日々妄想 -書籍と家電の個人的記録-

一介のサラリーマンの日々の読書記録と家電レビューの覚え書きです。 文庫本を中心に、時々家電の衝動買い、さらにはへっぽこ登山まで?

カテゴリ:書評



引きこもり等から社会復帰を目指す中間就労。しかし実態は最低賃金以下での労働を強いられる派遣労働に過ぎず・・・。人材派遣で財を成した原沢の娘をジョブトレーナーである沖田と食品加工場で働く派遣労働者達が誘拐をしたのだが、、、。身代金はわずか400円。この奇妙な誘拐劇の行方は・・・。

いやあ、ここまで後味悪い小説もなかなか無いというか、、。普通に考えれば、沖田や準主役である元引きこもりの柳瀬に感情移入するのが普通かと思うです。そして中盤までは想定通りの痛快な展開が続くのです。しかしやり手の経営者である原沢。一筋縄では行きません。まさに手に汗握る攻防、一進一退、まさかの逆転劇と非常に良く練られたストーリー展開は読むものを飽きさせません。そして終盤、我々読者はどのような結末であれ、感情移入してしまった沖田や柳瀬達に一縷の希望を与えてほしいと心のどこかで願いながら読んでしまうものです。しかしそれをも裏切るような展開・・・。

いや、つまらないとか読む価値無い、とか言う類ではないのです。むしろ面白いというか、今回初めて大門剛明さんの作品を読んだわけですが別の作品も読んでみたいと思わせる出来たった訳です。それでもなお、読後には何らかの爽快感を求めてしまう私にとっては非常に重い結末というか、ただただ絶句してしまうのです。

冷静に分析すれば逆転に次ぐ逆転のスピード感、誘拐の動機等、重層的に練られたストーリー展開。そして派遣労働、引きこもり、リストカット等の社会的テーマを題材に織り込んだ力作だと思います。そしてこれらの題材を扱いながら、(私的には)ハッピーエンドで終わらせない辺り、出色の出来であることは間違いないと思うのです。しかしなあ・・・。

最後にネタバレになってしまいますが、このように後味スッキリしない中で希望を見出させてくれたのは誘拐された原沢の娘の想い。もうこの1点のみに柳瀬の今後の希望を託したい、ただそれだけの思いで本作を読み終えたのでした。

風のマジム (講談社文庫)
原田 マハ
講談社
2014-08-12



沖縄の通信会社、琉球アイコムに派遣社員として勤務する伊波まじむ、28歳。おばあと通うカフェバーで出会ったアグリコールラム、クレマンアグリコールラムに衝撃を受け、社内ベンチャーコンクールを通して南大東島産のサトウキビを使用した、沖縄産アグリコールラムの実現に奔走する…。

いやあ、安定の原田マハさんですので細かいことは抜きにしましょう。面白いに決まっています。まだ事業化の目途も立っていないのに南大東島に出向き、商工会長や村長に話をつけてしまうくだりや、あっと驚く役員プレゼン等、楽しく読み進められる仕掛けが満載です。豊かな琉球方言による表現、サトウキビ畑や南大東島の自然の表現豊かな描写、この辺りは原田マハさんの真骨頂と言える部分ですね。

また主人公、伊波まじむを支える周りの登場人物の設定もさすがと言うか、手慣れた印象です。もちろん影の主人公、と呼んでも差し支えないのがおばあでしょう。重大な局面では必ずまじむを励まし、叱咤し、そして誰よりも沖縄産アグリコールラムの実現を望んでいたおばあ。まじむの企画書を仏壇に供え、企画が通りますようにとお願いしていたおばあには涙が出そうになりました。物語の終盤にはおばあにも事件が発生しますが、ネタバレになりますので差し控えます。

しかし物語を通して一番印象出来だったのは”風”でしょう。ラムは風が育てる酒。実に言い言葉です。南大東島の風に吹かれて育ったサトウキビ、それを蒸留して作ったラム。ラムを飲むとサトウキビ由来の甘い香りに、その土地の風が吹く・・・。何と優美なのでしょう!。私はウイスキー派ですので、樽と時間が育てたオークの風味が好きなのですが、それに対し風が育てるとは? うーん、ラムにも踏み込んでみたいなあww。

それだけでは有りません。まじむの名前は沖縄言葉で真心の意味。まじむの真っすぐな、沖縄の心がこもったラムを作りたいという想いが周りの人に”風”を吹かせ、そしてあらゆる難題を乗り越えてゆく。この真心からくる”風”の強さが沖縄産ラムの実現につながったのでしょう。まさに”風のマジム”、実に良いタイトルだと思います。

そして驚きなのが本作は実在の人物をモチーフに描かれているということです。沖縄電力の社内ベンチャー制度で南大東島産のラム、グレイスラムを立ち上げた金城祐子さんがモデルになっています。もちろん物語ですので脚色は入っているのでしょうが、ベースが実際にあった話とは!

うがった見方をするとストーリー展開が読みやすいというか、予定調和な面もあり物語が綺麗すぎる側面をあるかと思いますが、そんなことは気にならない、まじむの真っすぐに突き進むパワーに圧倒されながら一気に最後まで読み進めました。読後には、良い酒を飲んだ後のような心地好い酔いを感じられる、爽やかな物語です。いやあ、ラム買ってこようw。そしてラム飲みながらもう一度読んでみようかな。



行方不明となった両親の手がかりを探しに、全国をキッチンカーで周り”調理屋”という新しい稼業を始めた佳代。両親との再会が叶わなかったのが前作”佳代のキッチン”に対し、本作はその続編になります。両親を探すというテーマが無くなった代わりに、前作で登場した松江のばあちゃんの依頼を受け、全国の港町に”調理屋”の支店を開くという新たな使命を受け全国の港町へと向かいます・・。

こちらもシリーズ化されていたんですね。うん、相変わらずの美味しそうな料理の描写であることw。うーん、どうだろう、前作のほうが両親探しという”重い”テーマがあるから全体として引き締まった感があるけど今回はテーマが軽いからが、どちらかというと短編集に近い印象かなあ。各編のプロットは概ね固まっており、各地の港町で佳代が人々に助けられながら調理屋を開店、しかし実際には佳代が周りの人々を救う、という流れです。佳代の支援者(松江のばあちゃん、弟の和馬)もフォローも強く、全体としては安心・安全の展開でゆったりとした感覚を持って読み進めることが出来ました。

しかし本作では両親探しというテーマが抜けた分、料理を通して人々の心を救うという本来最大の持ち味が存分に味わえるように思います。前作では随分と多くの人に助けられた佳代、今回は行く先々で人々の人生を救っていき、結果的に前作の恩返しの旅の様相です。

そうは言っても毎晩の晩酌は欠かさないし、ちょっと恋愛もあり、そして毎回のシンプルなんだけど心がこもっていることが伝わる美味しそうな料理の数々!。肩肘はらず、気楽に佳代ワールドを楽しめることは間違いないです。

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