「10年か20年後には、ものを売るだけの店舗って世の中からなくなるんじゃないかと思うんですけど、井上さんはこんな考え方をどう思われますか?」先日、ある方々と今後の小売店の在り方を議論する場で、参加者の方からこんな質問をされました。ECの成長、小売り各社が取り組むオムニチャネル・・・小売業の近未来の姿って、どうなるんでしょうね?皆さんは、どう思われますか?

ITの進化が店舗をなくす可能性も
最近は、EC専門店が実店舗を出すなんてニュースも目にしますね。なんでも、顧客接点強化が狙いとか。私としては、何だか中途半端な気もしますが・・・一方、店舗ではなく完全なショールーム、フィッティングルームを展開するところもある。USなどで先行して始まった、ショールームストアという考え方ですね。日本では、ネット通販のワイシャツ専門店ozieがコストレスでショールームを展開し、売上130%upを実現するなんて言う事例も生まれているようです。ショールームは実物を体験するだけの場で、販売するのは必ずネットチャネルから。このメリットは、在庫管理と物流管理をコストレスに出来るところですね。店舗販売主体に成長してきた企業には難しいかもしれませんが、ネット専業から始めた企業には理に適った手法だと思います。店舗に必要な在庫を適切に置くための管理も、そのための物流もかなりコストが掛かりますからね。しかし、これもVRの技術が進化すれば、必要なくなるかもしれない。お手軽な価格で、持ち歩けるぐらいコンパクトな3Dプロジェクターが開発されれば、家の鏡の前で簡単に試着できるようになるかもしれない。家電なんかも良いですよね。実物大を3Dプロジェクタで映せれば、置きたいところに実際に置いて?(映して)、置けるかどうか、どんな雰囲気になるかも確認できる。ただ、洋服などは生地の感触は実物に触れないと難しいですけどね。こういう、実物を実際に確認しないといけないものは、ちょっと工夫が必要なのでしょうね。食品なんかは、既にセブン&アイグループが試行し始めているダークストアを活用すれば、ネットスーパーだけで十分になるかもしれない。宅配に自動運転車を活用できるようになれば、配達員は運転免許も技術も必要ない。かなりコストレスになりますよね。一方、味は試してみないと分からない。そうなると・・・例えば食品や家庭用調理器具なんかは、飲食店とコラボすると面白いかもしれませんね。飲食店で、どこかの食品メーカーの新製品を試しに食べられるとか。調理器具も、メーカーが飲食店なんかと組めば面白い企画が出来るかも。飲食店ばかりでなく、テーマパークや公園なんかも大事な場所になるかも。どこかで触れたり食べたりしないといけないものは、勿論自前でショールームを持っても良いですが、既存の何かとコラボレーションすることで体験を補完できるかも知れない。そんな風に考えると、極論では所謂今の形の店舗が無くなる時代も来るのかもしれませんね。

ショッピング自体の楽しみは
私は、銀ブラとか所謂ショッピングは大嫌い。疲れますしねぇ。でも、好きな方も沢山いますよね。ショッピング自体を楽しむ。私にも、そんなことが全くないかといえば、あります。海外の知らない街に行ったとき、雑貨店なんかにブラっと寄って、漫ろ歩きをするのは大好きです。日本にないような小物やアンティークっぽいものが置いてあったり、見ているだけで楽しい。で、店員さんにどんなものか聞いて気に入ると、ふと衝動買いしてしまう。他には、近所の小坪漁港の魚屋さん。新鮮な魚が色々と、しかもとても安く置いてあるのですが、行ってみないと何があるか分からない。その日、素敵な食材があると、大喜びで買ってしまう。お店の女将さんの勧め方も、またうまいんですよねぇ。「これ、本当に美味しいよ。煮ると最高!」なんて、本当に美味しそうに勧めてくれる。このお店は、ある意味私にとって家の冷蔵庫の一部みたいなもんで、女将さんは素敵な生きた料理本のような感じです。そんな自分の行動から考えてみると・・・品揃えやその展示の仕方、そして接客ってやっぱり大事なのでしょうね。つまりは、人です。お客様が買い場に求める「もの」、「こと」を考えるのは、どんなにAIが進化しても最後は人なのだと思います。お店の方の感性や嗜好が効きますからね。お店にいらっしゃるお客様が何を求めているのかを日々考え、自分の感性も組み込んで買い場を作る。相手を見て、最適な接客を提供する。消費者がリアルのショッピングを楽しみ続けられるようにできるかどうかは、その場を創る人がどれだけ進化できるかにかかっているようにも思います。これまでの店員の役割や発揮すべきスキルなどゼロベースで再定義し、本当にお客様が喜ぶショッピング体験を提供できるようにしないといけないのかもしれません。そうしないと・・・ITの進化が「現在の実店舗レベルの体験」を凌ぐ日、店舗のない世界、人の生活から一つの楽しみが失われてしまう世界が来てしまうのかもしれません。まだまだ先の話のようにも思えますが、10年後は分からないですからね。

話は全く変わるのですが、昨日はお客様のお呼ばれで隅田川の花火大会を絶景のロケーションで楽しませて頂きました。それにしても、人がよく出ていた。やっぱり人が外に出て、楽しむものがある街は活気がありますよね。そんな街にすれば、景気ももっと良くなるのかな。
隅田川花火大会