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「ヤヌス神」小池百合子の失敗と日本政治の明日

<この記事のポイント>
●小池新党が今回総選挙で大敗した原因として、生煮えの経済政策、「排除の理論」で踏み絵を踏ませた事、自ら出馬しなかった事等が挙げられている。
●しかし、根本敗因は安全保障政策で保守に舵を切った事自体にあり、保守に軸足を置きながらも左側にも顔を向けて翼を伸ばす「ヤヌス神」戦略が機能しなかった為である。
●これは、現下の日本では保守二大政党制が成り立たない事を意味するが、保守二大政党制でなければ深化、解決しない国政の課題が多く、その確立は引き続き模索されるべきだろう。

◆小池新党の大敗◆
小池新党の「希望の党」が今回総選挙で大敗した原因として、生煮えの経済政策、「排除の理論」で踏み絵を踏ませた事、自ら出馬しなかった事等が挙げられている。

だが、憲法や安全保障の問題を曖昧にして民進党と合併した場合、逆に「野合批判」が起こっただろうし、東京都知事を辞めて自ら衆院選に出馬すれば、「都政放り出し批判」が起こっただろうから、後者2つについてはタラレバ的批判の要素が強い。

確かに「排除発言」については、もっとソフトな「政策の一致は重要だと考えております」等の言い回しをし、希望の党で公認しなかった民進党議員に対しては刺客を送り込まずに緩い連携を図っておれば、立憲民主党を作った枝野幸男をあそこまでヒーローにせずに大敗は避けられたというのは当たっているだろう。小池の奏でるハーメルンの怪しい笛の音が、ある程度中道左よりの層を魔法にかけ、それらを引き連れて今回の総選挙はもう少し勝てたと思われる

しかし、根本敗因は安全保障政策で保守に舵を切った事自体にあり、保守に軸足を置きながらも左側にも顔を向けて翼を伸ばすという、ローマ神話の二つの顔を持つという「ヤヌス神」戦略が機能しなかった為である。

これまで小池は、都知事選、都議会選では、豊洲市場の環境問題等で左側を引き寄せて大勝している。これは左に軸足を置きながら、元々の出身である保守層からの一定の支持を受けるという戦略、同じ「ヤヌス神」でも、言わば「小池百合子その1」である。

◆保守二大政党制◆
今回の衆院選では、憲法改正、安全保障問題で安倍政権と基本的に同じスタンスを取り保守層を取り込むと同時に、「原発ゼロ」等を打ち出して左側を手当てしてある程度中道左よりの層の歩留まりを期待する「小池百合子その2」であり、一定の勝算はあっただろう。

しかし、安全保障政策で保守に舵を切った途端、マスコミが反旗を挙げ、連合の腰が引けて、小池新党は左右から挟撃に遭い大敗した。(小池のかつての師、小沢一郎なら安全保障政策を棚上げして、共産党を含む野党連合を組んで、自公政権と対決したはずだが、小池にはそこまでの節操のない行いは出来なかったようだ)

これは、現下の日本では、いわゆる保守二大政党制(安全保障等で、現実的な政策を掲げる二大政党制) が成り立たない事を意味する。しかし現下の自民党保守一強というのは、つまり保守の中に構造を持たない体制であり、それは政権交代が無いため単に森友・加計問題での周囲の忖度発生等の行政上の淀みを生むのみならず、例えば以下の様な解決せねばならない国策上の問題が弁証法的過程を経て前進しない事を意味する。

・良い既得権と悪い既得権の腑分けと、既得権解放後の合理的で現実的な回る仕組みの構築
・受け手を「受ける必要のない人化」し払う側に回って貰う事等の、持続可能な社会保障改革
・少子高齢化、AI・ロボット化、産業競争力確保等への税制、社会保障、規制、投資等の横断的対策
・例えば、米朝開戦と北の限定的核保有容認等の利害得失についての、タブーのない分析と議論
・日米同盟の深化と同時並行した、外交防衛に於ける(核武装のオプションを含む)主体性の確保
・進んでは上記主体性の、改正憲法へのビルトイン

今回、小池新党は自業自得も手伝い大敗し、現下の日本では時期尚早である事が示されたものの、自民党に代わり得る保守政党の確立は腰を据え引き続き模索されるべきだろう。
(敬称略)

思い付きっぽい「ユリノミクス」について真面目に検討してみる。

<この記事のポイント>
●小池氏の希望の党が発表した経済政策「ユリノミクス」の肝は、報道されている通り、10%への消費税増税凍結、大企業の内部留保課税、ベーシックインカム導入のようだ。
●内部留保課税は、企業活動への懲罰的メッセージとなってしまう。ベーシックインカムは、機能しない。それに代え、労働を伴う分配である「給付付き税額控除」を導入すべきである。
●穴の開いたバケツに水を注いでも、意味がない。社会保障は、払う人を増やし、受け取る人を「受け取る必要が無い人化」しなければ早晩破綻する。

◆小池新党の誕生◆
10日に公示され22日に投開票される解散総選挙で、小池百合子氏が立ち上げた希望の党が失速気味だ。民進党を吸収する際に「排除の理論」を使ったからだとも言われるが、かつての上司小沢一郎氏が作った細川政権の時のガラス細工の野党糾合と、左右が混在する旧民主党の失敗を自身も有権者も見ているので、元より左端まで入れた新党を作るつもりは無かったと思われる。

あわよく風が吹けば出馬しての天下取りも念頭にはあったが、恐らく小池氏がメインで考えていたのは、「緑のたぬき」のマーケティングとして左翼の右側にもターゲットを広げた中道保守政党を作り、今回は選挙結果次第で、同じ小沢氏でも、渡辺ミッチー擁立に動いた時と、自自(後の自自公)連立の時を参考にした2パターンの展開だろう。もっとも、今のところ歩留まりが悪く、そこまでも自民党を追い込み難い趨勢ではあるが。

さて政策面だが、希望の党の対北朝鮮・安保・憲法改正については基本的に自民党と大差はなく、「原発ゼロ」は中身と工程が詰められておらず(小池氏の「核武装論者」としての整合性も問われる)、実質的に自民党との間で議論となるのは、経済政策と社会保障となると思われる。

小池氏の「希望の党」が発表した経済政策「ユリノミクス」の肝(つまり自民党との顕著な違い)は、報道されている通り、10%への消費税増税凍結、大企業の内部留保課税、ベーシックインカム導入のようだ。(政策パンフレットP13 政策集参照

◆消費税と内部留保課税◆
先ずこれを見ると、消費の冷え込みに配慮しての消費税増税凍結は自然であるが、その財源の埋め合わせに300兆円の大企業の内部留保への課税を持ってきている所が気に掛かる。また政策集では、これにより「配当機会を通じた株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらす」と謳っている。

確かに、理屈ではその効果はある程度有りそうだが、法人税の実質増税となり、企業活動への懲罰的メッセージともなるので、海外からの投資を遠ざけ、経済を萎縮させる負の心理的効果が懸念される。韓国で導入実績があるというが、仮に日本で導入する場合は、少なくともその結果を相当年に渡って見る必要があるだろう。

なお、例えば雇用創出、賃金上昇のためであれば、「法人税の常設雇用控除」等のような直接的なメッセージを伴う政策が好ましいと思われる。

また、消費税増税凍結の財源5.6兆円の埋め合わせについては、行政改革でこそ叩き出すべきだろう。少々乱暴になるが、国家公務員の人件費約6兆円、地方公務員を含めると約30兆円、この内、自衛隊員や警察官等々、半分には手を付けないとしても残りの20%をカットすれば3兆円が出て来る。残りの2.6兆円は、その他の無駄の削減、行政改革で捻出し、それでも足りなければ一時的に赤字国債で賄う事でどうだろうか。あるいは、無駄の削減を多く出せた場合は人件費カットを緩和するとすれば、役人は必死で削減リストを出してくると思われる。

◆ベーシックインカムと社会の形◆
ベーシックインカムは、就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策の構想だ。これにより、生活保護、失業保険、年金等を廃止して簡素化し、一律給付へ置き換える事となる。なお仮に月額給付額を8万円とすると、必要財源は総額約120兆円となる。

先ず、例えば現在10数万円である生活保護を8万円にした場合、受給者や左派勢力からは「文化的最低限の生活を維持できない!」と反乱が起こり、妥協の末に現生活保護受給者には割増金を支給するという元の木阿弥のような事にもなりそうである。

また一方で、生活レベルを落として月額8万円で暮らして行こうとすれば、可能と言えば可能だろう。その結果、一切労働をせず、仙人みたいな暮らしをする人々が多数出て来る。仙人ならまだよいが、子曰く「小人閑居して不善を為す」の通り、やる事が無くなって、犯罪に走る者も出て来るだろう。そしてそもそも、生産をしない者が溢れれば、生産をしている者の負担が膨大と成って行く。

やはり、少し考えて見ただけでもベーシックインカムは、機能しない。もし格差解消に注目するのならば、これに代えて、諸外国で導入実績がある、基本的に就労を条件に足りない分を少しだけ公的に補ってあげる「給付付き税額控除」を導入した方が合理的である。身体的事情等特別な場合を除けば、「労働を伴わない分配」ではなく、「労働を伴う分配」の方がどう見ても健全であろう。

小池氏は、ひょっとしたら「給付付き税額控除」の方がよいと思っていたのだが、横文字でインパクトのあるベーシックインカムという言葉の方を使いたかっただけかも知れない。

なお筆者は社会保障改革としては、例えば「在職老齢年金減額分の個人積立制度」のようなものも、試験的にでも導入してみるべきだと考える。

また、タバコ税を欧米並みに増税する一方、ニコチンとタールを抜いた電子タバコの購入に健康保険を適用してはどうだろうか。チョイ悪感と手持無沙汰と口寂しさでタバコを吸っている人も多いだろうから(筆者がそうだった)、もしかすると喫煙人口と医療費が半減するかもしれない。こういった細々したものだけでなく、社会保障改革には単なるソロバン勘定ではない様々な政策的余地があると思われる。

穴の開いたバケツに水を注いでも、意味がない。社会保障は、払う人を増やし、受け取る人を「受け取る必要が無い人化」しなければ早晩破綻する。

選挙戦とそれに続く国会ではこの事を念頭に、小池氏に限らず皮相な議論で時間を浪費せずに、持続可能な社会の構築へ向け本質的論戦をして頂きたい。

「働き方と社会保障の一体改革」を −自民VS希望で見落とされる視点−

<この記事のまとめ>
●解散総選挙での争点は、消費税増税と脱原発の是非となる。北朝鮮・安保・憲法は小池氏が一種の「抱き着き戦略」を採り、争点化が避けられるだろう。
●消費税増税は、安倍首相の「一部使途変更しての増税」と、小池氏の「景気に配慮しての凍結」との対決となるが、何れも単なるソロバン勘定である従来の「税と社会保障の一体改革」議論の枠を出ない。
●これに替え、「働き方と社会保障の一体改革」として、「在職老齢年金減額分の個人積立制度」や「法人税の常設雇用控除」等の新制度の導入により、社会の形を変えるような議論が本来必要である。

◆解散と消費税◆
安倍首相が9月28日に衆議院を解散し総選挙が実質的に始まり、10月22日に投開票される。一方、小池都知事が立ち上げた「希望の党」は、民進党を篩に掛けた上で事実上吸収合併し、日本維新の会と東京と大阪の住み分けで選挙協力する事が決まり、自民・公明VS希望陣営の構図があっという間に出来上がった。

北朝鮮危機対応・安保体制・憲法改正の問題は、基本線は同じとしても具体的には少なからず違いはあるはずだが、小池氏が一種の「抱き着き戦略」を採り、争点化が避けられるだろう。喫緊の「米国の北朝鮮への軍事オプション」と「北朝鮮の限定的核保有容認」の是非等を含め、それらの争点は、希望の党から篩に掛けられた民進党左派・社会・共産陣営との間の問題に縮小してスライドした。

安倍首相は解散前の記者会見で、2019年10月に予定する消費税率10%への引き上げに伴う増収分の使い道を一部変えて教育無償化などにも充当し、社会保障を高齢者給付中心から子育て世代を含む「全世代型」に転換する方針を発表した。その上で「国民との約束を変更し、重い決断を行う以上、速やかに国民の信を問わねばならないと決心した」と説明した。

しかしここからは、この方針が今度こその消費増税に執念を燃やす財務省との妥協の産物であり、景気の腰折れ懸念から本当は増税したくない安倍首相の気持ちが滲む。なお、解散の理由としては、一部では「森友・加計問題隠し」や「年末、年明けに掛けての米軍の北朝鮮攻撃」」のためとも言われ、色々な要因が総合された結果だと推察できるが、ここではこれ以上踏み込まない。

一方の小池氏も消費税増税について、「景気に配慮しての凍結」を謡うものの、元々自民党時代に消費税増税法案に賛成してきた経緯からして、何れも単なるソロバン勘定である従来の「税と社会保障の一体改革」議論の枠を出ないものだろう。

なお、小池氏の唱える脱原発、「原発ゼロ」は、中身と工程が詰められておらず、 保守、中道層をターゲットとしたマーケティング戦略、「グリーン保守戦略」の一環として、希望陣営に彩りを添えるものに留まるのではないか。

◆慶応大 井出教授の誤り◆
元々、安倍首相が今回打ち出した「一部使途変更しての消費税増税」は、前原代表が信奉して民進党の(旧)選挙公約へ挙げた、慶応大学の井手英策教授が提唱する、消費税を増税して社会保障を厚くする「オール・フォー・オール」の考えのパクリだとも言われてきた。

どの層に撒くかの違いはあるが、税金を集めて社会保障等で撒くというのは、基本的に社会主義だ。
それは、一定程度あってもいいが、それを進めて行けば社会の生産性が落ち、永遠に増税を続けるイタチごっことなってしまうだろう。

筆者はこれに替え、「働き方と社会保障の一体改革」として、例えば「在職老齢年金減額分の個人積立制度」や「法人税の常設雇用控除」等の新制度の導入により、社会の形を変えるような議論が本来必要と考える。

「在職老齢年金減額分の個人積立制度」について述べると、現状の年金制度では一定以上働くと支給額は減額され「働き損」となり、この事が老齢者を早期の完全年金生活に誘導してしまっている。そこで、この減額分を積み立てて置き、完全年金生活に入った際には一定額を増額支給(但し遺族年金等へは不算入)するようにすれば、老齢者の柔軟な就労を促し、年金支給額の圧縮、医療費の圧縮、消費の拡大、人手不足解消、老後の不安軽減による出生率の増加等に繋がり、年金が老後の保険という本来の機能を取り戻すと思われる。

「法人税の常設雇用控除」は、人を雇い賃金を払う事を奨励する制度である。例えば次の式で出した控除額を、所得控除もしくは税額控除として法人税を算定してはどうか。

控除額 = 総雇用人数の2乗 × 年間支払い給与総額 × α

現在日本では、雇用関係助成金や雇用促進税制、所得拡大促進税制等によって雇用と所得について一定の政策手当がなされている。しかし、これらは規模が小さい上に、基本的に雇用と所得の「増加」に着目した恩典であり、時限的措置であるものも多い。加えて、地方税である事業税には報酬給与額が増えると基本的に税額が一部上がり雇用に対する実質上のペナルティとなっている外形標準課税が導入されており、総務省等はこれを中小法人にまで広げようとしている。

特に今後、急速に産業のAI化・ロボット化が進む事が予想され、それによる雇用の減少は究極的には消費者の消滅を意味するため、新しい常設の雇用税制は各国で導入が検討されるべきである。(なお、その先には消費者を他国製品に奪われないための国際調整措置が必要だろう)

以上のように筆者は、持続的な社会造りのためには、従来型の「労働を伴わない分配」から「労働を伴う分配」への転換が必要と考える。

来る総選挙では、派手な劇場型対決だけでなく、社会の形を変えるような本質的議論を望みたい。

北朝鮮の核保有容認後の東アジア −中国の覇権拡大と「朝鮮連邦共和国」の出現−

●北朝鮮の核、弾道ミサイル開発が進むにつれ、米国による北朝鮮の限定的核保有容認論が日米両国内その他で勢いを増してきた。
●仮に北朝鮮が限定的核保有国になった場合には、テロリスト・紛争国家等への核拡散、米国覇権の後退による世界秩序の流動化が懸念される。
●東アジアに於ける米国覇権の後退は、即ち中国の覇権拡大を意味する。また日韓を核武装に向かわせ、その後または過程で南北統一の所謂「朝鮮連邦共和国」が出現し、中国と同盟を結び日米と対峙する方向に進む可能性が高いだろう。

◆米朝対立と核容認◆
北朝鮮のミサイル発射実験、核実験が続き、米国本土へ届くICBMの完成が加速している。
米国のトランプ大統領は、9月19日に国連で演説し、米国と同盟国が危険に晒され、それを避ける必要がある場合には、北朝鮮を「完全に破壊する」とし牽制した。
これに対し、北朝鮮の金正恩委員長は21日、「過去最高の超強硬な措置の断行を慎重に検討する」との声明を発表し、続いて李容浩(リ・ヨンホ)外相が、太平洋上で水爆実験を行う事を示唆し、トランプ大統領に応酬した。

北朝鮮の核、弾道ミサイル開発が進むにつれ、米国に届くICBM開発の廃棄を条件にした北朝鮮の限定的核保有容認論が日米両国内その他で勢いを増してきた。
橋下徹元大阪市長は予てから、核保有国である中露に囲まれている日本としては、ここに新たに北朝鮮の核が加わっても大きな安全保障上の変化はなく、北朝鮮を限定的核保有国として認めてしまった方がよいと唱えてきた。

米国でも昨今、オバマ政権時代の国連大使だったスーザン・ライス氏等から、同様に北朝鮮を限定的核保有国として認めた上で、国際的核管理を行うべきという意見が表明され始めた。

仮に北朝鮮が限定的核保有国になった場合には、テロリストや、紛争国家等への核拡散、米国覇権の後退による世界秩序の流動化が懸念される。
スーザン・ライス氏等は、北朝鮮の米国に届くICBMの脅威が無くなったとしても、依然として日韓に対する米国の核の傘は続き、世界秩序と東アジアのパワーバランスは保たれると考えているのだろう。
しかし、米国の権威失墜、それと合わせ米国の東アジアへの関心の希薄化が進むと見るのが自然ではないか。
また、イラン等の中東国家も、核開発の権利を表立って主張し始めるだろう。

加えて、NPT(核不拡散条約)から脱退し、核保有国となったインド、パキスタンは、IAEA(国際原子力機関)の定期的な査察を受け入れているが、北朝鮮が果たしてこれを受け入れるのか、受け入れたとしても隠蔽せずに全て査察させるのかには大きな疑問が残る。

◆南北統一と中国◆
東アジアに於ける米国覇権の後退は、即ち中国の覇権拡大を意味する。
何れかの時点で、米国は韓国から駐留米軍を撤退させるのではないか。

また北朝鮮の限定的核容認は、 日韓を核武装に向かわせる。
それは、日韓共に米国の核の国内持ち込み、核ボタンのシェア(所謂レンタル核)、自国の核武装と段階を踏んで行くだろう。

そして、その後または過程で紆余曲折の末、例えば「南北の究極の安全保障は朝鮮半島の統一だ!」とか「北朝鮮の核をそのまま貰えば、コストは不要だ。」というような民族ナショナリズムが巻き起こり、実際にそれにより南北統一の「朝鮮連邦共和国」が出現する可能性は可也高いのではないか。
もしそうなる場合には、多分に日本が共通の敵とされ、膨大になると言われる南北統一に伴うコストの請求書は、戦後賠償のやり直しと称して日本に突き付けられるだろう。

なお余談となるが、朝鮮民族の気質は、半島という地勢的な条件の下、歴史上常に中国の圧迫と介入の影響を強く受けて形成されたと推察される。これが根深い被害者意識と時に噴出する激情となって表れているのではないか。
また、韓国国民の朴槿恵前大統領への激しい糾弾は、THAADミサイルの配備問題で米中の板挟みとなりヒステリー状態となった事が背景にあると思われる。

話を元に戻すと、統一朝鮮はパワーバランス上、中国と同盟を結び日米と対峙する方向に進む可能性が高いだろう。
そして、東アジアへ関心を失った米国は、(もし日本に関心が残っていたとすれば)対中国の前線を日本に置くこととなる。

◆究極の選択◆
以上が、筆者が北朝鮮の限定的核容認後の東アジアについてイマジネーションを駆使して考えてみた姿だ。

今回の北朝鮮危機解決で考えられる主な3つのシナリオは、これまで述べた北朝鮮の限定的核容認と米朝軍事衝突、および金正恩の亡命だ。

金正恩委員長の亡命は、ロシアに制裁解除と引き換えに金正恩を引き受けて貰うシナリオが、米マスコミと議会等による執拗なロシア叩きによって、ほぼ消えた。
だが、金正恩の留学先であったスイスのロイトハルト大統領は、米朝の仲介に積極的であるので、今後国際社会は北朝鮮への圧力を強めると同時に、実現可能性は僅かしか無いものの金正恩委員長の最後の逃げ道として水面下でスイス亡命のシナリオを描いておく必要がある。

日本と韓国が報復攻撃を受ける可能性が高い米朝軍事衝突については、国家、自治体、民間、家庭、個人の各レベルで備えを固めると同時に、仮にもし起こるならトランプ大統領とマティス国防長官には北朝鮮の報復手段を完全破壊する作戦遂行を望みたい。
また、戦後に朝鮮半島をどうするかのデザインも必要となる。

北朝鮮の限定的核容認と米朝軍事衝突の究極の選択は、以上を総合的に勘案して判断されるべきだ。
タイムリミットは迫りつつあるが、ホワイトハウス内、米中間、あるいは米中露で、それらがどこまで詰められているかは窺い知れぬ。
であれば、その外側からは尚の事、考察を重ね活発な発信をして行く必要があるだろう。

北朝鮮Xデー、1つのシミュレーション −韓国中立宣言、米艦隊太平洋大返し、米北開戦−

●金正恩、トランプともに国内外に弱みを見せられぬ状況のため、亡命or核放棄or核容認の可能性は低く、また習近平、プーチンとも仲介の意思ほぼ無く、米北開戦に向かっている。
●文在寅・トランプ会談に於いて対北圧力行使で一致したが、その直後から文在寅は対北融和政策に更に踏み込んでいる。しかしトランプは強く非難しておらず、織り込み済みのようにも映る。
●もし韓国が中立宣言をすれば、ソウルが火の海になる確率と程度が下がり、逆にトランプは引き金を引き易くなる。一方、専ら日本に報復が向けられる確率は高まるだろう。

◆1つのシミュレーション◆
 米国と北朝鮮間の緊張が高まる中、米北開戦が避けられないと仮定した場合、そのプロセスについて筆者は下記のようにシミュレーションしてみた。

・X年●月●日 北朝鮮、核実験実行。ICBM搭載可能な核小型化成功を宣言
・これを受けトランプ、日本海にて米韓艦隊軍事演習、日米艦隊軍事演習を実施
・トランプ、在韓米国民間人・軍人家族に避難勧告
・文在寅、韓国の対北朝鮮中立を宣言
・トランプ、文在寅に対し激怒。同時に国際世論・米国内世論を観測
・膠着状態の後、米空母打撃群の1つがローテーションに伴い日本海離脱
・米メディア・世論、トランプを「弱腰」「口だけ」「負け犬」と批判。トランプ、秘密裏に米空母打撃群の日本海へのUターンを指示(太平洋大返し)
・米艦隊、日本海に突如出没。戦闘配置完了
・X年X月X日 トマホークミサイル等で、北朝鮮側弾道ミサイル基地・停戦ライン沿いのロケット砲・長距離砲を撃破。グアムより飛来したB1戦略爆撃機がバンカーバスター等で平壌中枢部、各地下秘密基地等を爆撃
・打ち漏らした北朝鮮のロケット砲・長距離砲からの発射によって、ソウル市内に被害発生
・北朝鮮、日韓の米軍基地および日本の3大都市の1つに向け弾道ミサイル発射
・SM3、PAC3ミサイルによって、迎撃成功(あるいは失敗)
・北朝鮮軍壊滅。中国人民解放軍、鴨緑江を渡り北朝鮮侵入。金正恩を捜索し死亡確認(若しくは捕縛)。全土制圧。
・トランプ、習近平、プーチンが首脳会談。北朝鮮の統治について駆け引き
・米中露で合意した統治案を、国連安保理にて可決

◆常在戦場の時◆
 現在進行形の北朝鮮危機について、北朝鮮のICBM廃棄を前提とした米国による限定的核容認オプションは、2人の指導者の対立が高まる中、日々その確率は逓減していると思われる。
 本より筆者は、北朝鮮に核が残る事は極東の安定性の面で日本として容認すべきではなく、金正恩のロシア亡命での決着について、それに対するプーチンの意欲は現時点で全く見えぬものの、なお日本は表から裏から各方面へ働き掛ける事を諦めてはならないと考える。
 
 ところで私事だが、筆者は数年前より日本古代史への興味から、勤め人ゆえ休日を利用して紀伊、畿内、出雲と幾つか由縁の地を巡っており、今年のお盆休みは、三韓征伐の痕跡、白村江等を訪ねるために大阪発若しくは博多港発のフェリーで朝鮮半島へ渡ろうと考えていたのだが、丁度8月下旬に予定されている定例の米韓合同軍事演習と前後するため、今回は九州止まりにしておくべきかと躊躇している。
 もし前述のシミュレーション通り「韓国中立宣言」があるなら、ソウル以下韓国各地が火の海になる確率は下がるとも言えるのだが。

 それはともかく、本よりシミュレーションは、開戦に至るとする場合の数多ある可能性の内の1つにしか過ぎない。しかし、こうして何らかを紙に落して眺める事は実感が湧き易く、備えや対策その他の面で有用と思われる。

 もし前述の通り、「韓国中立宣言」の後に米北が戦火を開いた場合、やはり日本が報復攻撃を受ける確率はより高まるだろう。
防衛当局に於ける防空迎撃態勢の一層の練度向上とともに、現在一部自治体だけで行われている避難訓練は早急に全国で行う必要がある。

 なお筆者は、自宅にペットボトル水とパックライス等を多量に用意し、防災ラジオ等を購入し、(直撃を逃れた場合に)死の灰を避けるための避難または籠城の仕方をイメージトレーニングしている。
 笑い事ではない。各家庭単位、個人に於いても、ここ暫くは常在戦場の心構えが必要だろう。
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