April 29, 2004

講演感想:Ian Foster博士による「オープングリッド:現状と将来の方向」

 Grid World 2004での講演、Ian Foster博士による「オープングリッド:現状と将来の方向」を聞く。講演内容はそれほど目新しい内容は無かったが、さすがにWebサービスとグリッドとの融合等はそこらの人とIan Fosterが言うのでは説得力がまったく違う。

 講演内容は、まずグリッドのおさらい。グリッドの始まった理由とグリッドが盛り上がっている理由を説明。そのあと有名なグリッドの3条件
1Enable integration of distributed resources
分散した資源のコーディネート
2Using general-purpose protocol & infrastructure
スタンダードなプロトコルやインフラ
3To achieve better-than-best-effort service
より良い、質の高いサービス

3つを紹介。ここまでは私のようなグリッドを少しかじっている人間なら誰でも知っていること。さあ、本番はここからだ。

 次は「Grid meets Web service」と題してグリッドとWebサービスとの協調/融合の説明。まず「金融業界との話し合いの中で出た、グリッドに必要な物」を紹介。羅列すると
「Standards」
「Heterogeneous distributed resources」
「Silo avoidance」
「Virtualization」
「SLAs」
「Dynamic adaptation demand」
「Performance」
「Management」

 現状で「P2Pとグリッドの違いは何か?」と聞かれれば、個人的には「エンタープライズかコンシューマかの違い」「ヒジネスになるかならないかの違い」だと答えているようにしている。なぜならば、どちらも基本的には「仮想化」を実現する技術だからだ。それにも関わらず、P2Pがエンタープライズ分野で採用されず、アンダーグランドに止まっているのは、まさに上記の点が無いからだと思う。「グリッドに必要な物は」は、そのままP2Pにも必要なものと言えると思う。

 上記の中で重要な点だけ説明すると。「Silo avoidance」と「Heterogeneous distributed resources」の部分は、大雑把に言うとアーキテクチャやOS等が異なる分散されたな環境下への対応策をどのようにするか?ということ。これを解決するのが「Virtualization(=仮想化)」であり「フレームワーク」であり「Standards(=標準)」であること。

 標準についてグリッド側では標準でオープンな「Globus toolkit」を使っていることが大きい、博士は「Globus toolkit」無しでは実現しなかった機能が多々ある、という点を指摘しオープンな標準の重要性を指摘している。確かに、それぞれ個々でバラバラなものを採用しては「ヘテロジニアスな環境で仮想化を実現」など不可能に近い。

 また、Webサービス側と連携として「WSRF」(Web Service Resource Framework)等の「WSシリーズ」の標準化と、グリッド上でのパフォーマンス・管理の重要性について説明し、最後にグリッドコンピューティングの実例を紹介し、サマリとして「Virtualization &management are Key issues for Grid」「Web services provide a powerful foundation on which to build an open Grid」「Open source implementations enable rapid dissemination & adoption」とし講演は終わった。

 今回の講演を聞いて思ったのは、グリッドは「分散コンピューティング」から「ヘテロジニアスな分散環境を管理するためのもの」に完全に移行した、ということだ。特に「仮想化」技術は、負荷分散やデータ統合、マイグレーションといった、現在のエンタープライズ系のトレンドと非常に合致する。これらの要素技術を「グリッド」というマーケティングツールで包んでしまえば、様々な技術を一言で言うことが出来る。

 グリッドを扱っているベンダの中には「グリッドとは仮想化」と説明しているベンダも多くなってきている。ベンダの啓蒙活動が成功すれば「グリッド=分散コンピューティング」ではなく「グリッド=仮想化」考えが主流になると思う。

 ただ「グリッド=仮想化」という流れは、さらに変わっていくかもしれない。なぜならば、Webサービスというキーワードが出てきたからだ。しばらく前までは、なぜグリッドとWebサービスが連携する必要があるのか良くわからなかったのだが、「インターネットOS論」を前提に持ってくるとわかりやすい。

 インターネットOS論では、WindowsやLinuxという枠組みではなく、インターネット全体を見立て、AmazonやGoogle、Yahoo!等のサービスサイト/Webサービスを「インターネットというOSの上で走るアプリケーション」とする考え方だ。

 ここで、Webサービスもアプリケーションと考えれば、グリッドの役割が見えてくると思う。つまり、グリッドはパソコンで言うところのCPU、メモリ、HDD等コンピュータリソースにあたるのだ。しかも、これらのリソースは仮想化技術と負荷分散技術によって効率よく無限に使える。

 このように考えると、「インターネットOS論」の中でのキラーアプリケーションは「Google」のようなもの、よりも「Google API」のようなもの、になるかもしれない。なぜならば、グリッドのようなリソースを分散するのであれば、アプリケーション部分も分散した方が管理がやりやすいからだ。集中されたクローズドの環境のみの提供では、リソースに限りが出てくる場合があるからだ。全てを自分のところでやるのではなく、簡単なことは自分のところでやらせる必要もあるだろう。

 とはいえ、Webサービスの普及には時間がかかる。Ian Foster自身、Webサービスは「A silver bullet」では無いし「A complete solution」でも無いし、そもそも「標準」が固定していないといこう事を問題にしている。(この「A silver bullet」という言葉はフレッデリック・P・ブルックスの「人月の神話」に出てくる「ソフトウェア開発の抱える多くの問題を、一発で解決するような方法や言語、あるいはソフトウェア・エンジニアリオング」という意味で使われているのだろう)

 グリッドが総合的な「仮想化技術」になるか、さらに進化してインターネット全体のインフラになるのかは、まだ不明な部分が多い。いずれにせよ、これが、一般のインターネットユーザが使えるようになるにはしばらく時間がかかるだろう。



kozai22 at 20:31│Comments(0)TrackBack(0)P2P 

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