産経新聞の紙面広告にSAPIO12月号のものがあり、どうやら外国人犯罪について触れるようなので読んでみました。一読した感想としてはヘイト雑誌にしては穏当な方で、だけれどもまともなメディアとは思えない記事であるのは事実という半端さだったので、そりゃ不定期刊にもなるわという感じでした。
 気になった記事についてざっと見ていきましょう

 闇事件ファイル 警察がアピールする「外国人犯罪は横ばい」はまったく信用できない
 記事の筆者である清水真氏は、もともと警察の通訳捜査官だったようです。外国人犯罪についてのデマで食っている坂東といい(『【書評】在日特権と犯罪』『坂東忠信がまたデマ本を出すようなので彼の過去のデマを蒸し返す』参照)、警察には極右雑誌で儲ける人しかいないのかとまず頭を抱えるところです。
 記事の内容としては、警察の統計資料では外国人犯罪の検挙数が横ばいだが、それには表に出ない暗数があるから実際は本当にそうかわからないというものです。特集全体を見れば明らかに「本当は増えているのだ!」と言いたいのでしょうが、しかし記事でははっきり明言しないあたり、ついうっかり「日本の犯罪の半数は外国人犯罪なのだ!」(『【書評】通訳捜査官 中国人犯罪者との闘い2920日』参照)と書いて馬脚を露した坂東より慎重な方のようです。

 さて、その外国人犯罪の暗数ですが、実は入管と万引きGメンが生み出しているというのが筆者の主張です。入管は不法滞在の外国人を強制送還するのですが、もしこの外国人が発覚していない犯罪を犯していればそれは調べられることなく暗数になってしまいます。また万引きGメンは、外国人の万引き犯を言葉が通じないといった理由で、お金を払うそぶりがあればうやむやにしてしまうだろう指摘しています。それぞれの指摘はある程度の妥当性はあるでしょう。
 しかし問題は、そのような暗数がどの程度あるか、警察の統計の信頼性を毀損する規模で存在するのかという議論を一切していない点です。つまりほんのまれな事例として筆者の指摘するようなものがあるのか、かなり頻繁な事例なのか判断がつかないのです。
 もちろん、暗数なのでどの程度あるかなんてわかりませんが、しかし傍証となる何らかのデータは示せるでしょう。性犯罪であれば、通報率が低いことをもって背後に莫大な暗数があることを主張することができます。

 私の予想では、どちらの事例もさほど多くないのではないかと予想しています。警察に見つかりそうにないけど入管に見つかるという事態、あるいは強制送還と刑務所を比較して前者を選ぶ事例がそう頻発するとは思えず、また万引きに関しても外国人が厄介ならむしろ警察に投げる動機のほうが強くなるだろうし、少なくとも日本人の万引き犯に比べて通報をためらう確たる理由もなかろうと思われるからです。これは無論、推測ですが。

 夜遊びのマナー 中国人の“日本人女性爆買い”ご乱行現場「300万円払うから蒼井そらに会わせて」
 「中国人マナー悪い」ネタの極北といったところでしょうか。性風俗におけるマナーの悪さをつらつらと書いています。もちろん、現場で働くセックスワーカーを思えばこうした問題は解決されるべきですが、しかし記事を書きそして読んでいるであろう年代の男性が自身を棚に上げて人を馬鹿にできる立場ではないのは確かでしょう。かつての「買春旅行」を考えれば。
 そういえば東南アジアの風俗店で勝手に写真を撮った写真家もいましたし、セクハラ騒動などを見ても(『世界に出荷される保守政治家の無知と無恥』参照)昔の話ではないでしょうけど。

 この件で他人事のようにため息をつけるのは、せいぜいバブル期に物心ついていなかった世代くらいから。あとはかつてのツケが回ってきたような感じです。ツケを払わされているのがツケた当人ではなく、その人たちは中韓叩きに躍起というのがなんとも救いがないのですが。

 脳科学 若者が“痛い人”認定するオッサンの特徴とは
 さて、最後は外国人犯罪とは全然関係ないのですが、脳科学の話です。筆者は最近本を出しまくっている脳科学の中野信子氏で、なんとなく胡散臭いなと思っていましたが、九段新報には初登場です。そして記事の内容からやっぱり印象は間違ってなかったんだ!って感じになりました。

 記事は要するに、偉そうにするおっさんがむかつくという内容だけなのですが、問題はそのむかつく理由を脳科学で説明するといいながら全然脳科学でも何でもないところです。
 筆者はおっさんが偉そうにする理由をサルにおけるマウンティングであると説明するのですが、それは生物学とか進化心理学の話です。動物における話を人間に無批判に当てはめる姿勢はまさにという感じですが、それはさておいて。
 また記事の途中では「集団極性化」という概念も登場するのですが、それは脳科学ではなく社会心理学です。

 私は常々、脳科学者の中には人間にかかわる学問のすべてが脳科学であるかのようにふるまい、脳科学こそが最強の学問であり、それ以外の学問の存在が目に入っていない人がいると思っていたのですが、筆者はまさにその典型というべきでしょう。ほかの学問の知見を脳科学だと偽る収奪も許せませんが、その収奪をする目的がヘイト雑誌のページ埋めというのは落涙を禁じえません。
 私に言わせれば、脳部位の活性化と人間の思考言動が対応していることを真に示せていない脳科学はまだまだ発展途上の学問なのですが。
 ちなみに氏の著作の中には「サイコパス」や「シャーデンフロイデ」といった概念を扱うものがあるのですが、これらも元を辿れば心理学的な概念です。脳科学の視点から研究されることもありますが、しかし論文を見る限り筆者がその専門だとは到底思えず、なぜ書いているのはさっぱりわかりません。

 わざわざ読んだ割には内容の薄い記事ばかりでしたが、ヘイト方向に内容が厚くても困るのでこれくらいでいいのかもしれません。