国内外からヘイトスピーチ規制法を作れ作れと言われ続け、腰が漬物石が如く重たい政権与党もついに腰を上げたようです。が、ヘイトスピーチの概念を理解できていない彼らにその規制法を作れというのは貧弱な足腰に対して荷が重すぎたようです。
 自民、公明両党は5日、特定の人種や民族に対する差別的言動を街頭で繰り返すヘイトスピーチの解消に向けた法案をまとめた。憲法が保障する表現の自由の重要性に配慮し、禁止や罰則の規定は盛り込まない理念法にとどめた。近く国会に提出する方針だ。
 自公両党は5日、与党ワーキングチーム(座長・平沢勝栄衆院議員)を国会内で開き、法案内容について合意した。法案では「不当な差別的言動は許されない」と明記。在日コリアンの排斥を主張する街頭活動が社会問題となったことから、ヘイトスピーチを「日本以外の国または地域の出身者で適法に居住するものを、排除することを扇動する不当な差別的言動」と定義した。
 ヘイトスピーチ 与党、罰則盛らず…法案提出へ-毎日新聞
 既に多くの人たちが批判しているように、この規制法におけるヘイトスピーチの定義には2つの大きな問題があります。

 「日本国以外の国または地域の出身者で」
 問題の1つは定義のこの部分です。
 ヘイトスピーチが在日コリアンに向けられることの多い現状から、このような定義になったのかもしれませんが、これはヘイトスピーチの理解としてはあまりにも狭いものと言わざるを得ません。言うまでもなく、ヘイトスピーチはLGBTやムスリムといった性的指向、宗教といった属性へも向けられるものだからです。この定義ではこれらに向けられたヘイトスピーチは規制の対象にはなりません。
 また、民族的な属性であってもアイヌのように現在は日本に含まれる地域の出身の先住民族はこの定義には含まれません。
 ですが最も懸念すべきは、下手をすると最大の焦点である在日コリアンへのヘイトスピーチも満足に規制できない可能性があるということです。
 在日コリアンでも2世3世ともなれば、その大半は日本の出身となります。つまり「日本国以外の国または地域の出身」ではないとみなされ得るのです。
 最も表立って問題化している在日コリアンへのヘイトスピーチにすら働かない規制法に何の意味があるのでしょうか。

 「適法に居住するもの」
 もう1つの問題点は、この部分です。ここでは3つの視点が抜け落ちてしまっています。
 まず、在日コリアンや外国人のヘイトスピーチの主張の大多数に共通するのが「彼らが不法滞在している」というものだという点です。これは、ネトウヨの主張する「在日特権」なるデマが在日コリアンの特別永住権をそう呼称することを中心に構成されていることからも明らかです。
 制度上適法に居住するものでも、彼らの頭の中では違法に居住するものとなっているので、この定義ではヘイトスピーチ抑止は期待できないでしょう。
 また、実際に不法滞在している(とされた)外国人へのヘイトスピーチが、排外運動において大きな役割を果たしてきたことも見落とされています。
 これまた言うまでもないことですが、滞在が合法だろうが不法だろうがヘイトスピーチの対象となっていいというわけではありません。ここまで来ると、ヘイトスピーチの基本というよりは人権思想の基本を理解できていないのではという気がしてきます。

 無い方がましな法律
 さて、ヘイトスピーチ規制法は罰則がない理念法であるため、その実効性を疑問視する声もあります。それでもなお、カウンター側が規制法の成立を求めてきたのは、たとえ理念法でも権力がその問題を感知し、ヘイトスピーチを否定する姿勢を示すことが対策として有効であると考えられているからです。
 しかし、与党の規制法案はその役割を果たすとは到底思えません。
 上で挙げたような定義の問題点は、いま日本で問題になっているヘイトスピーチの大半を見逃すものだというように集約することが出来ます。そうすれば、ヘイトスピーカーが「自分の主張は不法滞在者へ向けたものだからヘイトスピーチではない」などとつけあがるだろうことが眼に見えています。
 さらに、定義の問題点から沖縄での米軍基地反対運動への弾圧に利用されるのではないかという懸念もあります。基地の存在を否定する言説を「排除することを扇動する」と解釈することは不可能ではありませんし、現在既に沖縄で起こっている警察の弾圧の方法を見れば、法律を恣意的に解釈して利用することぐらいはやるだろという懸念が決して大げさなものではないことはわかります。
 碌に規制が出来ないどころか、レイシストにお墨付きを与え弾圧に利用できかねない法律は無い方がましと言えるでしょう。