風のマジム (講談社文庫)
原田 マハ
講談社
2014-08-12



沖縄の通信会社、琉球アイコムに派遣社員として勤務する伊波まじむ、28歳。おばあと通うカフェバーで出会ったアグリコールラム、クレマンアグリコールラムに衝撃を受け、社内ベンチャーコンクールを通して南大東島産のサトウキビを使用した、沖縄産アグリコールラムの実現に奔走する…。

いやあ、安定の原田マハさんですので細かいことは抜きにしましょう。面白いに決まっています。まだ事業化の目途も立っていないのに南大東島に出向き、商工会長や村長に話をつけてしまうくだりや、あっと驚く役員プレゼン等、楽しく読み進められる仕掛けが満載です。豊かな琉球方言による表現、サトウキビ畑や南大東島の自然の表現豊かな描写、この辺りは原田マハさんの真骨頂と言える部分ですね。

また主人公、伊波まじむを支える周りの登場人物の設定もさすがと言うか、手慣れた印象です。もちろん影の主人公、と呼んでも差し支えないのがおばあでしょう。重大な局面では必ずまじむを励まし、叱咤し、そして誰よりも沖縄産アグリコールラムの実現を望んでいたおばあ。まじむの企画書を仏壇に供え、企画が通りますようにとお願いしていたおばあには涙が出そうになりました。物語の終盤にはおばあにも事件が発生しますが、ネタバレになりますので差し控えます。

しかし物語を通して一番印象出来だったのは”風”でしょう。ラムは風が育てる酒。実に言い言葉です。南大東島の風に吹かれて育ったサトウキビ、それを蒸留して作ったラム。ラムを飲むとサトウキビ由来の甘い香りに、その土地の風が吹く・・・。何と優美なのでしょう!。私はウイスキー派ですので、樽と時間が育てたオークの風味が好きなのですが、それに対し風が育てるとは? うーん、ラムにも踏み込んでみたいなあww。

それだけでは有りません。まじむの名前は沖縄言葉で真心の意味。まじむの真っすぐな、沖縄の心がこもったラムを作りたいという想いが周りの人に”風”を吹かせ、そしてあらゆる難題を乗り越えてゆく。この真心からくる”風”の強さが沖縄産ラムの実現につながったのでしょう。まさに”風のマジム”、実に良いタイトルだと思います。

そして驚きなのが本作は実在の人物をモチーフに描かれているということです。沖縄電力の社内ベンチャー制度で南大東島産のラム、グレイスラムを立ち上げた金城祐子さんがモデルになっています。もちろん物語ですので脚色は入っているのでしょうが、ベースが実際にあった話とは!

うがった見方をするとストーリー展開が読みやすいというか、予定調和な面もあり物語が綺麗すぎる側面をあるかと思いますが、そんなことは気にならない、まじむの真っすぐに突き進むパワーに圧倒されながら一気に最後まで読み進めました。読後には、良い酒を飲んだ後のような心地好い酔いを感じられる、爽やかな物語です。いやあ、ラム買ってこようw。そしてラム飲みながらもう一度読んでみようかな。