●中国の領土的野心が明白な以上、集団的自衛権行使を認め日米同盟の紐帯を強固にする安保関連法案成立は必然だった。
●だが、法案には中心となる理念が欠落しており、将来イラク戦争のような筋の悪い戦争に駆り出される可能性も高まった。
●当該法案は、将来あるべき改正憲法を念頭に置き、そこから現行第9条に配慮する部分を引き算して作成すべきであった。
●今後の国会で、出兵条件に「国際的大義に適う場合」の制約を加えた安保基本法を速やかに制定して上に被せ、今回の関連法に理念を注入しなければならない。

◆馬鹿げた国会議論◆
「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹(み)ず。」(孫子 作戦編)

安保関連法案が、前国会に於いて9月19日に可決成立した。
しかし、その国会議論は、低レベルの応酬に終わり肝心の点が議論されなかった。
当該法案成立によって自衛隊員の危険度が増すのかを論点に据えた民主党の平和ボケ、それに対して先ず危険度は増さないと返した与党側の応戦のピンボケぶりが目立った。

真の論点は、自衛隊員の危険の大小ではなくて、国民の生命財産に対する危険性の大小でなければならない。

今回可決した安保関連法の内容は、確かに拙速であった。
「拙速」とは、文字通り拙くて速い事だ。
しかしながら、冒頭に掲げた孫子に見るように、本来「拙速」の意味は否定的なものだけではない。
中国の領土的野心が明白な以上、集団的自衛権行使を認めた安保関連法の前国会での成立は必然であった。
危機の際には、特に安全保障上の危機の際には、拙くても早い事が必要である。
それなくば、国が亡ぶ。

◆混沌化する世界◆
中国によるAIIB(アジア投資開発銀行)は、弱腰オバマをも奮起させた。
これが成就すれば、米ドル基軸通貨体制、石油ドル決済システムを破壊するものだからである。
この石油ドル決済システムの破壊抑止こそが、トンキン湾事件や、家康による方広寺鐘銘事件に並ぶ牽強付会さで、ジョージ・W・ブッシュ政権をしてサダム・フセイン退治のイラク戦争に踏み切らせた理由だ。

膨大な軍事費をファイナンス出来ない米国は、本音では中国の提案する太平洋2分割統治を条件次第では将来受け入れる余地がある。
しかしながら、もし米ドル基軸通貨体制、石油ドル決済システムが破壊されれば米国民が明日から貧民化するため、共和党、民主党を問わず、また経済界からペンタゴンまでを問わず、これに対しては絶対に譲れない。
このため、オバマは中国との対決姿勢に舵を切った。

安保関連法による日米同盟の深化は、米国のこうした変化と相まって、辛うじて中国による尖閣諸島、沖縄、進んでは関西への領土的野心に対抗するツールとなった。

◆安保関連法に精神を注入せよ◆
だが、安保関連法の内容が拙いことは確かに拙い。
安保関連法は中心となる理念が欠落しており、これが極端に分かり難い原因であり、かつ将来イラク戦争のような筋の悪い戦争に駆り出される可能性も高まった。
イラク戦争の是非については、未だに議論が分かれる。
しかし、少なくとも当時の小泉政権が独自の情報を一切得ることなく、米国によるイラク戦争開戦を「支持する」としたことは、属国の態度である。

当該法案は、将来あるべき改正憲法を念頭に置き、そこから現行第9条に配慮する部分を引き算して作成すべきであった。
改正憲法は、国際的大義を伴う長期的国益の追求を外交と防衛の基軸に据えるべきである。

今後の国会で、出兵条件に、急迫の場合以外には、「国際的大義に適う場合」の制約を加えた安保基本法を速やかに制定して上に被せ、安保関連法に理念を注入しなければならない。
「国際的大義に適う場合」とは、基本法では「事前若しくは事後速やかに、世界の大多数の国から支持を得ることが可能な場合」とし、その具体的要件は別途法律または内閣が定めるとすればよい。
これにより、米国の戦争への付き合いを要請された場合、我が国が主体的に出兵の是非を判断する足場となる。

日本の、そして国際社会全体の今後あるべき大戦略は、イスラムのパワーを使って中国の力を抑える事だ。
それは、凶暴化するイスラムと中国をぶつける「二虎競食の計」ではない。
イスラムを穏健化し統一させ、日・米・露・欧州・アジアと共に、切れ目ない中国包囲網を構築し、その牙を抜く事である。

そしてその後に建設すべき新世界秩序は、各国国民、個々人がその能力意欲に応じて所を得て共に切磋琢磨することが可能な、発展と調和が同時実現される王道によるものだ。
安保関連法は、その王道に沿うものでなければならない。