九段新報

犯罪学オタク、新橋九段によるブログです。 日常の出来事から世間を騒がすニュースまで犯罪学のフィルターを通してみていきます。 (筆者は素人なのであまり内容は信用しないでください) 皆さんに少しでも話題を提供できたら幸い。

「措置入院でなぜ防げなかったのか」が無意味なわけ

 相模原の事件に関して、27日の各紙朝刊は「なぜ防げなかったのか」「なぜ教訓は生かされなかったのか」の大合唱の様相を呈しています。
 戦後最悪の大量殺人である。相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で未明、元職員の男が次々と入所者をナイフなどで襲い、40人以上を殺傷した。
(中略)
 同じ2月には、同趣旨で犯行を予告する手紙を衆院議長公邸に持参した。今回の凶行の手口は手紙の内容に沿っていた。この後、男は「他害の恐れがある」として精神保健福祉法に基づく措置入院となり、3月に退院していた。
 措置入院の解除、退院は指定医が判定し、自治体の判断を仰ぐ。大量殺人を予告し、警察の聴取を受けた男が、措置入院を経て強い犯意を持続させ、実行に及んだのだ。措置入院の期間や解除の判断は妥当だったか。警察や「やまゆり園」は解除や退院後の男の動向について情報を得ていたのか。
 措置入院の経緯とあり方を徹底的に検証しなければ、再発防止の教訓とすることはできない。
 平成13年、大阪教育大学付属池田小学校に男が押し入り、次々と包丁で切りつけ、児童8人を殺害した。男は犯行の2年前にも傷害容疑で逮捕されたが、「精神安定剤依存症」の診断で処分保留となり、措置入院となっていた。この事件でも措置入院は、凶悪な犯行を防ぐことができなかった。
 【主張】相模原大量殺人 措置入院の徹底的検証を-産経新聞
 ここで引き合いに出しているのは産経新聞ですが、確認した限り毎日、朝日も同様の印象でした。逆に読売はそのような論調は少なかったように見えます。
 これらの記事に共通しているのは、措置入院、ひいては防犯そのものに対する過度な期待と表現すべき誤解です。

 措置入院は犯行を防いでいるか
 まず、措置入院がはたして本当に犯罪を防いでいるかという検証を立証的に行うべきでしょう。しかし、立証を行うべき理由は、立証が行えない理由ともなっています。
 というのも、そもそも犯罪は発生して初めて犯罪として認識されるからです。仮に犯行の恐れのある誰かを措置入院させて、その間じゅう犯行が行われず、また退院後も犯行を行わなかったとして、彼の犯行を措置入院が防いだとどのように証明できるのでしょうか。犯行の危険性のない人物を措置入院させた可能性を排除することは、ある場合を除けば絶対にあり得ません。
 その場合というのが、今回のように退院したものが犯行を起こした場合です。つまり措置入院というシステムは、そもそも失敗のみが観測できるシステムであり、効果のほどを検証することが不可能なシステムなのです。
 このようなシステムを取り上げて、なぜ防げなかったのかと問いをたてる場合、あり得る回答は「これからも防げない犯行はあるかもしれないが、ある程度は防げていると信じて続行する」か「効果を検証できない対策は止める」しかありません。しかし、今の日本の議論では「効果がないと決めつけ、その理由は基準が緩いからだと決めつけさらに強固な対策にする」という、論理的にありえない第3の選択肢が登場し、それが実行される蓋然性が最も高いのです。
 私は、措置入院を全面的に否定するつもりはありません。誰の目にも自傷他害の恐れが明らかな場合には、緊急的な措置として必要な場合があるでしょう。しかし、精神障害者のあらゆる犯罪を防ぐことに期待して措置入院を行使することには反対です。

 有意味な措置入院にするために
 措置入院にどうしても手を加えたいのであれば、今回の事件で問題視されている退院後のフォローアップを充実させるべきでしょう。措置入院中に、クライアントの状態をよく把握し、より軽めの通院治療やカウンセリングに切り替えていける制度設計を進めていく必要があります。このような対策は、単に退院後の動向を追うだけでなく、入院が長期化しないためにも必要だと思います。
 ただし、このような措置にはクライアント本人の同意が必須です。また退院後の治療に承諾することを退院の要件としないような配慮も必要です。措置入院は厄介者をしまい込んでおく、便利な道具になってはならないのです。

 防げない犯罪に向き合う
 今回の事件で痛感したのは、この社会は防ぎようのない犯罪に向き合うことを怠ってきたのだということです。警備が甘かったとか、措置入院があったのにとか言われていますが、批判されている全ての事項が理想的に機能していたとしても、やはり防ぐのは難しかったでしょう。
 そもそも、健全な社会には一定数の犯罪が発生するものです。となれば、一定の間隔で耳目を集める凄惨で異様な事件が発生するのも道理というものです。そのような事件すべてを防ごうとすれば、人々の行動を全て監視し少しでも怪しい動きがあれば予め捕まえるしかありません。しかし、そこまでしたとしてもやはり全ての犯罪を防ぐことは不可能でしょう。
 社会はこれを機に、犯罪を防ぐことへの執着から脱し、より効果的な対策を模索するように変化する必要があります。加害者の更生、被害者への補償など、出来ていないことはいくらでもあるはずです。 

相模原の大量殺人について

 今朝ニュースを知った時には流石に衝撃を受けました。戦後最大規模の被害者を出した、相模の障害者施設での事件です。
 26日午前2時40分ごろ、相模原市緑区千木良(ちぎら)の障害者施設、社会福祉法人かながわ共同会「津久井やまゆり園」から、「大変なことが起こった」と110番通報があった。神奈川県警によると、複数の刃物を持った男1人が施設に侵入して暴れたといい、市消防局によると、午前7時半現在で19人が心肺停止状態となっているほか、負傷者26人が確認されている。負傷者のうち20人は重傷という。
 障害者施設で19人心肺停止、出頭の男逮捕 相模原-朝日新聞
 この件に関して、ちまちまと関連するだろう話題に関していろいろと書いていくことになると思うのですが、取り急ぎ、抑えておかなければならないポイントをまとめておくことにします。

 「この事件は防げたか?」
 このツイートは随分と批判を浴びました。指摘の中には、障害者施設には十分な警備をするだけの人員がいないというものもありました。しかし、よしんば十分な人員が割かれていても、この手の事件を防ぐのは不可能でしょう。
 そもそも、防犯対策というのは、犯人が警察に捕まりたくないと考えているということを前提にしています。裏を返せば、逮捕などクソくらえというタイプの犯行を防ぐことは非常に難しいのです。さらに言えば、命すら惜しまない犯行はもう防ぐことは到底不可能と言っていいでしょう。
 この辺の事情は、『池田小事件の与えた衝撃(神戸朝鮮高級学校事件で思い出したこと)』でも指摘したように、阪大附属池田小での事件とも共通しています。あの事件はどのように対策しても防ぐことは難しかったと思うのですが、その後、「なぜ防げなかったのか」の大合唱のもとに防犯対策は的外れな方向へ加速したと言っても過言ではありません。
 今回の事例も、障害者者施設への防犯という名の締め付けが加速する可能性がありますが、そのような対策には意味がないばかりか、防犯の名のもとに施設と社会とを断絶させる可能性もあります。
 なお石平氏は、その後謝罪しましたが、「誤解を招いて」云々という非常におざなりなものでしたし、「疑問を呈することも許されないのか」と被害者ぶる始末でした。後述するように、氏を始めとする極右論壇が障害者への差別的な言動を繰り返し、市民の感覚を麻痺させてきたことを考えれば余計に許しがたいものがあります。

 犯人は障害者か
 報道で、犯人に措置入院の経験があったことから障害者が障害者を殺害したとも言われていますが、そのような判断を軽々にすべきではないでしょう。過去に精神に変調をきたしていたとして、犯行時もそうであったということにはなりません。また、後述するような障害者へのスティグマは、異様な犯行を異常な人間の行いだと根拠なく考えてきた人々によって形作られてきました。
 報道に関しても、出頭したとはいえ容疑段階の人物のそのような過去を軽々しく報道すべきではありません。このような重大事件は裁判員裁判にかけられる可能性も高いため、裁判員への影響も考慮しなければなりません。
 また、この件をきっかけに予防拘禁と言われていた心神喪失者等医療観察法が強化されないかも不安です。犯罪は実行されて初めてその世界に犯罪として存在し得ることを考えれば、犯行を起こす前に捕まえるというコンセプトの対策自体がやはり無意味と言わざるを得ないのですが、全ての犯罪を防がないといけないといけないと考える人々にはなかなか理解されません。

 社会と障害者差別
 社会は、未だに障害者を差別し続けています。それは、犯人の思想に同調する反応が少なくないことからもわかります。日本は昔からそうだったので、この事件をもって「昨今の風潮の反映である」と論じることは不可能でしょうが、これを機に世に溢れる障害者差別への対策を本格的に実行していくのもいいでしょう。
 この事件の犯人の動機は、恐らく典型的な大量殺人犯と同様です。本人の中にある鬱屈とした感情が、何らかの影響で障害者に原因を帰属され、攻撃に繋がったと思われます。その道筋をつけた原因の少なくない部分をこの社会は負っていると言っても過言ではないでしょう。
 日本が本当に障害者を差別しているのか?に関しては、あの石原慎太郎が4期も都知事を務めたことを引き合いに出せば十分でしょう。というかあらゆる差別に関しては彼がその証拠のようなものですから。
 対策としては、ヘイトスピーチ規制法の対象を広げるのが一番簡単かつ確実でしょうか。もっとも、自民党政権下では絶対に実現しない方法ですが。

心理学デマもう2題 俺たちの麻生とディプロマミル

 流行でしょうか。それとも何かもっともらしいことを言うとき、人は素人レベルの心理学の認識を使いたがるのでしょうか。

 俺たちの麻生はオタクの味方か
 麻生太郎財務相は22日、大ヒットして社会現象となっているスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」に関し「海外での例を見ると、精神科医が対処できなかったオタク、自宅引きこもりが全部外に出てポケモンをするようになった」と発言した。
 23日から中国で開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するのを前に、成田空港で記者団に語った。人々が積極的に外出するようになる効用を説く趣旨とみられるが、ゲームに熱中している人へのやゆとも受け止められる可能性がある。
 麻生氏「引きこもりが外に出た」 ポケモンGOで発言-共同通信
 この件に関しては、いつも通りオタクの無理筋な擁護がみられますが、発言をよく読むとゲームに熱中している人というよりは言及している人すべてを揶揄している感じになっています。本当にありがとうございました。
 それはさておいて、この発言が問題なのは、記事中には書かれていないのですが、その後「よって精神科医よりも漫画の方が効果がある」と発言していることです。精神科医の治療を軽視しているのか、引きこもりの症状を軽視しているのかは不明ですが、どのみち問題でしょう。
 確かに、引きこもりの治療にポケモンGOが利用できる可能性はあります。というのも、引きこもりの原因はいくつかありますが、そのうち1つは「外に出ることと嫌なことが結びついている」ということにあります。こういうのを専門用語で「外出と嫌悪刺激に連合がある」という風な言い方をします。
 故に、治療ではこの連合を解く、つまり「外に出ても大して嫌なことは起こらない」ことをクライアントに学習させるのですが、理屈で言えば「予測される悪いことを上回るほどいいことが予測される」場合にも、この連合は解かれるかもしれません。少なくとも、外に出ない以上は連合を解くことはできないので、いいきっかけにはなるででしょう。
 しかし、この方法も万能ではありません。ポケモンに興味のある人にしか効きませんし、ポケモンの魅力が嫌悪刺激を下回ればやはり意味がありません。連合が出来ているうちに外に出て嫌なことがあれば、その連合が強化されるだけですし、やはり専門家の介入は必須です。
 こう見ると、麻生氏の発言は、引きこもりがゲームの魅力程度で解決できる問題だと考えていることに問題があると言えるでしょう。日本において引きこもり問題は重要な課題ですが、閣僚レベルがこの程度の認識では解決はまだ遠いでしょう。

 ディプロマミル心理学者のトンデモ理論
 脳梗塞といえば中高年以上の病と思いがちだが、最近20、30代に増えているという。テレビ東京アナウンサーの大橋未歩(発症時34)など、30代前半の発症例も珍しくないが、ここ数年、ゆとり世代の脳梗塞患者が目立つというのだ。
(中略)
 20代半ば~後半のゆとり世代がなぜ突然死するのか。心理学博士の鈴木丈織氏が言う。
 「ゆとり世代の特徴として、親に甘やかされてきたこと、学校の規則も緩く伸び伸び育てられてきました。ストレス耐性が身に付かなかったのです。社会に出て、上下関係や厳しい規則を持った上司、先輩とのやりとり、存在そのものがストレスになっています。同僚と比較されたり、失敗をとがめられるたびに血管の萎縮を加速させているのです」
 ストレスは、睡眠不足や偏食、過食を引き起こす。これもリスクを高める。「甘えじゃないか」と思っても、倒れられては困る。
 「ゆとり世代は、運動会などで競争を避けてきたことからも、比較された経験がありません。営業成績を同僚と比べられるのは、ストレスになる。精神論を説くのはもっての外です。逆に、競争していないから実力以上のことを望むため、仕事を頼むとき、『山田くんにならできると思うから任せるよ。困ったときは僕がバックアップするから』と委ねる姿勢が大事です」(鈴木丈織氏)
 患者数は10年で5割増 ゆとり世代で「突然死」急増のナゼ-日刊ゲンダイ
 わざわざ突っ込む必要のないくらいの文章ですが、一応。
 まず、ゆとり世代がストレスに慣れていないという指摘自体が事実に反します。確かに学校の規則は昔に比べてゆるい部分もありますが、あくまで異常な統制が廃されたにすぎません。競争に関しても、運動会での手をつないでゴールは都市伝説にすぎず、受験・就職競争は苛烈さを増すばかりです。結局のところ、世代によって違うのは受けやすストレスの種類くらいで、耐性があるかどうかは人によるのでしょう。ゆとり世代にとっては、このような記事の存在が大きなストレスです。
 脳梗塞の原因も、ストレスだけではありません。よしんばストレス耐性の低い人がいたとして、脳梗塞になるほどのストレスを受ける環境ははっきり言って異常です。ここで言及されている上司の気遣いも普通のレベルのものですし、こんなのでストレスがたまる上司の下にいる部下はさぞかし大変だろうと思いますね。

 ところで、この心理学博士鈴木某なる人物ですが、まっとうな心理学教育を受けたか怪しいところがあります。
 そもそも真っ当な教育を受けた人間がこのような主張を展開するのがおかしな話ですが、それはさておいて、鈴木氏が心理学の博士号を取得したのはUCユニオン大学というところです。ここ、どうも学位を金で売るディプロマミルで有名な大学のようです。
 なにも根拠のない話ではありません。鈴木氏の経歴を見ると1974年に東大法学部→1978年にセントトーマス大で医学博士号を取得→1982年UCユニオン大学で研究論文で心理学博士号を取得となっています。ディプロマミルは一般的に、(論文を称する)作文と金を事務所に送ることで学位を与えるという手口を取りますから、この「研究論文で」という部分は怪しさ満点です。
 また、法学のしかも学部レベルの教育を受けていない人間がたった4年でいきなり精神医学の博士号を取得できるとは思えません。医学部卒でももう少し時間がかかるでしょうし、心理学部卒が心理学で博士号を取得のもやはりもっと時間がかかります。医学博士からたった4年で心理学の博士号というのも不可能でしょう。
 ちなみに、その1年後に第7回世界精神医学学会ウィーン大会において発表云々とありますが、発表自体は学会員なら誰でもできるので、彼の理論が正しいことの証明にはなりません。論文にはならないレベルの理論に箔をつけるときによく使われる手口です。
 さらにさらに、NPO法人アティスカウンセリング協会、旧親学研究会を主宰し、理事を務めてもいます。『都知事候補たちのトンデモ心理学』でも指摘したことですが、まともな心理学者ならこんなものを推進するはずがありません。よくよく調べてみると、あっちの親学とこっちの親学は違うものみたいなんですが、トンデモな点では大差なさそうですね。

 心理学は専門的な分野のはずなんですが、いかんせん誰にでも心はあるので、みんな揃って分かった気になりがちです。そのために、知りもしないのに何かを言おうとするいっちょかみオジサンが大量に現れることになりますが、皆さんはこんなものに惑わされることなく、無視しましょう。
「え―き様の3分犯罪解説」「えーき様と罪人どものCoC」シリーズ投稿中です。http://t.co/5M9KbypdQP 自称アマチュア犯罪学者。ブログで犯罪学についてあれこれ書いております。TRPGだけやってる垢だと思ってると痛い目にあう。
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