九段新報

犯罪学オタク、新橋九段によるブログです。 日常の出来事から世間を騒がすニュースまで犯罪学のフィルターを通してみていきます。

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法学セミナー2016年6月号 『ジェンダー法学入門』を読む

 今回の書評は番外編。たまたま図書館で目についた法学セミナーの6月号が面白い内容をやっていたので紹介します。
 本誌ではテーマを『ジェンダー法学入門』と銘打って、ジェンダーの視点から法律の問題を論じています。特に今回は島岡まな氏による『ジェンダー刑法学入門』を取り上げます。
 本稿では、刑法における問題点を取り上げており、大きく2つのパートに分かれます。後半は性犯罪の問題という、本ブログで散々論じた話題なので割愛するとして、前半部で取り上げられている「正当防衛」の問題点はなかなか興味深いものでした。

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 DV夫を殺した場合
 夫のDVに耐えかね、思い余って殺害、その後出頭。このような事例は多くはありませんが、一定数発生しています。このような場合、殺害した妻は通常通り殺人罪で裁かれることになります。これを、筆者はDV被害者にあまりにも不利な制度だと指摘しています。
 延々と繰り返されるDV被害から逃れるために相手を殺した場合、正当防衛が適用されそうですが実際にはそうはなりません。正当防衛はあくまで急迫不正の侵害から逃れるためのものであり、DV夫を殺すような事例では急迫ではないから適用されないというのが通説です。
 恐らく、これは急迫でなければしかるべき手段に訴え出ることが出来るため、反法的な行為を容認する必要もないという意味があるのでしょう。しかし、DV被害者は加害者と共依存の関係になっており、そのしかるべき手段に訴えるのが困難な場合が大半を占めます。
 このため、DV夫を殺した妻は正当防衛として免責されることはなく、殺人犯として精々情状酌量を受ける程度で裁かれます。
 これに対して、緊急回避や急迫の拡大解釈で対応しようとする意見もあるようですが、既存の法律との兼ね合いなどから、不可能であろうというのが筆者の見解のようです。

 DV対策のさらなる包括法を
 この問題に対して、筆者が提案するのが特別な立法による免責です。現状の法律でダメなら、新たに法律を作ろうという発想です。
 現に、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律、いわゆる盗犯等防止法では家屋に侵入した窃盗犯と出くわしたとき、通常の正当防衛よりも広い範囲で正当防衛を認めることになっています。ならば、DV被害に対してもできない相談ではないでしょう。
 そもそも、現状のDV防止法が不十分であることは本誌の矢野恵美氏の記事『ジェンダーの視点から見た刑事政策』でも述べられていることです。その記事では、実際にはDVで検挙された加害者も、暴行や強姦など様々な罪状で刑務所に送られてくるため、彼らに包括的なDV防止教育を施すことが困難であり、また現状殆ど行われていないことが示されています。
 現状のDV防止法で満足せずに、より被害者保護にも再犯防止にも実効的な防止法の制定を目指すべきでしょう。

 ジェンダーと法学というと、性犯罪関連の問題が浮かびがちですが、実はもっと幅広い問題が隠れています。男である私にはなかなか気がつかない部分ではありますが、このような問題もできるだけ紹介して広めておきたいです。

【書評】男性の非暴力宣言 ホワイトリボン・キャンペーン

 久々に図書館の、岩波ブックレットコーナーを見たら興味を引く本がいくつかあったので連続(つっても2回だけ)書評です。今回は「男性の」ジェンダー研究者によって書かれた、ホワイトリボン・キャンペーンを紹介するものです。

 ホワイトリボン・キャンペーンとは何か
 ホワイトリボン・キャンペーン(WRC)とは、簡単に言えば男性による女性への暴力をなくすために、男性が主体的になって活動する国際的啓発運動です。キャンペーンの発祥はカナダであり、本書で著者たちが訪れたオーストラリアなど全国に広がっている活動です。
 WRCの誕生には、ある事件が関係しています。それはカナダのモントリオール理工科大学で発生した銃乱射事件です。犯人は女性権利拡張論者のせいで自分の人生がうまくいかなくなったと逆恨み(大量殺人犯においてしばしばみられる責任転嫁です)し、大学で女子学生ばかり14名を殺害しました。
 この事件に責任を感じた、男性ジェンダー研究者マイケル・カウスマンを含む3名が声明を立ち上げ始まったのがWRCです。その名の通り、賛同者は白いリボンを身に付けます。
 この活動の要点は、主体が男性であるということです。従来から、女性に対する暴力問題は女性の問題として考えられており、特に女性に対して暴力を振るわない男性の関心はあまり高くありませんでした。しかし、社会の問題を解決する際に、人口の半分を占める男性を無視することはできません。また、暴力を振るう男性はえてして女性の忠告を軽視する傾向があるので、同じ男性の口から啓発することに意味があるとも考えられています。
 オーストラリアのWRCでは、スポーツ選手のような特に男性に人気のある著名人をアンバサダーに任命し、啓発に努めています。また、州警察やナショナル・ラグビー・リーグ、オーストラリア国軍のような極めて「男性的」な組織が積極的に参加したり、中にはバイク乗りたちが参加する「ホワイトリボン・ライド」という活動もあり、そこではスキンヘッドのバイク乗りがハーレーに乗って学校を訪れ、女性への暴力について啓発するという不思議な光景も見られるそうです。
 男性から女性への暴力には既存の男らしさの問い直しが必要であり、啓発運動にそれを用いるのは本末転倒であるという批判もありますが、利用できるものを利用し、社会をいい方向へ変えていこうという貪欲さは見習いたいものがあります。

 日本におけるWRC
 日本においては、まだまだWRCの知名度も高くなく、活動も活発ではありません。政府ですらこれらの問題解決にさほど積極的でなく、むしろ既存の伝統的(と思っている)家族観の固定化に躍起になっている有様ですからWRCの普及にはまだまだ時間がかかるでしょう。
 しかし、ホワイトリボン・キャンペーンKANSAIという運動は少しずつですが動き出しています。この運動がどれだけ主流化できるかはわかりませんが、男性がより積極的に女性への暴力問題に動き出すことになるよう祈っています。

 多賀 太・伊藤公雄・安藤哲也(2015).男性の非暴力宣言 ホワイトリボン・キャンペーン 岩波書店
犯罪心理学者(途上)、アマ小説家、動画投稿者。カクヨム『アラフォー刑事と犯罪学者』ニコニコ動画『えーき様の3分犯罪解説』犯罪学ブログ『九段新報』など。TRPGシナリオなどにも手を出す。
E-mailアドレス
kudan9newbridge@gmail.com
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