就職活動でOB訪問に来た女子大学生への強制わいせつ容疑で2月18日、27歳の男性社員が逮捕された大手ゼネコン「大林組」(東京都港区)。同社の現役幹部社員が2017年春、就職活動をしていた女子大学生にリクルーターとして面会し、不適切な行為を働いていたことが「週刊文春」の取材で分かった。
 その幹部社員とは、東北地方の工事事務所で所長を務めていた高橋修一氏(仮名)。2017年4月、リクルーターという立場にもかかわらず、女子大学生の斉藤絵美さん(仮名)を酩酊させ、ビジネスホテルに連れ込んで性行為に及んでいた。斉藤さんは当時、大林組の役員面接の直前だった。まもなく内定を得た斉藤さんだったが、高橋氏の誘いを断ることができず、その後も関係を持ち続けていたという。
(中略)
 このコメントの翌日、斉藤さんは男性の人事部長らから約3時間にわたって経緯を聴取された。その際、人事部長は「高橋の方が立場が弱い」「高橋には妻子がいて、役職もある。失うものが多いんだ」などと斉藤さんを責めるような発言をしたという。
 採用活動という職務で、幹部社員による不適切な行為が発覚したことで、「女性が働きやすい会社」を掲げてきた大林組の企業体質が問われることになりそうだ。
 大林組 現役幹部のリクルーターが就活女子大生と“不適切な関係”-文春オンライン
 この件です。週刊文春3月14日号です。
 記事を読む限り、内定を与えることのできるという権力をかさに着た典型的なセクハラ・性犯罪の事案であると思われます。
 しかし一方で、明確な暴力や脅迫を用いていないことから強制性交等罪に問うことは難しいのではないかという気もします。性犯罪の暴行脅迫要件の障害度合いをひしひしと感じさせられます。欧米などでは暴行脅迫要件を完全に撤廃しないながらも、不意打ちや権力差を用いて性行為を強要することもレイプに含めるように立法しているケースもあるようなので、日本もそれに倣うべきでしょう。

 売り手市場という欺瞞
 ところで、今回のような事例は「就活が空前の売り手市場である」という一般的に抱かれている認識が幻想であることを強く示唆しています。なぜなら、本当に売り手市場であればこの被害者は被害にあった時点でさっさと大林組へ見切りをつけ、別の会社へと行けたはずだからです。それができなかったのはあとで述べるように、売り手市場という就活事情が実際には事実無根であることが一因です。

 そもそも、なぜかはしりませんが報道でも「売り手市場」という言葉は馬鹿の一つ覚えかのように連呼されています。ざっと調べた限りでも2018年の記事で『就活、空前の売り手市場なのに内定ゼロ…なぜ?-読売新聞』『超売り手市場の就活にナメた態度で挑む学生たち-日刊SPA!』『就活生は「売り手市場」を勘違いしていないか-東洋経済オンライン』などが見つかります。実際に、2018年に卒業する大学生の内定率は過去最高だったので、内定率が高かったのは事実であるようです。

 しかし内定率が高いことは、必ずしも「売り手市場」であることに直結しません。実質賃金の低下を見ればわかるように、現在は「働けど暮らしは楽にならず」という状態です。つまり「内定が出た?だからどうした金がない」という状態というわけです。
 このような状況では、よりよい職を求めて就活生は大企業への就職を望み、激しい競争になります。大企業というあたりを引けなければ低賃金ブラックという外れを引く羽目になります。高い内定率はあくまで見せかけであり、安定した職という少ない椅子を求める競争は未だに「買い手市場」なのです。

 この記事で被害を訴えた女性が、被害を受けつつも大林組を見限れなかった一因にはこのような背景もあるのだろうと考えられます。安定した希望の職を得るためには厳しい競争に打ち勝たなければならず、そのためにはチャンスはできるだけものにしたい。ましてや採用担当者の機嫌を損ねるなどあってはならないことだと、「好景気」「売り手市場」とは裏腹に就活生は追い詰められています。

 このような「売り手市場」の欺瞞は、記事中で加害者本人から語られる言い訳としても現れています。加害者は文春の取材に「ありえない」「お願いしてきていただいている立場なのに」と述べています。採用を左右する権力があることを意識しているのかは不明ですが、どちらにせよ悪質です。

 強弱の逆転
 もう1つ興味深いのは、被害者が受けたという会社側の聴取です。ここでは幹部社員で採用担当である加害者がなぜか「立場が弱い」ことにされてしまい、被害者が責められています。しかしこのような認識は、セクハラ対応では日常茶飯事でしょう。

 加害者が立場が弱いとされる理由は「妻子がいること」です。つまり守るものが多いから弱いという理屈ですが、ここでは彼が幹部社員という責任ある立場であることがオミットされています。また妻子がいるならば余計にこのような問題を起こしてはならない責任があるはずですが、本来責任が重くなるはずの要因が逆転して責任を軽くする方向へ機能しているのは実に興味深い現象といえます。
 これは裏を返せば、何も持っていない新入社員である被害者が、本来は弱い立場であるはずなのに「守るものがない」ということで強いと認定されているということでもあります。そしてその「守るもの」はあくまで会社側の恣意的な判断であり、被害者の事情は実際には一切考慮されていません。

 よく日本社会は「権力者に甘く、弱者に厳しい」と言われています。そのような認識になってしまう1つの要因が、ここにあるような「権力者の持つものを責任を重くするものではなく、責任を減じるものとして扱う」態度にあるのかもしれません。「妻子がいる」というのはその典型でしょう。