あれは終戦間際の頃やから尋常小学校2年生の時だな。
当時この家の裏山には陸軍の演習場があってなぁ。
全国から兵隊さんが集まってきて、あの、ほれ、こっちからずぅっと行くと中央道渡る橋があるやろ。
あそこに兵舎があってあそこで兵隊さんたちが寝泊りしてたわけだ。 え?近い近い。すぐそこよ。起床ラッパの音とか聞こえてきたもんだ。
そんで裏山の演習場に背嚢背負った兵隊さんがのぼって行ってな。8貫目っていうから32kgか?そんなリュックサックの上に毛布をこうきちっとたたんで括りつけて、さらに穴掘りのスコップも縛り付けて、手には銃も持って登って行く訳さ。
重かったよなぁそりゃぁ。
で、兵隊さんがそこで鉄砲を撃つ練習をしておったんだが、終戦間際になってくると鉄砲の弾も無くなってきたんやろな。タコつぼ掘りと言って地面にこんなくらい(両手を広げて1.5mくらいの幅をつくる)の穴を掘ってな。
「塹壕」っていって、そこに隠れて敵の弾をよけて・・・というものなんだが、まぁ穴掘りの訓練をしていたんだろうな。
そんでそれを兄貴と一緒に見に行ってな。
見ておったらなんか気の毒になっちゃってな。
兄貴にこう言ったのよ。
カネ「オイ、ヘイタイサンニ、オハギヲモッテイコウ。」
兄「ウン、ソウダソウダ、ソレガイイ。」
そんで家に戻ってお袋に頼んでさ、
カネ「オカサン、ヘイタイサンニオハギモッテイキタイ」
って言ったら拵えてくれてな。
まぁ当時は砂糖が無いんだが親父が獣医師だった関係でブドウ糖があったんで、それを使って当時としてはすごいゴチソウが作れたわけだ。(笑)
そんでそれを持って兄弟二人で山を登っていってな。
一番近くで穴掘りしてる兵隊さんに向かって小声で
カネ「ヘイタイサン、ヘイタンサン、オハギモッテキタヨ。」
木の陰にしゃがみながら、重箱に入ったおはぎをこう、見せてな。
すると気付いた兵隊さんが周りの仲間に耳打ちしてな。
コソコソッと4・5人が、見つからんようによつんばいで来てな。そんで食うわけさ。そりゃもう、 「むさぼり食う」っていうのはあのことだな。
泥だらけの手で、両手に一個ずつ掴んでもう一心不乱にガツガツ食うのよ。 そんであっという間に平らげてな。
泣きながら両手をあわせて拝むわけよ。「ありがとう。ありがとう。」って小声でな。
涙ボロボロこぼしながらこんな子供に頭下げて拝むのよ。
それっきり会わなかったから、あの時の兵隊さんはロクに訓練受けずに戦地に送られたんだろうな。
遠くの国で死んじゃったんだろうな。
最後のおはぎになったと思うけどなぁ・・・
どんな気持ちだったろうなぁ・・・
(初出 2009年7月15日に掲載 )
当時この家の裏山には陸軍の演習場があってなぁ。
全国から兵隊さんが集まってきて、あの、ほれ、こっちからずぅっと行くと中央道渡る橋があるやろ。
あそこに兵舎があってあそこで兵隊さんたちが寝泊りしてたわけだ。 え?近い近い。すぐそこよ。起床ラッパの音とか聞こえてきたもんだ。
そんで裏山の演習場に背嚢背負った兵隊さんがのぼって行ってな。8貫目っていうから32kgか?そんなリュックサックの上に毛布をこうきちっとたたんで括りつけて、さらに穴掘りのスコップも縛り付けて、手には銃も持って登って行く訳さ。
重かったよなぁそりゃぁ。
で、兵隊さんがそこで鉄砲を撃つ練習をしておったんだが、終戦間際になってくると鉄砲の弾も無くなってきたんやろな。タコつぼ掘りと言って地面にこんなくらい(両手を広げて1.5mくらいの幅をつくる)の穴を掘ってな。
「塹壕」っていって、そこに隠れて敵の弾をよけて・・・というものなんだが、まぁ穴掘りの訓練をしていたんだろうな。
そんでそれを兄貴と一緒に見に行ってな。
見ておったらなんか気の毒になっちゃってな。
兄貴にこう言ったのよ。
カネ「オイ、ヘイタイサンニ、オハギヲモッテイコウ。」
兄「ウン、ソウダソウダ、ソレガイイ。」
そんで家に戻ってお袋に頼んでさ、
カネ「オカサン、ヘイタイサンニオハギモッテイキタイ」
って言ったら拵えてくれてな。
まぁ当時は砂糖が無いんだが親父が獣医師だった関係でブドウ糖があったんで、それを使って当時としてはすごいゴチソウが作れたわけだ。(笑)
そんでそれを持って兄弟二人で山を登っていってな。
一番近くで穴掘りしてる兵隊さんに向かって小声で
カネ「ヘイタイサン、ヘイタンサン、オハギモッテキタヨ。」
木の陰にしゃがみながら、重箱に入ったおはぎをこう、見せてな。
すると気付いた兵隊さんが周りの仲間に耳打ちしてな。
コソコソッと4・5人が、見つからんようによつんばいで来てな。そんで食うわけさ。そりゃもう、 「むさぼり食う」っていうのはあのことだな。
泥だらけの手で、両手に一個ずつ掴んでもう一心不乱にガツガツ食うのよ。 そんであっという間に平らげてな。
泣きながら両手をあわせて拝むわけよ。「ありがとう。ありがとう。」って小声でな。
涙ボロボロこぼしながらこんな子供に頭下げて拝むのよ。
それっきり会わなかったから、あの時の兵隊さんはロクに訓練受けずに戦地に送られたんだろうな。
遠くの国で死んじゃったんだろうな。
最後のおはぎになったと思うけどなぁ・・・
どんな気持ちだったろうなぁ・・・
(初出 2009年7月15日に掲載 )