佐藤戦略総研 (独立系シンクタンク)

代表 佐藤鴻全  少数精鋭の独立系シンクタンク /研究分野:政治、経済、外交、軍事、歴史、科学、技術、経営、ビジネス、芸術、芸能、森羅万象 

TPP

Requests to President Trump: Rebuild the United States and preside the new world order

- Based on the "Japan, the US and Russia Trilateral Alliance", pull out fangs of China and the Islamic extremists, and become the leader of the new world order based on the great cause.

- After the withdrawal of the current TPP treaty, detoxify the arbitrariness of international capital, and revise the treaty to true WinWin based one for people of the US, Japan and other nations.

- Establish a success model of the social structure to solve the disparity problem, so that each citizen layer will be full of vitality.

I think these are just "MAKE AMERICA GREAT AGAIN".

Nov.19th 2016
Kozen Sato from Japan,

トランプ大統領への要請書: 米国を立て直し、新しき世界秩序を主宰せよ

●「日米露三国同盟」を基軸に、中国とイスラム過激派の牙を抜き、大義に基づく新しき世界秩序の主宰者たれ
●現行TPP条約離脱後、国際資本の恣意性を解毒し、真に日米両国民等にとりWinWinとなるものへと組み替えよ
●格差問題解決に向け、国民各層が活力に満ちそれぞれ所を得るような、社会構造の成功モデルを構築せよ

◆新三国同盟◆
11月8日に行われた米大統領選で、トランプがヒラリーを降し勝利した。
筆者は、8月のトランプのイラク戦没者家族への過剰反応以降、大統領選の勝敗確率を四分六でヒラリーの勝ちと見ていたので、予想を外した。
しかし筆者は同時に、トランプの選挙スローガンを織り込んでボブ・ディランの「風に吹かれて」の替え歌を作り、米国へ向けTwitterで拡散を試みてディランファンの顰蹙を買うなど、日本からささやかなトランプ応援活動をしていたこともあり、今回の勝利を祝福したい。

さて、トランプは、先ず選挙期間中に唱えていた経済政策を急進的独断的には進めない旨のメッセージを出して、マーケットの混乱を鎮めなければならない。
そして次に、直ぐにでも始めなければならない大仕事が待っている。
手始めは、トランプ自身が就任式を待たずに直ちにプーチンと会談すると語っていたように、シリア・IS問題解決に向け米露の関係正常化に動かなければならない。
オバマの任期が残るうちに、政権と軍部内の「冒険主義勢力」(ネオコン)がシリアを舞台にロシアと戦争を始めないために、これは喫緊の課題だ。

この冒険主義勢力の基本戦略は、ビジネス界と組んで所謂軍産複合体を形成し、中東に介入しロシアと代理戦争、進んでは直接衝突を起こす一方、中国とは表面上対立姿勢を示しつつも譲歩も止むを得ないとするものとみられる。
その狙いはよく解らないが、中東に覇権を確立するとともに火種を絶やさぬようにし戦争経済によりビジネスとしての実を取り、中国のマーケットは当面確保するというのが複合体の集合意思のようだ。
スターリン時代のポーランド亡命貴族の家系で、ロシアに消せない恨みを持つ米国外交の重鎮ズビグニュー・ブレジンスキーがこの戦略の思想的主柱となっている。

そして、これにより中国とロシアを組ませる結果を招いており、やがて米国は太平洋の西半分を失うだけに止まらず、中国による世界覇権とイスラム過激派による混乱の拡大を許すことになるだろう。
米国は、この倒錯した自国が損をするのみならず独裁国家による世界覇権を導く愚策を捨て、中露の間に楔を打ち込み、進んでは「日米露三国同盟」を基軸にイスラムから過激派を一掃し穏健化して取り込み、中国包囲網を完成させその牙を抜く正しい戦略を採るべきであり、この大義を伴う新しい世界秩序の主宰者とならねばならない。
なお、これは軍費ファイナンス上も合理的選択である。

今、アメリカ・ファースト、米国第一主義を唱えるトランプの内向き志向が、世界に心配されている。
相対的に衰退しつつあるとは言え、超大国である米国が単に世界の警察官を辞めれば、その真空を埋めるのは上述したように中国による世界覇権となる。

米国の「内向き」志向を否定し「外向き」志向を主張する所謂外交専門家が日米問わず多くいる。
しかし例えば国際政治学者の藤原帰一氏等は、不思議に「外向き」の内容と質を問わない。
中東でのイラク戦争を始め、悪事または間抜けぶりを繰り返してきたような、「外向き」志向は下の下である。
米国は、仕切り直して大義を伴う新しい世界秩序の主宰者として、王道を歩むべきである。

なお、トランプは日本に米軍駐留経費負担の増額を迫っている。
現在、日本は米軍駐留経費の7割超を負担しており、かつこの駐留は米軍にとってもメリットのあるものだ。
日本は、このことを主張しつつ、これを契機に自主防衛にシフトして行くべきなのは言うまでもない。
しかし筆者は、トランプは更なる要求を突き付けてくる可能性が高いと見る。
それは、日本が現在負担していない費用、具体的には「核の傘代」だ。
日本は、核のボタンを握らせてもらう権利、所謂「レンタル核」「核シェアリング」と引き換えに傘代を幾らに設定するのかの交渉をする覚悟を決めておく必要があるだろう。

◆TPPを解毒せよ◆
大凡、甲論乙駁の厄介な問題には、3つの顔(機能)がありそれが絡み合っているから容易に正解に辿りつけない。
TPPはその典型的なケースで、(1)自由貿易の理想、(2)中国包囲網、(3)国際資本(グローバル企業)による各国民からの収奪、の3つの顔がある。
このうち(1)と(2)は、少なくとも基本的に見れば、日米両国民にとってメリットとなるが、(3)は一般国民からの収奪であるとともに、課税回避により国家についても利益がなく、一部エリート・富裕層のみの利益となり、所得格差により社会分断を招いている。

具体的には、一度規制を緩めると二度と戻せなくなる「ラチェット規定」、外国企業が規制により不利益を受けたと考えた場合に相手国家を損害賠償請求で国際機関に訴え一発勝負で判決が出る「ISDS条項」、その他一般国民に利益のない荒業のカラクリを外す必要がある。

現在蔓延するグローバリズムは、移民等の外国人労働と自由貿易によって構成される。
このうち移民の制限は、尊重されるべき国家主権である。
どんな構造とするか、またリアルなものかバーチャルなものか等、コストパフォーマンスと費用負担を考える必要はあるが、メキシコとの国境に壁を作るのは正しく国家主権の発露である。

しかし、保護貿易も基本的には国家主権ではあるが、食料、健康等の生存に直接かかわる特定分野以外では、保護貿易を強化するのはトータルに見れば長期的な国益に適わないだろう。

貿易は不動産業に比べて優れてゼロサムゲームではなく、保護貿易を強化すれば、米国のGDPは縮小してしまう可能性が高い。
加えて、米国が保護貿易強化に走れば、その隙間を縫って中国が各種自由貿易協定で各国を取り込むことなる。

米国に雇用を呼び戻し、国民を喰わせ痛みを和らげるための短期的時限的方便としてはあり得るが、トランプは保護貿易に力を入れるべきではなく、上述したようにTPPから国際資本、グローバル企業の恣意性を解毒し、真に日米両国民等にとりWinWinとなるものへと組み替える方向へ進むべきだ。
その観点でなら、トランプの米国と日本は協調できる。

◆成功モデルを構築せよ◆
黒人や少数民族を優先する「アファーマティヴ・アクション」は取り敢えず置くとして、米国社会は基本的に自由競争に基づく実力社会でありそれが活力となってきた。
しかし、敗者が事実上復活するのが不可能な場合、特に世代を跨いでそれが不可能な場合は、社会の分断を加速度的に進めることとなってしまう。
筆者は、野球には左程詳しくないのだが、米大リーグでは、ドラフトやトレード、その他の制度が、有力チームが金とブランド力で極端に強くなり過ぎないように精緻に工夫されていると聞く。
リーグの中で加速度的に戦力を累積するチームがあれば、興行としてのゲームが成立しなくなる。

大学の学費ローンで生活費も加えれば何千万円かの借金を抱えなければならないのでは、親の財力で人生が決まってしまうことが多く、米国民の分断が止まらない。
バーニー・サンダースが唱えたような授業料無料は行き過ぎとしても、4年制大学に於ける授業料合計で数百万円、場合によっては数十万円以下に抑えることは必要だろう。

格差問題には、既得権への切込みが必要である。
移民にしてみれば、米国籍こそが既得権と映るかも知れない。
低所得層にとってみれば、グローバル企業こそが既得権と映る。
IT技術を応用した新興企業サービスにしてみれば、既存の3K仕事・サービス業従事者を守る各種規制こそが既得権もとなり得る。
格差問題解決には、これら既得権の整理、即ち良い(妥当な)既得権、悪い既得権の腑分けが必要である。
その上でそれらを、社会保障や教育制度の社会制度や前述の通商政策と組み合わせて、国民が活力に満ち機能する仕組みを作り上げなければならない。

振り返って日本では、中途半端に斑模様で終身雇用制が壊れており、始末が悪い。
安倍政権は現在、「同一労働同一賃金」を始めとする働き方改革をしようとしている。
本来は、「社会保険と働き方の一体改革」としてダイナミックに社会構造を変革しなければ効果は望めないが、その方向だけは正しい。
米国では「同一労働同一賃金」は既に基本的に実現されており、なお突き当たる問題は、ある部分日本の先を行く。

AI(人工知能)等、先端技術の進歩により、経済格差はさらに拡大する。
日米に限らず、今後先進国が目指すべきものは「ナショナル・ミニマムを伴う自律社会」であろう。

格差問題解決に向け、国民各層が活力に満ちそれぞれ所を得るような、社会構造の成功モデルを構築することは、試行錯誤を伴う壮大な社会実験となる。
日米事情は異なる部分はあるが、共に手を携えて解決策をリードして行かなければならない。

以上、拙文にて述べて来たように、米国の内政を立て直し、加えて世界に向けては仕切り直した新しい秩序の主宰者として大義を示すべきこと。
「米国を再び偉大な国にする」とは、つまりそういうことだろう。

「トランプ大統領」に備えよ。 −TPP、米露同盟、および核武装−(月刊日本 2016年5月号)

●トランプの主張するTPP参加破棄は、別の方法で中国包囲網機能が補完されるならば日本にとってウェルカムである。
●トランプとプーチンは、公言し合っているように肌が合う。「米露同盟」が結ばれる場合には、日本は可能なら3国同盟化、少なくとも仲介等により優位な立場で絡まなければならない。
●トランプであろうが無かろうが、ファイナンスに行き詰まった米国は日本により防衛負担増を求める。日本はこれを、自主防衛を高める契機とすべきである。
ただし、核武装は別次元の問題であり、切り離して駆け引きしなければならない。

◆ジュリアーニ副大統領?◆
米大統領選挙の行方は予断を許さないが、共和党予備選挙の焦点は、ドナルド・トランプ候補の副大統領候補選定に焦点が移った感がある。
4月7日に、ジュリアーニ元ニューヨーク市長がトランプ支持を正式に表明した。
もしジュリアーニを副大統領候補とするなら、本選挙で民主党のヒラリー・クリントンを本拠地のニューヨークにある程度釘付けする効果があるだろう。
また、市長在任中に治安対策等で確実な成果を上げた手堅い行政手段が、共和党主流派のアンチ・トランプ感情を宥めるのに多少役立つ。

トランプは、不法移民対策やテロ対策である意味現実離れした過激な主張をする一方、自分は政治家ではないので、実際の行政はプロの政治家に任せるとも発言しており、副大統領候補選び(ペイリン元アラスカ州知事となる場合は、国務長官選び)が実際の「トランプ政権」を性格付けるだろう。

何れにしても、大統領予備選挙および本選挙の結果は、様々な要素、なかんずく今後大なり小なり起こる可能性のある米国内外のテロの規模、背景、タイミングにより、米国世論がどちらに転ぶかによって大きく左右されると思われる。

◆TPP参加破棄◆
さて前置きが長くなったが、米国「トランプ政権」が成立する蓋然性が相当程度ある以上、我が国日本としても、その備えをして置く事は当然に必要である。
外務省が情報収集を始めたと既に公式に発表したが、それと並行して国家レベルでの対応基本戦略を今から検討して置かねばならない。

まず、トランプは「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は米国民の利益にならず参加を破棄する」と公言しているように、もしトランプ政権が成立すれば恐らく破棄するであろう。

そもそもTPPには、次の3つの機能がある。(1)自由貿易の理想の実現、(2)中国包囲網の構築、(3)米国(グローバル)企業による日本からの収奪である。
(1)と(2)は、日本の利益になるが、(3)についてはISDS条項(投資家対国家間の紛争解決条項)や、ラチェット規定 (自由化不可逆規定)のような強力な武器がTPPに組み込まれており、丁々発止の米国(グローバル)企業・弁護士・およびロビーに動かされる米議会により日本企業・政府・国民が手玉に取られ毟り取られる可能性が高い。

もし、TPPの持つ中国包囲網の機能が別の方法で補完されるならば、米国のTPP参加破棄は日本にとってウェルカムである。
ただし、トランプは誤解も含めて中国と並んで日本を貿易不均衡国として名指ししており、更に過酷な要求をしてくる可能性は想定して置かねばならない。

◆「米露同盟」と日本◆
「トランプ政権」となった場合に、「米露同盟」が締結される可能性も相当程度ある。
トランプとプーチンは、公言し合っているように肌が合う。
トランプが「米国の復活」を本気で進めるならば、「米露同盟」締結で中国を牽制し、中東関与を薄め、軍事予算を減らすのは合理的な選択肢だろう。
これまで、その選択を阻害していたのには、中国贔屓のキッシンジャーと、オバマの外交指南役にしてポーランド難民で旧ソ連に恨みを持つブレジンスキーという米外交戦略の2大巨頭の力が大きかった。
しかし、東欧・中東での度重なる失策と中国の台頭で2人の発言力も低下し、若しくは微妙に方向転換しており、ハードルは下がって来ている。

「米露同盟」が結ばれる場合には、日本は北方領土問題に筋道を付けて置き可能なら3国同盟化、少なくとも仲介等により優位な立場で絡まなければならない。
米露が日本の頭越しで同盟を結ぶ場合、日本の関与する余地は少ないが大国同士の面子維持のため調印式は第三国で行う等で、最悪象徴的な意味だけでも日本が絡むことは可能である。

◆防衛負担増と核武装、および新秩序◆
トランプであろうが無かろうが、ファイナンスに行き詰まった米国は日本により防衛負担増を求めて来る。

トランプ等の言う、日本安保ただ乗り論は、日本が相当額の米軍駐留経費を負担しているとしても、ある意味正しい。
米軍が日本を守っても、昨年成立した安保関連法によっても基本的には日本は米国を守らないのが日米安保条約の内容である。

トランプ等の主張する防衛負担増への対応には、日本が米軍駐留経費等を増額する選択と日本がより自主防衛を高める選択の2つがある。

筆者は、前者は選択すべきでないと考える。
理由として、トランプは大きく吹っかけて来るだろう。
第一、それにより日本がより主体性を失って行く事になる。

日本はこれを、自主防衛を高める契機とすべきである。
場合によっては、米国や米軍が危機に在るとき日本が助けに行ってもよい。
しかし、例えばイラク戦争のような筋の悪い戦争に、従属的に付き合うべきではない。
兵を出す際には、国際的大義を伴い、かつ長期的国益に適う場合にのみ主体的に出さねばならない。
その原則を具体化するために、日本は安全保障基本法を成立させ、進んでは憲法改正をすべきである。

ただし、トランプの言う、日韓から米軍が撤退した場合、両国の核武装を容認するという発言には飛躍がある。
米軍が撤退しても、米国の西向きおよび太平洋等の潜水艦搭載の核ミサイルは、中国と北朝鮮とロシアに向いている事は変わらないので、米軍の核配備費用が削減される訳ではない。(ただし、日韓が中・北に攻撃されたとき、米軍核ミサイル使用で米国が反撃されるリスクは減る。)

トランプの日韓核武装容認発言は、不動産王としての交渉術の側面が強いだろう。

日本にとって、核武装は別次元の問題であり、切り離して駆け引きしなければならない。
核拡散の危険性(残念ながら日本の現在の核管理能力の不足も含めて)を考えれば、費用負担の引き換えに米国管理の核ミサイルの発射ボタンを日本がシェアリングする、所謂「レンタル核」が現実的だろう。
もちろん、米国が日本の永遠の味方である保証はなく、そのために核の自主開発を出来る能力と核物質を(核管理能力を高めて)、国際社会を説得しつつ保持して置く必要もある。

よく言われるように、モンロー主義的に米国が他国への軍事的関与を減らして行くというのは、トランプもオバマも同じである。
ただ、オバマは負け犬風に、トランプは吠えながら撤退戦を行おうとしている。

米国が覇権を降りたら、米国の衰退は止まらず、世界も多極化し大混乱するとの恐れが外交軍事の専門家から語られており、筆者も賛同する。
しかし、米国も無い袖は振れまい。

筆者は、米露同盟に日本が加わり世界の安全保障体制の基軸を為す一方、イスラムを世俗化穏健化して統一させキリスト教はこれと和解し、他国も合わせ中国包囲網を完成させてその牙を抜く事が、今後の世界秩序の大戦略であらねばならないと考える。

これは、次期米大統領が誰になっても変わらない。
しかし、トランプ政権となった場合、事態は加速する。
日本はタフな交渉で国益を確保しつつ、この画を実現させるべく、より主体的に動く事が必要となるだろう。

石原新党参入と次期衆院総選挙の争点 −消費税増税、原発政策、TPP参加−



石原慎太郎氏が、10月下旬に東京都知事を辞職し新党を結成する事を表明した。
来るべき次期総選挙では、自民党が比較第一党となり民主党が大敗するだろう事はほぼ既定路線だが、石原新党の参入により、乱立する小党間でどう第3極が形成され、どんな枠組みの連立政権(自民党大勝が無い限り)が出来上がるか一層混沌の度合いを増してきた。

内政、外交で重要課題は山積しているが、来るべき総選挙で争点となるのは、差別化の容易さ等の点で、消費税増税、原発政策、TPP参加問題の3点となり、これらを巡って総選挙前、総選挙後の合従連衡が行われると思われる。

このため、国民監視の下、これらについて政党間でより明確で深い議論が激しく行われる必要がある。
自身の頭の整理も兼ね、以下に筆者の考えを記す。

◆消費税増税◆
消費税増税は、デフレ脱却と無駄削減を果たすまでは行うべきではない。
GDP名目4%、実質2%成長を最低2年以上連続達成し、成長構造を造り日本経済を軌道に乗せると共に、行政改革により冗費を削り、それでも足りない分の増税について、国民に信を問うべきである。

会社経営に例えれば、赤字続きの時に経営者が先ず行うべきは、営業努力と新規製品開発等で付加価値を高め売上数量増を図ると共に、役員・社員の給与カットを含め冗費を削る事である。
この事無しに値上げを行えば、客離れによって売上高は更に落ち込むし、もし営業努力や新規製品開発と並行して行ったとしても、安易な値上げは企業内の努力を妨げ目標の未達に終わるだろう。

これを国家経営に当て嵌めれば、経済政策によって経済成長を果たすと共に、冗費を削り、それでもし足りない分が有れば、初めて増税を国民に問うべきである。
よく、国家経営と会社経営は違うと言われるが、GDP(国内総生産)は民間会社の利益や個人の収入、その他を集計したものなのだから、基本は同じである。

経団連会長である住友化学の米倉会長はじめ海外展開する大企業経営者は消費税増税に賛成だが、これは輸出戻し税によって消費税が実質免除となっているため、法人税増税の回避とバーターでそうしているし、マスコミが賛成するのは、記者クラブ制度と放送電波割り当て等で官僚と一蓮托生の既得権側だからである。

政府・日銀が行うべき事は、特別会計見直し等の行政改革により冗費を削ると共に、国民と国際社会に向かってデフレ脱却の説得力ある具体的なシナリオを示し実行する事である。

国民に嘘をついてマニフェストに無い消費増税法案を通した民主党は論外として、自民党も、増税論者の石破茂氏を破った安倍晋三氏が総裁選で「デフレ脱却しない限り消費増税はしない」と明言した事自体は一応天晴れだが、一方でデフレ脱却を増税の必要条件としない消費増税法案には賛成しているのだから、その担保と覚悟は薄弱と言わざるを得ない。

また、日本維新の会の橋下徹代表は、消費税を地方税化した上での11%への増税という曲球を打ち出したが、政府民主党の打ち出した消費増税に賛成する石原慎太郎氏との連携を考えたものであり、消費増税分に見合う法人税・所得税の減税を謳っていない事から見ても、基本的にトータルな増税論者であり実質的に地方税化する前の増税にも妥協して容認すると見てよいだろう。

社会保障目的という建前はともかく、お金に色は着いていないのだから、全体の奉仕者たる国地方の公務員の給与を民間レベルに合わせる事も無く、官僚組織の餌と天下りの原資に回る安易な消費増税に結果的に賛成するのなら、既に彼らは官僚組織の掌の上にあり、幾ら勇ましく「官僚支配からの脱却」を謳っても、単なるお題目に帰さざるを得まい。

◆原発政策◆
信無くば立たず、原発政策もまた然り。

少なくとも即時原発全廃が現実的でない以上、先ず福島第一原発事故の徹底した反省に基づき具体的な安全運営体制を確立する事が不可欠である。
また、今回の事故で明らかになったように電力会社は過酷事故時の当事者能力と賠償能力が無いのだから、原発は全て国営化すべきだろう。

その上で、今後の原発政策は、脱原発にせよ、原発維持にせよ、それぞれのメリット・デメリットを可能な限り数値化し、比較考量出来るシナリオを各党が掲げ、国民投票的な総選挙(もしくは国民投票そのもの)で、決めるべきである。

そのためには、現時点で原発政策の方向を決定するには時期尚早であり、数年掛けてでも民間を含めて国を挙げて様々な試算を行い、議論を煮詰めるべきである。

福島第一原発事故は、地震・津波の天災に、橋本政権での省庁改編による検査監督部門と推進部門の経産省傘下への同居、津波規模の想定の甘さ、発電機設置位置の設計ミス、形式的で不十分な防災訓練、指揮命令系統の混乱等が加わった人災である。

原子力規制委員会が新設され、新安全基準の制定が来夏に予定されており、一応の対策は為されようとしているが、原子力村の体質自体が革まなければ事故は繰り返される。

このためには、福島第一原発事故に関し、政治家、原子力委員会、旧原子力安全委員会、経済産業省、資源エネルギー庁、旧原子力安全・保安院、東電の関係者の処罰が必要である。
「想定外」であったと言う詭弁と責任体制が分散し曖昧であった事を持って誰も処罰されないのであれば、今後の事故再発は防げまい。

原発は、どんなに安全策を講じても事故の確率はゼロとはならない。
その意味で、事故の確率、被害規模を原発維持のデメリットとして見積もって置かなければならない。
また、核燃料廃棄物の処理方法の確立も不可欠である。

一方、原発をゼロとすると、エネルギーコスト、エネルギー安全保障、原発輸出、潜在的核抑止力等の面で日本社会に大きな負荷となる。
太陽光、風力、地熱、潮力、波力、生物油脂等の新エネルギー及びメタンハイドレード、シェールガス等による代替効果と、その開発・輸出による経済効果のプラス面も含め、脱原発のメリットとデメリットを総体で数値化する必要がある。

国民の生活が第一の小沢一郎代表は、ドイツの例を参考に10年後の原発全廃を謳っているが、日本はフランス等の隣国から電力購入をしているドイツと事情が違い過ぎる。
(仮に日本海を挟んで送電用の海底ケーブルを通しても、韓国、中国から電力購入する事になり、ある程度は備蓄が出来る化石燃料と比べても安全保障上極めて危うい。)

日本維新の会の「脱原発政策」は、原発維持の石原新党との連携も手伝って、曖昧度を更に増している。
結果として、原発政策を「今すぐ決めない」自民党が一番現実的だが、ただ放って置いて単なるこれまでの継続に終わる可能性も高いので国民の監視が必要だ。

◆TPP参加問題◆
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加は、基礎的食糧生産の適用除外の明記と、一方の意向だけでいきなり国際機関に提訴・決着させるISDS(投資家対国家の紛争解決)条項の削除を前提条件とすべきである。

TPPは、国務・国防総省の考える中国包囲網としての目的と、商務省・経済界の考える本来の自由貿易推進の目的、及び日本収奪目的の3つの顔を持つ。

現下の中国に尖閣諸島、進んでは沖縄が狙われている状況に於いて、中国を牽制する包囲網の構築は日本にとって不可欠である。

一方、自由貿易を促進するのは基本的には国際社会のあるべき方向ながら、基礎的食糧は特に有事の戦略物資であり、食糧安保の観点から、国際的に「食糧自給権」の対象としてこれを定義し、自由貿易の枠外とすべきである。

また、TPPが謳う、いわゆる「非関税障壁」撤廃は、各国の文化や社会構造に根差したものもあるため、時間を掛けて交渉すべきものであり、ISDS条項で一方の意向だけでいきなり国際機関に提訴・決着させるのは乱暴過ぎる。

以上を総合し、TPP参加問題は、米国務省・国防総省系に舞台裏で働きかけ、前掲の前提条件付きで交渉すべきである。

なお、海外からファイナンスしなければならない米国の財政状況は日本以上に深刻であり、2期目のオバマ政権が兵力をヨーロッパ・中東から太平洋・アジアにシフトした上で総量ベースで削減に入る事は、ほぼ規定路線だ。
どの国、どの国家間でも経済・財政と軍事・防衛は地下茎で繋がっており、日本が自主防衛を高めて米国の防衛負担を軽くする事が、元より日本の自立を促すと共に、TPP交渉でも有利に働くだろう。
「バトルシップ」という今春公開されたハリウッド映画があった。
米海軍と日本の海上自衛隊が共同して、宇宙からの侵略者に立ち向かうという娯楽アクションものだが、「日本も海軍力を増強して共に中国の拡張主義に立ち向かおう」と言う隠れたメッセージは明白で、辿って行けば恐らく国防総省筋から制作費が入っていたのだろう。

竹中平蔵氏が軍師として経済政策の全てを仕切る日本維新の会とみんなの党は、ほぼ無条件でのTPP参加にまっしぐらであり、その面では外交交渉能力が欠落した民主党と並んで、国益を損なうだろう。

以上、消費税増税、原発政策、TPP参加問題だけ見ても、各党の主張は捩れており、総選挙後すんなり連立政権が組めるか、また組んだ後に果たして機能するのか甚だ不透明である。
そんな状況下、拙文が少しでも参考になれば幸いである。

なお、以下に現時点での各党の主要な政策についてのスタンスを纏めたものを附す。(文書で表明しているもの以外に、幹部の言動等からの筆者の推測を含む。)

◆政党・主要政策関連図(仮)◆
         自 民 公 石 維 生 社
消費税増税  △ ○ ○ ○ △ × ×
TPP推進   △ ○ △ × ○ × ×
脱原発     × △ × × ○ ○ ○
憲法改正   ○ △ △ ○ ○ ○ ×

自主防衛推進○ × × ○ ○ ○ ×
地方分権   ○ △ △ ○ ○ ○ △

成長重視   ○ × △ ? ○ ○ ×
公共事業   ○ △ △ ○ △ ○ ×
行政改革   △ × △ ○ ○ ○ ×
規制緩和   △ × × ○ ○ ○ ×
年金積立制  △ × × ? ○ △ ×
日銀法改正  ○ × △ ? ○ ○ ?

道州制     ○ △ △ ○ ○ △ ×
首相公選制  × × × ○ ○ × ×

※自民、民主、公明、石原新党、維新みんな、生活、社民共産の順

「安倍政権」に埋め込まれた、石破茂と言うトロイの木馬 −財務省と竹中平蔵の影−



安倍晋三氏が9月26日に自民党新総裁に選出され、幹事長に党員投票ではトップだった石破茂氏を据えた。
幹事長は、文字通り党運営と選挙の要であり、もし自民党が次期総選挙を勝利し安倍氏が内閣総理大臣に選出された場合には、中心から国政を左右する事になる。

◆石破茂という政治家◆
石破茂氏という政治家は、軍事オタクと言われるように、防衛政策の知識(必ずしも見識ではない)に於いては現在の政界で恐らく随一である。

しかし、石破氏は幹事長就任後、テレビの政治番組に出ずっぱりの中、10月6日(土)の日テレの「ウェークアップ!ぷらす」で、「日本経済再生の秘策は、(1)安売り合戦を止める事、(2)女性と若者の就労を増やす事」と述べた後、司会者に「具体的にどうやって?」とツッコまれ、「政府だけでなく民間も頑張って貰わなきゃ困る」と回答した。
民間も頑張るのはもちろん必要だが、この事から政治としての具体策は持っていない事が窺われた。

また、筆者自身が、ある席で石破氏に外国人労働者受け入れについての考えを聞いた際、少なくとも知識・技能労働者と単純労働者の問題を区分してはいない様な回答だった。
加えて、三白眼で睨み上げる独特のスタイル自体は良いとして、隙を作らず切れ目なく話し対話の応酬を拒むような姿勢からは、政治家としての幅の狭さが察せられた。

なお、石破氏は、2009年から昨年まで政調会長を経験しているが、従来の自民党政策を踏襲し、防衛と農政の一部を除き目立った政策を打ち出していない。

選挙を抱える政治家は、なかなか全てに通じるという訳には行かない。
特に石破氏の場合、防衛に偏った分、その他の政策分野については、大臣を経験した農政について一定の知識がある他は疎いと言えるだろう。
特に財政、経済政策について弱く、いわば真空である。
さて、その真空を埋めるのは、何だろうか?

◆財務省と竹中平蔵氏◆
恐らくそれは、財務省と竹中平蔵氏となるだろう。
従来から増税優先論者である石破氏に、財務省はアプローチを強めている。
安倍氏が今回の総裁選に於いて「経済成長を果たし十分なデフレ脱却がなければ、消費増税を凍結する」と明言した事を覆し、財務省はデフレ下でも消費増税の強行を図るつもりだ。
伊藤惇夫氏というワイドショー御用達の政治評論家が、総裁選前後を通じてTVに於ける石破氏の応援団長のような事をしているが、そこに財務省を中心とした既得権複合体の意志が透けて見える。

また、総裁選で石破氏の応援に回った小泉進次郎氏を通じて、竹中平蔵氏がアプローチしてくると思われる。
竹中氏は、橋下徹大阪市長の率いる日本維新の会の次期衆院選候補者選定委員会の委員長に就任し、日本維新の会は、経済政策では竹中氏が信奉する供給側強化を強調するサプライサイド政策を採る事が明白になった。

現在の趨勢では、自民党が次期総選挙で第一党になる可能性が高いが、日本維新の会等と連立政権を組む場合、そのパイプ役となるのが石破氏だろう。
そこを通じても竹中氏の影響力が高まる。

その中心となる政策が、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)推進だ。
安倍氏はTPPに慎重であるが、竹中氏は米経済界とりわけ金融界の意向を受け、石破氏と橋下氏を通じてTPPを強力に推し進めてくるだろう。

TPPは、国務・国防総省の考える中国包囲網としての性格と、商務省・経済界の考える日本収奪の性格の2つの顔を持つ。
筆者は基本的には自由貿易論者であり、TPPに必ずしも反対ではないが、それには前提条件として基礎的食糧生産の十分な保護と、一方の意向だけでいきなり国際機関に提訴・決着させるISDS(投資家対国家の紛争解決)条項を外す事が不可欠であり、TPPの大幅な改編もしくは別の枠組みへの仕切り直しが必要と考える。

中国に、尖閣諸島、進んでは沖縄が狙われている状況下に於いて、中国包囲網の構築は日本にとって不可欠であるが、TPPで日本収奪の性格が強くなれば頓挫し、日米双方の国益が損なわれる結果に終わる。
このため、竹中氏等の雑音を排し、大局を持って米国と交渉する事が必要である。

なお、安倍氏が総裁に選出されて、首相再登板への世論の期待が徐々に集まっているが、筆者は健康面に加えてもう一つ懸念がある。
例えば、安倍氏は、官房副長官時代に日本のイラク戦争支持の理由として、「石油の確保は、日本にとって大義である」と述べたが、国際関係に於いて「大義」とは、国益を越えたもの、個々の国の利害を超えて広い地域を発展、維持するための理念でなければならず、石油は日本にとって重要な国益ではあっても大義ではない。

これは、単なる用語の問題ではなく、そこには理論的思考力の弱さが現れている。
その後の首相途中降板の屈辱を経て、熟考を重ね、理論面、戦略面の弱さを克服していると思いたいが、なお注意深く観察する必要がある。
この部分が弱いと、安倍氏は、石破氏を通じて入ってくる財務省と竹中平蔵氏の妨害電波に容易にジャックされてしまうだろう。

財務省も竹中平蔵氏も主観的には、日本のために働いているつもりかも知れない。
だが、全体最適を考えず、部分最適だけで動けば結果として国を滅ぼす売国奴となってしまう。
また、石破氏については、彼らのトロイの木馬とならぬよう、私心を去って国政に当たるべく今一度の自覚が必要だろう。

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佐藤鴻全

佐藤総研代表、会社員、文筆家、196X年生、東京近郊在住
座右の銘: 四海大義
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