時機を逸した感はあるのですが、大晦日にドイツで発生した集団暴行事件についてです。
 日本の報道では、この事件が移民によるものとセンセーショナルに報道されたこともあって、ネット上の記事のコメント欄(大みそかの独ケルン駅集団暴行・窃盗、被害は500件以上に-Yahoo!ニュース)を見ると、しっかり反移民的な世論形成に利用されていることがわかります。
 大晦日という時期でなければ、もっと反応は大きかったでしょう。

 日本の報道における誤り
 さて、この記事を書こうと思った理由ですが、以下のようなブログ記事の存在を知ったからです。
 ケルン集団暴行事件 日本の報道を検証する(1)
 ケルン集団暴行事件 日本の報道を検証する(2)-Fondriestのブログ
 以下続くようです。(1月28日現在4つ目の記事まで出ています。)
 ここでは、日本の報道における誤りをわかりやすく指摘しており、事件の状況を掴むのに最適です。詳しくはその記事を参照していただきたいのですが、日本の報道における基本的な誤りとしては、①犯人は1000人もいない。1000人の群衆を背景に複数の事件が起きたというだけ(なぜかBBC記事の翻訳でも丁寧に誤訳されている)。②移民排斥を恐れ報道を自主規制したわけでもない。ということをあげています。

 本当に移民は関係したか
 しかし4日に報道されたのち、このような続報も出ています。
【AFP=時事】(更新)ドイツ西部ケルン(Cologne)で新年行事中に起きた女性を狙った暴力事件について、地元ノルトラインウェストファーレン(North Rhine-Westphalia)州当局は11日、容疑者のほぼ全員が「外国出身者」だったと発表した。
 ラルフ・イエーガー(Ralf Jaeger)州内相は、事件の初期捜査で明らかになった内容を公表。「目撃者らの証言や(地元)警察の報告、連邦警察の調べによれば、一連の事件を起こした容疑者のほぼ全員が外国出身者だったことが示唆される」と述べた。この中には、最近ドイツに入国した難民も多く含まれているという。
 独ケルンの暴行事件、容疑者ほぼ全員が外国出身 州内相-Yahoo!ニュース
 これを見た人は、事件の犯人の大半が移民であるように受け止めるでしょう。現に、コメント欄ではそのような反応が見られました。しかしこのような解釈は2つの理由で早計です。
 まず第1に、容疑者はあくまで容疑者であり、犯人であると確定しているわけではないということです。移民(風の人)がこのような犯罪に関わっているというステレオタイプが、取り締まる警察の側にあれば、実際には関係していない移民も逮捕されている可能性は十分にあります。
 第2に、あくまで逮捕された人間や目撃証言に登場するのが移民だという話であり、移民ではない犯罪者が見逃されている可能性があるからです。上述のように、移民が犯罪に関わるというステレオタイプがあれば、そればかりに目が行って、ドイツ人犯罪者への注意が相対的に向かなくなるということは十分に考えられます。
 無論、これだけ大勢容疑者がいれば、移民だっていくらかは関わっているでしょうが、それをすぐさま移民の犯罪性に結び付ける議論はすべきではありません。

 移民に犯罪性があるか
 上掲記事『Fondriestのブログ』において、「レイシストによって盛んに引用されている職業デマゴーグ」とまで表現されている川口マーン惠美の記事には以下のような記述があります。
 しかし、11月にパリで起こった無差別テロの犯人8人のうち、少なくとも2人は難民としてEUに入ったことが明らかになっている。
 また、若い独身男性がこれだけ増えると、セクシャルな問題が起こるという懸念も、すでに以前から指摘されていた。
 たとえば70年代、大量の貧しい出稼ぎ外国人労働者が、狭い宿舎で暮らしていたことがあった。そのころ、多くのドイツの街に新たな売春施設ができたという。需要と供給の問題だが、性犯罪を防ぐためには有効だ。ドイツでは売春は職業として認められている。
 この解決法の是非は横に置いておくが、同じ状況が出来ようとしている今、犯罪学の学者の間には、現実問題として、性犯罪を警告している人たちがいたのだ。彼らに言わせれば、ケルンの事件は起こるべくして起きたのである。
 ドイツの「集団性犯罪」被害届は100件超!それでもなぜメディアは沈黙し続けたのか?タブー化する「難民問題」-現代ビジネス
 しかしこれは実に怪しい記述と言わざるを得ません。まともな犯罪学者なら、人種間より人種内のDNAの差の方が大きいとすら言われる現在の知見を無視して、人種や民族性と犯罪性を安直に結びつけません。
 もっとも、原典では性犯罪加害の大多数を占める男性の人口が増えること、移民が抱える貧困等の問題を放置したまま受けれることによって生じる軋轢などが下敷きにあってなされた発言なのかもしれませんが、川口が自説に都合のいいように換骨奪胎していることは間違いないでしょう。
 日本では警察OBであるというだけの、犯罪学の素人が犯罪学者面することもままありますし、ドイツでも同様であればこのようなことをいう「犯罪学者」が登場する可能性はあり得ますが。

 2016/01/28追記
 ブログ筆者であるFondriestさんからコメント欄で以下のようにご指摘を頂きましたので掲載します。
 はじめまして。
 取り上げてくださってありがとうございます。Part4をお読みになられたら、なぜ私が「職業デマゴーグ」という強い表現を使用したかご理解できるはずだと思います。
 因みに引用されているマーン記事ですが、ドイツには売春に関するきちんとした統計がないようですし、売春施設の増加を外国人労働者に帰する事はまずデマだとと思います。常識的に考えて他の社会的要因(経済発展等)の方が決定的でしょう。
 また、これまた彼女特有の曖昧な書き方ですが、ドイツで売春が合法化されたのは2002年で70年代とは無関係です。この人は万事この調子で直接の指示関係なしに情報を並列してミスリードを狙うとともに言い訳できるようにしています。
 ケルンの件について、被害届、容疑者についてのデータが出てきているので追々記事にする予定です。
 実際、Part4では川口が元のドイツ語記事を歪曲し、短い記事の中に矛盾する情報をいくつも入れるということも行っていることを指摘されています。川口はそのような記事で金を儲けているのですから「職業デマゴーグ」という評価は全く正しいわけです。レイシスト呼ばわりしないだけまだ優しいくらいです。

 ではどうすべきか
 犯罪学の基本に則って考えれば、移民の民族性や人種に犯罪の原因を求めることは不可能です。移民受け入れによって犯罪が増加したとすれば、それは単に人口の増加や、貧困など犯罪にコミットしやすい外的要因を持った人々の増加によると考える方が妥当です。
 そうはいっても、イスラムのような封建的な文化が性犯罪の原因となっていると考える人がいるかもしれません。
 この仮説の真偽は定かではありません(おそらく、さほど影響はないのではないか)が、仮にある程度正しいとしても、では犯罪に繋がるその習慣を正そうなどと短絡的に考えるのは止めるべきでしょう。
 というのも、ある程度正しいにしても、それを何の配慮もなく報じれば結局差別的な反応を引き起こすだけだからです。また、安易な「指導」は、移民に対する同化政策に繋がる恐れもあります。
 しいて、何か対策するとすれば、移民に出身国と今いる国の文化や制度面の違いを教えることで、移民たちがその国に馴染むのを手助けする、程度になると思います。