九段新報

犯罪学オタク、新橋九段によるブログです。 日常の出来事から世間を騒がすニュースまで犯罪学のフィルターを通してみていきます。

放火

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【書評】完全犯罪と闘う ある検死官の記録/犯罪専科

 今回の書評は少々特殊な感じです。2冊同時にやります。
 1冊は中公文庫から出ている『完全犯罪と闘う ある検死官の記録』。如何せん昔の本なので現在の捜査にどのくらいあてはめられるかは不明ですが、科学捜査のあれこれや現場の検死官の苦労が描かれていて面白いものです。
 もう1冊は『犯罪専科』。ようは昔によく出ていた「珍しい犯罪を面白おかしくまとめました」的な本であり、ぶっちゃけ見るところは特にありません。強いて言うなら出版当時犯罪がどのように消費されていたかをうかがい知る手掛かりにはなりましょう。現代でこの手の本がお目にかからないのはなぜでしょうね。この程度のそれっぽい論評ならネットにゴロゴロしているからでしょうか。

 ある令嬢の焼死
 さて、本書を一度に記事にしようと思ったのは、それぞれに共通する事件を扱っていたことに気づいたからです。そりゃ、日本の事件を複数扱う本を集めればどこかで事件が被ることはありうるわけですが、この事件は日本犯罪史に残るというほど鮮烈ではないので扱われることも多くない一方で、事件の状況それ自体は珍しいので気づくことができました。

 事件は昭和42年6月29日に起こりました。容疑者は外交官の娘である被害者とドライブをしている最中に口論になり暴行。失神した被害者にガソリンをかけて焼き殺したというものです。容疑者は当時妻子がいましたが被害者と不倫の関係にあり、別れるといいつつ離婚する気はなかったようです。

 焼死事件の難しさ
 2冊のうち前者は検死官のものですので、初動捜査についてもいろいろ書かれています。著者によれば、焼死事件は証拠が燃えることもあって他殺か自殺かの区別の難しい事件のようです。むろん司法解剖をすればわかることですが、それには時間がかかり、その結果が出るまでにも捜査を進めなければいけないので、検死官によるその場での判断は重要になってきます。警察官もやはり人間で、自殺の可能性が濃厚であれば捜査に身が入りません。
 事件の検死を担当した著者は、最初自殺であるかもしれないと考えたようですが、被害者の体の下に生えている草が燃えていないことから、火は被害者が倒れた後につけられたものと考え、最終的に他殺であると結論を下しました。

 ほかにも探せば、別々の本でダブっている事件というのは見つかるかもしれません。事件は無数にあれど、人々が興味を抱く事件は共通しているのでしょうか。

韓国人は火をつける国民性? 「事例」をかき集める記事にご注意を

 この前、たまたまコンビニで雑誌を眺めていたら『実話BUNKA超タブー』のVol.32の表紙に『韓国すぐ放火する!?国民性』という見出しを見つけました。
 この雑誌、花見客の女性を盗撮したような写真を掲載し『素人娘お花見エロ画像』と題しながら『貧困問題&セクハラ騒動は総スルーの沖縄選挙事情』なんて記事も書いているあたりお察しなのですが、犯罪学ブログとしては見逃せないということで読んでみました。
 まぁ結果としては、いろいろと疑問のある記事でしたので順にみてみましょう。

 韓国の放火は多いのか?
 まず、記事は統計的な話題を取り上げます。日本に比べて韓国は放火が多いぞ!という話です。日本と比べて放火が少ない国のほうがかなり少ない気がしますがそれは置いておきましょう。
 記事によれば、人口10万人あたりの韓国の放火件数は日本の10倍近い!怖い!だそうです。記事では両国の件数は公式統計を利用しているようです。日本の統計は日本語なので容易にアクセスできるとして、問題は韓国の統計です。
 話の大前提として、実話タブーに記事を書く人間が韓国語で公式統計を読み解くという高度な作業をこなすことができるとは思えません。可能性としては日本語でアクセスできる何らかの情報を参照したというのが一番ありえそうです。大穴では英語でアクセスしたという可能性ですが、少なくとも私が四苦八苦試行錯誤した範囲では見つかりませんでした。英語だと旅行者向けの情報はたくさん出てくるのですが、放火までフォローしているものは見つかりません。
 日本語の情報をあれこれ検索しているといくつかそれらしいサイトは見つかります。例えば『韓国朝鮮と日本』というサイトでは韓国最高検察庁犯罪統計を引用したとして10万人当たりの放火の件数が日本の10倍近いことを示しています。また『目覚めよ!日本人。』は『困った隣人韓国人の急所』という書籍を参照したとして数値も全く同じの指摘をしています。本書は最高検察庁2011年犯罪統計を引用しているとしているらしく、日本語でこの統計を閲覧することは不可能であることから韓国人は放火が多いという言説の大元の出どころはこの本でしょう。もっとも、記事の出どころはわかりませんが。
 しかし日本建築学会の学術講演の資料というPDFを発見しまして、不可解なデータも見つけました。この資料によると、韓国の2006年の放火件数は3414件、2010年の日本の件数は5612件と大差はありません。そもそもこの数字は記事が指摘する7000件前後という数字とかけ離れています。放火件数が数年で倍増するとは思えませんが、資料の指摘する出火原因の分類の変化が一因かもしれません。あるいは出火原因の統計と犯罪としての放火の統計の差異かもしれません。
 結局のところ、韓国の公式統計にアクセスしないことにはわからないことが多いので、この辺韓国語や韓国の司法行政に詳しい人の補足が欲しいところですね。

 公式統計は信用できるか?
 ここで犯罪件数の国際比較に関して一般論。上掲のサイトがブリタニカの数字も出していたので私も図書館で見てみました。そこで意外な事実が判明。
 日本は世界でも有数の犯罪極小国家ですが、それよりも安全な国が実はちらほらと見つかります。どこだと思いますか?
 例えば中国です。2016年のブリタニカによると10万人当たりの殺人の届け出の数が日本1件に対し中国は0.2件、傷害は16件対5.2件という感じです。「日本スゴイ!」な人たちにとってはなかなか衝撃的なデータでしょう。
 どうしてこうなるのか。国際比較で気を付けなければいけないのは犯罪の定義の差異ですが、もう一つ気を付けるべきなのがこのデータがおそらくその国家の警察業務を記録した作業統計を参照しているであろう点です。犯罪の届け出件数というのはその国での犯罪の実態というよりは警察の働きを表したものです。日本でも桶川ストーカー事件以前はそうでしたが、警察は往々にして被害届を受理せずに拒絶するという対応をとることがあります。このような傾向は警察の人数が足りない途上国や行政のやる気がない国でも起こりうる現象です。つまりその国の背景が大きく左右される数値なので、比較には不適切です。
 もしどうしても件数の国際比較をしたいのであれば、国際的な被害実態調査のデータを用いるのが一番ですが、放火までフォローしているものは少ないでしょう。

 実例を集める無意味さ
 記事の大半は「韓国ではこんなとんでもない放火が!」の羅列となっています。この文章を無批判に読めば確かに韓国人やばいなという結論に至ってしまうのでしょうが、それはあまりにもメディアリテラシーに欠ける態度です。
 犯罪者というのはその社会の数パーセント、非犯罪者と地続きであれある程度は極端な要素を内包する人々です。そんな犯罪者の起こした事例から読者受けする事件をピックアップして記事にするというのは、要するに極端な事例からさらに極端な事例を引っ張り出しているというわけで、これをその社会一般に当てはまる特徴であると考えるのは無理があります。その理論を認めるのであれば「オウムの事件があったから日本人はすぐに新興宗教にはまってテロを起こすヤバい奴だ」という認識もまた認めなければいけないということになります。
 記事を読む限り最も古い事例では2003年のものが引き合いに出されています。年に何千件と起こる放火を、15年近く遡れば一つ記事に仕立て上げることのできる奇妙な放火の事例なんていくらでも見つかるでしょう。しかし、そのような事例をいくら集めてきても全体を論じることはできないのです。
犯罪心理学者(途上)、アマ小説家、動画投稿者。カクヨム『アラフォー刑事と犯罪学者』ニコニコ動画『えーき様の3分犯罪解説』犯罪学ブログ『九段新報』など。TRPGシナリオなどにも手を出す。
E-mailアドレス
kudan9newbridge@gmail.com
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