九段新報

犯罪学オタク、新橋九段によるブログです。 日常の出来事から世間を騒がすニュースまで犯罪学のフィルターを通してみていきます。

サイバー犯罪

欲しいものリストを公開しています。
https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls/1CJYO87ZW0UPM?&sort=default
詳しくは以下の記事をご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/kudan9/archives/55214570.html

【書評】ルポ 平成ネット犯罪

 今回は最近出版された、ネット犯罪系のルポタージュです。
 まぁ、ルポと銘打ってありますがひとつの犯罪を掘り下げたものではなく著者のいままでの取材を大雑把にまとめネット関連の犯罪を概観するようなもので、歴史の一覧には便利ですが1つ1つの事件を知るには表層的過ぎて役に立たないなという印象です。

 JKビジネスで働く女子高校生の「リアリティ」を称揚しがちな男性著者
 さて、本書で気になった点をいくつか。まずは、前半で記述されているJKビジネスについてです。

 JKビジネスが買春の温床になるというのはよく聞く話ですが、著者は「JKビジネスを経験したが買春までいかなかった」事例を挙げて、必ずしもそうなるわけではないことを指摘します。

 この手の語り方には既視感があります。かつて『「身体を売る彼女たち」の事情―自立と依存の性風俗』を書評したときに触れた坂爪慎吾氏であったり、あるいは「女子高校生の性事情を語るおじさん」の開祖であるところの宮台真司あたりの語り方を同じです。

 しかし実際には、『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』で仁藤夢乃氏が指摘しているように、JKビジネスは明らかに買春の温床となっています。むろん、JKビジネスにかかわる女子高生は多く、探せば買春にかかわる前に辞めた人も見つかることはあるでしょうが、それを抜き出して拡大する分析が正しいとは思えません。

 このような、主に男性著者によって語られる「JKビジネス=買春温床説への否定」と、仁藤氏のようなとりわけ女性の著者、活動家によって指摘される「JKビジネス=買春温床説」との乖離はどこから来るのでしょうか。

 私の推測ですが、男性著者が都合のいい事例のピックアップを行っているという説明以外に考えられる理由がいくつかあります。

 その1つが、「温床」という言葉の範囲です。おそらく男性著者の多くが、「温床」というとき、JKビジネスの場面で直に買春を持ち掛けられるような状況のみを想定して「温床」と呼んでいるのでしょう。ゆえに、JKビジネスをしながらそういう経験がなかったという事例を見つけると「温床とは限らない!」という反応になるのだろうと思われます。

 一方、JKビジネスを問題視する側はより広い範囲で「温床」と言っているではなかろうかと思います。仁藤氏の著作を読めばわかるように、氏は「JKビジネスを踏み台にして(売り手も買い手も)性風俗につながる」ことまでひっくるめて温床と呼んでいるようです。JKビジネスの場面でそういう勧誘がなかったとしても、JKビジネスにかかわったことで買春への抵抗感が薄くなったり、JKビジネスの経営者からそういう仕事に勧誘されることもまた「温床」と呼ぶべきです。

 加えて言えば、「買春」の範囲も双方で大きく食い違っているように見えます。
 本書ではJKビジネスの事例、あるいはJKビジネス以前の性風俗の形態として、JKリフレ(女子高校生による手足のマッサージ)や覗き部屋を紹介しています。著者の書きぶりでは、これらの形態は買春とは距離のあるものとして区別されています。

 確かに、狭義の意味ではこれらの行為は買春とは言えないでしょう。しかし、明らかに買春に「類似した」行為であることも確かです。これらを買春とは異なるもの、さほど問題のないものとして認識することは現実に対して不正確といえます。

 まぁ、これらの類似行為まで買春と言ってしまうと用語に混乱が生じるのは確かですが、JKビジネスを問題する人々はこのような行為まで射程に入れて「温床」と言っているのだろうし、そちらのほうが分析として正確であると考えられます。

 ネット規制の親玉:高市早苗
 さて、気になった点のもう1つです。
 いまやお馴染みとなった青少年へのネット規制、フィルタリングサービスなどですが、導入当初はいろいろともめたようです。

 特にもめたのが、どんなサイトをブロックするかという問題です。2005年ごろ、自民党の内閣部会と青少年特別委員会は「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案」を審議していました。

 ここで、総務大臣が指針を作るべきという考え方を打ち出したのが高市早苗氏でした。総務大臣がブロックするべきサイトを決定するというのは明確な国家介入であり、当時自民党内でも意見が分かれたようです。

 高市氏といえば、総務大臣だった2016年に民放報道の電波停止を示唆する発言をしたことで批判された人物です。情報の流通に国家が介入することに抵抗を覚えない人物であることが、ここからもはっきりします。

 結局、総務大臣の作った指針はあくまで「例示」ということになりました。ですが、スマートフォンの拡大によってフィルタリングは有名無実と化しているのが現実です。

 ネットのツールというのは、知識として知っていても実際に使ってみないと、その「肌感覚」はわからないものです。それがネット犯罪の対策を困難なものにしているのは確かでしょう。

 渋井哲也 (2019). ルポ 平成ネット犯罪 筑摩書房


【書評】闇ウェブ

 表現の自由議論に巻き込まれた影響もあって、読了から日が開いてしまいましたが書評の時間です。
 今回はkindleのセールで買った電子書籍から1冊。これも『Kampa!を使い始めました』で募っていたカンパから購入したものです。電子書籍はだいたいそう。
 著者の一人が殺害されたことで話題が持ち上がったものでもあります。

 ダークウェブとは何か
 本書が取り扱っているのは主にダークウェブといわれる、一般人が閲覧していない/できないウェブサイトのことです。
 ダークウェブなんて言い方をするといささか大仰ですが、我々の身の回りには「普通なら閲覧できないページ」はごろごろしています。例えばいままさに私が記事を書いている編集画面もそうですし、ニコニコ動画やカクヨムのようなアカウントを作って利用するサイトのマイページもそうです。こういうページは普通に検索しても出てきません。

 これらは通常、プライバシーの観点から閲覧できないようになっているものですが、しかしサイトの中には「警察にばれるとまずいから」という理由で閲覧できないようになっているサイトもあります。たいていの場合ダークウェブといえばこちらを指すでしょう。
 しかし技術的な面も案外わかりやすく、要するに閲覧にはグーグルクロームやインターネットエクスプローラーとは違った、それ専用のブラウザが必要というだけです。これらのブラウザが自動車であれば、専用ブラウザは地下鉄の車両といったところでしょうか。道が違うので乗り物が違えばそこを走れないのは当然と。
 ただ簡単とはいっても、そのための情報を得るのはなかなかに難しく、しかもウイルスなどのリスクもあるので興味本位での閲覧はやめるべきでしょう。

 ダークウェブで何をしているか
 では、そのようなダークウェブでは何をしているのでしょうか。答えは「なんでも」です。
 最大手はやはり違法薬物の取引ですが、ほかにも児童ポルノや重火器の売買、はては殺人の請負などありとあらゆることを売り買いしているのがダークウェブです。もっとも殺人請負はたいていの場合詐欺で、依頼人が金を騙し取られるのがオチのようですが。しかしダークウェブ内の薬物売買の大手サイトの運営者が逮捕されたとき、捜査にかかわっていた捜査員が運営者から金銭を騙し取り、自分の懐に入れていたというスキャンダルが発覚するなど、まさになんでもありの様相を呈しています。

 そのようなやり取りを可能にしているのが、ビットコインを始めとする仮想通貨です。扱いやすく送金に実名が不要、国をまたいでも面倒なレート換算は一切なしとくれば確かに便利でしょう。一般人の生活に便利だということは犯罪者にとっても便利ということです。

 個人情報流出がなぜやばいのか
 ダークウェブから多少話はそれますが、本書は度重なる個人情報の流出にも警鐘を鳴らしています。とは言っても、ダークウェブで主に取引される情報の1つが個人情報なので全く無関係ではないのですが。
 個人情報の流出、とは言ってもその危険性はなかなかピンときにくいものがあります。実際、どこかで流出させた覚えもないのに迷惑メールが怒涛の勢いで来るとかしょっちゅうなので、危機感が薄れているというのも一因でしょう。しかし今後さらに情報化が進み、企業が個人情報をより多く蓄えるようになれば危険性が増す可能性もあります。

 というのも、犯罪者が手に入れる個人情報の量が多くなればなるほど、迷惑メールの質が上がっていく可能性があるからです。例えば個人のメールアドレスと紐づいている家族構成や治療歴の情報が流出したとしましょう。これらの情報があれば、犯罪者はヘルニアの治療歴があるターゲットの娘を装って「お父さん、この健康食品が効くみたいだよ」などとそれっぽいメールを送ることができるようになります。見た覚えのないアダルトサイトからの架空請求ですら時折引っかかる人がいるわけですから、自分のパーソナルな、そう人に喋らない情報を狙い撃ちするようなメールがくればついついURLをクリックしてしまうということは余計に起こりやすくなるでしょう。

 そしてこのような事態は現実に起こり得るところまで来ています。お隣の韓国では「匿名化されている医療データから個人を特定できる」ことを示した研究が行われましたし。日本でもマイナンバーにいろいろなデータを紐づけようという動きがあります。
 データが紐づいているということは、1つ流出すると芋づる式にすべてが明らかになってしまうということでもあります。こう考えると、多少不便でも個人情報はある程度ばらばらにして管理するほうが安全であろうとも思えます。

 セキュリティ集団スプラウト (2016). 闇ウェブ 文藝春秋

産経新聞・貳阡貳拾年 第7部 犯罪新時代について 下

 前回の記事『産経新聞・弐千弐拾年 第7部 犯罪新時代について 上』の続きです。今回は(4)と(5)について。
 正直犯罪とはあまり関係なくなりつつあるのですが、半端に終わらせるのもあれなので触れておきます。

 (4)マイナンバーの功罪
 何故かこの記事だけWebにないのですが、要するにマイナンバー制度について今まで見たことあるような期待と懸念が書かれているだけです。
 期待としては、脱税や生活保護の不正受給対策として有効であろうという話が出ていました。脱税対策は別に大歓迎なんですが、生活保護の不正受給を取り締まれるのになんで「受給できるのにしていない家庭を見つけられます」みたいな話は一向に出てこないんでしょうね。不正受給がわかるなら技術的に可能なはずです。まあ、支出が増えるようなことを積極的にやるはずもないですかね。
 懸念としては、口座の数が多すぎて監視なんて到底不可能ではないかという話が出ていました。他にも、月並みですが個人情報保護の問題も。
 既に何件か誤配送があったみたいですし(マイナンバー 通知カードの配達ミス相次ぐ-NHK NEWS WEB)、このご時世に点字にすら対応できない(マイナンバー通知、点字表記なし 視覚障害者、読み上げ依頼「不安」-神戸新聞NEXT)という前時代っぷりを発揮しつつあるのですが、やるならせめてもう少しそういう細かいところを詰めてから始めろよと言いたくなります。別に大急ぎで始めるようことでもないはずなんですが。拙速にもほどがあります。


 (5)サイバー投資家現る
 関西学院大学大学院教授(経営学)の岡田克彦(52)はネットの書き込みやニュースから集めた株式に関する過去10年のビッグデータを基に株価に影響を与えるワードを抽出。人工知能(AI)を使って株価を予測させ、どの銘柄が買いか売りかを判断する。
 外国証券のトレーダーだった岡田は自ら投資助言会社も運営、AI売買システムの運用実績は年率10%以上。今年2月には大手信託銀行と独占契約を結んだ。
 世界最大のヘッジファンド運用会社もAIを使った売買システムを開発中とされる。岡田は「近い将来、AI投資が主流となる可能性がある」と予測する。
 2010年に米ダウ工業株30種平均が1000ドル以上暴落した「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」を引き起こした相場操縦に関与したとして、今年4月に英国人トレーダーが逮捕された。AIがこうした金融犯罪に絡めば、もっと大きな衝撃が世界の証券市場を襲うかもしれない。
 金融市場 人工知能に盲点-産経新聞
 金融に関しては全くというか、一切関知していないのでこれについてコメントすることは特にありません。
 ただまあ、金持ちのマネーゲームの巻き添えはご免なので、慎重に対応してほしいという一般論を述べておきます。 
犯罪心理学者(途上)、アマ小説家。カクヨム『アラフォー刑事と犯罪学者』『生徒会の相談役』『車椅子探偵とデスゲームな高校』犯罪学ブログ『九段新報』など。質問はhttps://t.co/jBpEHGhrd9へ
E-mailアドレス
kudan9newbridge@gmail.com
メッセージ

名前
メール
本文
記事検索
アクセスカウンター
  • 累計: