今回はこの分厚い一冊を。かなり網羅的に書かれていて参考になりますが、内容が多すぎるという気も。「被害者学的視点から」と銘打たれていますが、その辺もあまりピンとこなかったような。

 ストーカー規制法のその後
 筆者は個人的に、このブログを始めた当初はストーカー規制法について追っていました。ですが時間が経つにつれ、ほかの様々な話題に触れていく一方でストーカーの話題は扱わなくなっていきました。

 本書を読んで、久々にストーカーに関して最新の動向を知ることができました。

 まず、ストーカー規制法は2度の改正を経ています。2013年の第一次改正でメールの連続した送信が規制の対象となり、2016年の第二次改正ではSNSでのやり取りも規制の対象となりました。

 はっきり言えば、少なくともメールの規制は規制法制定当初から盛り込むべき内容であり、SNS対策についても遅きに失したと言わざるを得ないでしょう。それでも、現在はSNSにまで規制は及んでいます。

 しかし、当然ですが、それですべてが解決するわけではありません。

 著者が指摘するように、ストーカー規制法最大の問題点は、恋愛感情に基づく行為のみを規制の対象にしていることです。例えば元夫が元妻に「子供に会わせろ!」と付きまとう行為は規制の対象とならない可能性があります。

 またストーカーには、恋愛感情とは関係なく一種の逆恨みを動機として犯行に及ぶ者がいることもよく知られています。海外では、一目見ただけの相手に恨みを募らせてストーキングを始めた事例もあるようですから。

 どのような動機であれ、被害者の負担に差異はありません。また、不明瞭な内心を根拠とする規制よりも、外形上の行動に基づいて規制を行う方が、恣意的な運用を防ぐことにもつながるでしょう。次回の改正では、この不合理な限定を排さなければなりません。

 もう1つ問題は、規制法における禁止命令を出す主体が、捜査を行う主体である警察行政と共通している点です。重大なストーカーの多くは、警察の怠慢から発生している状況がありますが、接近禁止命令などを言い渡すのが警察では、警察の怠業の歯止めとならず、かえって拍車をかける結果になるでしょう。諸外国と同様に、禁止命令は裁判所が出し、それに違反した場合警察が捜査するという形であるべきです。

 DVのサイクル
 もう1つ、これは昨年のDVに関連する裁判でも話題になりましたが、本書では「暴力のサイクル」や「権力と支配の車輪」も取り上げられています。

 DV理解において重要なのは、DVが単に配偶者間の暴力であるにとどまらず、配偶者に対する「支配」であるという点でしょう。

 近年は注目されてきましたが、夫婦間における、特に夫側から妻側への威圧、強制、命令がごとき「些細な」問題は、DVとは捉えられてこなかったでしょう。
 しかし、実際にはそうではなく、そうした配偶者を軽視するような言動もまた、DVの無視できない一側面なのです。

 このようなDVが発生する原因は、当然というべきでしょうが、加害者の中にある男性中心的な思考です。妻は夫の所有物であり、命令に従って当然という発想がある限り、加害者の加害がやむことはないでしょう。

 最近ではこのような考え方を改めるフェミニズムカウンセリングというものも行われているようです。

 本書の議論はとにかく多岐にわたり、日本の動向から国際的な動向まで最新の動きを踏まえている労作です。この一冊を得ておくだけでも性暴力に関する理解度が違ってくるでしょう。

 秋山千明 (2019). 女性に対する暴力 被害者学的視点から 尚学社