九段新報

犯罪学オタク、新橋九段によるブログです。 日常の出来事から世間を騒がすニュースまで犯罪学のフィルターを通してみていきます。

米軍の犯罪

ブログへのカンパを受け付けています。
https://kampa.me/t/qjr
詳しくは以下の記事をご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/kudan9/archives/53595799.html

質問箱で匿名の質問を受け付けています。
https://peing.net/ja/kudan9?event=1

九段新報過去記事で振り返る安倍政権の5年間

 衆議院総選挙が今度の日曜日に近づいています。今回は九段新報の今までの記事を振り返りながら、安倍政権が主に犯罪分野でどのような姿勢をとってきたかを明らかにしていきます。
 というのも、期せずして九段新報が始まったのは第2次安倍政権スタートの半年後である2013年9月。以降の歩みはほとんど安倍政権を批判したりひっぱたいたりという中にありました。まぁこれは安倍政権というよりもそれを支持する立場に立つ産経新聞を批判していたら自然とそうなったという感じが強く、直に政権批判をすることはあまりなかったと思いますが。
 というわけで、話題をわかりやすくするために分野別に過去記事をまとめつつ振り返りましょう。
 なお同様のコンセプトの記事には『自民党を支持するべきではない犯罪学的な理由』があります。

 大臣のあれこれ
 松島みどり新法務大臣の発言を見る
 続・松島みどり新法務大臣の発言を見る
 山谷えり子国家公安委員長とは何者か
 このブログが直にとりあげた大臣は2名。1人は法務大臣の松島みどり氏、もう1人は国家公安委員長の山谷えり子氏です。ちなみにこの記事を書いているときに調べたら、過去記事のタイトルが「山谷」ではなく「山村」になっていました……。おいおい。
 松島氏に関しては、刑務所における受刑者への宗教的配慮、つまり宗教上の理由で食べられないものに配慮することを「逆差別でずるい」などと表現していたことがきっかけで取り上げました。議事録を調べるとほかにも、犯罪者の人権が二の次三の次だとか、韓国人は危ないだとかとてもではありませんが法務大臣とは思えない発言がぼろぼろ出てきます。最終的にはうちわというある意味ではどうでもいい理由で法務大臣を辞任しています。
 とはいえ、後述の山谷氏が強烈すぎるせいなのか私自身はそこまで松島氏を強く批判はしていません。確か逆差別云々に関しては撤回してますし、出所した元受刑者の就労が重要であることを理解しているのは評価できます。
 問題はどちらかといえば山谷氏のほうです。記事にも書きましたが、氏は排外主義団体である在特会と近しく、思想もそちらの方向へ偏っています。また謎理論による中絶反対、性教育反対という極右の見本のようなイデオロギーの持ち主といえます。特に性教育に関しては「過激な性教育・ジェンダー教育実態調査プロジェクト・チーム」事務局長として活動、異常な性教育が行われていると虚偽の報告をするといった行為を行いました。
 大臣という要職につく人間は、いわばその政権の主義主張をある程度は反映していると考えるべきです。この2人を要職につける政権の姿勢は、人権の基礎を理解できていないという疑念を抱かせるに十分なものです。

 性教育
 なでしこアクションよ、それじゃあ性暴力の予防は無理だ
 清く美しい家庭はどうか知らないが性犯罪者は待ってくれないよ?
 前述の山谷氏の話に関連して、性教育の話も上げておきましょう。日本の性教育は遅れていると指摘される渦中にあって、政府は何を思ったか女性手帳を配って計画的な妊娠出産を促そうというあらぬ方向へ突っ走っていきました。選択的夫婦別姓すら認めず、子供を産み育てやすい環境を整える気が一切ないが故の小手先です。
 安倍晋三と性教育というと、これは安倍政権下の話ではないものの真っ先に思い起こされるのが七生養護学校事件です。これは独自の手法を用い知的障害のある子供たちへ性教育を行っていた七生養護学校へ自民党会派の都議が押し入り妨害を働いたり、教材を押収するなどした事件です。これを契機として誕生したのが前述の「過激な性教育・ジェンダー教育実態調査プロジェクト・チーム」であり、この座長を務めたのが安倍晋三でした。政治家であれば政治の教育への不当な介入を批判すべきところ、むしろ嬉々として自身のイデオロギーを押し通すきっかけとしたのでした。
 このような姿勢は、女性手帳を巡る騒動などを見る限り現在の安倍政権にも引き継がれているとみていいでしょう。

 相模原大量殺人事件
 相模原の大量殺人について
 「措置入院でなぜ防げなかったのか」が無意味なわけ
 相模原の犯人が○○であることは事件と関係ないよ?
 相模原の事件では、犯人が首相と衆議院議長あての手紙をかつて持参し、その中で罪を許してもらうように依頼していたことが明らかになっています。これだけであれば犯罪者の妄言と退けることもできますが、実際に事件後首相は特段何も声明を発していません。いつもは「国民を守る」と血気盛んであるにもかかわらず、実際に国民が傷つけられた大事件であったのにかかわらずです。
 その後の政府の対応は、措置入院を見直すという明後日の方向へ向かいました。記事中でも指摘していますが、相模原の事件は措置入院をいくら厳しくしても防げなかった公算が高いものです。入院したあとに正常の範疇へ回復した犯人を入院しておく理由はなく、これを防ごうと思えば正常な人間でも怪しければ病院のベッドへ括り付けろという話になります。
 これも結局は、政権が5年間で振りまいてきた差別の行き着いた先なのでしょうか。

 沖縄と米軍基地
 沖縄と米兵のレイプ
 沖縄・元米兵の殺人事件で同じ詭弁を繰り返す人々
 やっぱり地位協定は破棄すべき
 宮古島市・石嶺かおり市議への辞職勧告は異様 反発に見る「性犯罪不安へのバッシング」
 沖縄・米兵の性犯罪もセカンドレイプの対象になる国
 沖縄ヘイトクライムと政府の姿勢
 政府の姿勢を犯罪と絡めて最も批判したのは、もしかすると沖縄での様々な事件での記事だったかもしれません。沖縄が理不尽な犯罪に苦しむとき、その陰には常に政府の影があったとみていいかもしれません。あまりにも事例が増えたために「米軍の犯罪」というタグを追加したくらいです。
 沖縄の事件が深刻化する背景には、やはり日米地位協定があります。地位協定自体は他国へ軍隊が赴く際に結ばれるごく一般的な協定であったとしても、沖縄においては過度に乱用されている印象があります。沖縄にある米軍基地が国防上重要であると考えるのであれば、政府は沖縄の負担を軽減し持続可能を高めるべきでしょうが実際には放置を決め込んでいます。政府が適切に対応すれば防げたダメージも多くあったことは想像に難くありません。
 その姿勢が支持者に伝わったのでしょう、沖縄を取り巻くデマとヘイトには目を疑うものも多くあります。その代表的な扇動者が百田尚樹と橋下徹というわけです。
 自分たちで下地を作っておきながら、いざ事件が起こるとさも沖縄に原因があるように扇動する。国土を明け渡し同胞を貶めることで成立する保守政治とはいったい何なのでしょうか。

 外国人実習生
 「人」を取り締まっても意味がないことの好例
 政府は外国人に技能を学んでもらうという名目で低賃金労働者を受け入れる「技能実習制度」を導入しています。その労働環境たるやブラック企業が白く見える惨状であり、当然の帰結として失踪者が大量に出てくることとなります。
 そのため安倍政権は制度の適正化名目でいろいろと小手先の変更をしているようですが、元々の制度に無理があるので焼け石に水という状態です。まぁ、日本人がきちんとした労働環境で働けていない社会で外国人がどうなるかなんて言うまでもないことですが。
 なお記事ではいかにも治安に悪影響があるかもしれないという風に描かれていますが、皮肉というかなんというか、その可能性はないに等しいのも事実です。外国人だから危険だろうというのは安直に過ぎます。

 朝鮮学校と韓国人関連
 「ウヨマゲドン」はジェノサイドの予兆である 大げさでも何でもなく
 (特定の)外国人排斥を煽る産経の靖国神社報道の異常さ
 【靖国爆発シリーズ続報】警視庁「韓国人関与ない」VS産経「犯人は韓国人」
 新・外国人の犯罪は多いのか検証してみた
 差別主義者は無限の証明を要求する
 ヘイトスピーチ規制の理念法すらまともに作れないのか
 第二次安倍政権で最も後退したものは人権と平等思想ですが、その悪影響をもろに受けたのが在日コリアンや韓国にルーツを持つ(とされた)人々です。その悪化ぶりは、民主党政権時代の東日本大震災で流れたデマが「外国人犯罪の横行」だったのに対し安倍政権の熊本地震では「朝鮮人が井戸に毒」にまで変化したことに表れてます。
 その差別主義の極点がウヨマゲドン、去年7月に在日コリアンが在留資格を失うとするデマが流れ入管に通報が殺到した事件であり、別の側面が一応は全国紙である産経新聞が靖国放火事件の犯人を特定前から外国人であるかのように報じた事例です。また政府による差別の最たる例が朝鮮学校の補助金排除でしょう。
 世間に差別が蔓延するとき、これを押しとどめるのも政府の仕事ですが、政府が実際に行ったのは防ぐどころかこれを煽るということでした。野党に法案を提出され、これが可決するのが癪に障ったのか急造でヘイト防止法案を作り上げますが、国連などの使用する一般的な定義ではなく「日本以外の国または地域の出身者で適法に居住するものを、排除することを扇動する不当な差別的言動」という珍妙な定義を示す始末です。

 こうしてみると、安倍政権の問題点の多くは人権の軽視と差別主義に貫かれていることがわかります。これは絶望的なことですが、一方では希望かもしれません(小池新党のことではなくて)。ヘイトスピーチ研究の多くが、ヘイトスピーチはネット上のごくわずかの勢力によってなされていることを明らかにしています。これらの差別的な政策も同様だとすれば、そのごくわずかの勢力が結集しているのであろう安倍政権を追い落としさえすれば状況は好転する可能性があるということでもあります。

宮古島市・石嶺かおり市議への辞職勧告は異様 反発に見る「性犯罪不安へのバッシング」

 私もついこの間知ったのですが、宮古島市議会の石嶺かおり市議への辞職勧告が可決されたという話です。
 宮古島市議会議員の石嶺香織氏(36)が、「陸上自衛隊が来たら、絶対に婦女暴行が起こる」などと自身のフェイスブックに投稿した問題で、同市議会(棚原芳樹議長)は21日、石嶺氏に対する議員辞職勧告決議を賛成多数で採択した。投稿内容を「許すことのできない暴言」と断じ「議会の品位を著しく傷付けた」と批判した。石嶺氏は採決に先立つ弁明で辞職を拒否。決議後も「政策を何も実現していない」と述べ、議員を続ける姿勢を示した。宮古島市議会における議員辞職勧告の決議は初めて。
(中略)
 その上で「自衛隊員、米軍海兵隊員に対する職業差別発言であり、断じて許すことのできない暴言と言わざるを得ず、このことは宮古島市議会の品位を著しく傷付けるものである」などとし、道義的責任を取って辞職するよう迫った。
 質疑に続き石嶺氏の弁明があった。謝罪文をフェイスブック上に投稿し、報道機関にも発表したことを主張し同文を読み上げた。読み終えると「議会事務局や当局業務に支障を来し、ご迷惑をおかけしたことをおわびします」と釈明した。
 石嶺市議に辞職勧告/宮古島市議会-宮古毎日新聞
 なぜこの話を取り上げるかと言うと、ここのある種のデジャヴを感じたからなのですが、その前に氏の発言の是非なども論じておきましょう。

 不適切ではあるが……
 氏の発言は不適切であることはその通りです。魚拓も見ましたが記事に引用されている部分が最大の肝であることは間違いないようです。絶対に婦女暴行が起こる、というのは言い過ぎでした。特に「絶対」の部分が。これでは職業差別と批判されるのも当然でしょうか。
 しかし全くもってでたらめを言っているわけではありません。ただしそのことを理解するには「軍隊による性的暴行」を「女性がおかれた状況」と「沖縄がおかれた状況」の2側面から見つめる必要があります。さほど難しい話ではありませんがある立場の人には一生かかっても理解できないポイントです。
 まず「女性がおかれた状況」ですが、これは簡単に言うと「被害を受ける女性が自衛を求められ、自衛が足りないと認定されると被害を省みられない」という状況です。例えば『沖縄・米兵の性犯罪もセカンドレイプの対象になる国』で指摘した事例が挙げられます。本件では被害女性が廊下で寝ていたという部分を根拠に被害を否定するかのような言説がまかり通っていました。その他にも「痴漢に気をつけましょう」と書かれたポスターなどが該当します(どうしろっちゅうねん)。
 このように女性は自衛を求められるわけですが、当然自衛の手段と効果は限定的です。にもかかわらず極めて恣意的な基準により自衛が足りないと断罪されセカンドレイプの対象になるというのが日本の現状です。このような状況にあって女性が取れる最も合理的な選択が「周囲から潜在的な加害者を物理的に排す」であり、電車における女性専用車両で行われていることです。これが先述した「デジャヴ」の正体です。今回の場合であれば自衛隊が来ないように運動するということになるのでしょう。
 「沖縄がおかれた状況」は言うまでもなく、米軍基地とそれに関連する米兵の犯罪のことです。米軍基地の存在により沖縄は本来無用の犯罪リスクに晒され、しかも犯罪者は裁かれないという理不尽を被っているのは今なお続く事実です。自衛隊と米軍は厳密に言えば違えど、軍隊ということで共通します。そのような組織に不信感を持つのは当然であり、その責めは不信感を抱く側に負わせるべきものではありません。
 このような状況からあのような発言が飛び出す気持ちはわかります。不適切なのは事実ですが謝罪と撤回をしたのでこれ以上の何かが必要だとは思えません。もし氏が辞職相当ならば、反対運動を極左暴力集団だの外国人主導だのと言った国会議員も辞職しなければ理屈に合いませんが、氏が辞職すべきと主張する人の中に国会議員も辞職すべきと主張している人間にはまだ出会ったことがありません。

 ボイコットに見える「パワハラ」と「ミソジニー」
宮古島】宮古島市議会(棚原芳樹議長)の石嶺香織市議がフェイスブック(FB)に書き込んだ投稿が波紋を呼んでいることに関連し、市議会3月定例会は22日午後4時、保守系市議15人が途中退席し、定足数が不足したため自然流会となった。21日に石嶺市議に対する辞職勧告決議が可決された際、石嶺市議は「おわびして撤回」という文言を含めた弁明をしたが、退席した市議らは「反省の色が見えない」などとして、石嶺市議の一般質問の前に一斉退席した。退席した市議らは、議場に戻る条件として石嶺市議に再度の謝罪を求めた。石嶺市議は応じなかった。
 石嶺市議は「既に投稿を撤回し謝罪もした。『反省の色』とは極めて主観的だ。もう一度謝罪をしろとは、ただのいじめと嫌がらせだ」と反発した。
 退席した市議の1人、平良隆市議は「(投稿が)全国的に話題になり、各議員にも抗議が届き迷惑している。あれだけ議会の品位を傷つけたのに反省の色が見えない。議会にわびてほしい」と述べた。
 「反省見えない」と15人退席し流会 市議のFB投稿で宮古島市議会-琉球新報
 市議がどっちを向いて仕事をしているかよくわかる事例です。
 「反省の色が見えない」などという主観的な理由で何度も謝罪を要求するのはパワハラの典型的事例なので皆さんも経験したら最寄りの弁護士まで。
  しかしこの反応、単にパワハラというだけでなく犯罪学的にも結構興味深いものなのかもしれないなと思いました。というのもなんとなく、女性専用車両に対する反発にも共通するものがあるのかなと思ったからです。
 前述の通り、氏の投稿は沖縄のおかれた状況を反映する、ある種仕方がないというか、論理的帰結のようなものでもありました。それに対する議会多数派の反応は「そういう見方もあるのか、不安を払しょくしないと」ではなく「黙れ!」でした。この辺の反応は女性専用車両周りの議論でもよく見る光景でしょう。
 自衛を求めておいていざ究極的な自衛したらバッシングに走るのでは問題解決は永遠に望めないのですが、彼らは問題を解決したいわけではなさそうなのでこれでもいいのでしょう。

やっぱり地位協定は破棄すべき

 米軍属女性暴行殺人事件で殺人や強姦(ごうかん)致死などの罪で起訴されている元米海兵隊員のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告(33)が犯行について「(事件が起きたあの場所に)あの時居合わせた彼女(被害女性)が悪かった」との認識を示していることが14日、分かった。13日付の米軍準機関紙「星条旗」が被告の弁護人を務める高江洲歳満弁護士を通じて同被告の見解を報じた。被害女性への責任転嫁とも受け止められる認識に、女性団体などは反発を強めている。
(中略)
 同紙によると、ケネス被告は「棒で殴った上で意識を失わせ、スーツケースに入れてホテルに連れ込み暴行しようとした」として、それ以上の危害を加える意図はなかったとした。日本の法制度では女性暴行は親告罪で、被害者による通報率も低いとして「逮捕されることについては全く心配していなかった」とした。
 米軍属暴行殺人 「彼女が悪かった」被告、弁護士に話す-琉球新報
 この記事の話題です。
 星条旗新聞の記事というのは読んでいないのですが、琉球新報の記事を読む限りは性犯罪に共通する傾向である「他責」を地位協定が拍車をかけたと見るべきでしょう。

 「逮捕されない」ことの悪影響
 地位協定において最も悪影響を及ぼしていると考えられるのが、「基地に逃げてしまえば逮捕されない」という状況です。
 犯罪心理学の研究においては、罰の確実性が犯罪を防止するということが指摘されています。いくら罰が重くとも、罰せられない確率がそれなりにあるのであれば人間はその可能性に飛びつくというわけです。
 地位協定というのは、犯罪者が罰せられないことをいわば公的に認めているような状況なので、この悪影響は計り知れないでしょう。

 基地が必要であればこそ地位協定の破棄を
 私は米軍基地があまり必要だと思っていない人間なので、当然地位協定も必要性を感じないのですが、この問題というはむしろ基地が必要だと思っている側の人間が積極的に解決していかなければならないはずではないでしょうか。
 言うまでもなく、地位協定の存在は米軍と沖縄住民との間に亀裂を生んでいます。犯罪者が裁かれないという不公平な状況があれば当然でしょう。そういった亀裂というのは、方々で起きている基地の建設反対運動などに繋がっています。そのような運動が起これば当然基地の建設などは遅れ、時間と資金を浪費します。また建物が出来上がるのが遅れればそれだけ防衛力にも悪影響が生じるはずです(基地が重要であるという過程にたてばの話)。
 結局のところ、地位協定の存在による悪影響を最も心配すべきなのは基地の存在を重視し必要だと考える側の人々のはずです。であるならばこの問題への解決策を導きだし、軋轢を解消しようと動くべきなのもやはり基地を重視する人々であるはずなのです。
 しかし実際にはそうはなっていません。本当に彼らは米軍基地を防衛戦略上重視しているのでしょうかね? 

沖縄・元米兵の殺人事件で同じ詭弁を繰り返す人々

 今週末あたりからいろいろありすぎでどれから手を付ければいいのかわからない感じになりつつあるのですが、とりあえずツッコミを入れるべき間抜けな反応が出尽くしたものから順番に触れていこうと思います。
 というわけで、今回は沖縄で起きた元米兵による殺人事件です。
 沖縄県うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかった事件で、遺体の骨に複数の傷があったことが23日、捜査関係者への取材で分かった。死体遺棄容疑で逮捕された元米海兵隊員で軍属のシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)は「刃物で刺して殺害した」と供述している。沖縄県警は、シンザト容疑者が女性を複数回刺したことを示す痕跡とみて、殺人容疑での立件に向け捜査している。
 遺体の骨に複数の傷 殺人容疑での立件視野-産経新聞
 沖縄で事件が起きるたびに同じことを繰り返し言うのも馬鹿らしいのですが、言っておかないわけにもいかないので。

 沖縄県民と比較する意味は
 早速湧いて出ていたのが、米兵の犯罪率と沖縄県民の犯罪率を比較してみせるという抗弁の方法です。
 しかし実際には、『沖縄と米兵のレイプ』で過去に琉球新報が指摘した記事を引用したように、基地の外にいる時間が限られ、かつ地位協定によってまともに逮捕されない状態にある米兵との犯罪率を直接比較しても意味がありません。
 加えて言えば、人間がそこにいる以上米兵による犯罪も多少なりとも起こりうるのだから、1つの犯罪をもって基地を否定するのはおかしいという反論もありますが、これも的外れです。少なくとも反対派にとっては望まない施設に紐づいてやってきた連中によって起こされた犯罪は、基地さえなければ1件として起こらなかった出来事であり、本来なかったはずの被害を受けたという意味では多寡は問題ではありません。それを抜きにしても、地位協定によって裁かれないことを正当化するものではありません。

 だから性欲は関係ないってば
 今回の件を受けて、橋下元市長が鬼の首を取ったように大はしゃぎしているのも目につきました。
 こいつが同じ沖縄での事件を受けて同様の失言をしたのが3年前だそうで、試しにこのブログの3年前を遡ってみると、その件に関しての記事はありませんでした。それで思い出したんですが、一度作って休止していたこのブログを、リニューアルして犯罪学ブログとして再出発しようと決意した理由が、実はその事件だったんですね。
 当時は橋下絶頂期。彼が犯罪学の基礎中の基礎にももとるような間抜けな発言をしても批判するのはごく少数で、取り巻きがそうだそうだとはやし立てるのにこっちが腹を立てたんだと記憶しています。3年経って同じところに着地したと思うと、感慨深いような、1ミリも成長していない世論に呆れるような複雑な気持ちです。

 性欲が性犯罪の唯一の原因でないことはもう今更改めて指摘しません。だいたい、本当に風俗で性犯罪がなくなるなら性風俗が実質解禁状態の日本で性犯罪が起こるわけないでしょう。今回の事件の容疑者が妻帯者であることも、性欲だけが事件の原因でないいい証拠です。
 そして、仮に風俗が性犯罪防止に活用できるとしても、そもそも風俗に従事する者を性暴力の受け皿として言い訳がありません。性暴力はどこで誰にやっても性暴力であることに変わりがありません。

 ヘイトスピーチとも関係がない
 この橋下、この事件をもって米軍を問題視するのがヘイトスピーチだともぬかしています。同様の指摘は他でも見られたのですが、当然的外れです。
 確かに、1度の事件でその組織の体質に原因を帰属するのは、誤った推論と言えるでしょう。しかし今回問題とされているのは、米軍という1つの組織が、大した再発防止策もなく同様の事件を延々と起こし続け、かつそれがろくに裁かれないという状況です。組織の体質に原因の一部を求めるのは推論としては実に真っ当ですし、彼らがアメリカ人だから問題となっているわけではありません。
 さらに、「米軍出ていけ」といった発言はあくまで米軍という組織、権威に対する反対運動であり、アメリカ人に対する排斥ではありません。米軍に関係のないアメリカ人も出ていけと言い出せば問題ですが、実際にはそうはなっていません。このことからも米軍への反対運動がヘイトスピーチとは異なるものは明らかです。

 「同胞女性を守れ」が性犯罪を招く
 小林よしのりによる、このような記事も見受けられました。
 「偏見」と言われても構わんが、誰も幸せにはならないし、あまりに多くの不幸をばらまき過ぎだ。
 被害者の女性を写真で見たが、いかにも性質のよさそうな笑顔の素敵な人ではないか。
 一体なんで命を奪われなければならないのか?
 被害者の親や、恋人がどれだけ悲しむのか?
 その野獣男の妻も、さらに子供も、今後苦しみ続けねばならなくなるだろう。
(中略)
 こういう残酷な事件はこれで終わりにはなるまい。
 また必ず起こる。
 だからこそ、米軍基地を沖縄に集中させておくことは、いや、日本列島に他国の軍隊を駐留させたままでいることは、我々本土の者たちの堕落であり、罪悪なのだ!
 同胞の女性を守れない日本の男たちは恥ずかしいと思わないのだろうか?
 同胞女性を守れない日本人男性-BLOGOS
 記事中にある、容疑者家族へのバッシングがくそであることは言うまでもないのであえて捨て置きます。ここでは、彼の文章の端々から読み取れる、問題への理解のなさです。
 引用部分上部では「被害者の女性を写真で見たが、いかにも性質のよさそうな笑顔の素敵な人ではないか」などと書かれています。こういう文章を見ると、「では彼が被害者のことを性質のよさそうと思わなかったらどうだろうか」などと考えてしまいます。例えば被害者が水商売の女性だったら、彼は今回と同様に憤ったのだろうかと思えてなりません。
 これは何も邪推ではありません。容疑者の妻であるというだけの理由で、「しかしよくこんな男と結婚した日本人女性がいたものだ」 などと「同胞女性」をバッシングできる人間が、どのような人物であれ被害者であるという理由だけで同情してくれると考える方がむしろ楽観的にすぎるというべきでしょう。
 そもそも、私に言わせればこの文脈でいうところの「同胞」や「守る」という言葉が、まず人々を自分の味方と敵、守る価値のあるものとないものに切り分けることを前提とした言葉にしか聞こえないのですが。

 また、引用部分の最後には、この問題の根となっている思想も見えています。「同胞の女性を守れない日本の男たちは恥ずかしいと思わないのだろうか?」に代表されるような、男が女を守るという思想です。
 現在、国連PKOでは隊員による難民女性への性犯罪が問題視されています。例えばAPFの『PKO要員の性犯罪多発、生活のため関係持つ女性も 中央アフリカ』などが報じています。
 このような事件の背景には、隊員の「難民女性を守ってやっている」という意識もあるのではないかと推測できます。実際に、犯罪心理学では、性犯罪者が女性蔑視的な視点を持っていることが明らかになっています。
 重要なのは、崇高な任務を帯びているはずの国連PKOですらこの様だということです。「同胞女性を守れ」などというパターナリズムに基づいて自衛隊を強化し、米軍と取って変わったところで、加害者が米兵から自衛隊員に変わるだけでしょう。

 沖縄と米軍はどうあるべきか
 ここまで、米軍の駐留に対して否定的な見解ばかり述べてきましたが、元来私は米軍基地を全て日本から排すべきとは考えていません。今は政府の手綱の握り方があまりにもへたくそでデメリットばかり目立っていますが、確かに、米軍がいてくれることのメリットはそれなりにあるのです。
 しかし、沖縄に偏重した基地負担と地位協定は改善する必要があります。そもそも、本当に沖縄に基地が必要だと思っていれば、地元とうまくやるためにも、負担を減らし不正はきちんと裁くことで反発を軽減するのは必須のことのはずなのですが、なぜか賛成派に限って両方とも消極的なのは全く持って理解に苦しみます。

沖縄・米兵の性犯罪もセカンドレイプの対象になる国

 沖縄で在日米軍に所属する兵士が女性を強姦する事件がありました。
 沖縄県内のホテルで、廊下で熟睡していた女性に性的暴行を加えたとして逮捕されたアメリカ兵の男が14日、身柄を那覇地検に移されました。
 準強姦の疑いで送検されたのは、アメリカ海軍の一等水兵、ジャスティン・カステラノス容疑者(24)です。
 カステラノス容疑者は13日未明、自身が滞在していた那覇市のホテルで、廊下で熟睡していた40代の日本人女性を部屋に連れ込み、性的暴行を加えた疑いが持たれています。
 警察の調べにカステラノス容疑者は「その時間はバーで酒を飲んでいて、ホテルにいなかった」と容疑を否認しています。
 沖縄、女性暴行の疑いで米兵を送検-Yahoo!ニュース
 普段、日本国民の安全のために云々と説いて回っている人々が多いネット上では、日本人女性が傷つけられたことに対してさぞかし怒りの声が上がっているだろうと思ったのですが、どうも様子が違うようです。

 被害女性へのセカンドレイプ
 まず目につくのは、被害女性への非難です。上掲記事のコメント欄を見ていただければわかるように、相変わらずの酷い有様です。
 非難の大部分を占めるのは、廊下で寝ていた女性が悪いという、責任転嫁です。言うまでもなく、被害者がどこで寝ていようが被害を受けるいわれはありません。
 また被害者の40代という年齢を揶揄するものもありますが、性犯罪被害が若い女性にしか起こらないという誤謬に基づいたものです。実際には、どの年代でも起こり得るものです。
 このように、性犯罪被害の基本すら理解しない非難がみられるのですが、米軍基地を必要だと思う人の「日本を守るためにいる米軍が犯罪に及ぶなど許せん!」という視点からの反応が全くないのが気になります。大義名分と相反する事件は、基地肯定派にとっても都合が悪いでしょうし、それ以前に基地を肯定する理屈を援用すれば許せるはずがないと思うのですが。

 米軍の犯罪は多いか
 このような記事が出ると、基地に反対する側が過去の事件を例に挙げ、米兵の犯罪を強調するような報道が出てくるのも事実です。実際に多いか少ないか、詳しいことはわかりませんが、過大な数字が流布しているという指摘があります。
 しかし、こうした報道によって、米兵はしょっちゅう犯罪を行っているようなイメージを持ってしまうのは早計である。
 元在沖縄海兵隊幹部のロバート・D・エルドリッヂ氏は、著書『オキナワ論 在沖縄海兵隊元幹部の告白』で、次のように述べている(以下「 」は同書より引用)。
 「米軍の犯罪発生率は高いという印象の背景には、日本弁護士連合会が2000年夏に発表した報告書があります。この報告書は沖縄におけるアメリカ人の犯罪統計が地元市民の10倍にのぼると指摘し、地元メディアに大きく取り上げられ既成事実化しましたが、後になって、この報告書のデータには重大な誤りがあることが判明しました。
 新聞には小さな訂正記事が出たものの、いまだに集会などでは講演者がこの数字を引用するため、悪い印象は消えません」
 たしかに、2000年に発表された報告書は、「人口1万人あたりの米兵の犯罪件数は県民の10倍」としたが、その後「ほぼ同じ」と訂正されている。
 また暴行罪で逮捕 米兵の沖縄での犯罪率は高いのか-Yahoo!ニュース
 一方で、沖縄県民のそれと比較するかのような言説も出てきます。かつて百田尚樹がそのような発言をし、このブログでも『沖縄と米兵のレイプ』でその誤りを指摘する琉球新報の記事を紹介しました。
 一応、公的な統計に表れる犯罪はさほど多くないようですが、上掲記事で琉球新報が指摘するように、表に出る犯罪も少ないでしょうし、米兵の起訴率も低いのが現状です。

 多寡の問題ではなく
 しかし、この問題は件数の多寡の問題ではないでしょう。
 無論、多ければそれだけ問題ですが、最も重要なのは、犯罪者を裁くこともままならない現状、かつそれが「日本を守る」という大義名分で派遣された米軍によってもたらされているという事実です。
 米軍が必要だと思うなら、せめて国内での米兵の犯罪くらいはきちんと裁けるように制度設計をするべきだと思うのですが、そういう声は基地肯定派からはやっぱり聞こえてきません。

沖縄と米兵のレイプ

 今更というかなんというか、沖縄に関わる百田発言で米兵によるレイプが取り上げられていたので関連する記事を纏めておきましょう。琉球新報がわかりやすい検証記事を出しているのに私が何か言うのも蛇足な気もしますし。
 25日の自民党若手勉強会での主な発言要旨は次の通り。
(中略)
 ▽別の出席議員 関連だが、沖縄の特殊なメディア構造を作ってしまったのは戦後保守の堕落だった。左翼勢力に完全に乗っ取られている。
 ▽百田氏 沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない。あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)は田んぼの中にあった。周りに行けば商売になるということで(人が)住みだした。騒音がうるさいのは分かるが、選んで住んだのは誰なのかと言いたくなる。基地の地主は年収何千万円だ。六本木ヒルズとかに住んでいる。ですから基地が移転したら、えらいことになる。沖縄に住む米兵が犯したよりも、沖縄県民自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い。左翼の扇動に対して立ち向かう言葉とデータをもって対抗しないといけない。
 「県民の強姦の方が…」百田氏発言はもっとカゲキ-日刊スポーツ
 百田尚樹氏は性的暴行の発生率について、在沖米兵に比べて県民の方がはるかに高いとの発言をした。2012年、13年、14年に米軍人・軍属が性的暴行で県警に摘発された件数は1件、0件、1件だった。12年に摘発された日本人は16件に上るなど件数だけで比較すれば、米兵が特別に凶悪との印象は受けない。
 だが公務員であり日米地位協定で守られている米兵と、一般県民を同列に比較することを疑問視する声がある。米兵による性犯罪に詳しい宮城晴美氏は「性的暴行の起訴率も十数%という米兵と日本人とは罰せられ方が違う」と話す。
  性的暴行件数:単純比較できずに疑問-琉球新報
 作家の百田尚樹氏が自民党国会議員の勉強会で「米兵の犯罪者より沖縄人が犯したレイプ犯罪の方がはるかに率が高い」と述べた。
 ネット上ではこの種の文言が広く流布している。沖縄の学生ですらこれを信じる人は多いという。
 だがこれは明らかなうそだ。むしろ悪意の込もった中傷といえる。
(中略)
 しかも米軍人軍属は治外法権的な特権に守られている。公務中の犯罪は日本に裁判権がないからそもそも表面化しない。公務外の犯罪も、日米地位協定により日本側は原則として身柄を拘束できない。
 米側の基地内での拘束は「基地の外に出てはいけない」という単なる禁足程度の例が多い。基地内は自由だから証拠隠滅、口裏合わせも可能である。事実、強盗事件の公判で米軍の将校が、容疑者たちは証拠隠滅や口裏合わせが可能だったと証言した例もあった。
 その上、犯罪見逃しの密約もあるのだ。1953年の日米合同委非公開議事録にこうある。「日本は米軍人軍属に対し日本にとり著しく重要と考える例以外は裁判権を行使するつもりがない」。在日米軍法務部の担当者は01年の論文で「日本はこの合意を忠実に実行している」と書いた。米軍関係者の一般刑法犯起訴率は今も1割余で、大部分は罰を受けてないのだ。
 <社説>犯罪率比較のうそ 悪意の込もった中傷だ-琉球新報
 そもそも米兵の犯罪が問題視されるのは、彼らが罪を犯しても身柄を拘束すらされないという治外法権のためだったはずです。百田発言はそれを件数の問題にすり替えています。
 しかもそれだけではなく、まるで沖縄県民が凶悪で狡猾な犯罪者であると言いたげですらあります。前後の発言を考慮すれば実際にそのように言いたいのでしょう。これは犯罪という要素が、自分が貶めたい相手に対する都合のいいスティグマと化している実態をよく示しています。皮肉なことに、このようなスティグマの殆どが事実に基づかないものであることの実例でもありますが。
 データに基づかないデマ、犯罪のスティグマとしての利用にレイプ神話による被害者へのセカンドレイプが加わって数え役満ですね。まあ、ネトウヨとしての面目躍如だと思いますよ。

 同じ日本に住む同胞の被害を被害者のせいにして、部外者である米兵を擁護する保守が一体何を保守したいのかわからなくなる昨今です。 
 今回の百田発言が唯一もたらした利益は、このようなネット上のデマをわかりやすく否定する記事が登場したことでしょうか。もっとも、こんな発言が出なくても理解しておくべきことなのですが。 
犯罪心理学者(途上)、アマ小説家、動画投稿者。カクヨム『アラフォー刑事と犯罪学者』ニコニコ動画『えーき様の3分犯罪解説』犯罪学ブログ『九段新報』など。TRPGシナリオなどにも手を出す。
E-mailアドレス
kudan9newbridge@gmail.com
メッセージ

名前
メール
本文
記事検索
アクセスカウンター
  • 累計:

  • ライブドアブログ