今回書評するのは、真っ赤な表紙が印象的な1冊です。
 本邦におけるテロリズムの議論は、どこか上滑りな印象がありました。そもそも、本邦は専門家の話をまともに聞かないまま政治をやりがちなうえ、テロを呼べる事件もあまり起こらないままに対策だけが必死こいて語られるというアンバランスさがその原因でしょう。

 本書は、心理学の知見を中心にテロリズムという現象を概観し、テロ対策に必要な知識を提供して地に足のついた議論を進めるために必要なものです。

 テロリズムは「特殊な」現象ではない
 特に注目なのは、本書の前半、社会心理学の知見からテロリズムを説明する部分です。
 テロリストというと、一般には「精神のおかしくなった狂信者」とか「貧困にあえぐ復讐者」のような印象を持つかもしれません。しかし、大半のテロリストはそうではないことを先行研究は明らかにしています。

 テロリストが精神障害を持っていることは少なく、また学歴も低くありません。そのような人がなぜ、テロ行為に走るのでしょうか。

 本書の説明では、集団間代理報復の概念が使われています。例えば、卵が先か鶏が先かですが、アメリカが中東のテロ組織を攻撃したとしましょう。その攻撃では多くの場合、民間人が巻き込まれたりします。また、欧米先進国ではテロリストとして扱われている人物も、その人物の地元では英雄視されていることが少なくありません。

 そういう人物が攻撃されたりすれば、その集団は「我々が被害を受けた」と思うでしょう。そうして攻撃を仕掛けた集団を報復するわけですが、その被害を受けるのは攻撃した軍隊ではなくて市民です。すると今度は、市民が「被害を受けた」とテロリストへの攻撃を支持することになります。以下無限ループ。

 重要なのは、少なくとも現象的には、市民がテロリストへの攻撃を支持することと、テロリストが攻撃をすることが等価になっているということです。テロリズムというラベルを貼っているからそれが特殊な現象に見えますが、背景にあるのは我々と同じような心理メカニズムに過ぎないのです。

 社会的支配志向性と攻撃への懸念
 とはいえ、外集団攻撃は滅多に起こるものでもないことは社会心理学の実験が明らかにしています。自身の所属する内集団を優位に立たせたいのであれば内集団をひいきすれば済む話ですし、わざわざコストをかけて外集団を攻撃する必要はないからです。

 外集団を攻撃するためには、それを肯定するような考え方が必要です。本書で注目されている要素として、社会的支配志向性(SDO)と攻撃への懸念です。

 前者は近年注目されている要素です。「社会は支配するのに相応しい種類の人が支配すべき」という、平等の観点と相いれないような考え方への支持の度合いを指します。この考え方は格差を拡大させるような政策や人種差別への支持と関連することが明らかになっていますが、同時にテロリズムへの支持にも関係することが分かっています。

 ただし、SDOとテロリズム支持との関係は、テロリズムへの背景によって異なります。中東の人々は、SDOが低いと自国のテロリストが欧米を攻撃するのを支持します。これは中東のテロリズムが「欧米の支配への反発」という文脈を持つため、支配を嫌う考え方と合致するからでしょう。逆に、欧米の人々は、SDOが高いと自国の軍隊がテロリストを攻撃するのを支持します。

 もう1つの要素は「攻撃への懸念」です。ある実験では、先制攻撃ゲームというパラダイムを用いてこのことを明らかにしています。先制攻撃ゲームでは、1つのボタンと2人の参加者を使い、どちらかが赤いボタンを押すと相手の報酬を大幅に減らせるが、ボタンは1回しか押せないという状況でどのように行動するかを検討します。

 その結果、参加者の半数がボタンを押しました。一方、ボタンを押す権利が1人の参加者にしかない場合(つまり相手からは攻撃されない場合)にはほとんどの人がボタンを押しませんでした。お互いの報酬がわずかに減るだけのボタンを用意すると、大半がそちらを押すようになります。

 つまり、過剰とも思える攻撃は、相手から攻撃されるかもしれないという懸念から生じているというわけです。

 こう考えると、近年多くの為政者が、自身の攻撃の正当化のために相手からの攻撃の懸念を持ち出していることの罪深さがわかるというものです。もちろん、本邦の首相もその例には漏れませんが……あの人は同じ行為でも攻撃だと言ったり言わなかったりしますからね……。

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