産経新聞に以下のような記事がありました。
 働きながら技術を学ぶ「技能実習制度」で来日した外国人の失踪が昨年5800人を超え、過去最多に上ったことが30日、法務省への取材で分かった。全体の約半分が中国人で、現行制度成立後の統計によると、平成23年からの5年間で計1万人超が失踪している。多くが不法滞在となっているとみられ、国内の治安にも影響を与えかねないことから、捜査当局は警戒を強めている。
 法務省によると、昨年失踪した技能実習生は5803人で、これまで最も多かった一昨年の4847人を約千人上回った。失踪者数は23年に1534人だったが年々増加しており、5年間で4倍弱となった。
 昨年の失踪者を国別にみると、中国が3116人で最も多く、ベトナム(1705人)、ミャンマー(336人)と続いた。中国人実習生の失踪は26年には3065人で、2年連続で3千人を突破。23年から5年間の累計は1万580人となった。
 技能実習生の摘発も絶えず、26年の摘発者数は全国で961人に上り、25年の約3倍に急増。期間を越えて国内に居続ける「不法残留」や、実習以外の仕事をする「資格外活動」などの入管難民法違反罪が約4割を占める。空き巣などの窃盗罪で摘発されるケースも多い。一方で、実習生は人件費が日本人と比べて安いことから、労働条件の悪い人手不足の現場に投入されるケースが続発している。
 こうした状況の中で政府は、受け入れ企業・団体の監視態勢強化▽対象職種の介護分野への拡大▽滞在期間の延長-などを盛り込んだ外国人技能実習制度の適正化法案と入管難民法改正案を国会に提出。今月25日の衆院本会議で可決されており、今国会中に成立する見通しだ。
 消えた中国人 5年間で1万人超 昨年の失踪外国人が最多 治安に影響も-産経新聞
 いかにも産経らしいというべき、問題点がさっぱりわかっていないような記事ですが、これはある意味、治安対策で「人」ばかりを取り締まっても大した意味がないことの好例と見ることが出来ます。

 根本の原因はどこにあるか
 外国人実習生失踪の根本原因は、彼らの労働環境の劣悪さにあることは論を待たないでしょう。こんな滅茶苦茶な職場やめちまえ!というのは、過労死まで辞めずに働くよりもむしろ健全な反応であるとすらいえます。そのことを「適正化法案」として分野の拡大や期間の延長を盛り込んでしまうような政府がわかっているとは到底考えられません。労働環境の悪さ「一方」程度の言及に留める産経もわかっているかは怪しいものですが。
 1年間に5千人も現れる失踪者を減らしたければ、そもそも失踪しなければならない労働環境をどうにかするしかありません。このような人数を1人ずつ見つけて連れ戻すのは不可能でしょう。

 治安に影響があるか
 産経がこの記事を「事件・疑惑」に分類していることからも明らかなように、治安への影響を懸念する人は少なくないようです。
 しかし現状、治安への影響はごく一部でしょう。そのことは産経自身が証明してくれています。
 外国人技能実習生の失踪が過去最多を記録したことが30日、法務省への取材で判明した。特に目立つのは中国人の失踪。日本での中国人の経済活動が活発化したことで、不法滞在者の職探しが容易になったことが失踪者増を下支えしているとみられる。関係者は「失踪者の受け皿が多様化しており、中国人同士が『横の連携』を取って仕事を見つけている」と危機感を募らせる。
(中略)
 こうした状況を受け、在日中国人社会の中で、不法滞在者のためのセーフティーネットも構築されつつある。現在、顔写真貼付の必要がない国民健康保険証の貸し借りが横行。中国人実業家は「特別永住者の資格を持つ知人の料理店主は、不法滞在者に保険証を貸し出すのを商売にしている」と証言した。
 止まらぬ不法滞在者が観光客向けガイドや民泊ビジネスに…失踪最多で中国人ビジネスが拡大-産経新聞
 産経はいかにも悪いことのように書いていますが、治安面から言えばこのような事態はむしろ歓迎すべきかもしれません。政府の無能から生じた失踪者を受け入れてくれているわけですから。
 職がなくなれば、食うにやまれずといった犯罪は確かに増加するでしょう。しかし誰かが彼らを雇って生活を成り立たせてくれれば、そのような犯罪は防げます。不法と言えばそれまでですが、ただ働いているだけならば犯罪を犯されるよりだいぶましなはずです。
 どちらかと言えば、政府が自身の無為無策を棚に上げて、実習生の労働環境はそのままに不法労働の取り締まりにばかり熱心になった時にこそ、治安への悪影響を危惧すべきでしょう。飢え死にするくらいなら盗みをしようという人は必ず出てきます。

 不法滞在者増加などと煽られると、なんとかしなきゃという思いが沸いてくると思いますが、実際には彼らをコツコツ捕まえて強制送還というのはあまり現実的ではありません。こんなにわかりやすく不法滞在者になる原因があるのであれば、それをどうにかするほうが効果的だといえます。