チャリダー久保田の世界楽翔〜世界一周自転車旅行記〜

自転車による世界一周に向けた準備の話や、旅の話など

2018年03月

3/12~3/20

Cochrane~Villa O'Higgins

「痛ったぁ!!」

それはコクランに来て3日目の出来事だった。
早朝5時、トイレで目が覚めたので用を足して再び寝袋に潜り込み、再びまどろみ始めた時、突然右ふくらはぎに針で刺したような鋭い痛みが走った。
「痛ってぇぇぇーー!何だ!蜘蛛にでも咬まれたか?」
昨夜テントの中に小型の蜘蛛が居たのを思い出し、逃がしたはずだがまた中に入り込んだのかと、あわてて寝袋から足を出したとき、服の中でブーンと大きな羽音がする。
「蜂か!」
慌てて服を脱ぐと、アウストラル街道でよく見るクマンバチがマットの上を暴れまわっている。
蜂をテントの外に放り出した後、すぐに傷口から毒を絞りだし、シャワールームに行って冷水で患部を冷やし、虫刺されの薬を患部に塗る。
幼少のころから数えれば、アシナガバチやミツバチには何度も刺されており、最近では日本一周中に島根県で野宿中に刺されている。
アナフィラキシーショックは15分から30分以内に起きる確率が高く、前回刺されてから時間が短いほど危険性も高いので、眠らずに様子を観察。
刺したのが蜂の中では毒性の弱いクマンバチということもあり、痛みは次第に弱まり、大きく腫れることもなく朝を迎える。
予定ではこの日の朝に出発するはずだったが、念のため安静日にし、思わぬ形で二日連続の休日となってしまった。

この日一日は若干痛みと痒みがあるものの、今までに刺してきた虫たちの痒みなどに比べたら、かわいいものだ。
明日こそは出発しようと決め、早めにテントに入って数時間後。
刺されてから20時間経ったころ猛烈な痒さで目が覚めた。
「うおー!痒いいいいいい!!!」
刺された部分だけでなく、踝から膝にかけ全体が痒い。
ライトを照らすと刺された部分を中心に赤く腫れあがり、今まで感じたことのない痒みに襲われる。
薬を塗る暇もなく、我慢できずにひっかいてしまったので、あちこちに傷ができている。
腫れていると書いたが、正確には腫れと同時に筋肉が張っている感じがし、刺された部分は痒みよりも痛みの方が強い。
冷やした後薬を塗ったおかげで多少はましになったが、この後数日は寝ようとした頃に強烈な痒みに悩まされるのであった。
クマンバチは毒が弱いからとなめきっていたが、流石は蜂毒。
蚤、ダニ、南京、ブヨ、とやられてきたが、痒みと痛さはこの虫たちの中で第一位に認定だ。
因みに、アウストラル街道北部ではアブが大量に発生しており、隙あらば噛んで来ようとするので、肌を露出している人は要注意だ。
アブやブヨという奴らは血を吸うだけならまだしも、時速20㎞出して走っても平気で後を付きまとい、顔の周りをぶんぶんと飛び周り、羽音も含め非常に鬱陶しく蚊以上の不快害虫だ。
そんなアブの対処の仕方は、追っ払っても無駄なので、まずは面倒でも一度足を止めアブの飛行に注視。
すると、一時的に飛ぶのをやめ服の上やカバンに停まるので、その瞬間を狙って素早く手を覆いかぶせると簡単に捕まえることができる。
そして逃げないようにゆっくり手を広げ、手に収まったアブを反対の手で捕獲し、後は適当に処分。
このやり方で一日5匹以上は退治してきたので、アブに悩まされているチャリダーは真似をしてどんどん退治してほしい。
アブに噛まれるとこいつもなかなか痛いので、この区間を走るときは咬まれやすい脛を出して走るのはやめた方が良いだろう。

結局コクランには朝から雨が降った日もあり、5泊することになってしまった。
雨が降っているときはテントでごろごろしていたが、晴れた日は近所にあるタマンゴ国立公園にトレッキングに出かけたり、町を流れる川で釣りをしたりしてすごす。
そして、ここでようやく念願のマスが一匹釣れた。
釣り上げたのは17㎝ほどの小さなニジマスだったが、アウストラル街道で竿を出すこと幾数日。やっと釣果を上げることができた。
粘ってみたがこの一匹だけしか釣れず、一匹だけでは塩焼きにしてもさみしいので、アユの炊き込みご飯にしておいしくいただいた。
ただ未だに大物が釣れないので、いつかは大物のトラウトが連れることを夢見て、今日も竿を出す。

コクランを出発し、小さな橋を越えると一匹の黒犬が後を追いかけてきた。
別に吠えたりもせず、自転車の前後左右縦横無尽に駆け回りながら、一定の距離を保ってついてくる。
遊びたいのか散歩がわりかはかはわからないが、今回同様時折並走してくる犬がおり大抵は数㎞も走ればいつの間にか消えていることが多い。
今回の犬もすぐにどっか行ってしまうだろうが、久しぶりの相棒として束の間のペアランを味わう。
しかし、5㎞、10㎞と走っても一向に離れていく気配はない。
道路を離れ森の中を走って見えなくる事もあるが、急な坂で足を止めれば近くに寄ってきて、僕が動くまでじっと座っていたり、平らな道で休まず走っているときは、足を止めることなく歩きながら水たまりの水を飲んで、必死について来ようとする。
河原で昼食をとっていた時は、そばに来て「僕にも下さい」と言わんばかりに、お手をしてくるほどやたらと人懐っこい犬なので、首輪はしていないが飼い犬なのではないかと思えくる。
最初はかわいいと思っていたが、ここまで来るとこの先何処までついてくるのか心配になる。
ついてくるのは構わないが、交通量が少ないと言えども見通しの悪い道故、懐いた犬が轢かれては寝覚めが悪い。
また、僕が走っている限り犬も休憩を取らないので、時折沢がある所で犬用に水分補給の休憩を入れなくてはいけないし、昼はパンを少しあげたが、町の少ないアウストラル街道では、自分の食事ですら次の町までの日数を計算しながら節約しないといけないほどなので、食料を分け与えるのは厳しいものがる。
そんなことを考えながら35㎞ほど走った時、前方からチャリダーがやってきた。
挨拶をかわし、坂を快走して下るチャリダーの後ろからは白い犬が追っかけてきている。
「あはは、君も犬連れか」
「この辺に住む犬は、暇なときはチャリダーと一緒に散歩を楽しんでるのかな?あの犬と一緒にこのクロもコクランに帰らないかなぁ」
と、思いつつ坂を越えた時、隣を見るとさっきの白い犬がちゃっかり着いてきている。
「あれっ!?じゃあ、クロは?」
と振り返ると勿論クロも一緒についてきてる。
「なんで、こっちに二匹ついてくんのよ!」

テロリロリーン(BGM)、シロが新しく仲間に加わった。

なーんて、RPGじゃないんだから。
このシロもクロと同じように、僕が足を止めれば休憩し、走り続けている間はろくに水を摂らないタイプで、なんでそこまでして一緒に走りたがるのだろう?
一人と二匹の一行はそこから10㎞続き、コクランから45㎞の地点に差し掛かった。
ここから長い下りに入る。
引き離すなら今だ!
ダートの道なのでスピードは出せないが、フルマラソンより長い距離を走っている犬たちも速いスピードは出せないはずだ。
徐々に距離は離れ、下りきる頃には見えなくなっていた。
少し寂しいしかわいそうな気もするが、車とすれ違う時やはり怖いので、次の相棒を見つけて無事コクランに帰るよう祈るしかない。
下りきったあと湖沿いに平らな道が続く。
ふと振り替えると、湖越しに雪山が綺麗に見えたので、足を止めシャッターを切っていた。
設定を調整しながら何枚か撮っていると、遠くに犬の影が見える。
ああ、追い付かれてしまった。
クーン、クーンと悲しそうな声で叫鳴きながら追い付いてきたのはシロ一匹。
下ったところに分岐があったので、クロは道を間違えたか坂で諦めたのかもしれない。
もうここまでついてくるなら、向こうが飽きるまで一緒に走ろうかと思っていたが、ここから10㎞ほど走っている間に、いつの間にかシロもいなくなっていた。
途中数軒の集落があったから、もしかしたらその集落で飼われている、もしくは寝泊まりしている犬だったのかもしれない。
むしろそうあってくれた方が、気持ちが楽なのだが。
こうして犬との道中は終わり、再び一人旅になったのだが、河原でキャンプ後朝起きてテントを開けるとそこにはクロが丸まって眠っている。
そんな夢を見るほど、犬のことを考え続けた一日だった。

コクランから次の町Villa O'Higginsまでは220㎞の道のりなのだが、120㎞地点に湖があり、ユンガイからリオブラボの間はフェリーで渡る必要がある。
ユンガイ手前には片道10㎞、計20㎞の峠があり、400ⅿアップの久しぶりの長い坂だ。
単純計算で平均4%の勾配になるが、当然そんな甘い計算が成り立つわけは無く、入口は10%越えの急坂、登り切ればすぐ下りがあり、その後また急坂と、いつもながらいやらしい道が続く。
これは今日中に着くのか心配になったが、2回目の急坂が終わると勾配は緩くなり、一気に頂上まで進むことができる。
しかし、下りは下りで、やっぱり急な登りが何か所もあり、おまけに下り後半は雨で少しぬかるんだ土の道になり、タイヤがとられてペダルが非常に重くキツイ足取りであった。
コクランを出て三日目、14時に湖の入り口、ユンガイに到着。
フェリーは一日4便。10時12時15時18時と出ており、無料で対岸に渡ることができる。
待合室で1時間過ごした後、15時の便で対岸のRio Bravoに向かう。
乗船時間は40分ほどで、椅子は柔らかくヒーター付きの船内は温かく、無料にしては立派なフェリーだった。
18時の便でリオブラボに着くチャリダー達は、港にある待合室の中で寝泊まりしているようだが、まだ時間があるので僕は先に進むことにした。
しかし、一時間もしないで雨が降りだしたので、早々に走るのを諦めテントを張る。
こんな事なら素直に待合室に泊まればよかった。

夜から明け方にかけ激しい雨が降ったが、朝には久しぶりの太陽が顔を出し、青空の広がる清々しい秋晴れとなった。
この日は急な峠を3つ越えアウストラル街道最後の町オヒギンス(又はオイギンス)に向かう。
この辺の長い坂は、大抵入口が一番急だ。
本気で何考えてんだ!と叫びたくなるような角度が多く、後半に緩くなり傾向がある。
リオブラボからオヒギンスまでは92㎞あり、峠の区間は30㎞。
この30㎞を進むのに5時間かかってしまい、この日のうちにオヒギンスに着くのは諦め、18時前から寝床を探しに入ったのだが、峠が終わると湿地帯に入り、なかかな良いキャンプ地が見つからない。
おまけに、この辺りでは牛を放し飼いにしているため、良さそうなスペースを見つけても大抵牛糞だらけなので、張る気も失せて次の候補を見つけるため先へ先へと進んでいく。
見つかったのは19時半過ぎ。森の中に開けたスペースを見つけ、道路から注視すれば見えてしまう所だったが、時間も時間だし牛糞の無いスペースを確保できたので、今宵の宿に決定。
テントを張り夕食の準備に取り掛かかるころには、空に星がちらちらと輝きだしていた。
見上げると雲一つなく、アウストラル街道、いや、プエルトモント以降で初めてすっきりと晴れた夜になった。
満天の星空、そして天の川。アウストラル街道最後にして素敵なプレゼントを貰えたようだ。
ただ雲がない分、放射冷却が起き空気はキンキンに冷え、朝起きるとフライシートに霜が降りていた。

町までは残り35㎞。最後のランも天気に恵まれ山頂に雪をかぶった山は日を浴びて輝き、紅く色づきだした森に澄み切った青空と、上出来な環境の中昼過ぎにオヒギンスに到着。
町の入口にあるキャンプ場に着くと自転車が4台泊まっている。
この町からアルゼンチンに抜けるには、フェリーを乗り継ぎ、登山道のような道を使う必要があるので、徒歩と自転車のみが通行でき、車はもちろんバイクも通行できないと言われている。
そんな街なので、自然と旅行客はチャリダーメインとなるので、宿泊者は全員チャリダーというのも珍しくない。
談話室にはチャリダーが一人おり、話を聞いたら日本人チャリダーで、残り三台も日本人とのこと。
そういえば、大学生のグループがアウストラル街道を走っていると聞いたが、ここで出会えるとは。
四人の内一人がアメリカ大陸を横断中で、ほか三人がサンティアゴで合流し、一緒にアウストラル街道を縦断してアルゼンチンに向かっている所だそうだ。
旅の話をしていると、どうやら彼らもコクラン以降で犬が後を着いてきて、ユンガイのフェリーも船員が
「あんたたちの犬だろ」
と勝手に決めてフェリーに乗せたので、220㎞先のこの町まで一緒にやってきたそうだ。
話を聞いているうちに、僕に着いてきたクロと特徴が似ていることに気づいたのだが、流石にそれは無いかと思ったが、散歩から帰ってきたチャリダーの後ろにいた犬を見て思わず吹き出してしまった。
「クロ、お前ここまで来たんか!」
まさかの再開にクロも喜んですり寄ってくる。
話を聞けば、僕がクロを振りちぎった45㎞地点を彼らが翌日に通過した時に、道端にいたクロが突然着いてきたそうだ。
フェリー乗船後、ここに来る間にもう一匹仲間が増え、二匹連れでここままで来たそうだ。
この調子ならシロもいたりして、と思っていれば、夕食の買い出し時に町を歩いていると散歩中の外人チャリダーの後を追っているシロを発見。
「おまえら自由だなー!」
街中には野良犬がたくさんいるが、こいつらみんなチャリダーの後を追っかけて、オヒギンスとコクランを行ったり来たりしているのだろうか?
両間の距離は220㎞あるので、世界一激しい散歩をしている犬たちだろう。

こんな僻地で日本人同士が出会えたことを祝し、夜はカレーを作りチリ産ワインとピスコで祝杯を挙げる。
道の悪さと雨の多さにはうんざりしたが、最終日に最高の景色と面白い出会いがあり、アウストラル街道をいい思い出で締めくくることができた。
後は4日後に出港するフェリーに乗って10数㎞走ればアルゼンチンの国境だ。
その先は世界一過酷な国境越えと言われている地帯。
過酷な国境越えなら何度もしてきたので、果たして本当に世界一かどうかこの目で確かめてやろう。

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コクランの教会
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フライでフィッシュオン
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角度がえぐい
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EL CONDOR PASA
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霜で濡れたフライを干す
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3/3~3/11

Coyhaique~Cochrane


コジャイケには2泊の予定だったが、2泊目に自転車メンテナンスをしたところ、ダボ穴に不具合が発生し翌日もメンテナンスに当てたため、結局3泊もしてしまった。
気づけばもう3月。
チリ南部の夏は2月が一番降水量が少なく、3月からは次第に雨が増え、天気が安定しない日々が多くなる。
コジャイケに滞在した3日目も大雨が降り、この日以降毎日のように雨が降るようになった。
雨だけなら良かったが、西からの冷たい暴風が昼夜止むことなく吹くようになり、道の悪さと合わせて全く進まない。
コジャイケからは丘陵地帯となり、延々と急なアップダウンが続き、両手じゃ足りない位の坂を上り切り、もういい加減うんざりだ!と叫んだところで道が開け、下り坂の向こうにはバンパが広がっていた。
追い風になった為時速80㎞/hでかっとばし、下りきった後も60km/h近い速度でバンパを駆け抜ける。
「最高だ!」
この時ばかりは風に感謝し、そのままの勢いで小さな集落に突入した。
バラマセダという、アウストラル街道に入った港町と同じ地名の集落で、町の大きさに似合わない大きな空港が印象に残った。
中型のジェット機が離着陸する規模で、
「こんなところに空港作って誰が来るんだよ」とついつい突っ込みを入れたくなる。
町のはずれまでやってくると道路をふさぐようにゲートが降りていた。
その先にはこれまた町には似つかわしくない、立派な施設が建っている。
最初は道を間違え空港施設に来てしまったかなと思ったが、道路わきに立っている看板に目をやると、そこにはこう書かれていた。
『Paso Fronterizo HUEMULES』
「ん?フロンテリソ?え!?国境?え?Por que??」
何故こんなところに国境があるのだ?
アウストラル街道の国境はまだまだ先だし、ルートの途中アルゼンチンに抜ける場所は無いはずだ。
あわてて地図を見ると、16㎞手前の分岐で右折しなければならない所、勢いあまって直進してしまいアルゼンチンの国境に向かってしまったようだ。
確かに16㎞手前の交差点では多くの車が右折して行ったが、本線は直線に思えたし、上り坂が終わったところに分岐があったので看板を見ている余裕が無く、気づかなかったみたいだ。
16㎞とは言え今旅で道を間違えた距離としては最長だ。
戻るとなると台風のような向かい風の中、今さっき「最高!」と叫んで下った坂を上らなければならない。
「最低だ!」
しかし、地図を見直すとバラマセダからアウストラル街道に合流する横道が細々と伸びている。
ただ角度が悪く、分岐から8㎞地点に向かって伸びているので、分岐からこの町までの16㎞と、ここから合流するまでの13㎞で、トータルで道を正しく走った場合に比べ20㎞の損になるが、元来た道を戻るよりかは多少ショートカットできるので、規模からすればダートの道だと思うが、同じ道を走るよりかは違う道を通ったほうが、精神的にも少しはましな気分だ。
ただこの日はもう走る気力がなくなったので、町の入り口にかかっていた橋の下でテントを張り、翌日アウストラル街道に合流して再び南下を始めた。

今まではダートとアスファルトが交互に出てきたが、Cerro Castillo以降は全線未舗装地帯となる。
ダートの質はピンキリで、重機が入って走りやすい所もあれば、平地でも押さなければいけない様な深い砂利道もある。
登りでふらつきスリップしてコケ、風であおられスリップしてコケ、穴にたまった泥水を車にかけられ、パンツまでグッチョリになりながら雨の中を走りと、コジャイケまでの楽しさが嘘のように、自転車旅におけるマイナス要素満載の道となり、段々と辛さが目立つようになってくる。
川岸でキャンプしていても釣竿を出す気力が起きないほど、疲れ切った毎日。
僕の夏休みは終わってしまったのか・・・?

その日は走り出して1時間もしないで雨が降りだした。
初めは小雨だったので合羽を着ないで走っていたのだが、次第に雨脚が強くなり渋々合羽を着用。
全天に雨雲が広がり、太陽が見える隙間は無く止む気配はない。
体はどんどん冷えていく。
「あー、もう嫌だ!やってらんねー!!」
これ以上走っていては風邪をひいてしまう。
町ははるか先なので、雨宿りできそうなバス停は期待できない。
今日は早々に切り上げて、さっさとテントを張ろう。
しかし、こんな時に限ってテントを張れそうな場所が見つからない。
雨の中走り続けて4時間が経過したとき、川のそばに小さな小屋が見えた。
小屋には窓ガラスがはまっておらず、廃小屋のようだ。
こんな小屋がある所は通常私有地なので、敷地内には当然有刺鉄線が敷かれ、門は閉められて鍵がかかっている。
当然この小屋も敷地に入る門が閉じられている。
しかし、門の横には人用の通行口があり、そこには扉がなく出入りが自由になっている。
「もしや、中に入れるのでは?」
自転車を外に停め、通行口を抜けて小屋を覗いてみる。
小屋には扉がなく、中はがらんどうになっており、煙突があった部分は大きく穴が開き、雨漏りしている所から廃屋なのは間違いない。
居間(?)の他個室が2部屋あり、部屋の扉にはこんな文字が書かれていた。
『REFGIO PARA CICLISTA』
"サイクリストの為の避難小屋"
そして、過去にここに泊まったサイクリストたちの寄せ書き。
日付を見ると、2016年から避難小屋として使われているらしい。
こんな無人小屋は大抵旅行者や地元の人間により、汚されてしまいがちだが中はゴミ一つなく、綺麗に保たれている。
個室には窓ガラスがあり、隙間風は入ってこないしテントを張れるほどのスペースがある。
これは天の助けとばかりに、自転車を小屋に運び入れ濡れた服を着替え、熱く甘いコーヒーを入れて一息つける。
室内にロープを張って濡れた服を干せるし、テントを濡らすこともない。
思いもかけず屋内でテントを張る事が出来、こんな素敵な小屋を提供してくれた地元の人には感謝したい。

思わぬところで見ず知らずのやさしさに触れ、何だか心の凝りが取れたように、ふと気持ちが楽になる。
雨が降るのは仕方がない事だ、その雨さえも楽しめれば旅はもっと輝くはずだ。
その域に達するにはまだまだ修行が足りず、当分は恨めしく思う日々が続くと思うが、もっと気楽に走れるようになりたい。
まずは慌てる必要は無いのだから、距離を稼ぐよりも折角の自然をもっと楽しもうではないか。
その日以降は、日中でも隙を見て釣竿を出し、夜は雨さえ降らなければ焚き火三昧。
太陽がめったに顔を出さず、気温もぐっと下がったため、川で泳ぐことは無くなってしまったが、クリスタルのような青く輝く清流に、険しく聳える雪山と氷河、天気が良ければ本当にきれいな景色が続く道なので、夏休みは終わってしまったが、代わりに始まった秋休みを今は満喫している。
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この景色が見えたら道間違えてますよ!
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カラフルな教会
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なぜそこに国境が!?
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道を間違え切なく見つめた夕日
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避難小屋(翌日撮影)
トランキーロ60㎞手前
Laguna Cofreを過ぎRio Murtaに差し掛かった地点
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久しぶりの焚き火で作るご飯とカレー
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グアナコ
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2/22~3/1

Quellon~Coyhaique


balamaceda行のフェリーは週二便あり、今週は木曜日と土曜日の出港だ。
火曜にケジョンに着いたので翌水曜日、フェリー会社に購入しに行ったのだが、ここで思わぬ事態となった。
「バラマセダに行きたいんだけど」
「無いよ」
「無い?」
「バラマセダ行きは3月1日まで満員だよ」
なんてこったい。
マニアックなルートだから余裕で行けると思っていたのだが、チャイテン以降の通行止めのせいでこの便を使う人が増えているのかもしれない。
ここで1日まで待っていても仕方がないので、オフィスに貼ってある航路を見ながら、北部のチャイテンにフェリーで渡りそこからバラマセダ行きに乗り換えることにし、翌朝6時発のチャイテン行きのチケットを購入。

当日の早朝、宿のオーナーに4時発のシスネス行と勘違いし朝3時に起こさられ、何がなんだかわけわからぬまま真っ暗な中港に向かい、桟橋でチャイテン行きはまだ早いと言われ、結局待合室で暖を取りながら時間をつぶす。
出港時間は一時間遅れて朝7時発。
ここから5時間フェリーに乗り、海峡を越えて対岸のチャイテンに向かう。
天気が良ければ景色がいいのだろうが、生憎の曇り空で山は白い雲をかぶり全容を見ることができない。
しかし、それはそれで秘境らしさが醸し出され、良い味わいとなっている。
チャイテンに到着後、港から1㎞先の町にあるフェリー会社でバラマセダ行のチケットを購入。出港は23時。
町は小さく、特にみるものもないので、海を見ながら食事をしていたのだが、海風が冷たく長居できそうにないので、オフィスに避難。
その後、17時に港の待合室に移動しそこで夕食のスープマカロニを作り、旅人と談話しながら時間をつぶして23時に乗船。
夜中の船出の為、船室に着いてすぐソファーで横になり睡眠。
7時間後バラマセダに着いたはいいが、朝6時は太陽はまだ地平線のはるか下にあり、今は満天の星空が広がっている。
近くに待合室でもないかと探してみたが見つからず、街灯もないので、他の旅人同様ライトを照らしながら道に沿って進むしかない。
1㎞ほど進んだところでバス停を発見したので、自転車を中に停め寝袋のインナーに包まって仮眠。

朝8時、ようやく日が登り気温も上がってきた。
バス停の前には雑木林が広がり、日差しが差し込んだ雑木林は朝露に光が反射しキラキラと輝き、奥には青い川が滔々と流れており、なかなか素敵なロケーションだ。
朝の新鮮な森の空気を吸い込み、眠たい体に活を入れて力いっぱい走り出す。
フェリー会社のオフィスに貼ってあった地図を見た時、一般道は一本線で表記されているところ、ここバラマセダからアウストラル街道の合流地点であるLa Juntaまでの75㎞区間は、点線が引かれていたのを見てうすうすと感じていたが、やはり未舗装のようだ。
地図によれば、ラフンタまでパレナ川の上流に向かって道が伸びているので登りメインとなるが、ラフンタの標高は100m程度なので、勾配はそれほどでもないだろう。
バラマセダ周辺は穴だらけの砂地で走りづらかったが、進むにつれ浅い砂利道の比較的走りやすいダートに変化したため、コルゲーションや穴をよけながらでも時速15㎞程度で走る事ができた。
いくつもの支流を越え、橋の無い太い川は渡し船で対岸に渡り、ジャングルのような森をひた走る。
バラマセダ以降は民家は無くなり、無人の大自然が広がっている。
3日分の食料は積んでいるし、水は至る所に清水が流れているので心配する必要がない。
水に困らないというのは、自転車旅にとってこれ程心強いものは無いのではないか。
食料は2週間分積むことはできても、水は節約して4日分(15リットル)が精いっぱいだ。
水が手に入るおかげで、食後のコーヒーも気兼ねなく淹れることができる。

夕方ラフンタまであと7㎞地点の所に差し掛かった。
時間的には十分町に着く時間帯だ。
しかし、町に着いたところで用は無いし、町中で寝るにはお金がかかるので、道路わきの茂みの奥でテントを張れるスペースを見つけたので、今宵はここでキャンプすることに決めた。
テントを張り終え、さて飯を作ろうかと思ったその時、目の前の木の枝付近を何かが飛んでいる。
その黒っぽい図体の先端にはくの字に曲がった突起物が生えている。
最初は巨大なゾウムシかと思ったが、突起物が本体と同じ長さはありそうだし、体格も立派そうなのでゾウムシではなさそうだ。
「はて、なんだろう?」
と、枝にとまったの視とめて捕獲。
「こ、こ、こ、これはチリクワガタじゃないか!!!」
この玉虫色に輝くボディー、細長く湾曲した顎、間違いないこいつは昔図鑑で見たグラントチリクワガタだ!
胴体よりも巨大に伸び、生活に不便を感じそうな大あごは見た目に反して挟む力は弱く、その事を実践したダーウィンが日記に綴ったことから、『ダーウィン・ビートル』とも呼ばれるほど有名で、個人的にはオウゴンオニクワガタやホソアカクワガタの各種に並び、生で見てみたいクワガタランキングの上位に鎮座する、憧れの種だ。
ダーウィンと同様に試したが、ギシギシと顎を鳴らす割にはやはり挟む力は無く、過剰適応と言われるのも納得できる。
しかし、同種同士で喧嘩しているところを観察してみる限り、大顎を取っ組み合いに利用しているのでそれなりに価値があるのではないだろうか。
また大顎の下には牙のような鋭い顎が二本伸びているので、この二本をうまく使っているのではと推測している。
昆虫少年の僕にとっては、クジラ、ジンベイザメに出会った時に匹敵するほどの感動を覚えた。
興奮して様々な角度から写真を撮った後、木の幹をよく観察してみるとグラントチリクワガタがうようよいる。
それも5匹、6匹では無い。
地面で蠢いているのも合わせれば10匹以上はいる。
これには鼻血がでそうなほど大興奮。
「なんだここは!天国か!?」
クワガタが生る木のように、一本の木(南極ブナか)に集まってきているところを見ると、よほどこの木が好きらしい。
樹皮を見てみても、特に樹液が出ているわけでもなく、ほかの昆虫が集まってない所を見ると、何かコイツにだけある特殊な事情があるのだろう。
(調べてみた処やはりチリクワガタは樹液を吸わず、生体は意外と謎に包まれているそうだ)
興奮しずぎて時間をわすれ、気づけば1時間以上経っていた。
まさかこんなところで憧れのグラントチリクワガタの野生種に会えるなんて何て幸先が良いのだろう。
これは吉兆の兆しに違いない。
いや、むしろピークかもしれない。
それほどまでに感動できる生物に出会えることは、当分は無いだろう。
昆虫で言えばコスタリカで見つけられなかったゾウカブトムシとヘラクレスオオカブト、そして日本に住むヤンバルテナガコガネの3種類ぐらいか。

最高の出だしを踏めたアウストラル街道は、翌日からの走行も期待以上に楽しいものだった。
青空の下澄んだ空気と心地よい風、昼休憩や登りで汗をかいた後は、パンツ一丁になって川に飛び込み、冷たい雪解け水で汗を流し、ついでに洗濯もして毎日爽やかさを保つことができる。
今のとこまだボウズだが、時間があれば川や海で釣りをし、夜は焚き火をしながらコーヒーを啜る。
虫捕り、魚釣り、川遊び、自転車、キャンプに焚き火と少年の夏休みのような日々を送り、さながら僕の大好きな漫画家『大石まさる』の世界の様だ。
雪山や氷河が続く景色に、アラスカやカナダの走行を思い出し、自転車で走っていてこれ程楽しいのも久しぶりだ。
何より車は少ないし、追っかけてくる犬もいないので、ストレスがほとんどない。
時折急なダートはあるが、1時間2時間と押し続けるような個所は無いので、漕げる日々というのはそれだけで楽しいものだ。

先人たちの情報では、この先から坂とダートが牙をむくそうだが、景色は絶景らしいので、坂に吠えながらも、マスを一匹は釣ることを目標に、聖地アウストラル街道の南下を続けていくのであった。

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巨大な葉
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グランチリクワガタ
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無数に流れる清流
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氷河
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濡れたテントを乾かす
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