性は発言の回数や時間といった「量」ではなく「質」で保つべきだとしている。政治的公平性を強調して放送局に対する監視の姿勢を強める政府をけん制し、「臆することなく放送を」と鼓舞した。【須藤唯哉、丸山進】
委員会が個別の番組ではなく、選挙報道全体に対して意見書を公表するのは初めて。
意見書は昨年の参院選と東京都知事選について「選挙期間中に主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念と言わざるを得ない」とした。
その上で、質的公平性を保つために「取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという姿勢が求められる」とする一方、「放送の結果、政党や候補者の印象が同程度になるというようなことは求められていない」とした。
川端委員長は7日の記者会見で「(有権者に)選挙権を正しく行使するために必要な情報をきちんと伝える。それが放送局の責務だ」と説明。会見では複数の委員が、客観的な事実や真実よりも感情や個人的な信念が重視される「ポスト・トゥルース(真実)」時代の放送局の役割を指摘。意見書でも「政党や立候補者の主張に誤りがないかをチェックすることは、マスメディアの基本的な任務」と説いた。
議論の発端となった参院選と都知事選の個別番組について、放送倫理違反はなかったと結論づけた。都知事選では「一部の立候補者を重点的に取り上げることは、政治的公平性を欠くことにはならない」とした。
BPO意見書に、放送現場から「一歩前進」との評価する声も
放送を巡っては、政治的公平性を求める放送法4条を、制裁を視野に入れた法規範とみなす政府の統一見解が昨年2月に示され、放送局内の自主規制的傾向が一層強くなっている。
そのため意見書に対し、放送現場からは「一歩前進」と評価する一方で、「番組はすぐに変わらない」との意見も聞かれる。
地方民放の報道出身者は「発言時間を平等にすることに心をくだいてきたが、平等でなくてもいいというのは安心材料」と評価した。
ただ、あるNHK職員は、意見書の内容を評価しつつも「これまでのバランスを取ってきたやり方が間違いだったとも思っていない」。民放の報道番組の担当者は「現場はすでに萎えてしまって、意見書だけで放送は変わらない」と悲観する。
日本民間放送連盟(民放連)会長室は「民放連の場でも議論を深めていく」とし、加盟各社に配布する冊子などに意見書の内容を盛り込み、周知させる方針だ。
意見書ににじむ「委員会の危機感」
委員会が政治的公平性を求める放送法4条を「倫理規範」とし、選挙報道の自由を説く意見書を公表した背景には政治の影がある。
自民党は2014年衆院選で、在京各局に選挙報道について「公平中立、公正の確保」を要望。委員会は、こうした「圧力」を批判する意見書を15年11月に公表した。その後も放送法4条を「法規範」とし、違反した場合の電波停止命令をちらつかせる高市早苗総務相の発言などが相次ぎ、選挙報道の現場には量的公平性にとらわれるといった閉塞(へいそく)感が漂っている。
総選挙は今秋にもあるとみられている。息苦しさを感じながら報じる画一的な選挙報道では、有権者に有益な情報は届かないだろう。委員会の危機感が意見書ににじむ。
放送の自由を守り、民主主義を支えるためには、放送局が自ら定めたルールに従って自主自律を貫くことが欠かせない。【須藤唯哉】
◆◆NHK上田新会長就任
(赤旗17.01.30)
◆◆須藤春夫=どうみるNHK新会長就任会見
(赤旗17.01.28)
(【筆者コメント】 =下記の朝日新聞の読者のNHKへの要望の「まとめ」まったく同感。NHKは、他のメディアがとても太刀打ちできない映像の財産をもっている。それは、NHKが民放と違い、国民の貴重な放送料によってまかなわれているからだ。本来それらのすべてが国民が自由に見れるようにすべきだ。NHKオンデマンドで有料提供があるが、それもNHKの映像財産のほんの一部にすぎない。誰がこんなものを利用するか?放送料を払っている国民に無料で解放すべきだ。読者が指摘しているように、民放ではできない知性的なもの、ニュースの掘り下げをもっとやってほしい。といっても先日の村山斉氏の宇宙解説のように、大衆は分からないことが多いから具体的な事例を一杯提供して放送していたが、それで余計分からなくなっていることもある。とにかく真っ向勝負で、政権に左右されないようにがんばってほしい)
◆◆(読者の声 どう思いますか)NHKの現状に様々な反響
2017年1月25日朝日新聞
赤尾晃一・静岡大学准教授
「NHK総合テレビは、民放と見まがうばかりの番組が多い」「真面目なテーマもお笑い番組風にアレンジ」「加えて、耐えられないのは番組宣伝の乱発」「知性と教養を大事にしてほしい」
こう憂えるご投稿を、昨年12月に掲載しました。これに対して、全国各地から約80通の反響が寄せられました。ご投稿者と同様にNHKの番組の現状に不満を持つご意見がある一方、やわらかい番組作りは視聴者の裾野を広げる試みだと一定の理解を示す声もありました。
いずれも、受信料で支えられている公共放送としてのNHKへの強い関心がうかがえる内容でした。
「どう思いますか」では、まず1月18日付の紙面で、NHK番組の民放化とも言える傾向への賛否を軸に、4人の方々のご意見を掲載いたしました。今回は、広くNHKのあり方自体への苦言、提言、期待を4通、掲載いたします。
「声」欄では今後も、NHKをはじめ放送界へのご意見を掲載していきます。ご投稿をお待ちしています。
◆バラエティーは民放に任せて
財団法人職員 佐久間肇(東京都 60)
NHKの素晴らしい番組を感心と尊敬の念で見ています。「NHKスペシャル」「映像の世紀」といった企画の質は民放にはまねできないと思います。
昨今のバラエティー的な番組の多さは、受信料不払い問題を踏まえ、視聴者の支持を広く得ようという方針からと推量します。もしそうなら大きな勘違いです。私も含め大衆の多くは、NHKにそうした番組を期待しません。バラエティーは民放に一日の長があります。民放に任せるべきです。
インターネットや民放などの軽佻浮薄(けいちょうふはく)な情報に、へきえきしている視聴者は数多くいます。そうしたものに接するのに飽き飽きし、内容の深い良質な情報を切望する時、NHKのチャンネルを選ぶのです。その期待に応える番組作りに徹して欲しい。大衆にこびようと民放をまねる必要はありません。
◆良質番組作れる強み生かせ
会社員 村西祐亮(京都府 24)
確かに、最近のNHKは自らの強みを見失っている感がある。スポンサーの都合や短期的な視聴率、収益を心配する必要がない分、質が高く知的好奇心が刺激されるような番組・ドラマを中長期的に腰を据えて制作できるのが、NHKの最大の強みのはずなのに。
籾井勝人会長の発言も問題になった。「政府が右ということを左というわけにはいかない」「原発報道は公式発表をベースに」など公共放送を政府公報と勘違いしているような認識が目立った。NHKの迷走を象徴するようだ。
私が特に好きだった番組は「地球イチバン」。「地球で一番のもの」がある場所を訪ねる紀行番組だ。騒ぎすぎず、一緒に旅をしているような世界観が魅力。こうした質の高い番組を作る能力がNHKにはある。会長が交代する今、公共放送の意義と役割を見つめ直してほしい。
◆視聴者の声を詳細に公開したら
主婦 山本かず子(千葉県 65)
視聴者の意見は、NHKの番組作りにどう反映されているのだろうか。
私にはお堅い印象だったNHK番組が、いつからか身近に感じられるようになった。けれども番組宣伝の多さは違和感を持つ。親しみやすさを勘違いした民放化なら、これでいいのかと思う。
こうした意見を聞く電話やメールの窓口があり、寄せられた意見の概要は「視聴者対応報告」「NHK視聴者ふれあい報告書」といった形で公開されている。しかし、自分たちの希望が番組にどう生かされているのか、一般の視聴者には見えづらい。
NHK視聴者はどんな番組を望むのか。批判的な意見を含め、「みなさま」の声を詳しく公開し、番組に反映できたかどうかを含め、丁寧に公表してはどうか。そうすることで、声が声を呼び、視聴者の望む番組作りにつながると思う。
◆政治報道の萎縮ぶりを危惧する
無職 田辺龍郎(東京都 89)
NHK番組の軽薄化についてもっともなご投稿を拝見したが、それ以上に危惧するのは報道、特に政治報道の沈滞だ。
日本の報道の自由が後退していることは、国際NGOの「報道の自由度ランキング」で明らかだ。民主党政権の頃は22位だったのが、昨年は180の国・地域の中で72位。特定秘密保護法の成立に加え、高市早苗総務相の電波停止発言がその理由とされているようだが、政権批判に及び腰なNHKの萎縮ぶりも原因の一つではないか。
看板番組だった「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターの退場が象徴的に思える。リニューアル番組との位置づけで「クローズアップ現代+」を始めたのは、取り繕いに見える。
政権の意向を忖度(そんたく)したり御用聞きをしたりする人物がいるのであれば、それを排除することが大切だろう。
◆批判は期待の表れ
赤尾晃一・静岡大学准教授(メディア論) NHKの人と接していると、意外に視聴率を気にしていると感じます。「公共放送として広く支持されている」と確認したいという思いがあるからでしょう。
また、多チャンネル化やデジタル化で投資がかさんでいる。そこで手間ひまをかけなくても視聴率が見込めるバラエティーや、視聴者をじらして関心を引きつけるような民放の番宣の手法を導入しているのだと思います。
一方、視聴者は受信料を払っている分、権利意識があり、注文をつけたくなる。なのに意見を反映させるための回路が見えない。経営方針を決める経営委員も視聴者代表とは思えない。欲求不満がたまるわけです。
とはいえ、民放では制作が難しい良質な放送を全国に、世界に届けているのは事実。批判は期待の表れです。
◆◆「虚偽・ヘイト放送」沖縄で反発 MXテレビ「ニュース女子」
朝日新聞17.01.18(Media Times)
沖縄県東村(ひがしそん)高江の米軍ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設への抗議活動について報じた東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)の番組に、反発の声が上がっている。取り上げられた団体は「意図的な歪曲(わいきょく)」「人種差別的な発言」と指摘し、沖縄の地元紙も「沖縄ヘイト」などと批判。局側は16日、「議論の一環として放送した」との見解を番組で流した。
番組は月曜午後10時から放送中の「ニュース女子」。東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が司会を務め、時事問題についてゲストが語り合う。
1月2日の放送で、軍事ジャーナリストの井上和彦氏が現地の様子を報告した。VTRの冒頭、井上氏は抗議活動をしている人を遠くから眺め、「いました。反対運動の連中がカメラ向けているとこっちの方見てます」とリポート。「近づくと敵意をむき出しにして緊迫した感じになります」と伝えた。井上氏がトンネル前に立ち「このトンネルをくぐると建設現場」と説明し、「反対派の暴力行為により地元の住民でさえ高江に近寄れない状況」とナレーションが流れる場面も。
ただ、このトンネルからヘリパッド建設現場までは直線距離で25キロ。この間ではリゾートホテルなどが営業し、一般の人も自由に行き来している。
また地元住民にインタビューし「(反対派が)救急車を止めて現場に急行できない事態が続いていた」とも伝えたが、地元3村を管轄する国頭地区行政事務組合消防本部は朝日新聞の取材に対し「そのような事実はない」と答えている。
スタジオでは出演者が、高江の抗議活動に加わる人権団体「のりこえねっと」について、「5万円日当」などとも発言した。
これについて「のりこえねっと」は5日付で抗議声明を発表。団体では、交通費相当の金銭を支給し、現地の様子を発信する「市民特派員」を募っている。「金銭目的で運動に参加しているかのように歪曲(わいきょく)して報道した」と非難した。また共同代表で、人材育成コンサルタントの辛淑玉(シンスゴ)さんを取り上げた後に「韓国人はなぜ反対運動に参加する?」などと流したことについて「人種差別に基づくヘイト発言」と訴えている。団体側への事前の取材はなかったという。
地元紙の沖縄タイムスと琉球新報は、社説や一般記事で番組を「沖縄ヘイト」などと批判した。沖縄タイムスの与那嶺一枝編集局次長兼報道本部長は「きちんと取材をせずにデマを公共の電波に乗せている。見過ごせば同じような番組が次々に出てきかねないという危機感があった」と話す。
◆識者「最初から反対派敵視」
放送法は、番組の編集に際し、政治的に公平であること▽報道は事実をまげないですること▽意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること――などを放送局に対し義務づけている。
MXテレビは16日の「ニュース女子」放送に続けて「1月2日に放送しました沖縄リポートは、様々なメディアの沖縄基地問題をめぐる議論の一環として放送致しました。今後とも、様々な立場の方のご意見を公平・公正にとりあげてまいります」とテロップを出した。同社の広報担当者は「メッセージ以上のことは答えられない」としている。
番組内でのテロップ表示によると、ニュース女子の「製作・著作」は化粧品大手の子会社。化粧品大手は取材に対し「担当者が不在で答えられない」としている。放送倫理・番組向上機構(BPO)は、MXテレビから報告を求めることを決めた。
元日本テレビディレクターで上智大教授の水島宏明さんは「『連中』といった言葉を使い、最初から反対派を敵視している。公平な立場で伝えるという大前提が守られていない」と指摘。「沖縄の歴史や基地問題の背景を無視し、バラエティー的な演出で笑いの対象にしていた。伝聞や臆測は伝えないという基本も守られておらず、放送倫理を大きく逸脱する内容だった」と話す。(小山謙太郎、田玉恵美)
*
Media Times(メディアタイムズ)
◆キーワード
<東京メトロポリタンテレビジョン> 1995年に開局した東京ローカルの地上波テレビ局。アニメや夕方の情報番組「5時に夢中!」などが人気。日本民間放送連盟の15年調査によると、自社制作の番組が占める割合は25・4%(キー局は約90%)。2004年、NHKの不祥事で当時の海老沢勝二会長が国会に参考人招致された際に急きょ中継したことが話題になった。主要株主はエフエム東京、中日新聞社、東京都など。
◆◆2017年元旦の新聞社説の動向
(赤旗17.01.05)(赤旗日曜版17.01.15)
◆◆安倍首相メディア幹部と会食=昨年は十数回 どう喝と介入の一方で右派との親密さ目立つ
2017年1月4日赤旗
安倍晋三首相とメディア幹部との会食が、昨年も十数回にわたって重ねられました。安倍政権によるメディアへの露骨などう喝と介入の一方で、目立つのは右派メディア幹部との親密さです。
昨年2月、高市早苗総務相は国会で、政府が「政治的公平に反する」と判断した放送局には停波を命じることができると答弁。首相も擁護しました。この「停波」発言に代表されるように、安倍政権によるメディアへの露骨などう喝と介入、干渉はとどまることを知りません。こうしたなか、NHKや民放の報道番組の主要キャスターが3人も降板する事態も起きました。
その一方で、首相は昨年もメディア幹部との会食を重ね、本紙の調べでは15回に及んでいます。とくに、渡辺恒雄「読売」本社グループ会長とは、2014年新築なった東京本社ビルで、「産経」「日経」などの幹部を交え、2度にわたって会食。ゴルフ場での会食を加えると3回になります。昨年11月16日には、「読売」東京本社ビルで講演も行っています。
各社論説幹部など固定メンバーとの年2回の会食も恒例となっていますが、昨年は別に「産経」「読売」といった右派メディアの論説委員や政治部長とも、2回ずつ個別に会食。時事通信の特別解説委員とも個別に会食しています。
権力者とメディア幹部の会食は、「権力の監視」というジャーナリズムの根幹をゆるがす問題として批判をあびてきましたが、改まる気配は一向にありません。
◆安倍首相とマスメディア幹部との会食(2016年)
日時 会食相手(会食場所)
1・21 渡辺恒雄「読売」本社会長、橋本五郎・同特別編集委員、今井環・NHKエンタープライズ社長、清原武彦「産経」相談役、ジャーナリスト・後藤謙治、芹川洋一「日経」論説委員長、評論家・屋山太郎(読売新聞東京本社ビル)
1・29 西沢豊・時事通信社社長、田崎史郎・同特別解説委員、渡辺祐司・同編集局長、阿部正人・同政治部長(東京・飯田橋のグランドホテル内、フランス料理店「クラウンレストラン」)
2・12 阿比留瑠比「産経」論説委員、有元隆志・同政治部長(東京・赤坂エクセルホテル東急内、レストラン「赤坂ジパング」)
2・18 田中隆之「読売」政治部長ら(東京・霞ケ丘町の日本料理店「外苑うまや信濃町」)
3・9 芹川「日経」論説委員長、内山清行・同政治部長(東京・新橋の日本料理店「京矢」新橋店)
5・16 大久保好男・日本テレビ社長、秋山光人・日本映像社長らマスコミ関係者(東京・銀座の中国料理店「飛雁閣」)
6・2 石川一郎・BSジャパン社長付、小田尚「読売」論説主幹、粕谷賢之・日本テレビメディア戦略局長、島田敏男NHK解説副委員長、曽我豪「朝日」編集委員、田崎時事特別解説委員、山田孝男「毎日」特別編集委員(東京・京橋の日本料理店「京都つゆしゃぶCHIRIRI」)
8・16 日枝久フジテレビ会長〔他に加藤勝信1億総活躍担当相、岸信夫外務副大臣ら〕(山梨県山中湖村のホテルマウント富士内、宴会場「メヌエット」)
9・1 渡辺「読売」本社会長、清原「産経」相談役、福山正喜・共同通信社社長ら(読売新聞東京本社ビル)
10・17 阿比留「産経」論説委員兼政治部編集委員ら(「赤坂ジパング」)
10・21 田中孝之「読売」編集局総務、前木理一郎政治部長(東京・赤坂の日本料理店「古母里」)
12・2 喜多恒雄「日経」会長、岡田直敏・同社長ら(東京・内幸町の帝国ホテル内、宴会場「梅の間」)
12・3 渡辺「読売」本社会長〔他に御手洗冨士夫経団連名誉会長ら〕(神奈川・茅ケ崎市のゴルフ場「スリーハンドレッドクラブ」内のクラブハウス)
12・6 朝比奈豊「毎日」会長、丸山昌宏・同社長ら(東京・元麻布の日本料理店「東郷」)
12・20 石川・BSジャパン社長、小田「読売」論説主幹、粕谷・日本テレビ解説委員長、島田NHK解説副委員長、曽我「朝日」編集委員、田崎時事特別解説委員、山田「毎日」特別編集委員(日本料理店「京都つゆしゃぶCHIRIRI」)
◆◆NHK新会長決定にあたって=経営委員からの選任は異常
砂川浩慶(立教大学教授)
赤旗16.12.08
◆◆NHK新会長も政府のゴーサインの枠内で動く懸念
上村達男(元NHK経営委員長代行)
日刊ゲンダイ16.12.09
◆◆NHK籾井氏の再選阻んだ世論
(赤旗16.12.14)
◆◆NHK会長に上田氏 元三菱商事副社長、現職の経営委員 籾井氏は来月退任
朝日新聞16.12.06
NHK経営委員会(委員長・石原進JR九州相談役)は6日、次期会長に現経営委員で元三菱商事副社長の上田良一(うえだりょういち)氏(67)を任命すると決め、発表した。任期は3年。籾井勝人(もみいかつと)会長(73)は来年1月24日に任期満了で退任する。NHK会長の外部からの登用は4代連続で、執行部を監督する経営委員から会長に就任するのは異例。
上田氏は一橋大法学部を卒業後、三菱商事に入社。米国三菱商事社長や三菱商事副社長を経て、2013年6月にNHKの常勤の経営委員に就いた。同7月からは監査委員も兼務。15年に発覚した、籾井会長が私的なゴルフで使ったハイヤー代をNHKに一時立て替えさせていた問題では、自ら調査を担当した。
石原委員長は上田氏の選出理由について「NHKの業務に精通しており、内部からの人望も厚い。人格もふさわしい」と説明。「放送と通信との融合など、大きな課題が控えている。リーダーシップを発揮してほしい」と期待した。その後会見に臨んだ上田氏は「立場が変わっても、国民から信頼される公共放送の役割を果たしていきたい」と述べた。会長就任により、経営委員と監査委員は退任する。
経営委は今年7月、会長指名部会を立ち上げて選定作業を開始。「政治的中立である」といった、5項目の資格要件を定めるなどの作業を進めていた。
6日は、籾井会長の評価について全委員が意見を述べた後、委員が提出した推薦書に基づいて無記名で投票を実施。複数の候補者の中から、上田氏が選ばれた。石原委員長は籾井会長について「懸案事項に積極的に取り組んで実績を出した一方、色んな誤解を招く発言があった」と述べた。(後藤洋平、小峰健二)
◆◆(時時刻刻)籾井氏後任、安定を重視 NHK会長に上田氏 内部に精通、異例の起用
NHK経営委員会は6日、次期会長に現職の経営委員で監査委員の上田良一氏(67)を選出した。経営委員として、会長を中心とする執行部の業務を監督する立場から、攻守が逆転する異例の起用。背景には、混乱が続いた「籾井体制」の立て直しに、NHK内外で信頼関係が築ける人物の就任が不可欠と判断されたことがある。
◆「頭切りかえ、職責果たす」
上田氏は、松本正之前会長時代の2013年6月に常勤の経営委員に就任。12人いる委員の中で常勤は上田氏1人で、理事会など執行部側の会合にもオブザーバーとして参加してきた。
ある委員は「経営委とNHK執行部の両方の立場を理解している。常勤のため職員とも信頼関係がある」。NHK幹部も「落ち着いた性格で受け答えにも安定感がある。籾井会長と違って国会答弁も冷静に対応できるだろう」とみる。
上田氏は三菱商事入社後、主に管理部門を渡り歩き、米国三菱商事社長などを経て09年に最高財務責任者(CFO)に就任。10年4月に副社長に昇格した。財務に精通し、社内では「非常に真面目な理論派で、一度決めたことはきちっとやる」(三菱商事幹部)。国際放送の充実を推し進めるNHKにとって、豊富な国際経験も期待されている。
経営委員、監査委員としてこれまで会長を監督する立場からの会長就任。なれ合いになり、チェック体制に問題が生じるのではとの質問に、選任を主導した石原進委員長は会見で「心配ないと思う」。上田氏は「就任したら頭を切りかえて職責を果たしたい」と語った。
上田氏には多くの課題が待ち受ける。
この秋、籾井勝人会長らが提案し、上田氏が経営委員として反対した受信料値下げを、来春から策定する次期経営計画に盛り込むかどうかが焦点だ。18年に実用放送を目指すスーパーハイビジョン(4K、8K)の推進のほか、総務省では番組とネットの同時配信についての検討が始まっている。実施には放送法の改正が必要だが、システムの構築や権利処理などの環境整備が不可欠で、受信料制度の見直しにも直結する。
3年前に籾井氏が就任した際には安倍官邸の意向が見え隠れしたが、政権側は今回、表立った介入を避けた。上田氏の選出後、官邸幹部は「妥当な人事だ。上田氏はすごく評判がいい」と語った。
公共放送トップとして、取り組むべき課題や政治とのバランスをどうとっていくのか。上田氏は「現在は籾井会長が責任者」とし、「正式に担当する時点で考えを説明する。この時点ではお許しいただきたい」と述べるにとどめた。
◆「籾井降ろし」今秋に加速
一方、退任が決まった籾井氏。続投に意欲を見せながら、経営委との溝は広がる一方だった。
「80点はいけますね。90点と言いたいところですが。まあ合格というところじゃないか」。1日午後、東京・渋谷のNHK放送センター。定例会見で1年間の自己採点を問われた籾井氏は、そう言って胸を張った。
経営委員の一人は「高得点だなあ」と苦笑。「普通のトップは『社員のおかげ』『評価はみなさんに任せる』と言うものだが」
今回選任作業をとりまとめた石原氏は、3年前に籾井氏を推薦したとされる。しかし関係者によると、石原氏は今年6月の委員長就任当初から、周囲に「籾井さんにとっても1期で身をひく方がいい」と話していたという。
三井物産副社長や日本ユニシス社長などを経てNHK会長に就任した籾井氏は、14年1月の就任会見で「政府が右と言うことを左とは言えない」と発言。15年には慰安婦問題をめぐる番組作りについて「政府のスタンスがよくまだ見えない」と語るなど、政権寄りの発言を繰り返し、報道機関トップとしての資質が疑問視された。
国会でも与野党からその言動をたびたび追及され、NHK予算の国会承認は、通例だった全会一致が3年連続で崩れた。退任する理事が経営委でのあいさつで「相次いで発生する問題への対応に追われ続け、対症療法的な対応を迫られた」と述べる場面も。ある幹部は「経営課題への取り組みに集中できない事態も招いた責任は大きい」とする。
「籾井降ろし」が加速したのは今秋。籾井氏と執行部が提案した来秋からの受信料値下げ方針に、経営委は全会一致で反対。「経営感覚がわかっていない」と厳しい指摘が相次いだ。あるNHK幹部は「議論の中身より、籾井体制での実績作りをさせないという印象を受けた」と語る。
この頃、籾井氏は周囲に「今の状況では、再任が難しいことはわかっている」とこぼすようになっていた。別の幹部は「値下げの攻防は、元々あった経営委と籾井会長の距離を修復不可能にし、退任を決定づけた」と振り返る。
籾井氏は6日、朝日新聞の取材に「ベストと思う方を選ばれたんだと思う。1月24日までは粛々とやる」。淡々とした表情で語った。
◆◆隅井孝雄=NHK会長選任どうあるべきか
(赤旗16.11.28)
◆◆NHK会長選任に国民・視聴者の声を
(赤旗16.10.14)
◆◆放送を語る会=参院選テレビ検証・報道 質量ともに後退
2016年8月21日赤旗
放送関係者や市民でつくる「放送を語る会」は19日、7月10日投票の参院選でのテレビ報道のモニター調査結果を、「憂うべき選挙報道の現状」とのタイトルで発表しました。同会は、NHKと民放4局の計6報道番組をモニター。「報道は質量ともに後退」「与党の改憲志向の具体的内容が追及されなかった」などと提示しています。
モニターした番組はNHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」と、日本テレビ「NEWS ZERO」、テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」、フジテレビ「みんなのニュース」。期間は投票日までの約1カ月(6月13日~7月10日)です。
全体については「選挙期間中に、番組によっては選挙関連番組がない放送日がかなりあった」と指摘。特に「ニュース7」は選挙期間中18日のうち、9日間は選挙報道がなかったと提示。一方「報道ステーション」では、選挙関連報道なしは1日だけでした。
「争点の伝え方」についてはとくに「改憲問題」に注目しています。個々には憲法・改憲志向をとりあげた番組はあったが、全体としては「憲法改正」という用語でとらえられ、自民党の改憲案については「中身に切りこんでいなかった」と批判しています。
「アベノミクス」では、「道半ば」と位置づけていたNHKについて「政権の主張そのまま」と指摘。一方「NEWS23」については働き方の問題を取り上げたことを評価するとともに、「現状報告にとどまっているのは惜しまれる」と注文をつけています。
報告は「選挙報道の量と質は圧倒的に不足していた」と指摘し、「根本的なあり方を検討すべきだ」と提言しています。
同会はこのモニター調査を、NHKと在京民放各局の報道局長、ニュース番組担当者に、今後の番組政策に役立ててほしいとの要望とともに送付しました。
◆◆参院選テレビ報道=量質ともに後退
(赤旗16.07.17)
【参院選結果についての報道】
(赤旗日曜版16.07.17)
◆◆権力者がつくったテレビ界の「偏らない」「空気」
(16.05.29赤旗日曜版)
◆◆朝日新聞社説=NHKの使命 政府の広報ではない
2016年5月2日朝日新聞
NHKは、政府の広報機関ではない。当局の発表をただ伝えるだけでは、報道機関の使命は果たせない。
それは放送人としての「イロハのイ」だ。しかし、籾井勝人会長は就任から2年3カ月になるが、今もその使命を理解していないとしか思えない。
籾井氏は、先月の熊本地震に関する局内会議で、原発に関する報道は「公式発表をベースに」と発言した。「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」などとも指示した。
26日の衆院総務委員会で籾井氏は、こう答弁している。
「公式発表」とは「気象庁、原子力規制委員会、九州電力」の情報のこと。鹿児島県にある川内(せんだい)原発については「(放射線量を監視する)モニタリングポストの数値などをコメントを加味せず伝える。規制委が、安全である、(稼働を)続けていいといえば、それを伝えていく」と考えているという。
災害の時、正確な情報を速く丁寧に伝えるよう努めるのは、報道機関として当然だ。自治体や政府、企業などの発表は言うまでもなく、ニュースの大事な要素である。
同時に、発表内容を必要に応じて点検し、専門知識に裏付けられた多様な見方や、市民の受け止めなどを併せて伝えるのも報道機関の不可欠な役割だ。
しかし籾井氏の指示は「公式発表」のみを事実として扱うことを求めているように受け取れる。ものごとを様々な角度から見つめ、事実を多面的に伝えるという報道の基本を放棄せよと言っているに等しい。
「住民に安心感を与える」ためというのが籾井氏の言い分のようだ。だが、それは視聴者の理解する力を見くびっている。
NHK放送文化研究所の昨年の調査では、85%が「必要な情報は自分で選びたい」とし、61%が「多くの情報の中から信頼できるものをより分けることができるほうだ」と回答した。
多くの視聴者は、政府や企業などが公式に与える情報だけでなく、多角的な報道を自分で吟味したいと考えているのだ。
籾井氏は一昨年の就任会見で「政府が右ということを左というわけにはいかない」と発言。昨年は戦後70年で「慰安婦問題」を扱うか問われ、「政府の方針がポイント」と語った。
政府に寄り添うような発言はその都度批判されてきたが、一向に改まらない。このままでは、NHKの報道全体への信頼が下がりかねない。
◆◆河野慎二=自粛・萎縮打ち破れ
(赤旗16.05.15)
◆◆須藤春夫= キャスター交代で退く権力監視
(赤旗16.04.29)
◆◆報道の自由、海外から警鐘 国連が調査・NGO「世界72位」
2016年4月24日朝日新聞(Media Times)
日本の「報道の自由度ランキング」
日本の「報道の自由」が脅かされているとする見方が海外で広がっている。来日した国連の専門家が懸念を表明。国際NGOが公表した自由度ランキングも大きく後退した。政治の圧力とメディアの自主規制が背景にあると指摘している。
「報道の独立性が重大な脅威に直面している」。19日に東京都内で会見した国連特別報告者のデービッド・ケイ米カリフォルニア大アーバイン校教授(国際人権法)は、政府や報道関係者らへの聞き取りをもとに、暫定的な調査結果をまとめ、日本の言論状況に警鐘を鳴らした。
◆「政府による脅し」
ケイ氏の指摘は、放送法や自民党の憲法改正草案、特定秘密保護法の問題点など多岐にわたる=表。なかでも、放送の政治的公平性を定めた放送法をめぐり、高市早苗総務相が電波停止に言及したことについて、「政府は脅しではないと主張したが、メディア規制の脅しと受け止められても当然だ」と批判した。
ケイ氏に面会したフリージャーナリストによると、「『政府の圧力』に対して強い関心を抱いていた」という。高市発言や、前回総選挙前に自民党が放送局に「公平中立」を求める文書を送るなどの事例が相次いでいることが、厳しい指摘につながったとみられる。
報道側の問題として、記者クラブ制度や、メディアの権力側との距離の取り方などに触れ、「メディア幹部と政府高官、規制される側とする側が会食し、密接な関係を築いている」などと指摘した。
市民デモにも言及し、「沖縄の抗議活動に対しては、過剰な力の行使や多数の逮捕があると聞いた。心配なのは抗議活動を撮影するジャーナリストへの力の行使だ」と懸念を示した。
一方で「日本は自由な国で民主主義の歴史もある。憲法21条で表現の自由を保障し検閲を禁じている。ネット環境は政府介入も少なく、世界有数の高い自由度を誇る」と評価し、「だからこそ最近の傾向に注目している」と強調した。
◆「上から自主規制」
海外のNGOも日本の言論状況を注視してきた。
20日発表の「報道の自由度ランキング」で、日本を世界180カ国・地域で72位とした国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は「多くのメディアが自主規制している。とりわけ、首相に対してだ」と断じた。2010年の11位から下がり続けており、「安倍政権となってからの順位低下が著しい」という。
ランキングづくりにあたっては、各国の記者やブロガーらに「記者は何を恐れて自主規制するか」など87項目の質問に答えてもらい、指数化している。
日本で活動する記者らと連絡をとるアジア太平洋地区担当のベンジャマン・イスマイールさん(34)は、「メディアに属する記者は(組織の)上からの自主規制を受けることが多い。政治的に微妙な問題に触れるような場合がそうだ」。
外国メディアも、高市発言や今春のニュース番組キャスターの相次ぐ交代を伝えている。
「悪いニュースを抑え込む」と題した社説を3月に掲載した米ワシントン・ポスト紙は、「戦後日本が達成した成果とは、経済的な『奇跡』ではなく、報道の独立を含めた自由主義制度の確立だ。(日本が直面する困難に対処する)安倍氏のゴールがいかに価値があるとしても、これらが犠牲にされるべきではない」と訴えた。
英タイムズ紙のリチャード・ロイド・パリー東京支局長は朝日新聞の取材に、「安倍政権は過去の政権よりも報道に神経質で圧力もかけているが、ジャーナリストが抵抗していれば問題はない。日本の問題は、ジャーナリストが圧力に十分抵抗していないことだろう」と話した。
(編集委員・北野隆一、大島隆、パリ=青田秀樹)
◆国連のデービッド・ケイ氏の日本の言論状況への指摘
・政府は(政治的公平性などを定めた)放送法第4条を廃止し、メディア規制から手を引くべきだ
・自民党の憲法改正草案21条で公益や公の秩序に言及した部分は国際人権規約と矛盾し、表現の自由と相いれない
・特定秘密保護法は秘密の範囲があいまいで、記者や情報提供者が処罰される恐れがある
・慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者の植村隆氏やその娘に対し、殺害予告を含む脅迫が加えられた。当局は脅迫行為をもっと強く非難すべきだ
・沖縄での市民の抗議活動への力の行使を懸念
・記者クラブ制度はフリー記者やネットメディアを阻害
◆毎日新聞16.04.25
◆◆熊本地震、原発報道「公式発表で」…NHK会長が指示
毎日新聞 2016年4月23日
識者「独自取材、萎縮させる」
NHKが熊本地震発生を受けて開いた災害対策本部会議で、本部長を務める籾井勝人(もみい・かつと)会長が「原発については、住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えることを続けてほしい」と指示していたことが22日、関係者の話で分かった。識者は「事実なら、報道現場に萎縮効果をもたらす発言だ」と指摘している。
会議は20日朝、NHK放送センター(東京都渋谷区)で開かれた。関係者によると、籾井会長は会議の最後に発言。「食料などは地元自治体に配分の力が伴わないなどの問題があったが、自衛隊が入ってきて届くようになってきているので、そうした状況も含めて物資の供給などをきめ細かく報じてもらいたい」とも述べた。出席した理事や局長らから異論は出なかったという。
議事録は局内のネット回線を通じて共有され、NHK内には「会長の個人的見解を放送に反映させようとする指示だ」(ある幹部)と反発も聞かれる。
砂川浩慶・立教大教授(メディア論)は「会長には強い人事権がある。発言が事実なら、萎縮効果をもたらす発言で問題だ。熊本地震で起きた交通網の遮断を前提に原発事故発生時の避難計画の妥当性を検証したり、自衛隊と地元自治体との連携について振り返ったりするといった独自取材ができなくなる恐れがある」と指摘する。
NHK広報部は「部内の会議についてはコメントできない。原発に関する報道は、住民の不安をいたずらにあおらないよう、従来通り事実に基づき正しい情報を伝える」としている。【丸山進】
🔴🔴🔴
◆◆「識者見解、不安与える」 NHK会長、原発報道で
2016年4月27日朝日新聞
熊本地震に関連する原発報道について「公式発表をベースに」と内部の会議で指示していたNHKの籾井勝人会長が、同じ会議で「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」などとも指示していたことが26日、関係者への取材で分かった。
会議は20日に開かれた災害対策本部会議。朝日新聞が入手した会議の記録では、専門家に言及した部分はなかった。「発言をそのまま載せると問題になると考え、抜いたのでは」と話す関係者もいる。NHK広報局は「部内の会議についてはコメントできない」としている。
この会議について籾井氏は26日の衆院総務委員会でも質問を受けた。民進党の奥野総一郎氏に対し、「事実に基づいて、モニタリングポストの数値などを、我々がいろんなコメントを加味せずに伝えていく」などと述べ、公式発表をそのまま報じるべきだという考えを改めて示した。公式発表が何を指すかについては、気象庁や原子力規制委員会、九州電力が出しているものをあげた。指示については「原子力規制委員会が安全である、あるいは(運転を)続けていいということであれば、それをそのまま伝えていくということ。決して、大本営発表みたいなことではない」と説明した。
だが、局内には冷ややかな空気が流れる。NHK報道局の中堅記者は「悲しい現実だが、またやったか、という思いもある。今後も現場は視聴者のための情報を伝える使命を持ち続けたい」と語った。
籾井氏の姿勢については専門家の間から疑問の声が上がっている。音好宏・上智大教授(メディア論)は「NHKは、政府などの公式発表より早く現場の事実を伝えることも可能な組織だ。東日本大震災の際、福島中央テレビが東京電力福島第一原発の水素爆発を撮影し、その映像を報じた。籾井氏の発言通りだとすれば、同様のことが起こっても、NHKは政府などの公式見解が出るまで映像を流してはいけないことになる。それはNHKの編集権の放棄であり、報道機関としての自殺行為ではないか」と指摘する。
大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理)は「籾井氏はジャーナリズムの役割を理解していない。公式発表を批判的に検証する視点が全くない。公式発表を伝えることがメディアの役割だとすれば、広報だと思っているに等しい」と話している。(後藤洋平、佐藤美鈴)
◆◆テレビ各局はTBS見習え
(赤旗日曜版16.04.24)
◆◆「報道の自由」72位 日本に海外から懸念も
2016年4月21日朝日新聞
日本の「報道の自由」が後退しているとの指摘が海外から相次いでいる。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が20日に発表したランキングでは、日本は前年より順位が11下がって72位。国連の専門家や海外メディアからも懸念の声が出ている。
国境なき記者団は、180カ国・地域を対象に、各国の記者や専門家へのアンケートも踏まえてランキングをつくっている。日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、「東洋の民主主義が後退している」としたうえで日本に言及した。
特定秘密保護法について、「定義があいまいな『国家機密』が、厳しい法律で守られている」とし、記者が処罰の対象になりかねないという恐れが、「メディアをまひさせている」(アジア太平洋地区担当のベンジャマン・イスマイール氏)と指摘した。その結果、調査報道に二の足を踏むことや、記事の一部削除や掲載・放映を見合わせる自主規制に「多くのメディアが陥っている」と報告書は断じた。「とりわけ(安倍晋三)首相に対して」自主規制が働いているとした。
日本の報道をめぐっては、「表現の自由」に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大アーバイン校教授)が調査のため来日。19日の記者会見で「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と指摘した。
海外メディアも、米ワシントン・ポスト紙が先月の「悪いニュースを抑え込む」と題した社説で、政府のメディアへの圧力に懸念を表明。英誌エコノミストも「報道番組から政権批判が消される」と題した記事で、日本のニュース番組のキャスターが相次いで交代したことを紹介した。(青田秀樹=パリ、乗京真知)
◆報道の自由度ランキング
(カッコ内は前年順位)
<上位5カ国>
1 フィンランド(1)
2 オランダ(4)
3 ノルウェー(2)
4 デンマーク(3)
5 ニュージーランド(6)
<G8国>
16 ドイツ(12)
18 カナダ(8)
38 英国(34)
41 米国(49)
45 フランス(38)
72 日本(61)
77 イタリア(73)
148 ロシア(152)
<ワースト5カ国>
176 中国(176)
177 シリア(177)
178 トルクメニスタン(178)
179 北朝鮮(179)
180 エリトリア(180)
◆◆日本の報道の独立性に「脅威」 国連報告者「政府の圧力、自己検閲生む」
2016年4月20日朝日新聞
記者会見する国連「表現の自由」特別報告者デービッド・ケイ氏(右)=東京都千代田区の外国特派員協会、北野隆一撮影
「表現の自由」に関する国連特別報告者として初めて公式に訪日したデービッド・ケイ氏(米国)が日本での調査を終え、19日に東京都内で記者会見した。「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面している」として、メディアの独立性保護や国民の知る権利促進のための対策を講じるよう政府に求めた。
ケイ氏は日本政府の招きで11日から訪日。政府職員や国会議員、報道機関関係者やNGO関係者らの話を聞き、「特定秘密保護法や、『中立性』『公平性』を求める政府の圧力がメディアの自己検閲を生み出している」と分析。「ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた」と述べた。
放送法をめぐっては「放送法のうち(政治的公平性などを定めた)第4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだ」と提言。高市早苗総務相が番組の公平性を理由に放送局の「電波停止」に言及した発言をめぐって、高市氏との面会を希望したが「国会会期中との理由で会えなかった」と明かした。
特定秘密保護法については「原発や災害対応、安全保障など国民の関心が高い問題の政府情報が規制される可能性があり、内部告発者の保護体制も弱い」と懸念を示した。
ヘイトスピーチ対策については「ヘイトスピーチの法律は悪用の恐れがある。まずは人種差別禁止法を作るべきだ」と提言。慰安婦問題など歴史問題については「戦争中の罪を教科書でどう扱うかについて政府が介入することは、国民の知る権利を脅かし、過去の問題に取り組む力を低下させる」と懸念を示した。記者クラブの排他性も指摘した。
ケイ氏は米カリフォルニア大アーバイン校教授で国際人権法などが専門。2014年、国連人権理事会から特別報告者に任命された。今回の訪日についての報告書は17年に人権理事会に提出する予定という。(編集委員・北野隆一)
◆◆新しいキャスターに望む
(赤旗日曜版16.04.10)
◆◆報道ステーション最終回古舘氏「死んでまた再生します」/あいさつ全文
古舘伊知郎キャスターが、3月31日の放送でテレビ朝日「報道ステーション」の出演を終えた。番組最後のスピーチは以下の通り。
★古舘伊知郎報ステ最終回あいさつ8m
(音声)https://m.youtube.com/watch?v=9dsJYltuXDU
または
(動画)https://m.youtube.com/watch?v=JTnYwgYTaKM
私が大変気に入っているセットも今日が最後。04年4月に産声を上げ、12年の月日があっという間にたちました。私の古巣である、学舎であるテレビ朝日に貢献できればという思いも強くあって、この大任を引き受けさせていただきました。おかげさまで風邪などひとつもひくことなく、無遅刻無欠勤で12年やらせていただくことができました。これもひとえに、テレビの前で今、ご覧になっている皆様方の支えあったればこそだなと、本当に痛感をしております。ありがとうございました。
私は毎日毎日この12年間、テレビ局に送られてくる皆様からの感想、電話、メールをまとめたものをずーっと読ませていただきました。お褒めの言葉に喜び、徹底的な罵倒に傷ついたこともありました。でも全部ひっくるめてありがたいなと今思っております。
というのも、ふとある時気づくんですね。いろんなことを言ってくるけれども、考えてみれば私もこの電波という公器を使っていろんなことをしゃべらせていただいている。絶対誰かがどこかで傷ついているんですよね。それは因果はめぐって、自分がまた傷つけられて当然だと、だんだん素直に思えるうになりました。こういうふうに言えるようになったのも、皆様方に育てていただいたんだなと、強く思います。
そして、私がこんなに元気なのになんで辞めると決意をしたのかということも簡単にお話しするとすれば、そもそも私が12年前にどんな報道番組をやりたかったのかということにつながります。実は言葉にすると簡単なんです。もっともっと普段着で、もっともっとネクタイなどせず、言葉遣いも普段着で、普通の言葉でざっくばらんなニュース番組を作りたいと、真剣に思ってきたんです。
ところが現実はそんなに甘くありませんでした。たとえば、「いわゆるこれが事実上の解散宣言とみられております」と、「いわゆる」がつく。「事実上の」をつけなくてはならない、「みられている」と言わなくてはならない。これはどうしたって必要なことなんです。放送する側としても誰かを傷つけちゃいけないと、二重三重の言葉の損害保険をかけなければいけないわけです。そういうことをガチッと固めてニュースをやらなければならない。そういう中で、正直申しますと、窮屈になってきました。
もうちょっと私は自分なりの言葉、しゃべりで皆さんを楽しませたいというようなわがままな欲求が募ってまいりました。12年やらせていただいたというささやかな自負もありましたので、テレビ朝日にお願いして「退かせてください」ということを言いました。これが真相であります。
ですから、世間の一部で、なんらかのプレッシャー、圧力が私にかかって、辞めさせられるとか、そういうことでは一切ございません。そういう意味では、私のしゃべりを支持してくれた方にとっては、私が辞めるというのは、裏切りにもつながります。本当にお許しください。申し訳ありません。私のわがままです。
ただ、このごろは、報道番組で開けっぴろげに昔よりもいろんな発言ができなくなりつつある空気は私も感じています。この番組のコメンテーターの政治学者の中島先生が教えてくれました。「空気を読む」という人間には特性がある。読むから、一方向にどうしても空気を読んで流れていってしまう。だからこそ反面で「水を差す」という言動や行為が必要だと。私、その通りだと思います。つるんつるんの無難な言葉で固めた番組などちっとも面白くありません。人間がやっているんです。人間は少なからず偏っていきます。だから、情熱をもって番組を作れば、多少は番組は偏るんです。全体的に、ほどよいバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけばいいという信念を私は持っています。
という意味では、12年間やらせていただく中で、私の中でも育ってきた報道ステーション魂を、後任の方々にぜひ受け継いでいただいて、言うべきことは言う、間違いは謝る。激しい発言というのが、後年議論のきっかけになっていい方向に向いたじゃないかと、そういうこともあるはずだと信じております。
考えてみれば、テレビの一人勝ちの時代がありました。そのよき時代に乗って、あの久米宏さんが素晴らしい「ニュースステーション」というニュースショーを、まさに時流の一番槍をかかげて突っ走りました。私はその後を受け継ぎました。テレビの地上波もだんだん厳しくなってきた。競争相手が多くなりました。そういう中でも、しんがりを務めさせていただいたかなと、ささやかな自負は持っております。
さあ、この後は通信と放送の二人羽織、どうなっていくんでしょうか。厳しい中で、富川悠太アナウンサーが4月11日から引き継ぎます。大変だと思います。しかし彼には乱世の雄になっていただきたいと思います。私はこの12年の中で彼をすごいなと思ったのは、1回たりとも仕事上のグチを聞いたことがありません。そういう人です。精神年齢は私よりもずっと高いと思っています。どうか皆さん、3カ月や半年あたりでいいだ悪いだ判断するのではなく、長い目で彼の新しい報道ステーションを見守っていただきたいと思います。本当につらくなったら私に電話してきてください。相談に乗ります。ニュースキャスターというのは、本当に孤独ですからね。
私は今こんな思いでいます。人の情けにつかまりながら、折れた情けの枝で死ぬ。「浪花節だよ人生は」の一節です。死んでまた再生します。皆さん、本当にありがとうございました。
◆◆「識者見解、不安与える」 NHK会長、原発報道で
2016年4月27日朝日新聞
熊本地震に関連する原発報道について「公式発表をベースに」と内部の会議で指示していたNHKの籾井勝人会長が、同じ会議で「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」などとも指示していたことが26日、関係者への取材で分かった。
会議は20日に開かれた災害対策本部会議。朝日新聞が入手した会議の記録では、専門家に言及した部分はなかった。「発言をそのまま載せると問題になると考え、抜いたのでは」と話す関係者もいる。NHK広報局は「部内の会議についてはコメントできない」としている。
この会議について籾井氏は26日の衆院総務委員会でも質問を受けた。民進党の奥野総一郎氏に対し、「事実に基づいて、モニタリングポストの数値などを、我々がいろんなコメントを加味せずに伝えていく」などと述べ、公式発表をそのまま報じるべきだという考えを改めて示した。公式発表が何を指すかについては、気象庁や原子力規制委員会、九州電力が出しているものをあげた。指示については「原子力規制委員会が安全である、あるいは(運転を)続けていいということであれば、それをそのまま伝えていくということ。決して、大本営発表みたいなことではない」と説明した。
だが、局内には冷ややかな空気が流れる。NHK報道局の中堅記者は「悲しい現実だが、またやったか、という思いもある。今後も現場は視聴者のための情報を伝える使命を持ち続けたい」と語った。
籾井氏の姿勢については専門家の間から疑問の声が上がっている。音好宏・上智大教授(メディア論)は「NHKは、政府などの公式発表より早く現場の事実を伝えることも可能な組織だ。東日本大震災の際、福島中央テレビが東京電力福島第一原発の水素爆発を撮影し、その映像を報じた。籾井氏の発言通りだとすれば、同様のことが起こっても、NHKは政府などの公式見解が出るまで映像を流してはいけないことになる。それはNHKの編集権の放棄であり、報道機関としての自殺行為ではないか」と指摘する。
大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理)は「籾井氏はジャーナリズムの役割を理解していない。公式発表を批判的に検証する視点が全くない。公式発表を伝えることがメディアの役割だとすれば、広報だと思っているに等しい」と話している。(後藤洋平、佐藤美鈴)
◆◆テレビ各局はTBS見習え
(赤旗日曜版16.04.24)
◆◆「報道の自由」72位 日本に海外から懸念も
2016年4月21日朝日新聞
日本の「報道の自由」が後退しているとの指摘が海外から相次いでいる。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が20日に発表したランキングでは、日本は前年より順位が11下がって72位。国連の専門家や海外メディアからも懸念の声が出ている。
国境なき記者団は、180カ国・地域を対象に、各国の記者や専門家へのアンケートも踏まえてランキングをつくっている。日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、「東洋の民主主義が後退している」としたうえで日本に言及した。
特定秘密保護法について、「定義があいまいな『国家機密』が、厳しい法律で守られている」とし、記者が処罰の対象になりかねないという恐れが、「メディアをまひさせている」(アジア太平洋地区担当のベンジャマン・イスマイール氏)と指摘した。その結果、調査報道に二の足を踏むことや、記事の一部削除や掲載・放映を見合わせる自主規制に「多くのメディアが陥っている」と報告書は断じた。「とりわけ(安倍晋三)首相に対して」自主規制が働いているとした。
日本の報道をめぐっては、「表現の自由」に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大アーバイン校教授)が調査のため来日。19日の記者会見で「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と指摘した。
海外メディアも、米ワシントン・ポスト紙が先月の「悪いニュースを抑え込む」と題した社説で、政府のメディアへの圧力に懸念を表明。英誌エコノミストも「報道番組から政権批判が消される」と題した記事で、日本のニュース番組のキャスターが相次いで交代したことを紹介した。(青田秀樹=パリ、乗京真知)
◆報道の自由度ランキング
(カッコ内は前年順位)
<上位5カ国>
1 フィンランド(1)
2 オランダ(4)
3 ノルウェー(2)
4 デンマーク(3)
5 ニュージーランド(6)
<G8国>
16 ドイツ(12)
18 カナダ(8)
38 英国(34)
41 米国(49)
45 フランス(38)
72 日本(61)
77 イタリア(73)
148 ロシア(152)
<ワースト5カ国>
176 中国(176)
177 シリア(177)
178 トルクメニスタン(178)
179 北朝鮮(179)
180 エリトリア(180)
◆◆日本の報道の独立性に「脅威」 国連報告者「政府の圧力、自己検閲生む」
2016年4月20日朝日新聞
記者会見する国連「表現の自由」特別報告者デービッド・ケイ氏(右)=東京都千代田区の外国特派員協会、北野隆一撮影
「表現の自由」に関する国連特別報告者として初めて公式に訪日したデービッド・ケイ氏(米国)が日本での調査を終え、19日に東京都内で記者会見した。「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面している」として、メディアの独立性保護や国民の知る権利促進のための対策を講じるよう政府に求めた。
ケイ氏は日本政府の招きで11日から訪日。政府職員や国会議員、報道機関関係者やNGO関係者らの話を聞き、「特定秘密保護法や、『中立性』『公平性』を求める政府の圧力がメディアの自己検閲を生み出している」と分析。「ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた」と述べた。
放送法をめぐっては「放送法のうち(政治的公平性などを定めた)第4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだ」と提言。高市早苗総務相が番組の公平性を理由に放送局の「電波停止」に言及した発言をめぐって、高市氏との面会を希望したが「国会会期中との理由で会えなかった」と明かした。
特定秘密保護法については「原発や災害対応、安全保障など国民の関心が高い問題の政府情報が規制される可能性があり、内部告発者の保護体制も弱い」と懸念を示した。
ヘイトスピーチ対策については「ヘイトスピーチの法律は悪用の恐れがある。まずは人種差別禁止法を作るべきだ」と提言。慰安婦問題など歴史問題については「戦争中の罪を教科書でどう扱うかについて政府が介入することは、国民の知る権利を脅かし、過去の問題に取り組む力を低下させる」と懸念を示した。記者クラブの排他性も指摘した。
ケイ氏は米カリフォルニア大アーバイン校教授で国際人権法などが専門。2014年、国連人権理事会から特別報告者に任命された。今回の訪日についての報告書は17年に人権理事会に提出する予定という。(編集委員・北野隆一)
◆◆新しいキャスターに望む
(赤旗日曜版16.04.10)
◆◆報道ステーション最終回古舘氏「死んでまた再生します」/あいさつ全文
古舘伊知郎キャスターが、3月31日の放送でテレビ朝日「報道ステーション」の出演を終えた。番組最後のスピーチは以下の通り。
★古舘伊知郎報ステ最終回あいさつ8m
(音声)https://m.youtube.com/watch?v=9dsJYltuXDU
または
(動画)https://m.youtube.com/watch?v=JTnYwgYTaKM
私が大変気に入っているセットも今日が最後。04年4月に産声を上げ、12年の月日があっという間にたちました。私の古巣である、学舎であるテレビ朝日に貢献できればという思いも強くあって、この大任を引き受けさせていただきました。おかげさまで風邪などひとつもひくことなく、無遅刻無欠勤で12年やらせていただくことができました。これもひとえに、テレビの前で今、ご覧になっている皆様方の支えあったればこそだなと、本当に痛感をしております。ありがとうございました。
私は毎日毎日この12年間、テレビ局に送られてくる皆様からの感想、電話、メールをまとめたものをずーっと読ませていただきました。お褒めの言葉に喜び、徹底的な罵倒に傷ついたこともありました。でも全部ひっくるめてありがたいなと今思っております。
というのも、ふとある時気づくんですね。いろんなことを言ってくるけれども、考えてみれば私もこの電波という公器を使っていろんなことをしゃべらせていただいている。絶対誰かがどこかで傷ついているんですよね。それは因果はめぐって、自分がまた傷つけられて当然だと、だんだん素直に思えるうになりました。こういうふうに言えるようになったのも、皆様方に育てていただいたんだなと、強く思います。
そして、私がこんなに元気なのになんで辞めると決意をしたのかということも簡単にお話しするとすれば、そもそも私が12年前にどんな報道番組をやりたかったのかということにつながります。実は言葉にすると簡単なんです。もっともっと普段着で、もっともっとネクタイなどせず、言葉遣いも普段着で、普通の言葉でざっくばらんなニュース番組を作りたいと、真剣に思ってきたんです。
ところが現実はそんなに甘くありませんでした。たとえば、「いわゆるこれが事実上の解散宣言とみられております」と、「いわゆる」がつく。「事実上の」をつけなくてはならない、「みられている」と言わなくてはならない。これはどうしたって必要なことなんです。放送する側としても誰かを傷つけちゃいけないと、二重三重の言葉の損害保険をかけなければいけないわけです。そういうことをガチッと固めてニュースをやらなければならない。そういう中で、正直申しますと、窮屈になってきました。
もうちょっと私は自分なりの言葉、しゃべりで皆さんを楽しませたいというようなわがままな欲求が募ってまいりました。12年やらせていただいたというささやかな自負もありましたので、テレビ朝日にお願いして「退かせてください」ということを言いました。これが真相であります。
ですから、世間の一部で、なんらかのプレッシャー、圧力が私にかかって、辞めさせられるとか、そういうことでは一切ございません。そういう意味では、私のしゃべりを支持してくれた方にとっては、私が辞めるというのは、裏切りにもつながります。本当にお許しください。申し訳ありません。私のわがままです。
ただ、このごろは、報道番組で開けっぴろげに昔よりもいろんな発言ができなくなりつつある空気は私も感じています。この番組のコメンテーターの政治学者の中島先生が教えてくれました。「空気を読む」という人間には特性がある。読むから、一方向にどうしても空気を読んで流れていってしまう。だからこそ反面で「水を差す」という言動や行為が必要だと。私、その通りだと思います。つるんつるんの無難な言葉で固めた番組などちっとも面白くありません。人間がやっているんです。人間は少なからず偏っていきます。だから、情熱をもって番組を作れば、多少は番組は偏るんです。全体的に、ほどよいバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけばいいという信念を私は持っています。
という意味では、12年間やらせていただく中で、私の中でも育ってきた報道ステーション魂を、後任の方々にぜひ受け継いでいただいて、言うべきことは言う、間違いは謝る。激しい発言というのが、後年議論のきっかけになっていい方向に向いたじゃないかと、そういうこともあるはずだと信じております。
考えてみれば、テレビの一人勝ちの時代がありました。そのよき時代に乗って、あの久米宏さんが素晴らしい「ニュースステーション」というニュースショーを、まさに時流の一番槍をかかげて突っ走りました。私はその後を受け継ぎました。テレビの地上波もだんだん厳しくなってきた。競争相手が多くなりました。そういう中でも、しんがりを務めさせていただいたかなと、ささやかな自負は持っております。
さあ、この後は通信と放送の二人羽織、どうなっていくんでしょうか。厳しい中で、富川悠太アナウンサーが4月11日から引き継ぎます。大変だと思います。しかし彼には乱世の雄になっていただきたいと思います。私はこの12年の中で彼をすごいなと思ったのは、1回たりとも仕事上のグチを聞いたことがありません。そういう人です。精神年齢は私よりもずっと高いと思っています。どうか皆さん、3カ月や半年あたりでいいだ悪いだ判断するのではなく、長い目で彼の新しい報道ステーションを見守っていただきたいと思います。本当につらくなったら私に電話してきてください。相談に乗ります。ニュースキャスターというのは、本当に孤独ですからね。
私は今こんな思いでいます。人の情けにつかまりながら、折れた情けの枝で死ぬ。「浪花節だよ人生は」の一節です。死んでまた再生します。皆さん、本当にありがとうございました。
🔴🔴No.2
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◆当ブログ=安倍首相のメディア工作とNHK乗っ取り計画❶
http://blog.livedoor.jp/kouichi31717/archives/2766489.html
◆◆(インタビュー)テレビ報道の現場「報道特集」キャスター・金平茂紀さん
NHK、TBS、テレビ朝日の看板キャスターがこの春、相次いで交代する。そんななか、高市早苗総務相による放送法違反を理由とした「停波」発言も飛び出した。テレビ局の報道現場でいま、何が起きているのか。TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀さんに話を聞いた。
――テレビの報道ニュース番組が偏向している、という声が出ています。安保法制の報道を巡り、昨年11月読売新聞と産経新聞に掲載された「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の意見広告では、TBSの番組「NEWS23」が名指しで批判されました。
「だれが偏向だと判断するんですか。お上ですか、政治家ですか。日々の報道が公正中立かどうかを彼らが判断できるとは思わないし、正解もない。歴史という時間軸も考慮しながら、社会全体で考えていくしかないでしょう。議論があまりにも粗雑過ぎます」
――偏向を指摘された番組アンカーの岸井成格さんが「NEWS23」から降板しました。
「NHKの国谷裕子さん、テレビ朝日の古舘伊知郎さんもこの春、降板します。僕も記者ですから取材しました。3人とも事情は違うし、納得の度合いも違う。一緒くたに論じるのは乱暴すぎます。安倍政権の圧力に屈したという単純な構図ではない。しかし、報道番組の顔が同時にこれほど代わるというのは単なる偶然では片づけられません」
■ ■
――本当に圧力とは関係ないのですか。
「会社は『関係ない』と説明しています。岸井さんも『圧力はなかった』と記者会見で発言しました。しかし、もし、視聴者のみなさんが納得していないとすれば、反省しなければなりません」
――金平さん自身、3月31日付で執行役員を退任されます。何かあったのでしょうか。
「会社の人事ですから、その質問をする相手は、僕ではなく、会社でしょう。事実として残るのは、TBSで最も長く記者をしてきた人間の肩書が変わったということです。いずれにせよ僕は、どのような肩書であろうが、なかろうが、くたばるまで現場で取材を続けるだけですが」
――政治、とりわけ自民党による放送番組に対する圧力は歴史的に繰り返されてきました。
「1967年7月、TBSの報道番組『ニュースコープ』のキャスターだった田英夫さん(故人)が、北ベトナムに日本のテレビとして初めて入りました。ベトナム戦争で、米国に爆撃されている側からリポートするためです」
「その取材をもとに特別番組を放送したのですが、放送行政に影響力を持つ、いわゆる『電波族』の橋本登美三郎・自民党総務会長が、当時のTBS社長に『なぜ、田君にあんな放送をさせたのか』とクレームをつけた。さまざまな経緯の末、田さんは実質的に解任され、社を去りました。田さんの報道は、当時は反米・偏向だと政権ににらまれたのかもしれません。が、ベトナム戦争がたどった経過を考えれば、事実を伝えたとして評価されこそすれ、偏向だと批判されるいわれはありません」
――当時、TBS社内は、田さん降ろしに抵抗したと聞いています。岸井さんの件でいま、社内はどうなのでしょうか。
「おおっぴらに議論するという空気がなくなってしまったと正直思いますね。痛感するのは、組織の中の過剰な同調圧力です。萎縮したり、忖度(そんたく)したり、自主規制したり、面倒なことを起こしたくないという、事なかれ主義が広がっている。若い人たちはそういう空気の変化に敏感です」
――同調圧力ですか?
「記者一人ひとりが『内面の自由』を持っているのに、記事を書く前から社論に逆らってはいけないという意識が働いている。それが広く企業ジャーナリズムの中に蔓延(まんえん)している。権力を監視する番犬『ウォッチドッグ』であることがジャーナリズムの最大の役割です。しかし現実には記者のほうから政治家や役人にクンクンすり寄り、おいしい餌、俗に言う特ダネをあさっている。こんな愛玩犬が記者の多数を占めれば、それはジャーナリズムではない。かまない犬、ほえない犬に、なぜだといっても『僕らはほえないようにしつけられてきた。かみつくと損になるでしょ。そう教えられてきた』。そんな反応が現場の記者から返ってくるわけです」
■ ■
――報道の現場は深刻ですね。
「ジャーナリズム精神の継承に失敗した責任を痛感しています。僕自身も含め、過去を学び、やり直さないといけない。安保法制、沖縄の基地問題、歴史認識や福島第一原発事故など、僕らの国のテレビは独立・自立した存在として、報じるべきことを報じているのか。自責、自戒の念がわきあがってきます」
「戦争の翼賛体制下でメディアは何をしてきたのか。放送も新聞も権力の言いなりとなり、国策と一体化した報道をやった『前歴』がある。戦後、その反省に立ち、放送局は政治権力から独立し、国家が番組内容に介入してはならぬ、という精神で放送法が生まれた。電波は国民のものであり、自主・自律・独立でやっていく。放送の原点です。ところが、政権側には、電波はお上のものであり、放送局を法律で取り締まるという逆立ちした感覚しかありません」
――高市早苗総務相が放送法の規定をもとに、放送の内容によっては「電波停止もあり得る」と発言しています。当事者であるテレビ局の報道に迫力を感じません。
「僕はニュース価値があると思って担当の番組で発言しました。ところが、発言があったこと自体に触れないテレビ局もあった。自分たちの生命線にかかわる話なのに、ニュースとして取り上げない。えっ、どうしてなんだろうと思いましたね。テレビ朝日の『報道ステーション』やTBSの『NEWS23』『サンデーモーニング』はこの発言の持つ意味も含めて報道していました」
「先日、田原総一朗さんや岸井さんらと記者会見しました。他局のキャスター仲間何人かに声をかけたのですが、参加者はあれだけというのが現実です。それでも、誰ひとり声を上げずにいて、政治権力から『やっぱり黙っている連中なんだ』なんて思われたくはないのです。こういう社外からの取材をリスクをおかしながら受けているのもそのためです」
「一昨年の総選挙の前に、自民党が選挙報道の『公平中立』を求める文書をテレビ各局に送りつける、という『事件』もありました。そのこと自体が僕の感覚ではニュースです。でも社内の会議で話題にはなってもニュースとしては扱わない。危機管理ばかりが組織で優先され、やっかいごとはやりたくないということになる。僕はそれが耐えられなかったから、担当の番組でコピーを示し、こういう文書が送りつけられたと伝えた。中には『あんなことをやりやがって』と思っている人もいるかもしれませんが」
――危機管理優先がジャーナリズムの勢いをそいでいます。
「朝日新聞がそうですね。とりあえず違う意見も載せておこうと、多様な意見を紹介するとのお題目で両論併記主義が広がっていませんか。積極的に論争を提起するのではなく、最初から先回りし、文句を言われた時のために、『バランスをとっています』と言い訳ができるようにする。防御的な発想ではないですか」
■ ■
――「NEWS23」の初代キャスターだった筑紫哲也さん(故人)とは長い間、一緒に仕事をされたそうですね。
「2008年3月、筑紫さん最後の出演で語った言葉が忘れられません。『大きな権力を持っている者に対して監視の役を果たす』『少数派であることを恐れない』『多様な意見を提示し、社会に自由の気風を保つ』。筑紫さんは、この3点を『NEWS23のDNAだ』と遺言のように語って、逝きました。それがいま、メディアに携わる人たちに共有されているのかどうか。責任を感じています」
――記者の原点を忘れ、組織の論理に流されてしまっている自分自身に気づくことがあります。
「記者の仕事は孤独な作業です。最後は個ですから。過剰に組織の論理に流れ、全体の空気を読んで個を殺していくのは、記者本来の姿ではありません。それでも一人ひとりの記者たちが、会社の壁を越え、つながっていくこともできる。声を上げるには覚悟がいるけども、それを見ている次の世代が、やがて引き継いでくれるかもしれない。萎縮せず、理不尽な物事にきちんとものを言う若い仲間たちが実際に育ってきているのをつい最近も目撃しました」
「『報道なんてこんなもの』とか、『視聴者や読者はそんなもん求めてねえよ』と、シニシズム(冷笑主義)に逃げ込んではいけません。僕らの仕事は、市民の知る権利に応えるためにあるのです。報道に対する市民の目が厳しい今だからこそ、一番の根本のところを考えてほしいと思います」
(聞き手=編集委員・豊秀一)
かねひらしげのり 53年生まれ。77年TBS入社。モスクワ、ワシントン両支局長、報道局長などをへて、執行役員。04年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。
◆◆NHKの「ニュース」は、「政府の言い分で終わらないといけない」そうだ
(外国特派員協会でのジャーナリスト5人の高市「電波停止」発言抗議記者会見から)(日刊ゲンダイ16.03.26)
(筆者=そう言われてNHKニュースを見ていたら、確かに政府発言が「結論」的なしめ方として活用されている。知らないうちの「情報操作」にいささか驚いた)
◆◆「おおさか維新」の実質オーナー=橋下をレギュラー起用するテレ朝の狂気
(日刊ゲンダイ16.03.26)
(筆者=いよいよ橋下が「得意」領域であるテレビにリバイバルした。参院選挙でおおさか維新の当選を有利にするための第一弾だ。大阪の地元のテレビ局でなく、全国ネットに登場した。問題は、視聴率トップを狙い、秋元康の助言を得ながらバラエティー路線、そして脱朝日新聞路線=政府・自民党追随路線を突っ走りつつあるテレ朝の変質ぶり。どの局よりも先駆けて橋下=安倍別動隊を起用した。報道ステーションから古舘を追放して、富川・後藤を起用して、政府批判の急先鋒がついにくじかれた。富川はワンポイントでいずれ橋下を報道ステーションに登場させる意向もあるとの情報も流されている。こんな「政党のオーナー」に電波を独占させていいのか。BPOへの訴えが必要ではないか。そんな事態になれば、テレ朝は、終わり、お陀仏だ。安倍政権とテレ朝幹部との呼吸を合わせた結託を崩すために、事態のなりゆきをしっかり見守る必要がある)。
◆◆「クローズアップ現代」の国谷さんの最後の言葉(孫崎コラムから)
(日刊ゲンダイ16.03.26)
◆◆国谷裕子キャスター、「クローズアップ現代」最終回で1分30秒のあいさつ(全文)
Huffpost16.03.18
NHKの報道番組「 クローズアップ現代」が3月17日、最終回を迎え、国谷裕子キャスター(59)が番組の最後に「番組を続けることができたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そして何より番組を見て下さった視聴者の皆様方のおかげだと感謝しております」とあいさつした。
国谷さんは番組が開始した1993年から23年間キャスターを務め、社会の様々な問題やトレンドに斬り込み続けた。
この日の番組では、「 未来への風~“痛み”を越える若者たち~」と題し、社会で声を上げる若者たちを特集。学生団体「SEALDs(シールズ)」中心メンバーの奥田愛基さんや歌人の鳥居さんらの活動を取り上げた。
国谷さんのあいさつは約1分30秒。以下に全文を紹介する。
23年間、担当してきましたこの番組も今夜が最後になりました。この間、視聴者の皆さま方から、お叱りや戒めも含め、大変多くの励ましをいただきました。
クローズアップ現代が始まった平成5年からの月日を振り返ってみますと、国内、海外の変化の底に流れるものや、静かに吹き始めている風をとらえようと、日々もがき、複雑化し見えにくくなっている現代に、少しでも迫ることができれば、との思いで番組に携わってきました。
23年が終わった今、そのことをどこまで視聴者の皆さま方に伝えることができたのか、気がかりですけれども、そうした中でも、長い間番組を続けることができましたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そして何より番組を見てくださった視聴者の皆さま方のおかげだと感謝しています。
長い間、本当にありがとうございました。
◆◆樹木希林さん「クローズアップ現代」生放送でNHKを批判!?
Huffpost16.02.09
女優の樹木希林さん(73)が2月9日、NHKの「クローズアップ現代」の生出演で発言した内容が、NHKを暗に批判しているのではないかと話題になっている。3月末で番組を 降板する国谷裕子キャスター(59)の実績について、樹木さんが生放送中に言及したことにネットから「NHKに対する当て付けではないか」との声が上がっているのだ。
この日、番組では「がん」を特集。全身にがんが転移していることを公表している樹木さんがゲストで登場した。樹木さんは、来週から治療を再開すると周囲に伝えても、「そうなんですか」と言われてしまう状況を告白。「それで、スケジュールなんですが…」と仕事の話を進められてしまうことに不満をもらした。
それでも「クローズアップ現代に出るか」と言われて、「出ます!」と快諾したことを告白。その理由を、「国谷さんに会いたいから」だと説明した。樹木さんは「私ね、国谷さんは本当に素敵な仕事ぶりだと思っているの。NHKは大変な財産をお持ちだなと思って、私はいつも大好きな番組です」と感想を述べた。
この樹木さんの発言に、Twitterには「ロックだ!」「言外のメッセージを感じた」など、多数の意見が出ている。
◆◆「高市氏言及の『停波』は違憲」 憲法学者ら、見解表明
2016年3月3日朝日新聞
見解を発表する立憲デモクラシーの会の樋口陽一・東大名誉教授(右から2番目)ら=東京都千代田区
高市早苗総務相が放送法違反を理由に放送局へ「停波」を命じる可能性に言及したことについて、憲法学者らが2日、東京都内で記者会見し、「政治的公平」などを定めた放送法4条を根拠に処分を行うことは憲法違反にあたるとする見解を発表した。
会見したのは樋口陽一・東大名誉教授(憲法)ら5人で、法学や政治学などの専門家でつくる「立憲デモクラシーの会」の会員。見解は「総務大臣に指揮命令される形で放送内容への介入が行われれば、放送事業者の表現活動が過度に萎縮しかねず、権限乱用のリスクも大きい」とし、漠然とした放送法4条の文言だけを根拠に処分することは「違憲との判断は免れがたい」と指摘している。
樋口氏は「何人も自分自身がかかわっている事柄について裁判官になってはならないという、自由民主主義社会の基本原則が肝心だ」と述べ、政治的公平を政治家が判断することの問題点を指摘した。西谷修・立教大特任教授(哲学)は、「政府を批判することは偏向であり、政治的だとされる風潮が広がるなかでの大臣の発言。言論に携わる者は深刻に考えてほしい」と語った。
(編集委員・豊秀一)
◆◆「私たちは怒っている」 高市氏の停波言及、岸井氏ら会見
2016年3月1日朝日新聞
記者会見に臨む(手前から)鳥越俊太郎、田原総一朗、岸井成格、金平茂紀、大谷昭宏、青木理の各氏=29日午後、東京都千代田区、時津剛撮影
高市早苗総務相が放送法4条違反を理由に放送局へ「停波」を命じる可能性に言及したことについて、「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)司会の田原総一朗氏や「NEWS23」(TBS系)アンカーの岸井成格(しげただ)氏らテレビで活動するジャーナリスト6人が29日、東京都内で会見を開き、「私たちは怒っている」と題する声明を発表した。
会見したのはジャーナリストの青木理氏、大谷昭宏氏、鳥越俊太郎氏、「報道特集」(TBS系)キャスターの金平茂紀氏に、田原氏、岸井氏を加えた6人。出席はしなかったが「週刊ニュース新書」(テレビ東京系)司会の田勢康弘氏も呼びかけ人に参加している。
鳥越氏は「これは政治権力とメディアの戦争。ここまで露骨にメディアをチェックし、牽制(けんせい)してきた政権はなかった。下から変えていくしかない。声をあげましょう」と呼びかけた。
田原氏は「高市氏の発言は非常に恥ずかしい。全テレビ局の全番組が抗議すべきだが、残念なことに、多くのテレビ局の多くの番組が何も言わない」と批判。さらに、「報道ステーション」(テレビ朝日系)の古舘伊知郎氏や「クローズアップ現代」(NHK)の国谷裕子氏、「NEWS23」の岸井氏らが3月で降板することにふれ、「偶然だと思うが、テレビ局が萎縮したと受け取られかねない。だから(高市氏の発言を)断固はね返さなければいけない」と語った。降板について岸井氏は「私個人は圧力に屈したとは思っていない。具体的に私に言ってくる人はだれもいなかった。交代は局の意向」と説明した。
岸井氏が昨年9月に番組で「メディアとしても(安全保障関連法案の)廃案に向けて声をあげ続けるべきだ」と発言したことについて、保守系の学者らでつくる「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」が昨年11月、「放送法に対する違反行為だ」と批判する意見広告を産経新聞と読売新聞に出した。広告への感想を聞かれた岸井氏は「低俗だし、品性どころか知性のかけらもない。恥ずかしくないのか」と答えた。
(星賀亨弘、佐藤美鈴)
◆高市氏「個々の番組が重要」
高市総務相は29日の衆院予算委員会で、電波停止について、極めて慎重な配慮が必要だとしつつ、「一つひとつの番組の集合体が番組全体なので、一つひとつを見ることも重要だ」と述べた。放送局が政治的に公平性を欠く放送を繰り返したかの判断は、個々の番組の内容が要素になるとの考えを改めて示した。
民主党の奥野総一郎氏は「なぜ高市答弁が大きく取り上げられるのか。従来は番組全体のバランスで判断するとしていたが、高市答弁では個別の番組でも停波をしうると変わったからだ」と指摘した。
◆各キャスターの抗議発言
◆「私たちは怒っている」 高市氏発言への抗議声明全文
――高市総務大臣の「電波停止」発言は憲法及び放送法の精神に反している
今年の2月8日と9日、高市早苗総務大臣が、国会の衆議院予算委員会において、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について言及した。誰が判断するのかについては、同月23日の答弁で「総務大臣が最終的に判断をするということになると存じます」と明言している。
私たちはこの一連の発言に驚き、そして怒っている。そもそも公共放送にあずかる放送局の電波は、国民のものであって、所管する省庁のものではない。所管大臣の「判断」で電波停止などという行政処分が可能であるなどいう認識は、「放送による表現の自由を確保すること」「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」をうたった放送法(第一条)の精神に著しく反するものである。さらには、放送法にうたわれている「放送による表現の自由」は、憲法21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」の条文によって支えられているものだ。
高市大臣が、処分のよりどころとする放送法第4条の規定は、多くのメディア法学者のあいだでは、放送事業者が自らを律する「倫理規定」とするのが通説である。また、放送法成立当時の経緯を少しでも研究すると、この法律が、戦争時の苦い経験を踏まえた放送番組への政府の干渉の排除、放送の自由独立の確保が強く企図されていたことがわかる。
私たちは、テレビというメディアを通じて、日々のニュースや情報を市民に伝達し、その背景や意味について解説し、自由な議論を展開することによって、国民の「知る権利」に資することをめざしてきた。テレビ放送が開始されてから今年で64年になる。これまでも政治権力とメディアのあいだでは、さまざまな葛藤や介入・干渉があったことを肌身をもって経験してきた。
現在のテレビ報道を取り巻く環境が著しく「息苦しさ」を増していないか。私たち自身もそれがなぜなのかを自らに問い続けている。「外から」の放送への介入・干渉によってもたらされた「息苦しさ」ならば跳ね返すこともできよう。だが、自主規制、忖度、萎縮が放送現場の「内部から」拡がることになっては、危機は一層深刻である。私たちが、今日ここに集い、意思表示をする理由の強い一端もそこにある。
〈呼びかけ人〉(五十音順 2月29日現在)
青木理、大谷昭宏、金平茂紀、岸井成格、田勢康弘、田原総一朗、鳥越俊太郎
◆◆(池上彰の新聞ななめ読み)高市氏の電波停止発言 権力は油断も隙もない
2016年2月26日朝日新聞
高市早苗総務相による放送局への「停波」発言を報じる朝日新聞の一連の紙面
「総務省から停波命令が出ないように気をつけないとね」
テレビの現場では、こんな自虐的な言い方をする人が出てきました。
「なんだか上から無言のプレッシャーがかかってくるんですよね」
こういう言い方をする放送局の人もいます。
高市早苗総務相の発言は、見事に効力を発揮しているようです。国が放送局に電波停止を命じることができる。まるで中国政府がやるようなことを平然と言ってのける大臣がいる。驚くべきことです。欧米の民主主義国なら、政権がひっくり返ってしまいかねない発言です。
高市発言が最初に出たのは2月8日の衆議院予算委員会。これをいち早く大きく報じたのは朝日新聞でした。9日付朝刊の1面左肩に3段と、目立つ扱いです。この日の他の新聞朝刊は取り上げなかったり、それほど大きな扱いではなかったりで、朝日の好判断でしょう。この後、各紙も次第に高市発言に注目するようになります。
朝日は1面で発言を報じた上で、4面の「焦点採録」で、具体的な答弁の内容を記載しています。読んでみましょう。
〈政治的な問題を扱う放送番組の編集にあたっては、不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく番組全体としてバランスのとれたものであることと解釈してきた。その適合性は、一つの番組ではなく放送事業者の番組全体をみて判断する〉
*
「特定の政治的見解に偏ることなく」「バランスのとれたもの」ということを判断するのは、誰か。総務相が判断するのです。総務相は政治家ですから、特定の政治的見解や信念を持っています。その人から見て「偏っている」と判断されたものは、本当に偏ったものなのか。疑義が出ます。
しかも、電波停止の根拠になるのは放送法第4条。ここには、放送事業者に対して、「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」など4項目を守ることを求めています。
ところが、その直前の第3条には、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と規定されています。つまり放送法は、権力からの干渉を排し、放送局の自由な活動を保障したものであり、第4条は、その際の努力目標を示したものに過ぎないというのが学界の定説です。
番組編集の基本方針を定めた第4条を、権力が放送局に対して命令する根拠として使う。まことに権力とは油断も隙もないものです。だからこそ、放送法が作られたのに。
*
安倍内閣としては、歴代の総務相も発言してきたことだと説明していますが、その点に関して朝日は10日付朝刊で、2007年の福田政権(自民党政権です)での増田寛也総務相の国会答弁を紹介しています。この中で増田総務相は電波停止命令について、「適用が可能だとは思う。ただ、行政処分は大変重たいので、国民生活に必要な情報の提供が行われなくなったり、表現の自由を制約したりする側面もあることから、極めて大きな社会的影響をもたらす。したがって、そうした点も慎重に判断してしかるべきだと考えている」と述べています。
権力の行使は抑制的でなければならない。現行法制の下での妥当な判断でしょう。
しかし、政権が変わると、こういう方針が守られなくなってしまうということを、今回の高市発言は示しています。
想像してみてください。今後、政権交代が行われ、反自民の政権が登場し、公正な報道をしようとしている放送局に対し、電波停止をちらつかせることになったら、どうするのか。自民党にとって、極めて憂慮すべき事態だとは思いませんか。そういうことが起きないようにするためにも、権力の行使には歯止めが必要なのです。
こうした事態は、放送局の監督権限を総務省が持っているから。この際、アメリカの連邦通信委員会(FCC)のような独立した委員会が、国民の代表として監督するような仕組みが必要かも知れません。
◆◆高市総務相の電波停止発言=自民党の強権体質表す、改憲草案でも表現活動制限
2016年2月25日(木)赤旗
放送局が政治的公平性を欠いた番組を繰り返し放送した場合、電波停止を命じる可能性を明言した高市早苗総務相への批判がやみません。世論調査では、同氏の発言について報道の自由を「脅かす」「どちらかといえば脅かす」が計67・4%に上っています(共同通信、20、21日実施)。批判に耳を傾けず高市氏は同様の発言を繰り返しています(22日)。
公共性の高い電波放送に政治的公平性が求められるのは当然ですが、放送内容に対する権力者の介入が許されるかは、全く別の問題です。担当する総務相がこうした発言を繰り返し、放送事業者やメディアに強い萎縮効果を与えること自体が、憲法で保障された表現の自由を圧迫する言動です。
重大なことは、こうした高市氏の態度は、自民党の強権的体質そのものの表れだということです。
自民党改憲草案(2012年)は、表現・結社の自由の保障をめぐり、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行ない、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と明記(草案21条2項)しました。「公の秩序を害することを目的」だと権力者が認める表現活動や結社は「認めない」という、驚くべき強権条項です。
何が「公の秩序」かを判断するのは時の政府・権力者です。政権や体制を批判すること自体が「公の秩序を害する目的」とされかねません。目的=内心の制約そのものにつながる恐れもあります。
個人の自由を保障するはずの憲法が、言論弾圧の“治安維持法”に転化するような内容です。
昨年夏の戦争法案の審議中に、安倍晋三首相に近い若手議員の会合で、戦争法案に批判的なマスコミを「懲らしめろ」とか、「沖縄の二つの新聞をつぶせ」という発言が飛び出し、世論の厳しい批判を受けました。
放送番組の内容しだいで電波停止命令に及ぶことを示した“高市発言”は、「秩序」に歯向かう言論は認めないという、自民党の体質と思想のあらわれです。 (中祖寅一)
◆◆(あすを探る 思想・歴史)小熊英二=「無難」な報道機関、必要か
2016年2月25日朝日新聞
体調が悪く、医者に診断してもらったとする。そのさい医者が、「××製薬の薬はどれもよく効きます」と言ったらどう思うか。「この医者は公正ではない」と考えるだろう。
では医者が「発疹が出てますね」「熱が39度ありますね」としか言わなかったらどう思うか。「そんなのは医者失格だ」と考えるだろう。
それでは、期待される医者の姿勢は何か。「症状を総合すると、△△病と考えられます」「症状を抑えるにはこの薬が効きます」といった提言をしてくれることだろう。
最近、総務大臣が、不公正な報道に対しては電波停止もありえると述べた。だが不公正とは何だろう。「公正」とは単なる「横並び」ではなく、社会に共有されている「正義」の観念にかなうことである。報道機関もそのために期待される役割を果たすことが「公正」だと言える。
上の医者の例えから考えてみよう。まず、「××党の政策は、すべて正しい。迷わず支持すべきだ」という報道姿勢は「公正」とはいえない。これは誰でも同意するだろう。
次に、「政府はこう述べています」「野党はこう主張しています」といった報道姿勢はどうか。確かに「無難」ではあるが、これは報道機関の役割放棄といえないだろうか。
報道関係者は医者のような専門職ではない、もっと「謙虚」であるべきだ、という意見もあろう。しかし人間は誰しも、何らかの専門職として、それぞれの役割を果たすことを期待されている。それは、医者や弁護士などに限った話ではない。
例えば八百屋は野菜を、電器屋は家電製品を扱う専門職である。もし電器屋が「××社の製品はどれもお買い得です」と言えば、それは公正ではない。しかし「この冷蔵庫は色が白で、高さは何十センチです」としか言わないなら、「ネット通販で十分だ」とみなされるだろう。
報道機関の人々は、幅広く情報を集め、それを理解しやすく提示するための専門的訓練を受けている。これが専門職でなくて何だろうか。ならば、専門職にふさわしい仕事をするべきだ。情報をただ流すだけで、専門職としての役割を果たしているといえるだろうか。
「文句がつかない」ことだけを重視するなら、政府広報と天気予報だけを流すのが、いちばん「無難」であるだろう。ふた昔前の、広範に情報を届ける機関がなかった時代なら、それでも一定の役割を果たしているといえたかもしれない。しかしネットが発達した現在、そんな報道機関は、誰も必要としていない。
現代の報道機関は、情報を広範囲に届けるだけでは十分ではない。情報を総合し、何が起きているかを診断し、放置すれば悪化することを警告するのは、社会に必要な役割であり、報道の「公正」なあり方である。いわゆる「権力の監視」という役割も、ここに含まれる。
あるいは、各分野の専門職と協力して、状況を改善するための対策を提示するのも、「公正」な報道のあり方だ。もちろん特定の政治勢力を、何の根拠もなく支持する報道は、「公正」の範囲を逸脱するだろう。しかし、社会が必要とする対策を実現しようとしている政治的動向を重視した報道をするのは、「公正」の範囲に含まれると思う。
医者にも誤診があるように、報道機関も間違うことはある。しかし現代の視聴者や読者は、特定の報道機関の言うことを何でも信じるほど愚かではない。疑問を感じれば、医者の場合と同じく、セカンドオピニオンを求めて他の機関の報道に接するだろう。それを判断するのは国民であって、政府ではない。そうした意味で、報道の多様性を保障することは、何よりも重要である。狭量な姿勢は国家百年の計を誤りかねない。
日本の将来は多難である。医者や八百屋や電器屋と同様に、報道に携わる人々も、自信と自覚を持ち萎縮せず職務にあたることを期待する。
(おぐま・えいじ 62年生まれ。慶応大学教授・歴史社会学。『生きて帰ってきた男』『平成史』など)
◆◆橋下氏テレビ復帰、テレ朝系で羽鳥アナと
2016年2月16日朝日新聞
橋下徹氏(右)と羽鳥慎一アナ
昨年12月に政界を引退した橋下徹前大阪市長(46)とフリーアナウンサー羽鳥慎一(44)が、4月からテレビ朝日系新バラエティー番組「橋下×羽鳥の新番組!(仮)」(月曜午後11時15分、一部地域をのぞく)に出演することが15日、分かった。
橋下氏は8年ぶりのバラエティー復帰。新番組の内容を3時間特番「橋下×羽鳥の新番組始めます!(仮)」(3月23日午後7時)で決める異色の試みとなる。
橋下氏は03年3月から、弁護士軍団の一員として出演した日本テレビ系「行列のできる法律相談所」で全国的に知名度を上げ、タレント、弁護士としてフジテレビ系「笑っていいとも!」テレビ朝日系「スーパーモーニング」など多数のレギュラー番組を抱えていた。03年10月にはレギュラー出演していたTBS系「サンデージャポン」生放送中に降板宣言し話題に(後に一時番組復帰)。
07年12月に大阪府知事選への出馬を表明、レギュラー番組は降板。08年2月に大阪府知事に就任。政界進出後のバラエティー出演はない。政界引退後は弁護士業や講演会、ネットでの会員制政治経済ゼミ、「おおさか維新の会」法律政策顧問など多方面に活動。
◆◆NHK「クロ現」国谷キャスター降板と後任決定の一部始終
川本裕司 | 朝日新聞記者、WEBRONZA筆者
2016年2月13日
23年間にわたりNHKの看板報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを務めてきた国谷裕子さんが3月17日を最後に降板する。続投を強く希望した番組担当者の意向が認められず上層部が降板を決断した背景には、クロ現をコントロールしたいNHK経営層の固い意思がうかがえる。
クロ現は4月から「クローズアップ現代+」と番組名を一部変え、放送時刻も午後10時からと深くなる。後任のキャスターにはNHKの女性アナウンサー7人が就くと、2月2日に発表された。ただ、7人の顔ぶれが決まるまで、「ニュースウオッチ9」の大越健介・前キャスターが浮上したり、最終局面で有働由美子アナの名前が籾井勝人会長の意向を反映する形で消えるなど曲折があったという。
複数のNHK関係者によると、黄木紀之編成局長がクロ現を担当する大型企画開発センターの角英夫センター長、2人のクロ現編集責任者と昨年12月20日すぎに会った際、国谷さんの3月降板を通告した。「時間帯を変え内容も一新してもらいたいので、キャスターを変えたい」という説明だった。
センター側は「国谷さんは欠かせない。放送時間が変われば視聴者を失う恐れがあり、女性や知識層の支持が厚い国谷さんを維持したまま、番組枠を移動させるべきだ」と反論した。しかし、黄木編成局長は押し切った。過去に議論されたことがなかった国谷さんの交代が、あっけなく決まった。
国谷さんには角センター長から12月26日、「キャスター継続の提案がみとめられず、3月までの1年契約を更新できなくなった」と伝えられた。
国谷さんの降板にNHKが動きを見せたのは、昨年10月下旬にあった複数の役員らが参加した放送総局幹部による2016年度編成の会議だった。
編成局の原案では、月~木曜の午後7時30分からのクロ現を、午後10時からに移すとともに週4回を週3回に縮小することになっていた。しかし、記者が出演する貴重な機会でもあるクロ現の回数減に報道局が抵抗し、週4回を維持したまま放送時間を遅らせることが固まった。
報道番組キャスターや娯楽番組司会者については、放送総局長の板野裕爾専務理事が委員長、黄木編成局長が座長をそれぞれつとめ部局長が委員となっているキャスター委員会が決めることになっている。番組担当者からの希望は11月下旬に示され、クロ現の場合は「国谷キャスター続投」だった。現場の意向を知ったうえでの降板決定は、NHK上層部の決断であることを物語っている。
現場に対しても「番組の一新」という抽象的な説明しかなかった降板の理由について、あるNHK関係者は「経営陣は番組をグリップし、クロ現をコントロールしやしくするため、番組の顔である国谷さんを交代させたのだろう」と指摘する。
その伏線となったのは、2014年7月3日、集団的自衛権の行使容認をテーマにしたクロ現に菅義偉官房長官に出演したときの出来事だった。菅長官の発言に対し「しかし」と食い下がったり、番組最後の菅長官の言葉が尻切れトンボに終わったりしたためか、菅長官周辺が「なぜ、あんな聞き方をするんだ」とNHK側に文句を言った、といわれる一件だ。
この件について、籾井勝人会長は7月15日の定例記者会見で、菅長官を出迎えたことは認めたが、「官邸からクレームがついた」という週刊誌報道については「何もございませんでした」と否定した。
国谷さん降板を聞いたNHK幹部は「官邸を慮(おもんぱか)った決定なのは間違いない」と語った。
クロ現のある関係者は「降板決定の背景にあるのは、基本的には忖度だ。言いたいことは山ほどある」と憤りを隠そうとしない。
国谷さん降板に利用されたのが、クロ現で2014年5月に放送された「追跡“出家詐欺”」のやらせ疑惑だった。15年11月6日に意見書を公表した放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会がフジテレビ「ほこ×たて」以来2件目という「重大な倫理違反」を認定した。
同じ内容の番組が、クロ現で放送される1カ月前に関西ローカルの「かんさい熱視線」で取り上げられていた。ところが、NHKの委員会名称は「『クローズアップ現代』報道に関する調査委員会」と、「かんさい熱視線」は対象としないかのように決められていた。
全聾の作曲家ではなかったことが発覚した問題で、NHKが14年3月に発表したのは「佐村河内氏関連番組・調査報告書」だった。最初に取り上げた番組は12年11月の「情報LIVE ただイマ!」、最も反響が大きかったのは13年3月の「NHKスペシャル」だった。また、93年にNHKが唯一やらせを認めたNHKスペシャル「奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン」では「『ムスタン取材』緊急調査委員会」となっていた。こうした例にならうなら、「クローズアップ現代問題」ではなく「出家詐欺問題」になるのが妥当といえた。
調査委員会の名称について、11月18日の定例会見で板野裕爾放送総局長は「とくに意図があるわけではない」と述べたが、クロ現を標的にした狙いを感じた向きがあったのは確かだ。あるNHK関係者は「委員会の名前については上層部の指示があった、と聞いている」と話す。
テレビ離れのなか、NHKも視聴率ダウンに直面している。4月からの新年度編成では視聴率の向上が大きな狙いだ。
その対策として考案されたのが、高齢者を中心に一定の視聴率をあげる19時からの「ニュース7」が終わる19時30分からの番組として、クロ現に代わり娯楽番組を並べ視聴者を逃さない作戦に出る。新年度の放送番組時刻表によると、月曜以降、「鶴瓶の家族に乾杯」、「うたコン」(新番組)、「ガッテン!」(同)、「ファミリーヒストリー」といった番組を20時台、22時台から前倒しした。高視聴率を誇る朝の連続テレビ小説の直後に放送される「あさイチ」も視聴率が好調といった手法をまねた、といわれている。
関係者によると、国谷さんの後任選びは難航。降板が決まった直後は、政治部出身の解説委員や大越前キャスターが浮上したが、「ニュースウオッチ9」のメーンキャスターが男性であることから、「男性キャスターが続くのは」と立ち消えに。
1月28日のキャスター委員会で女性アナ8人にいったんは決まった。ところが、発表前日の2月1日、報告を受けた籾井会長は8人に入っていた有働アナの起用に難色を示したという。最終的に久保田祐佳、小郷知子、松村正代、伊東敏恵、鎌倉千秋、井上あさひ、杉浦友紀の7人になった。
4日の定例記者会見で、「『クローズアップ現代+』のキャスターから有働アナを外すよう指示したのか」の質問に、籾井会長は「現場が決めたこと」と否定。重ねて「会長として意見や示唆は言わなかったのか」と問われると、「週4日で7人いれば十分と思う。(『あさイチ』に出演する)有働アナは夜もやると大変」と述べた。
番組タイトルは一部変更だが、現行の「クロ現」とは番組の構成や内容が大きく異なりそうだ。
参考記事:WEBRONZAクローズアップ現代・国谷さんの降板理由
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◆◆安倍首相のメディア工作とNHK乗っ取り計画の動向
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◆◆いちからわかる! 放送法
高市早苗総務相による放送局への「停波」発言をきっかけに、放送法をめぐる議論が国会で活発になっている。ラジオが戦争に協力した戦前の反省に立ち、国や政治の番組内容への干渉を防ぐため、「表現の自由」を守る砦(とりで)として放送法は生まれた。その歴史的経緯を見つめ直すことが求められている。(星賀亨弘、編集委員・豊秀一)
◆法律の理念 政治的公平「処分できない」通説
放送法4条は番組の編集について四つの基本方針を定めている。「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」などだ。高市総務相の国会答弁をきっかけに議論となった放送法だが、この四つの基本方針をどう位置づけるのか、という根本的な考え方の違いがこの問題の本質だ。
総務相は、放送法に違反したテレビ局に、電波の停止や放送免許の取り消しを命じることができる。しかし、四つの基本方針については、たとえ違反したとしても、そうした行政処分ができる「法規範」とは考えないのが、憲法やメディア法の専門家の通説だ。外から強制されるのではなく、あくまで放送局自身が努力目標としてめざす「倫理規範」という位置づけだ。
なぜなら、番組内容によって国が放送局を処分してしまうと、「表現の自由」を保障した憲法21条違反になる疑いが強いからだ。放送法もその目的を掲げた1条で、「放送による表現の自由を確保すること」をうたっている。
四つの基本方針の「政治的公平」は抽象的で判断するのが難しい。だから、一つの番組ではなく、一定期間の番組全体で判断すべきだと考えられている。意見の分かれる主張すべてを、機械的に同じ時間だけ採り上げなければならないという意味ではない。
これまで、放送内容を理由に国が放送局を処分したことはない。放送法の解釈・運用については、政府も放送局の自主性を尊重する見解をとってきたからだ。
抑制的な政府の見解を変えたのが、1993年の「椿(つばき)発言」問題だった。テレビ朝日の報道局長が非自民政権が生まれる報道をするよう指示したと報じられ、放送免許の不交付が一時検討された。当時の江川晃正郵政省放送行政局長は衆院逓信委員会などで「(政治的公正は)最終的に郵政省において判断する」「違反があった場合は、電波を止めるなどの措置がとれる」と答えた。これを機に、放送法に基づく番組内容への行政指導が増えていった。
◆制定の背景 「表現の自由」確保
法律を理解するには、制定されたときの議論の過程や時代背景、法律の精神を知ることが重要だ。
放送法が成立したのは、日本が占領下にあった1950年。戦前、政府に管理されたラジオが戦争に協力した歴史を踏まえ、連合国軍総司令部(GHQ)は、放送を新憲法に沿った民主化したものに変えるための法律づくりを指示した。
47年にGHQから「示唆」されたファイスナー・メモでは「放送の自由」「不偏不党」などを提示。政府から独立した放送監督機関の設立を求めた。
だが、48年に芦田均内閣で国会に提出された放送法案は、「厳格に真実を守る」「事実に基づき、かつ、完全に編集者の意見を含まない」など、占領時の報道規制である「プレスコード」と同じ内容を盛り込んでいた。GHQ法務局は「憲法21条に規定されている『表現の自由の保障』と全く相いれない」として、修正勧告を行った。
その結果、吉田茂内閣が49年に提出した法案では、プレスコード部分は削除された。一方で、「公安を害さない」「政治的公平」などという現在の放送法4条とほぼ同様の規定が加えられた。
この法案提出時の衆院電気通信委員会で、網島毅電波監理長官は「第1条に、放送による表現の自由を根本原則として掲げ、政府は放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と説明した。
◆政治の介入 03年以降、行政指導が急増
戦後、放送番組内容への政治の介入は、様々な形で表面化してきた。
日米安保改正やベトナム戦争をめぐる報道などが活発化した60年代から70年代にかけて、ドキュメンタリー番組や社会派のテレビドラマの放送中止が相次いだ。
米国が支援する南ベトナムではなく、北ベトナムに日本のテレビ局として初めて現地入りし、TBS「ニュースコープ」で報じた田英夫さん(故人)が68年3月、キャスターを退いた。
田さんは著書で当時の報道局長から聞いた話として、「ハノイ―田英夫の証言」が放送された直後の67年11月、当時のTBS社長らが自民党関係者と懇談した際、「なぜTBSは田英夫をハノイへ派遣して、あんな放送をするのか」などと横やりを入れられたエピソードを紹介している。
こうした水面下での番組への介入が行われる一方で、旧郵政省による行政指導はない時代だった。
総務省によると、85年以降の番組内容に対する行政指導は計36件で、事実に基づかない放送への厳重注意などが内容だ。総務省が発足した2001年以降が25件で、03年以降に急増した。民主党政権下では行政指導はなかった。
昨年4月、番組内容をめぐり自民党情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の幹部を事情聴取した。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、「自民党には法律に定める権限はない」とし、「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのもの」と批判した。
◆海外 独立の規制機関
海外では、放送に対する政治的な圧力を回避するため、政府から独立した規制機関が置かれている。
例えば、米国の連邦通信委員会(FCC)は、どの省にも属さずに連邦議会に対して直接責任を負う。委員長1人と委員4人で構成され、審議は合議制で行う。職員数は約1725人。「公正原則」を採用してきたが、放送事業者の表現活動に萎縮効果を与えているという批判が出るようになり、87年に廃止された。
連邦制のドイツでは、ナチスによる放送の政治利用の反省から、州ごとに公共放送設置法と民間放送のための法律があり、さらに全州に共通するテレビ放送についての州際協定(放送州際協定)がある。公共放送については、社会の各層の代表でつくる合議機関を内部に作り、その監督下に置く仕組みを採用している。民間放送は、原則として州ごとに作られた州政府から独立した州メディア委員会が監督を行う。
これに対して、日本では独立した規制機関がなく、放送局は総務大臣の監督下にある。
03年7月、放送に対する苦情や放送倫理上の問題を取り扱うため、NHKと民放が共同で第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)を設置。放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会の3委員会が置かれ、委員は放送事業者以外の有識者で構成される。勧告が出れば、放送事業者は順守しなければならない。
◆◆赤旗連載・「放送の自由」とは何か(全4回)
(赤旗16.02.16〜21)
◆◆波動=キャスター降板と高市発言
(赤旗16.02.21)
◆◆須藤春夫=高市・電波停止発言発言、表現の自由に反する、政権による放送弾圧
(赤旗16.02.16)
◆◆「番組一つ一つ見て全体判断」 首相、停波発言の容認強調
2016年2月16日朝日新聞
安倍晋三首相は15日の衆院予算委員会で、政治的公平をめぐる放送局の電波停止に言及した高市早苗総務相の答弁と政府統一見解について「番組全体は一つ一つの番組の集合体で、番組全体を見て判断する際、一つ一つの番組を見て判断するのは当然」と述べ、自らも同じ考えだと強調した。
民主党の山尾志桜里氏が「一つの番組でも判断できるという強権的な拡大解釈をした政権はない。なぜ解釈を変えたのか」と追及したのに答えた。過去の政権は政治的公平について、「放送局の番組全体を見て判断する」との解釈を示していた。
首相は山尾氏に対し「総務大臣の見解は『番組全体を見て判断する』というこれまでの解釈を補充的に説明し、より明確にした」とも答弁し、解釈を変えてはいないと主張。高市氏自身も「従来と何ら変わりはない。一つ一つを見なければ全体の判断もできない」と改めて答弁した。
首相は2014年の衆院選前にTBSの「NEWS23」に出演中、街頭インタビューを批判したことをただされ、「『この編集の仕方はどうなんですか』ということは、当然言う。(TBS側が)反論すれば済む話」と改めて強調。「テレビ局に対してモノを言うというのは結構大変なことだ」とも述べて、過去にもTBSの番組に出演中、「拉致問題について大きな大会をやっても、おたくの番組は全然取り上げませんでしたね」と自ら発言したことを紹介した。「私はそれを言ったがために、(TBS番組で旧日本軍の)731部隊の石井(四郎)中将と顔をリンクされ、イメージ操作されたこともあった」と述べた。
醍醐聰・東京大名誉教授らが共同代表を務める市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は15日、高市総務相が放送法4条に違反する放送を繰り返した放送局に電波停止を命じる可能性に言及したことについて、発言の撤回と辞職を求める申入書を送付した。
◆◆海外メディア東京特派員らが語る 日本「報道の自由」の危機
毎日新聞16.02.12
春の番組改編を機に、NHKと民放2局の報道番組で、安倍晋三政権に厳しいコメントをしていた看板キャスターらが、降板したり、レギュラーから外れたりする。テレビ局側は政治的圧力による降板説を否定するが、海外のメディアや言論団体は「民主主義への挑戦」と警鐘を鳴らす。「そもそも自主規制が問題」とお叱りを受けるのは覚悟のうえで、海外メディアの東京特派員らを訪ねた。「日本の報道の自由、どこがどう問題ですか?」【堀山明子】
◆政府の口出し自体が大問題
「安倍政権を批判したキャスターがそろって去るのは偶然とは思えないね。背景に何があったのか、団結して3人で会見したらどうか」
こう話すのは、英経済誌「エコノミスト」記者のデビッド・マクニールさん(50)。3人とは、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスター、テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎メインキャスター、TBS「NEWS23」の岸井成格アンカーのことだ。背景とは?
「利用価値のあるメディアの取材には応じ、批判的なところには圧力をかける『アメとムチ戦略』。そうやってリベラル勢力の排除を徹底しているのが安倍政権だと思います」
「アメとムチ」の対象には海外メディアも含まれる。安倍首相は、例えば米紙では、保守系のワシントン・ポストやウォール・ストリート・ジャーナルの単独会見には応じたが、慰安婦問題で安倍首相の歴史観を批判するニューヨーク・タイムズとは会見したことがない。
「エコノミスト」は2014年11月、安倍首相に単独インタビューをした。アベノミクスを評価する特集は何度か組んだが、慰安婦問題や憲法改正問題では厳しい見方を報じている。
マクニールさんは3氏の交代劇に関する記事を書き上げたばかり。安倍政権のアメとムチ戦略の問題点とともに「政治家と戦わない日本メディア」にも疑問を投げかける内容だ。「アメとムチで海外メディアを縛るのは簡単じゃない。宣伝ばかりの記事は説得力がないから。でも、国内メディアには、『戦略』は効いているようだね」
「フランスだったら、与党が公然と放送局幹部を呼び出しただけで問題化するね」と言うのは仏紙「ルモンド」のフィリップ・メスメール東京特派員(43)だ。自民党情報通信戦略調査会が昨年4月にNHKとテレビ朝日の幹部を呼び、番組について事情聴取したことに「なぜ他のテレビ局や新聞、雑誌がもっと抗議しなかったのか不思議でならない」と疑問を投げかける。
「報道ステーション」のコメンテーターだった元経済産業官僚の古賀茂明氏が安倍政権からのバッシングを訴え降板した直後の昨年4月、「日本メディアは政治的圧力に直面している」という見出しの記事を配信した英紙「ガーディアン」東京特派員のジャスティン・マッカリーさん(46)も政権の高圧的な姿勢を懸念する。高市早苗総務相が、政治的な公平性を欠くと判断した放送局に電波停止を命じる可能性に触れた発言にも「なぜ今発言したか、文脈を考えると、単なる法解釈の説明とは言えない」とみる。「イギリスでも選挙報道で放送局は不偏不党を義務づけられているが、政治的な公平性は定義があいまいで、不偏不党とは違う。もしイギリスで同じ発言が出たら野党は相当批判するだろう」と語った。
メスメールさんらが重視するのは「圧力があったか」を巡る安倍政権とテレビ局の認識ではなく、政府・与党が介入した事実そのもの。報道内容に口だしすること自体が大問題なのだ。
◆安倍政権で低落、世界61位に
日本の「報道の自由」は外国人記者から見ると、どんな水準なのか。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が02年から発表を続ける「世界報道自由度ランキング」を見てみよう。
日本は小泉政権時代に26〜44位で上下した後、政権末期の06年に51位にダウン。民主党政権時代の10年に11位と西欧諸国並みの水準まで上がったのに、13年に53位と急降下した。
昨年3月の発表では61位まで落ち込み、先進国では最下位だ。ちなみに韓国は60位。産経新聞ソウル支局長が朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を傷つけるコラムを書いたとして14年10月に在宅起訴された後、昨年12月に無罪判決が出たのは記憶に新しいが、その韓国より海外から見ればランクが低いのだ。
13年に急落したのは、民主党政権時代も含め、福島第1原発事故に絡む情報統制と秘密保護に関する法制定の動きが理由だ。民主党時代にランクが上がったのは、フリーランスや外国人を制限していると国際的に批判される記者クラブの運用で、改善があったことが影響したと見られる。
マクニールさんは民主党政権誕生後の09年9月、岡田克也外相の会見に出た時の驚きを今も覚えている。会見時間を延長して外国人記者やネットメディアの質問に答えたのだ。「2カ月前の麻生太郎首相の最後の会見で、外国人記者は挙手しても指名されなかったからね。時代が変わったと感じた」と振り返る。
しかし、12年の第2次安倍政権で状況は逆戻り。昨年9月、首相が自民党総裁に再選された直後の会見で「新三本の矢」なる構想が発表された時、質問は自民党記者クラブの所属記者だけに限られた。「新三本の矢のゴールは、どうみても非現実的。外国人記者が質問できたら、ゴールが間違ってませんかと聞いたのに」とメスメールさん。「外国人記者外しは、逆に言えば、日本人記者の質問は怖くないと政権・与党になめられているということ。それに対して、なぜもっと怒らないのですか」
昨年11月、外国人記者が驚く“事件”が起きた。国連で「表現の自由」を担当するデビッド・ケイ特別報告者が昨年12月1〜8日に訪日調査する日程が決まっていたにもかかわらず、日本政府は2週間前になって予算編成期であることを理由に延期した一件だ。
ケイ氏はブログで、国連自由権規約委員会が日本の特定秘密保護法制定に懸念を表明した経緯を指摘し、その評価を行う「重要な機会だった」と戸惑いを示した。その後、4月12〜19日に訪日することで再調整されたが、海外には、日本は逃げ腰の対応をしたという印象を与えた。マクニールさんは「批判を恐れたのかもしれないが、説明責任を果たさなければ、日本の信用はもっと落ちるのに」と首をかしげた。
◆事実掘り起こす調査報道を
東京・有楽町駅前の日本外国特派員協会。老舗ホテルのバーのような趣のある入り口の壁には、記者会見をした主な首相や閣僚、外国要人の写真が並ぶ。1974年10月、金脈疑惑が文芸春秋で報じられた直後に会見に臨んだ田中角栄首相が疑惑を追及され渋い顔をした写真が、一番上の列に誇らしげに飾られていた。
01年に講演した小泉純一郎首相の写真はあるが、安倍首相のはない。第2次安倍政権以降の閣僚では10人が会見したが、14年9月に相次いで会見した山谷えり子国家公安委員長、松島みどり法相が最後。両氏がヘイトスピーチを先導する「在日特権を許さない市民の会」との関係や認識をただす質問攻めに遭い、以後は閣僚会見が途絶えたのだ。
昨年5月の憲法記念日、協会は「報道の自由推進賞」を創設し、最優秀出版賞の第1号に原発政策などで安倍政権を批判した東京新聞を選んだ。番組を降板させられた古賀氏にも「報道の自由の友」という称号を与え敬意を表した。
審査委員の選定に関わった米紙「ロサンゼルス・タイムズ」記者のジェイク・エーデルスタインさん(46)は「日本のマスコミが安倍政権に屈服しつつある状況で、調査報道と知る権利を大事にしているメディアや個人を励ます」と狙いを語り、「賞によって、日本の勇気ある記者の記事に海外メディアが目を配るようになる」と効果を期待する。外国人記者は安倍政権批判を強め、戦う日本人記者と連帯している。なぜ日本メディアは抗議の声が弱いのか。
昨年7月までNYタイムズ東京支局長だったマーティン・ファクラーさん(49)は「サラリーマン記者が多い日本メディアは横のつながり、共通の倫理観が弱い」と分析する。また、番記者制度のように担当政治家にベッタリ接近する取材手法も問題だと指摘する。「権力に近づく取材手法は米国では、批判的にアクセスジャーナリズムと言われます。与野党が競っていた時は、野党政治家にもアクセスしてバランスある紙面ができたかもしれませんが、安倍首相1強時代になって機能しなくなった。こういう時は調査報道を通じて、事実を掘り起こす取材手法に力を入れるべきです」とジャーナリズムの構造変革を訴える。
強い政府の時こそ、権力に対するメディアの監視機能が試される。特派員らは日本メディアをそう叱咤激励しているように感じた。
◆◆(読者の声)電波停止に言及、報道への圧力
2016年2月11日朝日新聞
会社員 二宮力(愛知県 54)
高市早苗総務相が、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じることがあり得るという考えを示した。政治的公平性を求める放送法を理由に、電波法に基づいて、そうした措置が可能だという主張だ。
夏の参院選に向け、与野党の論戦が活発化している。放送局が政権与党を厳しく批判しなければいけない場合は当然出てくるが、その場合、電波停止される恐れはないのだろうか。
放送の公平性を判断するのが政治家であれば、その判断自体が公平かどうか問われるべきだ。政権側が、公平性を欠く番組だという理由で電波停止をしてもよいというのなら、表現の自由を保障した憲法に違反する恐れがあるのではないか。
放送法にうたわれた政治的な公平性とは、権力の意向に沿った報道をしない、ということではないかと私は思う。
少なくとも、政権中枢にいる人間が「公平性」を盾に電波停止まで口にすることは、報道への圧力以外の何ものでもないと思う。このような発言が、放送メディアの自由を損ない、自由闊達(かったつ)にものを言える社会を変質させないか、と危惧する。
◆◆「番組見て全体を判断」 電波停止発言、公平性で統一見解
2016年2月13日朝日新聞
政治的な公平性をめぐる放送局の電波停止に言及した高市早苗総務相の答弁をめぐり、総務省は12日、放送法4条が定める「政治的公平」の解釈や判断基準について政府統一見解を出した。一つの番組だけでも同条に抵触する場合があるとした高市氏の答弁を踏襲し、「一つ一つの番組を見て、全体を判断する」とした。
◆野党反発「検閲につながる」
統一見解は民主党が衆院予算委員会で要求し、12日の同委理事懇談会で公表。政治的公平の判断について、「放送事業者の『番組全体を見て判断する』としてきた解釈は何ら変更はない」と明記した。
「番組全体」は「一つ一つの番組の集合体」とも指摘。「編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱している」など極端な場合は、「政治的に公平であると認められない」とした。こうした解釈や判断基準は、「これまでの解釈を補充的に説明し、より明確にしたもの」と説明している。
高市氏は12日の記者会見で電波停止について、「極めて限定的な状況で行うことにしていて、慎重な配慮の下、運用すべきであると考えている」と述べた。石破茂地方創生相が高市氏の答弁に関連し、「気に入らないから統制するとかそういうことをやると、民主主義とメディアの関係がおかしくなる」と指摘したことについては、「大変心外だ」と反論。「私は気に入らないから統制すると申し上げたことは一度もないし、そういったことはあってはならない」と述べた。
高市氏の一連の発言に対し、公明の井上義久幹事長は12日の記者会見で「法律の建前を繰り返し、担当大臣が発言するのは、別の効果をもたらす可能性もある。慎重であるべきではないか」と批判。統一見解について民主の山井和則・予算委理事は「国民の知る権利を妨げる検閲にもつながりかねない、深刻な政府統一見解が出てきた」として、週明けの審議で追及する考えを示した。
(相原亮)
◆◆「万一の備え」電波停止また言及 高市総務相、ホームページで
2016年2月12日朝日新聞
高市早苗総務相は11日、ホームページやフェイスブックに掲載したコラムで、電波法に基づいて放送局に電波停止を命じる可能性について「万が一、不幸にも『極端なケース』が生じてしまった場合のリスクに対する法的な備えは、必要だ」と主張した。政治的に公平性を欠く放送を繰り返したなどと判断した場合は、放送法4条違反を理由に電波停止が正当化されるとの立場を改めて示したものだ。
高市氏はコラムで放送法第4条に抵触する具体例として、「テロリスト集団が発信する思想に賛同してしまって、テロへの参加を呼び掛ける番組を流し続けた場合には、放送法第4条の『公安及び善良な風俗を害しないこと』に抵触する可能性がある」を挙げた。
また、「(放送の)免許人等が地方選挙の候補者になろうと考えて、選挙に近接した期間や選挙期間中に自分の宣伝番組のみを流し続けた場合には、放送法第4条の『政治的に公平であること』に抵触する可能性がある」とも主張した。
そのうえで、電波停止を規定する電波法第76条について、「総務省が数次に渡って改善を要請しても、相手が応じない場合には、視聴者の利益や公益を守る為に、これらの行為を阻止できる唯一の手段」とコラムに書き込んでいる。
◆◆安倍首相、高市氏の答弁追認 「安倍政権こそ言論の自由大切にしている」
2016年2月11日朝日新聞
安倍晋三首相は10日の衆院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合に電波停止を命じる可能性に触れた高市早苗総務相について「法令について従来通りの一般論を答えた」と述べ、答弁を追認した。
首相は高市氏への批判にも反論し、「何か政府や我が党が、高圧的に言論を弾圧しようとしているイメージを印象づけようとしているが全くの間違いだ。安倍政権こそ、与党こそ言論の自由を大切にしている」と主張。安全保障法制をめぐる批判を念頭に、「恣意(しい)的に気にくわない番組に適用するというイメージを広げるのは、『徴兵制が始まる』とか『戦争法案』と同じ手法だ」と述べた。
これに先立ち、民主党の大串博志氏は「安倍政権になって番組に口を挟もうとする態度が非常に多い」として、首相が2014年11月の衆院選前にTBSの「ニュース23」に出演中、街頭インタビューを「全然、声反映されていません。おかしいじゃないですか」と批判したことも取り上げた。
首相は「首相の立場を使ってニュース23に圧力をかけたのではない。出演者として司会者と議論した」と答弁。その上で「選挙が近い中で、恣意的な攻撃を排除しなければいけない。私の意見、編集の仕方はどうですかということを一言も言ってはいけないというほうがおかしい。その場で反論すればいい」と述べた。
◆◆放送の自由と自律、停波発言に揺れる 高市総務相、与党内にも慎重対応求める声
高市早苗総務相が、放送局が政治的な公平性を欠くと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に触れたことが、波紋を呼んでいる。メディアの報じ方に神経をとがらせてきた安倍政権だが、今回は与党からも慎重な対応を求める意見が上がった。憲法に保障された表現の自由は守られるのか。
9日の衆院予算委員会。民主の玉木雄一郎氏が「憲法9条改正に反対する内容を相当時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性があるのか」と問いただした。
高市氏は「1回の番組では、まずありえない」としつつ、「私が総務相の時に電波停止はないだろうが、将来にわたってまで、法律に規定されている罰則規定を一切適用しないということまでは担保できない」と述べ、重ねて電波停止を命じる可能性に言及した。
◆「歴代の総務相も」
放送法や電波法には、総務相が電波停止を命じることができる規定があり、総務相経験者の菅義偉官房長官は「当たり前のことを答弁したに過ぎない」と擁護する。高市氏は答弁や記者会見で歴代総務相らの名を挙げ、答弁で電波停止に言及しているとも強調した。
しかし、福田政権時の2007年、増田寛也総務相は答弁で電波停止に政府は慎重な対応が必要だと強調。大臣の権限をあえて前面に出した高市氏の答弁とは趣がまったく違う。
しかも、高市氏が電波停止につながる行政指導の根拠としている放送法4条の解釈自体に問題がある。
放送法は1条で法律の目的として「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」をうたう。4条では「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」など番組が守るべき規則を定めている。
安倍晋三首相は高市氏と同様、4条を「単なる倫理規定ではなく法規であり、法規に違反しているのだから、担当官庁が法にのっとって対応するのは当然」との立場を示している。
しかし、放送による表現の自由は憲法21条によっても保障されており、憲法やメディア法の専門家の間では、放送法4条は放送局自身が努力目標として目指すべき「倫理規範」とするのが通説だ。4条を放送内容に干渉できる根拠とし、放送事業者に不利益を課すことについては、憲法21条に抵触する疑いがあると指摘されている。
公権力による放送内容そのものへの介入で、「政治的公平」という漠然とした規定によって規制するのは、放送事業者の番組編集権を必要以上に制約して、萎縮させる可能性が強いと考えられるためだ。
◆神経とがらす政権
安倍政権、自民党は、これまでもメディアの報道内容に神経をとがらせてきた。
14年衆院選では、安倍首相がTBSの番組出演中に内容を批判。自民党は各放送局に選挙報道の「公平中立」を求める文書を送った。昨年4月には、自民党の調査会が放送内容をめぐり、テレビ朝日とNHKの幹部を呼んで事情を聴取した。高市氏の発言はこれに続くもので、今回は与党からもたしなめる声が出ている。
石破茂地方創生相は9日の会見で「気に入らないから統制するとかそういうことをやると、民主主義とメディアの関係がおかしくなる」と指摘。公明の山口那津男代表も会見で「政府が内容についてコントロールするのは慎重であるべきだ」と語った。
(相原亮、笹川翔平)
◆米英は独立機関所管
テレビ・ラジオ放送の事業者や番組、NHKなどについて定めた放送法、そして電波利用について定めた電波法は占領下の1950年に成立した。あわせて成立した電波監理委員会設置法とともに「電波三法」と呼ばれた。
政府から独立した機関として放送行政を担った電波監理委員会は、連合国軍総司令部(GHQ)の強い意向で設置された。ラジオ放送が戦時中、政府のコントロール下に置かれ、戦争に協力したという歴史があるためだ。
委員会は日本が主権を回復した52年に廃止され、放送行政は郵政省(現総務省)に移された。米国やイギリスなど多くの先進国で、放送は独立機関が所管しているのとは対照的だ。
電波法は、テレビ局が放送法などに違反した場合、総務相が電波の停止や放送免許の取り消しなどができるとしている。しかし、これまで放送内容によって行政処分が出されたことはない。
放送法の解釈・運用については、政府も放送局の自主性を尊重する見解をとってきた。それが変わったきっかけは、テレビ朝日報道局長の発言を自民党などが問題視した93年の「椿(つばき)発言」だった。これを機に、政府は放送法違反を理由とする行政処分に慎重だった見解を変えた。
当時の江川晃正郵政省放送行政局長が「違反があった場合は、電波を止めるなどの措置がとれる」と記者会見で説明。衆院逓信委員会でも「(政治的公正は)最終的に郵政省において判断する」と答弁した。これ以降、それまでほとんどなかった放送事業者に対する行政指導が増えていった。
(星賀亨弘)
◆「表現の自由を制約」
増田寛也総務相の答弁(2007年11月衆院総務委) 自主的な放送事業者の自律的対応ができない場合には電波法の76条1項の適用が可能だと思う。ただ、行政処分は大変重たいので、国民生活に必要な情報の提供が行われなくなったり、表現の自由を制約したりする側面もあることから、極めて大きな社会的影響をもたらす。したがって、そうした点も慎重に判断してしかるべきだと考えている。
◆◆放送法遵守を求める視聴者の会へ高市早苗総務大臣からの回答
総務大臣回答:
平成27年11月27日に、貴会より公開質問状をいただきました。
放送法第4条第1項第2号の「政治的に公平であること」について、総務省としては、これまで、政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、不偏不党の立場から、特定の政治的見解に偏ることなく、番組全体としてバランスのとれたものでなければならないとしてきたところであり、基本的には、一つの番組というよりは、放送事業者の番組全体を見て判断する必要があるという考え方を示して参りました。
他方、一つの番組のみでも、例えば、
選挙期間中又はそれに近接する期間において、殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合、
国論を二分するような政治課題について、放送事業者が、一方の政治的見解を取り上げず、殊更に、他の政治的見解のみを取り上げて、それを支持する内容を相当の時間にわたり繰り返す番組を放送した場合のように、当該放送事業者の番組編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められる場合
といった極端な場合においては、一般論として「政治的に公平であること」を確保しているとは認められないと考えております。
以上は、私が国会答弁でも申し上げていることであります。
今般の質問状のご趣旨としましては、政治的公平に関する総務省の考え方について、分かりにくいのではないかということかと存じますが、現在、総務省に「放送を巡る諸課題に関する検討会」を設置しており、本件についても議論の対象となる課題から排除されるものではないと考えております。一方、表現の自由等との関係から大変難しい課題でもあり、現時点で総務大臣としての見解を即答申し上げることが困難であることも、ご承知ください。
以上、よろしくお願い申し上げます。
◆◆番組の政治的公平とは、表現の自由は 高市氏発言、識者に聞く
番組内容の「政治的公平」を、誰がどう決めるのか――。高市早苗総務相は「政府が判断する」という見解だ。だが、メディア法に詳しい識者は「政府の介入は法の趣旨から認められない」と指摘し、表現の自由を定めた憲法に抵触すると強く批判している。
◆大臣が判断は違憲疑い 慶応大教授・鈴木秀美氏
放送法は、1条で放送の自律や表現の自由の確保を原則に掲げ、3条で「何人からも干渉され、又は規律されることがない」と放送番組編集の自由を明文化している。「政治的公平」などを定めた4条は、放送事業者が自律的に番組内容の適正を確保する倫理規定であり、政府の介入は認められないと考えるべきだ。
日本の放送行政は、欧米のような政府から独立した機関ではなく、大臣が直接担当する。そもそも、「政治的公平」は判定不能で、数値では測れない。こうしたあいまいな文言をもとに、番組内容が適切かどうかを大臣が判断することになれば、4条が番組の内容への規制となり、表現の自由を定めた憲法21条に違反する疑いが濃くなる。
かつて米国でも「公正原則」は採用されてきた。ところが、政治家などが介入することで言論を抑圧する結果を招きかねないとして、1987年に廃止された。
報道の役割は、権力を監視することだ。報道機関でもある放送局に政府が介入できるとしたら、放送局に権力を監視するというジャーナリズムの役割を期待できなくなる。
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すずき・ひでみ 59年生まれ。大阪大教授などを経て、15年から現職。専門は憲法、メディア法。著書に「放送の自由」、共著に「放送法を読みとく」など。
◆「報じぬが無難」を懸念 法政大教授・水島宏明氏
授業で学生から、政府の言い分と違うことを書いたり報じたりしたら公正中立ではないのでは、という反応が返ってくる。NHKの籾井勝人会長が「政府が右ということを左というわけにはいかない」と語ったことにも通じている。
放送法4条の政治的公平について、放送の自律を守るための倫理規範だと言っても理解されにくい。自民党の調査会がテレビ局の幹部を事情聴取のために呼んでも、テレビ局側は毅然(きぜん)とした態度をとれない。メディア全体として放送の公共性をアピールしてこなかったことが、放送法の理念への無理解を生んでいる。
私は長く放送の現場にいたが、現場が萎縮していくことが心配だ。例えば、2014年の総選挙の直前、自民党が在京テレビ局に選挙時の報道の公平中立などの確保を求める文書を出した。何が公平かを判断することは難しく、結果、報じないことが無難だということになりかねない。
公平さを求めるあまり伝えるべき情報が報じられず、一人ひとりが主体的に判断すべき情報が薄っぺらいものとなれば、そのつけは国民に回ってくる。(聞き手=いずれも編集委員・豊秀一)
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みずしま・ひろあき 57年生まれ。日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクターなどを経て、12年から現職。著書に「ネットカフェ難民と貧困ニッポン」など。
◆◆松田浩=憲法・放送法に反する高市発言
(16.02.10赤旗)
◆◆総務相=公平欠く放送と判断なら電波停止
2016年2月9日朝日新聞
高市早苗総務相は8日の衆院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及した。「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰り返される場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」と述べた。
民主党の奥野総一郎氏が放送法の規定を引いて「政権に批判的な番組を流しただけで業務停止が起こりうる」とただしたのに対し、高市氏は「電波法の規定もある」と答弁。電波停止などを定めた電波法76条を念頭に、「法律は法秩序を守る、違反した場合は罰則規定も用意されていることで実効性を担保すると考えている」と強調した。そのうえで高市氏は、「私の時に(電波停止を)するとは思わないが、実際に使われるか使われないかは、その時の大臣が判断する」と語った。
放送法4条は放送の自律を守るための倫理規範とされてきたが、高市氏はNHKの過剰演出問題で、行政指導の根拠とした。この点についても「放送法の規定を順守しない場合は行政指導を行う場合もある」との考えを重ねて示した。
「政治的な公平性を欠く」の事例については、「国論を二分する政治課題で一方の政治的見解を取り上げず、ことさらに他の見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合」などと列挙。「不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められるといった極端な場合には、政治的に公平であるということを確保しているとは認められない」とした。
発言に、放送事業関係者は反発している。ある民放関係者は「公平性を判断するのが大臣であり政権であるなら、政権による言論統制だ」。別の民放関係者も「威圧的に脅しているんだろうが、あまりに現実性がなく論評に値しない」と話した。砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)は「行政が気に入らない番組で、言うことを聞かなければ停波にしてしまうのなら介入そのもの」と指摘。上智大の音好宏教授(メディア論)も「放送事業者の萎縮を招く危険性がある」と語った。
◆焦点採録 衆院・予算委員会=放送全体で適合性判断 総務相/報道の萎縮をうむ 民主・奥野氏 2月8日
2016年2月9日朝日新聞
【放送の中立性】
高市早苗総務相 政治的な問題を扱う放送番組の編集にあたっては、不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく番組全体としてバランスのとれたものであることと解釈してきた。その適合性は、一つの番組ではなく放送事業者の番組全体をみて判断する。
昨年の総務委員会で、これまでの解釈の補充的な説明をした。一つの番組でも、選挙期間中、ことさらに特定の候補者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送するなど、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合。また、国論を二分するような政治課題について放送事業者が一方の政治的見解をとりあげず、ことさらに他の政治的見解のみをとりあげてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合。これらの場合は、政治的に公平であることを確保しているとは認められない。
民主・奥野総一郎氏 (電波法76条で)総務相の権限で放送を止めることができる。いまの解釈では、個別番組の内容で業務停止がおこりうる。政権に批判的な番組を流しただけで業務停止にしたり、発言したキャスターが外れたりすることがおこりうる。
総務相 放送事業者が極端なことをして、改善をしていただきたいという行政指導をしてもまったく改善されない場合、それに対してまったく何の対応もしないということを、ここでお約束するわけにいかない。法律というのは、違反した場合には罰則規定も用意されていることによって、実効性を担保する。将来にわたって、ありえないということは断言できない。
奥野氏 この解釈によって、報道の萎縮をうむ。
総務相 電波の停止は、私の時にするとは思わないが、将来にわたってよっぽど極端な例、放送法の法規範性をまったく順守しないという場合、その可能性がまったくないとは言えない。
筆者コメント=「クローズアップ現代」「報道ステーション」「NEWS23」国民の声を代弁していた3番組の「パージ」
私たち国民の声を代弁し政府・自民党を厳しく批判してきた3つの番組が、安倍政権の圧力、それに屈したテレビ局によって、ついに「改変」させられた。4月からは、ただの「報道番組」となる。いずれも国谷裕子・古舘伊知郎・岸井成格という著名なキャスター3氏を「降板」させ、安倍政権に「穏和な」スタンスのキャスターに交替することで変質が行なわれようとしている。「報道ステーション」の新キャスターは、後藤謙次氏、「NEWS23」の新キャスターは、星浩氏。この二人は、これまで他の報道番組でも解説をしているが、どぎつい保守色をだす時事通信の田崎や読売の橋本五郎のような政治評論家ではない。しかし、この二人に共通しているのは、マスメディアの最大の使命である「権力への監視や批判」が極めて弱いという点。「こういう見方もあれば、そうでない見方もある」といろいろな論点を解説をするが、結局「中立性」のトーンが前面に出て、古舘氏や岸井氏が一貫して追求していた「権力への監視や批判」が決定的に弱くなることは、目に見えるようだ。朝日新聞にときどき星氏のエッセイのような論説が掲載されているが、一体どういう意見を述べようとしているのか、いつもさっぱりわからない。政権批判かと思ったら、そうでもない。後藤氏と同じように「中立」的な立場を取ろうとするからだ。まして後藤謙次氏は、安倍首相のマスメディア対策のためにもたれている会食に何回も参加している常連だ。これから二人の解説を聞かされると思ったらうんざりだ。10時台に移る「クローズアップ現代」のキャスターみたいな人は、まだ決まっていないが、籾井会長の圧力で、「穏和」な人物が選ばれることはまず間違いない。
この3番組は、官邸・自民党によって「放送ミス」を利用された点、放送法を利用した「偏向番組」という攻撃をかけられ、放送局幹部がその攻撃に追随した点で共通している。安倍首相、菅官房長官、萩生田副官房長官、磯崎や世耕たちマスメディア対策に力を入れきた連中の高笑いが聞こえてきそうだ。これは「権力監視・批判番組」の「パージ」ともいうべき大事件だ。かつてのハリウッドのレッドパージによく似ている。さしあたりマッカーシーは、菅と萩生田あたりか。官邸・自民党は、「パージ」をさらに広げて「権力監視・批判番組」の一掃をはかろうとしている。「星浩氏がキャスターに」の記事の中にTBS系の権力監視の著名な土曜番組「報道特集」に膳場氏が移動とある。それでは、今までの金平氏などのキャスターたちはどうなるのか?これも心配だ。「TBSお前もか」とならないことを切に望む。我々も視聴者として、テレビの監視を一層強め、テレビ局のなかで奮闘している人たちとともに良心的な番組づくりに力を入れていかねばならないと思う。そのためにも、崩れつつある「安倍一強体制」に打撃を与える参院選での革新候補の擁立運動、戦争法廃案・立憲主義回復のための2000万署名運動に力を入れていかねばならない。
◆◆NHK、テレビ朝日、TBSの看板報道番組の直言キャスター、交代の春
朝日新聞16.02.03(Media Times)
NHK、テレビ朝日、TBSの看板報道番組の「顔」が、この春一斉に代わる。番組の一新、本人の意思など事情はそれぞれだが、政権への直言も目立った辛口キャスターがそろって退場していくことに、懸念の声が上がっている。
3月末にリニューアルするTBS系の「NEWS23」は、メインキャスターの膳場貴子さん(40)が土曜夕方の「報道特集」に移り、新キャスターに星浩・朝日新聞特別編集委員(60)を起用。岸井成格(しげただ)アンカー(71)も降板し、4月以降、同局専属のスペシャルコメンテーターになる。
ジャーナリストの筑紫哲也さんのメインキャスター時代は2ケタ近い平均視聴率だったが、今年度は5・4%(以下、視聴率はいずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。午後11時台は報道番組の激戦区で、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)の2015年の月曜から木曜の平均視聴率は8・9%。TBSは陣容一新で報道番組の強化をはかる。
テレビ朝日系の「報道ステーション」は、メインキャスターの古舘伊知郎さん(61)が契約終了に伴い3月末で降板する。
昨年までの平均視聴率は13・2%と好調だったが、古舘さんは昨年末の会見で「(開始から)12年を一つの区切りとしたい」と話した。後任は同局の富川悠太アナウンサー(39)に。関係者は「制作費を抑えたい考えもあり、当面は手堅く局アナでという判断になった」という。
一方、NHKは報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを1993年から務めるフリーの国谷裕子(くにやひろこ)さんとの契約は更新せず、後任は局アナを軸に検討している。NHK関係者によると、現場は国谷さんの続投を強く求めたが、内容を一新するため局幹部が降板を決めたという。
昨年9月、安保法案が参院特別委員会で可決されたことを、「私は強行採決だったと思います」とコメントした古舘さんなど、降板するのは辛口で知られたキャスターたち。三つの番組には最近、政権や自民党から報道内容に対する注文が相次いでいた。
14年の衆院選前には、「NEWS23」に生出演した安倍晋三首相が、街頭インタビューの声に偏りがあると批判し、「報ステ」のアベノミクスの取り上げ方を自民党が文書で批判、「公平中立」を求めた。昨年4月には、「クロ現」と「報ステ」の内容をめぐって自民党が局幹部を事情聴取。「直接の原因ではなくても、それぞれが降板へ背中を押す一因になったのでは」と話す放送局関係者もいる。
◆「是々非々で指摘しないとテレビは窒息」
辛口キャスターの相次ぐ交代に、砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)は「交代が重なったのは偶然の要素が大きく、それぞれの事情があると思うが、視聴者からみれば、政権に批判的なキャスターが外される、というイメージが拭えない。特に安倍政権はテレビ朝日とTBSに厳しかった。新キャスターには疑念を払拭(ふっしょく)する報道姿勢が求められる」と注文する。
「権力監視がメディア本来の役割。変更のない他局も含め、是々非々できちんと問題を指摘するキャスターがいないと、テレビは窒息してしまう」
日本のニュースキャスターの走りとされるのは62年に始まった「ニュースコープ」(TBS系)の田英夫さん。NHKの磯村尚徳さんやテレビ朝日系「ニュースステーション」の久米宏さん、筑紫哲也さんら、取材経験豊富なジャーナリストや視聴者に親しみのあるフリーの著名人が多く起用され、各局の「顔」として活躍してきた。
ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは「キャスターに求められるのは、事実だけでなく、実はこんな意味があります、と自分の言葉で味付けすること。ネット上で自由に意見を言い合えるようになり、『キャスターに言われることはないよ』と思う人も増えただろうが、安保法制や憲法改正などで日本が大きく変わろうとしている今こそ、しっかりしたキャスターをすえた番組が必要だ」と指摘。
「80年代後半以降のキャスター『第1世代』は高齢化が進み、今後は『第2世代』が必要。テレビ局は若手を起用して育てていかないといけない」とも話す。
「NEWS23」のキャスターになる星氏は「政治家の言っていることや政権が取り組んでいることの中身が妥当かどうか、有権者が判断できるように本質を伝えていく」と話す。
(滝沢卓、松沢奈々子、佐藤美鈴)
◆◆「NEWS23」キャスターに星浩氏
2016年1月26日朝日新聞夕刊
星浩・朝日新聞特別編集委員
TBS系の報道番組「NEWS23」(月~金曜夜)の新メインキャスターに星浩・朝日新聞特別編集委員(60)の起用が決まった。3月28日から出演する。TBSテレビが1月26日、発表した。
福島県出身。79年朝日新聞入社。政治担当編集委員、オピニオン編集長などを歴任。2013年4月から現職。「大変光栄です。気を引き締めて報道・解説に当たっていきたいと思います。現在、朝日新聞社を退社するための手続きを進めております」とコメントしている。
現在メインキャスターを務めている膳場貴子さん(40)はリニューアルする「報道特集」(土曜夕方)の新キャスターに就任する。(松沢奈々子)
◆◆戸崎賢二=「降板」という自己規制
(赤旗16.01.24)
◆◆報道ステーションの古舘後の後釜の解説者は安倍会食者の後藤謙次
(日刊ゲンダイ16.01.23)
◆◆岸井氏、「NEWS23」アンカー降板へ
2016年1月16日朝日新聞
岸井成格氏
TBS系の報道番組「NEWS23」の岸井成格(しげただ)アンカー(71)が、3月末で降板することになった。TBSテレビの15日の発表によると、岸井氏は4月1日付で同局専属のスペシャルコメンテーターに就任。出演中の「サンデーモーニング」や報道番組、特別番組などに番組の枠を超えて随時出演し、ニュースの背景や展望を解説・論評する。「NEWS23」も春から内容をリニューアルする方針で、後任などについては後日発表するという。
岸井氏は毎日新聞特別編集委員で、2013年4月から「NEWS23」のアンカーを務めていた。岸井氏は「スペシャルコメンテーターとして報道の第一線で発信を続けていくことになりました。その責任・使命の重さを自覚し、決意を新たにしています」とコメントしている。
昨年、番組内で同氏が、「(安全保障関連法案に)メディアとしても廃案に向けて声をずっとあげ続けるべきだ」と発言したことについて、「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」が「放送法に対する違反行為だ」とする意見広告を一部全国紙に出していた。TBS広報部は、今回の就任について「以前から話し合いを進めていました。岸井氏の発言や意見広告とは全く関係ありません」としている。(松沢奈々子)
◆◆古舘伊知郎さん降板とテレビ界の危うさ=国谷裕子さん、岸井成格さん……一連の降板騒動は偶然ではない
篠田博之 (月刊『創』編集長)
2016年01月12日朝日新聞論座
◆「報道ステーション」は“普通のニュース番組”に?
年末のメディア界を襲った一番衝撃のニュースといえば「報道ステーション」キャスター古舘伊知郎さんの降板だろう。
週刊誌が報じているが、同番組は12月23日が年内最終放送で、終了後に毎年恒例の忘年会が開かれた。
朝まで飲んでいたスタッフも少なくなかったらしいのだが、それら関係者は翌日、ネットのニュースなどで古舘さん降板の発表を知り、愕然としたという。
『週刊文春』1月14日号「古舘『報ステ』降板 本誌だけが書ける全真相」によると、23日夜、古舘さんが忘年会を終えて帰宅したあと、篠塚浩取締役報道局長が、番組プロデューサーら幹部数人を呼んで、降板の話を伝え、「明日10時に発表する」と告げたという。
古舘さん本人が会見で明らかにしたように、既に2015年夏に局側に降板を申し入れていたというのだが、正式に決定したことは一部の役員にしか知らされていなかったようだ。
その後1月8日、テレビ朝日は、後任のメインキャスターに富川悠太アナをあてることを発表した。
久米宏さんの「ニュースステーション」や古舘さんの「報道ステーション」は、メインキャスターが歯に衣着せず権威権力にズバズバ物申すというのを売りにしてきたのだが、富川アナは局員だからそういう特性は薄れざるをえない。
現場を飛び回る富川アナの奮闘ぶりを好感を持って見てきた視聴者は多いと思うし、4月以降がんばってほしいとは思うのだが、今回の選択は、この番組が“普通のニュース番組”になってしまうことを意味するから、その点は残念だ。
局側としても、とりあえず富川アナで様子を見て、視聴率の動向などによって次の展開を考えようという方針なのだろう。
『週刊現代』1月16・23日号は「古舘伊知郎惜しまれずに退場」という少々意地悪な記事を掲げており、古舘さんは実はテレ朝では「裸の王様」で、辞めてよかったという声も多いと書いている。
確かに古舘さんはこだわりの人で、現場から上がってきた原稿を彼の一存でボツにしたりということもあったようだから、「ワンマンだ」と反発する声も報道局にあったようだ。
ただ、この記事が書いているように「『辞めてくれて清々した』という意見のほうが多い」というのはうがった見方ではないだろうか。古舘さんのこのタイミングでの降板については、たぶん局員や関係者もいろいろ複雑な思いで見ているに違いない。
◆「大変な綱渡り状態」の12年間
週刊誌やネットでは、古舘さんとテレ朝の早河洋会長との関係がぎくしゃくし始めたのが遠因だという指摘が多い。つまり早河会長が安倍政権寄りになったことで両者の関係にすきま風が吹き始めたらしいという見方だ。
たぶんそれは背景としてあると思うが、そういうことも含めて古舘さんとしては会見で「ものすごく不自由な12年間」だったと語ったのだろう。
2015年3月の古賀茂明さんの事件が要因と短絡的に捉えられることを怖れてか、古舘さんは、その件はいっさい関係ないと否定したが、あの事件で古舘さんのとった立ち位置は象徴的だった。
古賀さんが生放送中に爆弾発言を始めた時、古舘さんは必死に局の立場に立って事態収拾を図ろうとした。確かに番組のメインキャスターとはそういうものであるのだが、期せずしてそういう立場に立たざるをえなかった自身に、古館さんが不自由さを感じたのは確かだろう。
会見で「不自由な12年間でした」という発言の後にこうも述べていた。「言っていいことと、悪いこと、大変な綱渡り状態で、一生懸命頑張ってまいりました」
古賀さんの事件で明らかになったように、この1年余、安倍政権からの揺さぶりを受けて、テレ朝は揺れ動いていたから、そういう状況下で、局の顔という立場で発言を続けることに思うところがあったのだろう。
もう2年前から辞めることを考えていたという発言もあったが、たぶんこの1年余のテレ朝をめぐるいろいろな動きが背中を押したのは間違いないと思う。
◆「クローズアップ現代」と「NEWS23」
さて冒頭に古舘さんの降板を「衝撃のニュース」と書いたが、それは、このタイミングでのこの事件が大きな意味を持つ可能性があるからだ。
その後、放送時間が変わりリニューアルされるNHKの「クローズアップ現代」のキャスター国谷裕子さんの降板も報じられた。
こちらは局の上層部の意向によるものらしい。朝日新聞デジタルによるとこうだ。
《NHK関係者によると、クロ現を担当する大型企画開発センターは続投を強く求めたが、上層部は「内容を一新する」という方針を昨年末に決定。同センターを通じ、国谷さんにも契約を更新しない方針を伝えた。》(1月8日付)
籾井体制になって以降のNHK上層部の安倍政権への“すり寄り”を見ていると、いろいろな意味でごたごたして騒動の火種にもなった「クロ現」をそのまま続けるのは認めないというのが上層部の意向なのだろう。
そしてもうひとつ降板騒動が続いてきたTBS「NEWS23」のアンカー岸井成格さんについては、12月25日付の日刊スポーツが「降板することがわかった」と降板が決定したかのように報じ、ネットにはそれが拡散されている。
ただ、この日刊スポーツの記事は、降板をほぼ断定している割にはその根拠を示す記述がない。どの程度ウラがとれたものか不明なのだが、岸井さん降板という現実がないことを祈りたい。
岸井さんについては、降板を要求する右派論者らの意見広告が2015年11月に産経新聞と読売新聞に出たり、右派からの攻撃が激しくなっている状況が知られているから、実際に降板となれば、明らかに政治的意味合いを持ってしまう。
実際、ネトウヨと見られる人たちは岸井さん降板のニュースに喝采を叫んでいるようだ。こういう状況下で岸井さんを本当に降板させたら、TBSは歴史的禍根を残すと言ってよいだろう。
この1~2年間、安倍政権のメディア界、特にテレビ界への介入は激しさを増した。
TBSのリベラルな報道情報番組である「NEWS23」や「サンデーモーニング」には、番組放送後に右派からと思われる抗議が増えているという。そのなかでもこの間、大きな標的にされたのが岸井さんだ。
◆危険な「斟酌」や「忖度」の肥大化
考えて見れば、NHK、テレ朝、そしてTBSと、かつてテレビ界のリベラル派だったところにこの間、揺さぶりが集中し、期せずして今、キャスターらの降板騒動が起きているのは偶然ではないだろう。
もちろん政権からの揺さぶりというのは、人事や番組内容に直接物言いがついているという意味では必ずしもない。
例えば昨年春のテレ朝「報道ステーション」の古賀さんの騒動の時に指摘されたプロデューサー交替の例を思い起こせばよい。
同番組の政権批判のトーンを引っ張っていたというこのプロデューサーを局側は交代させたのだが、その判断をする際に、政権からの攻撃を何とかかわそうという判断が働いたのは確かだろう。
風当たりがこれ以上強まって権力と真っ向から対立するのはまずいから、ちょっと目先を変えるためにプロデューサーを交代させようといった政治的判断だったかもしれない。
政権と真っ向対決でもなく頭を垂れるのでもなく、いろいろな政治的対処をしながら、今の安倍政権からの風圧に対応していこうという判断だろう。
ただ危険なのは、そういう「斟酌」や「忖度」が肥大化していくと、明らかに「委縮」につながっていくことだ。
私は世間で言われているほどテレ朝の早河会長が単純に安倍政権になびいているというよりも、面従腹背しながら政権からの風圧をどう避けるかという政治的判断をしていると考えたほうがよい気がするのだが、今のような状況下では、それはとめどなき後退につながっていく怖れがあることは指摘したいと思う。
◆キャスターによる抗議会見が開けなくなる?
そういう流れのなかで、この間の一連のキャスター降板騒動を見ると、テレビ界をめぐる大きな動きと、明らかに連動しているように見える。
古舘さんの「報道ステーション」降板は、直接的には古舘さんの個人的問題なのだが、大きな影響をテレビ界に及ぼす可能性が無視できない。
「クロ現」の国谷さんや「NEWS23」の岸井さんの処遇をめぐっても、局の上層部が、政権や右派サイドからの風圧に対して「斟酌」を行う可能性は十分にある。
今回の一連の降板騒動が、安倍政権による揺さぶりを受けてきたテレビ界が変質していくきっかけとならなければよいのだが――。そういう不安をこの間の騒動の中で感じている人は少なくない。
テレビ界は、まさに今、どういう方向へ向かうのか岐路に立たされていると思う。
(2002年メディア規制にキャスターたちが抗議)
10年以上前、個人情報保護法案などメディア規制法と言われた法案に反対運動が起きた時、民放各局のキャスターによる抗議の会見が何度か開かれた。
フジテレビでキャスターを務める安藤優子さんが抗議声明を読み上げる一幕もあった。
しかし、この1~2年、秘密保護法反対運動などで開かれたキャスターの抗議会見には、日本テレビとフジテレビのキャスターは顔を見せなくなった。
結果的にTBSとテレ朝のキャスターが中心になったのだが、その2つの局がいま矢面に立たされ、揺れている。
次は、フジテレビがどうTBSがどうというのでなく、キャスターによる抗議会見そのものが開けなくなる状況が現実化しつつあるように思う。
◆◆「クロ現」国谷さん降板へ 出演は3月まで
2016年1月8日朝日新聞
国谷裕子キャスター
NHKの報道番組「クローズアップ現代」の国谷裕子(くにや・ひろこ)キャスター(58)が降板することが7日、わかった。出演は3月までで、4月以降は、現在月~木曜の午後7時30分からの放送時間を午後10時に移し、番組名も「クローズアップ現代+(プラス)」にするという。
国谷さんは1993年からキャスター。現在は1年契約で出演している。NHK関係者によると、クロ現を担当する大型企画開発センターは続投を強く求めたが、上層部は「内容を一新する」という方針を昨年末に決定。同センターを通じ、国谷さんにも契約を更新しない方針を伝えた。後任は同局アナウンサーを軸に検討しているという。
国谷さんは「プロデューサーのみなさんが、編成枠が変わってもキャスターは継続したいと主張したと聞いて、これまで続けてきて良かったと思っている」と周囲に話しているという。(川本裕司)
【筆者コメント】 16.01.08
官邸・自民党が狙い撃ちをしていたNHKの「クローズアップ現代」の編成変更が籾井会長のもとでついに断行された。朝日の記事のなかの国谷さんの発言に見られるように①「やらせ報道」→「自民党の事情聴取という名の圧力」、②14年7月3日の放送で、 憲法解釈の 変更で集団的自衛権の行使容認を認めることについて、 出演した菅官房長官に対し国谷さん舌鋒鋭く質問。 これに菅がキレ、 番組終了後に官邸サイドから 「君たちは現場のコントロールもできないのか」と抗議が入った事件、これらが、国谷さんの番組降板に利用された。まったく理屈の通らない降板だ。NHKでこの後籾井たちが狙っているのは、塩田純さんなどのブロデューサーがそろっているETVであろう。
ところで今朝(1月8日)のNHKの「お早う日本」のなかで参院選挙に自民党から立候補予定の菊池桃子に「聞く」という企画が10分近くも放送されたことに驚き。タレント時代から、福祉問題などを大学で教えることになった生い立ちなどを紹介。「これから福祉問題などを力を入れてやっていきたい」とまるで選挙演説そのものの決意表明。普通、特定の党派に有利になる報道は、遠慮する、これが放送法の精神であろう。NHKは、ついに「国営放送局」だけでなく「自民党放送局」にもなったのかと「びっくりぽん」。この調子だと同じく自民党から立候補する予定の乙武もNHKに登場しそうな感じ。国谷キャスターの降板は、報道ステーションの古舘キャスターの降板に続く「落城」である。これにTBSの「ニュース23」の岸井キャスターの降板が続かないことを切に望む。TBS内外のみなさん頑張って欲しい。安倍政権のマスメディア乗っ取りは、新たな段階に入ろうとしている。
◆◆「国谷キャスター降板」に異議あり! ちょっと待ってほしい!
水島宏明 | 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
2016年1月10日
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizushimahiroaki/20160110-00053282/
実は、この話、去年の秋頃から、NHK関係者の間ですでに決まったことのように囁かれていた。
年明けになって新聞各紙が報道している国谷キャスターの降板と番組の放送枠の変更の件。
多くのNHK関係者が前から「もうこれは決まったこと」だと断定的に話していたので、年が明けてから新聞各紙が報道したことに「なぜ今頃になって?」と違和感を持ったほどだ。
NHKが新番組の公表やリニューアルなど番組の内容について外部に公表する際は、放送総局長の記者会見で行うことが常なので次の放送総局長会見で発表されるのだろうと予想していた。
それが読売新聞や朝日新聞などが、記者会見を待たずに国谷さんの降板を報道し始めたのだ。
NHK「クロ現」の国谷裕子さん降板へ 出演は3月まで(朝日新聞)
NHKの報道番組「クローズアップ現代」の国谷裕子(くにやひろこ)キャスター(58)が降板することが7日、わかった。出演は3月までで、4月以降は、現在月~木曜の午後7時30分からの放送時間を午後10時に移し、番組名も「クローズアップ現代+(プラス)」にするという。
出典:ヤフーニュース(朝日新聞デジタル)
なぜ彼女は降板させられるのか?
背景にあるのは、「クロ現」の「出家詐欺」”やらせ問題”である。
BPO(放送倫理・番組向上機構)は、昨年11月に放送倫理検証委員会で12月には放送人権委員会で、それぞれ結論を公表した。
「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。
出典:BPOの「放送倫理検証委員会」 ”出家詐欺”報道に関する意見
本件映像には放送倫理上重大な問題がある。委員会は、NHKに対して、本決定を真摯に受けとめ、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材・制作において放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。
出典:BPOの「放送人権委員会」”出家詐欺”報道に関する委員会決定
NHKでは4月上旬に局内に調査委員会を立ち上げ、下旬に報告書を公表したが、BPOの「放送倫理検証委員会」はこの「調査報告書」を、「放送倫理の観点からの検証が不十分」「深刻な問題を演出や編集の不適切さにわい小化することになってはいないかとの疑問を持たざるを得ない」と調査そのものの甘さや中途半端さを指摘した。
この問題について、国谷さんには何の落ち度もない。
大阪放送局にいた一人の記者が問題だらけの取材を行っていたこと、それを見過ごしていたNHK内の体制に責任がある。
==つまり、BPOもあえて指摘したように、悪いのは今のNHKの「体制」なのだ。==
NHKはその記者を解雇するなど、責任のある人間たちを処分して再発防止に取り組めばいいだけの話だ。
NHKのトップは籾井勝人会長である。
ところが、これをきっかけとして、NHKの上層部は、国谷さんごと、番組そのものを変えてしまってイメージも変えたい、という方針を決めた、と朝日新聞は伝えている。この記事は短いものだが、「上層部」と「クロ現を担当する大型企画開発センター」との間で意見の相違があったと書いている。特定の放送局の番組についての記事でこうした局内の対立にまで触れることはめったにないことだ。
NHK関係者によると、クロ現を担当する大型企画開発センターは続投を強く求めたが、上層部は「内容を一新する」という方針を昨年末に決定。同センターを通じ、国谷さんにも契約を更新しない方針を伝えた。後任は同局アナウンサーを軸に検討しているという。
国谷さんは「プロデューサーのみなさんが、編成枠が変わってもキャスターは継続したいと主張したと聞いて、これまで続けてきて良かったと思っている」と周囲に話しているという。
出典:ヤフーニュース(朝日新聞デジタル)
この記事の報道が事実だとして、番組が変わって、国谷裕子というキャスターを降板させる。番組そのものは残るんです、放送時間が変更になるだけなんです、などと後から説明されたところで、その番組の本質的に事実上「消す」ことになってしまう。
たとえば、視聴率だけ考えても、
視聴率が高い夕方「7時のニュース」の直後に、様々なテーマを深掘りしたからこそ「クロ現」の意味があったのだ。
しかも「クロ現」は、社会の「現代」の問題を様々な切り口で見せようとする意欲的な番組だ。
ジャーナリズムを大学で教えている私も、テレビというメディアが社会をどう切り取っているのか、という題材で、よく「クロ現」を学生たちに見せる。
たとえば、2014年1月14日に放送された「あふれる“ポエム”?! ~不透明な社会を覆うやさしいコトバ~」など、居酒屋などの飲食店に行けばよく目にするようになった「夢をあきらめない」などの”ポエム”と呼ばれる言葉から現代社会の変容を伝えようとする意欲作だったし、2015年1月13日放送の「ヘイトスピーチを問う ~戦後70年 いま何が~」も日本社会で急に目立ち始めたヘイトスピーチの実態や背景に切り込んだ作品だった。
これを深夜で放送するのではなく、19時半に放送することに大きな意味があったと考える。
また、キャスターは国谷裕子さんでなければならない、と強く感じる。
最近、「報道番組」とか「ニュース」などという名称はかかげていても、政府要人に対してすっかり遠慮して「ヨイショ」しか言わないキャスターが目につく。報道現場で長年働いた経験で言えば、そういう人は「キャスター」を何年やったとしても「ジャーナリスト」ではない。
「国谷さん」だからこそ意味があったのだ。国谷さんはたぐいまれな「ジャーナリスト」だからだ。
2014年7月3日に放送された「集団的自衛権 菅官房長官に問う」では、集団的自衛権を容認するという憲法解釈を閣議決定した直後に、菅義偉官房長官をスタジオに招いて疑問点を尋ねた。予め用意した答えを繰り返す他は、「あー」とか「えー」「うー」という言葉を連発した官房長官に対して、「しかし」と明確な言葉で質問し続けた国谷さん。最後は官房長官が話している途中で(生放送なので)番組終了で幕切れになった。
短い時間に、あれほど相手を「理詰め」で追い詰めていけるキャスターを私は現在放送されているすべての報道番組を見渡しても見つけることはできない。あのワザは並のキャスターではできない。
ジャーナリストの役割は、権力が暴走しないかチェックすること。
それをあれほど体現した放送は最近めったにない。
だから、今回、新聞やテレビの報道も、ただ「国谷さんが降板する」とだけ伝えるだけにとどまっていることには不満だ。
「クロ現」を今のままで残してほしい。
「国谷さん」を残してほしい。
19時半からの「調査報道番組」を残してほしい。
今の「クロ現」は、国民にとっての財産、公共財だと考えるからだ。
それが失われようとしているのに、何も感じない、何も考えないのだろうか。
何か不祥事があると、誰かが詰め腹を切らされる。そして「体制を一新」させる。
これは今でもどの組織にもある日本的な責任の取り方だ。
でも、何も関与していない「国谷さん」が降板させられる。それでいいのか?
本当に責任を取るべき人間は別にいるのに、これほどの理不尽はない。
僕は今回、ものすごく怒っている。こんなことをよしとしてしまうNHKの人たちの「鈍感さ」に対して。
それから、そのことをもっと大きく報道しない新聞などのメディアの「鈍さ」に対してもだ。
もちろん、今回の背景に「権力」の意向、あるいは「上層部」の意向があったとしても、このまま彼女を降板させてしまっていいはずがない。
◆◆安倍政権のメディア戦略
(赤旗15.12.31)
◆◆情報錯綜!TBS「ニュース23」をめぐって今何が起きているのか
篠田博之 =月刊『創』編集長
2015年12月9日
TBS「ニュース23」をめぐって情報が錯綜している。ネットではもう膳場貴子さんや岸井成格さんの降板が決定したかのような情報さえ流れている。TBSは公式には「まだ何も決まっていない」とコメントしており、それは間違っていないと思う。いろいろな案を検討して打診などもしていると思うが、最終決定はもう少し先だろう。ただ最終決定が発表されてからでは遅いのだが。
この話がややこしいのは、膳場さんをめぐる問題と岸井さんの問題とがごちゃごちゃになっていることだ。膳場さんは周知のように出産のために番組を離れ、先日無事お子さんを出産したという。彼女にとって心穏やかでないのは、恐らく復帰後の契約をめぐって彼女と局の間で話し合いがなされているのだと思う。
その経緯について比較的正確なのは『女性セブン』12月17日号「膳場貴子アナ『出産でキャスター降板』に許せない!」ではないだろうか。膳場さん本人は産休入りのつもりでいずれ番組復帰するつもりなのだが、記事中で匿名のTBS関係者がこう語っている。
「この10月末のことです。TBS報道局幹部から呼び出されて『来年3月をもって専属契約を終わりにしたい』と告げられたそうです」
「すでに局内では、来春以降は局アナを起用することで調整していると聞いています。フリーアナを起用するよりも、予算を低く抑えられますから。ですが、まだ膳場さんの契約打ち切りも決定ではありません。膳場さんとしては視聴者の皆さんに宣言した通り、“産休後の復帰”を見据えて、交渉や準備を進めるのだと思います」
「ニュース23」は日本テレビの「ニュースゼロ」に視聴率で水をあけられており、当然、局側としては何とかできないかといろいろな選択肢を検討しているはずだ。フリーのキャスターを局アナに替えて制作費を抑えることもたぶん検討はしているように思う。この『女性セブン』の記事は「これはマタハラだ!」と見出しの肩に書いてあるように、出産を機に女性を雇い止めするのは許さない!と膳場さんの側に立って訴えたものだ。
実はこの『女性セブン』の発売を前後して、膳場さんの降板説はあちこちに流れたのだが、ちょっとした波紋を投げたのがスポーツ報知12月3日付の記事だ。見出しは「NEWS23 膳場アナ降板へ」で、記事中でやはり匿名のTBS関係者がこうコメントしていた。
「膳場アナから『番組に区切りを付けて、育児に専念したい』と申し入れがありました。後任を含めて、これから検討しますが、了承することになると思います」
この報道に対して膳場アナは即日、フェイスブックで反論した。
https://www.facebook.com/takako.zemba/posts/924543540962825
「降板申し入れはしておりません。このような誤解を、たいへん残念に思っています」
本人がこんなふうにコメントするのは異例だが、膳場さんのこの対応はやむにやまれぬものだったろう。というのも、『女性セブン』が書いているように本人が納得していないのに局側が降板させようとしているという話と違い、本人が辞めたがっているという話なら、誰もが納得し、一気に降板説が既成事実となっていくことは必至だからだ。
でもネットが恐ろしいのは、膳場さんの発言によって誤報であることが明らかになったスポーツ報知の記事が12月9日現在、いまだにネットにあがっているし、それを受けた記事もまだあちこちに残っていることだ。誤報であっても一度拡散すると簡単には消えないのがネットの特性だ。
http://www.hochi.co.jp/entertainment/20151202-OHT1T50209.html
膳場さんの復帰をめぐる交渉はこれから本格的に行われるのだろう。局としてはいろいろな選択肢について検討を始めているだろうが、もし膳場さんのMC交替を考えるなら、恐らくアンカーの岸井さんについてもどうするか検討を行っていて不思議はない。ただ複雑なのは、ここへきて、その問題が政治的文脈の中でクローズアップされてしまったことだ。
安保法制をめぐって一貫して安倍政権を厳しく批判してきた岸井さんに対して右派陣営から猛烈な攻撃がなされ、それが降板騒動と絡まってしまったのだ。
話題になっているのは周知の通り、11月14日の産経新聞と15日の読売新聞に掲載された1ページの意見広告で、安保法制を巡る岸井さんの「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」という発言を取り上げて断罪したものだ。事実上、岸井さんを番組から降ろせと言っているのと同じで、こういうものが全国紙に大きく掲載されること自体が異様と言える。
この右派の意見広告について最初に大きく取り上げたのは東京新聞の特報面だが、その後、いろいろなところでこれが問題にされたため、すっかり有名になってしまった。実は私も東京新聞で読むまで、この意見広告には気が付かないでいた。もちろん産経も読売も読んでいるのだが、読み飛ばしていたのだ。改めて読んでみてわかったが、この意見広告はデザインがかなり悪い(笑)。「私達は~見逃しません」というコピーに目の写真を配するというベタなデザインで、何やら怪しいイメージさえ醸し出している。たぶん多くの読者が読み飛ばしてしまったのではないだろうか。その意味では、今のように注目されることになったのは広告を出した右派論者にとっては幸いなことだったかもしれない。
その意見広告で展開されているのは、岸井さんの政府批判が放送法の「政治的公平であること」という理念に違反しているというものだが、これはいわば放送法をめぐってこれまでも議論されてきたことの蒸し返しだ。先の11月6日のBPO(放送倫理・番組向上委員会)の意見書が政府の放送介入を批判したこととあいまって、最近、放送法をめぐる議論が再燃しているのだが、これまでの専門家の通説によれば、右派や安倍政権の言う放送法の理解は間違っているといえる。放送法とは、戦前に放送などのメディアが国家権力によって支配されたことへの反省から作られたもので、メディアの政治権力からの独立をうたったものだ。つまり放送法第1条の「放送の不偏不党」というのは、公権力が放送へ介入しないようにという意味であって、その不偏不党という言葉を振りかざして安倍政権が放送に介入するのはブラックジョークと言ってよい。
これは例えばBPO委員でもある映画監督の是枝裕和さんが『週刊プレイボーイ』12月14日号の古賀茂明さんとの対談で強調していることで(この対談はなかなか面白い)、自分の公式HPで相当詳しくこれについて論じている。
http://www.kore-eda.com/message/20151107.html
そういう説明を読めば、右派論者が岸井さんの発言を放送法違反だと非難するのは間違っていることになるのだが、しかし権力批判というジャーナリズム本来の役割を果たすことを「偏向」と非難されるというこの倒錯は、「戦争」を「平和」と言い換える安倍政権のもとでは一定の力を得てしまう怖れがあるから簡単ではない。
岸井さんへの右派からの攻撃は、『WiLL』最新号でも展開されているし、明らかにある種の政治的動きとなっている。ちなみに前出の『週刊プレイボーイ』の対談で古賀さんは岸井さんについて「来年4月からの降板が決まったと関係者から聞いています」と語っている。もちろん古賀さんはそれに反対して言っているのだが、うーん、こんなふうに断定的な印象を与える言い方をするのはどうなんだろうか。降板説が増幅されていくと既定の事実になってしまいかねない気もする。
それを逆手に取ったのが『週刊金曜日』12月4日号での佐高信さんのコラムだろう。「岸井成格ひとりがそんなに恐いのか」というタイトルがついたその論考の中で、佐高さんは岸井さんを降板させて後任に朝日新聞の星浩さんをという噂が出ていることを取り上げ、「声をかけられて、もし引き受けるとしたら、それは火事場泥棒でしょう」と酷評している。こんなふうに名前が取りざたされて批判されては、星さんも仮に打診があったとしても受けられなくなるわけで、佐高さんはたぶんそれを見越して書いているのだろう。
「ニュース23」についてはいろいろな情報が錯綜しているのだが、その錯綜する情報の中に、いろいろな思惑が込められてもいる。膳場さんの降板説がここへきて一気に吹きだした背景にも、何となくある種の思惑が感じられる。
岸井さんをめぐっては、こんなふうに政治的な問題となってしまったために、たぶんTBS上層部は困惑していると思う。どう対処するにせよ、いろいろ腹を探られることになる。降板騒動はまだしばらく続きそうだ。
ここは番組を今後どうするかという編成上の問題と別に、政治問題化した岸井バッシングに対しては毅然として対応しないとTBSのイメージが毀損されかねないことを強く訴えておきたい。
◆◆「放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピール
メディアへの官邸・自民党などへのさまざまの圧力の行使を放置できないと考えた研究者やジャーナリスト有志が、12月15日、「放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピール」を発表し、外国特派員協会で記者会見を行いました。以下は、アピール全文。
★★記者会見の動画(90m)は以下
https://m.youtube.com/watch?v=oYEorsAETtw&feature=youtu.be
◆放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピール
テレビ放送に対する政治・行政の乱暴で根拠のない圧力が目に余ります。
自民党筆頭副幹事長らによる在京テレビ報道局長への公平中立の要請、総務大臣によるNHK『クローズアップ現代』への厳重注意、自民党情報通信調査会によるNHK経営幹部の事情聴取、同党勉強会で相次いだ『マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけよう』といった政治家の発言、政治・行政圧力を批判したBPOの意見書を真摯に受け止めない安倍晋三首相、菅義偉官房長官、谷垣禎一自民党幹事長の発言など。
こうした政治・行政のテレビ放送に対する圧力が、テレビ報道を萎縮させて、人々に多様なものの見方を伝えるテレビという表現の場を狭め、日本の言論・表現の自由を著しく損なっていると私たちは考えます。
とくに政治家や行政責任者が、日本の放送を規定する『放送法』の趣旨や意義を正しく理解できず、誤った条文解釈に基づく行動や発言を繰り返していることは大問題です。放送法は第一条で、放送全体の不偏不党、真実、自律を保障することを公権力に求め、政治・行政の放送への介入を戒めています。
放送法は放送による表現の自由を確保することを目的とする法律であり、不偏不党や中立を放送局に求めてはいません。放送法第四条一項二の『政治的な公平』を番組ごとに要求したり、ある番組を放送法第四条違反と決めつけたりすることことはまったくの誤りで、首相の一方的な主張を伝える番組、ある法律に反対するキャスターを一方的に伝える番組、どちらもテレビに存在してよいのです。
その一方だけを放送法違反として排除するのはおろかです。およそ先進的な民主主義国では考えられないマスメディアへの介入によって、自由な民主主義社会を危うくしてはなりません。政治家や行政責任者には、表現の自由を謳う放送法を正しく解釈して、尊重し、テレビ放送への乱暴で根拠のない圧力を抑制することを強く求めます。政治家や行政責任者は放送が伝える人々の多様な声に耳を傾け、放送を通じて、政策を堂々と議論すべきです。
テレビやラジオには、表現の自由を謳う放送法を尊重して、自らを厳しく律し、言論・報道機関の原点に立ち戻って、民主主義を貫く報道をすることを強く求めます。放送局は圧力を恐れず、忖度や自主規制を退け、必要な議論や批判を堂々と伝えるべきです。
私たちは放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピールを通じて、問題の所在を内外のマスメディアに広く訴え、メディア関係者のみならず、多くの人びとに言論・表現の自由について真剣に考え、議論をしてほしいと願っています。
◆賛同人
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◆◆神保哲生・宮台真司対談=「安倍政権の放送法の解釈は間違っている」
★★神保哲生・宮台真司対談=安倍政権の放送法の解釈は間違っている(2015年11月21日)39m
https://m.youtube.com/watch?feature=youtu.be&v=kiJwPUVl03Y
BPO(放送倫理・番組向上機構)がNHK番組の「やらせ疑惑」をめぐり、高市早苗総務相による放送への介入を批判したことに対し、政権側が激しく反論を繰り広げている。
高市総務相と安倍晋三首相は11月10日の衆議院予算委員会で、放送法は総務相が放送局に対して行政指導を行う権限があると解釈していることを明らかにした。
「BPOというのは、法定の機関ではないわけでありますから、まさに法的に責任を持つ総務省が対応するのは当然であろうと思う。」安倍首相はこのように語り、放送法の4条は放送局への政府の指導を認めているとの認識を示した。
また、自民党がNHKの幹部を呼びつけて事情を聞いたことについて、BPOが「政権党の圧力そのもの」と批判したことについても、安倍首相は「予算を承認する責任がある国会議員が事実を曲げているかどうかを議論するのは当然のこと」と語った。
確かに放送法の4条は放送事業者に対して政治的な公平性や事実を曲げないことなどを求めている。
しかし、放送法はその第1条で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」を定めている。映画監督でBPOのメンバーを務める映画監督の是枝裕和氏が自身のブログで指摘するように、放送法を審議していた1950年の衆院電気通信委員会で当時の綱島毅電波監理庁長官が、この条文はそもそも放送事業者ではなく、政府に対して向けられたものであると答弁している。
つまり、放送法の第1条は放送局を縛ることを意図としたものではなく、放送局に対して政治に介入されることなく、不偏不党や真実を貫く権利を保障している条文だったのだ。また、そこで言う不偏不党や真実といった条件は、放送局自らが「自律」的に担保すべきものであることも、同条文は明確に謳っている。
それを前提に政治的な公平性や事実を曲げないことを求めている第4条を読めば、これらの条件も放送局が自律的に担保すべき基準と考えるのが自然だ。同じ法律の第1条で政治の介入を禁止しておきながら、第4条で政治が介入してもいいと書かれていると解釈することには無理がある。
そもそも日本国憲法21条は表現の自由や検閲の禁止を定めている。まず憲法21条が大前提として存在し、その下で放送法が第1条で権力の介入の禁止や放送局の自律的な不偏不党性や真実性を追求する権利を定めている。そして第4条で第1条で示した不偏不党性や真実性の具体的な要素として、政治的な公平性や事実を曲げないことなどを挙げているということになる。
しかし、安倍首相や高市総務相の国会答弁では、憲法21条と放送法の1条と4条があたかも同じ優先順位で並列に存在しているかのような認識が示されている。憲法21条と放送法1条の存在を無視して、全く独立した法律の条文として放送法4条を読むことによって、放送局には「政治的な公平性」や「事実を曲げないこと」が求められているので、これに違反した場合は行政が介入することが可能になると強弁しているに過ぎない。
これは元々それほど難しい問題ではない。憲法21条で表現の自由や検閲の禁止が保障されている以上、放送法がそれを認めることはそもそもあり得ない。放送という媒体の希少性や特殊性を考慮に入れても、公平性や真実性の制約は放送局が自律的に課すものでなければならないことは明白だ。また、もし放送法が高市総務相や安倍首相の答弁したように解されるのが正しい法解釈だとすれば、単にそのような放送法は憲法違反ということになるだけだ。
なぜ今日の日本では明白に憲法に抵触する、ありえないような法解釈がまかり通るのか。なぜ放送局はこのような法外な政府の解釈に反発しないのか。次々と表現の自由が切り崩されている現状について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
その他、原発事故直後に国外に避難したことで契約を解除された元NHKフランス人キャスターに勝訴判決など。
◆◆砂川浩慶=放送局が権力による違法な介入を蹴飛ばせない理由
(立教大学社会学部准教授)
★★放送局が権力による違法な介入を蹴飛ばせない理由/砂川浩慶氏(立教大学社会学部准教授)55m(2015年11月20日)
https://m.youtube.com/watch?v=mvnnI4EkjLg&feature=youtu.be
◯◯◯
BPO(放送倫理・番組向上機構)がNHK番組の「やらせ疑惑」をめぐり、高市早苗総務相による放送への介入を批判したことに対し、安倍政権は放送法は総務相放送局に対して行政指導を行う権限を認めていると主張している。
しかし、立教大学社会学部准教授で放送法が専門の砂川浩慶氏は、安倍政権の放送法の解釈は間違っていると指摘する。
砂川氏はまた、政権の誤った法解釈に対して放送局が反発できない理由として、放送局が政府から数々の特権を与えられている問題を指摘する。
砂川氏に放送法の解釈や放送免許制度の問題点、クロスオーナーシップの弊害などについて、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。
砂川浩慶(すなかわ ひろよし)
立教大学社会学部准教授
1963年沖縄県生まれ。1986年早稲田大学卒業。日本民間放送連盟職員を経て2006年より現職。編著に「放送法を読みとく」など。
◆放送法など参考条文
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
(定義)
第二条(略)
第二章 放送番組の編集等に関する通則
(放送番組編集の自由)
第三条 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
2 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送等の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。
(番組基準)
第五条 放送事業者は、放送番組の種別(教養番組、教育番組、報道番組、娯楽番組等の区分をいう。以下同じ。)及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。
2 放送事業者は、国内放送等について前項の規定により番組基準を定めた場合には、総務省令で定めるところにより、これを公表しなければならない。これを変更した場合も、同様とする。
◆◆聞いて呆れる首相担当記者たちのごっつぁん忘年会
(日刊ゲンダイ16.01.07)
◆◆テレビ報道の〝強み〟を封じた安倍自民=「抗議文」「要望書」で音声も消えた
水島宏明
2015年10月13日朝日新聞論座
安倍政権のテレビへの「コワモテ」は2006~07年の第1次政権から突出していた。
「やつらは本当にやばい」
「一線を越えて手を突っ込んでくる」
07年頃、ある民放キー局の経営者から直接聞いた言葉だ。「やつら」とは当時の安倍晋三首相と菅義偉総務相の2人。「一線」とはメディアと政治の間に引かれた線だ。メディアは国民の「知る権利」を背景にした権力監視が〝役割〟。一方、政治はメディアから監視・批判されるのが〝役割〟。歴代の権力者もこの線引きを尊重し、領分をわきまえてきた。ところが2人はこの線をやすやすと越え、威圧的に介入しようとする。
前述の経営者は「不祥事は起こすな」「起こせば政治家につけ入られる」とも語った。07年、関西テレビの『発掘!あるある大事典Ⅱ』での捏造事件をきっかけに菅総務相は放送法改正案を国会に上程。虚偽放送などの際に再発防止計画を策定させるなど、政府が放送局に対し「新たな行政処分」を科す権限強化案だった。マスコミ業界などから反対の声が上がり、放送局側は自ら設立した第三者機関BPO(放送倫理・番組向上機構)の組織改編(新たに放送倫理検証委員会を設置)を決めるなどで法改正は免れた。しかし安倍・菅ラインが不祥事に乗じて「監督強化」を狙う強烈な印象は関係者の記憶に強く刻まれた。
この時期、菅総務相はNHKの短波ラジオ国際放送に対して「北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること」と放送法に基づき命令した。法で認められた権限とはいえ、具体的な放送内容を指示する命令は前代未聞だった。
12年12月、安倍政権は復活した。第1次政権で総務相として放送局に睨にらみを利かせた菅義偉氏は官房長官として「メディアへの牽制」を行う司令塔になった。組織全体を統制するために「トップの首をすげ替える」手法で日銀、内閣法制局などのトップに従来の組織内の先例や規範等にこだわらない人物を配し、NHKでも籾井勝人氏を会長に就任させた。籾井氏は会長就任以来、失言などが注目されたが、他方、菅氏らがこだわる「国際放送の充実」をたびたび強調し、〝従軍慰安婦〟が「性奴隷」と英訳されて国際放送で放送された事件以降、局内のチェック強化を強めている。
◆第2次安倍政権以降に巧妙化する「アメとムチ」
第2次政権以降で際立つのが、安倍首相の単独取材・単独出演を材料に「アメ」と「ムチ」を使いわける手法だ。13年4月に首相は「情報番組」に相次ぎ出演した。TBSの情報番組『情報7daysニュースキャスター』がまず単独インタビュー。第1次政権退陣後の苦節の時期に書いたノートや夫人との私生活などが中心で、政策への報道的な質問は少なかった。ニュース番組よりも時間が長く、「素顔」に関心が向きがちな「情報番組」を利用する出演戦略だ。首相は日本テレビの朝の情報番組『スッキリ.』にも生出演。スタジオは「一国の首相が来てくれた」という高揚感に包まれた。首相は翌月に迫る長嶋茂雄・松井秀喜両氏の国民栄誉賞授与式での記念品が黄金のバットだと明かし、最後に両手を前に突き出す番組の決めポーズまで披露した。
国民栄誉賞の授与式は、プロ野球巨人戦の前の東京ドームで行われた。その直後の野球試合の始球式は投手・松井秀喜、打者・長嶋茂雄、主審・安倍晋三という顔ぶれで行われた。国民栄誉賞の授与という政府行事が特定のマスコミ、読売新聞・日本テレビと関係が深い施設で独占的に実施された。生中継も日テレだけが行った。一部メディアに与えられる「アメ」。これに対して他のメディアから異論も上がらず、メディアの従順化の地ならしが進んだ。
だが安倍政権の政治家たちの本質は「ムチ」=メディアに対する恫喝(どうかつ)だ。報道姿勢が意に沿わないと「偏向」というレッテルを貼り、ペナルティーを科してくる。
13年6月26日夜のTBS『NEWS23』は通常国会の閉幕を伝えた。首相の参議院予算委欠席で野党側が出した問責決議案が可決。重要法案とされた生活保護法改正案、生活困窮者自立支援法案、電気事業法改正案などが廃案になったことを焦点化して衆参の「ねじれ」を象徴する出来事だと報じた。田村憲久厚労相の「非常に残念」という肉声を使い、発送電分離のシステムを作る電気事業法改正案の可決に期待を寄せていた自然エネルギー財団の大林ミカ氏に「問責決議案の前に、法案の採決をしようとする動きもあったわけですから、結局与党がそうしなかったというのは、もともとシステム改革法案を通す気がなかったのかも。非常に残念」とコメントさせた。
翌日、自民党はTBSに対し、与党側の言い分を説明せず「著しく公正を欠いた」と抗議文を送る。参院選公示日の7月4日には党幹部への取材・出演拒否を発表。翌日、TBS報道局長が釈明に赴いたことで「事実上の謝罪があった」と取材・出演拒否を解除したが、第2次政権以降の自民党とテレビ局の力関係を決定づけた。後述する14年総選挙における自民党による主要テレビ局への「中立・公正を求める要望書」は、この〝成功体験〟で自信を深めた安倍自民党が「事前に釘刺し」したものだ。「要望書」は守らなかった場合はどうするとは書かれず、想像させることで威嚇効果があった。刀は実際に抜かない方が相手を萎縮させる効果がある。
◆「不自然さ」が増えたNHKのニュース
第2次、第3次安倍政権はテレビ各局がなんらかの形で政権に対する「気遣い」を見せ、局によって「割り切った報道」に徹した時期だ。顕著だったのがNHKだ。第2次政権以降、その幹部らさえ首をひねったのが、看板ニュース番組『ニュースウオッチ9』で「安倍首相が話す場面」が異常に長くなったことだった。国会審議や記者会見、ぶら下がりなど、場面は違っても毎晩、首相が話す映像と肉声が放送される。首相だからという理由では理解不能なほど多く、長い。各局のニュースを比較して観察する研究者の立場でみても突出した印象だった。
不自然な報道も増えた。参院選の公示2日前の13年7月2日、『ニュースウオッチ9』は「日米の非公式首脳会談」の映像を独自入手したとして、英国で行われていたG8サミットで安倍首相とオバマ大統領が立ち話をする映像を放映した。サミット開催で同時に普通は実施される日米公式00首脳会談が米国側に嫌われたのか実現せず、野党に批判されていた安倍首相。「オバマ大統領の信頼」を示す格好のニュースになった。メディアが立ち入れないサミット会場内で撮影された映像のリークであることは一目瞭然であった。
14年5月1日の『ニュースウオッチ9』で消費税が5%から8%に上がった1カ月後の景気状況のリポートが放映された。増税でデパートなどの売り上げが減少したが、「想定内」で「一時的」だと強調する。百貨店や飲食店などで「セレブ志向」「高級路線」を試みたところ売り上げが伸びたという実例が紹介され、消費増税の影響は限定的で、高級路線で売り上げは伸びる、という報道だった。増税によって一番の打撃を受けると言われた「低所得層」をあえて除外した不自然なニュースだった。
一方、安倍政権にとって本丸の政策、特定秘密保護法、憲法改正、原発再稼働、集団的自衛権、安保法案をめぐる問題では、NHKのニュースでは主に用語の説明や政権の意図の解説に終始し、法案や政策の中身を懸念する主張を入れる場合にも識者の声を登場させず、政党関係者の声に限って使うという「政治部報道」に徹している。自らの調査・取材で問題点を指摘せず、各政党の主張を並べる「割り切った報道」だった。
これでは視聴者には複雑な問題がわかりにくい。NHKのニュース番組を見ても視聴者には問題の本質や論点がよくわからない状態が続いている。特定秘密保護法や安保法案など、政権が想定する状態が複雑になればなるほど「情報監視審査会」「独立公文書管理監」「グレーゾーン事態」「武力攻撃事態」「存立危機事態」などの耳慣れない用語が登場し、その解説で報道の大半が終わってしまう。
安倍政権は幹部が一部メディアの経営者らと頻繁に会食を繰り返し、様々な報道をチェックし、官邸詰めの記者らを通じてクレームや注文を伝えるなど、メディア対策は綿密だ。
◆後藤健二さん殺害のニュースで「政治部的な報道」
まるで安倍政権と一体化したような報道では?と感じたのは15年2月1日のNHK『ニュース7』だった。その早朝に飛び込んだフリージャーナリスト後藤健二さん殺害の報。テロ組織「IS」の人質だった彼の殺害がネット上で確認され、関係者の悲しみの声など放送した後で「政治部の岩田明子記者」が生出演した。彼女は「政府は後藤さんの解放に全力を挙げてきた」と政権の努力を伝え、首相とヨルダンのアブドラ国王との首脳同士の信頼関係が背景にあってヨルダン人パイロットを絡めた解放交渉ができたと解説した。国家安全保障会議(日本版NSC)を設置したことで各国の情報機関からも詳細な情報が得られたと政権内部の自己評価を紹介、安倍政権の危機対応体制が機能したことを強調した。戦争で傷つく子どもの姿を伝えてきた後藤さんの最期を「日本人の安全対策やテロ対策に万全を」「政府としては国際社会と連携してテロとの戦いに取り組む」など、政治の言葉でからめとる報道姿勢には強い違和感を抱いた。
「政治部の岩田明子記者」は首相の訪米や戦後70年談話などの「節目」でNHKがここぞとばかり登場させる。政権の「意図」や「狙い」、安倍首相の「思い」を解説する役割が多く、首相の代弁役に徹する立ち位置のように思われる。
14年11月18日、衆院解散と総選挙実施を決めた夜、安倍首相はTBS『NEWS23』に生出演した。途中で挿入された街頭インタビューのVTRはアベノミクスの効果を感じるかを問うもので、感じないという声がやや多かったが、「これ、全然声が反映されていません。おかしいじゃありませんか」と首相は声を荒らげた。
2日後の11月20日。自民党はNHKと民放キー局に対して、選挙報道の公正中立を求める「要望書」を提出した。4項目と細かい点にまで公正中立を求めていたことが特徴的だった。
4項目とは(1)出演者の発言回数や時間(2)ゲスト出演者の選定(3)テーマ選び(4)街頭インタビュー、資料映像の使い方だ。
◆自民党による「要望書」の効果? テレビに起きた「異変」
要望書で報道は影響を受けたのか。
筆者は14年の総選挙の投票前のNHKおよび民放キー局の報道番組・情報番組すべてを録画し検証した。12年の総選挙では報道番組・情報番組について放送データや視聴記録が残っているものを利用して比較した。
解散前、解散後で公示前、公示後で投票日前の選挙期間中という3期間の放送で12年と14年を比べてみると、いくつかの「異変」があることが判明した。
◆異変その1 消えた「街頭インタビュー」
テレビにとって「街頭インタビュー」は人々の感じ方や考え方、流行等を伝える大事なツールだ。情報番組では、「あなたの弁当にまつわるエピソードは?」「いざ勝負の時、あなたのゲン担ぎは?」などの声を集めた面白企画があるほど「街頭インタビュー」はテレビの武器でもある。ところが14年の総選挙では自民党の「要望書」が出された後、街頭インタビュー(被災地の声など、無差別に一般市民の声を収録したもの)は、一部のテレビ局や一部の番組を除き、多くの番組で姿を消した。典型例が日本テレビだ。日テレは12年の総選挙では情報番組『スッキリ.』と報道番組『NEWS ZERO』で街頭インタビューを使っていたが、14年は系列の読売テレビが制作する『情報ライブ ミヤネ屋』を除いて自局制作の番組で街頭インタビューを一切使っていない。
◆異変その2 「資料映像」の使用も消極的に
テレビの人間以外にはわかりにくいが、「資料映像」とは特定の日付で撮影された過去映像を「一般的な表現」として用いる際の呼び方だ。たとえば自衛隊の訓練の様子を撮影した映像を、防衛予算などのニュースで使用する場合が該当する。また過去の映像全般を指す場合もある。
14年の選挙報道においては一般的な「農業」についてのテーマで農作業風景、「防衛」のテーマで海上自衛隊の艦艇など一般的な資料映像の使用は数えるほどだった。政治とカネで辞任した元閣僚(小渕優子元経産相)の過去映像(辞任会見で頭を下げる場面)を本人が候補で出馬する「選挙区情勢」で使った例が群馬5区の報道であった程度。だが、石原伸晃環境相(当時)の「最後は金目でしょ」発言や松島みどり法相(当時)の「うちわ」問題、宮沢洋一経産相(当時)の「政治活動費でSMバー」問題、江渡聡徳防衛相(当時)の疑惑が指摘された収支報告をめぐる過去映像はほとんど登場しなかった。自民党にとって不利と思われる過去映像の使用が意識的に控えられた印象がある。
また過去映像では12年の解散総選挙の引き金を引いた与党・野田佳彦vs.野党・安倍晋三の党首討論も使用が注目された。消費税を上げる前に国会議員の定数是正を自民党・安倍総裁が約束するのと引き換えに解散総選挙実施を野田首相が表明した場面だが、自民党政権の下でその後も定数是正が実現していない〝約束違反〟を示す重要な「資料映像」でもある。「要望書」が出る前はテレビ朝日の情報番組が一度使用した例があったものの「要望書」の後はキー局で使った局はない。日テレ系では読売テレビが制作する『ウェークアップ!ぷらす』が一度使ったが日テレそのものは使っていない。
麻生太郎副首相が選挙期間中にした「高齢者よりも子どもを産まない人の方が問題だ」「この2年間で利益を出していない企業は…経営者に能力がないから」との発言もニュースになったが、さかのぼって過去の問題発言の「資料映像」を使う番組もなかった。
総選挙で「政策」の報道はどうだったか。
「報道番組」では12年総選挙では日テレ『NEWS every.』が「原発ゼロで暮らしは?」と各党の主張を並べ、テレ朝『報道ステーションSUNDAY』が「『続原発』『脱原発』『卒原発』その先の日本は?」の特集で経団連などの主張も紹介。フジ『新報道2001』が「〝脱〟〝卒〟〝フェードアウト〟乱立『脱原発』の本気度」を放送。どの局も「原発」「復興」「TPP」の政策を扱っていた。
◆異変その3 情報番組で消えた「政策報道」
ところが14年にはNHKのニュース番組の他は「政策」ごとにシリーズで放送したのは民放ではテレ朝『報道ステ』『Jチャン』、TBS『NEWS23』『Nスタ』だけだった。
「情報番組」も12年の総選挙では(「乱!総選挙2012」など)統一キャッチフレーズでシリーズ放送した番組はTBS『みのもんたの朝ズバッ!』『ひるおび!』、テレ朝『モーニングバード!』『ワイド!スクランブル』、日テレ(読売テレビ制作)『情報ライブ ミヤネ屋』など多かった。群を抜いていたのがフジ『とくダネ!』で選挙期間中ほぼ毎日、政策についてのシリーズ「総選挙SPニッポンの選択」を放送。TPP、原発、地方再生、消費税、子育て支援などのテーマで、賛成、反対に分かれて主張を展開した。「ジャーナリズム性が高い」と評価され、ギャラクシー賞月間賞にも選ばれている。
それが14年総選挙では「政策」シリーズばかりか選挙に関連した特集そのものがあらゆる「情報番組」から消えた。
◆異変その4 消えた「政治家同士の討論」
12年は「情報番組」で生放送での政治家の討論コーナーが多かったが、14年にはすべての「情報番組」で前述のように選挙特集そのものがなくなった。
「報道番組」でも12年の公示前にはニュース番組で「与党・民主党の幹部vs.野党・自民党の幹部」という組み合わせで小さな政党を除いた討論コーナーが数多くあった。しかし14年は「全政党による党首討論」スタイルばかりになった。多政党乱立で一言ずつ言いっ放しで終わり、充実した議論ができない。コーナーの数も著しく減り、各番組で1回ずつやる程度で終わった。
分析すると、街頭インタビューが激減し、情報番組では選挙特集自体が消えるなど、12年総選挙と比べ14年総選挙での衰退ぶりは明らかだ。ただ、それが「要望書」による影響かどうかは証明が困難だ。「選挙に関する視聴者の関心が低く、視聴率を取れないので扱わなかった」(司会者の田原総一朗氏)という声がある一方、「街頭インタビューは使わないようにとの指示が上層部からあった」(キー局報道局記者)との声もある。
街頭インタビューは「国民の感じ方」を伝えるためにふだんから使用されるテレビの重要なツールである。「資料映像」の使用も過去の出来事を視覚的に想起させる強みを持つ手法だ。「生放送での討論」も「テレビの強み」だが、14年にはそろって姿を消した。各局が総選挙の報道で「テレビらしさ」を放棄した格好だ。
◆「不祥事につけ入る」構図でBPO改革案も
第1次安倍政権でテレビ局の不祥事に乗じて介入強化を目論んだ姿勢は第2次、第3次政権でさらに露骨になった。15年3月27日にテレビ朝日『報道ステーション』でのコメンテーター・古賀茂明氏による「菅官房長官を始め、官邸からすごいバッシングを受けてきた」という爆弾発言がきっかけになり、テレビ朝日が標的になった。菅官房長官は後の記者会見で「まったくの事実無根」としながらも「放送法という法律があるので、まずテレビ局がどう対応されるのかを見守りたい」と発言。総務相時代の対応を振り返れば「放送法」を強調する意味は明白だった。菅氏同様に総務相の経験がある佐藤勉国会対策委員長はテレ朝幹部を個別に呼んで説明させた。テレビ朝日は再発防止策をまとめて発表した。
4月17日、自民党の情報通信戦略調査会(会長・川崎二郎元厚労相)はテレビ朝日の幹部を呼びつけて「聴取」を行った。この「聴取」にはNHKの幹部も呼びつけられた。この時期、NHKは看板報道番組の『クローズアップ現代』(追跡〝出家詐欺〟~狙われる宗教法人~)の「やらせ疑惑」を週刊誌で追及され、外部委員も交えた調査委員会の調査報告をまとめていた。
この流れを受けて、自民党の有力な総務族議員からは「BPOの組織を改編して規制を強化」「政府がBPOに関与」などの議論が出されている。BPOはNHKと日本民間放送連盟が共同出資で運営する組織で、法律が定める組織ではない。これまで第三者委員会方式で個別の事案を審議。勧告・意見などを出して各放送局が自主的に再発防止に努める助言を行ってきた。
ところが自民党の一部議員の「改革案」では、これを法律で担保された組織に格上げし政府によるBPO委員の任命や官僚(またはその出身者)の就任などの案も出ている。
BPOは放送局による放送倫理違反や人権侵害などを議論する現在唯一の組織だが、その審議においては放送局側の「自主的な協力」で「番組の提供」や「制作者の聞き取り」が行われている。BPOは強制力を持たず、局には法律上その意見に従う義務もない。是非を判断する委員たちは弁護士、大学の研究者らが中心で放送や報道の実務を経験していない人も多い。それゆえ現場から見れば現実離れした意見が出ることもあり、丁寧に判断してほしいと思う場面も少なくない。
与党議員の「改革案」の背景には、BPOがいくら介入してもテレビの不祥事はなくならないという国民の不満がある。
他方、政府がBPOを直接統制する仕組みにすると政権の恣意的な運用になりかねない。6月に起きた自民党勉強会での「報道圧力」発言は、報道機関の自主性を尊重せず権力的な介入を志向する議員が相当数いることを明らかにした。報道機関を「懲らしめるには広告収入をなくすのが一番。経団連に頼んでスポンサーを降ろさせてしまえばいい」などの発言は政治とメディアの「一線」への無理解を示している。この「報道圧力」発言にニュースキャスターらも反発し、新聞協会、民放連なども危機感を表明した。だが、この「政治の本音」は今後も底流に残るだろう。
筆者は「BPO改革」と「報道圧力」が連動するのを恐れる。これまで放送に関してはBPOが防波堤になり、権力が放送に直接「手を突っ込む」のをくい止めてきた。たが、国民にその存在意義が理解されているとは言いがたい。
BPOと放送業界には、不祥事の再発防止でもっと効果的で厳しさを伴う仕組みに変える努力が求められる。また政府から独立した第三者機関が審査する現システムの意義を、もっとアピールしてほしい。
「音」消しなど「テレビらしさの放棄」が進んでいる
戦後70年を迎えたこの夏、テレビで何度か「音」が消された。沖縄戦での戦没者を弔う「慰霊の日」の追悼式典では安倍首相に対して出席者から投げかけられた罵声も、NHKやいくつかの民放のニュースで音声を聞かせない編集が行われた。安保法案の国会審議で安倍首相が複数回飛ばしたヤジも、音声を消し、ヤジ行為そのものを伝えないなど「不自然さ」が目につく。ヤジは映像なら状況や発話者の品性まで伝わるが、もし音を消したら悪質さの度合い等は伝わらない。
安保法案が採決された衆院特別委の質疑もNHKは中継しなかった。NHKは「各党、各会派が揃って委員会の質疑に応じるのが決まったのは当日の委員会直前の理事会であり、質疑を中継する準備が間に合わなかった。採決の模様は定時ニュースを拡大させて伝えたほか、当日のニュース番組でも詳しく伝えている」と説明。「ニュースと異なり、NHKの国会中継は、各会派が揃った上で、平等に、きちんとした発言の機会が与えられることが大前提」とする。だが災害も大事件も我先に中継するNHKが、ケーブルやカメラ等が常設された国会で中継の準備が間に合わないとは信じがたい。
安保法案では憲法学者が相次ぎ「違憲」表明した衆院特別委での参考人招致や「法的安定性は関係ない」と発言した礒崎陽輔首相補佐官の参院特別委での参考人招致も国会中継されなかった。NHKが放送せず、視聴者は「放送」で〝生中継〟を見ることができなかった。代わりに注目されたのはフジテレビのネット上の映像ニュースサイト「ホウドウキョク」だ。衆院特別委の採決や礒崎補佐官の招致をほぼ全編〝生中継〟し、いつも以上のPV数を稼いだ。
「放送」や「NHK」に期待する視聴者は減り、ネットに逃げていく。政治的な問題には最大の強みである「生放送00」をせず、「音」を聞かせず、「過去映像」「街頭インタビュー」も避けるテレビ。「強み」を自ら放棄する現状は自殺行為といえる。
◆現状を「追認する」テレビ報道
テレビニュースでは、局によっては与党の意図を代弁し、与党が描く結果を先取りするような伝え方は枚挙にいとまがない。13年7月の参議院選挙の投票日当日の朝のNHKニュースは「ねじれが解消されるかどうかが焦点になっている参議院選挙」というリード文をつけた。「ねじれは解消すべきもの」という世論誘導と受け取られかねないため、こうした「リード文」を避ける報道機関があるなかでのリード文だった。「与党の思惑」に呼応するかのような報道姿勢が他局でも目につく。
15年7月、安保法案が衆院本会議を通過した際に「これで安保法案の成立は確実とみられる」「確実になった」などと一報のニュースで報じたテレビ局もあった。参議院での廃案や60日以内に参院で成立しない場合に衆院で3分の2以上の多数で再可決すれば成立する「衆院の優越」を踏まえての報道で、確かに「解説」としては問題ない。しかし「本記ニュース」に入れるのが適切かどうかは微妙だ。「もう決まったこと」「何をしても変わらない」というメッセージを広く伝えることにもなりかねないからだ。
「戦後70年談話」が発表された8月14日、NHK『ニュース7』では「政治部の岩田明子記者」が再び登場した。彼女は首相が安保法制成立を約束した訪米にも同行して「首相の思い」を伝えたが、安倍首相の重要案件の会見などで「政権の考え」「首相の思い」を代弁し、この夜もその代弁役に徹しているように感じられた。その2時間後の『ニュースウオッチ9』には安倍首相自身が生出演、談話について自ら解説した。この日のNHKニュースは「首相の思い」を伝える時間が長く、一方で批判的な視点は欠落したような報道になった。
2015年9月現在、国会周辺では安保法案が違憲だとして反対する集会やデモが連日開かれている。若者、主婦、弁護士、大学教員らがそれぞれ何百人単位で意見表明を行い、法案の行方を見守っている。様々な団体が一堂に会する場である学者が「報道はどこにいる?」と疑問を投げかけたことがネットで話題になった。報道が見えない、報道はいないのか、という問いかけだった。
安倍政権で「報道」が消えつつある。特にテレビ報道は強みを発揮できず機能不全だ。政治との「一線」はどうあるべきで、「テレビの強み」「らしさ」は何なのか。もう手遅れかもしれないが、一度立ち止まって考えてみてほしい。
※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』10月号から収録しています。同号の特集は「日本社会はどこに向かうのか?」です。
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2016年4月27日朝日新聞
熊本地震に関連する原発報道について「公式発表をベースに」と内部の会議で指示していたNHKの籾井勝人会長が、同じ会議で「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」などとも指示していたことが26日、関係者への取材で分かった。
会議は20日に開かれた災害対策本部会議。朝日新聞が入手した会議の記録では、専門家に言及した部分はなかった。「発言をそのまま載せると問題になると考え、抜いたのでは」と話す関係者もいる。NHK広報局は「部内の会議についてはコメントできない」としている。
この会議について籾井氏は26日の衆院総務委員会でも質問を受けた。民進党の奥野総一郎氏に対し、「事実に基づいて、モニタリングポストの数値などを、我々がいろんなコメントを加味せずに伝えていく」などと述べ、公式発表をそのまま報じるべきだという考えを改めて示した。公式発表が何を指すかについては、気象庁や原子力規制委員会、九州電力が出しているものをあげた。指示については「原子力規制委員会が安全である、あるいは(運転を)続けていいということであれば、それをそのまま伝えていくということ。決して、大本営発表みたいなことではない」と説明した。
だが、局内には冷ややかな空気が流れる。NHK報道局の中堅記者は「悲しい現実だが、またやったか、という思いもある。今後も現場は視聴者のための情報を伝える使命を持ち続けたい」と語った。
籾井氏の姿勢については専門家の間から疑問の声が上がっている。音好宏・上智大教授(メディア論)は「NHKは、政府などの公式発表より早く現場の事実を伝えることも可能な組織だ。東日本大震災の際、福島中央テレビが東京電力福島第一原発の水素爆発を撮影し、その映像を報じた。籾井氏の発言通りだとすれば、同様のことが起こっても、NHKは政府などの公式見解が出るまで映像を流してはいけないことになる。それはNHKの編集権の放棄であり、報道機関としての自殺行為ではないか」と指摘する。
大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理)は「籾井氏はジャーナリズムの役割を理解していない。公式発表を批判的に検証する視点が全くない。公式発表を伝えることがメディアの役割だとすれば、広報だと思っているに等しい」と話している。(後藤洋平、佐藤美鈴)
◆◆テレビ各局はTBS見習え
(赤旗日曜版16.04.24)
◆◆「報道の自由」72位 日本に海外から懸念も
2016年4月21日朝日新聞
日本の「報道の自由」が後退しているとの指摘が海外から相次いでいる。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が20日に発表したランキングでは、日本は前年より順位が11下がって72位。国連の専門家や海外メディアからも懸念の声が出ている。
国境なき記者団は、180カ国・地域を対象に、各国の記者や専門家へのアンケートも踏まえてランキングをつくっている。日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、「東洋の民主主義が後退している」としたうえで日本に言及した。
特定秘密保護法について、「定義があいまいな『国家機密』が、厳しい法律で守られている」とし、記者が処罰の対象になりかねないという恐れが、「メディアをまひさせている」(アジア太平洋地区担当のベンジャマン・イスマイール氏)と指摘した。その結果、調査報道に二の足を踏むことや、記事の一部削除や掲載・放映を見合わせる自主規制に「多くのメディアが陥っている」と報告書は断じた。「とりわけ(安倍晋三)首相に対して」自主規制が働いているとした。
日本の報道をめぐっては、「表現の自由」に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大アーバイン校教授)が調査のため来日。19日の記者会見で「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と指摘した。
海外メディアも、米ワシントン・ポスト紙が先月の「悪いニュースを抑え込む」と題した社説で、政府のメディアへの圧力に懸念を表明。英誌エコノミストも「報道番組から政権批判が消される」と題した記事で、日本のニュース番組のキャスターが相次いで交代したことを紹介した。(青田秀樹=パリ、乗京真知)
◆報道の自由度ランキング
(カッコ内は前年順位)
<上位5カ国>
1 フィンランド(1)
2 オランダ(4)
3 ノルウェー(2)
4 デンマーク(3)
5 ニュージーランド(6)
<G8国>
16 ドイツ(12)
18 カナダ(8)
38 英国(34)
41 米国(49)
45 フランス(38)
72 日本(61)
77 イタリア(73)
148 ロシア(152)
<ワースト5カ国>
176 中国(176)
177 シリア(177)
178 トルクメニスタン(178)
179 北朝鮮(179)
180 エリトリア(180)
◆◆日本の報道の独立性に「脅威」 国連報告者「政府の圧力、自己検閲生む」
2016年4月20日朝日新聞
記者会見する国連「表現の自由」特別報告者デービッド・ケイ氏(右)=東京都千代田区の外国特派員協会、北野隆一撮影
「表現の自由」に関する国連特別報告者として初めて公式に訪日したデービッド・ケイ氏(米国)が日本での調査を終え、19日に東京都内で記者会見した。「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面している」として、メディアの独立性保護や国民の知る権利促進のための対策を講じるよう政府に求めた。
ケイ氏は日本政府の招きで11日から訪日。政府職員や国会議員、報道機関関係者やNGO関係者らの話を聞き、「特定秘密保護法や、『中立性』『公平性』を求める政府の圧力がメディアの自己検閲を生み出している」と分析。「ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた」と述べた。
放送法をめぐっては「放送法のうち(政治的公平性などを定めた)第4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだ」と提言。高市早苗総務相が番組の公平性を理由に放送局の「電波停止」に言及した発言をめぐって、高市氏との面会を希望したが「国会会期中との理由で会えなかった」と明かした。
特定秘密保護法については「原発や災害対応、安全保障など国民の関心が高い問題の政府情報が規制される可能性があり、内部告発者の保護体制も弱い」と懸念を示した。
ヘイトスピーチ対策については「ヘイトスピーチの法律は悪用の恐れがある。まずは人種差別禁止法を作るべきだ」と提言。慰安婦問題など歴史問題については「戦争中の罪を教科書でどう扱うかについて政府が介入することは、国民の知る権利を脅かし、過去の問題に取り組む力を低下させる」と懸念を示した。記者クラブの排他性も指摘した。
ケイ氏は米カリフォルニア大アーバイン校教授で国際人権法などが専門。2014年、国連人権理事会から特別報告者に任命された。今回の訪日についての報告書は17年に人権理事会に提出する予定という。(編集委員・北野隆一)
◆◆新しいキャスターに望む
(赤旗日曜版16.04.10)
◆◆報道ステーション最終回古舘氏「死んでまた再生します」/あいさつ全文
古舘伊知郎キャスターが、3月31日の放送でテレビ朝日「報道ステーション」の出演を終えた。番組最後のスピーチは以下の通り。
★古舘伊知郎報ステ最終回あいさつ8m
(音声)https://m.youtube.com/watch?v=9dsJYltuXDU
または
(動画)https://m.youtube.com/watch?v=JTnYwgYTaKM
私が大変気に入っているセットも今日が最後。04年4月に産声を上げ、12年の月日があっという間にたちました。私の古巣である、学舎であるテレビ朝日に貢献できればという思いも強くあって、この大任を引き受けさせていただきました。おかげさまで風邪などひとつもひくことなく、無遅刻無欠勤で12年やらせていただくことができました。これもひとえに、テレビの前で今、ご覧になっている皆様方の支えあったればこそだなと、本当に痛感をしております。ありがとうございました。
私は毎日毎日この12年間、テレビ局に送られてくる皆様からの感想、電話、メールをまとめたものをずーっと読ませていただきました。お褒めの言葉に喜び、徹底的な罵倒に傷ついたこともありました。でも全部ひっくるめてありがたいなと今思っております。
というのも、ふとある時気づくんですね。いろんなことを言ってくるけれども、考えてみれば私もこの電波という公器を使っていろんなことをしゃべらせていただいている。絶対誰かがどこかで傷ついているんですよね。それは因果はめぐって、自分がまた傷つけられて当然だと、だんだん素直に思えるうになりました。こういうふうに言えるようになったのも、皆様方に育てていただいたんだなと、強く思います。
そして、私がこんなに元気なのになんで辞めると決意をしたのかということも簡単にお話しするとすれば、そもそも私が12年前にどんな報道番組をやりたかったのかということにつながります。実は言葉にすると簡単なんです。もっともっと普段着で、もっともっとネクタイなどせず、言葉遣いも普段着で、普通の言葉でざっくばらんなニュース番組を作りたいと、真剣に思ってきたんです。
ところが現実はそんなに甘くありませんでした。たとえば、「いわゆるこれが事実上の解散宣言とみられております」と、「いわゆる」がつく。「事実上の」をつけなくてはならない、「みられている」と言わなくてはならない。これはどうしたって必要なことなんです。放送する側としても誰かを傷つけちゃいけないと、二重三重の言葉の損害保険をかけなければいけないわけです。そういうことをガチッと固めてニュースをやらなければならない。そういう中で、正直申しますと、窮屈になってきました。
もうちょっと私は自分なりの言葉、しゃべりで皆さんを楽しませたいというようなわがままな欲求が募ってまいりました。12年やらせていただいたというささやかな自負もありましたので、テレビ朝日にお願いして「退かせてください」ということを言いました。これが真相であります。
ですから、世間の一部で、なんらかのプレッシャー、圧力が私にかかって、辞めさせられるとか、そういうことでは一切ございません。そういう意味では、私のしゃべりを支持してくれた方にとっては、私が辞めるというのは、裏切りにもつながります。本当にお許しください。申し訳ありません。私のわがままです。
ただ、このごろは、報道番組で開けっぴろげに昔よりもいろんな発言ができなくなりつつある空気は私も感じています。この番組のコメンテーターの政治学者の中島先生が教えてくれました。「空気を読む」という人間には特性がある。読むから、一方向にどうしても空気を読んで流れていってしまう。だからこそ反面で「水を差す」という言動や行為が必要だと。私、その通りだと思います。つるんつるんの無難な言葉で固めた番組などちっとも面白くありません。人間がやっているんです。人間は少なからず偏っていきます。だから、情熱をもって番組を作れば、多少は番組は偏るんです。全体的に、ほどよいバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけばいいという信念を私は持っています。
という意味では、12年間やらせていただく中で、私の中でも育ってきた報道ステーション魂を、後任の方々にぜひ受け継いでいただいて、言うべきことは言う、間違いは謝る。激しい発言というのが、後年議論のきっかけになっていい方向に向いたじゃないかと、そういうこともあるはずだと信じております。
考えてみれば、テレビの一人勝ちの時代がありました。そのよき時代に乗って、あの久米宏さんが素晴らしい「ニュースステーション」というニュースショーを、まさに時流の一番槍をかかげて突っ走りました。私はその後を受け継ぎました。テレビの地上波もだんだん厳しくなってきた。競争相手が多くなりました。そういう中でも、しんがりを務めさせていただいたかなと、ささやかな自負は持っております。
さあ、この後は通信と放送の二人羽織、どうなっていくんでしょうか。厳しい中で、富川悠太アナウンサーが4月11日から引き継ぎます。大変だと思います。しかし彼には乱世の雄になっていただきたいと思います。私はこの12年の中で彼をすごいなと思ったのは、1回たりとも仕事上のグチを聞いたことがありません。そういう人です。精神年齢は私よりもずっと高いと思っています。どうか皆さん、3カ月や半年あたりでいいだ悪いだ判断するのではなく、長い目で彼の新しい報道ステーションを見守っていただきたいと思います。本当につらくなったら私に電話してきてください。相談に乗ります。ニュースキャスターというのは、本当に孤独ですからね。
私は今こんな思いでいます。人の情けにつかまりながら、折れた情けの枝で死ぬ。「浪花節だよ人生は」の一節です。死んでまた再生します。皆さん、本当にありがとうございました。
🔴🔴No.2
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◆当ブログ=安倍首相のメディア工作とNHK乗っ取り計画❶
http://blog.livedoor.jp/kouichi31717/archives/2766489.html
◆◆(インタビュー)テレビ報道の現場「報道特集」キャスター・金平茂紀さん
NHK、TBS、テレビ朝日の看板キャスターがこの春、相次いで交代する。そんななか、高市早苗総務相による放送法違反を理由とした「停波」発言も飛び出した。テレビ局の報道現場でいま、何が起きているのか。TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀さんに話を聞いた。
――テレビの報道ニュース番組が偏向している、という声が出ています。安保法制の報道を巡り、昨年11月読売新聞と産経新聞に掲載された「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」の意見広告では、TBSの番組「NEWS23」が名指しで批判されました。
「だれが偏向だと判断するんですか。お上ですか、政治家ですか。日々の報道が公正中立かどうかを彼らが判断できるとは思わないし、正解もない。歴史という時間軸も考慮しながら、社会全体で考えていくしかないでしょう。議論があまりにも粗雑過ぎます」
――偏向を指摘された番組アンカーの岸井成格さんが「NEWS23」から降板しました。
「NHKの国谷裕子さん、テレビ朝日の古舘伊知郎さんもこの春、降板します。僕も記者ですから取材しました。3人とも事情は違うし、納得の度合いも違う。一緒くたに論じるのは乱暴すぎます。安倍政権の圧力に屈したという単純な構図ではない。しかし、報道番組の顔が同時にこれほど代わるというのは単なる偶然では片づけられません」
■ ■
――本当に圧力とは関係ないのですか。
「会社は『関係ない』と説明しています。岸井さんも『圧力はなかった』と記者会見で発言しました。しかし、もし、視聴者のみなさんが納得していないとすれば、反省しなければなりません」
――金平さん自身、3月31日付で執行役員を退任されます。何かあったのでしょうか。
「会社の人事ですから、その質問をする相手は、僕ではなく、会社でしょう。事実として残るのは、TBSで最も長く記者をしてきた人間の肩書が変わったということです。いずれにせよ僕は、どのような肩書であろうが、なかろうが、くたばるまで現場で取材を続けるだけですが」
――政治、とりわけ自民党による放送番組に対する圧力は歴史的に繰り返されてきました。
「1967年7月、TBSの報道番組『ニュースコープ』のキャスターだった田英夫さん(故人)が、北ベトナムに日本のテレビとして初めて入りました。ベトナム戦争で、米国に爆撃されている側からリポートするためです」
「その取材をもとに特別番組を放送したのですが、放送行政に影響力を持つ、いわゆる『電波族』の橋本登美三郎・自民党総務会長が、当時のTBS社長に『なぜ、田君にあんな放送をさせたのか』とクレームをつけた。さまざまな経緯の末、田さんは実質的に解任され、社を去りました。田さんの報道は、当時は反米・偏向だと政権ににらまれたのかもしれません。が、ベトナム戦争がたどった経過を考えれば、事実を伝えたとして評価されこそすれ、偏向だと批判されるいわれはありません」
――当時、TBS社内は、田さん降ろしに抵抗したと聞いています。岸井さんの件でいま、社内はどうなのでしょうか。
「おおっぴらに議論するという空気がなくなってしまったと正直思いますね。痛感するのは、組織の中の過剰な同調圧力です。萎縮したり、忖度(そんたく)したり、自主規制したり、面倒なことを起こしたくないという、事なかれ主義が広がっている。若い人たちはそういう空気の変化に敏感です」
――同調圧力ですか?
「記者一人ひとりが『内面の自由』を持っているのに、記事を書く前から社論に逆らってはいけないという意識が働いている。それが広く企業ジャーナリズムの中に蔓延(まんえん)している。権力を監視する番犬『ウォッチドッグ』であることがジャーナリズムの最大の役割です。しかし現実には記者のほうから政治家や役人にクンクンすり寄り、おいしい餌、俗に言う特ダネをあさっている。こんな愛玩犬が記者の多数を占めれば、それはジャーナリズムではない。かまない犬、ほえない犬に、なぜだといっても『僕らはほえないようにしつけられてきた。かみつくと損になるでしょ。そう教えられてきた』。そんな反応が現場の記者から返ってくるわけです」
■ ■
――報道の現場は深刻ですね。
「ジャーナリズム精神の継承に失敗した責任を痛感しています。僕自身も含め、過去を学び、やり直さないといけない。安保法制、沖縄の基地問題、歴史認識や福島第一原発事故など、僕らの国のテレビは独立・自立した存在として、報じるべきことを報じているのか。自責、自戒の念がわきあがってきます」
「戦争の翼賛体制下でメディアは何をしてきたのか。放送も新聞も権力の言いなりとなり、国策と一体化した報道をやった『前歴』がある。戦後、その反省に立ち、放送局は政治権力から独立し、国家が番組内容に介入してはならぬ、という精神で放送法が生まれた。電波は国民のものであり、自主・自律・独立でやっていく。放送の原点です。ところが、政権側には、電波はお上のものであり、放送局を法律で取り締まるという逆立ちした感覚しかありません」
――高市早苗総務相が放送法の規定をもとに、放送の内容によっては「電波停止もあり得る」と発言しています。当事者であるテレビ局の報道に迫力を感じません。
「僕はニュース価値があると思って担当の番組で発言しました。ところが、発言があったこと自体に触れないテレビ局もあった。自分たちの生命線にかかわる話なのに、ニュースとして取り上げない。えっ、どうしてなんだろうと思いましたね。テレビ朝日の『報道ステーション』やTBSの『NEWS23』『サンデーモーニング』はこの発言の持つ意味も含めて報道していました」
「先日、田原総一朗さんや岸井さんらと記者会見しました。他局のキャスター仲間何人かに声をかけたのですが、参加者はあれだけというのが現実です。それでも、誰ひとり声を上げずにいて、政治権力から『やっぱり黙っている連中なんだ』なんて思われたくはないのです。こういう社外からの取材をリスクをおかしながら受けているのもそのためです」
「一昨年の総選挙の前に、自民党が選挙報道の『公平中立』を求める文書をテレビ各局に送りつける、という『事件』もありました。そのこと自体が僕の感覚ではニュースです。でも社内の会議で話題にはなってもニュースとしては扱わない。危機管理ばかりが組織で優先され、やっかいごとはやりたくないということになる。僕はそれが耐えられなかったから、担当の番組でコピーを示し、こういう文書が送りつけられたと伝えた。中には『あんなことをやりやがって』と思っている人もいるかもしれませんが」
――危機管理優先がジャーナリズムの勢いをそいでいます。
「朝日新聞がそうですね。とりあえず違う意見も載せておこうと、多様な意見を紹介するとのお題目で両論併記主義が広がっていませんか。積極的に論争を提起するのではなく、最初から先回りし、文句を言われた時のために、『バランスをとっています』と言い訳ができるようにする。防御的な発想ではないですか」
■ ■
――「NEWS23」の初代キャスターだった筑紫哲也さん(故人)とは長い間、一緒に仕事をされたそうですね。
「2008年3月、筑紫さん最後の出演で語った言葉が忘れられません。『大きな権力を持っている者に対して監視の役を果たす』『少数派であることを恐れない』『多様な意見を提示し、社会に自由の気風を保つ』。筑紫さんは、この3点を『NEWS23のDNAだ』と遺言のように語って、逝きました。それがいま、メディアに携わる人たちに共有されているのかどうか。責任を感じています」
――記者の原点を忘れ、組織の論理に流されてしまっている自分自身に気づくことがあります。
「記者の仕事は孤独な作業です。最後は個ですから。過剰に組織の論理に流れ、全体の空気を読んで個を殺していくのは、記者本来の姿ではありません。それでも一人ひとりの記者たちが、会社の壁を越え、つながっていくこともできる。声を上げるには覚悟がいるけども、それを見ている次の世代が、やがて引き継いでくれるかもしれない。萎縮せず、理不尽な物事にきちんとものを言う若い仲間たちが実際に育ってきているのをつい最近も目撃しました」
「『報道なんてこんなもの』とか、『視聴者や読者はそんなもん求めてねえよ』と、シニシズム(冷笑主義)に逃げ込んではいけません。僕らの仕事は、市民の知る権利に応えるためにあるのです。報道に対する市民の目が厳しい今だからこそ、一番の根本のところを考えてほしいと思います」
(聞き手=編集委員・豊秀一)
かねひらしげのり 53年生まれ。77年TBS入社。モスクワ、ワシントン両支局長、報道局長などをへて、執行役員。04年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。
◆◆NHKの「ニュース」は、「政府の言い分で終わらないといけない」そうだ
(外国特派員協会でのジャーナリスト5人の高市「電波停止」発言抗議記者会見から)(日刊ゲンダイ16.03.26)
(筆者=そう言われてNHKニュースを見ていたら、確かに政府発言が「結論」的なしめ方として活用されている。知らないうちの「情報操作」にいささか驚いた)
◆◆「おおさか維新」の実質オーナー=橋下をレギュラー起用するテレ朝の狂気
(日刊ゲンダイ16.03.26)
(筆者=いよいよ橋下が「得意」領域であるテレビにリバイバルした。参院選挙でおおさか維新の当選を有利にするための第一弾だ。大阪の地元のテレビ局でなく、全国ネットに登場した。問題は、視聴率トップを狙い、秋元康の助言を得ながらバラエティー路線、そして脱朝日新聞路線=政府・自民党追随路線を突っ走りつつあるテレ朝の変質ぶり。どの局よりも先駆けて橋下=安倍別動隊を起用した。報道ステーションから古舘を追放して、富川・後藤を起用して、政府批判の急先鋒がついにくじかれた。富川はワンポイントでいずれ橋下を報道ステーションに登場させる意向もあるとの情報も流されている。こんな「政党のオーナー」に電波を独占させていいのか。BPOへの訴えが必要ではないか。そんな事態になれば、テレ朝は、終わり、お陀仏だ。安倍政権とテレ朝幹部との呼吸を合わせた結託を崩すために、事態のなりゆきをしっかり見守る必要がある)。
◆◆「クローズアップ現代」の国谷さんの最後の言葉(孫崎コラムから)
(日刊ゲンダイ16.03.26)
◆◆国谷裕子キャスター、「クローズアップ現代」最終回で1分30秒のあいさつ(全文)
Huffpost16.03.18
NHKの報道番組「 クローズアップ現代」が3月17日、最終回を迎え、国谷裕子キャスター(59)が番組の最後に「番組を続けることができたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そして何より番組を見て下さった視聴者の皆様方のおかげだと感謝しております」とあいさつした。
国谷さんは番組が開始した1993年から23年間キャスターを務め、社会の様々な問題やトレンドに斬り込み続けた。
この日の番組では、「 未来への風~“痛み”を越える若者たち~」と題し、社会で声を上げる若者たちを特集。学生団体「SEALDs(シールズ)」中心メンバーの奥田愛基さんや歌人の鳥居さんらの活動を取り上げた。
国谷さんのあいさつは約1分30秒。以下に全文を紹介する。
23年間、担当してきましたこの番組も今夜が最後になりました。この間、視聴者の皆さま方から、お叱りや戒めも含め、大変多くの励ましをいただきました。
クローズアップ現代が始まった平成5年からの月日を振り返ってみますと、国内、海外の変化の底に流れるものや、静かに吹き始めている風をとらえようと、日々もがき、複雑化し見えにくくなっている現代に、少しでも迫ることができれば、との思いで番組に携わってきました。
23年が終わった今、そのことをどこまで視聴者の皆さま方に伝えることができたのか、気がかりですけれども、そうした中でも、長い間番組を続けることができましたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そして何より番組を見てくださった視聴者の皆さま方のおかげだと感謝しています。
長い間、本当にありがとうございました。
◆◆樹木希林さん「クローズアップ現代」生放送でNHKを批判!?
Huffpost16.02.09
女優の樹木希林さん(73)が2月9日、NHKの「クローズアップ現代」の生出演で発言した内容が、NHKを暗に批判しているのではないかと話題になっている。3月末で番組を 降板する国谷裕子キャスター(59)の実績について、樹木さんが生放送中に言及したことにネットから「NHKに対する当て付けではないか」との声が上がっているのだ。
この日、番組では「がん」を特集。全身にがんが転移していることを公表している樹木さんがゲストで登場した。樹木さんは、来週から治療を再開すると周囲に伝えても、「そうなんですか」と言われてしまう状況を告白。「それで、スケジュールなんですが…」と仕事の話を進められてしまうことに不満をもらした。
それでも「クローズアップ現代に出るか」と言われて、「出ます!」と快諾したことを告白。その理由を、「国谷さんに会いたいから」だと説明した。樹木さんは「私ね、国谷さんは本当に素敵な仕事ぶりだと思っているの。NHKは大変な財産をお持ちだなと思って、私はいつも大好きな番組です」と感想を述べた。
この樹木さんの発言に、Twitterには「ロックだ!」「言外のメッセージを感じた」など、多数の意見が出ている。
◆◆「高市氏言及の『停波』は違憲」 憲法学者ら、見解表明
2016年3月3日朝日新聞
見解を発表する立憲デモクラシーの会の樋口陽一・東大名誉教授(右から2番目)ら=東京都千代田区
高市早苗総務相が放送法違反を理由に放送局へ「停波」を命じる可能性に言及したことについて、憲法学者らが2日、東京都内で記者会見し、「政治的公平」などを定めた放送法4条を根拠に処分を行うことは憲法違反にあたるとする見解を発表した。
会見したのは樋口陽一・東大名誉教授(憲法)ら5人で、法学や政治学などの専門家でつくる「立憲デモクラシーの会」の会員。見解は「総務大臣に指揮命令される形で放送内容への介入が行われれば、放送事業者の表現活動が過度に萎縮しかねず、権限乱用のリスクも大きい」とし、漠然とした放送法4条の文言だけを根拠に処分することは「違憲との判断は免れがたい」と指摘している。
樋口氏は「何人も自分自身がかかわっている事柄について裁判官になってはならないという、自由民主主義社会の基本原則が肝心だ」と述べ、政治的公平を政治家が判断することの問題点を指摘した。西谷修・立教大特任教授(哲学)は、「政府を批判することは偏向であり、政治的だとされる風潮が広がるなかでの大臣の発言。言論に携わる者は深刻に考えてほしい」と語った。
(編集委員・豊秀一)
◆◆「私たちは怒っている」 高市氏の停波言及、岸井氏ら会見
2016年3月1日朝日新聞
記者会見に臨む(手前から)鳥越俊太郎、田原総一朗、岸井成格、金平茂紀、大谷昭宏、青木理の各氏=29日午後、東京都千代田区、時津剛撮影
高市早苗総務相が放送法4条違反を理由に放送局へ「停波」を命じる可能性に言及したことについて、「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)司会の田原総一朗氏や「NEWS23」(TBS系)アンカーの岸井成格(しげただ)氏らテレビで活動するジャーナリスト6人が29日、東京都内で会見を開き、「私たちは怒っている」と題する声明を発表した。
会見したのはジャーナリストの青木理氏、大谷昭宏氏、鳥越俊太郎氏、「報道特集」(TBS系)キャスターの金平茂紀氏に、田原氏、岸井氏を加えた6人。出席はしなかったが「週刊ニュース新書」(テレビ東京系)司会の田勢康弘氏も呼びかけ人に参加している。
鳥越氏は「これは政治権力とメディアの戦争。ここまで露骨にメディアをチェックし、牽制(けんせい)してきた政権はなかった。下から変えていくしかない。声をあげましょう」と呼びかけた。
田原氏は「高市氏の発言は非常に恥ずかしい。全テレビ局の全番組が抗議すべきだが、残念なことに、多くのテレビ局の多くの番組が何も言わない」と批判。さらに、「報道ステーション」(テレビ朝日系)の古舘伊知郎氏や「クローズアップ現代」(NHK)の国谷裕子氏、「NEWS23」の岸井氏らが3月で降板することにふれ、「偶然だと思うが、テレビ局が萎縮したと受け取られかねない。だから(高市氏の発言を)断固はね返さなければいけない」と語った。降板について岸井氏は「私個人は圧力に屈したとは思っていない。具体的に私に言ってくる人はだれもいなかった。交代は局の意向」と説明した。
岸井氏が昨年9月に番組で「メディアとしても(安全保障関連法案の)廃案に向けて声をあげ続けるべきだ」と発言したことについて、保守系の学者らでつくる「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」が昨年11月、「放送法に対する違反行為だ」と批判する意見広告を産経新聞と読売新聞に出した。広告への感想を聞かれた岸井氏は「低俗だし、品性どころか知性のかけらもない。恥ずかしくないのか」と答えた。
(星賀亨弘、佐藤美鈴)
◆高市氏「個々の番組が重要」
高市総務相は29日の衆院予算委員会で、電波停止について、極めて慎重な配慮が必要だとしつつ、「一つひとつの番組の集合体が番組全体なので、一つひとつを見ることも重要だ」と述べた。放送局が政治的に公平性を欠く放送を繰り返したかの判断は、個々の番組の内容が要素になるとの考えを改めて示した。
民主党の奥野総一郎氏は「なぜ高市答弁が大きく取り上げられるのか。従来は番組全体のバランスで判断するとしていたが、高市答弁では個別の番組でも停波をしうると変わったからだ」と指摘した。
◆各キャスターの抗議発言
◆「私たちは怒っている」 高市氏発言への抗議声明全文
――高市総務大臣の「電波停止」発言は憲法及び放送法の精神に反している
今年の2月8日と9日、高市早苗総務大臣が、国会の衆議院予算委員会において、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について言及した。誰が判断するのかについては、同月23日の答弁で「総務大臣が最終的に判断をするということになると存じます」と明言している。
私たちはこの一連の発言に驚き、そして怒っている。そもそも公共放送にあずかる放送局の電波は、国民のものであって、所管する省庁のものではない。所管大臣の「判断」で電波停止などという行政処分が可能であるなどいう認識は、「放送による表現の自由を確保すること」「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」をうたった放送法(第一条)の精神に著しく反するものである。さらには、放送法にうたわれている「放送による表現の自由」は、憲法21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」の条文によって支えられているものだ。
高市大臣が、処分のよりどころとする放送法第4条の規定は、多くのメディア法学者のあいだでは、放送事業者が自らを律する「倫理規定」とするのが通説である。また、放送法成立当時の経緯を少しでも研究すると、この法律が、戦争時の苦い経験を踏まえた放送番組への政府の干渉の排除、放送の自由独立の確保が強く企図されていたことがわかる。
私たちは、テレビというメディアを通じて、日々のニュースや情報を市民に伝達し、その背景や意味について解説し、自由な議論を展開することによって、国民の「知る権利」に資することをめざしてきた。テレビ放送が開始されてから今年で64年になる。これまでも政治権力とメディアのあいだでは、さまざまな葛藤や介入・干渉があったことを肌身をもって経験してきた。
現在のテレビ報道を取り巻く環境が著しく「息苦しさ」を増していないか。私たち自身もそれがなぜなのかを自らに問い続けている。「外から」の放送への介入・干渉によってもたらされた「息苦しさ」ならば跳ね返すこともできよう。だが、自主規制、忖度、萎縮が放送現場の「内部から」拡がることになっては、危機は一層深刻である。私たちが、今日ここに集い、意思表示をする理由の強い一端もそこにある。
〈呼びかけ人〉(五十音順 2月29日現在)
青木理、大谷昭宏、金平茂紀、岸井成格、田勢康弘、田原総一朗、鳥越俊太郎
◆◆(池上彰の新聞ななめ読み)高市氏の電波停止発言 権力は油断も隙もない
2016年2月26日朝日新聞
高市早苗総務相による放送局への「停波」発言を報じる朝日新聞の一連の紙面
「総務省から停波命令が出ないように気をつけないとね」
テレビの現場では、こんな自虐的な言い方をする人が出てきました。
「なんだか上から無言のプレッシャーがかかってくるんですよね」
こういう言い方をする放送局の人もいます。
高市早苗総務相の発言は、見事に効力を発揮しているようです。国が放送局に電波停止を命じることができる。まるで中国政府がやるようなことを平然と言ってのける大臣がいる。驚くべきことです。欧米の民主主義国なら、政権がひっくり返ってしまいかねない発言です。
高市発言が最初に出たのは2月8日の衆議院予算委員会。これをいち早く大きく報じたのは朝日新聞でした。9日付朝刊の1面左肩に3段と、目立つ扱いです。この日の他の新聞朝刊は取り上げなかったり、それほど大きな扱いではなかったりで、朝日の好判断でしょう。この後、各紙も次第に高市発言に注目するようになります。
朝日は1面で発言を報じた上で、4面の「焦点採録」で、具体的な答弁の内容を記載しています。読んでみましょう。
〈政治的な問題を扱う放送番組の編集にあたっては、不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく番組全体としてバランスのとれたものであることと解釈してきた。その適合性は、一つの番組ではなく放送事業者の番組全体をみて判断する〉
*
「特定の政治的見解に偏ることなく」「バランスのとれたもの」ということを判断するのは、誰か。総務相が判断するのです。総務相は政治家ですから、特定の政治的見解や信念を持っています。その人から見て「偏っている」と判断されたものは、本当に偏ったものなのか。疑義が出ます。
しかも、電波停止の根拠になるのは放送法第4条。ここには、放送事業者に対して、「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」など4項目を守ることを求めています。
ところが、その直前の第3条には、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と規定されています。つまり放送法は、権力からの干渉を排し、放送局の自由な活動を保障したものであり、第4条は、その際の努力目標を示したものに過ぎないというのが学界の定説です。
番組編集の基本方針を定めた第4条を、権力が放送局に対して命令する根拠として使う。まことに権力とは油断も隙もないものです。だからこそ、放送法が作られたのに。
*
安倍内閣としては、歴代の総務相も発言してきたことだと説明していますが、その点に関して朝日は10日付朝刊で、2007年の福田政権(自民党政権です)での増田寛也総務相の国会答弁を紹介しています。この中で増田総務相は電波停止命令について、「適用が可能だとは思う。ただ、行政処分は大変重たいので、国民生活に必要な情報の提供が行われなくなったり、表現の自由を制約したりする側面もあることから、極めて大きな社会的影響をもたらす。したがって、そうした点も慎重に判断してしかるべきだと考えている」と述べています。
権力の行使は抑制的でなければならない。現行法制の下での妥当な判断でしょう。
しかし、政権が変わると、こういう方針が守られなくなってしまうということを、今回の高市発言は示しています。
想像してみてください。今後、政権交代が行われ、反自民の政権が登場し、公正な報道をしようとしている放送局に対し、電波停止をちらつかせることになったら、どうするのか。自民党にとって、極めて憂慮すべき事態だとは思いませんか。そういうことが起きないようにするためにも、権力の行使には歯止めが必要なのです。
こうした事態は、放送局の監督権限を総務省が持っているから。この際、アメリカの連邦通信委員会(FCC)のような独立した委員会が、国民の代表として監督するような仕組みが必要かも知れません。
◆◆高市総務相の電波停止発言=自民党の強権体質表す、改憲草案でも表現活動制限
2016年2月25日(木)赤旗
放送局が政治的公平性を欠いた番組を繰り返し放送した場合、電波停止を命じる可能性を明言した高市早苗総務相への批判がやみません。世論調査では、同氏の発言について報道の自由を「脅かす」「どちらかといえば脅かす」が計67・4%に上っています(共同通信、20、21日実施)。批判に耳を傾けず高市氏は同様の発言を繰り返しています(22日)。
公共性の高い電波放送に政治的公平性が求められるのは当然ですが、放送内容に対する権力者の介入が許されるかは、全く別の問題です。担当する総務相がこうした発言を繰り返し、放送事業者やメディアに強い萎縮効果を与えること自体が、憲法で保障された表現の自由を圧迫する言動です。
重大なことは、こうした高市氏の態度は、自民党の強権的体質そのものの表れだということです。
自民党改憲草案(2012年)は、表現・結社の自由の保障をめぐり、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行ない、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と明記(草案21条2項)しました。「公の秩序を害することを目的」だと権力者が認める表現活動や結社は「認めない」という、驚くべき強権条項です。
何が「公の秩序」かを判断するのは時の政府・権力者です。政権や体制を批判すること自体が「公の秩序を害する目的」とされかねません。目的=内心の制約そのものにつながる恐れもあります。
個人の自由を保障するはずの憲法が、言論弾圧の“治安維持法”に転化するような内容です。
昨年夏の戦争法案の審議中に、安倍晋三首相に近い若手議員の会合で、戦争法案に批判的なマスコミを「懲らしめろ」とか、「沖縄の二つの新聞をつぶせ」という発言が飛び出し、世論の厳しい批判を受けました。
放送番組の内容しだいで電波停止命令に及ぶことを示した“高市発言”は、「秩序」に歯向かう言論は認めないという、自民党の体質と思想のあらわれです。 (中祖寅一)
◆◆(あすを探る 思想・歴史)小熊英二=「無難」な報道機関、必要か
2016年2月25日朝日新聞
体調が悪く、医者に診断してもらったとする。そのさい医者が、「××製薬の薬はどれもよく効きます」と言ったらどう思うか。「この医者は公正ではない」と考えるだろう。
では医者が「発疹が出てますね」「熱が39度ありますね」としか言わなかったらどう思うか。「そんなのは医者失格だ」と考えるだろう。
それでは、期待される医者の姿勢は何か。「症状を総合すると、△△病と考えられます」「症状を抑えるにはこの薬が効きます」といった提言をしてくれることだろう。
最近、総務大臣が、不公正な報道に対しては電波停止もありえると述べた。だが不公正とは何だろう。「公正」とは単なる「横並び」ではなく、社会に共有されている「正義」の観念にかなうことである。報道機関もそのために期待される役割を果たすことが「公正」だと言える。
上の医者の例えから考えてみよう。まず、「××党の政策は、すべて正しい。迷わず支持すべきだ」という報道姿勢は「公正」とはいえない。これは誰でも同意するだろう。
次に、「政府はこう述べています」「野党はこう主張しています」といった報道姿勢はどうか。確かに「無難」ではあるが、これは報道機関の役割放棄といえないだろうか。
報道関係者は医者のような専門職ではない、もっと「謙虚」であるべきだ、という意見もあろう。しかし人間は誰しも、何らかの専門職として、それぞれの役割を果たすことを期待されている。それは、医者や弁護士などに限った話ではない。
例えば八百屋は野菜を、電器屋は家電製品を扱う専門職である。もし電器屋が「××社の製品はどれもお買い得です」と言えば、それは公正ではない。しかし「この冷蔵庫は色が白で、高さは何十センチです」としか言わないなら、「ネット通販で十分だ」とみなされるだろう。
報道機関の人々は、幅広く情報を集め、それを理解しやすく提示するための専門的訓練を受けている。これが専門職でなくて何だろうか。ならば、専門職にふさわしい仕事をするべきだ。情報をただ流すだけで、専門職としての役割を果たしているといえるだろうか。
「文句がつかない」ことだけを重視するなら、政府広報と天気予報だけを流すのが、いちばん「無難」であるだろう。ふた昔前の、広範に情報を届ける機関がなかった時代なら、それでも一定の役割を果たしているといえたかもしれない。しかしネットが発達した現在、そんな報道機関は、誰も必要としていない。
現代の報道機関は、情報を広範囲に届けるだけでは十分ではない。情報を総合し、何が起きているかを診断し、放置すれば悪化することを警告するのは、社会に必要な役割であり、報道の「公正」なあり方である。いわゆる「権力の監視」という役割も、ここに含まれる。
あるいは、各分野の専門職と協力して、状況を改善するための対策を提示するのも、「公正」な報道のあり方だ。もちろん特定の政治勢力を、何の根拠もなく支持する報道は、「公正」の範囲を逸脱するだろう。しかし、社会が必要とする対策を実現しようとしている政治的動向を重視した報道をするのは、「公正」の範囲に含まれると思う。
医者にも誤診があるように、報道機関も間違うことはある。しかし現代の視聴者や読者は、特定の報道機関の言うことを何でも信じるほど愚かではない。疑問を感じれば、医者の場合と同じく、セカンドオピニオンを求めて他の機関の報道に接するだろう。それを判断するのは国民であって、政府ではない。そうした意味で、報道の多様性を保障することは、何よりも重要である。狭量な姿勢は国家百年の計を誤りかねない。
日本の将来は多難である。医者や八百屋や電器屋と同様に、報道に携わる人々も、自信と自覚を持ち萎縮せず職務にあたることを期待する。
(おぐま・えいじ 62年生まれ。慶応大学教授・歴史社会学。『生きて帰ってきた男』『平成史』など)
◆◆橋下氏テレビ復帰、テレ朝系で羽鳥アナと
2016年2月16日朝日新聞
橋下徹氏(右)と羽鳥慎一アナ
昨年12月に政界を引退した橋下徹前大阪市長(46)とフリーアナウンサー羽鳥慎一(44)が、4月からテレビ朝日系新バラエティー番組「橋下×羽鳥の新番組!(仮)」(月曜午後11時15分、一部地域をのぞく)に出演することが15日、分かった。
橋下氏は8年ぶりのバラエティー復帰。新番組の内容を3時間特番「橋下×羽鳥の新番組始めます!(仮)」(3月23日午後7時)で決める異色の試みとなる。
橋下氏は03年3月から、弁護士軍団の一員として出演した日本テレビ系「行列のできる法律相談所」で全国的に知名度を上げ、タレント、弁護士としてフジテレビ系「笑っていいとも!」テレビ朝日系「スーパーモーニング」など多数のレギュラー番組を抱えていた。03年10月にはレギュラー出演していたTBS系「サンデージャポン」生放送中に降板宣言し話題に(後に一時番組復帰)。
07年12月に大阪府知事選への出馬を表明、レギュラー番組は降板。08年2月に大阪府知事に就任。政界進出後のバラエティー出演はない。政界引退後は弁護士業や講演会、ネットでの会員制政治経済ゼミ、「おおさか維新の会」法律政策顧問など多方面に活動。
◆◆NHK「クロ現」国谷キャスター降板と後任決定の一部始終
川本裕司 | 朝日新聞記者、WEBRONZA筆者
2016年2月13日
23年間にわたりNHKの看板報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを務めてきた国谷裕子さんが3月17日を最後に降板する。続投を強く希望した番組担当者の意向が認められず上層部が降板を決断した背景には、クロ現をコントロールしたいNHK経営層の固い意思がうかがえる。
クロ現は4月から「クローズアップ現代+」と番組名を一部変え、放送時刻も午後10時からと深くなる。後任のキャスターにはNHKの女性アナウンサー7人が就くと、2月2日に発表された。ただ、7人の顔ぶれが決まるまで、「ニュースウオッチ9」の大越健介・前キャスターが浮上したり、最終局面で有働由美子アナの名前が籾井勝人会長の意向を反映する形で消えるなど曲折があったという。
複数のNHK関係者によると、黄木紀之編成局長がクロ現を担当する大型企画開発センターの角英夫センター長、2人のクロ現編集責任者と昨年12月20日すぎに会った際、国谷さんの3月降板を通告した。「時間帯を変え内容も一新してもらいたいので、キャスターを変えたい」という説明だった。
センター側は「国谷さんは欠かせない。放送時間が変われば視聴者を失う恐れがあり、女性や知識層の支持が厚い国谷さんを維持したまま、番組枠を移動させるべきだ」と反論した。しかし、黄木編成局長は押し切った。過去に議論されたことがなかった国谷さんの交代が、あっけなく決まった。
国谷さんには角センター長から12月26日、「キャスター継続の提案がみとめられず、3月までの1年契約を更新できなくなった」と伝えられた。
国谷さんの降板にNHKが動きを見せたのは、昨年10月下旬にあった複数の役員らが参加した放送総局幹部による2016年度編成の会議だった。
編成局の原案では、月~木曜の午後7時30分からのクロ現を、午後10時からに移すとともに週4回を週3回に縮小することになっていた。しかし、記者が出演する貴重な機会でもあるクロ現の回数減に報道局が抵抗し、週4回を維持したまま放送時間を遅らせることが固まった。
報道番組キャスターや娯楽番組司会者については、放送総局長の板野裕爾専務理事が委員長、黄木編成局長が座長をそれぞれつとめ部局長が委員となっているキャスター委員会が決めることになっている。番組担当者からの希望は11月下旬に示され、クロ現の場合は「国谷キャスター続投」だった。現場の意向を知ったうえでの降板決定は、NHK上層部の決断であることを物語っている。
現場に対しても「番組の一新」という抽象的な説明しかなかった降板の理由について、あるNHK関係者は「経営陣は番組をグリップし、クロ現をコントロールしやしくするため、番組の顔である国谷さんを交代させたのだろう」と指摘する。
その伏線となったのは、2014年7月3日、集団的自衛権の行使容認をテーマにしたクロ現に菅義偉官房長官に出演したときの出来事だった。菅長官の発言に対し「しかし」と食い下がったり、番組最後の菅長官の言葉が尻切れトンボに終わったりしたためか、菅長官周辺が「なぜ、あんな聞き方をするんだ」とNHK側に文句を言った、といわれる一件だ。
この件について、籾井勝人会長は7月15日の定例記者会見で、菅長官を出迎えたことは認めたが、「官邸からクレームがついた」という週刊誌報道については「何もございませんでした」と否定した。
国谷さん降板を聞いたNHK幹部は「官邸を慮(おもんぱか)った決定なのは間違いない」と語った。
クロ現のある関係者は「降板決定の背景にあるのは、基本的には忖度だ。言いたいことは山ほどある」と憤りを隠そうとしない。
国谷さん降板に利用されたのが、クロ現で2014年5月に放送された「追跡“出家詐欺”」のやらせ疑惑だった。15年11月6日に意見書を公表した放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会がフジテレビ「ほこ×たて」以来2件目という「重大な倫理違反」を認定した。
同じ内容の番組が、クロ現で放送される1カ月前に関西ローカルの「かんさい熱視線」で取り上げられていた。ところが、NHKの委員会名称は「『クローズアップ現代』報道に関する調査委員会」と、「かんさい熱視線」は対象としないかのように決められていた。
全聾の作曲家ではなかったことが発覚した問題で、NHKが14年3月に発表したのは「佐村河内氏関連番組・調査報告書」だった。最初に取り上げた番組は12年11月の「情報LIVE ただイマ!」、最も反響が大きかったのは13年3月の「NHKスペシャル」だった。また、93年にNHKが唯一やらせを認めたNHKスペシャル「奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン」では「『ムスタン取材』緊急調査委員会」となっていた。こうした例にならうなら、「クローズアップ現代問題」ではなく「出家詐欺問題」になるのが妥当といえた。
調査委員会の名称について、11月18日の定例会見で板野裕爾放送総局長は「とくに意図があるわけではない」と述べたが、クロ現を標的にした狙いを感じた向きがあったのは確かだ。あるNHK関係者は「委員会の名前については上層部の指示があった、と聞いている」と話す。
テレビ離れのなか、NHKも視聴率ダウンに直面している。4月からの新年度編成では視聴率の向上が大きな狙いだ。
その対策として考案されたのが、高齢者を中心に一定の視聴率をあげる19時からの「ニュース7」が終わる19時30分からの番組として、クロ現に代わり娯楽番組を並べ視聴者を逃さない作戦に出る。新年度の放送番組時刻表によると、月曜以降、「鶴瓶の家族に乾杯」、「うたコン」(新番組)、「ガッテン!」(同)、「ファミリーヒストリー」といった番組を20時台、22時台から前倒しした。高視聴率を誇る朝の連続テレビ小説の直後に放送される「あさイチ」も視聴率が好調といった手法をまねた、といわれている。
関係者によると、国谷さんの後任選びは難航。降板が決まった直後は、政治部出身の解説委員や大越前キャスターが浮上したが、「ニュースウオッチ9」のメーンキャスターが男性であることから、「男性キャスターが続くのは」と立ち消えに。
1月28日のキャスター委員会で女性アナ8人にいったんは決まった。ところが、発表前日の2月1日、報告を受けた籾井会長は8人に入っていた有働アナの起用に難色を示したという。最終的に久保田祐佳、小郷知子、松村正代、伊東敏恵、鎌倉千秋、井上あさひ、杉浦友紀の7人になった。
4日の定例記者会見で、「『クローズアップ現代+』のキャスターから有働アナを外すよう指示したのか」の質問に、籾井会長は「現場が決めたこと」と否定。重ねて「会長として意見や示唆は言わなかったのか」と問われると、「週4日で7人いれば十分と思う。(『あさイチ』に出演する)有働アナは夜もやると大変」と述べた。
番組タイトルは一部変更だが、現行の「クロ現」とは番組の構成や内容が大きく異なりそうだ。
参考記事:WEBRONZAクローズアップ現代・国谷さんの降板理由
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◆◆安倍首相のメディア工作とNHK乗っ取り計画の動向
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◆◆いちからわかる! 放送法
高市早苗総務相による放送局への「停波」発言をきっかけに、放送法をめぐる議論が国会で活発になっている。ラジオが戦争に協力した戦前の反省に立ち、国や政治の番組内容への干渉を防ぐため、「表現の自由」を守る砦(とりで)として放送法は生まれた。その歴史的経緯を見つめ直すことが求められている。(星賀亨弘、編集委員・豊秀一)
◆法律の理念 政治的公平「処分できない」通説
放送法4条は番組の編集について四つの基本方針を定めている。「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」などだ。高市総務相の国会答弁をきっかけに議論となった放送法だが、この四つの基本方針をどう位置づけるのか、という根本的な考え方の違いがこの問題の本質だ。
総務相は、放送法に違反したテレビ局に、電波の停止や放送免許の取り消しを命じることができる。しかし、四つの基本方針については、たとえ違反したとしても、そうした行政処分ができる「法規範」とは考えないのが、憲法やメディア法の専門家の通説だ。外から強制されるのではなく、あくまで放送局自身が努力目標としてめざす「倫理規範」という位置づけだ。
なぜなら、番組内容によって国が放送局を処分してしまうと、「表現の自由」を保障した憲法21条違反になる疑いが強いからだ。放送法もその目的を掲げた1条で、「放送による表現の自由を確保すること」をうたっている。
四つの基本方針の「政治的公平」は抽象的で判断するのが難しい。だから、一つの番組ではなく、一定期間の番組全体で判断すべきだと考えられている。意見の分かれる主張すべてを、機械的に同じ時間だけ採り上げなければならないという意味ではない。
これまで、放送内容を理由に国が放送局を処分したことはない。放送法の解釈・運用については、政府も放送局の自主性を尊重する見解をとってきたからだ。
抑制的な政府の見解を変えたのが、1993年の「椿(つばき)発言」問題だった。テレビ朝日の報道局長が非自民政権が生まれる報道をするよう指示したと報じられ、放送免許の不交付が一時検討された。当時の江川晃正郵政省放送行政局長は衆院逓信委員会などで「(政治的公正は)最終的に郵政省において判断する」「違反があった場合は、電波を止めるなどの措置がとれる」と答えた。これを機に、放送法に基づく番組内容への行政指導が増えていった。
◆制定の背景 「表現の自由」確保
法律を理解するには、制定されたときの議論の過程や時代背景、法律の精神を知ることが重要だ。
放送法が成立したのは、日本が占領下にあった1950年。戦前、政府に管理されたラジオが戦争に協力した歴史を踏まえ、連合国軍総司令部(GHQ)は、放送を新憲法に沿った民主化したものに変えるための法律づくりを指示した。
47年にGHQから「示唆」されたファイスナー・メモでは「放送の自由」「不偏不党」などを提示。政府から独立した放送監督機関の設立を求めた。
だが、48年に芦田均内閣で国会に提出された放送法案は、「厳格に真実を守る」「事実に基づき、かつ、完全に編集者の意見を含まない」など、占領時の報道規制である「プレスコード」と同じ内容を盛り込んでいた。GHQ法務局は「憲法21条に規定されている『表現の自由の保障』と全く相いれない」として、修正勧告を行った。
その結果、吉田茂内閣が49年に提出した法案では、プレスコード部分は削除された。一方で、「公安を害さない」「政治的公平」などという現在の放送法4条とほぼ同様の規定が加えられた。
この法案提出時の衆院電気通信委員会で、網島毅電波監理長官は「第1条に、放送による表現の自由を根本原則として掲げ、政府は放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と説明した。
◆政治の介入 03年以降、行政指導が急増
戦後、放送番組内容への政治の介入は、様々な形で表面化してきた。
日米安保改正やベトナム戦争をめぐる報道などが活発化した60年代から70年代にかけて、ドキュメンタリー番組や社会派のテレビドラマの放送中止が相次いだ。
米国が支援する南ベトナムではなく、北ベトナムに日本のテレビ局として初めて現地入りし、TBS「ニュースコープ」で報じた田英夫さん(故人)が68年3月、キャスターを退いた。
田さんは著書で当時の報道局長から聞いた話として、「ハノイ―田英夫の証言」が放送された直後の67年11月、当時のTBS社長らが自民党関係者と懇談した際、「なぜTBSは田英夫をハノイへ派遣して、あんな放送をするのか」などと横やりを入れられたエピソードを紹介している。
こうした水面下での番組への介入が行われる一方で、旧郵政省による行政指導はない時代だった。
総務省によると、85年以降の番組内容に対する行政指導は計36件で、事実に基づかない放送への厳重注意などが内容だ。総務省が発足した2001年以降が25件で、03年以降に急増した。民主党政権下では行政指導はなかった。
昨年4月、番組内容をめぐり自民党情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の幹部を事情聴取した。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、「自民党には法律に定める権限はない」とし、「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのもの」と批判した。
◆海外 独立の規制機関
海外では、放送に対する政治的な圧力を回避するため、政府から独立した規制機関が置かれている。
例えば、米国の連邦通信委員会(FCC)は、どの省にも属さずに連邦議会に対して直接責任を負う。委員長1人と委員4人で構成され、審議は合議制で行う。職員数は約1725人。「公正原則」を採用してきたが、放送事業者の表現活動に萎縮効果を与えているという批判が出るようになり、87年に廃止された。
連邦制のドイツでは、ナチスによる放送の政治利用の反省から、州ごとに公共放送設置法と民間放送のための法律があり、さらに全州に共通するテレビ放送についての州際協定(放送州際協定)がある。公共放送については、社会の各層の代表でつくる合議機関を内部に作り、その監督下に置く仕組みを採用している。民間放送は、原則として州ごとに作られた州政府から独立した州メディア委員会が監督を行う。
これに対して、日本では独立した規制機関がなく、放送局は総務大臣の監督下にある。
03年7月、放送に対する苦情や放送倫理上の問題を取り扱うため、NHKと民放が共同で第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)を設置。放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会の3委員会が置かれ、委員は放送事業者以外の有識者で構成される。勧告が出れば、放送事業者は順守しなければならない。
◆◆赤旗連載・「放送の自由」とは何か(全4回)
(赤旗16.02.16〜21)
◆◆波動=キャスター降板と高市発言
(赤旗16.02.21)
◆◆須藤春夫=高市・電波停止発言発言、表現の自由に反する、政権による放送弾圧
(赤旗16.02.16)
◆◆「番組一つ一つ見て全体判断」 首相、停波発言の容認強調
2016年2月16日朝日新聞
安倍晋三首相は15日の衆院予算委員会で、政治的公平をめぐる放送局の電波停止に言及した高市早苗総務相の答弁と政府統一見解について「番組全体は一つ一つの番組の集合体で、番組全体を見て判断する際、一つ一つの番組を見て判断するのは当然」と述べ、自らも同じ考えだと強調した。
民主党の山尾志桜里氏が「一つの番組でも判断できるという強権的な拡大解釈をした政権はない。なぜ解釈を変えたのか」と追及したのに答えた。過去の政権は政治的公平について、「放送局の番組全体を見て判断する」との解釈を示していた。
首相は山尾氏に対し「総務大臣の見解は『番組全体を見て判断する』というこれまでの解釈を補充的に説明し、より明確にした」とも答弁し、解釈を変えてはいないと主張。高市氏自身も「従来と何ら変わりはない。一つ一つを見なければ全体の判断もできない」と改めて答弁した。
首相は2014年の衆院選前にTBSの「NEWS23」に出演中、街頭インタビューを批判したことをただされ、「『この編集の仕方はどうなんですか』ということは、当然言う。(TBS側が)反論すれば済む話」と改めて強調。「テレビ局に対してモノを言うというのは結構大変なことだ」とも述べて、過去にもTBSの番組に出演中、「拉致問題について大きな大会をやっても、おたくの番組は全然取り上げませんでしたね」と自ら発言したことを紹介した。「私はそれを言ったがために、(TBS番組で旧日本軍の)731部隊の石井(四郎)中将と顔をリンクされ、イメージ操作されたこともあった」と述べた。
醍醐聰・東京大名誉教授らが共同代表を務める市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は15日、高市総務相が放送法4条に違反する放送を繰り返した放送局に電波停止を命じる可能性に言及したことについて、発言の撤回と辞職を求める申入書を送付した。
◆◆海外メディア東京特派員らが語る 日本「報道の自由」の危機
毎日新聞16.02.12
春の番組改編を機に、NHKと民放2局の報道番組で、安倍晋三政権に厳しいコメントをしていた看板キャスターらが、降板したり、レギュラーから外れたりする。テレビ局側は政治的圧力による降板説を否定するが、海外のメディアや言論団体は「民主主義への挑戦」と警鐘を鳴らす。「そもそも自主規制が問題」とお叱りを受けるのは覚悟のうえで、海外メディアの東京特派員らを訪ねた。「日本の報道の自由、どこがどう問題ですか?」【堀山明子】
◆政府の口出し自体が大問題
「安倍政権を批判したキャスターがそろって去るのは偶然とは思えないね。背景に何があったのか、団結して3人で会見したらどうか」
こう話すのは、英経済誌「エコノミスト」記者のデビッド・マクニールさん(50)。3人とは、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスター、テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎メインキャスター、TBS「NEWS23」の岸井成格アンカーのことだ。背景とは?
「利用価値のあるメディアの取材には応じ、批判的なところには圧力をかける『アメとムチ戦略』。そうやってリベラル勢力の排除を徹底しているのが安倍政権だと思います」
「アメとムチ」の対象には海外メディアも含まれる。安倍首相は、例えば米紙では、保守系のワシントン・ポストやウォール・ストリート・ジャーナルの単独会見には応じたが、慰安婦問題で安倍首相の歴史観を批判するニューヨーク・タイムズとは会見したことがない。
「エコノミスト」は2014年11月、安倍首相に単独インタビューをした。アベノミクスを評価する特集は何度か組んだが、慰安婦問題や憲法改正問題では厳しい見方を報じている。
マクニールさんは3氏の交代劇に関する記事を書き上げたばかり。安倍政権のアメとムチ戦略の問題点とともに「政治家と戦わない日本メディア」にも疑問を投げかける内容だ。「アメとムチで海外メディアを縛るのは簡単じゃない。宣伝ばかりの記事は説得力がないから。でも、国内メディアには、『戦略』は効いているようだね」
「フランスだったら、与党が公然と放送局幹部を呼び出しただけで問題化するね」と言うのは仏紙「ルモンド」のフィリップ・メスメール東京特派員(43)だ。自民党情報通信戦略調査会が昨年4月にNHKとテレビ朝日の幹部を呼び、番組について事情聴取したことに「なぜ他のテレビ局や新聞、雑誌がもっと抗議しなかったのか不思議でならない」と疑問を投げかける。
「報道ステーション」のコメンテーターだった元経済産業官僚の古賀茂明氏が安倍政権からのバッシングを訴え降板した直後の昨年4月、「日本メディアは政治的圧力に直面している」という見出しの記事を配信した英紙「ガーディアン」東京特派員のジャスティン・マッカリーさん(46)も政権の高圧的な姿勢を懸念する。高市早苗総務相が、政治的な公平性を欠くと判断した放送局に電波停止を命じる可能性に触れた発言にも「なぜ今発言したか、文脈を考えると、単なる法解釈の説明とは言えない」とみる。「イギリスでも選挙報道で放送局は不偏不党を義務づけられているが、政治的な公平性は定義があいまいで、不偏不党とは違う。もしイギリスで同じ発言が出たら野党は相当批判するだろう」と語った。
メスメールさんらが重視するのは「圧力があったか」を巡る安倍政権とテレビ局の認識ではなく、政府・与党が介入した事実そのもの。報道内容に口だしすること自体が大問題なのだ。
◆安倍政権で低落、世界61位に
日本の「報道の自由」は外国人記者から見ると、どんな水準なのか。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が02年から発表を続ける「世界報道自由度ランキング」を見てみよう。
日本は小泉政権時代に26〜44位で上下した後、政権末期の06年に51位にダウン。民主党政権時代の10年に11位と西欧諸国並みの水準まで上がったのに、13年に53位と急降下した。
昨年3月の発表では61位まで落ち込み、先進国では最下位だ。ちなみに韓国は60位。産経新聞ソウル支局長が朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を傷つけるコラムを書いたとして14年10月に在宅起訴された後、昨年12月に無罪判決が出たのは記憶に新しいが、その韓国より海外から見ればランクが低いのだ。
13年に急落したのは、民主党政権時代も含め、福島第1原発事故に絡む情報統制と秘密保護に関する法制定の動きが理由だ。民主党時代にランクが上がったのは、フリーランスや外国人を制限していると国際的に批判される記者クラブの運用で、改善があったことが影響したと見られる。
マクニールさんは民主党政権誕生後の09年9月、岡田克也外相の会見に出た時の驚きを今も覚えている。会見時間を延長して外国人記者やネットメディアの質問に答えたのだ。「2カ月前の麻生太郎首相の最後の会見で、外国人記者は挙手しても指名されなかったからね。時代が変わったと感じた」と振り返る。
しかし、12年の第2次安倍政権で状況は逆戻り。昨年9月、首相が自民党総裁に再選された直後の会見で「新三本の矢」なる構想が発表された時、質問は自民党記者クラブの所属記者だけに限られた。「新三本の矢のゴールは、どうみても非現実的。外国人記者が質問できたら、ゴールが間違ってませんかと聞いたのに」とメスメールさん。「外国人記者外しは、逆に言えば、日本人記者の質問は怖くないと政権・与党になめられているということ。それに対して、なぜもっと怒らないのですか」
昨年11月、外国人記者が驚く“事件”が起きた。国連で「表現の自由」を担当するデビッド・ケイ特別報告者が昨年12月1〜8日に訪日調査する日程が決まっていたにもかかわらず、日本政府は2週間前になって予算編成期であることを理由に延期した一件だ。
ケイ氏はブログで、国連自由権規約委員会が日本の特定秘密保護法制定に懸念を表明した経緯を指摘し、その評価を行う「重要な機会だった」と戸惑いを示した。その後、4月12〜19日に訪日することで再調整されたが、海外には、日本は逃げ腰の対応をしたという印象を与えた。マクニールさんは「批判を恐れたのかもしれないが、説明責任を果たさなければ、日本の信用はもっと落ちるのに」と首をかしげた。
◆事実掘り起こす調査報道を
東京・有楽町駅前の日本外国特派員協会。老舗ホテルのバーのような趣のある入り口の壁には、記者会見をした主な首相や閣僚、外国要人の写真が並ぶ。1974年10月、金脈疑惑が文芸春秋で報じられた直後に会見に臨んだ田中角栄首相が疑惑を追及され渋い顔をした写真が、一番上の列に誇らしげに飾られていた。
01年に講演した小泉純一郎首相の写真はあるが、安倍首相のはない。第2次安倍政権以降の閣僚では10人が会見したが、14年9月に相次いで会見した山谷えり子国家公安委員長、松島みどり法相が最後。両氏がヘイトスピーチを先導する「在日特権を許さない市民の会」との関係や認識をただす質問攻めに遭い、以後は閣僚会見が途絶えたのだ。
昨年5月の憲法記念日、協会は「報道の自由推進賞」を創設し、最優秀出版賞の第1号に原発政策などで安倍政権を批判した東京新聞を選んだ。番組を降板させられた古賀氏にも「報道の自由の友」という称号を与え敬意を表した。
審査委員の選定に関わった米紙「ロサンゼルス・タイムズ」記者のジェイク・エーデルスタインさん(46)は「日本のマスコミが安倍政権に屈服しつつある状況で、調査報道と知る権利を大事にしているメディアや個人を励ます」と狙いを語り、「賞によって、日本の勇気ある記者の記事に海外メディアが目を配るようになる」と効果を期待する。外国人記者は安倍政権批判を強め、戦う日本人記者と連帯している。なぜ日本メディアは抗議の声が弱いのか。
昨年7月までNYタイムズ東京支局長だったマーティン・ファクラーさん(49)は「サラリーマン記者が多い日本メディアは横のつながり、共通の倫理観が弱い」と分析する。また、番記者制度のように担当政治家にベッタリ接近する取材手法も問題だと指摘する。「権力に近づく取材手法は米国では、批判的にアクセスジャーナリズムと言われます。与野党が競っていた時は、野党政治家にもアクセスしてバランスある紙面ができたかもしれませんが、安倍首相1強時代になって機能しなくなった。こういう時は調査報道を通じて、事実を掘り起こす取材手法に力を入れるべきです」とジャーナリズムの構造変革を訴える。
強い政府の時こそ、権力に対するメディアの監視機能が試される。特派員らは日本メディアをそう叱咤激励しているように感じた。
◆◆(読者の声)電波停止に言及、報道への圧力
2016年2月11日朝日新聞
会社員 二宮力(愛知県 54)
高市早苗総務相が、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じることがあり得るという考えを示した。政治的公平性を求める放送法を理由に、電波法に基づいて、そうした措置が可能だという主張だ。
夏の参院選に向け、与野党の論戦が活発化している。放送局が政権与党を厳しく批判しなければいけない場合は当然出てくるが、その場合、電波停止される恐れはないのだろうか。
放送の公平性を判断するのが政治家であれば、その判断自体が公平かどうか問われるべきだ。政権側が、公平性を欠く番組だという理由で電波停止をしてもよいというのなら、表現の自由を保障した憲法に違反する恐れがあるのではないか。
放送法にうたわれた政治的な公平性とは、権力の意向に沿った報道をしない、ということではないかと私は思う。
少なくとも、政権中枢にいる人間が「公平性」を盾に電波停止まで口にすることは、報道への圧力以外の何ものでもないと思う。このような発言が、放送メディアの自由を損ない、自由闊達(かったつ)にものを言える社会を変質させないか、と危惧する。
◆◆「番組見て全体を判断」 電波停止発言、公平性で統一見解
2016年2月13日朝日新聞
政治的な公平性をめぐる放送局の電波停止に言及した高市早苗総務相の答弁をめぐり、総務省は12日、放送法4条が定める「政治的公平」の解釈や判断基準について政府統一見解を出した。一つの番組だけでも同条に抵触する場合があるとした高市氏の答弁を踏襲し、「一つ一つの番組を見て、全体を判断する」とした。
◆野党反発「検閲につながる」
統一見解は民主党が衆院予算委員会で要求し、12日の同委理事懇談会で公表。政治的公平の判断について、「放送事業者の『番組全体を見て判断する』としてきた解釈は何ら変更はない」と明記した。
「番組全体」は「一つ一つの番組の集合体」とも指摘。「編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱している」など極端な場合は、「政治的に公平であると認められない」とした。こうした解釈や判断基準は、「これまでの解釈を補充的に説明し、より明確にしたもの」と説明している。
高市氏は12日の記者会見で電波停止について、「極めて限定的な状況で行うことにしていて、慎重な配慮の下、運用すべきであると考えている」と述べた。石破茂地方創生相が高市氏の答弁に関連し、「気に入らないから統制するとかそういうことをやると、民主主義とメディアの関係がおかしくなる」と指摘したことについては、「大変心外だ」と反論。「私は気に入らないから統制すると申し上げたことは一度もないし、そういったことはあってはならない」と述べた。
高市氏の一連の発言に対し、公明の井上義久幹事長は12日の記者会見で「法律の建前を繰り返し、担当大臣が発言するのは、別の効果をもたらす可能性もある。慎重であるべきではないか」と批判。統一見解について民主の山井和則・予算委理事は「国民の知る権利を妨げる検閲にもつながりかねない、深刻な政府統一見解が出てきた」として、週明けの審議で追及する考えを示した。
(相原亮)
◆◆「万一の備え」電波停止また言及 高市総務相、ホームページで
2016年2月12日朝日新聞
高市早苗総務相は11日、ホームページやフェイスブックに掲載したコラムで、電波法に基づいて放送局に電波停止を命じる可能性について「万が一、不幸にも『極端なケース』が生じてしまった場合のリスクに対する法的な備えは、必要だ」と主張した。政治的に公平性を欠く放送を繰り返したなどと判断した場合は、放送法4条違反を理由に電波停止が正当化されるとの立場を改めて示したものだ。
高市氏はコラムで放送法第4条に抵触する具体例として、「テロリスト集団が発信する思想に賛同してしまって、テロへの参加を呼び掛ける番組を流し続けた場合には、放送法第4条の『公安及び善良な風俗を害しないこと』に抵触する可能性がある」を挙げた。
また、「(放送の)免許人等が地方選挙の候補者になろうと考えて、選挙に近接した期間や選挙期間中に自分の宣伝番組のみを流し続けた場合には、放送法第4条の『政治的に公平であること』に抵触する可能性がある」とも主張した。
そのうえで、電波停止を規定する電波法第76条について、「総務省が数次に渡って改善を要請しても、相手が応じない場合には、視聴者の利益や公益を守る為に、これらの行為を阻止できる唯一の手段」とコラムに書き込んでいる。
◆◆安倍首相、高市氏の答弁追認 「安倍政権こそ言論の自由大切にしている」
2016年2月11日朝日新聞
安倍晋三首相は10日の衆院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合に電波停止を命じる可能性に触れた高市早苗総務相について「法令について従来通りの一般論を答えた」と述べ、答弁を追認した。
首相は高市氏への批判にも反論し、「何か政府や我が党が、高圧的に言論を弾圧しようとしているイメージを印象づけようとしているが全くの間違いだ。安倍政権こそ、与党こそ言論の自由を大切にしている」と主張。安全保障法制をめぐる批判を念頭に、「恣意(しい)的に気にくわない番組に適用するというイメージを広げるのは、『徴兵制が始まる』とか『戦争法案』と同じ手法だ」と述べた。
これに先立ち、民主党の大串博志氏は「安倍政権になって番組に口を挟もうとする態度が非常に多い」として、首相が2014年11月の衆院選前にTBSの「ニュース23」に出演中、街頭インタビューを「全然、声反映されていません。おかしいじゃないですか」と批判したことも取り上げた。
首相は「首相の立場を使ってニュース23に圧力をかけたのではない。出演者として司会者と議論した」と答弁。その上で「選挙が近い中で、恣意的な攻撃を排除しなければいけない。私の意見、編集の仕方はどうですかということを一言も言ってはいけないというほうがおかしい。その場で反論すればいい」と述べた。
◆◆放送の自由と自律、停波発言に揺れる 高市総務相、与党内にも慎重対応求める声
高市早苗総務相が、放送局が政治的な公平性を欠くと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に触れたことが、波紋を呼んでいる。メディアの報じ方に神経をとがらせてきた安倍政権だが、今回は与党からも慎重な対応を求める意見が上がった。憲法に保障された表現の自由は守られるのか。
9日の衆院予算委員会。民主の玉木雄一郎氏が「憲法9条改正に反対する内容を相当時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性があるのか」と問いただした。
高市氏は「1回の番組では、まずありえない」としつつ、「私が総務相の時に電波停止はないだろうが、将来にわたってまで、法律に規定されている罰則規定を一切適用しないということまでは担保できない」と述べ、重ねて電波停止を命じる可能性に言及した。
◆「歴代の総務相も」
放送法や電波法には、総務相が電波停止を命じることができる規定があり、総務相経験者の菅義偉官房長官は「当たり前のことを答弁したに過ぎない」と擁護する。高市氏は答弁や記者会見で歴代総務相らの名を挙げ、答弁で電波停止に言及しているとも強調した。
しかし、福田政権時の2007年、増田寛也総務相は答弁で電波停止に政府は慎重な対応が必要だと強調。大臣の権限をあえて前面に出した高市氏の答弁とは趣がまったく違う。
しかも、高市氏が電波停止につながる行政指導の根拠としている放送法4条の解釈自体に問題がある。
放送法は1条で法律の目的として「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」をうたう。4条では「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」など番組が守るべき規則を定めている。
安倍晋三首相は高市氏と同様、4条を「単なる倫理規定ではなく法規であり、法規に違反しているのだから、担当官庁が法にのっとって対応するのは当然」との立場を示している。
しかし、放送による表現の自由は憲法21条によっても保障されており、憲法やメディア法の専門家の間では、放送法4条は放送局自身が努力目標として目指すべき「倫理規範」とするのが通説だ。4条を放送内容に干渉できる根拠とし、放送事業者に不利益を課すことについては、憲法21条に抵触する疑いがあると指摘されている。
公権力による放送内容そのものへの介入で、「政治的公平」という漠然とした規定によって規制するのは、放送事業者の番組編集権を必要以上に制約して、萎縮させる可能性が強いと考えられるためだ。
◆神経とがらす政権
安倍政権、自民党は、これまでもメディアの報道内容に神経をとがらせてきた。
14年衆院選では、安倍首相がTBSの番組出演中に内容を批判。自民党は各放送局に選挙報道の「公平中立」を求める文書を送った。昨年4月には、自民党の調査会が放送内容をめぐり、テレビ朝日とNHKの幹部を呼んで事情を聴取した。高市氏の発言はこれに続くもので、今回は与党からもたしなめる声が出ている。
石破茂地方創生相は9日の会見で「気に入らないから統制するとかそういうことをやると、民主主義とメディアの関係がおかしくなる」と指摘。公明の山口那津男代表も会見で「政府が内容についてコントロールするのは慎重であるべきだ」と語った。
(相原亮、笹川翔平)
◆米英は独立機関所管
テレビ・ラジオ放送の事業者や番組、NHKなどについて定めた放送法、そして電波利用について定めた電波法は占領下の1950年に成立した。あわせて成立した電波監理委員会設置法とともに「電波三法」と呼ばれた。
政府から独立した機関として放送行政を担った電波監理委員会は、連合国軍総司令部(GHQ)の強い意向で設置された。ラジオ放送が戦時中、政府のコントロール下に置かれ、戦争に協力したという歴史があるためだ。
委員会は日本が主権を回復した52年に廃止され、放送行政は郵政省(現総務省)に移された。米国やイギリスなど多くの先進国で、放送は独立機関が所管しているのとは対照的だ。
電波法は、テレビ局が放送法などに違反した場合、総務相が電波の停止や放送免許の取り消しなどができるとしている。しかし、これまで放送内容によって行政処分が出されたことはない。
放送法の解釈・運用については、政府も放送局の自主性を尊重する見解をとってきた。それが変わったきっかけは、テレビ朝日報道局長の発言を自民党などが問題視した93年の「椿(つばき)発言」だった。これを機に、政府は放送法違反を理由とする行政処分に慎重だった見解を変えた。
当時の江川晃正郵政省放送行政局長が「違反があった場合は、電波を止めるなどの措置がとれる」と記者会見で説明。衆院逓信委員会でも「(政治的公正は)最終的に郵政省において判断する」と答弁した。これ以降、それまでほとんどなかった放送事業者に対する行政指導が増えていった。
(星賀亨弘)
◆「表現の自由を制約」
増田寛也総務相の答弁(2007年11月衆院総務委) 自主的な放送事業者の自律的対応ができない場合には電波法の76条1項の適用が可能だと思う。ただ、行政処分は大変重たいので、国民生活に必要な情報の提供が行われなくなったり、表現の自由を制約したりする側面もあることから、極めて大きな社会的影響をもたらす。したがって、そうした点も慎重に判断してしかるべきだと考えている。
◆◆放送法遵守を求める視聴者の会へ高市早苗総務大臣からの回答
総務大臣回答:
平成27年11月27日に、貴会より公開質問状をいただきました。
放送法第4条第1項第2号の「政治的に公平であること」について、総務省としては、これまで、政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、不偏不党の立場から、特定の政治的見解に偏ることなく、番組全体としてバランスのとれたものでなければならないとしてきたところであり、基本的には、一つの番組というよりは、放送事業者の番組全体を見て判断する必要があるという考え方を示して参りました。
他方、一つの番組のみでも、例えば、
選挙期間中又はそれに近接する期間において、殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合、
国論を二分するような政治課題について、放送事業者が、一方の政治的見解を取り上げず、殊更に、他の政治的見解のみを取り上げて、それを支持する内容を相当の時間にわたり繰り返す番組を放送した場合のように、当該放送事業者の番組編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められる場合
といった極端な場合においては、一般論として「政治的に公平であること」を確保しているとは認められないと考えております。
以上は、私が国会答弁でも申し上げていることであります。
今般の質問状のご趣旨としましては、政治的公平に関する総務省の考え方について、分かりにくいのではないかということかと存じますが、現在、総務省に「放送を巡る諸課題に関する検討会」を設置しており、本件についても議論の対象となる課題から排除されるものではないと考えております。一方、表現の自由等との関係から大変難しい課題でもあり、現時点で総務大臣としての見解を即答申し上げることが困難であることも、ご承知ください。
以上、よろしくお願い申し上げます。
◆◆番組の政治的公平とは、表現の自由は 高市氏発言、識者に聞く
番組内容の「政治的公平」を、誰がどう決めるのか――。高市早苗総務相は「政府が判断する」という見解だ。だが、メディア法に詳しい識者は「政府の介入は法の趣旨から認められない」と指摘し、表現の自由を定めた憲法に抵触すると強く批判している。
◆大臣が判断は違憲疑い 慶応大教授・鈴木秀美氏
放送法は、1条で放送の自律や表現の自由の確保を原則に掲げ、3条で「何人からも干渉され、又は規律されることがない」と放送番組編集の自由を明文化している。「政治的公平」などを定めた4条は、放送事業者が自律的に番組内容の適正を確保する倫理規定であり、政府の介入は認められないと考えるべきだ。
日本の放送行政は、欧米のような政府から独立した機関ではなく、大臣が直接担当する。そもそも、「政治的公平」は判定不能で、数値では測れない。こうしたあいまいな文言をもとに、番組内容が適切かどうかを大臣が判断することになれば、4条が番組の内容への規制となり、表現の自由を定めた憲法21条に違反する疑いが濃くなる。
かつて米国でも「公正原則」は採用されてきた。ところが、政治家などが介入することで言論を抑圧する結果を招きかねないとして、1987年に廃止された。
報道の役割は、権力を監視することだ。報道機関でもある放送局に政府が介入できるとしたら、放送局に権力を監視するというジャーナリズムの役割を期待できなくなる。
*
すずき・ひでみ 59年生まれ。大阪大教授などを経て、15年から現職。専門は憲法、メディア法。著書に「放送の自由」、共著に「放送法を読みとく」など。
◆「報じぬが無難」を懸念 法政大教授・水島宏明氏
授業で学生から、政府の言い分と違うことを書いたり報じたりしたら公正中立ではないのでは、という反応が返ってくる。NHKの籾井勝人会長が「政府が右ということを左というわけにはいかない」と語ったことにも通じている。
放送法4条の政治的公平について、放送の自律を守るための倫理規範だと言っても理解されにくい。自民党の調査会がテレビ局の幹部を事情聴取のために呼んでも、テレビ局側は毅然(きぜん)とした態度をとれない。メディア全体として放送の公共性をアピールしてこなかったことが、放送法の理念への無理解を生んでいる。
私は長く放送の現場にいたが、現場が萎縮していくことが心配だ。例えば、2014年の総選挙の直前、自民党が在京テレビ局に選挙時の報道の公平中立などの確保を求める文書を出した。何が公平かを判断することは難しく、結果、報じないことが無難だということになりかねない。
公平さを求めるあまり伝えるべき情報が報じられず、一人ひとりが主体的に判断すべき情報が薄っぺらいものとなれば、そのつけは国民に回ってくる。(聞き手=いずれも編集委員・豊秀一)
*
みずしま・ひろあき 57年生まれ。日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクターなどを経て、12年から現職。著書に「ネットカフェ難民と貧困ニッポン」など。
◆◆松田浩=憲法・放送法に反する高市発言
(16.02.10赤旗)
◆◆総務相=公平欠く放送と判断なら電波停止
2016年2月9日朝日新聞
高市早苗総務相は8日の衆院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及した。「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰り返される場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」と述べた。
民主党の奥野総一郎氏が放送法の規定を引いて「政権に批判的な番組を流しただけで業務停止が起こりうる」とただしたのに対し、高市氏は「電波法の規定もある」と答弁。電波停止などを定めた電波法76条を念頭に、「法律は法秩序を守る、違反した場合は罰則規定も用意されていることで実効性を担保すると考えている」と強調した。そのうえで高市氏は、「私の時に(電波停止を)するとは思わないが、実際に使われるか使われないかは、その時の大臣が判断する」と語った。
放送法4条は放送の自律を守るための倫理規範とされてきたが、高市氏はNHKの過剰演出問題で、行政指導の根拠とした。この点についても「放送法の規定を順守しない場合は行政指導を行う場合もある」との考えを重ねて示した。
「政治的な公平性を欠く」の事例については、「国論を二分する政治課題で一方の政治的見解を取り上げず、ことさらに他の見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合」などと列挙。「不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められるといった極端な場合には、政治的に公平であるということを確保しているとは認められない」とした。
発言に、放送事業関係者は反発している。ある民放関係者は「公平性を判断するのが大臣であり政権であるなら、政権による言論統制だ」。別の民放関係者も「威圧的に脅しているんだろうが、あまりに現実性がなく論評に値しない」と話した。砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)は「行政が気に入らない番組で、言うことを聞かなければ停波にしてしまうのなら介入そのもの」と指摘。上智大の音好宏教授(メディア論)も「放送事業者の萎縮を招く危険性がある」と語った。
◆焦点採録 衆院・予算委員会=放送全体で適合性判断 総務相/報道の萎縮をうむ 民主・奥野氏 2月8日
2016年2月9日朝日新聞
【放送の中立性】
高市早苗総務相 政治的な問題を扱う放送番組の編集にあたっては、不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく番組全体としてバランスのとれたものであることと解釈してきた。その適合性は、一つの番組ではなく放送事業者の番組全体をみて判断する。
昨年の総務委員会で、これまでの解釈の補充的な説明をした。一つの番組でも、選挙期間中、ことさらに特定の候補者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送するなど、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合。また、国論を二分するような政治課題について放送事業者が一方の政治的見解をとりあげず、ことさらに他の政治的見解のみをとりあげてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合。これらの場合は、政治的に公平であることを確保しているとは認められない。
民主・奥野総一郎氏 (電波法76条で)総務相の権限で放送を止めることができる。いまの解釈では、個別番組の内容で業務停止がおこりうる。政権に批判的な番組を流しただけで業務停止にしたり、発言したキャスターが外れたりすることがおこりうる。
総務相 放送事業者が極端なことをして、改善をしていただきたいという行政指導をしてもまったく改善されない場合、それに対してまったく何の対応もしないということを、ここでお約束するわけにいかない。法律というのは、違反した場合には罰則規定も用意されていることによって、実効性を担保する。将来にわたって、ありえないということは断言できない。
奥野氏 この解釈によって、報道の萎縮をうむ。
総務相 電波の停止は、私の時にするとは思わないが、将来にわたってよっぽど極端な例、放送法の法規範性をまったく順守しないという場合、その可能性がまったくないとは言えない。
筆者コメント=「クローズアップ現代」「報道ステーション」「NEWS23」国民の声を代弁していた3番組の「パージ」
私たち国民の声を代弁し政府・自民党を厳しく批判してきた3つの番組が、安倍政権の圧力、それに屈したテレビ局によって、ついに「改変」させられた。4月からは、ただの「報道番組」となる。いずれも国谷裕子・古舘伊知郎・岸井成格という著名なキャスター3氏を「降板」させ、安倍政権に「穏和な」スタンスのキャスターに交替することで変質が行なわれようとしている。「報道ステーション」の新キャスターは、後藤謙次氏、「NEWS23」の新キャスターは、星浩氏。この二人は、これまで他の報道番組でも解説をしているが、どぎつい保守色をだす時事通信の田崎や読売の橋本五郎のような政治評論家ではない。しかし、この二人に共通しているのは、マスメディアの最大の使命である「権力への監視や批判」が極めて弱いという点。「こういう見方もあれば、そうでない見方もある」といろいろな論点を解説をするが、結局「中立性」のトーンが前面に出て、古舘氏や岸井氏が一貫して追求していた「権力への監視や批判」が決定的に弱くなることは、目に見えるようだ。朝日新聞にときどき星氏のエッセイのような論説が掲載されているが、一体どういう意見を述べようとしているのか、いつもさっぱりわからない。政権批判かと思ったら、そうでもない。後藤氏と同じように「中立」的な立場を取ろうとするからだ。まして後藤謙次氏は、安倍首相のマスメディア対策のためにもたれている会食に何回も参加している常連だ。これから二人の解説を聞かされると思ったらうんざりだ。10時台に移る「クローズアップ現代」のキャスターみたいな人は、まだ決まっていないが、籾井会長の圧力で、「穏和」な人物が選ばれることはまず間違いない。
この3番組は、官邸・自民党によって「放送ミス」を利用された点、放送法を利用した「偏向番組」という攻撃をかけられ、放送局幹部がその攻撃に追随した点で共通している。安倍首相、菅官房長官、萩生田副官房長官、磯崎や世耕たちマスメディア対策に力を入れきた連中の高笑いが聞こえてきそうだ。これは「権力監視・批判番組」の「パージ」ともいうべき大事件だ。かつてのハリウッドのレッドパージによく似ている。さしあたりマッカーシーは、菅と萩生田あたりか。官邸・自民党は、「パージ」をさらに広げて「権力監視・批判番組」の一掃をはかろうとしている。「星浩氏がキャスターに」の記事の中にTBS系の権力監視の著名な土曜番組「報道特集」に膳場氏が移動とある。それでは、今までの金平氏などのキャスターたちはどうなるのか?これも心配だ。「TBSお前もか」とならないことを切に望む。我々も視聴者として、テレビの監視を一層強め、テレビ局のなかで奮闘している人たちとともに良心的な番組づくりに力を入れていかねばならないと思う。そのためにも、崩れつつある「安倍一強体制」に打撃を与える参院選での革新候補の擁立運動、戦争法廃案・立憲主義回復のための2000万署名運動に力を入れていかねばならない。
◆◆NHK、テレビ朝日、TBSの看板報道番組の直言キャスター、交代の春
朝日新聞16.02.03(Media Times)
NHK、テレビ朝日、TBSの看板報道番組の「顔」が、この春一斉に代わる。番組の一新、本人の意思など事情はそれぞれだが、政権への直言も目立った辛口キャスターがそろって退場していくことに、懸念の声が上がっている。
3月末にリニューアルするTBS系の「NEWS23」は、メインキャスターの膳場貴子さん(40)が土曜夕方の「報道特集」に移り、新キャスターに星浩・朝日新聞特別編集委員(60)を起用。岸井成格(しげただ)アンカー(71)も降板し、4月以降、同局専属のスペシャルコメンテーターになる。
ジャーナリストの筑紫哲也さんのメインキャスター時代は2ケタ近い平均視聴率だったが、今年度は5・4%(以下、視聴率はいずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。午後11時台は報道番組の激戦区で、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)の2015年の月曜から木曜の平均視聴率は8・9%。TBSは陣容一新で報道番組の強化をはかる。
テレビ朝日系の「報道ステーション」は、メインキャスターの古舘伊知郎さん(61)が契約終了に伴い3月末で降板する。
昨年までの平均視聴率は13・2%と好調だったが、古舘さんは昨年末の会見で「(開始から)12年を一つの区切りとしたい」と話した。後任は同局の富川悠太アナウンサー(39)に。関係者は「制作費を抑えたい考えもあり、当面は手堅く局アナでという判断になった」という。
一方、NHKは報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを1993年から務めるフリーの国谷裕子(くにやひろこ)さんとの契約は更新せず、後任は局アナを軸に検討している。NHK関係者によると、現場は国谷さんの続投を強く求めたが、内容を一新するため局幹部が降板を決めたという。
昨年9月、安保法案が参院特別委員会で可決されたことを、「私は強行採決だったと思います」とコメントした古舘さんなど、降板するのは辛口で知られたキャスターたち。三つの番組には最近、政権や自民党から報道内容に対する注文が相次いでいた。
14年の衆院選前には、「NEWS23」に生出演した安倍晋三首相が、街頭インタビューの声に偏りがあると批判し、「報ステ」のアベノミクスの取り上げ方を自民党が文書で批判、「公平中立」を求めた。昨年4月には、「クロ現」と「報ステ」の内容をめぐって自民党が局幹部を事情聴取。「直接の原因ではなくても、それぞれが降板へ背中を押す一因になったのでは」と話す放送局関係者もいる。
◆「是々非々で指摘しないとテレビは窒息」
辛口キャスターの相次ぐ交代に、砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)は「交代が重なったのは偶然の要素が大きく、それぞれの事情があると思うが、視聴者からみれば、政権に批判的なキャスターが外される、というイメージが拭えない。特に安倍政権はテレビ朝日とTBSに厳しかった。新キャスターには疑念を払拭(ふっしょく)する報道姿勢が求められる」と注文する。
「権力監視がメディア本来の役割。変更のない他局も含め、是々非々できちんと問題を指摘するキャスターがいないと、テレビは窒息してしまう」
日本のニュースキャスターの走りとされるのは62年に始まった「ニュースコープ」(TBS系)の田英夫さん。NHKの磯村尚徳さんやテレビ朝日系「ニュースステーション」の久米宏さん、筑紫哲也さんら、取材経験豊富なジャーナリストや視聴者に親しみのあるフリーの著名人が多く起用され、各局の「顔」として活躍してきた。
ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは「キャスターに求められるのは、事実だけでなく、実はこんな意味があります、と自分の言葉で味付けすること。ネット上で自由に意見を言い合えるようになり、『キャスターに言われることはないよ』と思う人も増えただろうが、安保法制や憲法改正などで日本が大きく変わろうとしている今こそ、しっかりしたキャスターをすえた番組が必要だ」と指摘。
「80年代後半以降のキャスター『第1世代』は高齢化が進み、今後は『第2世代』が必要。テレビ局は若手を起用して育てていかないといけない」とも話す。
「NEWS23」のキャスターになる星氏は「政治家の言っていることや政権が取り組んでいることの中身が妥当かどうか、有権者が判断できるように本質を伝えていく」と話す。
(滝沢卓、松沢奈々子、佐藤美鈴)
◆◆「NEWS23」キャスターに星浩氏
2016年1月26日朝日新聞夕刊
星浩・朝日新聞特別編集委員
TBS系の報道番組「NEWS23」(月~金曜夜)の新メインキャスターに星浩・朝日新聞特別編集委員(60)の起用が決まった。3月28日から出演する。TBSテレビが1月26日、発表した。
福島県出身。79年朝日新聞入社。政治担当編集委員、オピニオン編集長などを歴任。2013年4月から現職。「大変光栄です。気を引き締めて報道・解説に当たっていきたいと思います。現在、朝日新聞社を退社するための手続きを進めております」とコメントしている。
現在メインキャスターを務めている膳場貴子さん(40)はリニューアルする「報道特集」(土曜夕方)の新キャスターに就任する。(松沢奈々子)
◆◆戸崎賢二=「降板」という自己規制
(赤旗16.01.24)
◆◆報道ステーションの古舘後の後釜の解説者は安倍会食者の後藤謙次
(日刊ゲンダイ16.01.23)
◆◆岸井氏、「NEWS23」アンカー降板へ
2016年1月16日朝日新聞
岸井成格氏
TBS系の報道番組「NEWS23」の岸井成格(しげただ)アンカー(71)が、3月末で降板することになった。TBSテレビの15日の発表によると、岸井氏は4月1日付で同局専属のスペシャルコメンテーターに就任。出演中の「サンデーモーニング」や報道番組、特別番組などに番組の枠を超えて随時出演し、ニュースの背景や展望を解説・論評する。「NEWS23」も春から内容をリニューアルする方針で、後任などについては後日発表するという。
岸井氏は毎日新聞特別編集委員で、2013年4月から「NEWS23」のアンカーを務めていた。岸井氏は「スペシャルコメンテーターとして報道の第一線で発信を続けていくことになりました。その責任・使命の重さを自覚し、決意を新たにしています」とコメントしている。
昨年、番組内で同氏が、「(安全保障関連法案に)メディアとしても廃案に向けて声をずっとあげ続けるべきだ」と発言したことについて、「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」が「放送法に対する違反行為だ」とする意見広告を一部全国紙に出していた。TBS広報部は、今回の就任について「以前から話し合いを進めていました。岸井氏の発言や意見広告とは全く関係ありません」としている。(松沢奈々子)
◆◆古舘伊知郎さん降板とテレビ界の危うさ=国谷裕子さん、岸井成格さん……一連の降板騒動は偶然ではない
篠田博之 (月刊『創』編集長)
2016年01月12日朝日新聞論座
◆「報道ステーション」は“普通のニュース番組”に?
年末のメディア界を襲った一番衝撃のニュースといえば「報道ステーション」キャスター古舘伊知郎さんの降板だろう。
週刊誌が報じているが、同番組は12月23日が年内最終放送で、終了後に毎年恒例の忘年会が開かれた。
朝まで飲んでいたスタッフも少なくなかったらしいのだが、それら関係者は翌日、ネットのニュースなどで古舘さん降板の発表を知り、愕然としたという。
『週刊文春』1月14日号「古舘『報ステ』降板 本誌だけが書ける全真相」によると、23日夜、古舘さんが忘年会を終えて帰宅したあと、篠塚浩取締役報道局長が、番組プロデューサーら幹部数人を呼んで、降板の話を伝え、「明日10時に発表する」と告げたという。
古舘さん本人が会見で明らかにしたように、既に2015年夏に局側に降板を申し入れていたというのだが、正式に決定したことは一部の役員にしか知らされていなかったようだ。
その後1月8日、テレビ朝日は、後任のメインキャスターに富川悠太アナをあてることを発表した。
久米宏さんの「ニュースステーション」や古舘さんの「報道ステーション」は、メインキャスターが歯に衣着せず権威権力にズバズバ物申すというのを売りにしてきたのだが、富川アナは局員だからそういう特性は薄れざるをえない。
現場を飛び回る富川アナの奮闘ぶりを好感を持って見てきた視聴者は多いと思うし、4月以降がんばってほしいとは思うのだが、今回の選択は、この番組が“普通のニュース番組”になってしまうことを意味するから、その点は残念だ。
局側としても、とりあえず富川アナで様子を見て、視聴率の動向などによって次の展開を考えようという方針なのだろう。
『週刊現代』1月16・23日号は「古舘伊知郎惜しまれずに退場」という少々意地悪な記事を掲げており、古舘さんは実はテレ朝では「裸の王様」で、辞めてよかったという声も多いと書いている。
確かに古舘さんはこだわりの人で、現場から上がってきた原稿を彼の一存でボツにしたりということもあったようだから、「ワンマンだ」と反発する声も報道局にあったようだ。
ただ、この記事が書いているように「『辞めてくれて清々した』という意見のほうが多い」というのはうがった見方ではないだろうか。古舘さんのこのタイミングでの降板については、たぶん局員や関係者もいろいろ複雑な思いで見ているに違いない。
◆「大変な綱渡り状態」の12年間
週刊誌やネットでは、古舘さんとテレ朝の早河洋会長との関係がぎくしゃくし始めたのが遠因だという指摘が多い。つまり早河会長が安倍政権寄りになったことで両者の関係にすきま風が吹き始めたらしいという見方だ。
たぶんそれは背景としてあると思うが、そういうことも含めて古舘さんとしては会見で「ものすごく不自由な12年間」だったと語ったのだろう。
2015年3月の古賀茂明さんの事件が要因と短絡的に捉えられることを怖れてか、古舘さんは、その件はいっさい関係ないと否定したが、あの事件で古舘さんのとった立ち位置は象徴的だった。
古賀さんが生放送中に爆弾発言を始めた時、古舘さんは必死に局の立場に立って事態収拾を図ろうとした。確かに番組のメインキャスターとはそういうものであるのだが、期せずしてそういう立場に立たざるをえなかった自身に、古館さんが不自由さを感じたのは確かだろう。
会見で「不自由な12年間でした」という発言の後にこうも述べていた。「言っていいことと、悪いこと、大変な綱渡り状態で、一生懸命頑張ってまいりました」
古賀さんの事件で明らかになったように、この1年余、安倍政権からの揺さぶりを受けて、テレ朝は揺れ動いていたから、そういう状況下で、局の顔という立場で発言を続けることに思うところがあったのだろう。
もう2年前から辞めることを考えていたという発言もあったが、たぶんこの1年余のテレ朝をめぐるいろいろな動きが背中を押したのは間違いないと思う。
◆「クローズアップ現代」と「NEWS23」
さて冒頭に古舘さんの降板を「衝撃のニュース」と書いたが、それは、このタイミングでのこの事件が大きな意味を持つ可能性があるからだ。
その後、放送時間が変わりリニューアルされるNHKの「クローズアップ現代」のキャスター国谷裕子さんの降板も報じられた。
こちらは局の上層部の意向によるものらしい。朝日新聞デジタルによるとこうだ。
《NHK関係者によると、クロ現を担当する大型企画開発センターは続投を強く求めたが、上層部は「内容を一新する」という方針を昨年末に決定。同センターを通じ、国谷さんにも契約を更新しない方針を伝えた。》(1月8日付)
籾井体制になって以降のNHK上層部の安倍政権への“すり寄り”を見ていると、いろいろな意味でごたごたして騒動の火種にもなった「クロ現」をそのまま続けるのは認めないというのが上層部の意向なのだろう。
そしてもうひとつ降板騒動が続いてきたTBS「NEWS23」のアンカー岸井成格さんについては、12月25日付の日刊スポーツが「降板することがわかった」と降板が決定したかのように報じ、ネットにはそれが拡散されている。
ただ、この日刊スポーツの記事は、降板をほぼ断定している割にはその根拠を示す記述がない。どの程度ウラがとれたものか不明なのだが、岸井さん降板という現実がないことを祈りたい。
岸井さんについては、降板を要求する右派論者らの意見広告が2015年11月に産経新聞と読売新聞に出たり、右派からの攻撃が激しくなっている状況が知られているから、実際に降板となれば、明らかに政治的意味合いを持ってしまう。
実際、ネトウヨと見られる人たちは岸井さん降板のニュースに喝采を叫んでいるようだ。こういう状況下で岸井さんを本当に降板させたら、TBSは歴史的禍根を残すと言ってよいだろう。
この1~2年間、安倍政権のメディア界、特にテレビ界への介入は激しさを増した。
TBSのリベラルな報道情報番組である「NEWS23」や「サンデーモーニング」には、番組放送後に右派からと思われる抗議が増えているという。そのなかでもこの間、大きな標的にされたのが岸井さんだ。
◆危険な「斟酌」や「忖度」の肥大化
考えて見れば、NHK、テレ朝、そしてTBSと、かつてテレビ界のリベラル派だったところにこの間、揺さぶりが集中し、期せずして今、キャスターらの降板騒動が起きているのは偶然ではないだろう。
もちろん政権からの揺さぶりというのは、人事や番組内容に直接物言いがついているという意味では必ずしもない。
例えば昨年春のテレ朝「報道ステーション」の古賀さんの騒動の時に指摘されたプロデューサー交替の例を思い起こせばよい。
同番組の政権批判のトーンを引っ張っていたというこのプロデューサーを局側は交代させたのだが、その判断をする際に、政権からの攻撃を何とかかわそうという判断が働いたのは確かだろう。
風当たりがこれ以上強まって権力と真っ向から対立するのはまずいから、ちょっと目先を変えるためにプロデューサーを交代させようといった政治的判断だったかもしれない。
政権と真っ向対決でもなく頭を垂れるのでもなく、いろいろな政治的対処をしながら、今の安倍政権からの風圧に対応していこうという判断だろう。
ただ危険なのは、そういう「斟酌」や「忖度」が肥大化していくと、明らかに「委縮」につながっていくことだ。
私は世間で言われているほどテレ朝の早河会長が単純に安倍政権になびいているというよりも、面従腹背しながら政権からの風圧をどう避けるかという政治的判断をしていると考えたほうがよい気がするのだが、今のような状況下では、それはとめどなき後退につながっていく怖れがあることは指摘したいと思う。
◆キャスターによる抗議会見が開けなくなる?
そういう流れのなかで、この間の一連のキャスター降板騒動を見ると、テレビ界をめぐる大きな動きと、明らかに連動しているように見える。
古舘さんの「報道ステーション」降板は、直接的には古舘さんの個人的問題なのだが、大きな影響をテレビ界に及ぼす可能性が無視できない。
「クロ現」の国谷さんや「NEWS23」の岸井さんの処遇をめぐっても、局の上層部が、政権や右派サイドからの風圧に対して「斟酌」を行う可能性は十分にある。
今回の一連の降板騒動が、安倍政権による揺さぶりを受けてきたテレビ界が変質していくきっかけとならなければよいのだが――。そういう不安をこの間の騒動の中で感じている人は少なくない。
テレビ界は、まさに今、どういう方向へ向かうのか岐路に立たされていると思う。
(2002年メディア規制にキャスターたちが抗議)
10年以上前、個人情報保護法案などメディア規制法と言われた法案に反対運動が起きた時、民放各局のキャスターによる抗議の会見が何度か開かれた。
フジテレビでキャスターを務める安藤優子さんが抗議声明を読み上げる一幕もあった。
しかし、この1~2年、秘密保護法反対運動などで開かれたキャスターの抗議会見には、日本テレビとフジテレビのキャスターは顔を見せなくなった。
結果的にTBSとテレ朝のキャスターが中心になったのだが、その2つの局がいま矢面に立たされ、揺れている。
次は、フジテレビがどうTBSがどうというのでなく、キャスターによる抗議会見そのものが開けなくなる状況が現実化しつつあるように思う。
◆◆「クロ現」国谷さん降板へ 出演は3月まで
2016年1月8日朝日新聞
国谷裕子キャスター
NHKの報道番組「クローズアップ現代」の国谷裕子(くにや・ひろこ)キャスター(58)が降板することが7日、わかった。出演は3月までで、4月以降は、現在月~木曜の午後7時30分からの放送時間を午後10時に移し、番組名も「クローズアップ現代+(プラス)」にするという。
国谷さんは1993年からキャスター。現在は1年契約で出演している。NHK関係者によると、クロ現を担当する大型企画開発センターは続投を強く求めたが、上層部は「内容を一新する」という方針を昨年末に決定。同センターを通じ、国谷さんにも契約を更新しない方針を伝えた。後任は同局アナウンサーを軸に検討しているという。
国谷さんは「プロデューサーのみなさんが、編成枠が変わってもキャスターは継続したいと主張したと聞いて、これまで続けてきて良かったと思っている」と周囲に話しているという。(川本裕司)
【筆者コメント】 16.01.08
官邸・自民党が狙い撃ちをしていたNHKの「クローズアップ現代」の編成変更が籾井会長のもとでついに断行された。朝日の記事のなかの国谷さんの発言に見られるように①「やらせ報道」→「自民党の事情聴取という名の圧力」、②14年7月3日の放送で、 憲法解釈の 変更で集団的自衛権の行使容認を認めることについて、 出演した菅官房長官に対し国谷さん舌鋒鋭く質問。 これに菅がキレ、 番組終了後に官邸サイドから 「君たちは現場のコントロールもできないのか」と抗議が入った事件、これらが、国谷さんの番組降板に利用された。まったく理屈の通らない降板だ。NHKでこの後籾井たちが狙っているのは、塩田純さんなどのブロデューサーがそろっているETVであろう。
ところで今朝(1月8日)のNHKの「お早う日本」のなかで参院選挙に自民党から立候補予定の菊池桃子に「聞く」という企画が10分近くも放送されたことに驚き。タレント時代から、福祉問題などを大学で教えることになった生い立ちなどを紹介。「これから福祉問題などを力を入れてやっていきたい」とまるで選挙演説そのものの決意表明。普通、特定の党派に有利になる報道は、遠慮する、これが放送法の精神であろう。NHKは、ついに「国営放送局」だけでなく「自民党放送局」にもなったのかと「びっくりぽん」。この調子だと同じく自民党から立候補する予定の乙武もNHKに登場しそうな感じ。国谷キャスターの降板は、報道ステーションの古舘キャスターの降板に続く「落城」である。これにTBSの「ニュース23」の岸井キャスターの降板が続かないことを切に望む。TBS内外のみなさん頑張って欲しい。安倍政権のマスメディア乗っ取りは、新たな段階に入ろうとしている。
◆◆「国谷キャスター降板」に異議あり! ちょっと待ってほしい!
水島宏明 | 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
2016年1月10日
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizushimahiroaki/20160110-00053282/
実は、この話、去年の秋頃から、NHK関係者の間ですでに決まったことのように囁かれていた。
年明けになって新聞各紙が報道している国谷キャスターの降板と番組の放送枠の変更の件。
多くのNHK関係者が前から「もうこれは決まったこと」だと断定的に話していたので、年が明けてから新聞各紙が報道したことに「なぜ今頃になって?」と違和感を持ったほどだ。
NHKが新番組の公表やリニューアルなど番組の内容について外部に公表する際は、放送総局長の記者会見で行うことが常なので次の放送総局長会見で発表されるのだろうと予想していた。
それが読売新聞や朝日新聞などが、記者会見を待たずに国谷さんの降板を報道し始めたのだ。
NHK「クロ現」の国谷裕子さん降板へ 出演は3月まで(朝日新聞)
NHKの報道番組「クローズアップ現代」の国谷裕子(くにやひろこ)キャスター(58)が降板することが7日、わかった。出演は3月までで、4月以降は、現在月~木曜の午後7時30分からの放送時間を午後10時に移し、番組名も「クローズアップ現代+(プラス)」にするという。
出典:ヤフーニュース(朝日新聞デジタル)
なぜ彼女は降板させられるのか?
背景にあるのは、「クロ現」の「出家詐欺」”やらせ問題”である。
BPO(放送倫理・番組向上機構)は、昨年11月に放送倫理検証委員会で12月には放送人権委員会で、それぞれ結論を公表した。
「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。
出典:BPOの「放送倫理検証委員会」 ”出家詐欺”報道に関する意見
本件映像には放送倫理上重大な問題がある。委員会は、NHKに対して、本決定を真摯に受けとめ、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材・制作において放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。
出典:BPOの「放送人権委員会」”出家詐欺”報道に関する委員会決定
NHKでは4月上旬に局内に調査委員会を立ち上げ、下旬に報告書を公表したが、BPOの「放送倫理検証委員会」はこの「調査報告書」を、「放送倫理の観点からの検証が不十分」「深刻な問題を演出や編集の不適切さにわい小化することになってはいないかとの疑問を持たざるを得ない」と調査そのものの甘さや中途半端さを指摘した。
この問題について、国谷さんには何の落ち度もない。
大阪放送局にいた一人の記者が問題だらけの取材を行っていたこと、それを見過ごしていたNHK内の体制に責任がある。
==つまり、BPOもあえて指摘したように、悪いのは今のNHKの「体制」なのだ。==
NHKはその記者を解雇するなど、責任のある人間たちを処分して再発防止に取り組めばいいだけの話だ。
NHKのトップは籾井勝人会長である。
ところが、これをきっかけとして、NHKの上層部は、国谷さんごと、番組そのものを変えてしまってイメージも変えたい、という方針を決めた、と朝日新聞は伝えている。この記事は短いものだが、「上層部」と「クロ現を担当する大型企画開発センター」との間で意見の相違があったと書いている。特定の放送局の番組についての記事でこうした局内の対立にまで触れることはめったにないことだ。
NHK関係者によると、クロ現を担当する大型企画開発センターは続投を強く求めたが、上層部は「内容を一新する」という方針を昨年末に決定。同センターを通じ、国谷さんにも契約を更新しない方針を伝えた。後任は同局アナウンサーを軸に検討しているという。
国谷さんは「プロデューサーのみなさんが、編成枠が変わってもキャスターは継続したいと主張したと聞いて、これまで続けてきて良かったと思っている」と周囲に話しているという。
出典:ヤフーニュース(朝日新聞デジタル)
この記事の報道が事実だとして、番組が変わって、国谷裕子というキャスターを降板させる。番組そのものは残るんです、放送時間が変更になるだけなんです、などと後から説明されたところで、その番組の本質的に事実上「消す」ことになってしまう。
たとえば、視聴率だけ考えても、
視聴率が高い夕方「7時のニュース」の直後に、様々なテーマを深掘りしたからこそ「クロ現」の意味があったのだ。
しかも「クロ現」は、社会の「現代」の問題を様々な切り口で見せようとする意欲的な番組だ。
ジャーナリズムを大学で教えている私も、テレビというメディアが社会をどう切り取っているのか、という題材で、よく「クロ現」を学生たちに見せる。
たとえば、2014年1月14日に放送された「あふれる“ポエム”?! ~不透明な社会を覆うやさしいコトバ~」など、居酒屋などの飲食店に行けばよく目にするようになった「夢をあきらめない」などの”ポエム”と呼ばれる言葉から現代社会の変容を伝えようとする意欲作だったし、2015年1月13日放送の「ヘイトスピーチを問う ~戦後70年 いま何が~」も日本社会で急に目立ち始めたヘイトスピーチの実態や背景に切り込んだ作品だった。
これを深夜で放送するのではなく、19時半に放送することに大きな意味があったと考える。
また、キャスターは国谷裕子さんでなければならない、と強く感じる。
最近、「報道番組」とか「ニュース」などという名称はかかげていても、政府要人に対してすっかり遠慮して「ヨイショ」しか言わないキャスターが目につく。報道現場で長年働いた経験で言えば、そういう人は「キャスター」を何年やったとしても「ジャーナリスト」ではない。
「国谷さん」だからこそ意味があったのだ。国谷さんはたぐいまれな「ジャーナリスト」だからだ。
2014年7月3日に放送された「集団的自衛権 菅官房長官に問う」では、集団的自衛権を容認するという憲法解釈を閣議決定した直後に、菅義偉官房長官をスタジオに招いて疑問点を尋ねた。予め用意した答えを繰り返す他は、「あー」とか「えー」「うー」という言葉を連発した官房長官に対して、「しかし」と明確な言葉で質問し続けた国谷さん。最後は官房長官が話している途中で(生放送なので)番組終了で幕切れになった。
短い時間に、あれほど相手を「理詰め」で追い詰めていけるキャスターを私は現在放送されているすべての報道番組を見渡しても見つけることはできない。あのワザは並のキャスターではできない。
ジャーナリストの役割は、権力が暴走しないかチェックすること。
それをあれほど体現した放送は最近めったにない。
だから、今回、新聞やテレビの報道も、ただ「国谷さんが降板する」とだけ伝えるだけにとどまっていることには不満だ。
「クロ現」を今のままで残してほしい。
「国谷さん」を残してほしい。
19時半からの「調査報道番組」を残してほしい。
今の「クロ現」は、国民にとっての財産、公共財だと考えるからだ。
それが失われようとしているのに、何も感じない、何も考えないのだろうか。
何か不祥事があると、誰かが詰め腹を切らされる。そして「体制を一新」させる。
これは今でもどの組織にもある日本的な責任の取り方だ。
でも、何も関与していない「国谷さん」が降板させられる。それでいいのか?
本当に責任を取るべき人間は別にいるのに、これほどの理不尽はない。
僕は今回、ものすごく怒っている。こんなことをよしとしてしまうNHKの人たちの「鈍感さ」に対して。
それから、そのことをもっと大きく報道しない新聞などのメディアの「鈍さ」に対してもだ。
もちろん、今回の背景に「権力」の意向、あるいは「上層部」の意向があったとしても、このまま彼女を降板させてしまっていいはずがない。
◆◆安倍政権のメディア戦略
(赤旗15.12.31)
◆◆情報錯綜!TBS「ニュース23」をめぐって今何が起きているのか
篠田博之 =月刊『創』編集長
2015年12月9日
TBS「ニュース23」をめぐって情報が錯綜している。ネットではもう膳場貴子さんや岸井成格さんの降板が決定したかのような情報さえ流れている。TBSは公式には「まだ何も決まっていない」とコメントしており、それは間違っていないと思う。いろいろな案を検討して打診などもしていると思うが、最終決定はもう少し先だろう。ただ最終決定が発表されてからでは遅いのだが。
この話がややこしいのは、膳場さんをめぐる問題と岸井さんの問題とがごちゃごちゃになっていることだ。膳場さんは周知のように出産のために番組を離れ、先日無事お子さんを出産したという。彼女にとって心穏やかでないのは、恐らく復帰後の契約をめぐって彼女と局の間で話し合いがなされているのだと思う。
その経緯について比較的正確なのは『女性セブン』12月17日号「膳場貴子アナ『出産でキャスター降板』に許せない!」ではないだろうか。膳場さん本人は産休入りのつもりでいずれ番組復帰するつもりなのだが、記事中で匿名のTBS関係者がこう語っている。
「この10月末のことです。TBS報道局幹部から呼び出されて『来年3月をもって専属契約を終わりにしたい』と告げられたそうです」
「すでに局内では、来春以降は局アナを起用することで調整していると聞いています。フリーアナを起用するよりも、予算を低く抑えられますから。ですが、まだ膳場さんの契約打ち切りも決定ではありません。膳場さんとしては視聴者の皆さんに宣言した通り、“産休後の復帰”を見据えて、交渉や準備を進めるのだと思います」
「ニュース23」は日本テレビの「ニュースゼロ」に視聴率で水をあけられており、当然、局側としては何とかできないかといろいろな選択肢を検討しているはずだ。フリーのキャスターを局アナに替えて制作費を抑えることもたぶん検討はしているように思う。この『女性セブン』の記事は「これはマタハラだ!」と見出しの肩に書いてあるように、出産を機に女性を雇い止めするのは許さない!と膳場さんの側に立って訴えたものだ。
実はこの『女性セブン』の発売を前後して、膳場さんの降板説はあちこちに流れたのだが、ちょっとした波紋を投げたのがスポーツ報知12月3日付の記事だ。見出しは「NEWS23 膳場アナ降板へ」で、記事中でやはり匿名のTBS関係者がこうコメントしていた。
「膳場アナから『番組に区切りを付けて、育児に専念したい』と申し入れがありました。後任を含めて、これから検討しますが、了承することになると思います」
この報道に対して膳場アナは即日、フェイスブックで反論した。
https://www.facebook.com/takako.zemba/posts/924543540962825
「降板申し入れはしておりません。このような誤解を、たいへん残念に思っています」
本人がこんなふうにコメントするのは異例だが、膳場さんのこの対応はやむにやまれぬものだったろう。というのも、『女性セブン』が書いているように本人が納得していないのに局側が降板させようとしているという話と違い、本人が辞めたがっているという話なら、誰もが納得し、一気に降板説が既成事実となっていくことは必至だからだ。
でもネットが恐ろしいのは、膳場さんの発言によって誤報であることが明らかになったスポーツ報知の記事が12月9日現在、いまだにネットにあがっているし、それを受けた記事もまだあちこちに残っていることだ。誤報であっても一度拡散すると簡単には消えないのがネットの特性だ。
http://www.hochi.co.jp/entertainment/20151202-OHT1T50209.html
膳場さんの復帰をめぐる交渉はこれから本格的に行われるのだろう。局としてはいろいろな選択肢について検討を始めているだろうが、もし膳場さんのMC交替を考えるなら、恐らくアンカーの岸井さんについてもどうするか検討を行っていて不思議はない。ただ複雑なのは、ここへきて、その問題が政治的文脈の中でクローズアップされてしまったことだ。
安保法制をめぐって一貫して安倍政権を厳しく批判してきた岸井さんに対して右派陣営から猛烈な攻撃がなされ、それが降板騒動と絡まってしまったのだ。
話題になっているのは周知の通り、11月14日の産経新聞と15日の読売新聞に掲載された1ページの意見広告で、安保法制を巡る岸井さんの「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」という発言を取り上げて断罪したものだ。事実上、岸井さんを番組から降ろせと言っているのと同じで、こういうものが全国紙に大きく掲載されること自体が異様と言える。
この右派の意見広告について最初に大きく取り上げたのは東京新聞の特報面だが、その後、いろいろなところでこれが問題にされたため、すっかり有名になってしまった。実は私も東京新聞で読むまで、この意見広告には気が付かないでいた。もちろん産経も読売も読んでいるのだが、読み飛ばしていたのだ。改めて読んでみてわかったが、この意見広告はデザインがかなり悪い(笑)。「私達は~見逃しません」というコピーに目の写真を配するというベタなデザインで、何やら怪しいイメージさえ醸し出している。たぶん多くの読者が読み飛ばしてしまったのではないだろうか。その意味では、今のように注目されることになったのは広告を出した右派論者にとっては幸いなことだったかもしれない。
その意見広告で展開されているのは、岸井さんの政府批判が放送法の「政治的公平であること」という理念に違反しているというものだが、これはいわば放送法をめぐってこれまでも議論されてきたことの蒸し返しだ。先の11月6日のBPO(放送倫理・番組向上委員会)の意見書が政府の放送介入を批判したこととあいまって、最近、放送法をめぐる議論が再燃しているのだが、これまでの専門家の通説によれば、右派や安倍政権の言う放送法の理解は間違っているといえる。放送法とは、戦前に放送などのメディアが国家権力によって支配されたことへの反省から作られたもので、メディアの政治権力からの独立をうたったものだ。つまり放送法第1条の「放送の不偏不党」というのは、公権力が放送へ介入しないようにという意味であって、その不偏不党という言葉を振りかざして安倍政権が放送に介入するのはブラックジョークと言ってよい。
これは例えばBPO委員でもある映画監督の是枝裕和さんが『週刊プレイボーイ』12月14日号の古賀茂明さんとの対談で強調していることで(この対談はなかなか面白い)、自分の公式HPで相当詳しくこれについて論じている。
http://www.kore-eda.com/message/20151107.html
そういう説明を読めば、右派論者が岸井さんの発言を放送法違反だと非難するのは間違っていることになるのだが、しかし権力批判というジャーナリズム本来の役割を果たすことを「偏向」と非難されるというこの倒錯は、「戦争」を「平和」と言い換える安倍政権のもとでは一定の力を得てしまう怖れがあるから簡単ではない。
岸井さんへの右派からの攻撃は、『WiLL』最新号でも展開されているし、明らかにある種の政治的動きとなっている。ちなみに前出の『週刊プレイボーイ』の対談で古賀さんは岸井さんについて「来年4月からの降板が決まったと関係者から聞いています」と語っている。もちろん古賀さんはそれに反対して言っているのだが、うーん、こんなふうに断定的な印象を与える言い方をするのはどうなんだろうか。降板説が増幅されていくと既定の事実になってしまいかねない気もする。
それを逆手に取ったのが『週刊金曜日』12月4日号での佐高信さんのコラムだろう。「岸井成格ひとりがそんなに恐いのか」というタイトルがついたその論考の中で、佐高さんは岸井さんを降板させて後任に朝日新聞の星浩さんをという噂が出ていることを取り上げ、「声をかけられて、もし引き受けるとしたら、それは火事場泥棒でしょう」と酷評している。こんなふうに名前が取りざたされて批判されては、星さんも仮に打診があったとしても受けられなくなるわけで、佐高さんはたぶんそれを見越して書いているのだろう。
「ニュース23」についてはいろいろな情報が錯綜しているのだが、その錯綜する情報の中に、いろいろな思惑が込められてもいる。膳場さんの降板説がここへきて一気に吹きだした背景にも、何となくある種の思惑が感じられる。
岸井さんをめぐっては、こんなふうに政治的な問題となってしまったために、たぶんTBS上層部は困惑していると思う。どう対処するにせよ、いろいろ腹を探られることになる。降板騒動はまだしばらく続きそうだ。
ここは番組を今後どうするかという編成上の問題と別に、政治問題化した岸井バッシングに対しては毅然として対応しないとTBSのイメージが毀損されかねないことを強く訴えておきたい。
◆◆「放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピール
メディアへの官邸・自民党などへのさまざまの圧力の行使を放置できないと考えた研究者やジャーナリスト有志が、12月15日、「放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピール」を発表し、外国特派員協会で記者会見を行いました。以下は、アピール全文。
★★記者会見の動画(90m)は以下
https://m.youtube.com/watch?v=oYEorsAETtw&feature=youtu.be
◆放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピール
テレビ放送に対する政治・行政の乱暴で根拠のない圧力が目に余ります。
自民党筆頭副幹事長らによる在京テレビ報道局長への公平中立の要請、総務大臣によるNHK『クローズアップ現代』への厳重注意、自民党情報通信調査会によるNHK経営幹部の事情聴取、同党勉強会で相次いだ『マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけよう』といった政治家の発言、政治・行政圧力を批判したBPOの意見書を真摯に受け止めない安倍晋三首相、菅義偉官房長官、谷垣禎一自民党幹事長の発言など。
こうした政治・行政のテレビ放送に対する圧力が、テレビ報道を萎縮させて、人々に多様なものの見方を伝えるテレビという表現の場を狭め、日本の言論・表現の自由を著しく損なっていると私たちは考えます。
とくに政治家や行政責任者が、日本の放送を規定する『放送法』の趣旨や意義を正しく理解できず、誤った条文解釈に基づく行動や発言を繰り返していることは大問題です。放送法は第一条で、放送全体の不偏不党、真実、自律を保障することを公権力に求め、政治・行政の放送への介入を戒めています。
放送法は放送による表現の自由を確保することを目的とする法律であり、不偏不党や中立を放送局に求めてはいません。放送法第四条一項二の『政治的な公平』を番組ごとに要求したり、ある番組を放送法第四条違反と決めつけたりすることことはまったくの誤りで、首相の一方的な主張を伝える番組、ある法律に反対するキャスターを一方的に伝える番組、どちらもテレビに存在してよいのです。
その一方だけを放送法違反として排除するのはおろかです。およそ先進的な民主主義国では考えられないマスメディアへの介入によって、自由な民主主義社会を危うくしてはなりません。政治家や行政責任者には、表現の自由を謳う放送法を正しく解釈して、尊重し、テレビ放送への乱暴で根拠のない圧力を抑制することを強く求めます。政治家や行政責任者は放送が伝える人々の多様な声に耳を傾け、放送を通じて、政策を堂々と議論すべきです。
テレビやラジオには、表現の自由を謳う放送法を尊重して、自らを厳しく律し、言論・報道機関の原点に立ち戻って、民主主義を貫く報道をすることを強く求めます。放送局は圧力を恐れず、忖度や自主規制を退け、必要な議論や批判を堂々と伝えるべきです。
私たちは放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守ることを呼びかけるアピールを通じて、問題の所在を内外のマスメディアに広く訴え、メディア関係者のみならず、多くの人びとに言論・表現の自由について真剣に考え、議論をしてほしいと願っています。
◆賛同人
松本功(ひつじ書房編集長)/マッド・アマノ(パロディスト)/岩崎貞明(『放送レポート』編集長)/是枝裕和(映画監督)/小田桐誠(ジャーナリスト)/篠田博之(『創』編集長)/柴山哲也(ジャーナリスト)/上滝徹也(日本大学名誉教授)/桧山珠美(フリーライター)/田中秋夫(放送人の会理事/日本大学藝術学部放送学科講師)/高橋秀樹(日本放送協会・常務理事/メディアゴン・主筆/日本マス・コミュニケーション学会)/ジャン・ユンカーマン(ドキュメンタリー映画監督/早稲田大学招聘研究員)/壱岐一郎(元沖縄大学教授/九州朝日放送)/永田浩三(ジャーナリスト/武蔵大学教授)/古川柳子(明治学院大学文学部芸術学科教授)/真々田弘(テレビ屋)/岡室美奈子(早稲田大学教授/演劇博物館館長)/隅井孝雄(ジャーナリスト)/小玉美意子(武蔵大学名誉教授/メディア研究者)/川喜田尚(大正大学表現学部教授)/諸橋泰樹(フェリス女学院大学教員)/高瀬毅(ノンフィクション作家)/中村登紀夫(日本記者クラブ/放送批評懇談会/日本民放クラブ/日本エッセイスト・クラブ)/大橋和実(日本大学藝術学部放送学科助手)/藤田真文(法政大学社会学部メディア社会学科教授)/兼高聖雄(日本大学藝術学部教授)/石丸次郎(ジャーナリスト/アジアプレス)/田島泰彦(上智大学教授)/白石草(OurPlanetTV)/小林潤一郎(編集者/文筆業)/須藤春夫(法政大学名誉教授)/谷口和巳(編集者)/茅原良平(日本大学藝術学部放送学科専任講師)/海南友子(ドキュメンタリー映画監督)/野中章弘(ジャーナリスト/早稲田大学教員)/鎌内啓子(むさしのFM市民の会運営委員)/豊田直巳(フォトジャーナリスト/映画『遺言~原発さえなければ』共同監督)/碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)/八田静輔(民放労連北陸信越地方連合会元委員長)
◆◆神保哲生・宮台真司対談=「安倍政権の放送法の解釈は間違っている」
★★神保哲生・宮台真司対談=安倍政権の放送法の解釈は間違っている(2015年11月21日)39m
https://m.youtube.com/watch?feature=youtu.be&v=kiJwPUVl03Y
BPO(放送倫理・番組向上機構)がNHK番組の「やらせ疑惑」をめぐり、高市早苗総務相による放送への介入を批判したことに対し、政権側が激しく反論を繰り広げている。
高市総務相と安倍晋三首相は11月10日の衆議院予算委員会で、放送法は総務相が放送局に対して行政指導を行う権限があると解釈していることを明らかにした。
「BPOというのは、法定の機関ではないわけでありますから、まさに法的に責任を持つ総務省が対応するのは当然であろうと思う。」安倍首相はこのように語り、放送法の4条は放送局への政府の指導を認めているとの認識を示した。
また、自民党がNHKの幹部を呼びつけて事情を聞いたことについて、BPOが「政権党の圧力そのもの」と批判したことについても、安倍首相は「予算を承認する責任がある国会議員が事実を曲げているかどうかを議論するのは当然のこと」と語った。
確かに放送法の4条は放送事業者に対して政治的な公平性や事実を曲げないことなどを求めている。
しかし、放送法はその第1条で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」を定めている。映画監督でBPOのメンバーを務める映画監督の是枝裕和氏が自身のブログで指摘するように、放送法を審議していた1950年の衆院電気通信委員会で当時の綱島毅電波監理庁長官が、この条文はそもそも放送事業者ではなく、政府に対して向けられたものであると答弁している。
つまり、放送法の第1条は放送局を縛ることを意図としたものではなく、放送局に対して政治に介入されることなく、不偏不党や真実を貫く権利を保障している条文だったのだ。また、そこで言う不偏不党や真実といった条件は、放送局自らが「自律」的に担保すべきものであることも、同条文は明確に謳っている。
それを前提に政治的な公平性や事実を曲げないことを求めている第4条を読めば、これらの条件も放送局が自律的に担保すべき基準と考えるのが自然だ。同じ法律の第1条で政治の介入を禁止しておきながら、第4条で政治が介入してもいいと書かれていると解釈することには無理がある。
そもそも日本国憲法21条は表現の自由や検閲の禁止を定めている。まず憲法21条が大前提として存在し、その下で放送法が第1条で権力の介入の禁止や放送局の自律的な不偏不党性や真実性を追求する権利を定めている。そして第4条で第1条で示した不偏不党性や真実性の具体的な要素として、政治的な公平性や事実を曲げないことなどを挙げているということになる。
しかし、安倍首相や高市総務相の国会答弁では、憲法21条と放送法の1条と4条があたかも同じ優先順位で並列に存在しているかのような認識が示されている。憲法21条と放送法1条の存在を無視して、全く独立した法律の条文として放送法4条を読むことによって、放送局には「政治的な公平性」や「事実を曲げないこと」が求められているので、これに違反した場合は行政が介入することが可能になると強弁しているに過ぎない。
これは元々それほど難しい問題ではない。憲法21条で表現の自由や検閲の禁止が保障されている以上、放送法がそれを認めることはそもそもあり得ない。放送という媒体の希少性や特殊性を考慮に入れても、公平性や真実性の制約は放送局が自律的に課すものでなければならないことは明白だ。また、もし放送法が高市総務相や安倍首相の答弁したように解されるのが正しい法解釈だとすれば、単にそのような放送法は憲法違反ということになるだけだ。
なぜ今日の日本では明白に憲法に抵触する、ありえないような法解釈がまかり通るのか。なぜ放送局はこのような法外な政府の解釈に反発しないのか。次々と表現の自由が切り崩されている現状について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
その他、原発事故直後に国外に避難したことで契約を解除された元NHKフランス人キャスターに勝訴判決など。
◆◆砂川浩慶=放送局が権力による違法な介入を蹴飛ばせない理由
(立教大学社会学部准教授)
★★放送局が権力による違法な介入を蹴飛ばせない理由/砂川浩慶氏(立教大学社会学部准教授)55m(2015年11月20日)
https://m.youtube.com/watch?v=mvnnI4EkjLg&feature=youtu.be
◯◯◯
BPO(放送倫理・番組向上機構)がNHK番組の「やらせ疑惑」をめぐり、高市早苗総務相による放送への介入を批判したことに対し、安倍政権は放送法は総務相放送局に対して行政指導を行う権限を認めていると主張している。
しかし、立教大学社会学部准教授で放送法が専門の砂川浩慶氏は、安倍政権の放送法の解釈は間違っていると指摘する。
砂川氏はまた、政権の誤った法解釈に対して放送局が反発できない理由として、放送局が政府から数々の特権を与えられている問題を指摘する。
砂川氏に放送法の解釈や放送免許制度の問題点、クロスオーナーシップの弊害などについて、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。
砂川浩慶(すなかわ ひろよし)
立教大学社会学部准教授
1963年沖縄県生まれ。1986年早稲田大学卒業。日本民間放送連盟職員を経て2006年より現職。編著に「放送法を読みとく」など。
◆放送法など参考条文
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
(定義)
第二条(略)
第二章 放送番組の編集等に関する通則
(放送番組編集の自由)
第三条 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
2 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送等の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。
(番組基準)
第五条 放送事業者は、放送番組の種別(教養番組、教育番組、報道番組、娯楽番組等の区分をいう。以下同じ。)及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。
2 放送事業者は、国内放送等について前項の規定により番組基準を定めた場合には、総務省令で定めるところにより、これを公表しなければならない。これを変更した場合も、同様とする。
◆◆聞いて呆れる首相担当記者たちのごっつぁん忘年会
(日刊ゲンダイ16.01.07)
◆◆テレビ報道の〝強み〟を封じた安倍自民=「抗議文」「要望書」で音声も消えた
水島宏明
2015年10月13日朝日新聞論座
安倍政権のテレビへの「コワモテ」は2006~07年の第1次政権から突出していた。
「やつらは本当にやばい」
「一線を越えて手を突っ込んでくる」
07年頃、ある民放キー局の経営者から直接聞いた言葉だ。「やつら」とは当時の安倍晋三首相と菅義偉総務相の2人。「一線」とはメディアと政治の間に引かれた線だ。メディアは国民の「知る権利」を背景にした権力監視が〝役割〟。一方、政治はメディアから監視・批判されるのが〝役割〟。歴代の権力者もこの線引きを尊重し、領分をわきまえてきた。ところが2人はこの線をやすやすと越え、威圧的に介入しようとする。
前述の経営者は「不祥事は起こすな」「起こせば政治家につけ入られる」とも語った。07年、関西テレビの『発掘!あるある大事典Ⅱ』での捏造事件をきっかけに菅総務相は放送法改正案を国会に上程。虚偽放送などの際に再発防止計画を策定させるなど、政府が放送局に対し「新たな行政処分」を科す権限強化案だった。マスコミ業界などから反対の声が上がり、放送局側は自ら設立した第三者機関BPO(放送倫理・番組向上機構)の組織改編(新たに放送倫理検証委員会を設置)を決めるなどで法改正は免れた。しかし安倍・菅ラインが不祥事に乗じて「監督強化」を狙う強烈な印象は関係者の記憶に強く刻まれた。
この時期、菅総務相はNHKの短波ラジオ国際放送に対して「北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意すること」と放送法に基づき命令した。法で認められた権限とはいえ、具体的な放送内容を指示する命令は前代未聞だった。
12年12月、安倍政権は復活した。第1次政権で総務相として放送局に睨にらみを利かせた菅義偉氏は官房長官として「メディアへの牽制」を行う司令塔になった。組織全体を統制するために「トップの首をすげ替える」手法で日銀、内閣法制局などのトップに従来の組織内の先例や規範等にこだわらない人物を配し、NHKでも籾井勝人氏を会長に就任させた。籾井氏は会長就任以来、失言などが注目されたが、他方、菅氏らがこだわる「国際放送の充実」をたびたび強調し、〝従軍慰安婦〟が「性奴隷」と英訳されて国際放送で放送された事件以降、局内のチェック強化を強めている。
◆第2次安倍政権以降に巧妙化する「アメとムチ」
第2次政権以降で際立つのが、安倍首相の単独取材・単独出演を材料に「アメ」と「ムチ」を使いわける手法だ。13年4月に首相は「情報番組」に相次ぎ出演した。TBSの情報番組『情報7daysニュースキャスター』がまず単独インタビュー。第1次政権退陣後の苦節の時期に書いたノートや夫人との私生活などが中心で、政策への報道的な質問は少なかった。ニュース番組よりも時間が長く、「素顔」に関心が向きがちな「情報番組」を利用する出演戦略だ。首相は日本テレビの朝の情報番組『スッキリ.』にも生出演。スタジオは「一国の首相が来てくれた」という高揚感に包まれた。首相は翌月に迫る長嶋茂雄・松井秀喜両氏の国民栄誉賞授与式での記念品が黄金のバットだと明かし、最後に両手を前に突き出す番組の決めポーズまで披露した。
国民栄誉賞の授与式は、プロ野球巨人戦の前の東京ドームで行われた。その直後の野球試合の始球式は投手・松井秀喜、打者・長嶋茂雄、主審・安倍晋三という顔ぶれで行われた。国民栄誉賞の授与という政府行事が特定のマスコミ、読売新聞・日本テレビと関係が深い施設で独占的に実施された。生中継も日テレだけが行った。一部メディアに与えられる「アメ」。これに対して他のメディアから異論も上がらず、メディアの従順化の地ならしが進んだ。
だが安倍政権の政治家たちの本質は「ムチ」=メディアに対する恫喝(どうかつ)だ。報道姿勢が意に沿わないと「偏向」というレッテルを貼り、ペナルティーを科してくる。
13年6月26日夜のTBS『NEWS23』は通常国会の閉幕を伝えた。首相の参議院予算委欠席で野党側が出した問責決議案が可決。重要法案とされた生活保護法改正案、生活困窮者自立支援法案、電気事業法改正案などが廃案になったことを焦点化して衆参の「ねじれ」を象徴する出来事だと報じた。田村憲久厚労相の「非常に残念」という肉声を使い、発送電分離のシステムを作る電気事業法改正案の可決に期待を寄せていた自然エネルギー財団の大林ミカ氏に「問責決議案の前に、法案の採決をしようとする動きもあったわけですから、結局与党がそうしなかったというのは、もともとシステム改革法案を通す気がなかったのかも。非常に残念」とコメントさせた。
翌日、自民党はTBSに対し、与党側の言い分を説明せず「著しく公正を欠いた」と抗議文を送る。参院選公示日の7月4日には党幹部への取材・出演拒否を発表。翌日、TBS報道局長が釈明に赴いたことで「事実上の謝罪があった」と取材・出演拒否を解除したが、第2次政権以降の自民党とテレビ局の力関係を決定づけた。後述する14年総選挙における自民党による主要テレビ局への「中立・公正を求める要望書」は、この〝成功体験〟で自信を深めた安倍自民党が「事前に釘刺し」したものだ。「要望書」は守らなかった場合はどうするとは書かれず、想像させることで威嚇効果があった。刀は実際に抜かない方が相手を萎縮させる効果がある。
◆「不自然さ」が増えたNHKのニュース
第2次、第3次安倍政権はテレビ各局がなんらかの形で政権に対する「気遣い」を見せ、局によって「割り切った報道」に徹した時期だ。顕著だったのがNHKだ。第2次政権以降、その幹部らさえ首をひねったのが、看板ニュース番組『ニュースウオッチ9』で「安倍首相が話す場面」が異常に長くなったことだった。国会審議や記者会見、ぶら下がりなど、場面は違っても毎晩、首相が話す映像と肉声が放送される。首相だからという理由では理解不能なほど多く、長い。各局のニュースを比較して観察する研究者の立場でみても突出した印象だった。
不自然な報道も増えた。参院選の公示2日前の13年7月2日、『ニュースウオッチ9』は「日米の非公式首脳会談」の映像を独自入手したとして、英国で行われていたG8サミットで安倍首相とオバマ大統領が立ち話をする映像を放映した。サミット開催で同時に普通は実施される日米公式00首脳会談が米国側に嫌われたのか実現せず、野党に批判されていた安倍首相。「オバマ大統領の信頼」を示す格好のニュースになった。メディアが立ち入れないサミット会場内で撮影された映像のリークであることは一目瞭然であった。
14年5月1日の『ニュースウオッチ9』で消費税が5%から8%に上がった1カ月後の景気状況のリポートが放映された。増税でデパートなどの売り上げが減少したが、「想定内」で「一時的」だと強調する。百貨店や飲食店などで「セレブ志向」「高級路線」を試みたところ売り上げが伸びたという実例が紹介され、消費増税の影響は限定的で、高級路線で売り上げは伸びる、という報道だった。増税によって一番の打撃を受けると言われた「低所得層」をあえて除外した不自然なニュースだった。
一方、安倍政権にとって本丸の政策、特定秘密保護法、憲法改正、原発再稼働、集団的自衛権、安保法案をめぐる問題では、NHKのニュースでは主に用語の説明や政権の意図の解説に終始し、法案や政策の中身を懸念する主張を入れる場合にも識者の声を登場させず、政党関係者の声に限って使うという「政治部報道」に徹している。自らの調査・取材で問題点を指摘せず、各政党の主張を並べる「割り切った報道」だった。
これでは視聴者には複雑な問題がわかりにくい。NHKのニュース番組を見ても視聴者には問題の本質や論点がよくわからない状態が続いている。特定秘密保護法や安保法案など、政権が想定する状態が複雑になればなるほど「情報監視審査会」「独立公文書管理監」「グレーゾーン事態」「武力攻撃事態」「存立危機事態」などの耳慣れない用語が登場し、その解説で報道の大半が終わってしまう。
安倍政権は幹部が一部メディアの経営者らと頻繁に会食を繰り返し、様々な報道をチェックし、官邸詰めの記者らを通じてクレームや注文を伝えるなど、メディア対策は綿密だ。
◆後藤健二さん殺害のニュースで「政治部的な報道」
まるで安倍政権と一体化したような報道では?と感じたのは15年2月1日のNHK『ニュース7』だった。その早朝に飛び込んだフリージャーナリスト後藤健二さん殺害の報。テロ組織「IS」の人質だった彼の殺害がネット上で確認され、関係者の悲しみの声など放送した後で「政治部の岩田明子記者」が生出演した。彼女は「政府は後藤さんの解放に全力を挙げてきた」と政権の努力を伝え、首相とヨルダンのアブドラ国王との首脳同士の信頼関係が背景にあってヨルダン人パイロットを絡めた解放交渉ができたと解説した。国家安全保障会議(日本版NSC)を設置したことで各国の情報機関からも詳細な情報が得られたと政権内部の自己評価を紹介、安倍政権の危機対応体制が機能したことを強調した。戦争で傷つく子どもの姿を伝えてきた後藤さんの最期を「日本人の安全対策やテロ対策に万全を」「政府としては国際社会と連携してテロとの戦いに取り組む」など、政治の言葉でからめとる報道姿勢には強い違和感を抱いた。
「政治部の岩田明子記者」は首相の訪米や戦後70年談話などの「節目」でNHKがここぞとばかり登場させる。政権の「意図」や「狙い」、安倍首相の「思い」を解説する役割が多く、首相の代弁役に徹する立ち位置のように思われる。
14年11月18日、衆院解散と総選挙実施を決めた夜、安倍首相はTBS『NEWS23』に生出演した。途中で挿入された街頭インタビューのVTRはアベノミクスの効果を感じるかを問うもので、感じないという声がやや多かったが、「これ、全然声が反映されていません。おかしいじゃありませんか」と首相は声を荒らげた。
2日後の11月20日。自民党はNHKと民放キー局に対して、選挙報道の公正中立を求める「要望書」を提出した。4項目と細かい点にまで公正中立を求めていたことが特徴的だった。
4項目とは(1)出演者の発言回数や時間(2)ゲスト出演者の選定(3)テーマ選び(4)街頭インタビュー、資料映像の使い方だ。
◆自民党による「要望書」の効果? テレビに起きた「異変」
要望書で報道は影響を受けたのか。
筆者は14年の総選挙の投票前のNHKおよび民放キー局の報道番組・情報番組すべてを録画し検証した。12年の総選挙では報道番組・情報番組について放送データや視聴記録が残っているものを利用して比較した。
解散前、解散後で公示前、公示後で投票日前の選挙期間中という3期間の放送で12年と14年を比べてみると、いくつかの「異変」があることが判明した。
◆異変その1 消えた「街頭インタビュー」
テレビにとって「街頭インタビュー」は人々の感じ方や考え方、流行等を伝える大事なツールだ。情報番組では、「あなたの弁当にまつわるエピソードは?」「いざ勝負の時、あなたのゲン担ぎは?」などの声を集めた面白企画があるほど「街頭インタビュー」はテレビの武器でもある。ところが14年の総選挙では自民党の「要望書」が出された後、街頭インタビュー(被災地の声など、無差別に一般市民の声を収録したもの)は、一部のテレビ局や一部の番組を除き、多くの番組で姿を消した。典型例が日本テレビだ。日テレは12年の総選挙では情報番組『スッキリ.』と報道番組『NEWS ZERO』で街頭インタビューを使っていたが、14年は系列の読売テレビが制作する『情報ライブ ミヤネ屋』を除いて自局制作の番組で街頭インタビューを一切使っていない。
◆異変その2 「資料映像」の使用も消極的に
テレビの人間以外にはわかりにくいが、「資料映像」とは特定の日付で撮影された過去映像を「一般的な表現」として用いる際の呼び方だ。たとえば自衛隊の訓練の様子を撮影した映像を、防衛予算などのニュースで使用する場合が該当する。また過去の映像全般を指す場合もある。
14年の選挙報道においては一般的な「農業」についてのテーマで農作業風景、「防衛」のテーマで海上自衛隊の艦艇など一般的な資料映像の使用は数えるほどだった。政治とカネで辞任した元閣僚(小渕優子元経産相)の過去映像(辞任会見で頭を下げる場面)を本人が候補で出馬する「選挙区情勢」で使った例が群馬5区の報道であった程度。だが、石原伸晃環境相(当時)の「最後は金目でしょ」発言や松島みどり法相(当時)の「うちわ」問題、宮沢洋一経産相(当時)の「政治活動費でSMバー」問題、江渡聡徳防衛相(当時)の疑惑が指摘された収支報告をめぐる過去映像はほとんど登場しなかった。自民党にとって不利と思われる過去映像の使用が意識的に控えられた印象がある。
また過去映像では12年の解散総選挙の引き金を引いた与党・野田佳彦vs.野党・安倍晋三の党首討論も使用が注目された。消費税を上げる前に国会議員の定数是正を自民党・安倍総裁が約束するのと引き換えに解散総選挙実施を野田首相が表明した場面だが、自民党政権の下でその後も定数是正が実現していない〝約束違反〟を示す重要な「資料映像」でもある。「要望書」が出る前はテレビ朝日の情報番組が一度使用した例があったものの「要望書」の後はキー局で使った局はない。日テレ系では読売テレビが制作する『ウェークアップ!ぷらす』が一度使ったが日テレそのものは使っていない。
麻生太郎副首相が選挙期間中にした「高齢者よりも子どもを産まない人の方が問題だ」「この2年間で利益を出していない企業は…経営者に能力がないから」との発言もニュースになったが、さかのぼって過去の問題発言の「資料映像」を使う番組もなかった。
総選挙で「政策」の報道はどうだったか。
「報道番組」では12年総選挙では日テレ『NEWS every.』が「原発ゼロで暮らしは?」と各党の主張を並べ、テレ朝『報道ステーションSUNDAY』が「『続原発』『脱原発』『卒原発』その先の日本は?」の特集で経団連などの主張も紹介。フジ『新報道2001』が「〝脱〟〝卒〟〝フェードアウト〟乱立『脱原発』の本気度」を放送。どの局も「原発」「復興」「TPP」の政策を扱っていた。
◆異変その3 情報番組で消えた「政策報道」
ところが14年にはNHKのニュース番組の他は「政策」ごとにシリーズで放送したのは民放ではテレ朝『報道ステ』『Jチャン』、TBS『NEWS23』『Nスタ』だけだった。
「情報番組」も12年の総選挙では(「乱!総選挙2012」など)統一キャッチフレーズでシリーズ放送した番組はTBS『みのもんたの朝ズバッ!』『ひるおび!』、テレ朝『モーニングバード!』『ワイド!スクランブル』、日テレ(読売テレビ制作)『情報ライブ ミヤネ屋』など多かった。群を抜いていたのがフジ『とくダネ!』で選挙期間中ほぼ毎日、政策についてのシリーズ「総選挙SPニッポンの選択」を放送。TPP、原発、地方再生、消費税、子育て支援などのテーマで、賛成、反対に分かれて主張を展開した。「ジャーナリズム性が高い」と評価され、ギャラクシー賞月間賞にも選ばれている。
それが14年総選挙では「政策」シリーズばかりか選挙に関連した特集そのものがあらゆる「情報番組」から消えた。
◆異変その4 消えた「政治家同士の討論」
12年は「情報番組」で生放送での政治家の討論コーナーが多かったが、14年にはすべての「情報番組」で前述のように選挙特集そのものがなくなった。
「報道番組」でも12年の公示前にはニュース番組で「与党・民主党の幹部vs.野党・自民党の幹部」という組み合わせで小さな政党を除いた討論コーナーが数多くあった。しかし14年は「全政党による党首討論」スタイルばかりになった。多政党乱立で一言ずつ言いっ放しで終わり、充実した議論ができない。コーナーの数も著しく減り、各番組で1回ずつやる程度で終わった。
分析すると、街頭インタビューが激減し、情報番組では選挙特集自体が消えるなど、12年総選挙と比べ14年総選挙での衰退ぶりは明らかだ。ただ、それが「要望書」による影響かどうかは証明が困難だ。「選挙に関する視聴者の関心が低く、視聴率を取れないので扱わなかった」(司会者の田原総一朗氏)という声がある一方、「街頭インタビューは使わないようにとの指示が上層部からあった」(キー局報道局記者)との声もある。
街頭インタビューは「国民の感じ方」を伝えるためにふだんから使用されるテレビの重要なツールである。「資料映像」の使用も過去の出来事を視覚的に想起させる強みを持つ手法だ。「生放送での討論」も「テレビの強み」だが、14年にはそろって姿を消した。各局が総選挙の報道で「テレビらしさ」を放棄した格好だ。
◆「不祥事につけ入る」構図でBPO改革案も
第1次安倍政権でテレビ局の不祥事に乗じて介入強化を目論んだ姿勢は第2次、第3次政権でさらに露骨になった。15年3月27日にテレビ朝日『報道ステーション』でのコメンテーター・古賀茂明氏による「菅官房長官を始め、官邸からすごいバッシングを受けてきた」という爆弾発言がきっかけになり、テレビ朝日が標的になった。菅官房長官は後の記者会見で「まったくの事実無根」としながらも「放送法という法律があるので、まずテレビ局がどう対応されるのかを見守りたい」と発言。総務相時代の対応を振り返れば「放送法」を強調する意味は明白だった。菅氏同様に総務相の経験がある佐藤勉国会対策委員長はテレ朝幹部を個別に呼んで説明させた。テレビ朝日は再発防止策をまとめて発表した。
4月17日、自民党の情報通信戦略調査会(会長・川崎二郎元厚労相)はテレビ朝日の幹部を呼びつけて「聴取」を行った。この「聴取」にはNHKの幹部も呼びつけられた。この時期、NHKは看板報道番組の『クローズアップ現代』(追跡〝出家詐欺〟~狙われる宗教法人~)の「やらせ疑惑」を週刊誌で追及され、外部委員も交えた調査委員会の調査報告をまとめていた。
この流れを受けて、自民党の有力な総務族議員からは「BPOの組織を改編して規制を強化」「政府がBPOに関与」などの議論が出されている。BPOはNHKと日本民間放送連盟が共同出資で運営する組織で、法律が定める組織ではない。これまで第三者委員会方式で個別の事案を審議。勧告・意見などを出して各放送局が自主的に再発防止に努める助言を行ってきた。
ところが自民党の一部議員の「改革案」では、これを法律で担保された組織に格上げし政府によるBPO委員の任命や官僚(またはその出身者)の就任などの案も出ている。
BPOは放送局による放送倫理違反や人権侵害などを議論する現在唯一の組織だが、その審議においては放送局側の「自主的な協力」で「番組の提供」や「制作者の聞き取り」が行われている。BPOは強制力を持たず、局には法律上その意見に従う義務もない。是非を判断する委員たちは弁護士、大学の研究者らが中心で放送や報道の実務を経験していない人も多い。それゆえ現場から見れば現実離れした意見が出ることもあり、丁寧に判断してほしいと思う場面も少なくない。
与党議員の「改革案」の背景には、BPOがいくら介入してもテレビの不祥事はなくならないという国民の不満がある。
他方、政府がBPOを直接統制する仕組みにすると政権の恣意的な運用になりかねない。6月に起きた自民党勉強会での「報道圧力」発言は、報道機関の自主性を尊重せず権力的な介入を志向する議員が相当数いることを明らかにした。報道機関を「懲らしめるには広告収入をなくすのが一番。経団連に頼んでスポンサーを降ろさせてしまえばいい」などの発言は政治とメディアの「一線」への無理解を示している。この「報道圧力」発言にニュースキャスターらも反発し、新聞協会、民放連なども危機感を表明した。だが、この「政治の本音」は今後も底流に残るだろう。
筆者は「BPO改革」と「報道圧力」が連動するのを恐れる。これまで放送に関してはBPOが防波堤になり、権力が放送に直接「手を突っ込む」のをくい止めてきた。たが、国民にその存在意義が理解されているとは言いがたい。
BPOと放送業界には、不祥事の再発防止でもっと効果的で厳しさを伴う仕組みに変える努力が求められる。また政府から独立した第三者機関が審査する現システムの意義を、もっとアピールしてほしい。
「音」消しなど「テレビらしさの放棄」が進んでいる
戦後70年を迎えたこの夏、テレビで何度か「音」が消された。沖縄戦での戦没者を弔う「慰霊の日」の追悼式典では安倍首相に対して出席者から投げかけられた罵声も、NHKやいくつかの民放のニュースで音声を聞かせない編集が行われた。安保法案の国会審議で安倍首相が複数回飛ばしたヤジも、音声を消し、ヤジ行為そのものを伝えないなど「不自然さ」が目につく。ヤジは映像なら状況や発話者の品性まで伝わるが、もし音を消したら悪質さの度合い等は伝わらない。
安保法案が採決された衆院特別委の質疑もNHKは中継しなかった。NHKは「各党、各会派が揃って委員会の質疑に応じるのが決まったのは当日の委員会直前の理事会であり、質疑を中継する準備が間に合わなかった。採決の模様は定時ニュースを拡大させて伝えたほか、当日のニュース番組でも詳しく伝えている」と説明。「ニュースと異なり、NHKの国会中継は、各会派が揃った上で、平等に、きちんとした発言の機会が与えられることが大前提」とする。だが災害も大事件も我先に中継するNHKが、ケーブルやカメラ等が常設された国会で中継の準備が間に合わないとは信じがたい。
安保法案では憲法学者が相次ぎ「違憲」表明した衆院特別委での参考人招致や「法的安定性は関係ない」と発言した礒崎陽輔首相補佐官の参院特別委での参考人招致も国会中継されなかった。NHKが放送せず、視聴者は「放送」で〝生中継〟を見ることができなかった。代わりに注目されたのはフジテレビのネット上の映像ニュースサイト「ホウドウキョク」だ。衆院特別委の採決や礒崎補佐官の招致をほぼ全編〝生中継〟し、いつも以上のPV数を稼いだ。
「放送」や「NHK」に期待する視聴者は減り、ネットに逃げていく。政治的な問題には最大の強みである「生放送00」をせず、「音」を聞かせず、「過去映像」「街頭インタビュー」も避けるテレビ。「強み」を自ら放棄する現状は自殺行為といえる。
◆現状を「追認する」テレビ報道
テレビニュースでは、局によっては与党の意図を代弁し、与党が描く結果を先取りするような伝え方は枚挙にいとまがない。13年7月の参議院選挙の投票日当日の朝のNHKニュースは「ねじれが解消されるかどうかが焦点になっている参議院選挙」というリード文をつけた。「ねじれは解消すべきもの」という世論誘導と受け取られかねないため、こうした「リード文」を避ける報道機関があるなかでのリード文だった。「与党の思惑」に呼応するかのような報道姿勢が他局でも目につく。
15年7月、安保法案が衆院本会議を通過した際に「これで安保法案の成立は確実とみられる」「確実になった」などと一報のニュースで報じたテレビ局もあった。参議院での廃案や60日以内に参院で成立しない場合に衆院で3分の2以上の多数で再可決すれば成立する「衆院の優越」を踏まえての報道で、確かに「解説」としては問題ない。しかし「本記ニュース」に入れるのが適切かどうかは微妙だ。「もう決まったこと」「何をしても変わらない」というメッセージを広く伝えることにもなりかねないからだ。
「戦後70年談話」が発表された8月14日、NHK『ニュース7』では「政治部の岩田明子記者」が再び登場した。彼女は首相が安保法制成立を約束した訪米にも同行して「首相の思い」を伝えたが、安倍首相の重要案件の会見などで「政権の考え」「首相の思い」を代弁し、この夜もその代弁役に徹しているように感じられた。その2時間後の『ニュースウオッチ9』には安倍首相自身が生出演、談話について自ら解説した。この日のNHKニュースは「首相の思い」を伝える時間が長く、一方で批判的な視点は欠落したような報道になった。
2015年9月現在、国会周辺では安保法案が違憲だとして反対する集会やデモが連日開かれている。若者、主婦、弁護士、大学教員らがそれぞれ何百人単位で意見表明を行い、法案の行方を見守っている。様々な団体が一堂に会する場である学者が「報道はどこにいる?」と疑問を投げかけたことがネットで話題になった。報道が見えない、報道はいないのか、という問いかけだった。
安倍政権で「報道」が消えつつある。特にテレビ報道は強みを発揮できず機能不全だ。政治との「一線」はどうあるべきで、「テレビの強み」「らしさ」は何なのか。もう手遅れかもしれないが、一度立ち止まって考えてみてほしい。
※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』10月号から収録しています。同号の特集は「日本社会はどこに向かうのか?」です。
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