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「トランプ大統領」に備えよ。 −TPP、米露同盟、および核武装−(月刊日本 2016年5月号)

●トランプの主張するTPP参加破棄は、別の方法で中国包囲網機能が補完されるならば日本にとってウェルカムである。
●トランプとプーチンは、公言し合っているように肌が合う。「米露同盟」が結ばれる場合には、日本は可能なら3国同盟化、少なくとも仲介等により優位な立場で絡まなければならない。
●トランプであろうが無かろうが、ファイナンスに行き詰まった米国は日本により防衛負担増を求める。日本はこれを、自主防衛を高める契機とすべきである。
ただし、核武装は別次元の問題であり、切り離して駆け引きしなければならない。

◆ジュリアーニ副大統領?◆
米大統領選挙の行方は予断を許さないが、共和党予備選挙の焦点は、ドナルド・トランプ候補の副大統領候補選定に焦点が移った感がある。
4月7日に、ジュリアーニ元ニューヨーク市長がトランプ支持を正式に表明した。
もしジュリアーニを副大統領候補とするなら、本選挙で民主党のヒラリー・クリントンを本拠地のニューヨークにある程度釘付けする効果があるだろう。
また、市長在任中に治安対策等で確実な成果を上げた手堅い行政手段が、共和党主流派のアンチ・トランプ感情を宥めるのに多少役立つ。

トランプは、不法移民対策やテロ対策である意味現実離れした過激な主張をする一方、自分は政治家ではないので、実際の行政はプロの政治家に任せるとも発言しており、副大統領候補選び(ペイリン元アラスカ州知事となる場合は、国務長官選び)が実際の「トランプ政権」を性格付けるだろう。

何れにしても、大統領予備選挙および本選挙の結果は、様々な要素、なかんずく今後大なり小なり起こる可能性のある米国内外のテロの規模、背景、タイミングにより、米国世論がどちらに転ぶかによって大きく左右されると思われる。

◆TPP参加破棄◆
さて前置きが長くなったが、米国「トランプ政権」が成立する蓋然性が相当程度ある以上、我が国日本としても、その備えをして置く事は当然に必要である。
外務省が情報収集を始めたと既に公式に発表したが、それと並行して国家レベルでの対応基本戦略を今から検討して置かねばならない。

まず、トランプは「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は米国民の利益にならず参加を破棄する」と公言しているように、もしトランプ政権が成立すれば恐らく破棄するであろう。

そもそもTPPには、次の3つの機能がある。(1)自由貿易の理想の実現、(2)中国包囲網の構築、(3)米国(グローバル)企業による日本からの収奪である。
(1)と(2)は、日本の利益になるが、(3)についてはISDS条項(投資家対国家間の紛争解決条項)や、ラチェット規定 (自由化不可逆規定)のような強力な武器がTPPに組み込まれており、丁々発止の米国(グローバル)企業・弁護士・およびロビーに動かされる米議会により日本企業・政府・国民が手玉に取られ毟り取られる可能性が高い。

もし、TPPの持つ中国包囲網の機能が別の方法で補完されるならば、米国のTPP参加破棄は日本にとってウェルカムである。
ただし、トランプは誤解も含めて中国と並んで日本を貿易不均衡国として名指ししており、更に過酷な要求をしてくる可能性は想定して置かねばならない。

◆「米露同盟」と日本◆
「トランプ政権」となった場合に、「米露同盟」が締結される可能性も相当程度ある。
トランプとプーチンは、公言し合っているように肌が合う。
トランプが「米国の復活」を本気で進めるならば、「米露同盟」締結で中国を牽制し、中東関与を薄め、軍事予算を減らすのは合理的な選択肢だろう。
これまで、その選択を阻害していたのには、中国贔屓のキッシンジャーと、オバマの外交指南役にしてポーランド難民で旧ソ連に恨みを持つブレジンスキーという米外交戦略の2大巨頭の力が大きかった。
しかし、東欧・中東での度重なる失策と中国の台頭で2人の発言力も低下し、若しくは微妙に方向転換しており、ハードルは下がって来ている。

「米露同盟」が結ばれる場合には、日本は北方領土問題に筋道を付けて置き可能なら3国同盟化、少なくとも仲介等により優位な立場で絡まなければならない。
米露が日本の頭越しで同盟を結ぶ場合、日本の関与する余地は少ないが大国同士の面子維持のため調印式は第三国で行う等で、最悪象徴的な意味だけでも日本が絡むことは可能である。

◆防衛負担増と核武装、および新秩序◆
トランプであろうが無かろうが、ファイナンスに行き詰まった米国は日本により防衛負担増を求めて来る。

トランプ等の言う、日本安保ただ乗り論は、日本が相当額の米軍駐留経費を負担しているとしても、ある意味正しい。
米軍が日本を守っても、昨年成立した安保関連法によっても基本的には日本は米国を守らないのが日米安保条約の内容である。

トランプ等の主張する防衛負担増への対応には、日本が米軍駐留経費等を増額する選択と日本がより自主防衛を高める選択の2つがある。

筆者は、前者は選択すべきでないと考える。
理由として、トランプは大きく吹っかけて来るだろう。
第一、それにより日本がより主体性を失って行く事になる。

日本はこれを、自主防衛を高める契機とすべきである。
場合によっては、米国や米軍が危機に在るとき日本が助けに行ってもよい。
しかし、例えばイラク戦争のような筋の悪い戦争に、従属的に付き合うべきではない。
兵を出す際には、国際的大義を伴い、かつ長期的国益に適う場合にのみ主体的に出さねばならない。
その原則を具体化するために、日本は安全保障基本法を成立させ、進んでは憲法改正をすべきである。

ただし、トランプの言う、日韓から米軍が撤退した場合、両国の核武装を容認するという発言には飛躍がある。
米軍が撤退しても、米国の西向きおよび太平洋等の潜水艦搭載の核ミサイルは、中国と北朝鮮とロシアに向いている事は変わらないので、米軍の核配備費用が削減される訳ではない。(ただし、日韓が中・北に攻撃されたとき、米軍核ミサイル使用で米国が反撃されるリスクは減る。)

トランプの日韓核武装容認発言は、不動産王としての交渉術の側面が強いだろう。

日本にとって、核武装は別次元の問題であり、切り離して駆け引きしなければならない。
核拡散の危険性(残念ながら日本の現在の核管理能力の不足も含めて)を考えれば、費用負担の引き換えに米国管理の核ミサイルの発射ボタンを日本がシェアリングする、所謂「レンタル核」が現実的だろう。
もちろん、米国が日本の永遠の味方である保証はなく、そのために核の自主開発を出来る能力と核物質を(核管理能力を高めて)、国際社会を説得しつつ保持して置く必要もある。

よく言われるように、モンロー主義的に米国が他国への軍事的関与を減らして行くというのは、トランプもオバマも同じである。
ただ、オバマは負け犬風に、トランプは吠えながら撤退戦を行おうとしている。

米国が覇権を降りたら、米国の衰退は止まらず、世界も多極化し大混乱するとの恐れが外交軍事の専門家から語られており、筆者も賛同する。
しかし、米国も無い袖は振れまい。

筆者は、米露同盟に日本が加わり世界の安全保障体制の基軸を為す一方、イスラムを世俗化穏健化して統一させキリスト教はこれと和解し、他国も合わせ中国包囲網を完成させてその牙を抜く事が、今後の世界秩序の大戦略であらねばならないと考える。

これは、次期米大統領が誰になっても変わらない。
しかし、トランプ政権となった場合、事態は加速する。
日本はタフな交渉で国益を確保しつつ、この画を実現させるべく、より主体的に動く事が必要となるだろう。

「同一労働同一賃金」実現には、日本人の労働倫理の精神革命が必須である

●「同一労働同一賃金」の実現は、経団連と労組から陰に陽に激しい反発に遭うだろう。
●そもそも、例えば皆を置いて残業せずに帰るのを許さないような、協力し合うのを美徳とする日本の労働倫理は、古代からの稲作文化のDNAに根差したものだ。
●これらを改変するには、欧米のように「同一労働」の定義や「ジョブ・スクリプト」よる個別の労働契約が不可欠だが、それには終身雇用制への決別を含む日本人の労働倫理革命への覚悟が必要だろう。

◆安倍首相と野党の本音◆
安倍首相は先月下旬に施政方針演説で、「同一労働同一賃金」の実現を目指すと表明した。

日本の労働状況を単純化して概観すれば、一旦正社員のレールから外れた者は、二度と低賃金の非正規労働から抜け出せない一方、特に若手の正社員は一応終身雇用が約束されているのと引き換えに深夜に及ぶサービス残業を強いられている。

同一労働同一賃金が実現すれば、これらは均衡し解消に向かうと共に、雇用の流動化が進み経済の変化のスピード化と国際化に合わせた適材適所が進むだろう。

しかし、それには、人件費を安く抑えたい経団連始めとする経営側と正社員の既得権を守るのが主要ミッションである労組から、陰に陽に激しい反発に遭うだろう事は容易に予想され、実現には困難が付き纏う。

安倍首相は、「同一労働同一賃金」実現の一方で、これまで労働政策の中核として「非正規労働者の正社員化促進」を繰り返し述べており、雇用を流動化したいのか、したくないのか腰が定まっていないように見える。
また、民主党を筆頭とした野党も、口では「同一労働同一賃金」を唱えるが、労組と公務員の支援が最大の基盤であるため、少なくとも早期には本音ではその実現を願っていない。

◆少子高齢化への楔◆
日本の終身雇用制は、戦時体制下に出来て戦後復興、高度成長で定着したもので、戦前の日本の労働流動性は高かったと言われる。
しかしながら、明治から戦前までの近代国家としての勃興期や、戦国時代が特殊な時代であり、弥生時代や江戸時代を見ても、終身雇用制の基となる互いに協力し合うのを美徳とする日本の労働倫理には、稲作文化のDNAの基盤があると思われる。

現在、少子高齢化を迎え、何か抜本的な対策を打たねば、年金財政を始めとして早晩日本は破綻する。
移民もある程度必要だろうが、移民のもたらすメリット、デメリットを勘案すると、それ以前に日本自身が拡大再生産する施策が必要である。

その一つとして、例えば在職老齢年金の減額制度の改変がある。
簡単に言うと、現在、一定以上働くと年金は減額され「働き損」となる事が、老齢者を早期の年金生活に誘導してしまっている。
この減額分を積み立てて置き、年金生活に入った際に一定額を増額支給(但し遺族年金等へは不算入)すれば、老齢者の就労を促し、医療費の圧縮、消費の拡大、人手不足解消、年金財政の継続性、老後の不安軽減による出生率の増加等に繋がるだろう。
このような施策は、政府が法律改正を起案すれば容易に出来る事だが、恐らく厚労省と財務省が目先の算盤勘定から反対しているのだろう。

「同一労働同一賃金」は、こんなものに比べると遥かに難しい。
その実現には、欧米のように「同一労働」の定義や「ジョブ・スクリプト」よる個別の労働契約の導入が不可欠だが、それには、日本の労働倫理の革命が必要だからだ。

例えば、現在の日本代表サッカーを見ても、集団性・連携プレーの強さを活かしながらも、同時に個の決定力が強く求められている。
各々の職場に於いても、日本が縮小から拡大に転換するには、集団性の強さのメリットを活かしつつも、個の確立、活性化、冒険心の醸成が不可欠と思われる。

「同一労働同一賃金」が本当に実現すれば、必然的に労働市場の流動化が起こり終身雇用制も徐々に崩れて行くだろう。

そこには日本社会にとってのリスクを孕み、賛否が分かれる。
しかし筆者は、今後の日本の発展のために、今敢えてリスクを取り、日本的工夫を加えつつも「同一労働同一賃金」を実現すべきであると考える。

子供騙しの軽減税率論議 −B層宗教と宦官省庁が日本を蝕む−

●消費税軽減税率導入は、事業者の事務負担の増大(簡便措置の場合は益税)を招く等、低所得者対策の効果に対して社会的コストが大き過ぎる。
●加えて、軽減税率品目の線引き決定・見直しが財務省主計局の新たな利権・天下りの温床となり、経済活動を委縮・縮小させる。
低所得者対策は、「給付付税額控除」等の合理的施策により行うべきである。
●そもそも大前提となる消費税再増税は、少なくともアベノミクスを成功させた後に延期しなければ、日本を平成恐慌に陥らせる。

◆天下の愚策◆
日本は危機に在る。
外には、百年遅れの帝国主義に陶酔する中国の脅威が迫る。
一方、内には妖しい新宗教と宦官どもが、経世済民を妨げ国庫を蝕む。

前国会で安保関連法案が通り、政策論争は現在、平成29年4月に予定される消費税の8%→10%増税に伴う低所得者対策としての軽減税率導入に移った。

公明党は、安保関連法成立への協力を巡り、母体の創価学会信徒の不興を買ったため、その対策として信徒ウケする軽減税率導入に固執し、見返りを要求された自民党はこれを飲んだ。

軽減税率は、EU諸国で導入されており低所得者対策としての意味はあるが、事業者の事務負担の増大を招く等、社会的コストに対して効果が小さ過ぎる。
これらの結果、巡り巡って流通コストの増大とその小売価格への折り込みを招く等、低所得者対策としても、十分な効果を発揮せず朝三暮四に終わるだろう。
また、これに伴う簡便措置導入の場合には、逆に消費者が店に払った税金が納税されず事業者の所得となる益税問題が発生する。

加えて軽減税率は、対象品目の線引き決定・見直しが財務省主計局の新たな利権・天下りの温床となり、前述の事務負担と相まって経済活動を委縮・縮小させる天下の愚策である。

消費税増税に対し低所得者対策を行うのであれば、諸外国で導入されているように、就労不能者以外は就労した上でなお一定所得に届かない層に現金等を支給する「給付付税額控除」(これにより就労を促す効果がある)等の合理的施策により行うべきである。

◆君側の奸◆
そもそも、今は軽減税率論議をしている場合ではない。
大前提となる消費税再増税は、平成26年4月の5→8%増税の失敗が示すように、少なくともアベノミクスを成功させた後に延期しなければ、日本を平成恐慌に陥らせる。

財務省主計局は、政府の先の増税判断の際、タイミングを合わせた財政出動と日銀に送り込んだ黒田総裁の金融緩和により束の間の景気回復を演出し、またマスコミ、学会、財界による増税翼賛会を飴と鞭により総動員し、先の増税を押し切った。

そしてその結果が、先日発表された今年度2四半期に渡るGDPマイナス成長、即ちリセッションとなった。
これに対して、例えば大和総研のチーフエコノミストで熊谷亮丸(みつまる)という財務官僚の成り損ねは、消費税増税のサンドウィッチマンとしてTVでこれを散々煽ったが、言い訳ばかりで何の反省も述べずにTV出演を続けており、厚顔ここに極まれりの感がある。

財務省主計局の幹部は、ほぼ全員が東大法学部卒のエリート(経済の門外漢でありこれ自体問題だが)であり、この結果を全く予想出来なかった程無能ではない。

しかし、増税を成し遂げた事務次官は省内で「中興の祖」として奉られる等、華々しい天下り人生が待っているため、たとえ国の経済がガタガタになり、場合によってはそれにより実際の税収が減るリスクを承知でも、この危険な企てに邁進する事が目的と化して、省内出世の条件となっている。
そしてそれに逆らえば、総理大臣と言えども、マスコミを筆頭とした増税翼賛会と司法を含めた官僚機構の連携により失脚させられるシステムが出来上がっている。

◆安倍総理に胆力在りや◆
「税と社会保障の一体改革」という、あたかも内政の中長期の最大課題のように言われている言葉がある。
しかし、これは逐次税金を上げ続け、社会保障をカットし続けるだけの、子供騙しの単なる算盤合わせの対処療法に過ぎず、政策課題として完全に狂っている。

急激な少子高齢化で衰退に向かう社会は、明らかに仕組みがおかしい。
日本は、隅々に蔓延る悪しき既得権で二進も三進も行かぬ雁字搦めとなっている。
このシガラミを絶ち、税と社会保障ならぬ「働き方と社会保障の一体改革」によりガラガラポンで仕組みを変えなければ、日本の衰退は止まらない。
そして、もしそこに踏み込めれば、安倍政権の唱える絵空事と揶揄される「一億総活躍社会」にも目鼻が付き、無理筋と言われる「2020年までにGDP600兆円達成」も不可能ではないだろう。
筆者は、将来もし確実にその筋道が付いたなら、経済成長による税収増との見合いで本当に足らざる分について増税する事を否としない。

先ずは、正しき政策課題を掲げ来年7月に衆参同日W選挙を打ち、平成29年4月に予定される10%への増税を取り止める事が出来るのか、安倍総理の胆力が試されている。

安保関連法は必然かつ拙速 −出兵条件に「国際的大義に適う」を加筆せよ−

●中国の領土的野心が明白な以上、集団的自衛権行使を認め日米同盟の紐帯を強固にする安保関連法案成立は必然だった。
●だが、法案には中心となる理念が欠落しており、将来イラク戦争のような筋の悪い戦争に駆り出される可能性も高まった。
●当該法案は、将来あるべき改正憲法を念頭に置き、そこから現行第9条に配慮する部分を引き算して作成すべきであった。
●今後の国会で、出兵条件に「国際的大義に適う場合」の制約を加えた安保基本法を速やかに制定して上に被せ、今回の関連法に理念を注入しなければならない。

◆馬鹿げた国会議論◆
「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹(み)ず。」(孫子 作戦編)

安保関連法案が、前国会に於いて9月19日に可決成立した。
しかし、その国会議論は、低レベルの応酬に終わり肝心の点が議論されなかった。
当該法案成立によって自衛隊員の危険度が増すのかを論点に据えた民主党の平和ボケ、それに対して先ず危険度は増さないと返した与党側の応戦のピンボケぶりが目立った。

真の論点は、自衛隊員の危険の大小ではなくて、国民の生命財産に対する危険性の大小でなければならない。

今回可決した安保関連法の内容は、確かに拙速であった。
「拙速」とは、文字通り拙くて速い事だ。
しかしながら、冒頭に掲げた孫子に見るように、本来「拙速」の意味は否定的なものだけではない。
中国の領土的野心が明白な以上、集団的自衛権行使を認めた安保関連法の前国会での成立は必然であった。
危機の際には、特に安全保障上の危機の際には、拙くても早い事が必要である。
それなくば、国が亡ぶ。

◆混沌化する世界◆
中国によるAIIB(アジア投資開発銀行)は、弱腰オバマをも奮起させた。
これが成就すれば、米ドル基軸通貨体制、石油ドル決済システムを破壊するものだからである。
この石油ドル決済システムの破壊抑止こそが、トンキン湾事件や、家康による方広寺鐘銘事件に並ぶ牽強付会さで、ジョージ・W・ブッシュ政権をしてサダム・フセイン退治のイラク戦争に踏み切らせた理由だ。

膨大な軍事費をファイナンス出来ない米国は、本音では中国の提案する太平洋2分割統治を条件次第では将来受け入れる余地がある。
しかしながら、もし米ドル基軸通貨体制、石油ドル決済システムが破壊されれば米国民が明日から貧民化するため、共和党、民主党を問わず、また経済界からペンタゴンまでを問わず、これに対しては絶対に譲れない。
このため、オバマは中国との対決姿勢に舵を切った。

安保関連法による日米同盟の深化は、米国のこうした変化と相まって、辛うじて中国による尖閣諸島、沖縄、進んでは関西への領土的野心に対抗するツールとなった。

◆安保関連法に精神を注入せよ◆
だが、安保関連法の内容が拙いことは確かに拙い。
安保関連法は中心となる理念が欠落しており、これが極端に分かり難い原因であり、かつ将来イラク戦争のような筋の悪い戦争に駆り出される可能性も高まった。
イラク戦争の是非については、未だに議論が分かれる。
しかし、少なくとも当時の小泉政権が独自の情報を一切得ることなく、米国によるイラク戦争開戦を「支持する」としたことは、属国の態度である。

当該法案は、将来あるべき改正憲法を念頭に置き、そこから現行第9条に配慮する部分を引き算して作成すべきであった。
改正憲法は、国際的大義を伴う長期的国益の追求を外交と防衛の基軸に据えるべきである。

今後の国会で、出兵条件に、急迫の場合以外には、「国際的大義に適う場合」の制約を加えた安保基本法を速やかに制定して上に被せ、安保関連法に理念を注入しなければならない。
「国際的大義に適う場合」とは、基本法では「事前若しくは事後速やかに、世界の大多数の国から支持を得ることが可能な場合」とし、その具体的要件は別途法律または内閣が定めるとすればよい。
これにより、米国の戦争への付き合いを要請された場合、我が国が主体的に出兵の是非を判断する足場となる。

日本の、そして国際社会全体の今後あるべき大戦略は、イスラムのパワーを使って中国の力を抑える事だ。
それは、凶暴化するイスラムと中国をぶつける「二虎競食の計」ではない。
イスラムを穏健化し統一させ、日・米・露・欧州・アジアと共に、切れ目ない中国包囲網を構築し、その牙を抜く事である。

そしてその後に建設すべき新世界秩序は、各国国民、個々人がその能力意欲に応じて所を得て共に切磋琢磨することが可能な、発展と調和が同時実現される王道によるものだ。
安保関連法は、その王道に沿うものでなければならない。

統合大阪は「代都」を名乗れ −大阪都構想成立時のメリットと危険性−


●大阪府市統合は、犬猿の仲で同様な箱モノを作りまくった失敗を考えれば、恐らく二重行政解消によるメリットがデメリットを上回ると思われる。
●また、リニア新幹線で東京−名古屋間に後れを取れば致命傷となり、名古屋−大阪間同時開通には統合による経済力・政治力・交渉力UPが必要だろう。
●しかし、一国に「都」が二つあるのは、究極的には「国家分裂」を招きかねない。 将来大阪が首都になってもよいが、それまでは東京のバックアップ機能の充実に注力し、それに相応しい「代都」を名乗るのが適当だ。

◆大阪府市統合◆
今月17日に、橋下徹大阪市長が主導する、大阪市を解体して五つの特別区に再編する「大阪都構想」の賛否を決める、大阪市内の有権者約211万人を対象とした住民投票が投開票される。
政令指定都市の廃止を問う全国初の住民投票で、賛成票が反対票を上回れば、2017年4月に大阪市を廃止し、公選区長と区議会をそれぞれ持つ特別区に分割することが確定する。

事前の世論調査では反対の方が上回るが、仮に賛成派が巻き返して成立した場合のメリットと危険性について以下論考する。
(なお、余談だが筆者は関西には多少の縁はあるが、大阪市民ではなく大阪都構想の当事者ではない。)

先ず、デメリットとして、特別区設置に掛かる初期費用として新庁舎の整備費やシステム改修費など約600億円掛かり、職員数の約200人増員が必要である事などが挙げられている。
また、東京23区の住民が東京都全体の約7割を占めるのに対して、大阪市の住民は大阪府全体の約3割を占めるに過ぎず、予算の財布が同じとなり旧大阪市の税収が大阪府全体にも使われる事に納得が行かないという意見もある。

これらは、一つ一つはもっともな事ではある。
しかし、大阪府と大阪市の関係が他の政令指定都市と道府県の関係に比べて格段の犬猿の仲であり、同様な箱モノを作りまくった失敗や、その他協調性・調整無き行政を続けてきた弊害を考えれば、恐らく二重行政解消によるメリットがデメリットを上回ると思われる。

また、2027年とされる東京−名古屋間のリニア新幹線開業に名古屋−大阪間開業が後れを取れば、大阪および関西全体の盛衰にとって致命傷となる。
これを避け同時開通を実現するためには、統合による経済力・政治力・交渉力UPが必要だろう。
普通に考えれば、府と市が割れたままではこれらの力は生まれて来ず、JR東海や国・東京・名古屋等に対して、十分なバーゲニンングパワーを持ちえないと思われる。

◆「大阪都実現」の危険性◆
「大阪都構想」は、現下の住民投票には含まれないが、上述した府市統合と、   大阪府から「大阪都」への自治体名称変更の2つの部分に分けられる。(府市統合実現を受けて、名称変更には別途国の法改正が必要。)

「大阪都」の誕生で、一国に「都」が2つ生まれる事は、究極的には将来に国家分裂を招きかねない。
上述の府市統合が奏功し大阪のパワーがUPした場合、また逆に府市統合が実現すれども例え上手く機能せず大阪が衰退した場合も、「大阪都」の名称は大阪人および関西人の心理の中に健全な自立性を超えて、東京に対する過剰な対抗意識と日本国に対する帰属意識の希薄化を招くだろう。

「国家分裂」とは我ながら如何にも極端な表現だが、こうした大阪人・関西人の自画像・アイデンティティの隙を突いて他国が経済力・その他の力を駆使し策略を巡らして来た場合に、国家としての足並みの乱れは十分に起こり得るだろう。
現に沖縄に於ける中国の関与を見れば、筆者は究極の形も可能性無きとはしない。

「大阪都構想」は、橋下徹氏の情念の中から湧き出たものである事は衆目の認める所だ。
その情念には、関西人である事を含め氏の来歴に由来する様々なものが混在していると思われる。
よくも悪くも凡そ人は、情念が無ければ大きな事は成し遂げられない事は確かではある。

橋下氏が「大阪都」の名称にどの程度の拘りを持っているのかは、正直よく分からない。
住民投票のため、分かり易くするためと大阪人の心を擽る単なる看板として使っているだけかも知れない。
また、住民投票の結果、大阪府市統合が実現したとしても、「大阪都」への名称変更の法改正が国会で通る事は現時点では考え難い。

しかし、橋下氏の属する維新の党が国政に於いて、例えば有事法制賛成とバーター取引で自民党に「大阪都」を飲ませた場合に、実現してしまう可能性はある。

橋下氏は、最近の討論会や演説で、大阪を日本の2つ目のエンジンとしようと呼び掛けている。
大阪を東京が大災害に襲われた場合のバックアップ機能にしようとも主張している。
これは、特に富士山噴火や大震災の可能性が指摘される昨今、国家の存続に資する不可欠な考えだ。
将来大阪が東京に代わって首都になってもよいし、上述の大災害の蓋然性を考えれば、その可能性は決して絵空事ではない。

しかし、それまでは東京のバックアップ機能充実に注力し、大阪はそれに即した自画像・アイデンティティを持つべきで、筆者はそれに相応しい「代都」を名乗るのが適当だと考える。

橋下氏が主張する「日本をツインエンジン体制とする」事が、もし国家分裂をもたらすものなら、我々国民は全力でこれを潰さなければならない。
橋下氏の真意を問う。


◆◆ <補足> ◆◆
なお、別途橋下氏は都道府県を廃止して道州制を導入する事を主張しており、氏の経済ブレーンである元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏は、消費税の道州税化と道州毎の税率選択を提唱している。

これについて、筆者は地域の主体性と広域行政の必要性には同意しつつも、それは市町村の基礎自治体の財源・権限強化と広域調整機能の強化によって行うべきだと考える。
都道府県を廃止して道州制を導入した場合、地域への帰属意識は分裂混乱すれども道州に収束するのは難しいし、仮に都道府県を残して道州制を導入した場合、地方自治が3階建てとなってしまい屋上屋を重ねる結果に終わる。

また、道州制によって生まれる国に対する強力な遠心力は、特に大震災や他国からの侵略を含む有事の際に弊害をもたらすだろう。
筆者は、地方自治と国政の関係のデザインには、遠心力と求心力のバランス・適正な相互牽制機能構築の視点が不可欠と考える。

なお、消費税の道州税化と道州毎の税率選択は、EU各国間での輸出入手続きに準じた事務が不可欠であり、膨大な行政コストと民間負担をもたらす。
高橋洋一氏には、これらを踏まえた自説精査を求めたい。
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