厚生労働省が都道府県と政令市を通じ、毎年六月三十日時点の全国の精神科医療機関の実態を把握する目的で行っている「精神保健福祉資料(630調査)」を、非公開とする都道府県が相次いでいる。従来、同調査を基に情報提供してきた支援団体は「病院選びができない」と反発している。同調査をめぐっては、厚労省が昨年七月、各都道府県などに暗に非公開を求めるような内容の文書を送付しており、自治体の情報公開条例の運用基準が、国の意向で変更された可能性もある。 (石井紀代美、中沢佳子)
 精神科医療機関調査が非公開に 「病院選びできぬ」当事者団体が反発-東京新聞
 今回の記事評はこれです。東京新聞の記事を見るまで精神保健福祉資料(630調査)というものがあることを、不勉強で知りませんでした。

 そもそも630調査とは
 そもそも630調査とは何でしょうか。これは厚生労働省が実施している調査で、平たく言うと各自治体にある精神病院の治療実態をまとめたものです。長期入院がどれくらいあるか、身体拘束がどの程度あるかを調べることができ、当事者団体がこの結果をまとめて配布、精神病院選びの1つの基準として平成28年まで使われてきました。

 しかし記事にあるように、調査結果が非公開となる、あるいは重要な結果を黒塗りにしていわゆる「のり弁」のような状態で開示されるという事例が相次いでいます。これでは病院の情報が全く分かりません。
 このような事態になった理由は、調査方法の変更にあるといわれています。調査方法の変更に伴って調査結果が「個人情報」という扱いになり、情報を開示できないというのがそれぞれの自治体の主張です。

 ですが自治体の中には従来通り結果を開示しているところもありますし、個人情報に抵触しない形にデータを加工して開示する方法もあるはずです。そのような工夫も一切なしに全面的に非開示という手段をとるのは、当事者の利益にかないません。

 なぜ非開示となったのか
 ではなぜ、このような処置が急に行われたのでしょうか。記事は日本精神科病院協会の会長、山崎學氏が630調査の公開を批判したことがきっかけではないかと指摘しています。

 日精協はその名の通り、日本の精神病院が所属する団体ですが、その言動に問題のある組織でもあります。
 引用したのは日本精神科病院協会の協会誌巻頭言です。端的に言えば、精神疾患の専門家が自身の専門分野に関して、ネット上の風説を鵜呑みにし専門的な知見を軽視するという考え難い状況です。
 しかも、巻頭言自体が別の医師の朝礼を引いてきた形式なので、複数の専門家が同じ愚行を犯していることになります。
(中略)
 歴史上、精神疾患はスティグマとして扱われることが多くありました。火病ももちろんそうですし、ヒステリーもかつては女性の非論理性を表す現象と捉えられていました。また、昨今では統合失調症やパーソナリティ障害が同じような状態にあると言えるでしょう。
 精神科医であれば、そのような歴史を把握し、かつ現在の状況を理解しておくことは当然です。弁護士が法律の改正状況を把握するのと同じくらい、必要最小限の職責であるといえます。
 にもかかわらずこの医師たちは、それを怠るばかりか、DSMに一瞬目を通せばわかることも確認せずに、協会誌とネット上で誤りをばらまくという失態を演じました。しかも掲載から1月は経とうとしているのに、撤回も訂正もしない始末であり、医師個人の素質というよりは組織の体質を疑わざるを得ません。
 巻頭言では、他に中国とインドの例を引いてその国での精神疾患に対する偏見を嘆いていますが、自分自身で偏見をばらまいておいてどの口がそれを言うのだと言わざるを得ません。
 精神科医が「火病」をスティグマに使うとは……。-九段新報
 例えば本ブログではかつて、所属医師が「火病」について、DSMを引用しながら誤った解説を加えたうえでそれを民族に対するスティグマとして使用し論じていた問題を取り上げました。精神病診断における周囲への悪影響に関して人一倍気を付けるべき医師が、精神疾患をむしろ積極的に特定集団を貶めるための道具として、デマを交えて使用するということはあってはなりませんが、日精協はこの問題について取り立てて責任を取った形跡がありません。
 全国の精神科病院でつくる「日本精神科病院協会」の山崎学会長が、協会の機関誌に「(患者への対応のため)精神科医に拳銃を持たせてくれ」という部下の医師の発言を引用して載せていたことが21日、分かった。患者団体などでつくる「精神科医療の身体拘束を考える会」が問題視する集会を国会内で開催。「日本の精神科医療のトップが患者を危険な存在と差別し、許されない」と批判が出ている。
 山崎氏は機関誌の「協会雑誌」5月号の巻頭言で、自身が理事長を務める群馬県高崎市の病院医師が話した内容を紹介した。
 「精神科医に拳銃を」会長が引用 病院団体機関誌で-福井新聞
 また会長自身に関しても、「精神科医に拳銃を持たせてくれ」という発言を肯定的に取り上げるといった問題がありました。精神科医が精神疾患患者に対して典型的な偏見を持った目で見ることは当然、許されることではありません。

 そして重要なことですが、日精協会長の山崎氏は安倍首相と非常に近しい人物でもあります。
 たとえば、首相動静にも度々登場する「晋精会」なる精神科医らでつくる首相の後援会があるのだが、この晋精会は事実上、山崎氏が会長をつとめる日精協によるものだといわれている。晋精会は毎年のように安倍首相との懇親会を開いている。
 そもそも、日精協はこれまで、傘下の政治団体「日本精神科病院協会政治連盟」を通じ、自民党議員を中心に多額の政治献金を行なってきた。2003年には、過去5年で総額約1億5000万円もの大金が動いていたことが週刊誌沙汰となり、政治問題となっている。安倍首相も日精協政治連盟から献金を受けた政治家のひとりだ。
 「精神科医に拳銃を持たせてくれ」で批判殺到のトンデモ精神科医は“アベ友”だった! 安倍首相とゴルフや会食、叙勲も-リテラ
 今回の件が、安倍首相の権威に忖度する結果として起こったかどうかはわかりませんが、山崎氏の権力がこの件へ悪影響を与えているのは間違いないでしょう。

 今回の件は、山崎氏がかつての暴言のときに失脚していればもしかしたらもう少しましな展開を見せていたかもしれません。そう考えると、権力者の暴言にならされてしまった現状の悪影響をひしひしと感じます。