恋するあずさ号 (実業之日本社文庫)
坂井 希久子
実業之日本社
2015-04-04



名前が同じだというだけで新宿駅から夜8時発の特急あずさに飛び乗った介護士の梓。何も無い諏訪湖畔で自殺志願者に間違われ、連れて来られたのは高遠町の民宿。のんびりとした田舎に癒されつつも、東京に戻れば介護の仕事にあまり望まない恋人との結婚話…。東京と高遠を往復するにつれ、梓を救ってくれた陶芸家の桂に心惹かれていくが…。

一言では言い表せない本作ですが、筆者は題材についてよく調べ上げて書いているよなあというのがよく伝わってきます。桜の名所である長野県旧高遠町(現伊那市)の風景や季節毎の空気感、訪問介護という仕事の内容や働いている人、家族の心情。これらの描写が物語へと没頭していく良い脇役となっています。

しかし何と言っても本作最大の見所はこの頼りない、どこか抜けている主人公の梓でしょう。小学生からお婆ちゃんまで自然と友達になってしまう子供っぽさ、ここで?、と登場人物に言わしめる泣き虫ポイントの外れっぷり…。題名の通り、一応はラブストーリーではあるのですが、もうどちらかと言えば梓の抜けっぷりのほうを楽しんでしまうくらいで。

この抜けているという感覚、筆者はポイントにしているようで、良い記述があったので紹介します。"人は誰でも頼りない、抜けている部分があって、だからこそ他人を必要とし、抜けている部分にはまる人が相性が良いということだと思う"。うーむ、深いですね。

しかしいよいよ恋人と婚約か、という日に梓はやらかしてしまいます。その後は桂ともギクシャクし始め、とようやくラブストーリーに復帰、ラストを迎えます。そして文庫本に追記されたというエピローグで、幸せな結末を予感させてくれ、ある意味梓の保護者的感覚で読んでいた私はホッとしたものですw。

いや、しかしこれ読むと田舎に住みたくなっちゃうよね、上手いよねえ、書き方が。えっ、今でも充分田舎に住んでるんだけどww。