こういうツイートを見たので、せっかくだと思い当該記事を読んでみました。
 当該記事は正論12月号に収録されている連載コラムの1つです。タイトルから察するに、アメリカに詳しい(と自称する)筆者がアメリカの事情を解説するという体のものでしょう。今回の連載では、アメリカ最高裁判事のブレッド・ガバノー氏へ持ち上がった性暴力疑惑に関して「熾烈かつ低次元の攻撃」と書いていましたが、その内容がむしろ「低次元」な、レイプ神話丸出しのものであったという有様です。

 そもそも、ガバノー氏への疑惑とは
 この問題を論じるにあたって、そもそもこのガバノー氏へ持ち上がった疑惑とは何かを押さえておく必要があります。
 カリフォルニア州の大学で心理学を教えるクリスティーン・ブラゼイ・フォード教授は、7月にカバノー氏の指名が発表されると、カリフォルニア州の民主党議員に手紙を送った。手紙の内容は、1982年にジョージタウン・プレップという名門男子校に通っていたカバノー氏(当時17歳)がパーティーでひどく酔い、自分(当時15歳)を部屋に閉じ込め、ベッドに押さえつけ、服を脱がそうとしたというものだった。声を上げようとしたら口を手で塞がれたので、危うく殺されるかと思ったという。
 部屋にはもう1人、カバノー氏の友人がおり、彼がカバノー氏の上にふざけて飛び乗った際にベッドから落ち、彼女はその隙に逃げ出したという。当初、フォード教授は匿名を強く希望していたが、まもなく名前がリークされ、9月16日付のワシントン・ポストが実名でインタビューを掲載、一夜にしてアメリカで彼女を知らない人はいない状態になった。
 2人目の告発者は、カバノー氏の承認投票が延期され、フォード教授が上院での証言に同意した直後に名乗り出た。イエール大学でカバノー氏と同級生だった女性で、1983年ごろ、パーティーで酒に酔ったカバノー氏(当時18歳)が性器を露出し、自分の顔の前に突きつけたという。「ニューヨーカー」がこの記事を公開すると、民主党はFBIによる捜査を要求(注:FBIの捜査は、大統領の要請がなければ行われない)、一方、トランプ大統領はじめ共和党幹部らは、カバノー氏への支持が変わらないことを明言、世論を二分する状態となった。
 さらに公聴会前日には、3人目の女性が出現した。高校時代、酒に酔ったカバノー氏と仲間たちが女性を酔わせたり、薬を使ったりして性的にもてあそぶ姿を何度も目撃され、それらのパーティーの一つで自分は強姦されたことすらあるという。彼女も実名を公表し、証言する意思があることを明らかにしている。
 【全米騒然】米最高裁判事候補が10代に起こした性暴力疑惑——過去をかばい合うエリート男性たち-BUSINESS INSIDER
 引用した記事にあるように、最初にガバノー氏の暴力を告発したのは大学教授のフォード氏です。その後第二、第三の告発が登場したことで紛糾することになります。
 アメリカの最高裁判事は終身制。一度承認されればずっと影響を及ぼし続けます。そして現状、最高裁判事の政治的スタンスは半々であり、もしこの承認でガバノー氏が判事になれば、保守派が多数を占めることになるので、中絶禁止法案など右派に都合がいい法律を合憲であると判断する可能性が高まります。

 連載は「疑惑」をどう書いたか
 では正論の連載で、島田氏はこの疑惑をどう書いたのでしょうか。「熾烈かつ低次元の攻撃」という書き方からも想像がつくように、基本的にこの疑惑がでたらめであるという立場で書いています。
 島田氏がこの疑惑を疑う理由の多くは、疑惑に否定的な証言が見つかったというものです。第1の疑惑にはフォード氏があげたという、その現場に居合わせた3名がいずれもガバノー氏に有利な証言をしていることから、第2の疑惑はニューヨーク・タイムズが裏付けが取れないとして記事にしなかったことから、そして第3の疑惑は他にも存在しているという被害者が告発していないことや告発者自身が元恋人へのストーカー行為で訴えられていることからそれぞれ疑惑は真実ではないと退けています。

 疑惑を「低次元」とするのは無理がある
 確かに、見開き2ページのこの短い記事を読めば、疑惑を否定する証拠ばかりでこの疑惑がとても議論に耐えうるものではないように見えるかもしれません。しかしこの記事は、疑惑の存在を支持する証拠を意図的か非意図的かはともかく排除していて、筆者の大嫌いなはずの「偏向」した書き方になっています。
【ワシントン】米連邦最高裁判事に指名されたブレット・カバノー氏(53)から性的暴行を受けたと主張しているクリスティーン・ブレイジー・フォード氏(51)は27日、米上院司法委員会で証言した。事件当時の様子をすべて覚えている訳ではないが、暴行を加えたようとした相手がカバノー氏であると「100%」確信していると語った。
(中略)
 フォード氏は助けを求めて叫ぼうとすると、カバノー氏から口をふさがれたと説明。「これが最も恐怖を感じた部分で、その後も私の人生に影響を与えた」とし、「ブレットに誤って殺されるかと思った」と述べた。
 フォード氏は民主党議員の質問に対し、その夜のことをすべて覚えていないが、カバノー氏と同氏の友人であるマーク・ジャッジ氏が部屋に連れ込んだことは確信していると答えた。その部屋で、カバノー氏はフォード氏の体をまさぐり、服を脱がせようとしたとしている。
 カバノー氏だと「100%確信」 告発女性が議会証言-Wall Street Journal
 第1の疑惑に関しては、上掲記事を見る限り、フォード氏の証言を否定している1人であろうと思われるジャッジ氏は、単なる目撃者というより共犯に近い位置を占めており、彼の証言を鵜呑みにすることはできないでしょう。
 「ニューヨーカー」は、ワシントンで名をなすようなエリート男性たちの間にある、暗黙のかばい合いの構造について、「カバノーを守るボーイズ・クラブ」と題した記事を掲載し、恵まれた環境で育った名門学校卒業の(多くは白人の)男性たちは、学生時代だけでなく、生涯にわたって互いを守り合い、支え合うのだと指摘している。そこでは、過去の愚行はお互い忘れたことにし、秘密は生涯守り合い、それぞれがもっと出世できるよう、互いに助け合い引き上げあうシステムになっているのだと。
 トランプ大統領も、一貫してカバノー氏を支持し続けている。カバノー氏への告発が次々浮上した後でも、「たぐいまれな素質を持ち、最高裁判事に値する」「私がこれまで出会った中でもっとも素晴らしい人物の一人」と誉めちぎり、「今起きていることはカバノー氏に対して最高に不当なことだ」と怒りをあらわにしていた。
 【全米騒然】米最高裁判事候補が10代に起こした性暴力疑惑——過去をかばい合うエリート男性たち-BUSINESS INSIDER
 またエリート男性が互いをかばいあう文化の存在も指摘されています。ガバノー氏が優れた人物で、疑惑を起こすような人ではないという証言はこの件に関して頻繁に登場しますが、大半が男性による証言であることはこの指摘の妥当性を示唆しているでしょう。
 この記事を執筆したローナン・ファロウ記者とジェイン・マイヤー記者は、ラミレス氏の主張を検証し裏付けるために何十人もの同級生に接触したと話した。
 うち3人の元学生が、直接的な目撃者ではないものの、当時この件についてぼかされた表現で聞いたり話したりした記憶があると証言した。
 一方、この件に関わったとされる2人の男性は、他の同級生と共にラミレス氏の主張に反論し、キャバノー氏への疑惑は「全く彼らしくない」と話した。
 米最高裁判事候補に新たな性暴力疑惑 大学時代に露出か-BBC
 第2の疑惑に関しては、上掲のように、被害者の友人がその件に関して話を聞いていることがすでに明らかになっています。

 また第3の疑惑に関しては明らかになっていないことも多いのですが、少なくとも島田氏が記事に書いたことをそのまま信用できない根拠として持ち出すことは到底できません。性暴力に関しては被害者が名乗り出ないことはまれではありません。
 米連邦最高裁判事候補のブレット・カバノー氏はエール大学時代の1985年、友人2人とコンサート帰りに学外のバーに立ち寄った際、乱闘騒ぎで警察沙汰となった。その晩にカバノー氏と一緒にいた友人の1人が明らかにした。
 それによると、3人は英国のレゲエ・バンド、UB40の公演を見た後にバーを訪れ、バンドのリードボーカルに似た男性を発見した。その男性がそのボーカルではないからじろじろ見るのはやめろと無愛想に言ったのをカバノー氏は聞き流すことができず、最初にののしった。その後、その男性も応酬したため、カバノー氏は顔面にビールを投げつけたと、元エール大バスケットボール選手で現在はノースカロライナ州立大学教授のチャールズ・ラディントン氏は述べた。この行為は、当時同大学のバスケットボールのスター選手で、後にプロバスケットボール(NBA)でプレーした別の友人クリス・ダドリー氏も巻き込んだ乱闘騒ぎを誘発し、最終的に警察に通報される事態となったという。
 ラディントン氏は9月30日の発表資料で、カバノー氏が飲酒後は頻繁に「けんか腰で好戦的になった」と述べ、先週の上院司法委員会での証言で飲酒経験についてうそをついたと指摘した。ラディントン氏はブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、バーでのこの騒動は思い出せるカバノー氏の言動で最も強烈な事例だと語った。
 最高裁判事指名のカバノー氏、学生時代にバーで乱闘騒ぎ-学友が証言-Bloomberg
 また告発者の、告発とは無関係な他の行動を理由に疑惑の存在を否定するのであれば、疑惑を向けられているガバノー氏の過去の行動を理由に、やはり疑惑は本当なのだろうと推測することも妥当であるとしなければ論理的に一貫しないはずです。しかもこの記事に関しては、ガバノー氏が委員会での証言で虚偽を述べていたことを示唆するものであり、そのことを踏まえて考えればガバノー氏の証言が信頼できないと考える方が妥当であるとすらいえるはずです。
 しかし疑惑とは別のところでの行動を理由に疑いの目を向けられるのは多くの場合告発者の側ばかりであり、これこそ「偏向」と呼ぶのが妥当な態度であろうと思われます。
 過去20年間のさまざまな学術研究によると、強姦されたという主張のうち、偽りだったのはわずか2〜10%だ(フォード教授の弁護士は、被害内容は強姦未遂だったと位置づけている)。
(中略)
 虚偽の強姦告発が原因で、有罪となったり冤罪になったりするのは非常にまれだ。
 米ニュースメディアのクオーツに掲載された、サンドラ・ニューマン氏の記事が役に立つ。それによると、英内務省が2000年代初めに行った調査では、虚偽の主張だと分類された216件のうち、逮捕に至ったのはわずか6件だった。
(中略)
 サンドラ・ニューマン氏によると、虚偽の主張をする最も一般的なタイプは、何か困った状態から逃れようとする10代少女だという点で、あらゆる学術研究は一致している。
 多くの場合、「強姦」未遂を通報するのは少女の親だ。門限に間に合わなかったレベルのばかばかしい理由も、襲われたとうそをつく動機につながると、複数の研究は指摘する。
 米国立衛生研究所の2017年報告によると、虚偽の主張をする人の「主な動機は、感情的な利益だ。虚偽の主張はほとんどが、不倫や学校のずる休みなど、自分の別の行動をごまかすため」、うそをつくのだという。
 女性は強姦被害についてよく嘘をつくのか-BBC
 ちなみに、島田氏はこう言っていますが、女性が強姦被害を捏造するのかについては上掲の記事が役立ちます。このプロファイルに当てはまらない告発者が、何らかの利益のための、バッシングを覚悟してまで捏造したとは到底考えられないでしょう。
 ていうか「ソースがラジオ」ってどうよ。

 もちろん、これらの疑惑は「人違い」という可能性も否定できず、共和党はその方向で片付けようとしました。しかし少なくとも、これらの疑惑が捏造であると考える証拠はないか、あるいは証拠としてあげられるものは些細なものであり同じ基準をガバノー氏に適用すれば彼こそが実に疑わしいということになるものばかりです。
 島田氏は自身のツイッターで、5回つぶやけば2回は登場しようかという頻度で「偏向」という言葉を使うくらい偏向報道が大嫌いなようですが、しかしこの記事に関して言えば彼は明らかに疑惑がでたらめだという方向へ「偏向」しています。
 偏向報道と盛んに口にする人間が、実際自分が情報を発する立場になるとどうなるかよくわかる恒例です。