都心から中央高速道で2時間、さらに下道で1時間以上。仕事を辞め、都心から逃れるため祖父の家にやってきた主人公の多岐川優。そこは殆どが老人の、まさに限界集落と呼ぶにふさわしいド田舎…。田舎の風習と現実に戸惑いつつも、ふとしたことから集落存続のために動き出すことに…。
限界集落とは、65歳以上の高齢者が50%以上となり、冠婚葬祭等の社会的共同生活の維持が困難である状態(Wikipediaより)。
こんな環境の中、集落生き残りのために集落営農を掲げ、効率化と収益の改善を始めた優。当然のように変化を受け入れない抵抗勢力、自治体との確執、そして恋愛…。やがて経営は軌道に乗るが、とんでもない事件が待っていて…。
と、読み物としてはいろいろな要素が盛り込まれ、ストーリー展開も良く大変楽しめる内容になっていると思います。個人的には中央道で2時間、そこからさらに1時間ということで山梨県、しかも南部のほうか! と勝手に舞台を具体的に決めて一人盛り上がって読み進めておりましたw。
舞台設定の巧さもさることながら、本書の一番の魅力は、個性豊かな登場人物にあるように感じます。主人公の優は実は優秀なファンドマネージャー、どことなく影のある正登、あかねに代表される農業研修生の面々、そして頑固な正登の娘、美穂。あれっ、限界集落たるべき(?)ご老人があまり出てきませんねw。そうです、主役はあくまで若年世代です。限界集落の存続には、継続的な若年世代の流入が不可欠なのですから、納得出来る話です。
しかし老人達も、集落に活気が出てきたことで活き活きと変化していく様子が随所に描かれ、地域活性化には経済的な面のみならず、精神面での充実が必要であることを認識させられます。
私自身、市町村合併により広大な面積となった自治体の(どちらかと言えば)中心部に住んでおり、この辺りの事情は何と無く分かるのですが、実経験から考えるとここまで都合良く農作物が売れるか?、とか、優の完全無欠な完璧さが鼻につくよな?、等ケチをつけたくなる部分も有るわけですが、まあ小説ですからw。あくまで読み物として考えれば、コンパクトシティ構想、ゆるキャラ(?)によるイメージ戦略等、トレンドもきっちりと押さえられており総じて良く出来た小説であるように感じました。