引きこもり等から社会復帰を目指す中間就労。しかし実態は最低賃金以下での労働を強いられる派遣労働に過ぎず・・・。人材派遣で財を成した原沢の娘をジョブトレーナーである沖田と食品加工場で働く派遣労働者達が誘拐をしたのだが、、、。身代金はわずか400円。この奇妙な誘拐劇の行方は・・・。

いやあ、ここまで後味悪い小説もなかなか無いというか、、。普通に考えれば、沖田や準主役である元引きこもりの柳瀬に感情移入するのが普通かと思うです。そして中盤までは想定通りの痛快な展開が続くのです。しかしやり手の経営者である原沢。一筋縄では行きません。まさに手に汗握る攻防、一進一退、まさかの逆転劇と非常に良く練られたストーリー展開は読むものを飽きさせません。そして終盤、我々読者はどのような結末であれ、感情移入してしまった沖田や柳瀬達に一縷の希望を与えてほしいと心のどこかで願いながら読んでしまうものです。しかしそれをも裏切るような展開・・・。

いや、つまらないとか読む価値無い、とか言う類ではないのです。むしろ面白いというか、今回初めて大門剛明さんの作品を読んだわけですが別の作品も読んでみたいと思わせる出来たった訳です。それでもなお、読後には何らかの爽快感を求めてしまう私にとっては非常に重い結末というか、ただただ絶句してしまうのです。

冷静に分析すれば逆転に次ぐ逆転のスピード感、誘拐の動機等、重層的に練られたストーリー展開。そして派遣労働、引きこもり、リストカット等の社会的テーマを題材に織り込んだ力作だと思います。そしてこれらの題材を扱いながら、(私的には)ハッピーエンドで終わらせない辺り、出色の出来であることは間違いないと思うのです。しかしなあ・・・。

最後にネタバレになってしまいますが、このように後味スッキリしない中で希望を見出させてくれたのは誘拐された原沢の娘の想い。もうこの1点のみに柳瀬の今後の希望を託したい、ただそれだけの思いで本作を読み終えたのでした。