2010年、数多あるアニメーション作品の中でも格別の存在感を放った「けいおん!!」。OPやEDなどがオリコンで何度もランクインしたり、ローソンで関連フェアがあったりしたので知っている人も多いでしょう。京都から帰る時に、京津線で大津まで行ったので、勢いに乗って近江に行き、けいおんの舞台である高校のモデルとなった旧豊郷小学校に行ってきました。
「けいおん!」は女子高に通う5人の女子が3年間の高校生活(一期と二期)において、軽音楽部を結成して成長していく物語。原作はかきふらい、制作は京都アニメーション、監督は山田尚子。京都アニメーションならではの緻密な書き込みと、空気感を持った画作り、空間を強く意識した構図などを土台とし、主人公達のほんの些細な心の動きや変化、所作を山田監督ならではの細やかな着眼点で見事に映像化している、素晴らしい青春群像劇です。
その舞台、豊郷小学校はこの近江八幡に多くの邸宅を残したヴォーリズの設計によるもの。びっくりするほどの名作でもないし、ヴォーリズにしては装飾が控えめだったりしますが、質が高い建築です。常々思いますが、近代建築やモダニズム建築など、彫りの深い建物は真夏の強い日差しか、夕焼けの鋭くもやさしい陽光の下で見るのが一番美しいというか、見るのにふさわしいと思います。反対に、現代建築は冬や曇りの鈍い光で輪郭が定かでなくなる瞬間に真価を発揮するように思います。
図書館。
左側が軽音部の部室入り口で、右側がジャズ研の入り口。ここは建物正面にある三階部分です。
軽音部の部室。けいおん!では、物語の多くがこの部屋の中で進行します。
今では見られない、小さいガラスを集めた格子窓。丁度光に向かって撮っているのでハレーションを起こしています。劇中でも、ほとんどのシーンで内側から見る窓はハレーション気味に描かれており、外界から切り取られた主人公達のみの世界を演出しています。
部室に続く階段。腰壁に丸く空いた飾り窓が特徴的。
こういう影とか、すきまから差し込む光、切り取られた風景というのは、今のあっけらかんとした、明るくて軽い、フェティッシュの塊みたいな建築には完全に失われてしまった、遺産のようなものだと思います。でもこういう風景、空間が、ピクチャレスクなイメージや記憶を呼び覚まし、建築にストーリーを与えるのだと思います。
続く空間。
講堂。
学校や省庁の建築物は、そこで多くの時間が過ごされ、それに様々なレベルで参加する人々の意識が投影されます。その受け皿としての建築は、人々の体験や記憶、意識、まなざしといったものを受け止めるだけの力があるべきだと思います。完全に時代遅れの考え方ですけど、これからのストック化されるべき建築は、そういった象徴性、物語性に立脚して建設されるべきだと、僕はそう思います。物語といってもいろいろあってね、という難しい話や、演出的建築の可能性に関しては最近いろいろ考えているので、また今度。
けいおん!はただボーッと見ていると、なんの内容もないほんわか日常アニメに見えますが、細かいところにこだわって観察すると、劇中での様々な関係性や個人の性格、考えていることなどがよくわかって感情移入が出来ます。このEDでも、冒頭の歩き方一つとっても5人全員が違います。画面に散らばった意味を拾い上げることが楽しくなる、見れば見るほど発見がある、そんな作品です。見たことのない人は、ぜひ見てみてください。けいおん!!16話と番外編25話がおすすめです。
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